弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1処分行政庁が平成22年3月16日付けで原告に対してした輸送施設の使用
停止及び附帯命令処分(関自監旅第○号。以下「本件処分」という。)を取り
消す。
2被告は,原告に対し,1064万7354円及びこれに対する平成22年5
月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,一般乗用旅客自動車運送事業等を営む株式会社である原告が,処分行
政庁から,平成22年3月16日付けで,道路運送法(以下「道運法」とい
う。)に基づく旅客自動車運送事業運輸規則(以下「運輸規則」という。)に違
反する事実が認められるとして,道運法40条1号に基づく輸送施設(事業用自
動車)の使用停止及び同法41条1項に基づく附帯命令(自動車検査証の返納,
自動車登録番号標の領置)を内容とする本件処分を受けたため,本件処分におい
て前提とされた違反行為はいずれも認められず,かつ,本件処分は法令等の解
釈・適用を誤っている上,違反行為と処分内容との間に不均衡を来たしており,
本件処分に当たり提示された理由も不十分であるから,本件処分は道運法40条,
行政手続法14条等に違反するとして,その取消しを求めるとともに,国家賠償
法1条1項による損害賠償請求権に基づき,本件処分により得ることができなか
った事業上の利益相当額の損害金1064万7354円の支払を求めている事案
である。
1関係法令等の定め
関係法令及びこれに基づく告示や処分基準の定めのうち,本件に関係ある部
分は別紙2記載のとおりである。
2前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
(1)原告及び原告の事業
原告は,一般乗用旅客自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,平
成▲年▲月▲日に一般乗用自動車運送事業の許可を受け,同年▲月▲日から
同事業を開始した。
原告は,東京都板橋区α×番9号に所在するA営業所(以下「A営業所」
という。)のほか,同区β×-7に所在するB営業所(以下「B営業所」と
いう。)を有し,特別区・武三交通圏と称する東京都特別区,武蔵野市及び
三鷹市を営業区域(以下「本件営業区域」という。)としている。
(2)原告に対する処分経歴等
道運法88条2項,道路運送法施行令1条2項によって道運法40条に規
定された国土交通大臣の権限の委任を受けた関東運輸局長は,平成18年1
1月27日に原告のA営業所に係る監査を行った結果,原告がA営業所にお
いてする一般乗用旅客自動車運送事業について,道運法等関係法令の規定に
違反する事実(次の表の番号1ほか6件)が確認されたとして,平成19年
5月22日,道運法40条1号の規定に基づき,処分日車数を55日車とし
て(自動車等の使用停止における使用停止車両数と使用停止日数の積を日車
といい,処分基準及び違反事項ごとの処分基準によれば,違反事項ごとに基
準となる日車数(基準日車数)を定め,それに所定の加重等をして処分日車
数を算出し,その処分日車数から違反点数を算出し,その違反点数に応じて
行政処分を課すこととされている。乙15),輸送施設である事業用自動車
3両につき各13日間及び同1両につき16日間,それぞれ当該事業のため
の使用を停止することを命ずるとともに,これに伴い,同法41条1項の規
定に基づき,事業用自動車の自動車検査証を東京運輸支局長に返納し,自動
車登録番号標及びその封印を取り外した上,その自動車登録番号標について
同支局長の領置を受けるべきことを命ずる旨の処分をした。
違反事実(適用条項)基準日車数適用
1運転者の過労防止に関する措置が不適切で
あり,所定の拘束時間を超えて乗務していた
者があったこと。
【未遵守1件】警告→※10日車
(道路運送法27条1項)
(旅客自動車運送事業運輸規則21条1項)
10日車未遵守5件
以下



略略略
なお,番号1及び同2については,平成14年処分基準1.(2)に定める
ところにより,運輸規則22条1項の最高乗務距離の限度を定める地域内に
おける事業者に関する違反事項として加重したものである。
(以上につき,乙2)
(3)原告の一般車両の車両数の推移と特別監視地域等の指定
ア本件営業区域は,平成14年1月から運輸規則22条1項及び2項によ
る指定地域(同地域内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者に
つき,当該営業所に属する運転車の1乗務(出庫から帰庫までの連続した
勤務をいう。)当たりの乗務距離の最高限度を原則として365㎞に制限
するもの。)とされていたところ,さらに,平成20年7月11日,「特
別区・武三交通圏」と称する営業区域として特別監視地域(特別監視地域
とは,緊急調整地域の指定(道運法8条1項)に至る事態を未然に防止す
るため,供給過剰の兆候にある地域について,重点的な監査や行政処分の
厳格化等の措置を講ずるものとされた地域である。)に指定された。(乙
10,17,29)
イ原告は,平成20年7月15日にB営業所において3両(増車実施予定
日は平成20年8月8日),同年7月29日にA営業所において4両(増
車実施予定日は同年8月5日)の各増車を関東運輸局長に申請し,94両
の基準車両数(平成20年7月11日時点。A営業所の車両数53両,B
営業所の車両数41両。)から101両に増車を行った(以下,この増車
を「本件増車」という。)。
その後,原告は,平成20年10月31日に1両を減車し(B営業所の
車両数を3両減車し,そのうち2両をA営業所に移動させてA営業所の車
両数を2両増車した。),さらに,平成21年9月16日に6両(A営業
所及びB営業所で各3両)を減車し,94両に減車した(以下,この減車
を「本件減車」という。)。
(以上につき,乙3の1・2,6)
(4)東京労働局長による通報と関東運輸局長による監査
ア東京労働局長は,平成20年12月10日,A営業所においては,「時
間外労働に関する労使協定の限度時間を超えて時間外労働を行わせ,かつ,
2暦日の拘束時間が21時間を超えていること。実際の運行と異なる事実
が記載されている等,乗務記録及び運行記録計による記録が整備されてい
ないこと。」,「複数の運転者について,虚偽の乗務記録作成やチャート
紙の不正着脱が認められており,違反の内容は悪質である。」として,労
働基準法32条(改善基準告示(別紙2の5)2条2項1号)に違反して
いるとして,関東運輸局長に通報(以下「本件通報」という。)した。
(乙7の1)
また,東京労働局長は,B営業所においても,上記同様に労働基準法に
違反しているとして,同日,上記と同様に関東運輸局長に通報した。(乙
7の2)
イ関東運輸局長は,平成21年2月25日にA営業所に対して,同月27
日にB営業所に対して,それぞれ巡回監査を行った(以下,A営業所にお
ける当該監査を「本件A監査」という。)。(乙5の1・2,同11の
1・2)
ウ関東運輸局長は,上記巡回監査の結果,A営業所において,①「運転者
の過労防止に関する措置が不適切であり,所定の拘束時間を超えて乗務し
ていた者があったこと」(以下「本件違反行為①」という。),②「乗務
等の記録に虚偽の記載をしていたものがあったこと」(以下「本件違反行
為②」という。),③「運行記録計を不正に操作し,確実に記録していな
いものがあったこと」(以下「本件違反行為③」という。),④「運転者
に対する輸送の安全確保についての指導監督が不適切であったこと」(以
下「本件違反行為④」という。)が認められることから,原告に対し,道
運法40条に基づく事業用自動車の使用停止処分を行うこととし,平成2
2年1月26日,行政手続法30条に基づき,弁明書の提出を求める通知
書(以下「本件通知書」という。)を送付した。(乙12)
エ原告は,上記弁明書提出の求めに対し,平成22年2月8日,弁明書を
提出した。(乙13)
(5)本件処分等
ア関東運輸局長は,平成22年3月16日,原告がA営業所においてする
一般乗用旅客自動車運送事業について,道運法等関係法令の規定に違反す
る事実(本件違反行為①ないし④。次の表の番号1ないし4。本件違反行
為④の存在及び成立については争いがない。)が確認されたとして,道運
法40条の規定に基づき,処分日車数を345日車として,運輸施設であ
る事業用自動車18両につき各18日間(同年4月19日から同年5月6
日まで)及び同1両につき21日間(同年4月19日から同年5月9日ま
で),それぞれ当該事業のための使用を停止することを命ずるとともに,
これに伴い,同法41条1項の規定に基づき,事業用自動車の自動車検査
証を東京運輸支局長に返納し,自動車登録番号標及びその封印を取り外し
た上,その自動車登録番号標について同支局長の領置を受けるべきことを
命ずる旨の処分(これらが本件処分である。)をし,同月31日,次の表
に掲げる内容を記載した「輸送施設の使用停止及び附帯命令書」(以下
「本件命令書」という。)を原告に通知した。
違反事実(適用条項)基準日車数適用
1運転者の過労防止に関する措置が不適切で
あり,所定の拘束時間を超えて乗務していた
者があったこと
【未遵守計11件】20日車→□60日車
→※90日車→■270日車
(道路運送法27条1項)
(旅客自動車運送事業運輸規則21条1項)
270日車未遵守計6
件以上15
件以下
2乗務等の記録に虚偽の記載をしていたもの
があったこと。
【記録の改ざん9件】20日車→※30日
車→■90日車
(道路運送法27条1項)
(旅客自動車運送事業運輸規則25条3項)
90日車記録の改ざ
ん6件以上
3運行記録計を不正に操作し,確実に記録し
ていないものがあったこと。
【記録の改ざん9件】20日車→■60日車
(道路運送法27条1項)
(旅客自動車運送事業運輸規則26条2項)
60日車記録の改ざ
ん6件以上
4運転者に対する輸送の安全確保についての
指導監督が不適切であったこと。
【告示1/2未満未実施】
(道路運送法27条1項)
(旅客自動車運送事業運輸規則38条1項)
警告一部不適切
「基準日車数」については,平成21年9月30日以前の違反行為であ
るため違反事項ごとの処分基準(別紙2の8)を適用したものである。
「処分日車数」については,「基準日車数」を基に,処分基準(別紙2
の7)3.(3)に定めるところにより算出したものである。
なお,□印(番号1)については,処分基準1.(2)に定めるところに
より,当該監査を受けた日から過去3年以内に同一の営業所において同一
の違反による行政処分等を1度受けている場合に該当するため再違反の基
準を適用し,※印(番号1及び同2)については,処分基準1.(4)に定
めるところにより,運輸規則第22条第1項の最高乗務距離の限度を定め
る地域内における事業者に関する違反事項として適用し,■印(番号1な
いし同3)については,処分基準附則2.に定めるところにより,平成1
4年処分基準(別紙2の6)1.(3)に従い,特別監視地域に指定された
地域内における事業者に関する違反事項として加重したものである。
(以上につき,甲1,乙1,15,16参照)
イ関東運輸局長は,B営業所に対して平成21年2月27日に実施した巡
回監査の結果,B営業所において,「運転者の過労防止に関する措置が不
適切であり,所定の拘束時間を超えて乗務していた者があったこと」その
他の違反事実が認められることから,原告に対し,道運法40条に基づく
事業の停止処分を行うこととし,平成22年3月17日,行政手続法15
条に基づき,同年4月12日に聴聞を行うとして,聴聞の通知を行った。
(乙14)
関東運輸局長は,平成22年4月12日及び同年5月12日に,原告に
対し,上記聴聞をそれぞれ実施し,同年7月20日,道運法40条の規定
に基づき,処分日車数を170日車として,B営業所における一般乗用旅
客自動車運送事業を同月28日から同年8月1日までの5日間停止するこ
とを命ずるとともに,これに伴い,同法41条1項の規定に基づき,事業
用自動車の自動車検査証を東京運輸支局長に返納し,自動車登録番号標及
びその封印を取り外した上,その自動車登録番号標について同支局長の領
置を受けるべきことを命ずる旨の処分をした。(甲33)
(6)本訴の提起
原告は,平成22年4月8日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
3争点
(1)本件処分の適法性
ア本件違反行為①の存否
イ本件違反行為②の存否及び基準日車数選択の適否
ウ本件違反行為③の存否及び基準日車数選択の適否
エ本件処分における基準日車加重の適否
オ本件処分に関する手続の適否
(2)国家賠償法上の違法性の有無並びに損害の発生の有無及び額
4争点に関する当事者の主張の要旨
(1)争点(1)ア(本件違反行為①の存否)
(被告の主張の要旨)
ア運輸規則21条1項で遵守が求められる基準である改善基準告示2条2
項1号は,使用者において,一般乗用旅客自動車運送事業に従事する自動
車運転者であって,隔日勤務に就くものの拘束時間及び休息時間のうち,
拘束時間は2暦日について21時間を超えないものとすることと定めてい
る。
そして,この「拘束時間」とは,労働時間,休憩時間その他の使用者に
拘束されている時間をいう。
イ本件A監査の結果,原告の隔日勤務の乗務員であるCについて,別紙3
のとおり,乗務前の点呼(以下「始業点呼」という。)の時刻から乗務後
の点呼(以下「終業点呼」という。)の時刻が21時間を超えているもの
が11件あり,始業点呼と終業点呼の間は乗務をしている時間であること
からすれば,運転者の拘束時間は,少なくとも始業点呼から終業点呼の間
の時間よりも長時間であることになるから,上記11件につきいずれも拘
束時間は21時間を超えていたこととなる。
以上からすると,原告において,運転者の過労防止に関する措置が不適
切であり,所定の拘束時間を超えて乗務していた者があったという道運法
27条1項,運輸規則21条1項違反の事実(本件違反行為①)が認めら
れる。
これに対し,原告は,Cは始業点呼後に朝食をとり,1時間程度休んで
から乗務を開始し,乗務後は終業点呼前に仮眠をとっていて,点呼時間上
は形式的に2暦日21時間の拘束時間を超過しているが,実質的には過労
運転の事実はないことを確認している旨主張している。
しかし,改善基準告示2条2項1号にいう「拘束時間」の意義からする
と,始業点呼後に朝食をとり,休んでいる時間(以下「朝食等時間」とい
う。)及び終業点呼前に仮眠をとっている時間(以下「仮眠時間」とい
う。)は,いずれも「休憩時間」に該当し,「拘束時間」に含まれるから,
原告が主張するような勤務時間管理の実態があったとしても,Cの上記1
1件の拘束時間が改善基準告示2条1項1号の基準を超えていることに変
わりはない(運輸規則21条1項も実質的な過労防止を十分考慮してさえ
いれば,国土交通大臣が定める基準に従った勤務時間を遵守させる義務を
負わない旨の規定と読むことは困難であるし,原告主張の解釈を採った場
合,実質的な過労運転か否かを判断することは極めて困難であるところ,
運輸規則21条1項があえて一律に「告示で定めた基準」に従った勤務時
間等を遵守させる義務を課した意義すら没却されてしまう。)。
また,原告は,Cの乗務記録及び運行記録計記録紙を確認した上で,違
反はないと認識していたと主張しているが,原告は,Cにつき改善基準告
示所定の拘束時間を超えて勤務していたことを認識しており,拘束時間を
遵守させておらず,運輸規則21条1項違反が認められるから,失当であ
る。
(原告の主張の要旨)
過労運転の事実については,点呼記録上の始業点呼時と終業点呼時を基準
に形式的に認定するのではなく,実質的に認定すべきである。
被告が本件違反行為①について指摘する原告の乗務員であるCは,午前8
時に出社し,始業点呼を受けているものの,実際は朝食を抜いて出社してい
るため,始業点呼後,朝食をとるなどして約1時間経過した午前9時ないし
10時頃に出庫して乗務についている。
また,Cは,乗務から帰庫した後も,翌朝の帰宅の際の通勤電車を待つた
め,営業車の中で仮眠を取ってから終業点呼を受けている。
そうすると,乗務記録及び運行記録計記録紙の記載からすると,被告が指
摘する平成21年1月1日から同月31日までのCの乗務の拘束時間につい
ては,別紙3のとおりいずれの日も21時間を超えているとは認められない
から,Cにつき,過労運転に該当するような運転状況にはなかったというべ
きであるし,原告代表者も乗務時間の点について違反はないと認識していた
といえる。
よって,原告には,道運法27条1項,運輸規則21条1項に違反する事
実は認められない。
(2)争点(1)イ(本件違反行為②の存否及び基準日車数選択の適否)
(被告の主張の要旨)
ア運輸規則25条3項が定めている旅客の乗車した区間並びに事業用自動
車の走行距離計に表示されている乗務の開始時及び終了時における走行距
離の積算キロ数等を運転者ごとに記録する義務(乗務等の記録義務)の違
反行為の態様としては,①所定の事項を記録させない場合のほかに,②記
録させた所定の事項に不備がある場合,及び③記録させた所定の事項を虚
偽のものとする場合が考えられるところ,関東運輸局長は,違反事項ごと
の処分基準において,上記②に対応するものとして「記載事項の不備」を,
上記③に対応するものとして「記録の改ざん」を定めている。
このように,運輸規則25条3項の乗務等の記録義務違反における「記
録の改ざん」は,記載内容を故意に虚偽のものとする行為を指し,既に作
成された乗務記録を不正に書き換える行為のみならず,乗務記録に虚偽の
記載をする行為を含むものと解される(したがって,原告が主張するよう
な類推解釈をしていることにはならない。)。
このことは,違反事項ごとの処分基準のうち,「記録事項の不備」は
「不備率」と割合で計算されるのに対し,「記録の改ざん」は件数で計算
されていることや「記録事項の不備」に対する処分が「記録の改ざん」に
対する処分に比して軽いことにも現れており,このことからすれば,「記
録の改ざん」が乗務記録の記載内容を故意に虚偽のものとする行為を指し,
乗務記録に虚偽の記載をする行為も含むものであることは,明らかであっ
て,何ら明確性を欠くことにはならず,原告が主張するような事業者に不
意打ちとなるものではないし,このような解釈が道運法40条に違反する
ことにもならない(なお,原告が主張するような罪刑法定主義や憲法31
条は行政処分である本件処分に関する違反事項ごとの処分基準並びにその
解釈及び運用に直ちに適用されるものではない。)。
イ本件A監査の結果,原告の乗務員であるDの平成21年1月1日から同
月31日までの乗務記録に別紙4の1のとおり9件の虚偽記載が認められ
た。
すなわち,この虚偽記載は,最終乗客降車時刻が日報上の帰庫時刻と同
じか又はそれよりも遅い時刻となっているが,運転者は,最終の乗客を降
車させてから,車庫に向かい,帰庫するものであるから,最終の乗客を降
車させた時刻が帰庫の時刻と同じか,それより遅いということは起こりえ
ない。
そして,日報上の帰庫時刻は,事業自動車が帰庫した際に記載され,乗
客を降車させた時刻はその都度運転者が記載するものであって,いずれも
正確なものであるから,運転者が故意に事実と異なる記載をしない限り,
上記齟齬が生じることはないし,また,D自身も,本件違反行為②に係る
乗務記録に対応する運行記録計について,Dが常時運行記録計の合鍵を所
持して,運行記録計の不正操作をして途中で運行記録計記録紙を取り外し
ていたことを認めており,Dは,運行中に運行記録計記録紙を取り外し,
同記録紙に不正に記録した実際よりも早い運行終了時間を基に乗務記録に
も虚偽の帰庫時間を故意に記載していたといえる。
ウ原告は,本件違反行為②について,Dが乗務記録に係る改ざん行為をし
ていたとしても原告はそれを認識していないから,原告が改ざん行為をし
たことにはならないと主張している。
しかし,原告は,乗務記録の記載権限を各乗務員に委ねている以上,乗
務員が故意に乗務記録の虚偽記載を行えば,原告がこれを行ったものとし
て違反事項ごとの処分基準を適用し得ることは当然である。
また,刑罰に当たらない許認可等の授益的処分の撤回等は,一般的に故
意過失のない者に対しても行い得ると解されていることからすれば,運転
者が,運輸規則25条3項に定める事項の記録をしなかった場合,運送事
業者は故意過失の有無にかかわらず,同項に違反して運転者に係る記録を
させることができなかったものとして,道運法40条1号違反に該当する
といえる。このことに鑑みれば,違反事項ごとの処分基準のうち,乗務等
記録義務違反に係る「記録の改ざん」についても,少なくとも運転者が故
意に虚偽の記載を行えば,運送事業者の故意過失の有無とは無関係に「記
録の改ざん」があったものと認めるべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ以上のとおり,原告は,運輸規則25条3項の乗務等の記録義務に違反
したものであり,本件違反行為②が違反事項ごとの処分基準のうち乗務等
の記録義務違反における「記録の改ざん」に当たるとしてした本件処分に
違法性は認められない。
(原告の主張の要旨)
ア違反事項ごとの処分基準は,運輸規則25条3項の乗務等の記録義務違
反の行為として「記録の改ざん」を定めているが,これは,既に存在する
記載を書き改めることであって,字義的意味からも最初に記載する行為を
改ざんに該当すると解するような類推解釈は,原告の営業の自由といった
重大な人権制限をもたらすこととなる以上行うことはできず,虚偽の記載
が記録の改ざんに含まれると解することはできない(仮に,虚偽の記載が
「記録の改ざん」に含まれると解される場合,違反事項ごとの処分基準は
事業者の防御権を侵害し,道運法40条に違反している。)。
そもそも,被告は,原告の乗務員が作成する乗務記録と運行記録計の記
録との間に齟齬があることをもって虚偽記載であると認定し,「記録の改
ざん」に当たるとして,本件処分をしているが,乗務記録に記録された乗
客を乗せた時間・場所,降ろした時間・場所,休憩時間,乗車開始時間・
帰庫時間等の乗務状況については,乗務員が交通安全や接客を気にしつつ
乗務中に作成されるものであるから,繁忙度合いによっては記録し忘れも
生じ得ることからすると,運行記録計との間に発生した記録内容との間の
齟齬をもって,虚偽の記載をしたものと断定することはできない。
そして,原告は,これまで原告の乗務員が作成した乗務記録を書き直し
たり,当該乗務員に対し,書き直しを指示したこともない。
よって,原告において,「記録の改ざん」の事実は存在しない。
なお,被告は,本件処分が刑罰に当たらない授益的処分の撤回等に該当
することから,道運法,運輸規則の違反について故意過失のない者に対し
ても行うことができると主張しているが,本件処分は本件違反行為②及び
③について基準日車の加重がされているように,制裁としての側面が非常
に強く,刑罰に当たらない許認可等の授益的処分の撤回等に該当するとは
いえないし,タクシー事業については,輸送の安全を確保し,道路運送の
利用者の利益の保護及びその利便の増進を図るとともに,道路運送の総合
的な発達を図るという公共の福祉のために,事業者の営業の自由を例外的
に許可制により制限することが認められていることからすると,被告の上
記のような解釈は人権保障をないがしろにする許されない解釈であり,失
当である。
イ原告の乗務員であるDが,常時所持していた運行記録計の合鍵で運行記
録計の不正操作をして,運行途中で運行記録計記録紙を取り外していたこ
とは事実であるが,原告は,以下のとおり,平成21年1月の時点で,D
が合鍵を所持しており,上記不正行為に及んでいたとは認識していなかっ
た。
(ア)原告は,各車両の運行記録計を施錠する鍵を3個用意して,事務所
内に保管しており,帰庫した乗務員が,各自その鍵を使用して運行記録
計記録紙を取り出すという取扱いとし,①平成20年12月頃に各乗
務員が合鍵を持っていないかチェックして,約120名の乗務員中約1
0名から合鍵を提出させたり,②乗務員の中から選任した8名の安全
衛生員に,乗務員に合鍵を持たないよう注意喚起させるなどして,運行
記録計の鍵を個人で所持することに関して厳しく対処していた。
もっとも,運行記録計の鍵は,合鍵を作らずとも,クリップを変形さ
せたものを差し込んだ程度でも,解錠することができたが,原告は,当
時,運行記録計が簡単に解錠できる構造であることは認識していなかっ
た。
(イ)そして,合鍵を使用していた原告の乗務員全員が運行記録計の不正
操作をしていた訳でもない。すなわち,平成20年12月頃に合鍵を提
出した乗務員は,帰庫時間が他の乗務員と重なって,鍵の順番待ちとな
るため,早く終業点呼を終えることを目的として,合鍵を所持していた
ものであり,Dのように運行記録計の不正操作を行うことは極めて異常
な事態であるということができ,合鍵の利用と運行記録計の不正操作と
の間に因果関係はない。
ウ以上のとおり,Dの乗務記録と運行記録紙の記録との間に齟齬があるの
は事実であるものの,これは,Dが運行記録計を不正使用しただけであっ
て,Dの乗務記録に虚偽記載があるとはいえないし,もとより,「記録の
改ざん」は認められず,原告もこれを認識していなかったから,本件違反
行為②は存しない。
(3)争点(1)ウ(本件違反行為③の存否及び基準日車数算出の適否)
(被告の主張の要旨)
ア運輸規則26条2項は,一般乗用旅客自動車運送事業者に対し,運転者
が乗務した自動車の瞬間速度,運行距離及び運行時間を運行記録計により
記録する義務(記録義務)を定めており,その違反行為の態様としては,
①所定の事項を運行記録計によって記録しない場合,②運行記録計による
記録を虚偽のものとする場合,及び③運行記録計による記録を保存しなか
った場合が考えられるところ,関東運輸局長は,違反事項ごとの処分基準
において,上記①に対応するものとして「記録なし」,②に対応するもの
として「記録の改ざん」,上記③に対応するものとして「記録保存なし」
を定めている。
このように,運行記録計による記録義務違反における「記録の改ざん」
は,運行記録計による記録を故意に誤らせる行為を指し,運行記録計の記
録紙を不正に書き換える行為のみならず,運行記録計を不正に操作する行
為を含むものと解される。
イ本件A監査の結果,原告の乗務員であるDの平成21年1月1日から同
月31日までの運行記録計に別紙4の2のとおり9件の不正操作が認めら
れた(日報上の営業回数より運行記録計記録紙上の実車回数が少なくなっ
ている。)。
すなわち,日報に記載された旅客が乗車した区間は,運転者が旅客を乗
車させるたびに記載し,運行記録計記録紙上の実車回数は,運転者がタク
シーメーター器の実車のスイッチを入れることによって自動的に記録され
るものであるが,Dは,所定の拘束時間を超過していることを隠蔽するた
めに常時所持していた合鍵で運行記録計記録紙を取り外しており,原告も
これを認識しながら,合鍵を回収する措置をしなかった。
したがって,上記不正操作は,Dの過失や独断によるものではなく,原
告において,所定の拘束時間を超過していることを隠蔽するために,故意
に,かつ常習的にされたものである。
なお,原告は,Dの不正操作を認識していないと主張しているが,仮に
そうであったとしても,前記(2)(被告の主張の要旨)のとおり,Dが故
意にこれを行った以上,原告に違反事項ごとの処分基準のうち運行記録計
による記録義務違反における「記録の改ざん」があったといえることは明
らかである。
ウ以上のとおり,原告は,運輸規則26条2項の運行記録計による記録義
務に違反し,本件違反行為③が違反事項ごとの処分基準のうち運行記録計
による記録義務違反における「記録の改ざん」に当たるとしてした本件処
分に違法性は認められない。
(原告の主張の要旨)
ア違反事項ごとの処分基準は,運輸規則26条2項の運行記録計による記
録義務違反の行為の一つとして,「記録の改ざん」を定めているが,上記
(2)アでも主張したように,改ざんの字義的な意味や人権保障の観点から
は,これは単に記載に不備がある記録のことではなく,不正に記録を書き
直すこと,不当に書き改めることであって,運行記録計の記録紙を不正に
書き換える行為のみならず,被告が主張するような運行記録計を不正に操
作する行為を含むものと解することはできない(仮に,運行記録計を不正
に操作する行為が記録の改ざんに含まれると解される場合,違反事項ごと
の処分基準は事業者の防御権を侵害し,道運法40条に違反している。)。
イ原告の乗務員の中には,Dのように運行記録計を乗務終了後に取り出し
て,運行記録計記録紙に真実と異なる記録をさせたように運行記録計を不
正に操作した者がいることは事実であるが,このような事実は「記録の改
ざん」に該当しないし,その他に運行記録計記録紙を不正に書き換えた者
も存在しない。
なお,原告は,上記のようなDの不正な行為を認識していたこともない。
ウ以上のとおり,原告につき「運行記録計を不正に操作し,確実に記録し
ないものがあったこと」といえる事実はなく,「記録の改ざん」は認めら
れず,本件違反行為③は存しない。
(4)争点(1)エ(本件処分における基準日車加重の適否)
(被告の主張の要旨)
ア原告は,本件処分時の半年も前に本件減車をして,本件増車前の状態に
なっていたのであるから,平成14年処分基準別表(別紙2の6)の「特
別監視地域(特定特別監視地域を含む。)」欄の4項の基準車両数を特別
監視地域に指定された後に増加させた者による違反という理由による3倍
加重の処分原因は存在しないと主張しているが,特別監視地域については,
基準車両数を特別監視地域指定後に増車させた後に一定の減車をした者が
違反をした場合は加重割合が減少となるとされてはいるものの(平成14
年処分基準別表「特別監視地域(特定特別監視地域を含む)」欄の6項),
違反後に減車をした事後的事情によって加重割合が減少される根拠は何ら
存しないから,原告の主張は独自の見解にすぎず,失当である。
イ原告は,特別監視地域指定前に車両購入契約を締結していて経過措置と
して増車を行うことが認められており,原告が実施した増車は特別監視地
域指定前の増車であって,新たな処分基準に基づかない増車ということが
できるから,違反事項ごとの基準日車数を3倍加重することはできないと
主張している。
しかし,関東運輸局長等による平成20年7月11日付け公示「特別監
視地域等の指定に伴い試行的に実施する増車抑制対策等の措置について」
の「Ⅱ.増車に関する措置」の「2.増車届出事業者に対する事前監査制
度」によって経過措置(以下「本件経過措置」という。)が設けられてい
るのは,事前監査制度についてのみであって,特別監視地域指定後に基準
車両数を増加させた者による違反の場合,基準日車数を3倍にすることに
ついて経過措置が設けられていないことは処分基準を見ても明らかである
し,その他,特別監視地域指定前に増車がされたものと取り扱うことがで
きる根拠規定は特に見当たらない。
ウ原告は,①平成14年処分基準には,基準車両数を特別監視地域に指
定された後に増加させた者による違反として,3倍に加重することが定め
られているが,3倍に加重する基になる処分日数が何であるか定められて
おらず,幾何級数的に加重するという処分基準は公示されていないから,
基準日車数を所定の場合に所定の割合で加重されることが予定されていな
い,②初違反20日車程度の処分しか受けない違反事実につき,270
日車もの処分にまで加重されるのは,処分事由と処分結果との間に著しい
不均衡が生じており,過酷な処分であると主張している。
しかし,①については,処分基準及び違反事項ごとの処分基準において,
違反事項ごとに基準日車数を算出した上で,違反事項が2以上ある場合は,
その最も重い違反の基準日車数に,他の違反の基準日車数の2分の1をそ
れぞれ加えて,合計の処分日車数を算出するとされているところ,基準日
車数を合計することが定められているのは合計の処分日車数を算出する場
面のみであり,他方,違反事項ごとの基準日車数を算出する場面において
定められているのは所定の場合に所定の割合で加重することのみであると
されており,このような処分基準及び違反事項ごとの処分基準の構造から
すれば,違反事項ごとに算出した基準日車数を合計する場面においては,
基準日車数を合計することが予定されているが,違反事項ごとの基準日車
数を算出する場面においては,基準日車数を合計することは予定されてお
らず,基準日車数を所定の場合に所定の割合で加重することのみが予定さ
れているということができる。そして,基準車両数を特別監視地域指定後
に増車させた者による違反については3倍に加重することが定められてい
るが(平成14年処分基準1.(3)),これは「処分日車数を別表のとお
り取り扱うものとする」として定められているものであり,この処分日車
数は違反事項ごとの処分基準に基づいて算出される(処分基準1.(4))
ものであるから,3倍加重の基になる処分日車数は明確に定められている。
したがって,原告の上記①の主張は独自の主張をいうものであり,理由が
ない。
また,②については,処分基準及び違反事項ごとの処分基準による処分
方法は公示されているところ,違反事項ごとの基準日車数の加重について
は,運輸規則22条1項により最高乗務距離の限度を定める旨指定された
地域内の自動車の違反による加重や平成14年処分基準による特別監視地
域及び緊急調整地域に指定された地域内の営業所における一定の違反によ
る加重などがあるが,これらはいずれも,タクシー事業の労務管理,安全
管理及び利用者の利便確保に強くかかわるものであるため,違反に対する
処分を特に重くすることによって,事業者に遵守を求める必要があるもの
であって,これらが複数重なる場合は,それだけ,その必要性が高くなる
から,原告が主張するような不均衡は生じず,その主張には理由がない。
(原告の主張の要旨)
ア原告は,本件A監査が終わった後,本件処分の半年前に,本件増車によ
り増車した車両を本件減車により本件増車前の基準車両数に戻していると
ころ,これを評価せずに,既に存在しない特別監視地域指定後の増車とい
う理由により3倍加重(平成14年処分基準別表「特別監視地域(特定特
別監視地域を含む)」欄の4項)の本件処分をするのは違法である。
イまた,A営業所の所在する地域が特別監視地域に指定されたのは,平成
20年7月11日であり,原告は,それよりも前に増車のための車両購入
契約を締結していたことから,「特定特別監視地域等において試行的に実
施する増車抑制対策等の措置について」(平成19年11月20日自動車
交通局長通達)に基づく措置(本件経過措置)として,増車を行うことが
認められているから,原告が実施した増車は特別監視地域指定前の増車と
いうことができるから,平成14年処分基準により基準日車数の3倍加重
を行うことは,平成14年処分基準の解釈・適用を誤った違法がある。
また,原告は,本件経過措置に基づく増車として,基準日車数の加重は
されないものと考えて増車を申請したものであるところ,基準日車数の3
倍加重をする本件処分は原告に不意打ちである。
ウ仮に本件違反行為①ないし③が,特別監視地域指定後の違反に該当し,
平成14年処分基準が適用されるとしても,平成14年処分基準の別表は,
3倍加重の基となる基準日車数がどれを指しているのかを定めた規定がな
いし,既に一旦加重された基準日車数を更に幾何級数的に加重することが
できることを定めた規定も特にない。
そうしたところ,被告は,本件違反行為①につき,本来初違反20日車
であるところ,再違反を理由に60日車に,更に最高乗務距離を定める旨
指定された地域内での違反行為であるとの理由で90日車に,それぞれ加
重し(運輸規則22条1項),これを基準に特別監視地域指定後の違反で
あることを理由に3倍の加重をして270日車としている。
このように,初違反20日車程度の重要でない違反行為であるはずの本
件違反行為①につき,事業運営に重大な支障を来すことになる13.5倍
の加重を行うのは,処分事由と処分結果との間に著しい不均衡が生じてい
るといえるし,このような極めて過酷な処分は,道運法40条の予定する
ところとはいい難く,また,明確な根拠もないのであるから,運輸規則や
平成14年処分基準の解釈と適用を誤った違法がある。
(5)争点(1)オ(本件処分に関する手続の適否)
(被告の主張の要旨)
処分行政庁は,監査において,違反事実について,監査中に証拠書類とな
るものの写しを取るとともに,監査立会人に対し当該書類を提示して違反事
実を指摘・確認して,監査終了後に当該違反事実について道運法違反となる
理由を具体的に説明し,理解を求めているし,本件A監査もこのとおり行わ
れている。
したがって,原告にとって,本件処分の通知に付された理由は,名宛人が
その記載自体からいかなる事実関係についていかなる処分基準を適用したか
を了知し得る程度に記載されているし,どのタクシー乗務員のいつの乗務記
録又は運行記録計記録紙を改ざんしたのかという具体的事実が分からないこ
とによって,本件違反行為②及び③について防御権を行使することが不可能
となることはないし,違反事項ごとの処分基準も何ら明確性を欠くものでは
ない。
よって,本件処分につき行政手続法上の違法性は認められない。
(原告の主張の要旨)
行政庁は,不利益処分をする場合には,その名宛人に対し,同時に書面に
より当該不利益処分の理由を示さなければならず(行政手続法14条1項,
3項),その理由は,処分の名宛人の防御権行使のために,いかなる事実関
係についていかなる処分基準を適用したかを名宛人がその記載自体から了知
し得る程度に記載しなければならないと解される。
本件命令書には,「乗務員等の記録に虚偽の記載をしていたものがあった
こと」(本件違反行為②),「運行記録計を不正に操作し,確実に記録して
いないものがあったこと」(本件違反行為③)という事実を指摘して,「改
ざん」があったとしているが,処分の対象はあくまで改ざん行為であるから,
改ざんの事実及び改ざんを行った者を特定しなければならないところ,誰が
改ざんをしたのか特定されておらず,原告は防御権を行使することができな
い。
また,被告が原告に対して弁明書を求める書面には,上記のような具体的
事実の指摘が全くなく,適法な弁明の機会が与えられたとは到底いえない。
以上から,本件処分は行政手続法12条1項,2項,14条1項本文に違
反しており,違法である。
(6)争点(2)(国家賠償法上の違法性の有無並びに損害の発生の有無及び額)
(原告の主張の要旨)
ア本件処分には,上記のとおり,取消原因となる違法事由が認められ,こ
れらは,国家賠償法上も違法事実に該当することになる。
また,被告は,原告が平成22年2月8日に弁明書を提出して本件処分
の違法性を指摘しているにもかかわらず,本件処分をしており,本件処分
が違法であることを認識すべきであったのに認識しなかったということが
でき,過失がある。
イ違法な本件処分により原告が得ることのできなかった損害として,得べ
かりし売上高があるが,本件処分によって支出を免れることができたもの
は,燃料費ぐらいしかないため,原告の損害は本件処分の間の得べかりし
売上高から燃料費を控除したものとなる。
そこで,A営業所における平成21年度(平成21年4月1日から平成
22年3月31日)の燃料費を控除した売上高は6億4776万0379
円であるところ,これを延実在車両数2万0989台で割り,345日車
数を掛けると1064万7354円となり,これが本件処分により原告に
生じた損害額となる。
(被告の主張の要旨)
ア国家賠償法1条1項にいう「違法」とは,公務員が個別の国民に対して
負担する職務上の法的義務に違背することをいい,当該公務員が職務上通
常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得る
ような事情がある場合に限り,違法の評価を受けることとなる。
本件処分には何ら取消原因は認められないし,結果的に取消原因たる違
法事由が認められるとしても,そのことをもって,直ちに国家賠償法上の
違法性及び故意又は過失が認められるわけではないところ,原告はこれら
の要件について何ら具体的な主張立証をしていないから,本件処分につき,
関東運輸局長に国家賠償法1条1項の違法性は認められない。
イ損害の発生の有無及び額に関する原告の主張は,否認し又は争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)ア(本件違反行為①の存否)について
(1)運輸規則21条1項は,道運法27条1項を受けて,旅客自動車運送事
業者に,過労の防止を十分考慮して,国土交通大臣が告示で定める基準に従
って,事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間を定め当該運転者にこ
れを遵守させることを義務付けているところ,運輸規則21条1項を受けて
定められた運輸規則21条1項告示(別紙2の4)は,旅客自動車運送事業
者が運転者の勤務時間及び乗務時間を定める場合の基準は改善基準告示とす
ると定めており,改善基準告示には具体的な勤務時間及び乗務時間の制限内
容が定められていることからすれば,運輸規則21条1項によって旅客自動
車運送事業者が事業用自動車の運転者に遵守させることが求められる勤務時
間及び乗務時間の定めの基準は,労働者である自動車運転者一般の労働時間
等の改善のための基準を定めた改善基準告示によることになる。
そして,改善基準告示2条2項1号は,使用者は,一般乗用旅客自動車運
送事業に従事する自動車運転者であって,隔日勤務に就くものの拘束時間
(労働時間,休憩時間その他使用者に拘束されている時間)は2暦日につい
て21時間を超えないものとすることと定めている。
そこで,改善基準告示2条2項1号に照らし,本件違反行為①の存否につ
いて検討する。
(2)前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が
認められる。
ア関東運輸局長は,東京労働局長から,原告のA営業所及びB営業所につ
き,労働基準法32条(改善基準告示2条2項1号)に違反しており,
「時間外労働に関する労使協定の限度時間を超えて時間外労働を行わ
せ,かつ,2暦日の拘束時間が21時間を超えていること。実際の運行
と異なる事実が記載されている等,乗務記録及び運行記録計による記録
が整備されていないこと。」,「複数の運転者について虚偽の乗務記録
作成やチャート紙の不正着脱が認められており,違反の内容は悪質であ
る。」との本件通報があったこと,特定特別監視地域指定後に原告から
増車の届出があったことを端緒として,A営業所及びB営業所につき,
巡回監査を行うこととし,関東運輸局及び東京運輸支局所属の監査担当
官7名は,平成21年2月25日,A営業所に赴き,本件A監査を実施
した。
原告代表者及び原告のA営業所長であり運行管理者であるEは,本件
A監査の際,監査立会人として,監査に立ち会い,主としてEが監査の
応対をし,原告代表者は,所用のため,Eに監査に誠実に協力するよう
指示して中座した。
(以上につき,甲37,乙5の1・2,7の1・2,11の1・2,24,
26,27,34,35,原告代表者)
イ本件A監査の際,監査担当官は,A営業所の点呼簿を調査した結果,道
運法27条1項,運輸規則21条1項の違反件数が一番多かったCを調査
したところ,隔日勤務に就く原告の事業用自動車(タクシー)の乗務員で
あるCについて,始業点呼から翌日の終業点呼までの拘束時間が21時間
を超えている件数が,別紙3のとおり,平成21年1月1日から同月31
日までの間において11件認められた。(乙19の1ないし11)
ウよって,本件違反行為①が認められ,原告は,改善基準告示2条2項1
号の定める運転者の勤務時間及び乗務時間を遵守させなかった(運輸規則
21条1項違反)ものといえる。
(3)アこれに対し,原告は,Cは,始業点呼後,朝食をとるなどして約1時
間経過してから乗務についており,乗務から帰庫した後も翌朝の帰宅の際
の通勤電車を待つため,事業用自動車の中で仮眠を取ってから終業点呼を
受けており,拘束時間は21時間を超えていないと主張している。
しかし,改善基準告示2条2項1号にいう拘束時間とは,労働時間,休
憩時間その他使用者に拘束されている時間がこれに当たると定められ,他
方,休息期間とは使用者の拘束を受けない期間をいうものと定められてい
るところ(同条1項柱書き),旅客自動車運送事業の事業者が行う点呼
は,単なる出退社の確認や仕事の指示だけではなく,安全な運行を確保す
るため,運転者や自動車が安全に運行できる状態かどうかを確認し,ま
た,安全な運行ができるよう必要な指示を運転者に与えるものとされてお
り,運行管理者が,乗務開始前や乗務終了時に,営業所で対面で行い,点
呼終了後に乗務日報や乗務員証等の授受をするものであることからすると
(乙39),自動車運転者が始業点呼を受けた後,終業点呼を受けるまで
の時間は,その間自動車運転者は事業者・運行管理者の労務管理下にある
ものということができ,基本的に使用者の拘束を受けている時間と解する
のが相当である。
上記の観点から,原告主張の朝食等時間及び仮眠時間を検討すると,ま
ず朝食等時間は,原告の始業点呼を終えたCが,比較的遠方からの通勤の
ために朝食をとることができないという個人的事情により始業点呼後に朝
食をとり,それに付随して休憩をしていたにすぎず,また,仮眠時間につ
いても,終業点呼を終える前に,帰宅のための始発電車を待つという個人
的事情により事業用自動車内で仮眠していたというのであるから,Cは,
いずれの当該時間においても,使用者である原告の拘束を脱したものとは
評価できず(繁忙度によっては,例えば,直ちに乗務に従事するよう使用
者である原告から指示命令があればこれを拒むこともできなかったものと
いえる。),休息期間ではなく単なる休憩時間に該当することは明らかで
あるから,原告主張の上記時間はいずれも改善基準告示2条1項柱書きに
いう拘束時間に該当する。
イまた,原告は,Cの朝食等時間や仮眠時間があったことに鑑みれば,実
質的に過労運転に該当するような運転状況にはないし,原告代表者も乗務
時間の点について違反はないと認識していたと主張している。
しかし,運輸規則は,旅客自動車運送事業の適正な運営を確保すること
により,輸送の安全及び旅客の利便を図ることを目的とし(同規則1
条),同規則21条1項は,旅客自動車運送事業者に過労防止を十分考慮
して,事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間を定め当該運転者に
これらを遵守させなければならないとしているところ,その基準である運
輸規則21条1項告示や改善基準告示の定めをみても,遵守すべき対象で
ある事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間については,隔日勤務
に就く自動車運転者については拘束時間が2暦日について21時間を超え
るか否かという定量的な基準を採用しており,これを超過した場合におい
ても,原告が主張するような過労運転の実質があるか否かといった定性的
な評価によって,運輸規則21条1項違反が阻却される旨の規定は特に見
当たらない(運輸規則21条1項は「過労の防止を十分考慮して」と定め
るにとどまる。また,改善基準告示2条2項1号ただし書も,車庫待ち等
の自動車運転者の2暦日についての拘束時間は,夜間4時間以上の仮眠時
間を与えることにより,1か月について労使協定により定める回数(当該
回数が1か月について7回を超えるときは,7回)に限り,24時間まで
延長できるとしているにとどまる。)。
仮に原告主張のように,過労運転の実質がない場合には運輸規則21条
1項違反が阻却されると解しようとしても,そもそも規範的評価を伴う過
労か否かといった事情について,具体的な下位規定もないままに,俄にそ
れに当たるか否かの判断をすることは困難であるといわざるを得ない。
そうすると,隔日勤務に就く自動車運転者について,道運法27条1
項,運輸規則21条1項に違反しているか否かは,改善基準告示に定めら
れた拘束時間を超過しているか否かを基準として判断すべきものと解する
のが相当である。
そして,原告の主張によれば,原告代表者は,Cが別紙3のとおり,形
式的な点呼時間が2暦日21時間の拘束時間を超過している点を認識して
いたのであるから,本件違反行為①の事実の認識に欠けるところもないと
いえる。
ウ以上のとおり,原告の上記各主張はいずれも理由がなく,採用すること
ができない。
2争点(1)イ(本件違反行為②の存否及び基準日車数選択の適否)及び争点(1)
ウ(本件違反行為③の存否及び基準日車数選択の適否)について
(1)争点(1)イ及びウに関して認定した事実
ア本件A監査(前記1(2)ア)の結果,監査担当官は,Eらの説明や提出
資料により,前記1(2)イの本件違反行為①以外にも本件違反行為②ない
し④の違反行為が存すると認定し,本件違反行為②及び③については,更
に以下の事実が認められる。(前提事実(5)ア,乙5の1,11の1,)
(ア)本件違反行為②
運転者は,通常,最終の乗客を降車させてから,営業所の車庫に向か
い,帰庫するものであるが,監査担当官が,原告の乗務員Dの平成21
年1月1日から同月31日の日報(乙20の1ないし9)等を確認した
ところ,別紙4の1のとおり,日報上の帰庫時刻が日報上の最終乗客降
車時刻と同じかそれより早い時刻となっている齟齬が9件認められた。
なお,別紙4の1の日報上の帰庫時刻は,Dが後記(イ)のとおり不正
操作した運行記録計記録紙(乙22の1ないし9)上から読み取れる運
行終了時刻とほぼ一致している(乙33)。
(以上につき,乙5の1,11の1)
(イ)本件違反行為③
監査担当官が,原告の乗務員Dの平成21年1月1日から同月31日
の日報(乙20の1ないし9),運行記録計記録紙(乙22の1ないし
9)等を確認したところ,別紙4の2のとおり,日報上の営業回数より
運行記録計記録紙上の実車回数が少なくなっている齟齬が9件認められ
た。日報上の旅客が乗車した区間は,運転者が旅客を乗車させるたびに
記載し,運行記録計記録紙に記録させた実車回数は,運転者がタクシー
メーター器の実車のスイッチを入れることによって自動的に記録される
ものであり,通常,上記のような齟齬は生じないところ,監査担当官
が,この点をDに指摘すると,Dは,拘束時間を守るため,常時所持し
ていた運行記録計の合鍵を使って運行記録計記録紙を外して,運行して
いる時があるなどと供述した(なお,同月31日の運行記録計記録紙
は,午前3時30分頃から午前4時過ぎ頃までの間,記録が途切れてお
り,着脱の形跡が認められる。乙22の9)。(乙5の1,11の1)
イ監査担当官は,本件A監査を終了する際,Eに,本件A監査において
認められた本件違反行為①ないし④の内容等について,確認を求めたと
ころ,Eは,「1運転者の過労防止に関する措置が不適切であり,所
定の拘束時間を超えて乗務していた者があったこと,2運行記録計を
不正に操作し,確実に記録していないものがあったこと,3乗務等の
記録に虚偽の記載をしていたものがあったこと,4運転者に対する輸
送の安全確保についての指導監督が不適切であったこと」(以下「本件
確認書記載」という。)につき事実を認める旨の確認書(以下「本件確
認書」という。)に署名押印した。
なお,原告代表者も,本件確認書作成後に,外出からA営業所に戻っ
たが,本件A監査について,監査担当官に申入れをすることはなかっ
た。
(以上につき,乙24,原告代表者)
ウ以上からすると,原告の乗務員Dは,別紙4の1・2記載の日に,拘
束時間を遵守しているように装うため,(ア)日報上の帰庫時刻を正確
に記載せず,日報上の最終乗客降車時刻と齟齬を来させ,もって乗務等
の記録に虚偽の記載をし(本件違反行為②),(イ)常時所持していた
運行記録計の合鍵を使って運行記録計記録紙を外して,正確な実車回数
を記録させない不正操作をして,日報上の営業回数より運行記録計記録
紙上の実車回数が少ないという齟齬を来させ,もって運行記録計を不正
に操作し,確実に記録しなかった(本件違反行為③)ものと認められ
る。
エこれに対し,原告は,本件A監査は,突如として行われたため,適切
な反論など期待できず,また,行政処分が予定される状況下であり,少
しでも軽い処分を期待して監査担当官の言いなりになっていたものであ
るし,本件確認書記載は,監査担当官が記載したものであるから,E
は,任意に本件確認書を作成したとは認められず,一方的な監査担当官
の指示により署名押印をしたにすぎないから,本件確認書に違反事実を
認めた証拠価値はないと主張し,原告代表者もこれに沿う供述をしてい
る。
しかし,本件確認書は,法令上,監査の際に必ず作成されるとは限ら
ない書類であり,被監査者側が確認書に署名押印するか否かも任意であ
るところ,運行管理者は,運行管理者の業務に関し必要な知識及び能力
について国土交通大臣が行う運行管理者試験に合格するなどして運行管
理者資格者証の交付を受けている者から選任され(道運法23条,23
条の2,23条の4),運転者の勤務時間及び乗務時間を管理したり,
乗務等の記録や運行記録計による記録を運転者にさせて,その記録を保
存する職責を有する者(運輸規則48条)であって,本件確認書により
道運法及び運輸規則違反を認めれば,処分基準や違反事項ごとの処分基
準に従って輸送施設の使用停止等の行政処分を受け得ることは十分認識
し得る立場にあり,Eは,過去にも同様の確認書(乙27)に署名押印
し,その結果,前提事実(2)記載の輸送施設の使用停止等の処分を受けた
経験がある上,上記アないしウからすると,終始,本件A監査に立ち会
って,本件違反行為①ないし④に関する事情の説明を受けていて(乙1
1の1,33),本件違反行為①ないし④の事実関係の認識を有した上
で,特に異議も述べることもなく本件確認書に署名押印したものと認め
られる。
また,道運法・運輸規則違反の事実があるにもかかわらず,仮に運行
管理者が監査担当官に迎合したとしても,これによって処分を軽減でき
るとの規定は,道運法や運輸規則,あるいは処分基準や違反事項ごとの
処分基準をみても,特にないし,Eにおいても,このことは,上記のと
おり,過去の経験から十分認識していたと認められる。
よって,Eにおいて軽い処分を期待して監査担当官の言いなりになっ
て本件確認書に署名押印したなどと認めることはできず,原告の主張は
採用することができない。
(2)本件違反行為②及び③の乗務等の記録義務違反及び運行記録計による記
録義務違反の各該当性
ア道運法27条1項は,事業用自動車の運転者の適切な勤務時間及び乗務
時間の設定その他の運行の管理等やその他の輸送の安全及び旅客の利便の
確保のために必要な事項として国土交通省令で定めるものの遵守を一般旅
客自動車運送事業者に義務付けており(道運法40条1号により,これに
違反した場合は,道運法又は同法に基づく命令に違反することとなり,6
か月以内において期間を定めて自動車その他の輸送施設の使用停止若しく
は事業の停止,又は許可取消しの行政処分が課されることとなる。),具
体的な遵守事項として,道運法27条1項の委任を受けた(ア)運輸規則
25条3項は,事業用自動車の運転者が乗務したときには,乗務の開始及
び終了の地点及び日時並びに主な経過地点及び乗務した距離(同条1項3
号)等の同条1項1号から7号までに掲げる事項のほか,旅客が乗車した
区間並びに乗務した事業用自動車の走行距離計に表示されている乗務の開
始時及び終了時における走行距離の積算キロ数を運転者ごとに記録させる
記録義務とその記録を事業用自動車ごとに整理して1年間保存するという
記録保存義務を,(イ)同規則26条2項は,地方運輸局長が指定する地
域内に営業所を有する個人タクシー事業者を除く一般乗用旅客自動車運送
事業者に,指定地域内にある営業所に属する事業用自動車の運転者が乗務
した場合には,当該自動車の瞬間速度,運行距離及び運行時間を運行記録
計により記録させる記録義務とその記録を運転者ごとに整理して1年間保
存するという記録保存義務を,それぞれ定めており,これは,これらの義
務を一般乗用旅客自動車運送事業者に遵守させることにより,輸送の安全
を確保し,道路運送の利用者である旅客の利便の確保を図り道路運送の総
合的な発達を図り,公共の福祉を増進することを目的としたものと解され
る(道運法1条参照,運輸規則1条)。
そして,運輸規則25条3項,26条2項は,特に記録義務違反行為の
態様を具体的に限定しておらず,法令上もこのほかにこれを限定する手掛
かりとなる規定も特にない。
そうすると,上記(1)で認定した原告の乗務員Dが,別紙4の1・2記
載の日に,拘束時間を遵守しているように装うため,(ア)乗務記録であ
る日報上の帰庫時刻を正確に記載せず,日報上の最終乗客降車時刻と齟齬
を来させた本件違反行為②は,当初から故意に内容虚偽の乗務記録等を作
成する行為ということができ,(イ)常時所持していた運行記録計の合鍵
を使って運行記録計記録紙を外して,正確な実車回数を記録させない不正
操作をして,日報上の営業回数より運行記録計記録紙上の実車回数に齟齬
を来させた本件違反行為③は,運行記録計を故意に不正操作して当初から
内容虚偽の記録をさせる行為ということができるが,これが運輸規則25
条3項,26条2項の文言上,記録義務違反行為に含まれないと解するこ
とはできないどころか,輸送の安全及び旅客の利便を図るとの道運法及び
運輸規則の趣旨目的に鑑みれば,むしろ,乗務等の記録や運行記録計によ
る記録に不実の記録をしてはならないという義務は,その悪質さからする
と,最も初歩的な義務として事業者等に課されているものと解することが
できる。
したがって,本件違反行為②は運輸規則25条3項の定める乗務等の記
録義務違反に,本件違反行為③は同規則26条2項の定める運行記録計に
よる記録義務違反に,それぞれ該当するものと解され,これは道運法40
条の処分要件である同条1号所定の法令違反行為に該当する。
イこれに対し,原告は,乗務等の記録義務違反における「記録の改ざん」
及び運行記録計による記録義務違反における「記録の改ざん」はその字義
的意味や人権保障の見地から,既に存在する記録を書き改めることのみを
指し,本件違反行為②及び③のように当初からの虚偽記録行為や運行記録
計の不正操作行為は含まれないと主張している(その根拠として,平成2
1年9月29日付け国自安第60号,国自旅第128号,国自整第54号
により改正された違反事項ごとの処分基準において,乗務等の記録義務違
反における「記録の改ざん」や運行記録計による記録義務違反における
「記録の改ざん」はいずれも「記録の改ざん・不実記載」と違反行為の事
項の名称が改正されていること(以下「基準改正」という。甲36)を指
摘する。)。
そこで,検討するに,まず,行政処分を課す際の根拠条文である道運法
40条は,所定の要件に該当するときは,輸送施設の使用の停止若しくは
事業の停止を命じ,又は許可を取り消すことができる旨を抽象的,概括的
にしか定めていないことからすると,運輸規則25条3項,26条2項の
記録義務違反行為等の一定の違反行為に対していかなる行政処分を課すべ
きかについては,地方運輸局長の専門技術的な知識経験と道運法1条,運
輸規則1条から要請される公益上の見地から,ある程度の裁量的判断が予
定されていると解することができる。
ところで,関東運輸局長は,一般乗用旅客自動車運送事業者の法令違反
について,道運法40条の規定に基づく許可の取消し等の行政処分等を行
う際の基準の通達として処分基準(乙15)を定め,処分基準の1.通則
(4)で初違反,再違反及び再々違反以上の累違反について,原則として,
別途定める違反事項ごとの処分基準による基準日車数に基づき,行政処分
等を行うものとし,違反事項ごとの処分基準(乙16)において,違反行
為の適用条項及び事項,初違反及び再違反の基準日車数を定めており,そ
の定義はつまびらかに定められてはいないものの,(ア)運輸規則25条
3項の乗務等の記録義務違反の行為の態様については,「記録なし」,
「記録事項の不備」,「記録の改ざん」,「記録の保存なし」を定め,
(イ)同規則26条2項の運行記録計による記録義務違反の行為の態様に
ついては,「記録なし」,「記録の改ざん」,「記録の保存なし」を定め
て,各違反の程度の重さごとに初違反か再違反かの区分に応じて基準日車
数等を定めており,「記録の改ざん」については,(ア)及び(イ)いずれに
ついても,初違反の場合,件数5件以下を10日車,件数6件以上を20
日車,再違反の場合,件数5件以下を30日車,件数6件以上を60日車
と定めて,「記録なし」,「記録の保存なし」等に比べて相対的に重い処
分を予定している。
このような処分基準,違反事項ごとの処分基準の規定内容に鑑みると,
処分基準,違反事項ごとの処分基準は,輸送の安全及び旅客の利便を図る
観点から,法令違反行為を一定程度類型化し,各類型ごとに悪質さの程度
や防止させる必要性の程度等に応じた基準日車数とその合計の処分日車数
によって,課すべき行政処分を定めることにより,一定の違反行為に対し
地方運輸局長がどのような行政処分を課すかという道運法40条上の裁量
権行使の基準を定めたものと解することができる。
他方,上記で検討した処分基準,違反事項ごとの処分基準の規定内容や
その構造,道運法40条との関係に鑑みれば,処分基準及び違反事項ごと
の処分基準のこれらの各規定が,道運法40条各号所定の処分要件そのも
のにつき何らかの限定や基準を定めたものとは解することができない(少
なくとも,運輸規則25条3項,26条2項に定める記録義務に違反する
行為があった場合には,道運法40条1号所定の処分要件が満たされるこ
とは明らかであって,違反行為の態様によって処分要件に当たる場合とそ
うでない場合があることを前提として,処分要件の存否の判断につき地方
運輸局長の裁量的判断に委ねているとは解されない。)。
そうすると,原告の上記主張の趣旨が,本件違反行為②及び③が違反事
項ごとの処分基準の「記録の改ざん」に該当しないことをもって,道運法
40条の処分要件としての運輸規則25条3項,26条2項の各違反の成
立を争うものであるとするならば,前提において理由がないといわざるを
得ず,採用することができない(なお,原告は,乗務等の記録義務違反に
おける「記録の改ざん」や運行記録計による記録義務違反における「記録
の改ざん」につき,本件違反行為②及び③が含まれると解される場合,違
反事項ごとの処分基準は事業者の防御権を侵害し,道運法40条に反する
と主張しているが,この主張も上記と同様の趣旨と解した場合は,やはり
前提において理由がない。)。
ウその他に,原告は,Dが本件違反行為②及び③の不正行為に及んでいた
とは認識していないし,(ア)平成20年12月頃に原告の乗務員が運行
記録計の合鍵を所持していないかチェックをしたり,(イ)安全衛生員に
乗務員が合鍵を所持しないよう注意喚起させるなどしていたし,(ウ)そ
もそも,運行記録計の鍵は合鍵でなくとも,クリップを変形させたもので
解錠することができることすらも認識しておらず,Dの不正行為は通常の
乗務員が合鍵を所持する目的と比して極めて異常な事態であるから,本件
処分を受ける理由はないと主張している。
しかし,行政手続法等をみても,民法上の過失責任の原則(民法709
条等)や刑法38条1項本文の故意犯処罰の原則のように,一般的に,不
利益処分を課すに当たり,違反者に法令違反行為につき故意・過失がある
ことを要件とする定めは特にないことからすると,当該法令違反行為につ
いて違反者の故意・過失を要件とするか否かは各行政法規の定めによるも
のと解される。
そこで,道運法27条1項,40条,運輸規則25条3項,26条2項
の定めやその他の関係規定をみても,道運法40条の行政処分を課すに当
たり,一般乗用旅客自動車運送事業者につき,当該法令違反行為を犯した
ことについて故意・過失を要件とする定めは特にないことからすると,原
告がDの本件違反行為②及び③について認識を有していたか否かは,道運
法27条1項,運輸規則25条3項,26条2項の法令違反の成否につい
て影響を及ぼすものとは解されず,原告の上記主張は前提において理由が
ないといわざるを得ない。
この点をおくとしても,原告代表者は,ほぼ毎日のように乗務員の日報
をみているところ(原告代表者),他方で,平成15年3月28日付けで
乗務員が運行記録計を不正に操作しているとの事実を認める確認書(乙2
6)を関東運輸局長に提出し,また,本件違反行為②及び③の直前には,
同種の内容の本件通報を受けている上,こうした不正が行われる原因につ
いて,歩合制賃金体系に基づき拘束時間超過の乗務が生じがちであるとの
問題意識も有しており,本件違反行為②及び③も常習的に行われていたの
であるから,原告代表者において,上記日報をみれば,乗務員の不正行為
を認識し,又は認識し得たということができ,これを直ちに避止すべきで
あったということができる。
そうしたところ,原告や原告代表者は,常習的に行われた本件違反行為
②及び③を避止できなかったのであるから,処分要件の存否に影響はない
ものといえる。
なお,運輸規則25条3項は,一般乗用旅客自動車運送事業者に各項所
定の記録すべき事項を運転者ごとに記録させる記録義務を課しており,同
規則26条2項は,同項所定の記録すべき事項を一般乗用旅客自動車運送
事業者が運行記録計により記録する記録義務を課しているところ,原告
は,平成15年3月28日の監査の際にも乗務等の記録義務違反や運行記
録計による記録義務違反が認められた上(乙26),本件A監査に先立つ
平成20年12月10日には東京労働局長からも虚偽の乗務記録作成や運
行記録計記録紙の不正着脱が指摘されていたのであるから,原告の乗務員
が上記のような虚偽の乗務記録作成や運行記録計記録紙の不正着脱に及ぶ
ことのないよう事業者としての管理態勢や措置を徹底すべきであったとい
える。そうした中で,原告主張の上記(ア)ないし(ウ)をみても,上記(ア)や
(イ)程度の措置をとった程度では事業者として整備すべき管理態勢や措置
としては到底足りないし,また,(ウ)の可能性にも思いを致した上で管理
態勢や措置を整備すべきであったといえるから,原告の上記法令違反の成
立を妨げる事情とすることはできない。
よって,原告の上記主張はいずれも理由がなく,採用することができな
い。
(3)本件違反行為②及び③の基準日車数選択の適否
ア原告の上記(2)イの主張が,本件違反行為②及び③の基準日車数選択の
適否に関する,処分行政庁の裁量権行使の違法をいうものであったとして
も,そもそも,行政手続に原則として罪刑法定主義は直接適用されないと
ころ,上記(2)で検討したとおり,処分基準,違反事項ごとの処分基準
は,一定の違反行為に対し地方運輸局長がどのような行政処分を課すかと
いう道運法40条上の裁量権行使の基準にすぎず,そこにおいて定められ
ている行為態様も,そのような観点から法令上の違反行為を一定程度類型
化したものであって,網羅的に全ての行為態様を細分化して類型化するも
のとはなっていないことからすると,そこに定められている類型も,厳密
にその文言に当てはまる違反行為のみを対象としているとまではいえず,
他の類型との対比において当該類型に包含されると考えるのが合理的な行
為態様の違反行為もそこに含まれることを予定していると解するのが相当
である。そして,一定の行為について,合目的的に,同質性を有する行為
態様の類型に従って,処分基準を当てはめ,基準日車数を選択すること
も,地方運輸局長の裁量権行使として合理性を欠くものとはいえないと解
される。
そこで,これを踏まえて上記(1)で認定した本件違反行為②及び③を検
討するに,これらは,いずれもDの故意に基づき不実の記録をするもので
あって,一旦,真正な内容が記録された乗務記録や運行記録計の記録紙を
故意に不実の内容に書き換えた場合(以下「書換行為」という。)と同様
の結果を招来するものであることからすると,その悪質さの程度や当該行
為を防止する必要性の程度において,これと何ら変わることなく,これを
処分基準,違反事項ごとの処分基準に照らしてみると,最も重い処分の基
準(「記録の改ざん」については,乗務等の記録義務違反及び運行記録計
による記録義務違反のいずれについても,記録の改ざん5件以下で初違反
という最下限の場合であっても,他の行為態様と異なり,勧告・警告では
なく基準日車数が10日車とされていて,最も重いといえる。)であり,
また,書換行為の行為態様を当然に含むものと解される「記録の改ざん」
の類型と同様の基準日車数を選択した地方運輸局長の判断に裁量権の範囲
の逸脱又はその濫用はないと解するのが相当である。
イ(ア)次に,原告の上記(2)イの主張のうち,基準改正を指摘する点につ
いては,道運法40条の裁量権行使の基準として,どの基準日車数を選
択すべきかの指標としての意味合いを持つにすぎない行為態様の改正に
すぎず,基準改正をもって直ちに原告の上記アの主張の根拠となり得る
とはいえないし,この点をおくとしても,改正後の違反事項ごとの処分
基準の附則2の経過措置上は,改正前に「不実記載」に相当する行為の
取扱いは特に記載されていないことからすると,上記改正は,新たに違
反行為の態様を創設したのではなく(改正後の違反事項ごとの処分基準
をみても,「不実記載」を新たに創設したと解することができる根拠と
なる規定は特に見当たらない。),「記録の改ざん」という類型には
「記録の不実記載」が含まれていたことを前提に,処分基準を定めるに
当たっては,不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとし
なければならないと定める行政手続法12条2項の趣旨を踏まえて,
「記録の不実記載」という行為態様を明記し,これが「記録の改ざん」
と同一の違反事項ごとの処分基準の適用される類型であることを確認的
に明確化したものにとどまるというべきである。
(イ)また,原告は,乗務等の記録義務違反における「記録の改ざん」や
運行記録計による記録義務違反における「記録の改ざん」につき,本件
違反行為②及び③が含まれると解される場合,違反事項ごとの処分基準
は事業者の防御権を侵害し,道運法40条に反すると主張している。
しかし,上記で検討したとおり,違反事項ごとの処分基準に定められ
た「記録の改ざん」は運輸規則25条3項,26条2項の記録義務違反
の行為態様を一定程度類型的に具体化したものであるところ,運輸規則
25条3項,26条2項所定の記録義務違反が本件違反行為②及び③の
行為態様も含むものであることや,その行為態様が「記録の改ざん」と
同様に扱われるべきものであることは,違反事項ごとの処分基準におい
て定められたそのほかの行為態様や基準日車数等と対比すれば,通常の
判断能力を有する一般国民の理解においても十分判断が可能であるとい
うことができるから,何ら明確性や予測可能性に欠けるところはない。
(ウ)原告は,違反事項ごとの処分基準の注11(別紙2の8)は乗務等
の記録義務違反につき,「記録保存なし率」の算出に当たっては,乗務
記録なしの場合は「記録保存なし」にも該当することとすると定めてお
り,乗務記録がない場合は,「記録なし」と「記録保存なし」に該当
し,双方の基準日車数を合算するとしているが,「記録なし」を記録を
しなかったこと,「記録の保存なし」を記録はしたが,廃棄して保存し
ていなかったことと解釈したとしても,記録を作成しなかった行為につ
いては,監査時に記録がなかったことには何ら差異もなく,実質的に処
分原因は同じで1つの行為ということができるのに,違反事項ごとの処
分基準は,「記録なし」と「記録の保存なし」と2つの処分原因を設け
て2倍の処分をするものであるから(なお,別紙2の8の注12でも運
行記録計による記録義務違反につき上記同様に定められている。),比
例原則に反する違法な処分基準であると主張している。
しかし,原告の上記主張は,本件違反行為②及び③に関する違反事項
ごとの処分基準の乗務等の記録義務違反や運行記録計による記録義務違
反における「記録の改ざん」の解釈とは直接関係がないし,「記録な
し」,「記録の保存なし」の定めが仮に比例原則に違反していたとして
も,行為態様自体は別個であるから,これによって直ちに「記録の改ざ
ん」の定めを含む違反事項ごとの処分基準全体の定めが違法となると解
することはできず,前提において理由がない。
この点をおくとしても,道運法27条1項,運輸規則25条3項,2
6条2項の定めによれば,記録義務と記録保存義務を分けて規定してい
るところ,例えば,乗務記録や運行記録計による記録が当初から全く作
成されていない場合について,道運法40条は,記録義務違反,記録保
存義務違反のいずれか一方に限定して該当し,その限度でしか処分でき
ないとの定めも特にしておらず,また,そもそも法令上は,上記の場合
に両方の違反行為に該当することを排除していないといわざるを得な
い。
そして,違反事項ごとの処分基準は,行政手続法12条の趣旨を踏ま
えて,道運法40条の地方運輸局長の裁量権行使の基準を具体化したも
のであるところ,原告指摘のとおり,別紙2の8の注11,注12にあ
るように当初から全く記録が作成されていないような記録なしの場合に
「記録保存なし」に該当することとして,記録保存なし率を算出するこ
ととしても,一旦は記録が作成されたものの,廃棄したことにより保存
していなかった場合とは,その行為の悪質性や当該行為の防止の必要性
の点において差異があるといえるから,何ら合理性を欠くものではな
く,前記裁量権の正当な行使の範囲にとどまるものであり,いまだ前記
裁量権の範囲を逸脱した違法があるとすることはできず,比例原則に違
反するものとはいえない。
(エ)よって,原告の主張はいずれも理由がなく,採用することができな
い。
3争点(1)エ(本件処分における処分日車加重の適否)について
(1)本件処分においては,前記前提事実(5)アの■印のとおり,特別監視
地域に指定された地域内における事業者に関する違反事項(平成14年
処分基準別表の「特別監視地域(特定特別監視地域を含む)。」欄の4
項の特別監視地域に指定された後に基準車両数を増加させた者)とし
て,3倍に加重されている。
上記2で検討したとおり,道運法40条は,どの違反行為に対してい
かなる行政処分を課すべきかについて,地方運輸局長によるある程度の裁
量的判断を予定していると解することができるところ,平成14年処分基
準が特別監視地域,特定特別監視地域(特別監視地域のうち,供給拡大に
より運転者の労働条件の悪化を招く懸念が特に大きな地域。乙29)及び
緊急調整地域(道運法8条1項参照)内の営業所における一定の違反によ
る加重を定めたのは,これらの地域が,いずれも供給輸送力が輸送需要量
に比して著しく過剰ないしその徴候があるために,過労運転等により労働
条件が悪化し,輸送の安全性及び旅客の利便性の低下等が懸念されるた
め,当該地域以外の地域における違反行為よりもこれを防止する必要性が
高いことによるものと解され,行政手続法12条の要請により平成14年
処分基準が公示されていることも踏まえれば,同条に基づく処分を行う際
には,特段の事情のない限り,当該地域内の一定の違反行為については,
平成14年処分基準に基づいて処分の加重を行うことが予定されており,
そのように処分を行うことも地方運輸局長の上記裁量権の行使として合理
性を有するということができるものと解される。
そして,処分基準1.(4)及び違反事項ごとの処分基準によって,各違反
事項ごとに基準日車数を算出することとされており,2以上の違反がある
場合で,運輸規則38条1項の指導監督義務違反以外の違反については,
その最も重い違反の基準日車数にその他の違反の基準日車数の2分の1を
それぞれ加えることにより,処分日車数が算出され,これに基づいて自動
車等の使用停止処分を行うこととされており,加重はされないこととなっ
ている(処分基準3.(3)参照)。
他方,各違反事項ごとに基準日車数を算出する際には,違反事項ごとの
処分基準の注1ないし19を見ても,初違反の基準日車数に再違反の基準
日車数を加算したりするなどの合算による算出方法は採られておらず,専
ら加重によるものとされており,(ア)運輸規則22条1項の最高乗務距離
の限度を定める旨指定された地域内の事業者について,初違反20日車・
再違反60日車については,初違反30日車・再違反90日車に加重し
(別紙2の8の注1),(イ)平成14年処分基準1.(3)の特別監視地域
(特定特別監視地域を含む。)及び緊急調整地域に指定された地域内の営
業所における「一定の違反」は違反事項ごとの処分基準の表で※,☆又は
◎の各印が付されている違反事項又は最高速度違反若しくは過労運転違反
により事故惹起があった場合の当該違反に関連する違反事項に係る違反と
するとだけ規定されており(別紙2の8の注4),何らかの合算をするこ
とは特に予定されていない。
そうすると,当該違反行為が,特別監視地域指定後の地域内の営業所に
おける違反行為にも該当する場合は,上記(ア)等の加重をした後に更に3倍
の加重をすることが相当であり,本件違反行為①に係る道運法27条1
項,運輸規則21条1項違反については,初違反20日車であるところ,
本件は再違反であることから60日車となり,次に(ア)の加重がされて90
日車となり,さらに3倍の加重がされて270日車となると解される(違
反事項ごとの処分基準や処分基準をみても,初違反20日車をまず3倍加
重し,他方,(ア)の加重による90日車を合算すると解される規定は特に見
当たらない。)。
これに対し,3倍の加重の基となる基準日車数が定められていないと
の原告の主張は,(イ)やその他の処分基準,平成14年処分基準,違反
事項ごとの処分基準に徴すれば,初違反・再違反や(ア)のように明確に
基準日車数が定めてある加重事由により,加重をした結果得られた基準
日車数に3倍の加重を行うことが明らかであるから,理由がないし,処
分の均衡を失するとの点も,上記検討からすれば,理由がなく,採用す
ることができない(なお,このことは,例えば,別紙2の6(3)の平成
14年処分基準の1.(5)が,一定の重大な違反行為については,初違
反か再違反かで違反事項ごとの処分基準で定められた基準日車数の加重
を行うかどうかを確定した後,更に重大な事故を引き起こした場合に
は,死傷者数に応じ,2倍を上回らない範囲内で加重することとし,倍
数による加重は,明確に基準日車数が定めてある加重を施した後に行う
構造となっていることからも裏付けられる。)。
よって,道運法27条1項,運輸規則21条1項違反について,基準
日車数を270日車とした点に違法はない。
(2)その他に,原告は,①本件A監査が終わった後,本件処分の半年
前に,本件増車により増車した車両を本件減車により本件増車前の基準
車両数に戻しているから,既に特別監視地域指定後の増車という理由は
本件処分時には存しない,②A営業所が所在する地域が特別監視地域
に指定される前に,原告は本件増車のための車両購入契約を締結してい
て,本件経過措置として増車を行うことが認められているから,本件増
車は,特別監視地域指定前の増車であり,平成14年処分基準により3
倍加重をするのは違法であると主張している。
しかし,①については,平成14年処分基準の別表「特別監視地域
(特定特別監視地域を含む。)」欄の各項を見ても,6項で基準車両数
を特別監視地域指定後に増車させた後に一定の減車をした者が違反をし
た場合は,加重割合が軽減されてはいるものの,特別監視地域指定後の
地域内の営業所における違反行為をした後で,その後に減車をしたこと
により,加重割合が減免される規定は特にないことからすると,原告の
主張は理由がない。
また,②についても,本件経過措置(乙25)により,経過措置が設
けられているのは,事前監査制度についてのみであって,特別監視地域
指定前に本件増車の車両購入契約を締結していたことにより,経過措置
として,特別監視地域指定後の本件増車を特別監視地域指定前の増車と
みなすことができる根拠は特に見当たらないから,原告の主張は理由が
ない。
よって,原告の上記①及び②の主張はいずれも採用することができな
い。
4争点(1)オ(本件処分に関する手続の適否)について
(1)行政手続法14条1項本文が,不利益処分をする場合に同時にその
理由を名宛人に示さなければならないとしているのは,名宛人に直接に
義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み,行
政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処
分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たも
のと解される。そして,同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべ
きかは,上記のような同項本文の趣旨に照らし,当該処分の根拠法令の
規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,
当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総
合考慮してこれを決定すべきである(最高裁平成21年(行ヒ)第91
号同23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参
照)。
上記の観点から,道運法27条1項,40条,運輸規則25条3項,
26条2項による一般旅客自動車運送事業者に対する行政処分について
みると,道運法27条1項,運輸規則25条3項,26条2項に違反す
る行為の態様は種々であり,これらの違反行為に該当する場合に道運法
40条所定の輸送施設の使用の停止,事業の停止又は許可の取消しのい
ずれの処分を選択するのか,使用の停止等の期間を6か月以内のどの程
度の期間とするかといった点は処分行政庁の裁量に委ねられている。そ
して,一般旅客自動車運送事業者に対する上記行政処分については,処
分内容の決定に関し,処分基準,違反事項ごとの処分基準が定められて
いるところ,これらの処分の基準は一般に公示されており,しかも,そ
の内容は,本件違反行為②及び③に関するものだけでも,別紙2のとお
り,各行為態様と初違反,再違反に応じて多岐にわたっている。そうす
ると,本件違反行為②及び③に関し本件処分をするに際して同時に示さ
れるべき理由としては,処分の原因となる事実関係についてどのような
根拠法条や処分基準,違反事項ごとの処分基準を適用したかを,処分の
名宛人において,本件命令書の記載自体から了知し得る程度に記載され
なければならないものと解される。
(2)そこで,これを本件について見ると,本件処分に際し,原告に示さ
れた本件命令書の記載内容は,前提事実(5)ア記載のとおりであり,本
件違反行為②及び③の違反事実と処分の根拠法令の条文が記載されてい
る上,本件違反行為②については「【記録の改ざん9件】20日車
→※30日車→■90日車」,本件違反行為③については「【記録の改
ざん9件】20日車→■60日車」と記載されて,※や■の加重事
由について処分基準の適用条項が記載されており,違反事項ごとの処分
基準のうちのどの類型の違反行為の事項に該当し,それが何件である
か,基準日車数が何日車であるか,処分基準のうち,どの条項によって
加重しているかを名宛人において知り得るものとなっている。
そうすると,本件命令書は,行政手続法14条1項本文(同法12条
1項,2項)の趣旨に照らし,同項本文において求められる理由の提示
として欠けるところはないから,本件処分が行政手続法14条1項,1
2条1項,2項に違反するものとは認められない。
これに対し,原告は,本件違反行為②及び③の改ざん行為が本件処分
の対象となっている以上,改ざんの事実及び改ざんを行った者を特定し
なければならず,これを欠けば,原告は防御権を行使することができな
いとし,本件命令書と同内容の文書を別紙として添付した本件通知書
(行政手続法30条。乙12)も,適法な弁明の機会を付与するものと
はいえないと主張している。
しかし,原告が主張するように処分の原因となる事実を構成する具体
的な法令違反行為やその行為者について,逐一,当該処分の理由書に記
載しなければ,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制
するという点や名宛人の不服の申立てをするに当たり,支障が生ずるも
のとは解し難く,行政手続法14条1項の趣旨からは,処分の理由書に
原告主張の程度までの記載をすることは行政手続法の求めるところでは
ないといわざるを得ない。
また,本件通知書においても,行政手続法30条2号の「不利益処分
の原因となる事実」についても本件命令書と同様の記載がされており,
特定に欠けるところはないし(乙12),本件通知書が送付される前の
平成21年2月25日に実施された本件A監査において,原告の運行管
理者であるEは,監査担当官から本件違反行為①の行為者がCであるこ
と,本件違反行為②及び③の行為者がDであることの説明を受けていた
と認められる上(乙11の1),前記2(1)イで認定したとおり,Eは
本件確認書記載とこれを認める旨の記載がされた本件確認書に署名押印
しており,原告代表者もA営業所に戻った際に監査担当官に異議等の申
入れをすることもなかったのであって,このような経過も踏まえれば,
原告は,本件通知書の送付を受ける前に具体的な違反行為者や具体的な
違反行為の内容を知っていたものと認められ,弁明書(乙13)におい
ても,具体的な反論の意見を述べていることも認められる(なお,Dの
運行記録計記録紙も添付されている。)から,本件通知書及び本件命令
書の記載について,原告が防御権の行使をする上で欠けるところがある
ということはできない。
よって,原告の主張は理由がなく,採用することができない。
5争点(2)(国家賠償法上の違法性の有無並びに損害の発生の有無及び
額)
国家賠償法1条1項は,国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員
が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を
加えたときに,国又は地方公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定す
るところ,以上検討のとおり,そもそも本件処分は適法であって,違法事由は
特に認められないし,原告は,これ以外に国家賠償法上の違法性を基礎付ける
事情を特に主張していないから,本件処分に関して処分行政庁が職務上の法的
義務に違背した事実を認めることはできないというべきである。
よって,原告の主張は,その余の点を検討するまでもなく理由がなく,
採用することができない。
第4結論
以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟
費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文
のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官川神裕
裁判官内野俊夫
裁判官菅野昌彦
(別紙2)
関係法令等の定め
以下,本件に関係のある部分のみを略記する。
1道運法
(1)8条1項
国土交通大臣は,特定の地域において一般乗用旅客自動車運送事業の
供給輸送力(以下「供給輸送力」という。)が輸送需要量に対し著しく
過剰となっている場合であって,当該供給輸送力が更に増加することに
より,輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれが
あると認めるときは,当該特定の地域を,期間を定めて緊急調整地域と
して指定することができる。
(2)27条
一般旅客自動車運送事業者は,(中略)事業用自動車の運転者の適切な勤
務時間及び乗務時間の設定その他の運行の管理(中略)のために必要な事項
として国土交通省令で定めるものを遵守しなければならない。
(3)40条
国土交通大臣は,一般旅客自動車運送事業者が次の各号のいずれかに該当
するときは,6月以内において期間を定めて自動車その他の輸送施設の当
該事業のための使用の停止若しくは事業の停止を命じ,又は許可を取り
消すことができる。
アこの法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分又
は許可若しくは認可に付した条件に違反したとき。(1号)
イ略(2号・3号)
(4)41条
ア国土交通大臣は,前条の規定により事業用自動車の使用の停止又は事業
の停止を命じたときは,当該事業用自動車の道路運送車両法による自動車
検査証を国土交通大臣に返納し,又は当該事業用自動車の同法による自動
車登録番号標及びその封印を取り外した上,その自動車登録番号標につい
て国土交通大臣の領置を受けるべきことを命ずることができる。(1項)
イ国土交通大臣は,前条の規定による事業用自動車の使用の停止又は事業
の停止の期間が満了したときは,前項の規定により返納を受けた自動車検
査証又は同項の規定により領置した自動車登録番号標を返付しなければな
らない。(2項)
ウ略(3項,4項)
(5)88条
ア略(1項)
イ第2章及び第4章から第6章までに規定する国土交通大臣の権限は,政
令で定めるところにより,地方運輸局長に委任することができる。(2
項)
ウ略(3項)
2道路運送法施行令1条
(1)略(1項)
(2)一般乗合旅客自動車運送事業以外の旅客自動車運送事業に関する法第2
章及び第4章に規定する国土交通大臣の権限は,次に掲げるものを除き,地
方運輸局長に委任する。(2項)
ア法8条1項の規定による緊急調整地域の指定(1号)
イ略(2号ないし4号)
(3)略(3項,4項)
3運輸規則
(1)21条
ア旅客自動車運送事業者は,過労の防止を十分考慮して,国土交通大臣が
告示で定める基準に従って,事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時
間を定め,当該運転者にこれらを遵守させなければならない。(1項)
イ略(2項ないし5項)
(2)22条
ア交通の状況を考慮して地方運輸局長が指定する地域内に営業所を有する
一般乗用旅客自動車運送事業者は,次項の規定により地方運輸局長が定め
る乗務距離の最高限度を超えて当該営業所に属する運転者を事業用自動車
に乗務させてはならない。(1項)
イ前項の乗務距離の最高限度は,当該地域における道路及び交通の状況並
びに輸送の状態に応じ,当該営業所に属する事業用自動車の運行の安全
を阻害するおそれのないよう,地方運輸局長が定めるものとする。(2
項)
ウ略(3項)
(3)25条
ア一般乗合旅客自動車運送事業者及び特定旅客自動車運送事業者は,事業
用自動車の運転者が乗務したときは,次に掲げる事項を運転者ごとに記録
させ,かつ,その記録を1年間保存しなければならない。(1項)
(ア)運転者名(1号)
(イ)乗務した事業用自動車の自動車登録番号等当該自動車を識別できる
記号,番号その他の表示(2号)
(ウ)乗務の開始及び終了の地点及び日時並びに主な経過地点及び乗務し
た距離(3号)
(エ)運転を交替した場合は,その地点及び日時(4号)
(オ)休憩又は仮眠をした場合は,その地点及び日時(5号)
(カ)21条3項の睡眠に必要な施設で睡眠をした場合は,当該施設の名
称及び位置(6号)
(キ)道路交通法67条2項に規定する交通事故若しくは自動車事故報告
規則(昭和26年運輸省令104号)2条に規定する事故(26条の2
及び37条1項において「事故」という。)又は著しい運行の遅延その
他の異常な状態が発生した場合にあっては,その概要及び原因(7号)
(ク)略(8号,9号)
イ略(2項)
ウ一般乗用旅客自動車運送事業者は,事業用自動車の運転者が乗務したと
きは,1項1号から7号までに掲げる事項のほか,旅客が乗車した区間並
びに乗務した事業用自動車の走行距離計に表示されている乗務の開始時
及び終了時における走行距離の積算キロ数を運転者ごとに記録させ,
かつ,その記録を事業用自動車ごとに整理して一年間保存しなければ
ならない。(3項)
エ略(4項)
(4)26条
ア略(1項)
イ事業用自動車の運行の管理の状況等を考慮して地方運輸局長が指定する
地域内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者(当該許可を受け
る個人のみが自動車を運転することにより当該事業を行うべき旨の条
件の付された一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受けた者(以下
「個人タクシー事業者」という。)を除く。)は,地域の指定があっ
た日から1年を超えない範囲内において地方運輸局長が定める日以後
においては,指定地域内にある営業所に属する事業用自動車の運転者
が乗務した場合(事業用自動車の運行の態様等を考慮して地方運輸局
長が認める場合を除く。)は,当該自動車の瞬間速度,運行距離及び
運行時間を運行記録計により記録し,かつ,その記録を運転者ごとに
整理して1年間保存しなければならない。(2項)
ウ略(3項)
4旅客自動車運送事業運輸規則第21条第1項の規定に基づき事業用自動車の
運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準(平成13年12月3日国土交通省
告示第1675号)
旅客自動車運送事業者が運転者の勤務時間及び乗務時間を定める場合の基準
は,運転者の労働時間等の改善が過労運転の防止にも資することに鑑み,「自
動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号)
とする。
5自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第7
号)
(1)1条
アこの基準は,自動車運転者(労働基準法9条に規定する労働者(中略)
であって,四輪以上の自動車の運転の業務(中略)に主として従事する者
をいう。以下同じ。)の労働時間等の改善のための基準を定めることによ
り,自動車運転者の労働時間等の労働条件の向上を図ることを目的とする。
(1項)
イ労働関係の当事者は,この基準を理由として自動車運転者の労働条件を
低下させてはならない。(2項)
ウ略(3項)
(2)2条
ア使用者は,一般乗用旅客自動車運送事業(道路運送法3条1号ハの一般
乗用旅客自動車運送事業をいう。以下同じ。)に従事する自動車運転者
(中略)の拘束時間(労働時間,休憩時間その他の使用者に拘束されてい
る時間をいう。以下同じ。)及び休息期間(使用者の拘束を受けない期間
をいう。以下同じ。)については,次に定めるところによるものとする。
(1項柱書き。1号ないし3号は省略)
イ使用者は,一般乗用旅客自動車運送事業に従事する自動車運転者であっ
て隔日勤務に就くものの拘束時間及び休息期間については,次に定めると
ころによるものとする。(2項柱書き)
(ア)拘束時間は,2暦日について21時間,1か月について262時間
(地域的事情その他の特別の事情がある場合において,労使協定がある
ときは,1年のうち6か月において,当該6か月の各月について270
時間)を超えないものとすること。ただし,車庫待ち等の自動車運転者
の2暦日についての拘束時間は,夜間4時間以上の仮眠時間を与えるこ
とにより,1か月について労使協定により定める回数(当該回数が1か
月について7回を超えるときは,7回)に限り,24時間まで延長する
ことができる。この場合において,1か月についての拘束時間は,本文
に定める1か月についての拘束時間に20時間を加えた時間を超えては
ならない。(1号)
(イ)勤務終了後,継続20時間以上の休息期間を与えること。(2号)
6一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準(平成14年1月
31日付け関自旅2第6554号,関整保第946号。抜粋)
(1)違反及び同一違反事項の再違反(行政処分等(中略)を受けたものが,
当該(行政)処分等を受けた日から3年以内に同一営業所において更に同一
営業所において更に同一の事項に違反した場合をいう。)並びに再々違反以
上の累違反については,原則として,別途定める「一般乗用旅客自動車運送
事業者に対する違反事項ごとの行政処分等の基準」(中略)による処分等を
行うものとする。(1.(2)。ただし書きは省略。)
(2)特別監視地域(特定特別監視地域を含む。)及び緊急調整地域に指定さ
れた地域内の営業所における一定の違反については,処分日車数を別表のと
おり取り扱うものとする。(1.(3))
(3)違反の内容が次のいずれかに該当することとなった場合の輸送の安全確
保に関する違反については,(2)・(3)(上記(1)及び(2)を指す。)による処
分基準の再違反の基準を適用する(中略)ものとする。さらに,(ア)に該当
する場合又は(イ)・(ウ)において重大な事故を引き起こした場合には,死傷
者数に応じ,2倍を上回らない範囲内で加重するものとする。
(ア)重大な事故を引き起こした場合
(イ)運転者が過労運転,酒酔い運転,酒気帯び運転,薬物等使用運転,無
免許運転,大型自動車等無資格運転又は最高速度違反を引き起こした場合
であって,一般乗用旅客自動車運送事業者が,当該行為を命じ,又は事業
用自動車の運転者がこれらの行為をすることを容認していたとして,都道
府県公安委員会から道路交通法(昭和35年法律第105号)第75条第
3項の規定に基づく意見聴取又は同法第108条の34の規定に基づく通
知のあった場合
(ウ)運転者が過労運転(道路交通法第66条に規定する過労運転及び改善
基準告示の未遵守が31件以上の場合に限る。),酒酔い運転,酒気帯び
運転,薬物等使用運転,無免許運転,大型自動車等無資格運転又はひき逃
げを引き起こしたとして都道府県公安委員会から道路交通法第108条の
34の規定に基づく通知等のあった場合(改善基準告示の未遵守を除
く。)
(以上につき,1.(5))
(5)別表(「緊急調整地域」欄部分は省略)
特別監視地域(特定特別監視地域を含む。)
対象加重
1ないし3省略省略
4基準車両数を特別監視地域に指定された後に増加させた
者による違反(6,7又は8に該当するものを除く。)
3倍
5省略
6基準車両数を特別監視地域に指定された後に増加させ,
当該増加させた車両数に加え基準車両数の5%以上を減少
させている者による違反(2,3,7又は8に該当するも
のを除く。)
1.5倍
7ないし8省略
7一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について(平成2
1年9月30日付け関自監旅第219号,関自旅二第1116号,関自保第2
30号。抜粋)
(1)本通達において「初違反」とは,当該違反を確認した日から過去3年以
内に同一営業所において同一の違反による行政処分等がない場合における当
該違反をいう。
本通達において「再違反」とは,当該違反を確認した日から過去3年以内
に同一営業所において同一の違反による行政処分等を1度受けている場合の
当該違反をいう。
本通達において,「再々違反以上の累違反」とは,当該違反を確認した日
から過去3年以内に同一営業所において同一違反による行政処分等を2度以
上受けている場合の当該違反をいう。(1.(2))
(2)初違反,再違反及び再々違反以上の累違反について,原則として,別途
定める事業者に対する違反事項ごとの行政処分等の基準(中略)による基準
日車等に基づき,行政処分等を行うものとする。(1.(4))
(3)(道路運送)法第8条1項に規定する緊急調整地域,特定地域における
一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法(平成
21年法律第64号)第3条第2項に規定する特定地域及び(中略)特別監
視地域及び(中略)特定特別監視地域に指定された地域内の営業所における
一定の違反については,基準日車等を別表(省略)のとおり加重して取り扱
うものとする。(1.(8))
(4)行政処分等に係る処分日車数は,1.(4)から(9)(1.(5)ないし(7)及
び(9)は省略)までの規定に基づいて決定するものとする。
ただし,2以上の違反がある場合は,次の①及び②により算出された基準
日車等を合算したものとする。
①運輸規則第38条第1項の運転者に対する指導監督に係る違反(中略)
のうち,その最も重い違反の基準日車等にその他の違反の基準日車等の2
分の1をそれぞれ加える
②①以外の違反のうち,その最も重い違反の基準日車等にその他の違反の
基準日車の2分の1をそれぞれ加える。
(以上につき,3.(3))
(5)1.(8)(中略)の規定は,この通達の施行後に違反行為があったものに
ついて適用し,この通達の施行前の違反行為については,これらの規定に相
当する従前の平成14年公示の規定により行政処分等を行うものとする。
(附則2.)
8一般乗用旅客自動車運送事業者に対する違反事項ごとの行政処分等の基準に
ついて(平成14年1月31日付け関自旅第6556号,関整保第947号。
抜粋)
(1)別添○一般乗用旅客自動車運送事業者に対する違反事項ごとの行政
処分等の基準(処分基準)
違反行為基準
適用条項事項初違反再違反
運輸規則21条1項改善基準告示の設定違反(省略)
改善基準告示の遵守違反
①(省略)
②各事項の未遵守計6件以上15件以下(※)20日車60日車
③,④省略
運輸規則25条3
項,4項
乗務等の記録義務違反
記録(注11)
①記録なし率20%未満(※)
②記録なし率20%以上50%未満(※)
③記録なし率50%以上(※)
記録事項の不備
①不備率50%未満(※)
②不備率50%以上(※)
記録の改ざん
①5件以下(※)
②6件以上(※)
記録の保存(注11)
①記録保存なし率20%未満(※)
②記録保存なし率20%以上50%未満(※)
③記録保存なし率50%以上(※)
警告
10日車
20日車
勧告
10日車
10日車
20日車
警告
10日車
20日車
20日車
30日車
60日車
10日車
30日車
30日車
60日車
20日車
30日車
60日車
運輸規則26条2項運行記録計による記録義務違反
記録(注12)
①記録なし率20%未満(◎)
②記録なし率20%以上50%未満(◎)
③記録なし率50%以上(◎)
記録の改ざん
①5件以下(◎)
②6件以上(◎)
記録の保存(注12)
警告
10日車
20日車
10日車
20日車
20日車
30日車
60日車
30日車
60日車
①記録保存なし率20%未満(◎)
②記録保存なし率20%以上50%未満(◎)
③記録保存なし率50%以上(◎)
警告
10日車
20日車
20日車
30日車
60日車
(2)(注)
ア表中(※)が付されている違反事項について,運輸規則第22条第1項
により最高乗務距離の限度を定める旨指定された地域内の事業者の停止日
車数については,(中略)初違反20日車・再違反60日車の違反は初違
反30日車・再違反90日車に(中略)それぞれ加重を行うものとする。
(注1)
イ「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について」
(平成14年1月31日付け関自旅2第6554号,関整保第946号)
1.(3)の「一定の違反」とは,この表で※,☆又は◎が付されている違
反事項又は最高速度違反若しくは過労運転違反により事故惹起があった場
合の当該違反に関連する違反事項に係る違反とする。(注3)
ウ「記録保存なし率」の算出に当たっては,乗務記録なしの場合は「記録
なし」にも該当することとする。(注11)
エ「記録保存なし率」の算出に当たっては,運行記録計による記録なしの
場合は「記録保存なし」にも該当することとする。(注12)
94ないし8の略語について
以上のうち,4ないし8の各基準については,以下の略語を用いるものとす
る。
4運輸規則21条1項告示
5改善基準告示
6平成14年処分基準
7処分基準
8違反事項ごとの処分基準

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛