弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 検察官佐藤博の上告事件受理申立の理由について。
 少年法四二条は「検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の
嫌疑があるものと思料するときは、第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて、
これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁
判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。」と規定し、同
法二〇条は通告又は送致を受けた少年事件中「家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮
にあたる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照して刑事処分を相
当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察
官に送致しなければならない。但し、送致のとき十六才に満たない少年の事件につ
いては、これを検察官に送致することはできない。」と定め、同四五条はこれをう
けて「家庭裁判所が第二十条の規定によつて事件を検察官に送致したときは、次の
例による。五検察官は家庭裁判所から送致を受けた事件について、公訴を提起する
に足りる犯罪の嫌疑があると思料するときは、公訴を提起しなければならない。但
し送致を受けた事件の一部について公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑がない……
ときはこの限りでない。」と規定しているのであつて、即ち少年法上検察官は家庭
裁判所から送致を受けた十六才以上の少年の事件で死刑、懲役、又は禁鋼にあたる
具体的な特定の罪の事件で、しかも、公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑ある場合
に限り起訴し得るに過ぎないのである。旧少年法においては、少年事件に関して起
訴するか否かの判断を検察官の裁量に委せ、検察官が保護処分を相当と思料したと
きに限り事件を少年審判所に送致したのであるが(旧少年法六二条)、現行少年法
は、少年事件の特質に鑑み少年の保護の周到を期するため、この従前の建前を改め
て、同四二条は、四五条第五号本文の場合を除いて事件の軽重を問わず、事件を一
たん家庭裁判所に集中し、同二〇条によつて家庭裁判所より検察官へ送致された事
件について、同四五条第五号の手続を行うこととなつたのであつて、前述の如き具
体的な特定の少年事件を起訴するにはすべて一たん、保護を目的とする機関である
家庭裁判所の門をくぐらせ、その審査を経るということが現行少年法の重要な眼目
であると解すべきである。所論は、家庭裁判所の調査の対象となるのは「犯罪」並
びに「犯罪性」であること勿論であるが、少年の処分を決定するにつき考慮の重点
となるのは一般成人事件の如く「犯罪」ではなく「犯罪性」即ちその「人格」にあ
り、少年がどのようなことをしたかということは、少年の犯罪性或は要保護性を判
断する資料として考慮されるのであつて、「犯罪事実」はその意味において調査の
対象となるものと解するといい、家庭裁判所の送致決定は、その決定書に記載され
た少年の犯罪事実について刑事処分を相当とするという趣旨であることは勿論であ
るが、その少年について刑事処分を相当とするという趣旨に重点が置かれているも
のと見るべく、よつて、その送致決定に摘示された事実と併合して審理され得べき
段階、即ち同一の起訴状に記載し得べき段階において発見されたいわゆる余罪につ
いては、これを更に強い犯罪牲の徴表であると解し、送致決定の効力は余罪に対し
当然及ぶと解すべきであると論ずるのであるが、前述の如き具体的な特定の少年事
件を起訴するにはすべて一度家庭裁判所の審査を経由させるという前記少年法の趣
旨と相容れない見解であつて採用できない。
 さればこの点に関する原判決の判断はまことに正当であつて、論旨は理由がない。
(なお所論末項は送致事実についての独自の見解にすぎず、所論記載があるからと
いつて、所論事実について家庭裁判所の送致決定があつたものとは到底解し得ない。)
 よつて刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見て主文のとおり判決する。
  昭和二八年三月二六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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