弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人安西義明、同中園繁克が連名で提出した控訴趣意書
に、これに対する答弁は、検察官小野慶造が提出した答弁書にそれぞれ記載された
とおりであるから、これらを引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断す
る。
 控訴趣意第一点(理由不備または理由くい違いの違法がある旨を主張する部分)
について
 所論は、要するに、道路交通法(以下「道交法」という)六四条にいう「運転」
とか、道路運送車両法五八条一項にいう「運行」とは、一定の場所から場所に相当
距離移動することを指すものと解すべきであり、単に車両が道路上の一定の場所に
存在していたとか、給油のためガソリンスタンドの中で車が若干動いたことを意味
するものでないことは、その立法趣旨から明らかであるところ、原判決は、被告人
Aがその添付の別紙犯罪一覧表一、二のとおり無免許で、また車検を受けず自動車
検査証の交付を受けていない車両を運転し、被告人Bが同Aの無免許であること等
を知りながら同人の右各運転を容認した旨認定して被告人らを処断したが、原判決
は被告人Aが車両を運転した場所については特定の場所(道路)を示すのみであつ
て、同被告人が車両をどこからどこまで運転し、あるいは運行の用に供したかを全
く明らかにしていない。したがつて原判決には、その罪となるべき事実と法令適用
の間に理由不備または理由くい違いの違法がある、というのである。
 しかしながら、道交法六四条や道路運送車両法五八条一項は、その各条項に規定
する「運転」、「運行」が道路上でなされることを禁止しているものであることは
所論のとおりであるけれども、裁判所が右各条項違反の事実を認定するにあたつて
は、右の「運転」、「運行」が地番等で特定された道路上で行なわれた旨を認定・
判示すれば、法の予想する相当距離の車両の移動があつた趣旨であることがうかが
われるのであるから、他に特段の事情がないかぎり、右の程度の判示で十分であ
り、「運転」、「運行」の開始場所や終了場所についてまでこれを明示することは
必ずしも必要でないと解すべきところ、原判決を一読すれば、原判決は、被告人A
が車両を「運転」、「運行」した場所がそれぞれ地番で特定された番地付近の道路
である旨を認定しているのであるから、原判決の認定には所論のような理由不備ま
たは理由くい違いの違法はない。論旨は理由がない。
 控訴趣意第二点第一ないし第三(いずれも訴訟手続の法令違反を主張する部分)
について
 第一 所論は、要するに、原審弁護人は原審第九回公判において被告人両名の偽
証教唆被告事件につきC外九三名作成の嘆願書を提出し、検察官も異議を述べなか
つたので原裁判所はこれを証拠として採用し、その取調を行なつた。ところが、原
審公判調書中には、その旨の記載が全くない。したがつて原裁判所は適法に取り調
べられた被告人らの情状に関する重大な証拠を公判調書に記載せず、記録中にも綴
らず、いずこかに放置してしまつたものであつて、右のような原裁判所の措置は判
決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反に該当する、というのであ
る。
 そこで、検討するに、原審記録中第九回公判調書および証拠関係カード等を検討
しても、原審第九回公判廷<要旨>において所論の嘆願書が証拠として取り調べられ
た旨の記載は全くない。ところで、証拠調の請求、取り調べた証拠の標目及
びその取調の順序は刑訴規則四四条一項一一号、二三号によつて公判調書の必要的
記載事項とされているのであるから、公判調書にその記載がなく、かつその点につ
き刑訴法五一条により公判調書の正確性について異議の申立もなされていない以
上、記載されなかつた事項は存在しなかつたものと推定するほかなく、当審におい
ても弁護人からはなんらの反証もなされなかつたのみならず、かえつて、当審で職
権によつて取調べた証人Dの当公判廷における供述によれば、原審弁護人は、原審
第九回公判廷において所論の嘆願書を証拠として提出しようとしたが、検察官から
刑訴法三二六条書面としての同意を得られなかつたところから証拠調請求を断念
し、原審裁判官は右嘆願書を正式の証拠としてでなく、ただ事実上閲覧したうえ、
これを弁護人に返還する措置をとつたことが認められる。したがつて嘆願書が証拠
として取り調べられたことを前提とする所論はその前提を欠くことが明らかであ
る。論旨は理由がない。
 第二 所論は、要するに、被告人Bは、本件で道交法違反、偽証教唆被告事件の
ほか道路運送車両法違反の事件についても起訴されているところ、原審第八回公判
調書を検討すると、同調書の被告事件名欄には、被告人Bにつき道路運送車両法違
反事件の記載がないので、同被告人は第八回公判期日において右事件については審
理を受けなかつたこととなる筋合である。ところで右第八回公判期日において被告
人Bの妻Eが情状証人として証言しているのであるが、前記のように解すると、右
証言は被告人Bの道路運送車両法違反事件については証拠とすることができないこ
ととなるけれども、右証人は被告人Bに対する右道路運送車両法違反事件を含む全
事件について証人として申請されたものであることが明らかであるから、これを右
事件を除外したその余の事件のみについての証人として扱つた原審裁判所の訴訟手
続には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある、というの
である。
 そこで記録を調査して検討するに、なるほど原審第八回公判調書には所論のよう
な記載のあることが認められるけれども、右以外の公判調書には被告人Bが、起訴
された全事件につき審理を受けた旨が正確に記載されており、第八回公判において
も手続が分離されたような事跡は全くないのであるから、右公判調書の前記記載は
明らかな誤記であつて、同被告人は第八回公判期日において起訴された全事件につ
いて審理を受けたと認めるのが相当であるから、同期日において道路運送車両法違
反事件について同被告人が審理を受けなかつたことを前提とする所論はその前提を
欠き理由がない。
 第三 所論は、要するに、原審弁護人は原審第二回公判期日において検察官から
証拠調請求がなされた原審証拠関係カード番号1ないし42の書証中、被告人Bの
検察官ならびに司法警察員に対する各供述調書中昭和五一年九月二四日、同年一〇
月四日の犯行内容の記載については任意性を争う旨意見を述べ証拠関係カード中に
もその旨の記載があるのに、右各供述調書について任意性を確めるための何らの手
続をも経ることなく証拠として採用した原裁判所の手続きは違法であり、右違法は
判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。
 そこで、検討するに、原審記録および証人Dの当審公判廷における供述によれ
ば、検察官は原審第二回公判期日において、原審記録中の証拠関係カード番号1な
いし42の書証の取調請求をしたこと、原審弁護人は右書証の全部につきこれを証
拠とすることに同意したが、その際右書証のうち被告人Bの各供述調書中昭和五一
年九月二四日および同年一〇月四日の犯行内容の記載についてはその任意性を争う
旨述べたこと、しかし任意性を争う根拠・理由等については具体的にはなんらの主
張もしなかつたこと、原審裁判所は、同公判期日において被告人Bの各供述調書を
含む前記1ないし42の書証の全部を刑訴法三二六条のいわゆる同意書面として採
用したうえ、その取調べを行なつたことが認められる。ところで、弁護人が前記1
ないし42の書証全部についてこれを証拠とすることに同意しながらその一部(被
告人Bの各供述調書の一部)について任意性を争う旨述べるのは、相互に矛盾する
陳述であるといわざるを得ないけれども、その点は一応おくとして、右各書証の作
成経過を示す記載や体裁、ことに右各供述調書については、供述者が任意に供述
し、それを録取し読み聞けられ、異議がなかつた旨の調書中の記載、供述者のこれ
を確認する趣旨の署名押印の存在等に徴してその任意性が一応認められるのである
から、弁護人において被告人Bにつき右各供述調書の任意性を争う根拠・理由につ
いて具体的な事実関係の主張をしないかぎり、原裁判所が右各書証の任意性につい
て疑いをいだくことなく、右各供述調書についても任意性に関する特段の証拠調等
をせずに、これを刑訴法三二六条一項の同意書面として採用し取調べたのは相当で
あり、右手続には所論のような違法はないといわなければならない。論旨は理由が
ない。
 控訴趣意第三点第一および第二(いずれも事実誤認を主張する部分)について
 第一 所論は、原判示第一(一)別紙犯罪一覧表一6の事実につき、被告人は、
昭和五一年九月二三日神奈川県川崎市a区bc番地付近道路において車両を運転し
た際右車両に道路運送車両法三四条一項による臨時運行許可番号標(いわゆる仮ナ
ンバー)を表示していたから、当該運行は許されるものと思つていた、また当該許
可の目的、経路等についても全く知らなかつたものであるから、被告人は過失によ
つて同法一〇八条、五八条一項に違背したにすぎないのに、被告人Aの右所為が故
意犯のみを定めた右条項に該当するものとして処断した原判決には重大な事実の誤
認、法令の適用の誤りがある、などというのである。
 そこで検討するに、原審で取り調べた証拠(特に自動車臨時運行許可申請書兼交
付簿の写し、被告人Aの原審公判廷における供述および検察官に対する昭和五二年
一〇月二七日供述調書)によれば、被告人Aは昭和五一年九月二二日福生市内の道
路上で車両を運転中、その制動灯が点灯しなかつたところを警察官に現認され、取
締りを受けたが、その際被告人が無免許であることおよび右車両の車検証が有効期
限が切れていたことが発覚したこと(原判示第一(一)別紙犯罪一覧表一5の事
実)、そのあと右車検のない車両を回送する必要があつたところから、同被告人
は、道路運送車両法三四条の臨時運行許可証(同許可証には、有効期間、同年九月
二二日から二四日まで、目的、車検回送、商品(当該車両)の回送、経路、立川、
福生、溝ノ口との記載がある)および臨時運行許可番号標(仮ナンバー)の交付を
受けて車両の仮還付を受けたが、同夜右車両を無免許で運転して自宅に帰ろうとし
て再び取締りを受けたこと、同被告人は翌九月二三日右車両に看板業の道具類を積
み、原審相被告人Fと一緒に大月市に仕事に出かけ、その帰途右車両を無免許で運
転していたところを検挙されたことが認められ、右のような一連の経過に徴すれ
ば、同被告人は前記臨時運行許可証の許可条件を知りながら、右条件に反して本件
車両を運転して運行したと認めるのが相当であり、右許可条件の内容は知らなかつ
たとか、仮ナンバーをつけさえすれば何をしてもいいと思つたなどという被告人A
の原審公判廷における弁解はとうてい措信することができず、その他本件記録を精
査しても右認定を左右するに足りる証拠はない。論旨は理由がない。
 第二 所論は、原判決は同判示第三において被告人両名が共謀のうえ原審相被告
人Fに対し同判示のような偽証教唆をした旨認定し、最終的に偽証教唆の行なわれ
た場所が東京地方裁判所八王子支部内弁護士控室であると判示しているけれども、
右偽証教唆は同弁護士控室前の廊下で行なわれたというのが真実であるから、原判
決には犯罪が行なわれた場所につき事実の誤認があり、右誤認は判決に影響を及ぼ
すことが明らかである、というのである。
 しかし、原判決が同判示第三の事実に対応する証拠として挙示する関係証拠(た
だし後記信用しない証拠部分を除く)を総合すれば、所論の点を含め同判示第三の
偽証教唆の事実を優に認定することができ、原判決の事実認定に所論の誤りはない
と認められる。所論に鑑み、被告人両名が昭和五二年九月九日東京地方裁判所八王
子支部内においてFに対してなした偽証教唆の状況について検討するに前記各証拠
(特に被告人A(昭和五二年一〇月二七日付)、同B(同月二八日付)、原審相被
告人(同月二九日付)の各検察官に対する供述調書)およびEの検察官に対する同
月二五日付供述調書によれば、被告人両名は、原審第三回公判期日が実施された昭
和五二年九月九日に、原判示第三認定のような経緯で被告人Bがあらかじめ虚偽の
証言をするように依頼し、当日証人として出廷する予定であつたFおよび被告人B
の妻を伴つて東京地方裁判所八王子支部に出向き、同日午後一時二〇分ごろ同支部
に着いたこと、被告人Bは着くとすぐFを原審弁護人に引き会わせようと考え、同
支部内の弁護士控室や法廷をのぞくなどしたが見当らなかつたので一緒に来た他の
三名とともに玄関脇の売店前付近の廊下で少し待つてから再び弁護士控室へ行つて
みたところ原審弁護人がいたのでその前の廊下でFを引き会わせたこと、原審弁護
人は、弁護士控室に向かつて右側の小部屋に被告人両名、F、被告人の妻の四名を
招じ入れ、同室内でFに対し、被告人Aが車両を運転したことを否定していた昭和
五一年九月二三日、同月二九日、同年一〇月四日にFが右の車両を運転したかどう
かを確認するため質問を始めたところ、同人はあいまいな返答しかできなかつたの
で、被告人Bにおいて当日持参した工芸店G工芸の作業台帳を開いて同人に見せな
がら「九月二三日は大月へ、九月二九日は作業所へ、一〇月四日は登戸へ行つた」
などと言い、被告人Aも「その三日間は自分のアパートの近くの駐車場で待ち合わ
せ、自分が助手席に乗り、F君が車を運転してガソリンスタンドへ寄つて給油し、
伝票には自分がサインした」と言つてそれぞれFに虚偽の事実を教え、その旨法廷
で証言するように依頼したことが認められる。所論は被告人両名がFに対して偽証
教唆をした場所は売店付近・弁護士控室前の廊下であると主張し、被告人両名の原
審公判廷における各供述、被告人Aの検察官に対する昭和五二年一〇月二七日付供
述調書中には右所論に副う部分があるけれども、Fは捜査官に対しても原審公判廷
においても一貫して被告人両名から虚偽の事実を教えられたのは弁護士控室前廊下
ではなく、前記弁護士控室横の小部屋である旨を具体的に述べ、また被告人Bの妻
Eも検察官に対する供述調書において売店(弁護士控室)の前で被告人らとFが話
合つたことはなく、前記認定のような依頼は弁護人がFにいろいろ質問した席で行
なわれた旨明確に述べていること等の諸点に徴すると、被告人両名の前記各供述
は、にわかにこれを措信することができないから右所論は採用することができな
い。その他記録を精査しても右認定を左右するに足りる証拠は見当らない。以上の
次第であるから原判決には所論の事実の誤認はない。論旨は理由がない。
 控訴趣意第四点(量刑不当を主張する部分)について
 所論に鑑み記録を調査し、当審における事実取調の結果をも加えて検討するに、
本件は(一)被告人B経営の看板製作等を業とする工芸店で働く被告人Aが昭和五
〇年一一月二六日ころから同五一年一〇月四日ころまでの間に前後五六回にわたり
無免許で右工芸店の普通貨物自動車を運転し、同年九月四日ころから同月二三日こ
ろまでの間に前後六回にわたり、いわゆる車検切れとなつた右車両を無免許で運転
して運行の用に供し、被告人Aの雇主であつて、右車両の運行を直接管理する被告
人Bが、被告人Aが無免許であることを知りながら同被告人の右無免許運転を容認
し、また右のとおり同被告人が車検切れの右車両を運転するのを容認して運行の用
に供し、(二)被告人両名は右(一)の各事実について原裁判所に起訴されたが、
その第一回公判前に原審弁護人と打合せをした際、弁護人から、被告人Aが昭和五
一年九月二二日に無免許で車検切れの車両を運転して取締りを受けたのに、その後
も同月二三日、二九日および一〇月四日の三回にわたり無免許運転をして取締りを
受けたことを指摘され、実刑判決を受けることになるかもしれない旨言われたとこ
ろから、被告人両名は右三回は被告人A以外の者が運転したことにすれば実刑を免
れるものと考え、昭和五二年七月七日の第一回公判において右三回については運転
した事実を否認し、その後間もなく、右三回は以前からG工芸にアルバイト運転手
として働きに来ていたFが運転したことにすればよいと思いつき、その後原判示第
三のとおりの経緯で同人に偽証を依頼し、昭和五二年九月九日の原審第三回公判廷
においてFをして原判示第四のとおり「右三回の運転はFがしたものであり、被告
人Aは運転していなかつた」旨偽証させたという事案であるが、前記(一)の一部
無車検運行行為を含む無免許運転は長期間にわたつて多数回繰り返されたものであ
つて、特に被告人Aは、昭和五一年九月二二日に取締りを受けたにもかかわらず、
その翌日から再び無免許運転を繰り返しているのであつて、同被告人の無免許運転
の常習性は顕著であり、また被告人Bは被告人Aが無免許であることを知りながら
一年近くもの間同被告人が工芸店の車両をその仕事のために運転するのを容認して
いたものであり、そのほか被告人らには道交法違反等による罰金刑の前科が多数
(被告人Aについては五件、同Bについては八件)あることを考えると、被告人ら
の道路交通法規無視の性向は著しいものがあるのみならず、被告人らは自己の刑事
責任を軽減するため被告人Bが主体となつて嫌がるFに強く頼み込んで同人に偽証
までさせているのであつて、以上の諸点を考えると被告人らの罪責は重いものがあ
るから、被告人らは現在では本件各犯行を真剣に反省悔悟し、その意を表すため財
団法人法律扶助協会に対し二度にわたり合計一〇万円の罪寄付をしていること、被
告人らが実刑に服することになると、前記工芸店の経営に深刻な影響を与えるこ
と、右工芸店の主な取引先の従業員らが被告人らの日ごろの仕事振りがまじめであ
るとして被告人らのため減刑嘆願書を作成していること、被告人らには懲役刑の前
科はないこと等所論指摘の諸事情を被告人らのためにできる限り有利に斟酌しても
本件が執行猶予相当の事案であるとはとうてい認められないことはもとより、被告
人Bは被告人Aを使用する立場にあること、偽証教唆事件において被告人Bが果し
た役割等のいつさいの事情を考慮して、被告人Bを懲役一年二月に、被告人Aを同
一年に処した原判決の量刑も相当であつて、これが重過ぎて不当であるとはいえな
い。論旨は理由がない。
 よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は刑訴
法一八一条一項但書を適用してこれを全部被告人に負担させないこととし、主文の
とおり判決する。
 (裁判長裁判官 小松正冨 裁判官 千葉和郎 裁判官 鈴木勝利)

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