弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 第一、 当事者の求めた裁判
 一、 控訴代理人
 原判決を取り消す。
 被控訴人は控訴人に対し金三六七万五、〇〇〇円とこれに対する昭和三八年二月
一三日から支払いずみまで年六分の割合(予備的請求が理由ある場合は年五分の割
合)による金員を支払え。
 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 との判決と仮執行の宣言
 二、 被控訴組合代理人
 主文同旨の判決
 第二、 当事者の事実上の主張、証拠の提出、採用、認否
 次に記載するほかは、原判決の事実摘示と同一であるからここに引用する。
 (事実関係)
 一、 控訴代理人
 (一) 原判決二枚目表五行目から七行目にかけて、「原告は昭和三七年一月二
六日これを取立委任のため訴外貝塚信用金庫(後に阪南信用金庫と改称した。)へ
裏書譲渡した。」とあるのを、「控訴人は、昭和三七年一月二六日更にこれを訴外
貝塚信用金庫(後に阪南信用金庫と改称した。)で手形割引を受けた。」と訂正
し、同枚目表八行目から九行目にかけて、「前記関西製鉄株式会社から支払延期の
要請があつた」とあるのを、「前記関西製鉄株式会社から控訴人を介し支払延期の
要請があつた」と訂正する。
 (二) 別紙添付の本件保証書は、千代田信用組合と訴外三立商事株式会社との
間に成立したことは確かであるが、本件保証書を作成した千代田信用組合の意思
は、三立商事株式会社の割引き先である不特定の第三者に対しても保証する意思で
あつた。このことは本件保証書自体から明白である。すなわち、本件保証書の記載
からすると、三立商事株式会社以外の第三者が、本件保証書と本件手形を容易に対
比できるよう配慮されているとことからそういえるのである。
 (三) 本件保証書の記載形式からすると、本件手形(主債務)に随伴する保証
債務の存在を示し、かつ、その債務(主債務および保証債務)の移転方法として
は、本件手形と本件保証書の交付をもつて必要かつ十分なものと解されるわけであ
つて、これが、本件保証書のような民事保証の合理的意思解釈である。
 (四) 本件手形には支払場所として千代田信用組合の記載がある。このように
約束手形の振出人が金融機関を支払場所に指定した場合には、振出人はその金融機
関から資金を引き出してその手形金の支払いをする意思ではなく、専らその金融機
関に委託して支払いをする意思のみをもつて当該約束手形を振り出し、受取入およ
び被裏書人もその約束手形がそのようにして支払われるであろうことを認識してこ
れを授受するのは、今日の取引界の慣習である。
 この支払担当者である千代田信用組合が本件手形といわば一体をなす本件保証書
で、振出人と連帯して本件手形の支払いを保証したことは、みぎ慣習により本件手
形を取得した第三者に対しても、その支払いを保証したとしなければならない(大
判大正三年七月三日民録二〇輯五七八頁参照)。
 (五) 本件保証書が真実三立商事株式会社に対してのみ保証する意思で作成さ
れたのなら、その作成方法が余りにも特殊であり、そのため控訴人の様な不測の損
害を被る者が出るかも知れないことを千代田信用組合は認識すべきであつた。千代
田信用組合は、本件保証書作成の結果認識について金融機関としての過失があり、
その過失の結果控訴人は損害を被つたのであるから、千代田信用組合の不法行為責
任は免れない。本件において、同組合は、控訴人のような被害者の出ることを予め
認識していたといえる。
 (六) 本件手形の支払期日である昭和三七年六月二〇日振出人関西製鉄株式会
社から控訴人を介し、貝塚信用金庫に対し、支払延期の要請があつたので、同金庫
は一時この取立てを延期したが、その際、振出人、控訴人および同金庫間で、明示
的又は黙示的に、本件約束手形のその後の支払いも、やはり、本件約束手形の従来
の支払場所である千代田信用組合でする旨の特約が成立した。本件手形の現実の呈
示日は、昭和三八年二月一二日であるが、これが適法な呈示であることはみぎ特約
により明らかである。
 (七) 被控訴組合の消滅時効の仮定抗弁に対し、
 本件保証債務は、連帯保証であるから、連帯保証人たる被控訴組合に対する履行
の請求により、主たる債務者に対する請求としての効力を有し(民法四五八条四三
四条)、したがつて、基本債権たる手形債権の消滅時効は完成していない。
 二、 被控訴組合代理人
 (一) 本件手形が呈示されたのは昭和三八年二月一二日であるが、すでに支払
呈示期間を経過し、既に振出人と取引きの存在しない支払場所である千代田信用組
合に本件手形を呈示しても、振出人に対する適法な呈示にならない(最判昭和四二
年一一月八日民集三〇巻九号二三〇〇頁)。
 そうすると、本件手形は呈示がないばかりか、本件手形の振出人に対する関係で
は五年の時効により本件手形債権は消滅している。
 したがつて、仮に被控訴組合に控訴人主張の保証債務があるとしても、保証債務
の附従性により被控訴組合の保証債務も消滅した。
 (二) 本件手形を振出人に呈示しないで、本件訴で連帯保証人である被控訴組
合に対し、保証債務の履行を請求したところで、手形の呈示証券性に反し、提出人
に対する本件手形の請求としての効力は生じない。
 三、 原判決の事実の訂正
 原判決二枚目裏一行目、二行目、六枚目裏七行目に、いずれも協合組合とあるの
を、協同組合と、七枚目表一一行目から一二行目にかけて、「保証債権権」とある
のを、「保証債権」と、それぞれ訂正する。
 (証拠関係)
 一、 控訴代理人
 甲第四、五号証を提出、当審証人Aの証言を援用
 二、 被控訴組合代理人
 甲第一号証の一ないし四は、千代田信用組合の作成部分の成立を認めその余は不
知、同第二ないし第四号証の各成立を認め、同第五号証の成立は不知。
         理    由
 一、 当事者間に争いのない事実、本件約束手形振出の事情とその後の経過、別
紙添付の本件保証書発行の経緯などについての事実認定は、原判決の八枚目裏六行
目から一〇枚目表二行目までと同一であるから、ここに引用する(ただし、九枚目
表五行目に、「およびBの各印影が」とあるのを、「の印影が」と訂正)。
 二、 本件保証書による保証は、千代田信用組合が関西製鉄株式会社のため三立
商事株式会社に対してした民事保証であることは、前記認定のとおりであるとこ
ろ、被控訴組合は、千代田信用組合には保証能力がないと抗争するので判断する。
 本件保証をするに至つた事情は、前記認定事実からすると、関西製鉄株式会社
が、千代田信用組合に、金一、〇〇〇万円もの定期預金をしていたので、関西製鉄
株式会社の利益のため同会社が三立商事株式会社から融資を受けることを容易にす
るため、本件連帯保証をしたものである。
 ところで、関西製鉄株式会社と三立商事株式会社が千代田信用組合の組合員でな
かつたことは、控訴人が明らかに争わないから、自白したものとみなす。
 そうすると、千代田信用組合は、非組合員の預金を受け入れ、非組合員のため非
組合員に対し民事保証をしたことになる。
 <要旨>さて、中小企業等協同組合法による信用組合の権利能力は、同法九条の八
の制限の範囲内で、信用組合の定款によつて定まる(同法三三条一項一
号)。したがつて、信用組合は、定款所定の事業遂行のため必要な範囲内において
のみ、権利能力を有すると解するのが相当である。
 本件において、千代田信用組合の定款掲記の事業が、同法九条の八列記の事業と
同一であることは、成立に争いのない甲第三号証と弁論の全趣旨によつて認められ
るから、問題は、非組合員のためにした本件民事保証が、九条の八列記の事業の遂
行のため必要な範囲内であるといえるかどうかである。
 同法によつて設立された信用組合はその行う事業によつて組合員の経済的活動の
助成に直接奉仕し、そのことを通して組合員の相互扶助をはかることを目的として
いる(同法五条二項)。同法が、組合員の資格について同法八条四項に、事業の内
容について同法九条の八に、それぞれ制限規定をおいているのも、この目的を達成
するためである。したがつて、信用組合の行う事業は組合のため商行為となるわけ
ではなく(ただし、商法五〇一条四号の絶対的商行為をのぞく)、行政庁の厳格な
監督のもとにある(協同組合による金融事業に関する法律参照)。
 このことから、営利を目的とする会社の権利能力よりも、より狭く、厳格に解す
ることが是認される。
 本件で問題になる信用組合が、非組合員のため非組合員に対し民事保証をするこ
とは、特段の事情―保証にみあう多額の保証料を受領するとか、求償債権について
担保を確保しておくなど―のないかぎり、信用組合や組合員に、なんらの利益をも
たらさないばかりか、かえつて、保証債務を履行することによつて組合員が不利益
を受けるばかりか組合自体の経済的基礎を危くするもので、このことは、前述した
信用組合の目的に全く反するといわなければならない。
 本件において、前記特段の事情について控訴人は主張、立証しない。すなわち、
関西製鉄株式会社が千代田信用組合に金一、〇〇〇万円もの定期預金をしていたこ
と自体は、同会社が非組合員であつたからといつて、直ちに無効であるとはいえな
い。後にも述べるように、組合員以外の者からの預金の受入れは、それが適当かど
うかは別として、一金融機関として利益になつても不測の損害を被る虞れはないか
ら、強いてこれを目的達成のため不適当な行為とする必要はない。しかし、非組合
員がこのように多額の定期預金をしていたからといつて、非組合員が他の金融機関
などから融資を受けるに際し、信用組合が、その保証をするのは別論である。みぎ
定期預金の上に質権を設定するなどして、求償権を確保し、定期預金の元利金の範
囲内の保証をするならば、必ずしも目的達成のため不適当であるとはいえないかも
知れないが、本件ではこのような履行の確保の方策が講じられたとの主張がないわ
けである。千代田信用組合としては、このような方策を講じなくても、求償債権と
定期預金と相殺することによつて、求償権の履行が確保できると考えられないこと
はない。しかし、この定期預金は、いつ他の債権者から、差押転付などを受けるか
判らないし、相殺の担保的機能自体も、自働債権(本件では保証債務履行による求
償債権)と受働債権(本件では定期預金債権)の弁済期の前後によつて必ずしも万
全のものといえない(最判昭和三九年一二月二三日民集一八巻一〇号二二一七頁参
照)から、結局本件では、非組合員のため非組合員に対し保証することが是認でき
る特段の事情は認められないことに帰着する。
 そのうえ、本件の民事保証が、千代田信用組合の経済的基礎を確立するためにな
されたことの主張、立証もない(最判昭和三三年九月一八日民集一二巻一三号二〇
二七頁は、農業協同組合が、組合の経済的基礎を確立するために非組合員に資金の
貸付けをしたのを、組合の事業に附帯する事業の範囲内に属するとしたもので、本
件と事案を異にするといえる。)ばかりか、本件保証は、信用組合の「事業遂行の
ため不適当でない」場合にも当らないというより、むしろ、前述したとおり信用組
合や組合員の利益に反し不適当であると考える(最判昭和三五年七月二七日民集一
四巻一〇号一九一三頁は、信用組合が非組合から預金を受け入れた事案について、
「本件預金の受入契約自体が、組合本来の事業遂行に不適当なものであるとはいえ
ず、公序良俗に反するものと認められない」と判示した。預金の受入れによつて、
直接組合や、組合員は不利益を被るわけでないから、このことと、本件のような保
証とを同一に論ずるべきではない。)。
 そして、本件民事保証について、それをした役員に対し中小企業等協同組合法一
一五条第一号による罰則があることを理由に、行政監督の措置上、これを処罰する
ことにしたにとどまり、保証自体は適法であるとの解釈も採らない。そのわけは、
本件のような民事保証自体を、信用組合の事業の範囲外で無効であるとしてこそ、
前記信用組合の目的が達せられるのであつて、役員に対する処罰だけでこの目的は
達せられないからである。
 以上の理由で、本件民事保証は、千代田信用組合の事業遂行のため必要な範囲外
の行為として無効であるとするほかはない(最判昭和四一年四月二六日民集二〇巻
四号八四九頁参照)
 そうすると、本件民事保証が有効であることを前提にした控訴人の主張は、その
余の判断をするまでもなく失当である。
 三、 控訴人主張の予備的請求について。
 本件保証書(甲第二号証)による保証は、千代田信用組合が、関西製鉄株式会社
が振り出した約束手形(甲第一号証の一、二)の支払いのため、三立商事株式会社
に対して連帯保証することを約束したもので、この保証の無効であることは前述し
たとおりであり、そのため三立商事株式会社が損害を被ることはありえても、本件
保証書の名宛人でもない控訴人が、本件手形とともに、この保証書を入手したこと
により損害を被つたとしても、その損害と、千代田信用組合が本件保証をしたこと
とには、相当因果関係がないと解するのが相当である。そのわけは次のとおりであ
る。すなわち、
 本件保証が、仮に千代田信用組合の目的の範囲内であつて有効であるとしても、
この保証は単に三立商事株式会社に対してのみ有効であつて、これが控訴人に対し
てまで保証したことにはならない(何故ならば、当裁判所は、三立商事株式会社の
取得した本件保証債権を、他の第三者に譲渡するには、指名債権譲渡の方法によつ
てすることが必要であつて、本件手形と物理的に一体となつていない本件保証書
が、本件手形と、たまたま一緒に転転し、控訴人の入手するところとなつたからと
いつて、控訴人は、本件手形上の債権を取得することは格別、それだけで、本件保
証債権まで取得したことにはならないと解するもので、控訴人は、この点につい
て、甲第二号証の保証書の記載形式と本件手形の支払担当者の保証であることを理
由に、千代田信用組合の意思または慣習を根拠にして、指名債権譲渡の方法が不要
であると、るる主張しているが、この見解には賛成できない。たとえば、保証書に
名宛人の記載のない場合は、不特定の手形取得者に対する保証債務負担の申込を担
つて保証書が手形と共に転転し、最後に権利の実行をしようとする者がその承諾を
するという方法でこの権利を取得する結果、保証人が保証債務を負担することにな
る(控訴人が引用する大判大正三年七月三日はこの場合に関する)が、本件保証書
のように名宛人が三立商事株式会社と特定されている場合には、到底みぎのように
考えることはできないし、控訴人が主張するような慣習もたやすく肯認することは
できない。)から、控訴人は、千代田信用組合に対し本件保証債務の履行が求めら
れないのに、たまたま本件保証が、千代田信用組合の目的の範囲外の行為として無
効になると、これが不法行為となつて、控訴人に対し本件保証債務と同額の損害賠
償義務があるというのは、理屈に合わないことは明白である(保証が無効である方
が得をする。)。したがつて、このような不合理な結論をさけるためには、本件保
証が無効なことによつて損害を被るべき地位にある保証書の取得者は、指名債権譲
渡の方法によつて譲り受けた第三者その他千代田信用組合に保証債権の取得を適法
に主張できる者に限るべきであつて、控訴人のように、本件手形と共に本件保証書
をただ取得したにすぎず、千代田信用組合に保証債権の取得を適法に主張できない
者は、たとえ保証書を有効と信じた者であつても、除外するのが至当であり、この
ことは換言すると、控訴人が本件保証書が有効であると信じて取得したことにより
被つた損害と、千代田信用組合の無効な本件保証行為との間には相当因果関係がな
いということに尽きる。
 なお、控訴人は、本件保証が有効であることを前提に、るる千代田信用組合のC
又はBの注意義務を主張しているが、その前提においてすでに失当であるから採用
に由ない。
 したがつて、控訴人のこの主張は採用しない。
 四、 以上の次第で、控訴人の被控訴組合に対する本件請求は理由がないから、
控訴人の請求を棄却した原判決は結論として相当であつて、本件控訴は棄却を免れ
ない。
 そこで民訴法三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 宅間達彦 判事 長瀬清澄 判事 古崎慶長)

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