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平成29年10月5日判決言渡名古屋高等裁判所
平成28年(ネ)第480号国家賠償請求控訴事件(原審・岐阜地
方裁判所平成23年(ワ)第769号(以下「第1事件」という。),
平成24年(ワ)第691号(以下「第2事件」という。))
主文
11審原告Aを除く1審原告らの控訴に基づき,原判決中岐阜
地方裁判所平成23年(ワ)第769号事件及び平成24年
(ワ)第691号事件に関する部分を次のとおり変更する。
21審被告は,1審原告Bに対し,21万円及びこれに対
する平成23年1月27日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
31審被告は,1審原告Cに対し,3万円及びこれに対す
る平成23年1月25日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
41審被告は,1審原告Dに対し,3万円及びこれに対す
る平成23年1月14日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
51審被告は,1審原告Eに対し,5万5000円及びう
ち2万5000円に対する平成22年9月29日から,う
ち3万円に対する同月30日から各支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
61審被告は,1審原告Fに対し,5万5000円及びう
ち2万5000円に対する平成22年8月25日から,う
ち3万円に対する同年12月20日から各支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
71審被告は,1審原告Gに対し,3万円及びこれに対
する平成23年1月27日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
81審被告は,1審原告Hに対し,3万円及びこれに対す
る平成23年1月25日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
91審被告は,1審原告Iに対し,3万円及びこれに対す
る平成23年1月27日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
101審原告Aを除く1審原告らのその余の請求を棄却す
る。
111審原告Aの控訴及び1審被告の控訴をいずれも棄却
する。
12訴訟費用は,1審原告Aと1審被告との間に当審で生じ
た部分は1審原告Aの負担とし,その余の1審原告らと1
審被告との間に生じた部分は,第1,2審を通じてこれを
2分し,その1を同1審原告らの負担とし,その余を1審
被告の負担とする。
13この判決は,第2項ないし第9項に限り,1審被告に送
達された日から14日を経過したときは,仮に執行するこ
とができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
11審原告らの控訴
(1)1審原告らの控訴の趣旨
ア原判決のうち1審原告ら敗訴部分を取り消す。
イ1審被告は,1審原告Bに対し,30万円及びこれに
対する平成23年1月27日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
ウ1審被告は,1審原告Cに対し,7万3960円及び
これに対する平成23年1月25日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
エ1審被告は,1審原告Dに対し,6万3180円及びこ
れに対する平成23年1月14日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
オ1審被告は,1審原告Eに対し,5万1480円及びこ
れに対する平成22年9月30日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
カ1審被告は,1審原告Fに対し,6万3320円及びこ
れに対する平成22年12月20日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
キ1審被告は,1審原告Aに対し,5万2360円及びこ
れに対する平成22年10月19日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
ク1審被告は,1審原告Gに対し,7万4120円及びこ
れに対する平成23年1月27日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
ケ1審被告は,1審原告Hに対し,7万3960円及びこ
れに対する平成23年1月25日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
コ1審被告は,1審原告Iに対し,7万3980円及びこ
れに対する平成23年1月27日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
サ訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。
(2)控訴の趣旨に対する1審被告の答弁
ア本件控訴をいずれも棄却する。
イ控訴費用は1審原告らの負担とする。
ウ仮執行の宣言は相当でないが,仮に仮執行宣言を付する
場合は,①担保を条件とする仮執行宣言,②その執行開始
時期を判決が1審被告に送達された後14日経過した時と
すること
21審被告の控訴
(1)1審被告の控訴の趣旨
ア原判決の主文第2項及び第3項を取り消す。
イ上記アに係る1審原告E及び1審原告Fの請求をい
ずれも棄却する。
ウ訴訟費用のうち,第2事件に係る部分は,第1審,2審
とも1審原告E及び1審原告Fの負担とする。
(2)控訴の趣旨に対する1審原告E及び1審原告Fの答弁
ア本件控訴を棄却する。
イ訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。
第2事案の概要
1第1事件は,W刑務所長がW刑務所に収容中の受刑者である1
審原告Bとそれ以外の1審原告ら8名との間の面会申出を不許
可としたこと(以下「本件面会不許可処分」という。)につい
て,1審原告らが,同処分はいずれもW刑務所長の裁量権の範
囲を逸脱又は濫用した違法なものであると主張して,1審被告
に対し,国家賠償法1条1項に基づき,1審原告Bについては
慰謝料40万円及びこれに対する遅延損害金の支払を,その余
の1審原告らについては慰謝料各5万円及び面会申出のための
往復交通費の合計額並びにこれに対する遅延損害金の支払を求
めた事案である。
第2事件は,W刑務所長が1審原告E及び1審原告Fと1審原
告Bとの間の信書の発受を禁止したこと(以下「本件信書発受禁
止処分」という。)について,1審原告E及び1審原告Fが,1
審被告に対し,同処分はいずれもW刑務所長の裁量権の範囲を逸
脱又は濫用した違法なものであると主張して,国家賠償法1条1
項に基づき,慰謝料各2万5000円及びこれに対する遅延損害
金の支払を求めた事案である。
なお,原審においては,本件信書発受禁止処分について,1審
原告Bが,1審被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝
料5万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事件(岐阜
地方裁判所平成24年(ワ)第770号。第3事件)も併合審理さ
れていた。
原審は,第1事件に係る1審原告らの請求について,1審原告
Bと1審原告E及び1審原告Hとの本件面会不許可処分に関して
のみ,刑事収容施設法111条2項に関するW刑務所長の裁量権
の範囲を逸脱又は濫用したものであることを認め,かつ,それが
1審原告Bとの関係においてのみ,国家賠償法1条1項の適用上
も違法となるとして,1審原告Bの請求を慰謝料10万円の範囲
で一部認容したが,その余の請求は棄却した。
他方で,原審は,第2事件・第3事件における本件信書発受禁
止処分については,1審原告Bとの関係だけでなく,1審原告E
及び1審原告Fに対する関係でも,刑事収容施設法128条に関
するW刑務所長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであるこ
とを認め,国家賠償法1条1項の適用上違法となるとして,1審
原告E及び1審原告Fに係る各2万5000円の慰謝料請求を全
額認容するとともに(第2事件),1審原告Bに係る5万円の慰
謝料請求についても全額認容した(第3事件)。
そこで,1審原告らが第1事件について控訴するとともに,1
審被告が第2事件について控訴した(第3事件については,双方
の控訴の対象外であるから,原判決主文第1項中の1審被告に1
審原告Bへの5万円の支払を命じた部分は既に確定してい
る。)。
2関係法令等の定め,前提事実,争点及びこれに対する当事者の
主張は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理
由」の「第2事案の概要」の1,2,3(1),同(2),同(4)及び
同(5)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決36頁4行目冒頭「(4)」を「(3)」と改める。
(2)原判決37頁22行目冒頭「(5)」を「(4)」と,同行目の
「ないし第3事件」を「及び第2事件」と,それぞれ改める。
(3)原判決37頁24行目の「及び本件各信書発受禁止処分」を
削除し,同頁25行目の「45万円」から同頁26行目の「5
万円)」までを「40万円」と改める。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,第1事件について,1審原告Aの請求を除き,1
審原告らの請求には理由があるから,一部認容すべきであり,ま
た,第2事件についても,原判決と同様,1審原告らの請求には
理由があるからこれを認容すべきであると判断する。その理由
は,次のとおり付加,訂正し,当事者双方の控訴理由については
項を改めて判断するほか,原判決「事実及び理由」の第3の1~
3,5及び6に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決46頁14行目冒頭から50頁8行目末尾までを次の
とおり改める。
「ア刑事収容施設法は,第2編第2章の「刑事施設における
被収容者の処遇」の中の「第11節外部交通」におい
て,「第1款受刑者についての留意事項」として同法1
10条を置き,「この節の定めるところにより,受刑者に
対し,外部交通(面会,信書の発受及び第146条第1項
に規定する通信をいう。以下この条において同じ。)を行
うことを許し,又はこれを禁止し,差し止め,若しくは制
限するに当たっては,適正な外部交通が受刑者の改善更生
及び円滑な社会復帰に資するものであることに留意しなけ
ればならない」と規定している。その上で,同法111条
1項は,「刑事施設の長は,受刑者・・・に対し,次に掲げる
者から面会の申出があったときは,第148条第3項又は
次節の規定により禁止される場合を除き,これを許すもの
とする」として,受刑者の親族(1号),受刑者の重要用
務の処理のため面会が必要な者(2号),受刑者の改善更
生に資すると認められる者(3号)との面会について権利
面会を規定するとともに,同条2項は,それ以外の者から
の面会の申出について,「その者との交友関係の維持その
他面会することを必要とする事情があり,かつ,面会によ
り,刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生じ,又は受
刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがない
と認めるときは,これを許すことができる」と定めてい
る。
従来の監獄法においては,拘禁の本質が外部交通の厳格
な遮断を含む社会からの完全な隔離にあり,また,好まし
くない社会関係を遮断するためにも,外部交通は基本的に
禁止され,その一部解除として恩恵的かつ制限的にのみ認
められていたにすぎず,同法45条2項は,「受刑者及ビ
監置ニ処セラレタル者ニハ其親族ニ非サル者ト接見ヲ為サ
シムルコトヲ得ス但特ニ必要アリト認ムル場合ハ此限ニ在
ラス」と規定して,その相手方を原則として親族に限定し
ていた。
しかし,受刑者であっても,親族など一定の範囲の者と
の外部交通は,人道上の要請などから,これを保障するの
が適当であると考えられるほか,今日では,一般に親族だ
けではなく,友人・知人が受刑者と社会との良好な関係の
維持に重要な役割を果たすに至っており,その者らとの外
部交通は受刑者の改善更生と円滑な社会復帰を促進するた
めの重要な手段となる。また,こうした交友関係の維持の
ほかにも,外部交通を必要とする事情がある場合がある。
そこで,刑事収容施設法110条以下は,好ましくない
社会関係を遮断する必要性を重視していた監獄法の考えを
改め,外部交通により,好ましくない社会関係が維持さ
れ,改善更生の妨げとなるような場合でない限り,面会に
より積極的・具体的に改善更生に資するという事情がなく
とも,相手方との関係が維持されること自体が改善更生と
円滑な社会復帰に資することを留意して,広く外部交通が
認められるようにすべきことを規定し,親族等の一定の者
との面会は基本的に保障する(権利面会)とともに,それ
以外の面会についても,これを必要とする事情があるな
ど,一定の要件を充足した場合には,刑事施設の長の裁量
により,これを許すことができる(裁量面会)としたもの
である。
イこのように受刑者の外部交通を積極的に認め,友人・知
人との交友関係の維持それ自体が面会を許す理由になるこ
とを明確にした刑事収容施設法の趣旨に照らせば,同法1
11条2項にいう「交友関係の維持」の意義は,特に文
言を限定する必要はなく,むしろ広く解釈することが法
の趣旨に合致するから,通常の交友関係があれば足り,
その長短や濃淡は問わないと解するのが相当である。そ
して,このように解したとしても,同条項は「刑事施設の
規律及び秩序を害する結果を生じ,又は受刑者の矯正処遇
の適切な実施に支障を生ずるおそれがない」との要件によ
り,面会による不都合がないよう絞りをかけているのであ
るから,特段不都合は生じない。
ウまた,監獄法と異なり,外部交通を広く認めようとする
刑事収容施設法の前記趣旨からすれば,「刑事施設の規律
及び秩序を害する結果を生じ,又は受刑者の矯正処遇の適
切な実施に支障を生ずるおそれがないと認めるとき」との
要件は,刑事施設の長において,単に抽象的な懸念を抱い
ているという程度では足りず,個々のケースの実情に即し
て,合理的な根拠をもってそのおそれがあると認められる
場合でなければならないと解される(平成17年4月26
日の第162回国会参議院法務委員会会議録第15号12
頁の政府参考人答弁参照)。
エそして,刑事収容施設法111条2項による裁量面会
は,上記(1)イ及びウの要件の下で「これを許すことができ
る」と規定しているから,刑事施設の長には,面会申出の
許否の判断に当たり,一定の裁量があることは否定できな
い。しかし,相手方との関係が維持されること自体が改善
更生と円滑な社会復帰に資することを留意して,広く外部
交通が認められるようにすべきことを規定した同法110
条は,裁量面会の許否判断の指針として働くとみるべきで
ある。その上,「交友関係の維持」は,受刑者と面会申
出者との個人的な関係を基礎とするものであるから,受
刑者がその交友関係の維持を望む限り尊重されるべきも
のである。
そうすると,刑事施設の長は,「刑事施設の規律及び秩
序を害する結果を生じ,又は受刑者の矯正処遇の適切な実
施に支障を生ずるおそれ」がない限り,交友関係がある友
人・知人との面会それ自体が,その関係を維持し,受刑者
の改善更生と円滑な社会復帰に資するものであるとして,
基本的にこれを許さなければならないというべきであり,
その意味で,刑事施設の長の裁量の幅は相当程度制限され
るものと解される。
以上を前提に,1審原告らについての本件面会不許可処分
の違法性について検討する。」
(2)原判決50頁9行目冒頭「(3)」を「(2)」と,52頁7行目
冒頭「(4)」を「(3)」と,56頁18行目冒頭「(5)」を
「(4)」と,62頁12行目冒頭「(6)」を「(5)」と,64頁1
1行目冒頭「(7)」を「(6)」と,67頁15行目冒頭「(8)」を
「(7)」と,69頁12行目冒頭「(9)」を「(8)」と,74頁5
行目冒頭「(10)」を「(9)」と,それぞれ改める。
(3)原判決50頁23行目の末尾の次に,行を改めて次のとおり
付加する。
「また,一審原告Cは,一審原告Bに対して,自らの著書11
冊を差し入れたほか,平成21年2月からJの機関誌を毎月差
し入れている(甲32・20頁)。」
(4)原判決51頁12行目冒頭から52頁6行目末尾までを,次
のとおり改める。
「(ア)上記認定事実のとおり,1審原告Cと1審原告Bは,平
成21年5月21日にW刑務所において面会したことが
あるほか,信書のやり取りが合計10通あり,1審原告C
が著書や機関誌を差し入れている関係にある。また,信
書の内容(甲2A-1ないし3,甲2B-1ないし5)
に照らしても,両者の交友関係は十分にうかがわれ,1審
原告Bも1審原告Cとの面会を希望していることが認め
られる(甲32・20頁参照)。
これらの事実を総合すれば,両者の間に通常の交友関
係があるといえるから,「交友関係の維持」という面会を
必要とする事情があったと認められる。
(イ)また,平成21年5月21日に1審原告Cが1審原告
Bと面会したことにより,刑事施設の規律及び秩序や同
人の矯正処遇の実施に問題が生じたことはうかがわれな
いから,「刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生じ,
又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそ
れ」も認められない。
(ウ)これに対して,1審被告は,1審原告Cが1審原告Bに
対し,『昭和53年にKさんがJの機関誌「T」にBさん
のことを書きました。それ以来,右翼の人も皆,Bさんを
尊敬しております』(甲2B-2)などと,受刑中の刑事
事件を賛美する内容の信書を送付しているとして,1審原告
Bの改善更生を妨げる結果を生じるおそれが高いと主張し
ている。
しかし,1審被告の指摘する上記信書の内容をもって犯
罪行為を賛美したものとは認められない。また,上記信書
により,1審原告Bの矯正処遇の実施に支障をもたらすお
それがあったとも認め難い。よって,1審被告の主張は理
由がない。
(エ)以上によれば,1審原告Cとの本件面会不許可処分は,
W刑務所長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものという
べきであるから,刑事収容施設法111条2項に反する違
法がある。」
(5)原判決53頁14行目末尾の次に,行を改めて次のとおり付
加する。
「なお,本件面会不許可処分後の事情であるが,1審原告D
は,その後も1審原告B宛に手紙,葉書,年賀状を送付してお
り,それが1審原告Bの下に届いている。その内容は,1審原
告D自身や知人等の近況を伝えたり,1審原告Bが提起してい
る別の裁判に関する話題などである(甲59ないし69)。」
(6)原判決54頁3行目冒頭から56頁17行目末尾までを,次
のとおり改める。
「よって,『交友関係の維持』という面会を必要とする事情
があったものと認められる。
(イ)次に,1審原告Dとの面会により,『刑事施設の規律及び
秩序を害する結果を生じ,又は受刑者の矯正処遇の適切な実
施に支障を生ずるおそれ』があるか否かを検討する。
確かに,1審原告Dは,元Lの構成員であるところ,前記
認定事実によれば,Lは,多数のテロ,ハイジャック事件
を起こしており,極めて犯罪性の強い組織であったといえ
る。また,未だ国際手配中の構成員7名が逃亡しており,
そのうちの1名は支援者らによるU事件の記念集会に声明
を寄せるなどした事実が認められる。
しかし,平成13年4月には,拘禁中の最高幹部であっ
たMが解散を宣言し,同年5月,Lも解散の決定を表明し
た事実が認められる(乙41・4枚目)。なお,平成24
年版警察白書には,その後も別名称を使用して活動を継続
している旨の記載があるが(乙41・4枚目),仮にその
ような事実があるとしても,その別名称の活動又は組織に
1審原告Dが関係していると認めるに足りる証拠はない。
また,1審原告Dにおいて,Lが実行したテロやハイジ
ャック事件に直接関与したことをうかがわせる証拠はなく,
同人は,Lの活動の中で犯した有印公文書偽造・同行使な
どの罪についても平成15年に服役を終え,以後,犯罪行
為に及んでおらず,畜産業や人権活動などを行いながら,
一般市民として通常の生活を送っていると認められる(原
審D本人1~2頁)。しかも,同人は,現時点では,武力
で問題を解決するというLの考え方は誤っていたと供述し
ており(原審D本人4頁),本件面会不許可処分までの約
4年間における3回の面会及び合計76通の信書のやり取
りにおいても,1審原告Bに対し,L関係者の意思伝達を
したり,Lの思想に言及したことは認められない。
さらに,1審原告Dとの外部交通により,1審原告Bの
矯正処遇の実施に具体的な支障が生じたことを裏付ける証
拠もない。かえって,成立に争いのない甲13号証によれ
ば,1審原告Dとの面会後である平成22年7月22日,当
時のW刑務所長Nが,1審原告Bの処遇成績が良好で,改悛
の情も認められるとして,今後,仮釈放の申出も視野に入れ
た処遇を行うため,東京高等検察庁検事長宛に刑の執行順序
変更の指揮申請をした事実が認められる。
そうすると,1審原告Dとの面会により,刑事施設の規律
及び秩序を害する結果を生じ,又は1審原告Bの矯正処遇の
適切な実施に支障を生ずるおそれがあったとは認められない。
(ウ)これに対して,1審被告は,1審原告Dが1審原告Bに
送付した信書には『(1審原告Bの)手紙はコピーしてM
さんにも読んでもらうようにしています』(甲3B-4・
1枚目)などと記載したものがあるから,これが1審原告
Dを介してMらと意思疎通を行っていることを示すもので
あるとして,Lからの離脱を指導しているW刑務所の矯正
処遇に支障を生じることは明らかである旨主張する。
しかし,1審原告Bから1審原告Dに送付された手紙に
Mとの意思疎通を図る趣旨の記載があったことを認めるに
足りる証拠はないから,上記信書の内容をもって,1審原
告Dを介して1審原告BとMとが意思疎通を行っていると
は認められない。また,1審原告Bの近況が1審原告Dを
介して元L構成員らに伝わったからといって,それが直ち
に1審原告Bの矯正処遇の実施に支障をもたらす根拠にな
るとも認め難い。よって,1審被告の上記主張は採用でき
ない。
(エ)また,1審被告は,国際テロリズム要覧(乙57・4
枚目)には,平成27年2月にLメンバーであるOが逮捕
され,同人の裁判に向けて救援組織が始動するなどの事案
も生じており,現在もなお危険な体質に変化はみられない
として,Mらと面会を重ねている1審原告Dと面会させる
ことは,1審原告Bの矯正処遇の適切な実施に支障を生ず
るおそれがあると主張する。
しかし,前記のとおり,既にLは解散した組織であり,
仮にそのメンバーであったOの裁判に向けて救援組織が別
名称を使用して危険な活動を継続している事実があるとし
ても,それに1審原告Dが関与していると認めるに足りる
証拠はない。また,1審原告Dが,平成15年に出所後,
Mらと面会している事実があるとしても,それにより直ち
に1審原告Bの矯正処遇の実施に支障をもたらすとも認め
難い。1審原告Bは,原審本人尋問期日当時(平成27年
3月3日),すでに77歳の高齢であることからしても,
1審被告の主張は抽象的な懸念の域を出るものではない。
よって,この点の1審被告の主張も採用できない。
(オ)以上によれば,1審原告Dとの本件面会不許可処分は,
W刑務所長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものという
べきであるから,刑事収容施設法111条2項に反する違
法がある。」
(7)原判決59頁8行目冒頭から同頁15行目末尾までを,「し
たがって,『交友関係の維持』という面会を必要とする事情が
あったと認められる。」と改める。
(8)原判決59頁17行目冒頭「生じ,又は」の次に「受刑者
の」を加える。
(9)原判決60頁24行目末尾から同頁25行目冒頭にかけての
「Lの元構成員などではなく,」を削除する。
(10)原判決63頁15行目冒頭から64頁10行目末尾までを
次のとおり改める。
「(ア)上記認定事実によれば,1審原告Fと1審原告Bは,平
成19年10月24日に1審原告Bが1審原告Fからの信
書を受信して交流を持つに至り,その後,本件面会不許可
処分までの約3年間で,面会が1回,信書のやり取りも合
計10通(そのうち1審原告Bからの信書は1通)に及ん
でいる。その信書の内容(甲5A-1,甲5B-1ないし
8)に照らしても,両者の交友関係が十分にうかがわれ,
1審原告Bも1審原告Fとの面会を希望していることが認
められる(甲32・27~28頁参照)。
これらの事実を総合すれば,両者の間に通常の交友関係
があるといえるから,『交友関係の維持』という面会を必
要とする事情があったというべきである。
(イ)また,1審原告Fは,平成22年2月25日,1審原告
BとW刑務所において面会した事実があるところ,これに
より刑事施設の規律及び秩序や1審原告Bの矯正処遇の実
施に問題が生じたことは何らうかがわれない。仮に1審原
告Fから1審原告B宛に届いた信書の中に,Pの病状が重
篤であることやMに面会に行った旨近況を伝える記載があ
ったとしても,これにより1審原告Bの矯正処遇の実施に
直ちに支障をもたらすとも認め難い。
よって,1審原告Fとの面会により,刑事施設の規律及び
秩序を害する結果を生じ,又は1審原告Bの矯正処遇の適切
な実施に支障を生ずるおそれがあったとは認められない。
(ウ)これに対して,1審被告は,1審原告Fが『Mさんを支
える会(関西)』の小冊子を1審原告Bに交付することで
同人との外部交通を開始した者で,Mから会いに行ってあ
げて下さいと言われて面会に行った者であるとし,矯正処
遇の適切な実施のためには,L関係者との交友関係を断ち
切ることが必要であるから,『面会することを必要とする
事情』があるとは認められない旨主張する。
しかし,1審原告Fは,Mから1審原告Bの面会に行く
よう言われて面会したという事実はない旨述べており(甲
25・1頁),1審被告の上記主張を認めるに足りる証拠
はない。また,当初の面会の経緯はともかく,その後,手
紙のやり取り等を通じて両者の間に交友関係が生じたこと
が認められ,1審原告Bも1審原告Fとの面会を求めてい
る以上,『交友関係の維持』を否定する理由は見当たらな
い。
なお,1審被告は,L関係者との交流を断ち切る必要が
あるとも主張するが,1審原告Fは「Mさんを支える会」
を通じてMの支援を行っているにすぎず,L関係者でもな
い。よって,1審被告の上記主張は採用できない。
(エ)以上によれば,1審原告Fとの本件面会不許可処分は,
W刑務所長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用があるというべ
きであるから,刑事収容施設法111条2項に反する違法
がある。」
(11)原判決67頁18行目末尾の「事務局長であった者」を
「事務局長を30年以上にわたって務めている者」に改め,同
頁19行目冒頭の「ある。」の次に「Qは,昭和44年3月,
その当時,市民運動や学生運動が盛んで機動隊との衝突により
多数の逮捕者が出たため,弁護士を派遣するなどの救援活動を
行うために発足された組織であり,現在では活動領域を拡大
し,死刑廃止運動や受刑者に対する処遇の改善などの取組も行
っている(甲15)。なお,平成18年12月に第●回X人権
賞を,平成19年に第●回Y人権賞を受賞した(甲16ないし
18)。」を加える。
(12)原判決67頁22行目冒頭「した」の次に,「ほか,毎
年,同人が主宰して法要を執り行っている(甲33,甲50・
2頁)」を加える。
(13)原判決68頁7行目末尾の次に,行を改めて次のとおり付
加する。
「また,1審原告Gは,1審原告Bに対して,Qの機関誌であ
る『V』を毎月差し入れている(甲32・34頁)。」
(14)原判決68頁13行目冒頭から69頁11行目末尾までを
次のとおり改める。
「(ア)上記認定事実によれば,1審原告Gは,従前からQの職
員として1審原告Bの支援活動を行い,同人の兄の葬儀を
執り行うなどした上,平成18年11月13日に1審原告
Bが1審原告Gに対して信書を発信して直接の交流を持つ
に至り,その後も本件面会不許可処分までの約4年間で,
面会が1回,信書のやり取りも合計10通に及んでいる。
また,1審原告Bも,1審原告Gに恩義を感じ,同人との
面会を希望していることが認められる(甲32・35頁参
照)。
これらの事実を総合すれば,両者の間に通常の交友関係
があるといえるから,『交友関係の維持』という面会を必
要とする事情があると認めるのが相当である。
(イ)また,1審原告Gは,平成21年1月27日,1審原告
BとW刑務所において面会した事実があるところ,これに
より刑事施設の規律及び秩序又は1審原告Bの矯正処遇の
実施に問題が生じたことはうかがわれない。よって,1審
原告Gとの面会により,「刑事施設の規律及び秩序を害する
結果を生じ,又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生
ずるおそれ」も認められない。
(ウ)これに対して,1審被告は,1審原告Gが1審原告Bの
兄の祭祀を執り行ったのは,Qの事務局長の立場にあった
からであり,この当時,1審原告Bとは面識がなく,両者
の外部交通が始まるのは平成18年になってからであり,
信書のやり取りの中にも親密な関係を裏付ける内容は存し
ないと主張する。
しかし,たとえ1審原告Bの兄の祭祀を執り行った理由
がQの事務局長の立場からであったとしても,その後,両
者は面会及び信書を通じて交流を継続している事実が認め
られ,1審原告Bも面会を望んでいる以上,『交友関係の
維持』を否定する理由は見当たらない。また,法文上,
『交友関係』に親密さは要求されていないから,信書の中
に親密さを裏付ける内容がないとの主張も理由がない。よ
って,1審被告の上記主張は採用できない。
(エ)以上によれば,1審原告Gとの本件面会不許可処分は,
W刑務所長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものという
べきであるから,刑事収容施設法111条2項に反する違
法がある。」
(15)原判決71頁19行目冒頭から同頁25行目末尾までを,
次のとおり改める。
「よって,『交友関係の維持』という面会を必要とする事情
はあったと認められる。」
(16)原判決72頁1行目冒頭「生じ,又は」の次に,「受刑者
の」を加える。
(17)原判決72頁25行目冒頭から73頁6行目末尾までを削
除する。
(18)原判決74頁8行目の「原告Iは,」の次に,「現在,食
品スーパーに勤務している者である。同人は,」を加え,同頁
11行目の「法要に出席するなどして」を「法要に毎年出席し
ているほか,平成15年の夏,R教会のS司祭に会いに行き,
1審原告Bの身柄引受人を依頼するなどして」と改める。
(19)原判決75頁2行目冒頭から76頁11行目末尾までを次
のとおり改める。
「(ア)前記認定事実のとおり,1審原告Iは,従前から1
審原告Bの刑事裁判を傍聴したり,同人の兄の法要に
参加している者である。両者は,平成19年10月2
4日に1審原告Bが1審原告Iに信書を発信して初め
て直接の交流を持ち,その後も,本件面会不許可処分
までの約3年間で,面会が1回,信書のやり取りも合
計12通に及んでいる。その信書の内容(甲9A-1
ないし5,甲9B-1ないし8)に照らしても,両者
の交友関係が十分にうかがわれ,1審原告Bも1審原
告Iとの面会を希望していることが認められる(甲3
2・31~32頁参照)。
これらの事実を総合すれば,両者の間に通常の交友関
係があるといえるから,『交友関係の維持』という面会
を必要とする事情を認めるのが相当である。
(イ)また,1審原告Iは,平成21年4月16日,1審
原告BとW刑務所において面会した事実があるとこ
ろ,これにより刑事施設の規律及び秩序又は1審原告
Bの矯正処遇の実施に問題が生じたことはうかがわれ
ない。
よって,1審原告Iとの面会により,「刑事施設の規
律及び秩序を害する結果を生じ,又は受刑者の矯正処遇の
適切な実施に支障を生ずるおそれ」も認められない。
(ウ)これに対して,1審被告は,1審原告IはL関係者
らの裁判の支援を行っていた者であり,その活動の過
程で1審原告Bを知り,支援活動を開始したにすぎ
ず,外部交通を開始したのは平成19年に入ってから
であり,また,刑の執行順序変更の裁判等に向けた援
助についても,結局,Lメンバーとしての1審原告B
を支援する活動にすぎないから,面会することを必要
とする事情を基礎づけるとは認められないなどと主張
する。
しかし,1審原告Bが1審原告Iとの面会を希望して
いることに照らすと,同人は,単に1審原告Bの活動を
支援しているにとどまらず,面会や信書のやり取りを通
じて1審原告Bとの間に交友関係が生じたものと認める
ことができるから,1審被告の上記主張は採用できな
い。
(エ)また,1審被告は,1審原告Bが1審原告Iに対す
る信書の中で,『獄中にある諸兄姉の皆様に(信書の
発信が)出来ぬことは残念であります』,『直接の文
通は適いませんが,皆さんの状況は伝わっておりま
す』などと記載しているから(甲9A-1・4枚
目),本来,信書の発受が許されないMらとの意思疎
通の手段として1審原告Iとの信書の発受を用いてい
ることが認められるとして,裁量面会を認めることは
できないと主張する。
しかし,上記信書の内容をもって,信書の発受が許さ
れないMらとの意思疎通を図るための手段として1審原
告Iとの信書を用いたとは認められない。また,機関誌
などを通じて1審原告B又はMの近況が他方へ伝わった
からといって,1審原告Bの矯正処遇の実施に直ちに支
障を生ずるとも考え難い。よって,1審被告の上記主張
も採用できない。
(オ)以上によれば,1審原告Iとの本件面会不許可処分
は,W刑務所長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したも
のというべきであるから,刑事収容施設法111条2
項に反する違法がある。
(10)小括
以上の検討によれば,本件面会不許可処分は,1審原告
Aとの面会を除き,刑事収容施設法111条2項に関する
W刑務所長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであり,
少なくとも1審原告Bとの関係では,国家賠償法1条1項
の適用上も違法な処分というべきである。
そして,前記判示に照らせば,W刑務所長が本件面会不
許可処分をしたことにつき過失があるというべきであるか
ら,1審被告は,1審原告Bに対し,国家賠償法1条1項
に基づく損害賠償義務を負う。」
(20)原判決76頁15行目冒頭から80頁1行目末尾までを次
のとおり改める。
「(1)1審原告Aの請求について
前記2で検討したとおり,本件面会不許可処分のうち,
1審原告Aとの面会不許可については,W刑務所長の裁
量権の範囲の逸脱又は濫用があったということはできな
いから,刑事収容施設法111条2項に基づき適法に行
われた処分であって,国家賠償法1条1項の適用上も違
法とはいえない。したがって,1審原告Aの請求は,そ
の余の点について検討するまでもなく,理由がない。
(2)上記(1)以外の面会申出をした1審原告らの請求につ
いて
ア一般に,人が友人・知人と面会して会話を交わすこと
や,友人・知人とのコミュニケーションを通じてその
関係性を維持・発展させることは,親族のいない者に
とってはもちろん,親族のいる者にとっても,人生を
豊かにする上で不可欠なものであるから,面会を申し
出る者は,憲法13条により保障される幸福追求権又
は同法21条の表現の自由の一内容として,受刑者と
の面会を求めることにつき固有の利益を有している。
イところで,刑事収容施設法111条2項は,裁量面会
を許す場合の要件として,「交友関係の維持その他面
会することを必要とする事情」を要求しているところ,
同条項は,法文上,受刑者にとって面会を必要とする
事情に限定していない上,「交友関係の維持」は,事
柄の性質上,受刑者・面会申出者のいずれか一方だけ
の意向では成り立ち得ないものであるから,受刑者の
利益の観点のみから規定しているものとは解されない。
また,一般に「交友関係の維持」以外の「面会するこ
とを必要とする事情」がある場合として,例えば,被
害者が受刑者の心情を聴きたいと望む場合や,受刑者
の証人尋問を請求しようとする者がそれに先立ち事情
を聴取するために受刑者に面会しようとする場合,さ
らには報道関係が取材のために受刑者に面会しようと
する場合(ただし,積極的に取材のための面会を許す
べき事情がある場合に限られる)などがあると解され
ており,受刑者以外の面会申出者にとっての事情が含
まれている。
そうすると,同条2項は,受刑者の改善更生と円滑な
社会復帰の促進という受刑者の利益を主眼に置きつつも,
それにとどまらず,面会申出者にとっての利益も考慮し
て裁量面会ができる場面を定めたものであり,そのよう
な受刑者及び面会申出者の固有の利益と刑事施設内の規
律及び秩序の確保並びに受刑者の適切な処遇の実現の要
請との調整を図る趣旨を含むものと解することができる。
したがって,刑事施設法111条2項は,親族以外の者
から受刑者との面会の申入れを受けた刑務所長に対し,
面会の許否を判断するに当たり,面会を求める者の固有
の利益にも配慮すべき法的義務を課しているというべき
である。
ウまた,刑事施設の長は,被収容者と外部の者との面会
に関する許否の権限を有しているところ,当該施設の規
律及び秩序の維持,被収容者の矯正処遇の適切な実施等
の観点からその権限を適切に行使するよう職務上義務付
けられている(刑事収容施設法第2編第2章第11節第
2款)。
そして,前記のとおり,同法110条が,相手方との関
係が維持されること自体が,受刑者の改善更生と円滑な社
会復帰に資することを留意して,広く外部交通が認められ
るようにすべきことを規定し,刑事施設の長の裁量の幅が
相当限定されていること,人が友人・知人と直接会ってコ
ミュニケーションを図る利益が,受刑者だけではなく,面
会申出者にとっても重要な基本的人権であることに照らす
と,刑事施設の長は,面会に関する許否の権限を行使する
に当たり,その規律及び秩序の維持等の観点からその権限
を適切に行使するとともに,面会を求める外部の者の面会
の利益をも十分に尊重しなければならないというべきで
ある。
したがって,面会不許可処分が刑事施設の長の裁量権
の濫用又は逸脱により違法となる場合,同処分は,受刑
者の面会をする利益を侵害するだけではなく,面会申出
者の面会に対する固有の利益も侵害しているということ
ができる。
エこれに対して,1審被告は,平成20年判決の判示が
刑事収容施設法111条2項にも妥当するから,W刑務
所長は,1審原告Cらによる1審原告Bとの面会に係る
固有の利益に配慮すべき法的義務を負っておらず,1審
原告Cらとの関係で国家賠償法1条1項の適用上違法と
なる余地はない旨主張する。
しかし,平成20年判決は,外部交通が恩恵的かつ制
限的にのみ認められていた監獄法の規定を前提とするも
のであるから,これと趣旨を異にする刑事収容施設法1
11条2項の解釈には妥当しない。よって,1審被告の
上記主張は採用できない。
(3)小括
以上によれば,本件面会不許可処分が刑事施設の長の
裁量権の範囲を逸脱又は濫用している場合は,受刑者の
みならず,1審原告Cら(1審原告Aを除く)との関係
においても,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の
評価を受けるというべきである。
そして,前記2の認定事実に照らせば,W刑務所長に
は,本件面会不許可処分をしたことにつき過失があると
いうべきであるから,1審被告は,1審原告Aを除く面
会申出をした1審原告らに対し,国家賠償法1条1項に基
づき,損害賠償義務を負う。」
(21)原判決84頁15行目冒頭「5」を「4」と,同頁17行
目冒頭「争点(4)」を「争点(3)」と,それぞれ改める。
(22)原判決85頁17行目の「前記判示のとおり」を「そし
て,1審原告Eらは,刑事収容施設法128条にいう『犯罪性の
ある者その他受刑者が信書を発受することにより,刑事施設の
規律及び秩序を害し,又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支
障を生ずるおそれがある者』に当たらないと認められるから
(なお,同旨の判断をした第3事件について,1審被告は控訴し
ていない。)」と,同行目から18行目にかけての「刑事収容
施設法128条」を「同条」と,それぞれ改める。
(23)原判決85頁26行目冒頭「6」を「5」と,同行目の
「ないし第3事件」を「及び第2事件」と,同行目「争点(5)」
を「争点(4)」と,それぞれ改める。
(24)原判決86頁3行目冒頭から同頁6行目末尾までを次のと
おり改める。
「前記のとおり,本件面会不許可処分は,1審原告Aとの面会
を除き,国家賠償法1条1項の適用上違法であり,その経緯や
内容,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,これに
より1審原告Bが被った精神的苦痛の慰謝料は21万円,そ
の他の1審原告らの慰謝料については各3万円と認めるのが相
当である。
なお,1審原告らは,それぞれ交通費の出費についても損害
として主張するが,その支出を認めるに足りる証拠はないから,
いずれも採用できない。」
(25)原判決86頁7行目の「及び第3事件」,同頁8行目の
「原告B及び」,同頁11行目の「原告Bが被った精神的苦痛
の慰謝料は5万円,」を,それぞれ削除する。
(26)原判決86頁12行目末尾の次に,行を改めて次のとおり
付加する。
「(3)小括(損害額)
よって,1審原告らの損害額は次のとおりとなる。
ア1審原告B21万円
イ1審原告C3万円
ウ1審原告D3万円
エ1審原告E5万5000円
(慰謝料3万円+2万5000円)
オ1審原告F5万5000円
(慰謝料3万円+2万5000円)
カ1審原告G3万円
キ1審原告H3万円
ク1審原告I3万円」
21審原告らの控訴理由についての判断
(1)1審原告らは,1審原告Aが面会申出時に健康保険証を忘れ
て提示しなかったところ,窓口ではそれ以外の本人確認に必要
な書類の提示を求められないまま受付が完了し,その後,「非
親族は面会できません」と説明されたものであり,本人確認が
できなかったとの主張は,本件訴訟提起後に後付けで考えた主
張であると主張する。
しかし,1審原告Aが「非親族は面会できません」との説明を
受けた事実を認めるに足りる証拠はなく,かえって,本件面会
不許可処分当日の面会申出書(乙12)には「身分証明書不携
帯」の印が押されているから,W刑務所の表門勤務者が1審原
告Aに対して身分証明書の提示を求め,これに対して同人が健
康保険証を忘れたため,提示できなかったことが認められる(1
審原告らもこれを認めている。)から,1審原告らの上記主張
は採用できない。
(2)また,1審原告らは,刑事収容施設法施行規則67条2項が
証明書類の提示がなかった場合に面会を拒否できるとは規定し
ておらず,法律の授権なくして規則で定めることはできない
し,仮に規則あるいは運用によって拒否できるとしても,身分
証明書の提示ができない場合はこれに代わる手段で身分を確認
すべきであったから,1審原告Aに対する関係でも裁量権の濫用
であって許されない旨主張する。
しかし,刑事収容施設法111条は面会の相手方を定めてい
るから,その相手方を確認するために,同法施行規則67条
が,氏名,生年月日等を記載した申出書の提出を求めるととも
に(同条1項各号),「同項各号に掲げる事項を証明する書類
その他の物件の提出又は提示を求めることができる」(同条2
項)と規定したものと解され,同規則の内容は,法を施行する
上で必要最低限の手続的事項を規定したものであって,規則に
よって定め得る事項といえる。そして,身分証明書の提示がな
い場合,刑事施設の長として確実に相手方を確認する手段はな
いから,その面会不許可処分について,裁量権の範囲を逸脱又
は濫用したと評価することはできない。よって,1審原告らの
上記主張も採用できない。
31審被告の控訴理由についての判断
(1)まず,1審被告は,W刑務所長が,本件信書発受禁止処分を
行うに当たり,1審原告Eらの固有の利益に配慮すべき法的義
務を負うものではなく,仮にそのような法的義務を認める余地
があるとしても,それは外部の者の立場からみて重要な価値を
有する利益に限られ,1審原告Eらのように,単に交友関係が
あるとか,受刑者を支援しているというだけでは足りないとし
て,1審原告Eらとの関係で国家賠償法1条1項の適用上違法
とはならないと主張する。
しかし,他人と信書を発受することは,憲法21条又は同法
13条によって保障された重要な基本的人権であり,重要な価
値を有する利益である。そうすると,刑事収容施設法128条
に基づく信書発受禁止の権限を適切に行使するよう職務上義務
付けられている刑事施設の長としては,その許否を判断するに
当たって,信書を発受する外部の者の利益についても十分に尊
重しなければならないというべきである。
したがって,刑事施設の長は,1審原告Eらの固有の利益に配
慮すべき法的義務を負っていると解するのが相当であり,これ
と異なる1審被告の上記主張は,採用できない。
(2)また,1審被告は,受刑者との信書の発受を求める外部の者
が固有の利益を有する場合において,そのことのみから,直ち
に刑事施設の長が当該外部の者の固有の利益に配慮すべき職務
上の法的義務を負うと結論付けた原判決の判断には誤りがあ
り,外部の者の固有の利益の有無の問題と刑事施設の長の職務
上の法的義務の存否の問題を混同していると主張する。
しかし,受刑者との信書の発受を求める外部の者の固有の利
益が重要な基本的人権である本件においては,刑事施設の長に
はこれに配慮すべき職務上の法的義務が生ずるというべきであ
るから,上記2つの問題を混同しているとの批判は当たらな
い。
また,刑事収容施設法126条が,受刑者の信書の発受に
ついて,犯罪性のある者その他その発受により刑事施設の規
律秩序を害し,又は矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるお
それがある者(同法128条)を除き,相手方の制限なく,
基本的にこれを権利として保障していることに鑑みれば,同
法128条本文は,受刑者及び外部の信書を発受する者の固
有の利益と刑事施設内の規律及び秩序の確保並びに受刑者の
適切な処遇の実現の要請との調整を図る趣旨を含むものと解
することができるから,その点からしても,刑事施設の長は,
当該外部の者の固有の利益に配慮すべき職務上の法的義務を負
っているというべきである。
よって,これと異なる1審被告の上記主張も採用できない。
(3)さらに,1審被告は,刑事収容施設法126条及び同法12
8条の規定の内容及び趣旨等を検討すれば,平成20年判決の
判断は,同法における信書の発受にも妥当する旨主張する。
しかし,監獄法当時の規定を解釈・判断した平成20年判決
が刑事収容施設法の下での面会不許可処分に妥当しないことは
前記のとおりである。
その上,監獄法令の下では,面会だけでなく,信書の発受に
ついても,親族以外の者とは,特に必要があると認められる場
合でなければ許してはならないものとされ(監獄法46条2
項),親族との信書の発受を含め,その許否は所長の裁量によ
るものとされていた(同条1項)のに対し,刑事収容施設法
は,受刑者の信書の発受について,犯罪性のある者その他その
発受により刑事施設の規律秩序を害し,又は矯正処遇の適切な
実施に支障を生ずるおそれがある者を除き,相手方の範囲の制
限なく,基本的にこれを権利として保障している。そうする
と,現行法においては,信書の発受についても監獄法当時の立
法趣旨はそのまま妥当しないというべきであるから,平成20
年判決の射程は本件発受禁止処分には及ばないと解するのが相
当である。
よって,1審被告の上記主張も採用できない。
第4結論
以上によれば,1審原告らの請求は,①1審原告Bにつき21万
円及びこれに対する最終の違法行為日後の日である平成23年1月
27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金,②1審原告Cにつき3万円及び本件面会不許可処分(C)が
された日である平成23年1月25日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金,③1審原告Dにつき3万円及び
本件面会不許可処分(D)がされた日である平成23年1月14
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,④
1審原告Eにつき5万5000円及びうち2万5000円に対する
本件信書発受禁止処分(E)がされた日である平成22年9月29
日から,うち3万円に対する本件面会不許可処分(E)がされた日
である同月30日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金,⑤1審原告Fにつき5万5000円及びうち2万
5000円に対する本件信書発受禁止処分(F)がされた後の日で
ある平成22年8月25日から,うち3万円に対する本件面会不許
可処分(F)がされた日である同年12月20日から各支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金,⑥1審原告Gにつき
3万円及び本件面会不許可処分(G)がされた日である平成23
年1月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金,⑦1審原告Hにつき3万円及び本件面会不許可処分
(H)がされた日である平成23年1月25日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金,⑧1審原告Iにつき3
万円及び本件面会不許可処分(I)がされた日である平成23年
1月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金の各支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由
がないから棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部失当とい
わざるを得ない。よって,1審原告らの控訴の一部は理由がある
が,1審被告の控訴は理由がないから,原判決を上記のとおり変更
することとし,また,仮執行宣言については,本判決送達日から1
4日間の猶予期間を定めるとともに,仮執行免脱宣言の申立てにつ
いては,その必要がないからこれを却下することとして,主文のと
おり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官藤山雅行
裁判官水谷美穂子
裁判官金久保茂

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
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応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
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連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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応募方法
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