弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     当審の国選弁護人松井元一に支給した訴訟費用は被告人Aの負担とす
る。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、被告人B本人及び同人の弁護人山口勘吾各作成名義の各控
訴趣意書、並びに被告人Aの弁護人松井元一作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意書
(追加)に各記載してあるとおりであるから、これらをここに引用し、これに対し
て次のとおり判断する。
 山口弁護人の控訴趣意第一点及び第三点について。
 原判決が、その理由中罪となるべき事実の第一として、所論摘録のような被告人
Bがたばこ小売人でないのに製造たばこを販売した旨の事実を認定判示しているこ
とは、所論のとおりであつて、所論は、被告人Bは、C療養所の人々の便宜を図つ
て、たばこの取次ないし譲渡をしたに過ぎず販売したものではない。
 物の販売とは、一定の仕入価額に利益を加えた金額を得て他人に物を交付する行
為であつて、利益を得る観念のない交付行為は販売ではない。被告人Bは、前示の
人々の便宜を図り、相被告人Aから製造たばこを公価で仕入れこれをそのまま公定
価で前示の人々に交付して来たもので、何らの利益も得ていないのであつて、販売
したことにはならないものであるにもかかわらず、原判決は、右のように販売した
旨認定しているのであるから、原判決は、販売という観念を誤解した結果事実を誤
認したものであつて、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである旨主張す
るにより、考察するに、たばこ専売法第二十九条第二項には、「公社又<要旨第一>
は小売人でなければ製造たばこを販売してはならない。」と規定しているが、ここ
にいう製造たばこの販売とは、不特定多数の人に対して製造たばこを売
却することをいい、必ずしも直接営利を目的とすることを要しないものと解すべき
ところ、原判決援用の関係証拠によれば、被告人Bが、公社又は小売人でなくし
て、原判示第一の日時場所において、原判示製造たばこを不特定多数の人に売却し
た事実を認め得られるのであるから、同被告人の右所為は、利益の有無にかかわら
ず、たばこ専売法第二九条第二項の禁止する公社又は小売人でなくして製造たばこ
を販売した場合にあたるものというべく、従つて、原判決には、この点につき、所
論のような販売の観念を誤解した結果事実を誤認したあやまちがあるものというこ
とはできない。なお記録を精査してみても、原判示第一の事実につき所論のような
判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があることは発見できないから、論旨は理由が
ない。
 松井弁護人の控訴趣意第六点について。
 原判決が、たぼこ専売法第七五条第二項を適用して、被告人両名から本件違反に
かかる製造たばこの価額金百一万五千百八十円を各追徴していることは、所論のと
おりであつて、所論は、仮りに本件か原判示のような製造たぼこの無指定販売にあ
たるとしても、被告人Bからその価額を追徴するは格別、被告人Aから追徴するこ
とはできないものであるから、同人に対して追徴を言い渡した原判決は、この点に
つき、右たはこ専売法第七五条第二項の解釈、適用を誤つたものであり、その誤が
判決に影響を及ぼすことが明らかである旨主張するにより、考察するに、たばこ専
売法第七五条第一項中に、「同法第七一条の犯罪にかかる製造たばこは没収す
る。」旨の規定があり、同条第二項には、「前項の物件を他に譲り渡し、若しくは
消費したとき又は他にその物件の所有者かあつて没収することのできないときは、
その価額を追徴する。」と規定し、同法第七一条第五号には、「第二九条第二項又
は第六〇条第一項の規定に違反して、製造たばこ若しくは巻紙を販売し、又はこれ
らの販売の準備をした者」と規定していることは、いずれも所論のとおりであつ
て、被告人Bの原判示所為が、同法第七一条第五号所定の第二九条第二項に違反し
て製造たばこを販売した場合にあたることは、既に山口弁護人の控訴趣意に対する
判断において説示したとおりであるから、本件製造たばこは、正に同法第七五条第
一項所定の同法第七一条の犯罪にかかる製造たばこにあたるものというべく、該た
ばこが被告人Bの原判示所為によつて他に譲り渡され、没収することができないこ
とは、記録上明らかであるから、同法第七五条第二項によつてその価額を追徴すべ
きは、当然であるといわなければならない。所論は、本件において同法第七一条第
五号所定の第二九条第二項に違反して製造たばこを販売した者は、被告人Bであつ
て、被告人Aは、右第七一条第五号にいわゆる販売をした者でもなければ、販売の
準備をした者でもないから、同被告人からは追徴すべきでない旨主張するのである
が、しかし、原判決が証拠によつて確定した同被告人の原判示犯罪事実によれば、
同被告人は、被告人Bの原判示所為につき、従犯としての共同の刑事責任を負担す
べき地<要旨第二>位にあるのみならず、前掲たばこ専売法第七五条は、すでに説明
したように、犯則物件またはこれに代るべき価額が犯則者の手に存する
ことを禁止するとともに、国が、たばこの専売を独占し、もつて国の財政収入を確
保するため、とくに必要没収、必要追徴の規定を設け、反則の取締を厳に励行しよ
うとする趣旨であると解されることは、最高裁判所判例(昭和二九年(あ)第二六
五七号昭和三一年一二月二八日第二小法廷判決)の趣旨に照らして明らかであると
ころ、原判決挙示の証拠に徴するときは、被告人Bの本件違反にかかる多量の製造
たばこの無指定販売というような行為は、その目的物件を入手するにつき、指定小
売人たる被告人Aの原判示のような協力がなければ、最初から、到底これを企て得
られないような事情にあつたことが認められるのであつて、被告人Aが本件違反に
おいて果した役割は、極めて重要であつたというべく、検察官の起訴は、従犯であ
るけれども、実質的には、共同正犯に比すべき立場にあつたものと考えられるの
で、以上の諸点にかんがみるときは、本件違反にかかる物件については、被告人A
に対しても追徴の言渡をすることが、前示たばこ専売法第七五条第二項の立法趣旨
に合致するものといわなければならない。してみれば、原判決が、被告人両名に対
し右法条を適用して、各追徴の言渡をしたことは、適法であるというべく、原判決
には、この点につき、所論のような判決に影響を及ぼすべき法令の解釈適用に誤が
あるものということはできない。論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)

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