弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各特別抗告を棄却する。
         理    由
 本件特別抗告の理由は末尾添附の再抗告状記載のとおりである。
 抗告人等に対する食糧緊急措置令並物価統制令違反及び漁業法違反被告事件記録
によれば右被告事件の松山地方裁判所八幡浜支部(判事Aによる単独制裁判所)に
おける、昭和二三年二月二日、三日、四日及び同月一六日の公判期日に対する各公
判調書の作成が何れも遅延してをり殊に右二月一六日の公判調書が被告人等の忌避
申立をした同年五月七日には未だ作成されていなかつたことは所論のとおりである。
しかし、憲法三七条一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは偏頗や不公平のお
それのない組織と構成をもつ裁判所による裁判を意味するものであることは当裁判
所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法
廷判決、判決集二巻五号五一一頁、昭和二二年(れ)第一七一号、同二三年五月五
日大法廷判決、判決集二巻五号四四七頁等)。成る程公判調書の作成がなければ公
判手続の履践を証明し得ないことは所論のとおりであるが、裁判所の組織構成にお
いて公平を害する虞のないものであれば公判調書の作成がないとの一事でその裁判
所が公平な裁判所でないとはいえない、又公判調書の作成が裁判事務の都合により
遅れたとしても公判調書が作成された暁には「公判手続の履践の真実」が明らかに
されるのであるから本件において単に、調書の作成がおくれたというだけでは又は
調書の作成ができてないのに審理を進めたということだけでは偏頗のおそれのある
ものということはできない。調書が作成されていないため後に訊問する証人の訊問
に差し支えるというが、本件被告事件で証人訊問の行われたのは、昭和二三年二月
一六日の所論第一二回公判期日迄が主であつて、そのうち、第八回公判期日以前の
公判にはA判事は関与してをらず本件忌避申立において問題にされていないのであ
つて第九回乃至第一一回の三回の公判は、同年二月二日、三日、四日と三日間に亘
り連日行われたものであり、第一二回は、同月一六日であつて同日は証人B及び同
Cの二名を訊問しているけれども、前回とは大して日数が経つているわけでもない。
又同日以後は証人Dの不出頭のため公判期日は何れも変更されていて証人調は行わ
れず同年五月五日の第一五回公判期日に証人Eの訊問が行われただけである。以上
の如く、本件では証人は公判調書作成の有無に拘らず忌避申立ある迄は何等調書が
作成されていないから証人訊問に差し支えるとの異議の申し出がなされたこともな
く、次々に証人の申請がなされ、裁判所亦適当な証人申請は之を採用して証人訊問
が行われて来ていてこれ迄かかる異議を述べたことは抗告人も主張しないところで
ある。又証人Dの訊問は、所論公判調書が作成されていたか否かに拘らず同証人の
不出頭のため未だ行われていないのである、してみれば所論A判事は抗告人や弁護
人に対し所論公判調書の作成がないのに、証人訊問を余義なくする措置を採つたと
いうことはないのであつて、何等偏頗の虞あるものではない。又抗告人等は公判調
書に、証人の証言の一部が記載されずに或は、証言が歪曲されて記載されている、
と主張し又証人申請の理由が記載されていないと主張する。しかし公判調書は、供
述者の供述を速記するものではなくその要旨を記載するものであるから証人の証言
を一字一句余すところなく記載する必要はなく、又、供述者の用いた言葉とおりに
記載することを要するものでもない、供述者のその事件に関連性のある供述をその
趣旨を誤ることなく記載すれば足りるのである。又証人Fの証言が所論のように歪
曲して記載されたとの事実は抗告人提出の全証拠によつてもこれを認め得られない
のみならず、公判調書は裁判所書記官が作成するもので、裁判所書記官は、証人等
の口述の書取その他書類の作成又は変更に関して裁判官の命令を受けても裁判所書
記官において、もし其の作成又は変更を正当でないと認めるときは自己の意見を書
き添えることができるものであることは裁判所法六〇条四項の規定するところであ
る。即ち裁判所書記官はその良心に従い自ら正しいと認めるところに従い口述の書
取その他書類の作成をするものであつて、調書の内容に対しては、裁判所書記官が
その責任を負うものである。そして本件において裁判所書記官が裁判官から、口述
の書取その他書類の作成又は変更に関し命令を受けた事実は認められない。又、証
人申請の理由の如きは一々詳細に調書に記載するを要する事項ではないばかりでな
く、本件昭和二三年二月三日の公判調書には、証人Gの申請理由として「被告人兼
被告人会社代表者Hは本日証人として訊問したるI、Jの証言中真実に非ざる点あ
るを以つて、右事実を明確ならしむるため本日在廷せるGを証人として訊問ありた
しと述べたり」と記載されていて、証人I、Jの証言が偽である疑があるから、そ
のことを明確にするためG証人の訊問を求めるとの被告人、弁護人の証人申請の趣
旨は十分に表わされているのである。してみれば公判調書の内容を云々して係り裁
判官たるA判事に偏頗の虞ありとすることはできない。故にA判事により構成され
た本件松山地方裁判所八幡浜支部が偏頗や不公平の虞ある裁判官により構成された
裁判所であるとはいえない、従つて、被告人等の、忌避申立を理由なきものとした
原決定は抗告人等の公平な裁判所の裁判を受ける権利を害したものとはいえない。
次に抗告人等は、五月五日の公判廷で証人Eに対し、抗告人(被告人)Hが「証人
は果して良心的にFやKの取調べに当つたか」と訊問したところA判事は、この問
を制止し憲法が被告人に保障する証人訊問権を侵害したと主張するから按ずるに、
被告人の証人に対する正当な訊問を不当に抑制することは勿論右憲法の規定に反す
るものであるが、被告人のする如何なる訊問をも許さなければならないものではな
い、その事案の審理に必要ないか又は適切でないと認めえられる質問は裁判官にお
いて之を制止しても差支えはない。従つてA判事が被告人の所論の如き質問を制限
した事実があつたとしても、直ちに被告人の訊問権を不当に制限したものとはいえ
ない。次に抗告人等は昭和二三年五月五日の公判廷において、抗告人Hが同年二月
二日、三日、四日の公判調書記載内容につき意見を開陳する機会を与えられたいと
申し出たところA判事は「公判の進行について被告人の指図は受けない」といつて
公判調書の増減変更を拒んだと主張する。しかし、前記被告事件の昭和二三年五月
五日の公判調書、(同月一七日作成)によれば、被告人Hが証人Dの不出頭理由に
ついて、判事に質したところ判事は「証人Dの不出頭理由は書面が出ているから被
告人は弁護人を選任していることだから後に記録の閲覧謄写等により承知され度旨」
告げると同被告人は、更に判事に「不出頭理由につき重大関心を持つているからこ
の公開法廷で不出頭理由を聞かしていただきたい」と申し述べたところ判事は「訴
訟指揮は裁判所が行うものであるからこれに従わなければならない」と告げた旨記
載されているだけで同被告人が同年二月二日、三日、四日の各公判調書の内容の増
減の請求をし、これについて判事と同被告人との間に所論のような応酬があつたこ
とは記載されていないし、又抗告人等の申し立てた当初の判事忌避申立理由は勿論、
即時抗告理由としてもこの事実は主張されていないばかりでなく、右五月五日の公
判調書を別としても、他に各事実の存在を認め得る措信するに足る証拠はない。
 果して然らばA判事には何等偏頗の虞あることなく従つて同判事により構成され
た、松山地方裁判所八幡浜支部が組織構成において、偏頗や不公平の虞ある裁判所
であつたということはできない。
 従つて抗告人等の判事忌避申立を理由ないものとした原決定は何等憲法に違反す
るものではない。
 よつて、旧刑訴四六六条一項後段に則り、主文のとおり決定する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
  昭和二五年四月七日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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