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裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人三名の連帯負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、弁護人鈴木一郎、同高橋耕、同岩本洋一、同山崎俊彦、同
近藤俊昭、同鈴木武志、同古田修、同丸井英弘、同田村公一、同三上宏明、同佐藤
博史、同芳永克彦の連名で提出した控訴趣意書及び同訂正書に、これに対する答弁
は、検察官瓜島喜一郎の提出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、
これらを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。
 第一 訴訟手続の法令違反の主張について
 一、 所論は、原審第六回公判期日における裁判所の構成が変つたことによる公
判手続の更新は、同第五回公判期日の公判調書が速記録部分が作成されていたのみ
で手続部分は完成されていなかつたのに、弁護人の異議を無視してその手続を進め
たもので違法である、というのである。しかし、刑訴法、刑訴規則はいずれも、公
判手続の更新に当り、それ以前の公判期日の訴訟手続についての公判調書が完成し
ていることを要件としておらず、却つて刑訴法四八条三項は、公判調書が各公判期
日後速かに、遅くとも判決を宣告するまでにこれを整理すべきことを定め、また同
法五〇条一項は、公判調書が次回の公判期日までに整理されなかつたときは、裁判
所書記官は訴訟関係人の請求があれば、次回の公判期日又はその期日までに前回の
公判期日における証人の供述の要旨を告げなければならないと規定するに止るので
あつて、このことは、連日継続して審理することを原則とする刑事訴訟の要請や当
事者の口頭による弁論を聴取し、更新前に取調べた証拠を直接取調べることを主た
る目的とする更新手続の本質に照しても当然のことであるから、所論は失当であ
り、右更新手続により取り調べられた各証人の原審第四、五回公判調書中の供述記
載部分、司法警察員作成の捜索差押調書謄本等の証拠書類はいずれも適法な証拠調
を経たものというべきである。
 二、 所論は、要するに、本件は昭和四九年二月四日早朝、原判決の判示する東
京都杉並区ab丁目c番d号所在のA1連盟事務所に対してなされた、同年一月二
四日に発生した「A2殺人事件」を被疑事実とする捜索に際し、偶々右事務所に居
合わせた者全員を兇器準備集合罪の現行犯として逮捕した事案であるところ、この
逮捕は、警察当局が当時右殺人事件の捜査が進展しないことから、犯人割出しのた
めの取調をし、また同年二月七日に予定されていた、いわゆるA3集会を事前に規
制することを目的として、事前の計画に従い、A4社等他三ケ所における捜索と所
在者全員逮捕とを併せ行つた無差別な別件逮捕ないし治安取締のための弾圧であ
り、違法な手続であるから、右逮捕に際し作成された捜索差押調書等の証拠書類お
よびこれら証拠に基づいて行われた検証調書は、違法収集証拠として排除さるべき
であるのに、これらを採用した原審の措置は違法である、というのである。
 しかし、原審証人B1、同B2、同B3、同B4の原審各公判調書中の供述記載
部分及び司法警察員作成の捜索差押調書謄本によれば、昭和四九年二月四日午前六
時四三分頃からA1連盟事務所に対して行われた本件捜索差押は、同年一月二四日
午前一一時五〇分頃同都世田谷区ef丁目g番h号アパートA5付近路上で多数の
者が鉄パイプ等を所持集合し同アパート内に侵入し二名のA2を殴る等して殺害し
た兇器準備集合、建造物侵入、殺人被疑事件につき、渋谷簡易裁判所裁判官が同年
二月二日その事実の嫌疑があるとし、また、その必要性があると認めて発した許可
状に基づきなされたものであるところ、右事件については、発生の日の夕刻、所轄
の北沢警察署に捜査本部が設けられて連日捜査会議が開かれる等捜査が進められ、
同月末A6派発行のA7通信の記事等から右捜査本部もこれを同派の犯行と断定
し、同派と親密な関係にあるA1連盟事務所には同派の者多数が出入りし右事件に
関する証拠物等も存在する疑いが濃くなつていたことが認められ、右事件の捜査
上、同事務所に対する捜索差押の必要性は十分肯認することができ、またその執行
の方法についても特段異とすべき事情はなかつたのであるから、右捜索差押許可状
による捜索等の手続に違法があつたとは認められず、また捜査当局が同手続の執行
に籍口し当初から右A2殺人事件捜査のために無差別な逮捕を行い、あるいはA3
集会の事前規制を図つた等右手続をその本来の手続以外に利用する目的で行つたと
認むべき資料も全く存しないから、同手続を違法とし、同手続の下において作成さ
れた証拠の証拠能力を論難する所論は前提を欠き到底採用できない。
 三、 所論は、(一)、B5の検察官に対する昭和四九年二月二一日付、同月二
四日付各供述調書及び同月一五日付、同月二二日付各供述調書の抄本の供述記載内
容は、同人が証人として原審公判廷で供述した際、被告人らに対する反感を感じさ
せる程検察官側の意に添う供述をしたことに照し、その趣旨において右公判調書中
の供述記載と実質的に相反する部分はなく、そのように見える部分も検察官の質問
がそれに触れず、あるいは記憶喚起の方法が尽されなかつたためであり、また同人
は検察官の取調に対し公判廷におけるよりも一そう迎向的であつたもので特信性も
ない。(二)、また、B6の検察官に対する同年二月一九日付、同月二〇日付、同
月二一日付各供述調書についても、その供述記載部分は同人の原審公判調書中の供
述記載と実質的な相違点はなく、また、右各供述調書はいずれも入院中の母親に知
られることをおそれ、検察官から巧妙に不起訴にすることをほのめかされて自白し
た任意性、特信性を欠くものである。従つて右各供述調書は刑訴法三二一条一項二
号の要件に当らないのにこれを証拠として採用し原判決の証拠の標目に挙示した原
審の措置は違法であるというのである。
 しかし、(一)、原審証人B5の原審公判調書中の供述記載では、検察官の質問
に対し、A1連盟事務所等の防衛態勢が何時頃から、どのような理由で強化された
か、また昭和四八年一二月一五日A8市民会館でのA6派の集会においてA9の演
説した内容は判然記憶しないから答えられない、昭和四九年一月頃の事務所の防衛
班での話ではA10が同年二月七日のA3集会に襲つて来るかも知れないとの話が
あつたが事務所を襲うという話はなかつた、二月三日夜の防衛の任務につく際、班
長から指示があつたがその内容は忘れた、何か最近の出来事とか警察の車が廻つて
いるようだから注意して見張るようにという程度の話であつた旨供述して本件の重
要な事項について証言を回避する態度が明らかであるところ、同証言によれば、検
察官による取調に対し、それまでのA6派に同調する政治的運動から脱けようと決
意し、進んで記憶のとおり供述したところを録取されたとする同人の右各検察官に
対する供述調書では、右の各事項につき、昭和四八年九月二一日A6派がA11大
のA10派を襲撃し、A6派機関紙A12は「報復戦の第一弾」と高く評価したが
同年一〇月二〇日池袋周辺その他のA6派アジトがA10派に襲われ、これを機会
にA6派は戦略を変えA4社、A1連盟等の事務所を単に拠点としての防衛のみな
らず、敵を誘い寄せ、敵が攻めて来るのを待つて捕捉し、攻撃し、徹底的にせん滅
するための砦として構築することになり、同年一二月一五日のiでの集会では、A
9は反革命A10分子をせん滅しなければ我々の階級斗争は進展しない、そのため
には手にバールを持つてA10の頭にぶち込み、A10を殺して殺して殺しまくれ
と激しい語調で演説した旨(前示二月二一日付供述調書)、事務所防衛班のリーダ
ー等は二月七日のA3斗争について、A10は絶対狭山斗争に介入してくる、それ
以外にA10は政治課題を持つていない、介入には、個人テロでも、A4社、連盟
でも、会戦でも何でも仕掛けてくるだろうと語つていた旨(前示二月二二日付供述
調書)、二月三日の午後一一時防衛任務(支社防と称していた)につく前、班のリ
ーダー格の杉並警察署留置番号一四号の女性から指示(意志一致と称していた)が
あり、権力の車やA10のレポがいる様なので警戒すること、連盟は前に一回襲わ
れているが、A10は今度は力を入れて襲撃して来ると思われる、こちらとしても
これに対応して敵を断乎としてせん滅しなければならないという話があつた旨(前
示二月一五日付、同月二四日付各供述調書)、本件当時の状況およびそれに至る経
緯について、自然で具体的、詳細な供述をしていることが明らかであるから、右B
5の各供述調書の供述部分は原審公判期日における供述に対比し実質的に相違し、
かつ信用すべき特別の情況があると認められ、これらを刑訴法三二一条一項二号に
より証拠として採用した原審の措置に違法はない。また、(二)、原審証人B6の
原審公判調書中の供述記載によれば、同人は検察官の質問に対し、A1連盟事務所
をA10派の襲撃から防衛するため同所にいたとしながら、同事務所に行くように
なつた時期や同所がA6派と関係があるのか、鉄パイプ等が何故同事務所にあつた
のか判らないし、A10派が襲つて来る等考えたこともなく、それに対処する仕度
もしていない等、何度も同事務所に寝泊りし、防衛任務についた者としては著しく
合理性を欠く、矛盾の多い回避的な供述をしているところ、同証言によれば精神病
で入院している母に起訴されたことが知れては困ると思い、検察官からそのことを
理由に自白を強要されあるいは自白と引き換えに不起訴にする等の約束をされたこ
とはなかつたが、罪が軽くなることを希望して供述したところを録取されたことの
明らかな同人の前記各検察官に対する供述調書においては、同人は昭和四八年九月
か一〇月頃A13反戦のメンバーにA1連盟事務所に連れて行かれたが、当時から
被告人C1がA6派のA9と共に運動をしていたことを知つていたA10派との対
立が激しくなり同事務所もA10派から襲われることも予想し防衛態勢を強化する
とともに、A10派が襲つて来たときは逆にこれを迎え撃つために同年一一月頃か
らコーラー壜、コンクリート塊、鉄パイプ、竹竿が持ち込まれ、同年一二月頃見張
りに行つた際事務所の責任者らしい人からA10が攻めて来たときは先づ事務所に
入れないようにし、入つて来れば一人ひとりやつゝけるというようなことを指示さ
れた旨(前示二月一九日付供述調書)、自分でもA10の連中が鉄パイプ、竹やり
などを持つて攻めて来れば、その事務所の人達と一緒にコンクリート塊などを二階
の窓から投げつけたり、また事務所の中まで入つて来れば鉄パイプなどで殴りつけ
たりして逆にやつてやろうと思い、二月三日の夜事務所に行つたときも同じ気持で
あつた旨(前示二月二〇日付供述調書)、同夜事務所に入つてすぐ一階四畳半の間
ですね当をつけたが警察に捕るまで外さず、なお、玄関の見張りの時は靴もはいて
いた旨(前示二月二一日付供述調書)、当時の状況について、具体的かつ詳細な供
述をしていることが認められ、右各供述調書の供述記載が、前示証言部分と相反
し、しかも右各供述調書の供述記載を信用すべき特別の状況のあることが認められ
るから、右各供述調書を刑訴法三二一条一項二号によつて採用した原審の措置は相
当であり、所論は採用できない。
 四、 所論は、司法警察員B2の作成した捜索差押調書は弁護人において証拠と
することに同意せず、刑訴法三二一条三項の検証調書に準ずべきものでもないの
に、原審がこれを単に真正に作成されたことが立証されたというだけで証拠として
採用したのは違法であり、また検察官が右調書と一体として請求したB7作成の写
真撮影報告書及び写真三一枚並びに司法警察員B1作成の捜索差押実施状況報告書
と一体として請求したB8作成の写真撮影報告書及び写真五七枚はいずれも独立し
た書面であるのに、原審がその作成の真正ないし事件との関係性を調べることなく
採用したのは違法である、というのである。
 しかし、原審証人B2、同B1の原審公判調書中の供述記載、前記捜索差押調書
謄本、捜索差押実施状況報告書によれば、これら調書等は昭和四九年二月四日A1
連盟事務所について、前者は壼倉尚が捜索差押許可状に基づき、また後者はB1が
右捜索差押の際現認した兇器準備集合罪の被疑事実により被告人らを現行犯人とし
て逮捕した現場で、それぞれ行つた捜索差押の状況を明確にするため作成したもの
であり、同人らがその際いずれも補助者であるB7、B8を指揮して写真を撮影さ
せ、これを報告書として提出させて右調書、状況報告書にそれぞれ添付し契印して
一体のものとしたことが認められるから、所論の各写真撮影報告書及び写真は独立
の文書ではなく、右捜索差押調書と一体としてその内容をなすものと解すべきであ
り、また捜索差押調書は捜索差押を実施した者がその経過状況を実施後間もなく記
載したもので、その記載方法、内容、目的から検証調書に準ずるものと解するのが
相当であり、本件調書についても右証人壼倉尚の証言によつて真正に作成され、そ
の謄本が提出されたことが明らかであるから、B7作成の写真撮影報告書及び写真
三一枚を添付した捜索差押調書謄本を刑訴法三二一条三項に従つて採用し、また、
B8作成の写真撮影報告書及び写真五七枚も前示捜索差押実施状況報告書と一体と
して同様採用した原審の措置に何ら違法はなく、所論は失当である。
 五、 所論は、(一)、原審構成裁判官の一人である坂井裁判官が原審相被告人
の二度目の分離単独裁判を行つたことから忌避の原因が明らかになつたのに原審の
審理判決から回避しなかつたのは刑訴規則一三条に違反する。(二)、原審の期日
指定は性急に過ぎ公判調書が完成せず、これを閲覧できないまゝ次回期日に臨まざ
るを得ないこともあり、しかも弁護人申請の重要な証人の取調べを行わず終結を急
ぐ等訴訟手続が刑訴規則一七八条の四に違反する、(三)、原審坂井裁判官は検察
官側証人に援護的尋問を行ない、また裁判長は検察側証人に対する弁護人の反対尋
問に際し尋問の意図等を釈明する等尋問妨害を行つた違法がある、(四)、原審は
被告人や証人の人定質問を裁判所書記官に行わせた部分があり、刑訴規則一九六条
に違反する、(五)、その他訴訟進行に関する弁護人の要望を公判調書に記載せず
刑訴法四八条、同規則四四条一項に違反する等の訴訟手続の法令違反が繰返され、
以上の積み重ねによつて誤つた判決に至つたものである、というのである。
 しかし、本件記録を精査して検討すると、右(一)、については併合審理中の共
犯事件の被告人を分離し審理判決したことがその余の共犯被告人の審判を行うこと
について裁判官忌避の原因に当らないことは判例上確定された原則であつて坂井裁
判官が回避の措置をとらなかつたのは当然のことであり、(本件第一回公判期日に
おける忌避申立を簡易却下した決定に対する抗告申立を棄却した東京高等裁判所昭
和四九年一二月二三日決定参照)、(二)、本件第一回公判期日は起訴後約九ケ月
の余裕を置いて指定され刑訴規則一七八条の四に違反する事情は認められず、その
後弁論の終結された第一五回公判期日まで一年一月を要し、平均一月に僅々一・一
回の公判しか開廷されていないことに徴すると、公判期日の指定が性急に過ぎ、立
証準備のために開廷間隔が不当に短い等ということはできないばかりでなく、弁護
人が反証として申請した証人等もその立証趣旨に照せば、本件についての間接的立
証であり、そのすべてを取調べる必要はなく、原審の採用した限度で足ると認めら
れるから、その裁量は相当であり、(三)、原審裁判官の補充質問、裁判長の釈明
についても、当該証人の公判調書中の供述記載に基づく訴訟関係人による質問応答
の経緯に照すと、これらに対し特段の異議の申立もなされて<要旨第一>おらず、も
ともと何ら違法、不当とすべき事情は認められず、(四)、原審の被告人、証人に
対するいわゆる人定質問が所論のように裁判所書記官によつて行われた
としても、刑訴規則一九六条は審理開始に先立つて出頭した被告人が人違いでない
ことを法廷の主宰者である裁判長において確めるべき旨を定めたもので、その方法
としては、裁判長がそれを確めるに足る事項を問うことゝ規定されているものゝ、
その事項が特に定められていないように、裁量の余地があり、裁判長が必要に応じ
て直ちに補足的な質問ができる状態の下でその指揮に従い裁判所書記官をして質問
等の形式で問を発せしめ、人違いでないことを確めることを禁ずる趣旨のものと解
すべきではなく、事件の性質、法廷の状況によつては、裁判長が静かに見守るなか
で、裁判所書記官がその作業を進めることが法廷における手続の運営としてふさわ
しいことのあることをも考えると、右人定質問の方法は裁判長の訴訟指揮に委ねら
れた事項であり、裁判所書記官をしてこれを行わせることも許容されると解するの
が相当であり、証人についても、その人定質問について規定する刑訴規則一一五条
の文言上の表現は被告人に対する人定質問の場合と若干異つているにしても、その
理は同様であるから原審裁判長が被告人ないし証人の人定質問について採つた措置
に違法はない。(五)、その他原審公判調書の記載等について論難するところも公
判調書の記載の正確性についての異議の申立のあつた形跡はないばかりでなく、そ
の趣旨とするところは弁護側の要望を完全には採らなかつたというもので、採否の
裁量の幅のある訴訟手続でそれを違法とすることはもとより、不当とすべきもので
ないことも明らかである。そして所論に照し本件訴訟手続の全体を調査しても違法
とすべき点はないから、原審の訴訟手続の法令違反をいう所論はいずれも採用の限
りでない。
 第二 法令の解釈適用の誤りとの主張について
 所論は、迎撃形態の兇器準備集合罪について共同加害の目的があるというために
は、その前提として襲撃の具体的可能性ないし襲撃の切迫性、蓋然性が事実として
存在することが必要であると解すべきところ、原判決はその共同加害目的は、もと
もと行為者の主観に属することであり外界に存在する事実そのものとは関係のない
ことであるから、襲撃の蓋然性が事実として存在しなくても、行為者がそのおかれ
た具体的状況のもとで襲撃の蓋然性を認識していれば共同加害の目的を認定するに
妨げはないと解し、本件に刑法二〇八条の二の一項を適用処断したのは法令の解釈
適用を誤つた違法がある、というのである。
 <要旨第二>そこで検討すると、刑法二〇八条の二の一項にいわゆる兇器準備集合
罪は多数の者による他人の生命、身体又は財産に対し加えられる危害
を、兇器を準備する等して集合した、その予備的行為の段階で規制することによつ
て未然に防止しようとする法意のもので、同罪が一般の社会生活の平穏を侵害する
公共危険罪的性格を併せもつとしても、主として殺傷犯、建造物・器物の損壊犯等
の予備罪的性格を有することに照すと、同罪にいう共同加害の目的とは、集合した
二人以上の者が共同実行の形で加害行為を実現しようとする意思と解されるとこ
ろ、行為者(集合者)において、加害行為による結果の発生を積極的に意慾して行
動する意思までも必要とするものではなく、加害行為による結果の発生を確定的に
認識し、あるいはその発生の可能性のあることを認識してあえてその行為に出る意
思があれば足り、また加害行為が相手方の行為その他の事情を条件とする場合は、
その条件の成就すなわち、予想された事態が生じた時には加害行為に出ると決意す
ることで足り(大阪高等裁判所昭和三九年八月一一日判決、下級裁判所刑事裁判例
集六巻七・八号八一六頁、なお同高等裁判所昭和三九年四月一四日判決、高裁刑集
一七巻二号二一九頁参照)、ただ、右の条件はもとより社会通念上通常発生が可能
と認められるものでなければならないと解するのが相当であるから、行為者(集合
者)において、相手方の襲撃を予想し、もし相手方から襲撃があつた場合にはあえ
てこれを迎え撃ち、積極的に殺傷等の加害行為に出る意思がある場合には、相手方
による襲撃が、行為者の認識した事情を基礎とし、一般の社会人の見地から客観的
に判断し、発生する具体的可能性ないし蓋然性があると認められる限り、本罪にい
う共同加害の目的があるといわなければならない。所論は、右の共同加害の目的が
あるとするためには相手方による襲撃の蓋然性が客観的にも事実として存在するこ
とが必要である、というのである。しかし共同加害の目的は本来行為者の主観に属
することであり、その目的(意思)を抱くに至る判断の基礎となる諸事情もすべて
行為者の認識した事柄であるから、相手方を迎撃する形態の兇器準備集合罪にあつ
ては、確かに共同加害の目的も客観性の要請される構成要件の一部をなし、従つ
て、それに関わる相手方による襲撃の予想は、架空の、あるいは漠然としたもので
はなく、通常の一般人から見てもその発生の具体的可能性あるいは蓋然性があると
されるものでなければならないとしても、それは行為者がその認識したことによつ
て自ら判断したところに従うのほかなく、それが被告人の認識した事情の下で一般
人の見地からする評価と異なるときは錯誤の問題として共同加害の目的(意思)を
認めえない場合も生ずると解せられ、以上の点から共同加害の目的が相手方の襲撃
の蓋然性が事実として客観的に存在することにかゝるとする所論は採用できない。
ところで原判決のこの点についての説示の趣旨は必ずしも明白ではないが、若し原
判決が右の相手方による襲撃の蓋然性を行為者の主観のみによる判断に委ねる趣旨
であるとすれば、それは誤りであるといわなければならない。しかし、本件におい
ては後記のように行為者が襲撃の蓋然性について認識し判断したところは一般人の
見地においても誤認はなかつたことは明らかであるから、結局、原判決には判決に
影響を及ぼすべき法令の違反があつたとすることはできない。論旨は理由がない。
 第三 事実誤認の主張について
 一、 所論は、本件当夜、被告人らがA1連盟事務所に泊り込んでいたのは、同
事務所に対する違法な侵害から事務所の財産や同所で働く者達の生命、身体を防衛
するための日常的な警備のためであつて、A10派の者の襲撃の蓋然性もなかつた
ことでもあり、その襲撃を機に積極的に反撃する意思はなく、共同加害の目的はな
かつたのに、原判決が被告人らにおいてA10派の者の襲撃を予想して緊急事態に
備え、その襲撃の際はこれを迎撃し、その生命身体に共同して危害を加える目的で
屋外斗争まで予定し兇器を準備して集合した旨認定したのは重大な事実の誤認であ
る、というのである。
 そこで、本件記録を調査し、当審における事実取調の結果をも併せ検討すると、
原判決の挙示する各証拠を総合すれば、被告人らはいずれもいわゆるA6派に所属
するものであるが、
 1. いわゆるA6派とA10派とは、以前から対立抗争関係にあり、互いに他
の構成員に対し内ゲバと称する殺傷行為を繰返し、昭和四八年後半だけでも、A1
0派によるものとして七月及び一〇月の上池袋周辺のA6派アジト数個所に対する
襲撃、九月のA14大学、A15屋上、国鉄鴬谷駅ホームでのA6派の者に対する
襲撃があり、一二月一四日夕刻には東京都杉並区ab丁目c番d号所在のA1連盟
事務所の近くの喫茶店で同事務所の代表である被告人C1がA10派の者から襲撃
されて頭部等に重症を負い、同日夜には同事務所から一〇〇メートル位のところに
A10派の者約二〇名が鉄パイプなどを携え集合した事件があり、A6派によるも
のとしては、同年九月A11大学構内でのA10派の者に対する襲撃、一一月A1
0派書記長A16に対する襲撃事件が起り、昭和四九年一月二四日にはA10派A
2二名に対する襲撃殺人事件が発生するなど、両派の抗争は激化の一途をたどり、
A6派においては昭和四八年一二月一五日八王子市の集会において、政治局員であ
るA9が反革命A10分子をせん減し徹底的に殺しまくれ等と激越な調子の演説を
し、機関紙においても同旨の主張を掲載する等してあおり立て両派の対立はますま
す緊張・激化して行く状態にあつたこと、
 2. A6派活動の拠点であるA1連盟事務所では、右のようなA10派による
襲撃、ことに被告人C1に対する襲撃等の事態に対処し、事務所建物の玄関扉を合
板による二重扉にし、その窓を板や金網などで補強し、二階正面窓に事務所前面を
照し出せるサーチライト一個及び北側及び南側道路方面を展望できるバツクミラー
二個を取り付け、各室に通ずるインターホーンを設置し、玄関床には石塊の入つた
茶箱を積み重ねて通路を狭くするとともにその茶箱を倒すことによつて閉鎖するこ
ともできるようにする等の備えをしたうえ、内部に多数の鉄パイプ、竹やり、鉄製
特殊警棒、ベール、空瓶、石塊等を蓄え、昼夜を分たず常に一〇ないし一五名位の
青年が警戒に立ち、夜間は午後一一時から翌午前七時まで三交替で不寝番に立ち、
非番の者も着衣のまま、すねあてやこてあてを身につけたまゝ就寝して緊急事態に
備えていたこと、夜間の警戒に就く午後一一時頃には各班長からA10派やA6派
の動向、ことにその対立抗争に関する状況、当日特に注意を要する事項について指
示説明があつて意思統一が図られ、なお、度々、A10派が襲撃して来たときには
直ちに近くにあるもので応戦するよう指示され、警戒に当る者は、右の襲撃に際し
これを迎え撃つ態勢をとつていたこと、
 3. 本件当夜右事務所には、二階各室や廊下に鉄パイプ三九本、鉄棒七本、先
端をといだ竹やり一七本、特殊警棒八本、バール三本、ヌンチヤク二対、空瓶、石
塊、レンガ、コンクリート塊多数が配置され、二階物干場や屋根にも多数の拳大の
石が木箱等に入れて置かれており、また、とくに前記B5の検察官に対する供述調
書からも明らかなように、二月七日のA3斗争集会を前にして、事務所防衛関係の
リーダーらは、A10はそれ以外に政治的課題がないから必ず介入してくるが、方
法を選ばないから事務所にも襲撃して来るかも知れないと語り、当夜もA10は今
度は力を入れて来るだろうから、こちらもそれに対応して断乎としてせん滅しなけ
ればならない旨指示があり、それまでより一段と緊張した状態にあつたこと、そし
て当日事務所の防衛に当つた者はもとよりその他の者も殆んどがすねあて及びこて
あてをつけ、被告人ら三名もこれを装着していたこと、
 4. 被告人C1は同事務所の代表者として、被告人C2、同C3はともに前記
事務所の防衛に当つて来たA17委員会のメンバーとして、そのような防衛体制が
とられるに至つた事情をも含めて前記諸事情を知悉していたと認められること、
 以上の諸事実を認めることができるから、これらA10派との抗争の状況、事務
所内の構造、設備、準備された兇器の種類、配置の状況、襲撃に対応するための防
衛態勢、配置の人員や部署、任務、意思統一の内容、事務所にいた者のすねあて等
の装着状況、被告人らの事務所内での地位、経験等を総合すると、被告人らは、い
ずれも、A1連盟事務所に対するA10派による襲撃が近く実際にあるのではない
かと予想し、A10派が襲撃して来たときは、これを迎撃し、積極的に殺傷等の行
為に出ようと決意して集合していたものと認められ、かつ被告人らがそのように予
想したところは、前記のような対立抗争の下におけるA10派の従前の襲撃の状
況、A3集会についての両派の対応の仕方等をも併せ考慮すると、一般普通人から
考えても当然同様の予想をしたと解せられるから、被告人らは右の襲撃して来るA
10派の者達の生命、身体等に対し共同して危害を加える目的をもつて集合してい
たことは明らかであり、その目的のない単なる日常的な警備の域を出ないとの所論
は到底採用できない。なお、所論は原判決がその説示部分で被告人らに事務所外で
斗争する意思があつた旨事実を誤認したと非難するのであるが、原判決を仔細に検
討すれば、その当該部分は被告人らの準備した兇器がその形状、数量からみて弁護
人の主張するような、単なる防衛のためのものと認められるような小型、軽量、少
数のものではなく、屋外で多数人が斗争するためのものとみられるような危険度が
高く、多量のものである旨兇器の性状を示したものと解するのが相当であり、所論
は前提を欠き失当である。
 二、 所論は、原判決は多数の竹やり、鉄パイプ、鉄製特殊警棒、バール、石
塊、コンクリート塊を兇器と認定したが、これら用法上の兇器の認定は、当該の物
の置かれている客観的状況に行為者の主観的状況や加害行為の蓋然性などを考慮
し、人の生命、身体に対する高度の切迫した現実的危険が客観的に存在する場合に
のみこれを肯定すべきであるのに、本件では器具が存在し、人が室内に集合してい
たゞけで、対立する団体等の具体的存在もなかつたのであるから、前記各種器具の
多くはその兇器性が否定されるべきであるのに、そのすべてに兇器性を認めた原判
決には重大な事実の誤認があるというのである。
 そこで検討すると、原判決の兇器として認定した物のうち竹やり、すべり止めの
布を巻いた鉄パイプ、バール、鉄製特殊警棒はそれ自体社会通念上人を殺傷すべき
性能を有する物として危険感を抱かせるに足る兇器と認められ、その余は用法によ
つては人の生命、身体または財産に害を加えるに足る器物であるところ、これをい
わゆる用法上の兇器とするには、右のような性能の器物であることに加え、二人以
上の者が他人の生命、身体または財産に害を加える目的をもつてこれを準備して集
合するにおいては、社会通念上人をして危険感を抱かせるに足りるものをいうもの
と解せられるところ(最高裁判所昭和四五年一二月三日第一小法廷決定、刑集二四
巻一三号一七〇七頁参照)、既に説示したような状況のもとで、A10派を迎撃し
共同して危害を加える目的で前記器物を準備して集合した場合には、これが社会通
念上人をして危険感を抱かせるに十分であると認められるから、この点に関する所
論も採用できない。
 三、 所論は、本件において被告人C1はA1連盟の代表者であり、連盟の物資
の共同購入や杉並区会議員としての活動のため同事務所を本拠としてはいても、同
事務所の警備は全くA17委員会のメンバーに委ねられており、同被告人において
右警備を分担することはなかつたのであるから、偶々同事務所にいたとしても共同
加害の目的はなく、集合したものでもないのに、原判決が同被告人についても本件
犯罪の成立を認めたのは重大な事実の誤認である、というのである。
 関係証拠によれば、右事務所の警備は従前から地区A17委員会が担当し、連盟
の事務局員は物資の共同購入等の活動を含む本来の事務に専念することになつてい
たことは認められるが、同事務所は一階が六畳、四畳半、小倉庫及び台所、二階も
同程度の広さの総建坪三一・二五坪の建物で、A17委員会のメンバーが待機した
り食事したりする際には階下で連盟事務局の者達との交流もあり、ことに被告人C
1は、同連盟代表者として同事務所に対するA10派の襲撃には利害関係が深く、
事務所の警備防衛についての情報にも詳しかつたと認められ、原審証人B1、同B
9の各原審公判調書中の供述記載から明らかなように、被告人C1は本件犯行によ
つて現行犯逮捕された際、当日の責任者であつたB3警部に不当逮捕だと抗議した
が、逮捕したB9巡査部長や居合わせたB1警部補から、区議会議員で特別公務員
でもあるのに事務所内に多数の石塊や兇器を置いているのはひど過ぎるではないか
と反論され、これに対し、自分もA10にやられたことがあり、襲撃に来た場合に
反撃するためにやむを得ないのだとの趣旨のことを述べているのであつて、以上に
よれば同被告人も積極的に被告人C2、同C3らA17委員会のメンバーで事務所
防衛に当つていた者と共同してA10派の者に危害を加える目的で集合していたこ
とは明白であるから、原判決には所論のような違法はない。
 その他所論が縷々述べるところにつき検討しても原判決の本件犯罪事実について
の認定には何らの事実誤認はないから所論は採用できない。論旨は理由がない。
 よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟
費用につき同法一八一条一項本文、一八二条を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小松正富 裁判官 千葉和郎 裁判官 鈴木勝利)

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