弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役一〇月に、被告人Bを懲役四月に、被告人C、Dを各懲
役六月に処する。
     原判決添附目録記載物件中一ないし六八は被告人Aから、同六九ないし
九一は被告人Bから各没收する。
     第一審および原審の訴訟費用は被告人らの負担とする。
         理    由
 被告人ら四名の弁護人長崎祐三の上告趣意第一点について。
 憲法三二条は、すべて国民は憲法又は法律に定められた裁判所においてのみ裁判
を受ける権利を有し、裁判所以外の機関によつて裁判をされることはないことを保
障したものであることは、当裁判所判例の示すところである(昭和二三年(れ)第
五一二号、同二四年三月二三日大法廷判決、刑集三巻三号三五二頁)。されば原裁
判所が第一審裁判所の言い渡した無罪判決を事実誤認の理由により破棄し、自判し
て有罪判決を言い渡したことは、少しも憲法三二条に違反するところはないものと
いわなければならない。所論違憲の主張は理由がない。
 同第二点について。
 所論は単なる訴訟法違反の主張で、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人Cの弁護人長崎祐三の上告趣意について。
 下級審の無罪判決に対し検察官が上訴をなし、上訴審において更に審判して有罪
判決を言い渡しても、憲法三九条に違反するものでないことは、当裁判所判例(昭
和二四年新(れ)第二二号同二五年九月二七日大法廷判決、刑集四巻九号一八〇五
頁、昭和二四年(れ)第五九号同二五年一一月八日大法廷判決、刑集四巻一一号二
二一五頁)の示すところである。所論違憲の主張は理由がない。
 被告人B、同Aの弁護人栗林敏夫の上告趣意について。
 所論は判例違反をいうけれども、実質は単なる訴訟法違反、事実誤認を主張する
ものであつて(所論判例は本件に適切でない)、適法な上告理由とならない。
 職権で調査するに、原判決は漁船E丸を、原判示密輸出の犯行の用に供した物件
で、その犯行当時被告人らの占有に属したものであるとして旧関税法(昭和二九年
法律第六一号による改正前の関税法をいう。以下同じ。)八三条一項により没收す
る旨の言渡をしているのである。そして原判決挙示の証拠によれば、右漁船E丸は
被告人ら以外の第三者たるFの所有に属するものであることが明らかである。しか
し、旧関税法八三条一項により被告人以外の第三者の所有物を没收することは、同
法その他の法令において所有者たる第三者に対し、その所有物件の没收につき告知、
弁解、防禦の機会を与えるべき旨の規定を設けていないから、憲法三一条および二
九条に違反し許されないと解すべきことは、当裁判所の判例(昭和三〇年(あ)第
九九五号、同三七年一一月二八日大法廷判決)とするところである。
 従つて原判決が漁船E丸を旧関税法八三条一項により被告人らから没收する旨言
い渡したことは、憲法の右各条に違反するものといわねばならない。
 よつて刑訴四一〇条一項本文、四〇五条一号、四一三条但書により原判決を破棄
し被告事件につき更に判決する。
 原審の確定した事実に法律を適用すると、被告人A、同Bの原判示第一の密輸出
の所為は関税法附則一三項により従前の例によるものとされた旧関税法七六条一項
に、被告人C、Dの原判示第二の密輸貨物運搬の所為は同法七六条の二第一項に各
該当するので、所定刑中各懲役刑を選択し、その刑期の範囲で、被告人らをそれぞ
れ主文第二項掲記の刑に処し、原判決添附目録記載物件中一ないし六八は被告人A
の所有に、同六九ないし九一は被告人Bの所有に属し、いずれも原判示第一の密輸
出の罪に係る貨物であるから、同法八三条一項により主文第三項記載のとおり没收
することとし、訴訟費用につき刑訴一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判
決する。
 この判決は、裁判官下飯坂潤夫、同高木常七、同石坂修一、同山田作之助の反対
または少数意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官下飯坂潤夫の反対意見は、次のとおりである。
 わたくしは、第三者所有物の没收を違憲とする多数意見に賛成しえない。その理
由は、昭和三〇年(あ)第二九六一号、同三七年一一月二八日言渡大法廷判決にお
けるわたくしの反対意見と同趣旨であるから、これを引用する。
 裁判官高木常七の少数意見は、次のとおりである。
 わたくしは、第三者所有物の没收を違憲とする多数意見に賛同しえない。その理
由は、昭和二八年(あ)第三〇二六号、同三五年一〇月一九日大法廷判決(刑集一
四巻一二号一五七四頁)におけるわたくしの補足意見と同趣旨であるから、これを
引用する。
 裁判官石坂修一の反対意見は、次の通りである。
 本件に関する多数意見に反対する理由は、わたくしが先に昭和三〇年(あ)第二
九六一号、同三七年一一月二八日言渡の大法廷判決に示した反対意見につきて居る
から、これを引用する。
 裁判官山田作之助の少数意見は、次のとおりである。
 没收の点に関するわたくしの意見は、昭和三〇年(あ)第二九六一号、同三七年
一一月二八日言渡大法廷判決におけるわたくしの少数意見と同趣旨であるから、こ
れを引用する。
 検察官 村上朝一公判出席
  昭和三七年一二月一二日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    高   木   常   七
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊

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