弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人土谷明の上告趣意のうち、死刑を定めた刑法の規定の違憲をいう点は、右
規定が憲法三六条に違反するものでないことは当裁判所の判例(最高裁昭和二二年
(れ)第一一九号同二三年三月一二日大法廷判決・刑集二巻三号一九一頁)とする
ところであるから、理由がなく、判例違反をいう点の実質は、量刑不当の主張であ
り、その余は、事実誤認、量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由に当
たらない。
 また、記録を精査しても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない(
本件は、被告人が、Aと共謀の上、昭和五四年一一月、保険金をだまし取る目的で、
Bを言葉巧みに誘い出して釣り舟に乗せ、すきをみて海中に突き落としてでき死さ
せ、次いで、A及びCと共謀の上、昭和五八年一月、保険金をだまし取る目的で、
Dをその頭部等を鉄棒で殴打して殺害し、交通事故死を装い、その死体をトラック
に乗せ、路外に転落させて遺棄し、その後郵政省岐阜地方簡易保険局長からDを被
保険者とする死亡保険金二〇〇〇万円をだまし取り、さらに、Aと共謀の上、同年
一二月、所持金品を強取するとともに債務の履行を免れる目的で、Eを言葉巧みに
誘い出し、すきをみてその頭部等を鉄棒で殴打して殺害し、所持品強取等の目的を
遂げ、その死体にいかり等をつけ、海中に沈めて遺棄したという事案である。いず
れも罪質は極めて悪質で、動機に酌量の余地はなく、結果は重大であり、周到な準
備の下に行われた計画的犯行であって、犯行の態様も冷酷かつ残虐である。以上の
諸事情に加え、被告人が主導的な立場で本件各犯行を計画し、Aらをして実行させ、
あるいは自らも直接手を下すなど、主謀者として本件各犯行を遂行したこと、遺族
の被害感情、社会に与えた影響等に照らすと、被告人が現在では犯した罪の重大さ
を認識し、深く反省していること、前科のないことなど、被告人のためにしんしゃ
くすべき事情を十分考慮しても、被告人の罪責は誠に重く、原判決が維持した第一
審判決の死刑の科刑は、当裁判所もこれを是認せざるを得ない。)。
 よって、刑訴法四一四条、三九六条、一八一条一項ただし書により、主文のとお
り判決する。
 この判決は、裁判官大野正男の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によ
るものである。
 裁判官大野正男の補足意見は、次のとおりである。
 私は最高裁昭和二二年(れ)第一一九号同二三年三月一二日大法廷判決(刑集二
巻三号一九一頁。以下「昭和二三年大法廷判決」という。)に付された島保外三裁
判官の補充意見(以下単に「補充意見」という。)と基本的に考えを同じくするも
のであるが、右判決は既に四五年前にされたものであり、その間死刑制度とその運
用には著しい変化があったので、その点に注目しつつ、死刑という刑罰それ自体を
今日の時点において憲法上いかに考えているかを明らかにしておきたい。
 憲法の文理的解釈としては、昭和二三年大法廷判決及び補充意見が述べているよ
うに、憲法三一条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若し
くは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」としており、法律に定め
る刑罰手続によって生命を奪うことを是認しているから、憲法三六条が残虐な刑罰
を絶対に禁止しているからといって、死刑制度をこれに含め、禁止しているとは考
えられない。
 しかし、憲法がその制定当初において死刑を残虐な刑罰と考えていなかったとし
ても、昭和二三年大法廷判決の趣旨及び特にその補充意見が強調するように、「憲
法は、その制定当時における国民感情を反映して右のような規定を設けたにとどま
り、死刑を永久に是認したものとは考えられない。ある刑罰が残虐であるかどうか
の判断は国民感情によって定まる問題である。而して国民感情は、時代とともに変
遷することを免がれないのであるから、ある時代に残虐な刑罰でないとされたもの
が、後の時代に反対に判断されることも在りうることである。」
 したがって、裁判所としては、死刑を適用するときは、常にその時代と社会の状
況及び犯罪と刑罰との均衡に対する国民の意識の変化に注目して、死刑が残虐と評
価される余地がないかを検討すべきである。それは死刑という刑罰が他の刑罰と異
なり、「尊厳な人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る」(昭和二三
年大法廷判決)窮極の刑罰だからである。
 昭和二三年大法廷判決においても、「死刑制度は常に、国家刑事政策の面と人道
上の面との双方から深き批判と考慮が払われている。」とした上、死刑制度を合憲
とする実質的理由として、死刑存置が「現代多数の文化国家におけると同様」であ
ること、死刑の威嚇力によって一般予防をなし、死刑の執行によって特殊な社会悪
の根元を絶ち、これをもって社会を防衛せんとしたものであること、個体に対する
人道観の上に全体に対する人道観を優位させたものであること、を挙げている。
 しかしながら、死刑制度は、同判決がいうように「時代と環境とに応じて変遷が
あり、流転があり、進化がとげられてきた」ものであるところ、この四五年間にそ
の基礎にある立法的事実に重大な変化が生じていることに注目しなければならない。
 その一は、死刑を廃止した国が増加したことである。一九九〇年国連経済社会理
事会へ提出された報告書によれば、死刑制度を完全に廃止した国は三八国であり、
軍事法や戦時犯罪を除く通常犯罪について死刑を廃止した国は一七国に達し、その
他に事実上死刑の適用及び執行を行っていない国は三〇国あるとされている。例え
ばイギリス、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オーストリア、ポ
ルトガル、スウェーデン等の諸国はいずれも死刑を廃止している。これに対し死刑
を存置している国は九一国である。そして一九八九年一二月一五日に開かれた国連
総会第四四通常会期においては死刑廃止を目的とする「市民的及び政治的権利に関
する国際規約第二選択議定書」(いわゆる「死刑廃止条約」)が採択され、一九九
一年七月一一日正式に発効した。このことは、昭和二三年当時と異なり、多くの文
化国家においては、国家が刑罰として国民の生命を奪う死刑が次第に人間の尊厳に
ふさわしくない制度と評価されるようになり、また社会の一般予防にとって不可欠
な制度とは考えられなくなってきたことを示す証左であろう。
 その二は、この四五年間に、我が国刑事司法において、四人の死刑確定者が再審
の結果無罪とされたことである。死刑廃止論がその大きな理由とするのは、誤判の
場合、死刑が執行されていたら全く回復不能の被害を無実の者に与えるということ
であるが、誤判と死刑にどれだけ必然的な関係があるかは別として、死刑確定者が
再審の結果無罪となった事件が現実に四件(免田、財田川、松山、島田各事件)も
発生したことを考えると、決してこれを杞憂ということはできない。特に裁判の衝
に当たる者としては、深刻な考慮が必要である。この四五年間における死刑に関す
るこのような新しい事象の発生をみると、死刑が残虐な刑罰に当たると評価される
余地は著しく増大したということができる。
 次の問題は、死刑に対する我が国民の意識であり感情である。補充意見も、「あ
る刑罰が残虐であるかどうかの判断は国民感情によって定まる問題である。」とし
ているが、「残虐な刑罰」とは犯した罪に対する制裁としての刑罰が「不必要な精
神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる」(最高裁昭和二二年(れ)
第三二三号同二三年六月二三日大法廷判決・刑集二巻七号七七七頁)場合を指すの
であり、刑罰の正当性は罪と罰の適正な均衡に存する以上、被害法益の大きさと死
刑制度に対する国民の意識を考慮し、死刑が社会一般の寛容性の基準に照らして罪
刑の均衡を著しく損なうものであるかどうかを考察することが必要である。
 この点に関する信頼すべき資料は十分とは言い難いが、以下の資料によれば、死
刑に対する我が国民の意識は、この四〇年近くほとんど変化が見られず、一貫して
大多数が死刑の存置を支持していることを示している。
 例えば、総理府広報室が、昭和三一年四月以来平成元年六月までの間五回にわた
って行ってきた死刑に関する世論調査は次のとおりである。
<記載内容は末尾1添付>
 右の調査に対しては、質問方法などについて批判があるけれども、毎日新聞の昭
和三一年の調査(毎日新聞昭和三一年三月二七日朝刊)では、死刑存置五九・三%、
廃止二三・八%、その他一五・五%、朝日新聞の昭和五六年の調査(朝日新聞昭和
五七年一月三日朝刊)では、死刑存置七六・〇%、廃止一九・〇%、その他五・〇
%、NHKの昭和五八年の調査(NHK世論調査資料集第四集)では、すぐにでも
廃止する二・八%、徐々に廃止の方向に向かう一〇・六%、死刑制度は残すが、猶
予制度などの運用面で死刑を少なくしていく二八・七%、現在どおりの死刑制度を
存続させる四一・五%、その他一六・三%、読売新聞の平成五年五月の調査(読売
新聞平成五年六月一日朝刊)では、死刑制度を存続すべきだ三一・五%、どちらか
といえば存続三二・四%、どちらかといえば廃止二〇・九%、廃止すべきだ七・四
%、答えない七・八%となっており、いずれも、死刑存置を支持する者が廃止を支
持する者を大幅に上回っている。
 また、昭和二八年に日本弁護士連合会が弁護士を対象として行った調査(「自由
と正義」五巻五号)によれば、死刑存置六一・七%、廃止三六・〇%、その他二・
三%、昭和五六年に東京弁護士会人権擁護委員会が東京三弁護士会の会員を対象と
して行ったアンケート(「自由と正義」三三巻一二号)によれば、死刑存置六〇・
四%、廃止三九・六%(うち、将来廃止すべきだが時期尚早とするもの一二・五%)
であり、このような調査結果をみる限り、我が国民の多くは、今日まで死刑制度の
存置を希望してきており、死刑廃止を基本的に支持する者の中でも、即時全面廃止
を支持する者は少なく、その多くは死刑の漸次的廃止を支持しているとみられるの
である。
 右のような国際的動向と国内世論との大きな隔だりの中にあって、我が国裁判所
が現実に死刑制度をどのように運用してきたかも考慮の対象とすべきであろう。も
しそれが無基準に多用されているならば、死刑制度そのものが残虐な刑罰を科する
結果になっているとの批判を免れ難いからである。
 第一審における死刑言渡しを件数的にみると、司法統計年報等によれば次のとお
りである。
<記載内容は末尾2添付>
 右統計によれば、昭和二三年以降、死刑の言渡しは減少を続けている。特に昭和
四〇年代半ば以降は、顕著に減少し、年一〇件に達していないことがほとんどであ
り、現実に他人の生命を奪った犯罪にしか適用されていない。もとより我が国社会
の治安状況が良好で、凶悪犯罪が減少したことに基本的な原因があると考えられる
が、死刑の適用基準が極めて厳格化してきたことによることも多くの論者の指摘す
るところである(田宮裕「犯罪と死刑」(荘子邦雄外編「刑罰の理論と現実」)一
四九頁以下、加藤松次「死刑・無期量刑選択の変化」ジュリスト七九八号、前田俊
郎「それからの死刑適用基準」法律のひろば三六巻五号)。
 そして当裁判所も、いわゆる永山事件第一次上告審判決(最高裁昭和五六年(あ)
第一五〇五号同五八年七月八日第二小法廷判決・刑集三七巻六号六〇九頁)におい
て、死刑が適用される場合の一般的基準として、「死刑制度を存置する現行法制の
下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の
重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、
前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であっ
て、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められ
る場合」である旨判示して、死刑の適用を限定している。このように、裁判所は死
刑を極めて限定的にしか適用していないが、なおその厳格な基準によっても死刑の
言渡しをせざるを得ない少数の事件が存在しているというのが我が国の現状である。
 右のような適用状況の下において、なお死刑が罪刑の均衡を失し、不必要な苦痛
を与える残虐な刑罰であるといい得るためには、他人の生命を凶悪な手段で奪った
者に対しても、国家が更生の余地を与えることなく、その生命を権力によってはく
奪することは過剰な応報であると意識されることが必要であろう。死刑が国民の道
徳感情に基礎を置く刑事政策の一方策である以上、現実の国民の意識のみによって
決せられるものでないにしても、それを度外視して、過剰な応報であるとすること
は適当でない。
 しかし同時に、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向と、その存続を支持する
我が国民の意識とが、このまま大きな隔たりを持ち続けることは好ましいことでは
ないであろう。その間の整合を図るためには、いろいろな立法的施策―例えば、一
定期間死刑の執行を法律によって実験的に停止して、犯罪増加の有無との相関関係
をみるとか、服役一〇年を過ぎた場合に仮出獄の対象となり得る無期刑(刑法二八
条)と別種の無期刑を設けて、罪刑の均衡を図るとか等の法制―が考えられるであ
ろう。しかし、それはもとより立法の問題に属する。
 以上述べてきたように、昭和二三年から約半世紀を経た今日、一方では死刑を残
虐な刑罰と考える方向の重大な立法的事実が生じているが、なお前記のような我が
国民の死刑に対する意識にみられる社会一般の寛容性の基準及び我が国裁判所の死
刑の制限的適用の現状を考えるならば、今日の時点において死刑を罪刑の均衡を失
した過剰な刑罰であって憲法に反すると断ずるには至らず、その存廃及び改善の方
法は立法府にゆだね、裁判所としては、前記のように死刑を厳格な基準の下に、誠
にやむを得ない場合にのみ限定的に適用していくのが適当であると考えるものであ
る。
 検察官頃安健司 公判出席
  平成五年九月一〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    佐   藤   庄 市 郎
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男

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