弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 検察官坂本杢次の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、
ここにこれを引用する。
 論旨は要するに、本件の適用法令である昭和二五年政令第三四三号公益事業令
は、いわゆるポツダム政令であつて、その効力は占領期間中に限られ占領終了の曉
には失効することに当初から宿命付けられたいわば不確定期限付の占領法規である
から、いわゆる限時法に属することが明らかであり、従つてその失効後も行為当時
の同令を適用して処断すべきものである。なお、同令が一旦失効となつたのは、違
反行為に対する法律的評価ないし法律感情に変更があつて処罰価値がなくなつたと
されたためではないのであるから、本件は刑事訴訟法第三三七条第二号の「犯罪後
の法令により刑が廃止されたとき」には当らない。待つて原判決が被告人に対し免
訴の言渡をしたのは法令の解釈適用を誤つた違法があるというのである。
 先ず公益事業令の法的効力についてその後の経過を検討するに同令はポツダム宣
言の受諾に伴い発する命令に関する件(昭和二〇年勅令第五四二号)に基き昭和二
五年一一月二四日政令第三四三号として制定公布され、同年一二月一五日から施行
されたのであつて、占領期間中は憲法にかかわりなく憲法外において法的効力を有
したものである。そして同令はその内容において何等憲法に反する点がないのであ
るから、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律(昭
和二七年四月一一日法律第八一号、以下法律第八一号と略称)第二項によつてこの
法律施行の日たる昭和二七年四月二八日から起算して一八〇日間は法律としての効
力を有するに至り、次いでこれをそのまま法律として効力を永続せしめようとする
法律案が国会に提出されたのであるが、同案は法律として成立しなかつたため、前
記法律第八一号の施行の日から起算して一八〇日目にあたる同年一〇月二四日の経
過と共にその効力を失うに至つた。即ち公益事業令は法律第八一号の規定によつて
昭和二七年一〇月二四日限りで一旦廃止となつたのであるが、その後原判決のなさ
れる前である同年一二月二七日に至り恒久的法律の成立に至るまでの暫定措置とし
て法律第三四一号電気及びガスに関する臨時措置に関する法律が制定公布され公益
事業令と同一の規定が法律として同日から施行せられ今日に至つたものであつて、
同法律及びその他にも刑罰法令失効前の違反行為を処罰する趣旨の規定は存しない
のである。
 <要旨>さて、公益事業令は果して所論のように限時法と認むべきものであつたで
あろうか。いわゆる限時法については現行法上何等の明文規定も存せず、学
説もまた区々に分れて定説というべきものはない状態である。なるほど同令は前記
のようにポツダム政令として制定されたとは言え、これをその実質について見ると
きは、従来の電気事業法及び瓦斯事業法の両法律に代わるべきものであつて、単に
所論のように占領期間中の一時的臨時的な性格を有するに過ぎない占領法規であつ
たとのみは解することのできないことは、同令は公共の福祉を増進することを目的
として制定せられたものであり、その公布施行と同時に右両法律が廃止せられ、更
に占領終了後法律第八一号を以て一定期間これを法律化すると共に法律として存続
せしめる手続がとられたが、目的を達しなかつたので更に右法律の定める一八〇日
間の期間経過後ではあつたが昭和二七年一二月二七日に至り前記のように法律第三
四一号電気及びガスに関する臨時措置に関する法律として復活するに至つた前記事
情に徴しても明らかなところである。
 次に公益事業令は前に説明した様に法律第八一号によつて同法施行の日から起算
して一八〇日間法律として効力を有するに至りその期間の経過とともに失効したも
のではあるが、右のように一八〇日の期間が定められたのは所謂ポツダム命令の改
廃又は存続に関する措置の第一段としてとられた手段であつて、政府は第二段とし
てその期間内に公益事業令を法律として効力を生ぜしめる手続をとつたのであるが
その目的を達しなかつたため一時失効するに至つたものであり、同令を右期間の経
過と共に失効せしむる意図がなかつたことは明らかであり、従つて同令に関しては
失効の期間が予め明示されていたため訴訟遅延によつて刑罰を免れる工作をする虞
はなかつたものといわねばならない。なお、その後の法律において公益事業令失効
後も失効前の違反行為を処罰する旨の規定がなされていないことも前記のとおりで
ある。以上の事実を綜合して考えると、如何なる方面から見るも公益事業令をもつ
て限時法としてその失効後も尚従前の刑罰法令により処罰を認めるものと解するこ
とはできない。
 そして刑法第六条は「犯罪後ノ法律ニ因リ刑ノ変更アリタルトキハ其軽キモノヲ
適用ス」と規定し、刑事訴訟法第三三七条第二号は「犯罪後の法令により刑が廃止
されたときは免訴の言渡をすべき」ことを定め、更に同法第三八三条第二号第三九
七条第四一一条第五号によれば「判決があつた後に刑の廃止若しくは変更があつた
ときは原判決を破棄すべき」ことを定めている。そして右刑法第六条にいわゆる
「犯罪後ノ法律ニ因リ刑ノ変更アリタルトキ」とは、犯罪(行為)の時から判決の
時に至るまでに刑を規定したところの法令に変更があつたときは最も軽い法令を適
用するとの趣旨であると解すべく、なお、行為時法と裁判時法との間に中間時法が
あるときは、これをも比照すべきものであることも異論のないところである。
 そして右刑法と刑事訴訟法の規定を統一的に解釈するときは、刑の廃止とは刑を
規定していた法令の廃止(失効を含む)を意味し、且つ刑の廃止は前記刑法第六条
にいわゆる刑の変更の軽い極限にあたるものと解し得るから、従つて又同条にいわ
ゆる刑の変更の中には狭義の刑の変更と刑の廃止の場合の双方を含むものと解すべ
く、かくして刑罰法令が廃止若しくは失効したときは、実体面においては刑法第六
条により手続面においては刑事訴訟法第三三七条第二号により免訴が言渡されるも
のと解するのを相当とする。然るときは本件は、行為時法と裁判時法との間に軽い
極限の中間時法ともいうべき刑の廃止があつた場合にあたるから、これに対し免訴
の言渡を為すべきことは当然とするところであるといわねばならない。(このこと
は、若し判矢が前記失効中の空白期間である昭和二七年一〇月二五日より同年一二
月二六日までの間に為されたとすれば一層明白なところであろう。)この点に関し
所論は、同令が一時失効(廃止)となつたのは、違反行為に対する法律的評価ない
し法律感情に変更があつたがためではないのであるから、本件は刑事訴訟法第三三
七条第二号にいわゆる刑が廃止された場合には当らないと主張するのであり、本件
の場合において違反行為に対する法律的評価ないし法律感情の変更がなかつた事は
認められるけれども、この様な理由で特に被告人の利益のため設けられた前記刑法
並びに刑事訴訟法の明文の規定を排除することは許されないところであるというべ
く、従つて右所論も到底採用することができない。そもそも本件のような現象を生
ずるに至つたのは結局立法者側の手違いによるところであるといわねばならないの
であつて、明文の規定なくして濫りに被告人の不利益に解することの許されないこ
とは今更いうまでもないところである。
 従つて原判決が被告人に対し免訴を言渡したのは相当であつて、原判決には所論
のような法令適用の誤はない。論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三九六条に従い主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 伏見正保 判事 尾坂貞治 判事 村木友市)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛