弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人木内曽益、同山根七郎治、同石塚誠一の上告趣意第一点について。
 所論は、原審の審理の方法と遅延を非難し、憲法三七条一項に違反すると主張す
る。しかし憲法三七条一項の「公平な裁判所」というのは、組織、構成において偏
頗のおそれのない裁判所を意味するものであつて、所論の如き事由により、原審裁
判所が公平な裁判所でないということのできないことは、当裁判所大法廷の判例と
するところである(昭和二二年(れ)第一七一号同二三年五月五日大法廷判決、集
二巻五号四四七頁参照)。また原審の審理が迅速でなかつたと認められる点もある
が、かかる事情は、原判決破棄の理由となすことのできないことは当裁判所大法廷
の判例(昭和二三年(れ)第一〇七一号同二三年一二月二二日大法廷判決、集二巻
一四号一八五三頁参照)とするところであるから、所論はいずれも採用できない。
 同第二点について。
 所論は、刑法二一一条は憲法一四条に違反し無効であると主張する。しかしなが
ら刑法二一一条が、業務上必要な注意を怠り人を死に致した者について、業務にか
かわりなき者より重い刑罰を定めているのは、人の地位、身分によつて差別を設け
たものではなく、いかなる地位、身分にある者でも、いやしくも一定の業務に従事
する者はすべて同条の適用を受け、また業務の種類によつてもなんら異なる取り扱
いをするものではない。ひつきよう同条は、いわば業務について特別の注意義務を
定めたのであつて、人が誰であるかは問うところではなく、そして人が一定の業務
に従事しているということは、その人の属性による刑法上の身分であつて、憲法一
四条の社会的身分といえないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかである。
論旨は採用のかぎりでない(昭和二五年(れ)第一二一九号同二六年八月一日大法
廷判決、集五巻九号一七〇九頁。昭和二七年(あ)第五五三〇号同二九年九月二一
日第三小法廷判決、集八巻九号一五〇八頁。昭和三〇年(あ)第二一六号同年八月
一八日第一小法廷判決、集九巻九号二〇三一頁各参照)。
 同第三点について。
 所論は単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない〔
なお所論について記録を調べてみると、原審の判示するように、検察官の起訴状(
訴因変更請求書による)に訴因として明示された過失の態様と、一審判決の認定し
た過失の態様とが異なることは所論指摘のとおりであるが、これがため公訴事実の
同一性を害するものとは認められない。かつ一審の審理の経過を検討してみても、
これがために被告人の防禦が十分に尽くされなかつたと認めることはできない。従
つてこの点に関する原判決の判断は正当であつて、所論のような訴訟法違反もない
〕。
 同第四点について。
 所論は、単なる事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
(なお記録を調べてみると、原審が所論図面の外に現場写真等を綜合して「自動車
の右車輪はその湾曲部においてはますます道路の右端に近つき」となした判示判断
は相当と認められる。所論はひつきよう異なる見解を主張するにすぎない)。
 同第五点について。
 所論は、憲法一三条違反を主張するが、その前提とするところは、証拠によらな
いで事実を認定した違法があるというのであつて、実質は法令違反の主張を出でず、
刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお論旨一、について調べてみると、第一
審判決の指示する地点について、判示上論旨指摘のような不正確の点はあるが、判
文を精しく吟味してみると、第一審判決が被告人の過失によつて本件の事故が起き
たとする結論を左右するほどの理由は全くなく第一審判決を支持した原判決の判断
は結局において正当である。また論旨二、の進行の方向と道路の状況についての錯
覚に関する所論及び論旨三、の道路の庇状部分の崩壊と本件事故との因果関係に関
する所論について、記録を調べてみると、原判決の判示するところは相当であつて、
所論のような違法を認めることはできない)。
 その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三二年三月二六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔

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