弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,Aに対し,82万円及びこれに対する平成25年3月7日(訴状送
達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
第2事案の概要
本件は,大阪市の住民である原告らが,大阪市長であるA(以下「A市長」
という。)は平成24年12月16日に施行された衆議院議員総選挙(以下「本
件総選挙」という。)のために政党「Bの会」の代表代行として全国で遊説活
動を行い,大阪市長としてなすべき事務に従事せず(誠実管理執行義務違反),
また,A市長のかかる活動は政治的中立性を確保するための組織的活動の制限
に関する条例(平成24年大阪市条例第77号。以下「政治中立条例」という。)
に違反する(政治中立義務違反)などとして,A市長に対し支給された平成2
4年12月分の給料の全額82万円について,不当利得返還請求ないし損害賠
償請求(利息ないし遅延損害金の請求を含む。)の義務付けを求める住民訴訟
である。
1法令等の定め
(1)地方自治法(ただし,平成26年法律第76号による改正前のもの。以下
同様。)の定め
ア普通地方公共団体の執行機関は,当該普通地方公共団体の条例,予算そ
の他の議会の議決に基づく事務及び法令,規則その他の規程に基づく当該
普通地方公共団体の事務を,自らの判断と責任において,誠実に管理し及
び執行する義務を負う(以下「誠実管理執行義務」という。138条の2)。
イ普通地方公共団体は,普通地方公共団体の長に対し,給料及び旅費を支
給しなければならない(204条1項)。
ウ給料,手当及び旅費の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなけ
ればならない(204条3項)。
(2)特別職の職員の給与に関する条例(昭和26年大阪市条例第9号。以下「特
別職給与条例」という。乙11)の定め
ア特別職給与条例は,他の条例に特別の定めがあるものを除くほか,市長
(1号),副市長(2号),識見を有する者のうちから選任された常勤の
監査委員(3号),常勤の人事委員会委員(4号),地方公営企業の管理
者(5号)及び特別職の秘書の職の指定等に関する条例(平成24年大阪
市条例第1号)2条の市長の秘書の職を占める職員(6号)の給与に関す
る事項を定めるものとする(1条)。
イ市長(1条1号)を含む上記ア記載の大阪市職員に対しては,給料を支
給する(2条1項)。
ウ特別職給与条例に基づく給与の支給に関しては,同条例2条ないし4条
に定めるもののほか,職員の給与に関する条例(昭和31年大阪市条例第
29号。以下「職員給与条例」という。)及び職員の退職手当に関する条
例(昭和24年大阪市条例第3号)の規定を準用する(5条)。
(3)職員給与条例(乙12)の定め
ア職員給与条例は,地方公務員法(ただし,平成26年法律第34号によ
る改正前のもの)24条6項の規定に基づき,職員の給与に関する事項を
定めることを目的とする(1条)。
イ職員が所定の勤務日又は勤務時間中に勤務しないときは,その勤務しな
いことにつき任命権者の承認があった場合を除く外,その勤務しない1日
又は1時間につき,勤務1日又は1時間当たりの給料額をその者に支給す
べき給料の額から減額する(8条1項)。
ウ上記イ(8条1項)に規定する勤務1日当たりの給料額は,給料の月額
をその月の現日数から勤務を要しない日の日数を差し引いた日数で除した
額とする(9条1項)。
エ上記イ(8条1項)に規定する勤務1時間当たりの給料額は,給料の月
額を1週間当たりの勤務時間に12分の52を乗じたもので除した額とす
る(9条2項)。
(4)給料等の支給に関する規則(昭和56年大阪市規則第29号。以下「規則」
という。乙13)の定め
職員給与条例8条1項の規定により減額すべき給料の額は,減額すべき事
由のあった日の属する月又はその翌月の給料から差し引く(8条1項)。
2前提事実(当事者間に争いがないか,各項掲記の証拠等により容易に認めら
れる事実等)
(1)当事者等
ア原告らは,いずれも大阪市の住民である。
イ被告は,大阪市の市長(執行機関)である。
ウA市長は,平成24年11月及び同年12月当時,大阪市長であった者
である。
(2)アA市長は,平成24年11月17日,政党「Bの会」の代表代行に就任
した。
イ平成24年12月16日,衆議院議員総選挙(本件総選挙)が施行され
た。
(3)給料支給
ア大阪市長に対し,平成24年11月分及び同年12月分として支給され
るべき給料額は,月額82万円であった(甲13)。
イ大阪市は,平成24年11月16日,A市長に対し,同月分の給料とし
て82万円を支給した。
ウ大阪市は,平成24年12月17日,A市長に対し,同月分の給料とし
て82万円を支給した。
(4)監査請求等
ア原告らは,平成24年12月3日,大阪市監査委員に対し,A市長が同
年11月17日にBの会代表代行に就任以来,大阪市の公務に従事せず,
本件総選挙のために全国遊説をし,Bの会代表代行の任務に専念している
ことは地方自治法138条2項等に違反するものであり,また,政治中立
条例2条に抵触するものであって,同日以降にA市長に対して支給された
給料等は違法不当な公金の支出に当たり,これにより大阪市は損害を被っ
ているとして,A市長に対する給料等の返還請求及び今後の同様の支出の
差止めなど必要な措置を講ずるよう勧告することを求める住民監査請求を
した(以下「本件監査請求」という。甲1)。
イ大阪市監査委員は,平成25年1月17日,本件監査請求は地方自治法
242条の要件を満たさないから住民監査請求の対象とならないとして,
本件監査請求を却下し,その頃,その旨を原告らに通知した(なお,上記
ア記載の本件監査請求の内容にかんがみると,本件監査請求は同法242
条の要件を満たす適法な監査請求であったと認められる。)(甲1,18,
弁論の全趣旨)。
(5)本件訴えの提起
原告らは,平成25年2月15日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3原告ら主張の財務会計行為の内容
(1)違法な支出負担行為に係る当該職員に対する損害賠償請求の義務付け請

支出負担行為としての平成24年12月分の給料82万円の全額支給決定
(以下「本件支出決定」という。)は,地方自治法204条1項及び特別職
給与条例が準用する職員給与条例8条1項等に違反する違法な公金の支出で
あるところ,A市長は本件支出決定をした専決権者に対する指揮監督を怠り,
これにより同月分の給料から減額されるべきであった82万円の損害を大阪
市に与えたものであり,執行機関である被告に対し,当該職員であるA市長
に対する,上記82万円及びこれに対する上記公金支出日の後である平成2
5年3月7日(訴状送達の日)から支払済みまでの民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の請求の義務付け(地方自治法242条の2第1項4号本
文)を求める。
(2)損害賠償請求を怠る事実に係る相手方に対する損害賠償請求の義務付け
請求
A市長が誠実管理執行義務(地方自治法138条の2)に違反し,政治中
立条例に違反する違法な政治活動のために大阪市の事務に従事せず,その事
務を停滞させ,また,違法な政治活動により大阪市の政治的中立性に対する
信頼を損なわせ,少なくとも82万円の損害を大阪市に与えたものであって,
大阪市はA市長に対する債務不履行ないし不法行為に基づく上記82万円の
損害賠償請求権を取得しているにもかかわらず,その行使を違法に怠ってい
るから,執行機関である被告に対し,同損害賠償請求権に基づき,その相手
方であるA市長に対する82万円及びこれに対する債務不履行ないし不法行
為の日の後である平成25年3月7日(訴状送達の日)から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求の義務付け(地方自治法24
2条の2第1項4号本文)を求める。
(3)不当利得返還請求を怠る事実に係る相手方に対する不当利得返還請求の
義務付け請求
A市長に対する平成24年12月分の給料支給は違法な公金の支出であっ
て法律上の原因がないところ,大阪市はA市長に対する同月分の給料82万
円の不当利得返還請求権を取得しているにもかかわらず,その行使を違法に
怠っているから,執行機関である被告に対し,同不当利得返還請求権に基づ
き,その相手方であるA市長に対する82万円及びこれに対する平成25年
3月7日(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
利息の請求の義務付け(地方自治法242条の2第1項4号本文)を求める。
4争点及び争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件支出決定の違法性(上記3(1)関係))
(原告らの主張)
ア職員給与条例8条1項違反
(ア)職員給与条例8条1項は,ノーワークノーペイの原則を具体化してい
るものであるところ,同項は,特別職給与条例5条により特別職である
市長にも準用されており,市長についてもノーワークノーペイの原則が
妥当することを規定している。
被告は,市長の勤務と給料との間に具体的な対価性がなく,職員給与
条例8条1項は,市長に準用されないと主張するが,それを裏付ける条
文上の根拠はないし,地方自治法204条は,給料等について普通地方
公共団体の長と一般職員とを同列に規定していることからすると,市長
の給料も一般職員と同じように一定の役務の対価という性質を有するも
のといえる。また,被告は,市長の給料が市長という地位そのものに対
する対価ないし報酬として支給されるものである旨主張するが,これを
貫けば一切市役所に登庁することなく,もっぱら全ての時間を私的に費
やしたとしても満額の給料が支給されることになって不合理である。
(イ)A市長は,下記イ(ア)のとおり,26日間にわたって職務に従事して
いなかったのであるから,職員給与条例8条1項,規則8条1項により
その平成24年12月分の給料を減額して支給しなければならなかった
ところ,本件支出決定は,全額を支給する決定をするものであるから同
条例8条1項に違反して違法である。
イ誠実管理執行義務違反及び政治中立義務違反
(ア)誠実管理執行義務違反
aA市長は,平成24年11月17日にBの会代表代行に就任してか
ら本件総選挙が施行された翌日である同年12月17日までの間(以
下「本件期間」という。),全国各地での街頭演説等を含む本件総選挙
のための政治的活動(以下「本件政治活動」という。)に専念しており,
26日間にわたり「公務日程なし」となるなど,大阪市は,本件期間
中,市長としての公務日程を組むことができない状態であった。
被告は,大阪市ホームページの市長日程における「公務日程なし」
とは,大阪市役所庁舎等における会議,打合せや行事等の日程が設定
されていなかったということを意味するものに過ぎず,A市長がおよ
そ市長としての職務に従事していなかったということを意味するもの
ではないと主張するが,市役所への登庁,職員らとの会議や打合せは,
市長としての本来業務であり,違法な本件政治活動のために市長とし
ての職務を放棄していたことは明らかである。また,被告は,電子メ
ール等による指示によって,市長としての職務を執行していたとも主
張するが,地方公共団体の首長が相当期間,公務日程を全く組めなく
なるまで本来の首長の職務と異なる政治活動に専念している場合に,
公務日程のない期間中,電子メール等という通信手段があるだけで職
務執行があったとはいえないし,実際に,本件期間中にA市長が発信
したメールは9通に過ぎない上,その内容も会議や打合せの代替とい
えるものではない。
b以上のとおり,A市長は,本件期間中職務に従事していたとはいえ
ず,誠実管理執行義務(地方自治法138条の2)を果たしていたと
は到底いえない。
(イ)政治中立義務違反
a政治中立条例は,市長についても一般職と同様に,政治的活動を広
く禁止し,もって,大阪市の公務の遂行における政治的中立性の確保
を強く期待する趣旨のものである。そして,同条例2条は,市長が公
職の選挙において特定の人を支持するために「職務上の組織若しくは
権限又は影響力を用いているのではないかとの市民の疑惑や不信を招
くような行為」を「職務として」行うことを禁止しているところ,厳
密な意味においての「職務として」の行為は,必ず,職務上の組織若
しくは権限又は影響力を用いることとなるから,同条例が上記の趣旨
の下,わざわざ疑わしい行為まで規制対象としていることからすると,
「職務として」の要件も「職務として行われているように見える」職
務外の行為を含むものと解するのが相当である。
bA市長は,本件期間中,本件政治活動を行っており,その中で,自
らが大阪市長であることを繰り返し述べ,その実績を誇示し,また,
大阪市政が副市長以下の支えの下で執り行われていることを認めてい
ることからすると,本件政治活動のために職務上の組織若しくは権限
又は影響力を用いているのではないかとの市民の疑惑や不信を招いた
ことは当然であるし,大阪市を代表し統括する立場にあるという組織
内の影響力を行使して,部下らをフル稼働させ,その結果,大阪市に
組織として本件政治活動を支えさせたものであるから,本件政治活動
は職務としてなされた行為と評価できる。なお,被告は,本件政治活
動はBの会代表代行として行われたものであると主張するが,市長と
しての活動とBの会代表代行としての活動を峻別することはできない。
cしたがって,A市長が行った本件政治活動は,政治中立義務(政治
中立条例2条)に違反するものである。
(ウ)A市長は,本件期間中,地方自治法138条の2の定める誠実管理執
行義務に違反し,政治中立条例2条の定める政治中立義務に違反する本
件政治活動のために,本来なすべき職務をしていなかったのであるから,
A市長に対する本件期間に対応する給料の支給決定(本件支出決定)は,
違法である。
(被告の主張)
ア職員給与条例8条1項違反について
(ア)特別職である市長の執務内容は広範,多岐にわたり,また勤務の具体
的形態も千差万別であって,市長のいかなる行為がその勤務といえるか
どうかについての客観的な判断基準が見出し難く,それゆえ,大阪市に
おいても,市長について,勤務時間,休日,超過勤務手当等に関し特段
の定めはない。また,地方自治法上も普通地方公共団体の長の兼職を特
定の場合に限定して禁止するのみであって,一般的には禁じておらず(同
法141条,142条参照),地方公務員法上も,一般職の職員には課せ
られている職務専念義務が課されていない(同法35条参照)。このよう
な市長の職務の特殊性からすれば,市長に支給される給料は,具体的な
職務の対価というよりも,むしろ,その職務を自らの判断と責任におい
て,誠実に管理執行する義務(誠実管理執行義務)を負うことを前提と
して,実質的には市長という地位そのものに対する対価ないし報酬とし
て支払われているものと解すべきである。
(イ)原告らは,市長にも職員給与条例8条1項が準用されると主張するが,
同項は,ノーワークノーペイの原則を具体化したものであるところ,ノ
ーワークノーペイの原則が適用されるためには,前提として勤務と給料
との間に具体的な対価性が必要となる。しかしながら,上記(ア)記載のと
おり,市長に支給される給料は勤務との具体的な対価性がないから,同
項の規定は準用されない。
(ウ)したがって,本件支出決定が,職員給与条例8条1項に違反して違法
であるとの原告らの主張には理由がない。
イ誠実管理執行義務違反及び政治中立義務違反について
(ア)誠実管理執行義務違反について
a誠実管理執行義務(地方自治法138条の2)とは,自らの判断と
責任において当該地方公共団体の事務を管理・執行し,当該事務を停
滞させないという義務である。
b原告らは,A市長が本件期間中,職務に従事していなかったと主張
し,その根拠として大阪市ホームページの「市長日程」に「公務日程
なし」と記載されていることを指摘するが,ここでいう「公務日程な
し」とは,大阪市役所庁舎内等における会議,打合せや行事等の日程
が設定されていなかったことを意味するに過ぎず,A市長がおよそ市
長としての職務に従事していなかったということを意味するものでは
ない。これらが設定されていない場合においても,A市長に対し説明
や報告等が必要な事項が生じれば,随時電話やメール等により説明や
報告等を行うことは当然であり,A市長からも随時必要な指示がされ
ていた。したがって,A市長が,大阪市の事務の停滞を招いたという
事実はなく,誠実管理執行義務に違反するものではない。
(イ)政治中立義務違反について
aA市長は,Bの会という政党の代表代行として本件政治活動を行っ
たに過ぎないから,本件政治活動が普通地方公共団体の長の職務に該
当しないことは明らかであり,政治中立条例2条に違反するものでは
ない。
b原告らは,「職務として」の要件には「職務として行われているよう
に見える」職務外の行為を含む旨主張するが,公職の選挙により選ば
れた市長を含む特別職の公務員については,地方公務員法36条の適
用がなく,政治活動を行うことについて,原則として制限を受けない
ものであるところ,政治中立条例は,法令上認められた政治活動の自
由に配慮しつつ,職務上の組織若しくは権限等を用いて政治的行為で
あると疑われるおそれのある行為を「職務として」行うことを,その
ような行為が市民に及ぼす影響力の大きさに鑑み,特に制限している
ものであって,「職務として行われているように見える」職務外の行為
を含むものと解することはできない。
(ウ)以上のとおり,A市長に誠実管理執行義務違反及び政治中立義務違反
は存しないから,それを前提として本件支出決定が違法であるという原
告らの主張には理由がない。
(2)争点2(本件支出決定に対するA市長の責任及び損害(上記3(1)関係))
(原告らの主張)
ア上記(1)(原告らの主張)のとおり,本件支出決定は違法であるところ,
A市長は,専決権者がした違法な本件支出決定を阻止すべき指揮監督上の
義務があったにもかかわらず,故意又は過失によりこれを阻止しなかった
ものであり,違法な本件支出決定により大阪市に生じた損害について賠償
責任を負う。
イ違法な本件支出決定により大阪市が被った損害は,減額されるべきであ
った平成24年12月分の給料相当額である82万円である。そうでなく
とも,少なくともA市長が職務に従事しなかった26日間の給料相当額6
9万6558円が損害である。
(被告の主張)
否認ないし争う。
(3)争点3(違法な怠る事実の有無(上記3(2)(3)関係))
(原告らの主張)
ア債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求権について
上記(1)(原告らの主張)イのとおり,A市長は,誠実管理執行義務に違
反し,政治中立条例2条の定める政治中立義務に違反する違法な本件政治
活動のために約1か月間にわたり大阪市の事務に従事せず,大阪市の事務
を停滞させ,また,違法な本件政治活動により,大阪市行政の政治的中立
性に対する信頼を損なわせ,大阪市に多大な損害を与えたものであり,そ
の損害額は,本件期間に対応する給料相当額82万円を下回らない。した
がって,大阪市は,A市長に対し,債務不履行ないし不法行為に基づく上
記給料相当額82万円の損害賠償請求権を有しているところ,被告は同損
害賠償請求権の行使を違法に怠っている。
イ不当利得返還請求権について
A市長は,大阪市から,平成24年12月分の給料として82万円の支
給を受けているところ,上記(1)(原告らの主張)のとおり,A市長に対す
る同月分の給料の支給は違法であるから,法律上の原因がない。したがっ
て,大阪市は,A市長に対し,同月分の給料82万円の不当利得返還請求
権を有しているところ,被告は同不当利得返還請求権の行使を違法に怠っ
ている。
(被告の主張)
ア債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求権について
上記(1)(被告の主張)イのとおり,A市長に誠実管理執行義務違反や政
治中立条例2条の定める政治中立義務違反はないし,A市長が82万円の
損害を大阪市に与えたという事実はないから,損害賠償請求権が存在する
という原告らの主張はその前提を欠くものである。
イ不当利得返還請求権について
上記(1)(被告の主張)のとおり,違法な公金の支出は存在せず,大阪市
がA市長に支給した平成24年12月分の給料は法律上の原因が存したこ
とが明らかであり,不当利得返還請求権が存在するという原告らの主張は
その前提を欠くものである。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。なお,この項における日時の記載は,いずれも平成24年のものである。
(1)本件期間31日間のうち,大阪市ホームページの「市長日程」において,
「公務日程なし」と記載されている日は,以下の26日間である(甲3,2
0,21)。
11月17日(土),18日(日),19日(月),21日(水),23日(金),
24日(土),25日(日),26日(月),27日(火),28日(水)
12月1日(土),2日(日),3日(月),4日(火),5日(水),6日(木),
7日(金),8日(土),9日(日),11日(火),12日(水),1
3日(木),14日(金),15日(土),16日(日),17日(月)
(2)当初12月14日が会期末とされていた大阪市議会は,11月20日を
もって閉会した(甲15,17)。
(3)A市長は,本件期間中,以下の日程・場所において,街頭演説・タウン
ミーティングを行った(甲4ないし12,41ないし47,弁論の全趣旨)
ア11月19日(月)
13時00分∼14時00分JR高槻駅前
15時00分∼16時00分阪急茨木駅西口
16時30分∼17時30分JR吹田(ロータリー北側)
18時30分∼なんば高島屋前
イ11月20日(火)
18時00分∼19時00分大阪府枚方市
ウ11月21日(水)
12時15分∼13時15分大阪府寝屋川市
14時10分∼15時10分大阪府東大阪市
15時40分∼16時40分大阪府八尾市
18時00分∼19時00分大阪府富田林市
19時00分∼大阪府松原市
エ11月24日(土)
10時30分∼11時30分徳島県徳島市
13時00分∼14時00分香川県高松市
15時45分∼16時15分愛媛県今治市
16時30分∼18時00分愛媛県松山市
オ11月25日(日)
10時00分∼11時00分愛媛県大洲市
11時30分∼12時30分愛媛県宇和島市
15時30分∼16時30分高知県高知市
カ11月26日(月)
19時30分∼福島県会津若松市
キ11月27日(火)
9時30分∼10時30分福島県飯盛山市
11時30分∼12時30分山形県米沢市
13時00分∼14時00分福島県福島市
14時00分∼15時30分宮城県仙台市
ク11月28日(水)青森県青森市
ケ12月1日(土)
9時00分∼10時00分新潟県新潟市
10時00分∼11時00分新潟県三条市
11時00分∼12時30分新潟県長岡市
16時30分∼富山県富山市
コ12月2日(日)
11時00分∼12時00分石川県金沢市
14時30分∼15時30分福井県福井市
16時30分∼17時30分福井県敦賀市
サ12月6日(木)埼玉県さいたま市
シ12月9日(日)東京都千代田区
ス12月12日(水)鹿児島県鹿児島市
(4)本件期間中,A市長から職員等に向けて送信されたメールの日時は,以
下のとおりである。ただし,「転送」と記載したものについては,基本的に
は他の職員等にメールを転送したのみのものである。(乙16,17,19
ないし22,24ないし26)
ア11月20日(火)
9時01分転送
10時00分転送(ただし,「職員からの貴重な意見です。参考まで。」
との記載あり。)
イ11月26日(月)
(ア)7時42分(7時43分同内容転送)
(イ)12時32分(12時33分同内容転送)
ウ11月29日(木)
(ア)19時34分
(イ)19時45分
エ12月1日(土)
(ア)8時15分(8時16分同内容転送)
(イ)8時33分(8時34分同内容転送)
(ウ)18時11分(18時12分同内容転送)
2争点1(本件支出決定の違法性(第2,3(1)関係))について
(1)職員給与条例8条1項違反について
ア原告らは,特別職給与条例5条により市長の給料の支給に関して職員給
与条例8条1項が準用されると主張するので,以下この点について検討す
る。
特別職給与条例5条は,同条例に基づく給与の支給に関しては,同条例
2条ないし4条に定めるもののほか,職員給与条例の規定を準用する旨定
めており,準用にあたっての特段の読替え規定や除外規定をおいていない
ことからすれば,これを文言どおり解釈すると,市長の給与の支給につい
て,同条例8条1項が準用されるものと解する余地もあろう。
もっとも,地方公務員法は,地方公務員を一般職と特別職に分けた上で
(3条1項),法律に特別の定めがある場合を除く外,特別職に属する地方
公務員には適用されない旨規定し(4条2項),特別職については,同法の
適用を原則として排除している。このように特別職に対する同法の適用を
排除した趣旨は,①特別職の職務の内容,任用方法は多様であり,②特
別職である地方公共団体の長について地方自治法上も兼職が一般的には禁
止されていない(同法141条,142条参照)など,特別職の地位の特
殊性に照らし,その身分取扱いを統一的に規律することが困難であるばか
りでなく,職業的公務員である一般職の身分取扱いにはなじまないと考え
られていることにあると解される。このように地方公務員法は,特別職の
地位の特殊性を考慮し,特別職に対する適用を排除しており,特別職給与
条例も,そのような特別職の地位の特殊性を踏まえて制定されたものであ
ると解されることなどからすると,同条例5条の規定は,特別職の職員の
給与の支給に関し,職員給与条例をすべて機械的に準用する趣旨の規定と
みるべきではなく,当該特別職の地位の特殊性及びこれに伴う給与等に関
する制度と整合する範囲で準用する趣旨の規定と解するのが相当である。
イ上記を踏まえ,特別職である市長の地位の特殊性等にかんがみ,市長の
給料の支給に関し,職員給与条例8条1項が準用されるか否か検討する。
(ア)職員給与条例8条1項は,「職員が所定の勤務日又は勤務時間中に勤
務しないときは,その勤務しないことにつき任命権者の承認があつた場
合を除く外,その勤務しない1日又は1時間につき,勤務1日又は1時
間当りの給料額をその者に支給すべき給料の額から減額する。」と定め
ているところ,この趣旨は,職員(一般職)が所定の勤務を欠いた場合
に給料を減額することを定めるものであり,勤務の裏付けのない給料は
原則として認められるべきではないとするノーワークノーペイの原則を
具体化したものと解される。
このノーワークノーペイの原則は,国家公務員法2条に規定する一般
職に属する職員の給与に関する事項を定めることを目的とする(一般職
の職員の給与に関する法律(以下「給与法」という。)1条1項)給与
法15条においても具体化されているところ,同条は,従来,公務員の
給料は勤務に対する対価というようなものではなく,いわばその体面を
維持するための給付として観念され,正規の勤務時間の制度もなく,忠
実無定量の勤務義務を負うものとされていたため,同条のような減額の
規定は定められていなかったが,昭和22年に労働基準法が施行される
にあたり,公務員にも労働時間制度と所定労働時間を超えた場合の超過
勤務手当等の制度が確立されたことになり,それと裏腹をなすものとし
て制定された減額規定と解される。
(イ)職員給与条例について見ると,同条例は,8条1項で給料の減額規定
を定めるとともに,所定の勤務時間以外の時間に勤務することを命ぜら
れて勤務した職員には,超過勤務手当を支給する旨を(15条1項),
所定の勤務時間として午後10時から翌日午前5時までの間に勤務した
職員には,夜間勤務手当を支給する旨を(16条)それぞれ規定してい
る。このことからすれば,同条例8条1項の減額規定も,給与法15条
と同様に,勤務時間が定められ,それらに応じた超過勤務手当等が認め
られていることの裏返しとして,所定の勤務時間に勤務しない場合には
給料を減額することを定めたものと解すべきであり,勤務と給料との間
に具体的な対価性があることを前提とした規定であると解するのが相当
である。
(ウ)そこで,市長の勤務と給料との間にも具体的な対価性があるといえる
かについてみるに,特別職給与条例上,市長について,勤務時間や超過
勤務手当等を定めた規定はない。また,地方自治法は,普通地方公共団
体の長の兼職を一般的には禁じておらず(同法141条,142条参照),
市長について職務専念義務を定めた規定(地方公務員法4条,35条参
照)もない。そして,市長の勤務は,広範・多岐にわたるもので,その
勤務の具体的形態も千差万別であって,その外延を画するのも困難とい
える。
このような市長の職務の特殊性からすると,市長に対する給料は,具
体的な勤務の対価として支給されるものとはいえず,むしろ,市長とい
う地位そのものに対する対価ないし報酬として支給されるものと解され
る。そうすると,勤務と給料との間の対価性を前提とし,その所定の勤
務日や勤務時間が明確である職員(一般職)についての1日又は1時間
当たりの給料額の減額に関する規定である職員給与条例8条1項の規定
は,市長の給料に関しては準用されないと解するのが相当である。
(エ)原告らは,市長の給料が市長という地位そのものに対する対価ないし
報酬ということを貫けば,一切市役所に登庁することなく,もっぱら全
ての時間を私的に費やしたとしても満額の給料が支給されることとなっ
て不合理である旨主張する。しかしながら,普通地方公共団体の長は,
選挙によって選ばれるものであり(地方自治法17条),また,選挙権を
有するものは,普通地方公共団体の長の解職請求をすることができるも
のとされていること(同法81条)に照らせば,当該普通地方公共団体
の事務を,自らの判断と責任において,誠実に管理し及び執行する義務
(誠実管理執行義務)を負う普通地方公共団体の長(同法138条の2)
が,かかる当該普通地方公共団体の事務を一切行わないなどその負って
いる誠実管理執行義務に反するような行動に出た場合には,これにより
当該普通地方公共団体に損害を与えたのであれば,その賠償の責を負う
べきこととなるとともに,上記のような当該普通地方公共団体の長の行
動の是非は,その在職期間中の解職請求や,あるいは,選挙を通じて,
有権者である住民の判断に委ねられているものといえる。そうであると
すれば,上記説示のとおり,ノーワークノーペイの原則が適用されるも
のとは解されない市長について,原告ら指摘の点を勘案しても,職員給
与条例8条1項が準用されるものと解することはできないものというほ
かない。
ウ以上のとおり,市長の給料の支給に関し,職員給与条例8条1項は準用
されないから,本件支出決定が同条例8条1項に違反するという原告らの
主張は理由がない。
(2)誠実管理執行義務違反及び政治中立義務違反について
原告らは,A市長は,誠実管理執行義務に違反するとともに,政治中立条
例2条の定める政治中立義務に違反する本件政治活動をなし,あるいは,そ
のような活動のために本来なすべき職務をしていなかったから,その期間に
対応する給料を支給することは違法である旨主張するが,地方自治法204
条1項及び3項を受けた特別職給与条例2条は,市長に対して給料を支給す
る旨を定めており,上記(1)のとおり,職員給与条例8条1項は準用されず,
そのほか法令や条例において減額を根拠付ける規定も存しない以上,原告ら
の主張するような義務違反が存したとしても,給料を減額することはできな
いものと解される。したがって,A市長に対して平成24年12月分の給料
の全額を支給することとした本件支出決定が違法とは認められない。
3争点3(違法な怠る事実の有無(第2,3(2)(3)関係))について
(1)債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求権の有無
ア政治中立義務違反について
(ア)原告らは,本件政治活動が政治中立条例2条の定める政治中立義務に
違反すると主張する。しかしながら,同条は,市長が「公職選挙法(昭
和25年法律第100号)第3条に規定する公職の選挙において特定の
人を支持し,又はこれに反対するために職務上の組織若しくは権限又は
影響力を用いているのではないかとの市民の疑惑や不信を招くような行
為」を「職務として」行うことを禁止しているところ,A市長は,Bの
会代表代行であり,そのような立場にあるA市長が本件期間中に選挙候
補者の応援等のために行った活動は,当該政党の一員としての活動であ
ることは明らかであり,本件政治活動に大阪市の職員や官用車等が動員,
使用されたなどの事情も見当たらないことからすると,大阪市の組織若
しくは権限又は影響力が用いられているのではないかとの疑念や不信を
招くものとは認められないし,A市長が行った本件政治活動は,Bの会
代表代行としてのものであって,市長の「職務として」行ったものとも
認められない。したがって,本件政治活動が政治中立義務(政治中立条
例2条)に違反するものとは認められない。
(イ)原告らは,市長としてのA市長の活動とBの会代表代行としてのA市
長の活動を区別することはできず,「職務として」とは「職務として行わ
れているように見える」職務外の行為をも含む旨主張する。しかしなが
ら,政治中立条例2条の解釈として,原告ら主張のようには解し難い上,
この点を措いて上記原告らの解釈を前提としても,本件政治活動は,大
阪市の職員や官用車等を動員,利用して行われたものではなく,A市長
が街頭演説で「大阪市長」の肩書きを名乗るなどしていたからといって,
かかるA市長による本件政治活動をもって,大阪市長の職務として行わ
れているように見えるとはいえないから,上記判断は左右されない。
イ誠実管理執行義務違反について
本件期間中,大阪市ホームページの「市長日程」において「公務日程な
し」とされた日は26日間にも及び(前記認定事実(1)),その間,A市長
は,Bの会代表代行として全国各地で応援演説等を行っており(前記認定
事実(3)),大阪市役所に登庁した日は限られていたものと認められ,この
間のA市長の大阪市長としての職務の遂行は相当程度限定されていたもの
といえるが,原告らから,A市長が大阪市の事務を停滞させたとの主張は
存するものの,どのような事務を停滞させたのかという点についての具体
的な主張はなく,またその結果として大阪市に損害が生じたものと認める
こともできないから,誠実管理執行義務違反を理由とする損害賠償請求権
は認められない。
ウ以上によれば,大阪市がA市長に対する債務不履行ないし不法行為に基
づく損害賠償請求権を有するものとは認められない。
(2)不当利得返還請求権の有無
上記2のとおり,本件支出決定は違法とはいえず,A市長に対する平成2
4年12月分の給料支給は,法律上の原因がないとはいえないから,大阪市
がA市長に対する不当利得返還請求権を有するものとは認められない。
(3)よって,大阪市のA市長に対する債務不履行ないし不法行為に基づく損
害賠償請求権及び不当利得返還請求権の存在を前提とした,被告によるこれ
ら請求権の行使を怠る事実も認められない。
4結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求は理
由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用について,行政事件訴訟法
7条,民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田中健治
裁判官三宅知三郎
裁判官安藤巨騎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛