弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人島田信治、同小坂井久の上告理由について
 破産者が義務なくして他人のためにした保証若しくは抵当権設定等の担保の供与
は、それが債権者の主たる債務者に対する出捐の直接的な原因をなす場合であつて
も、破産者がその対価として経済的利益を受けない限り、破産法七二条五号にいう
無償行為に当たるものと解すべきであり(大審院昭和一一年(オ)第二九八号同年
八月一〇日判決・民集一五巻一六八〇頁参照)、右の理は、主たる債務者がいわゆ
る同族会社であり、破産者がその実質的な経営者であるときにも妥当するものとい
うべきである。けだし、同号にいう無償行為として否認される根拠は、その対象た
る破産者の行為が対価を伴わないものであつて破産債権者の利益を害する危険が特
に顕著であるため、破産者及び受益者の主観を顧慮することなく、専ら行為の内容
及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあるから、その無償性は、専ら
破産者について決すれば足り、受益者の立場において無償であるか否かは問わない
ばかりでなく、破産者の前記保証等の行為とこれにより利益を受けた債権者の出捐
との間には事実上の関係があるにすぎず、また、破産者が取得することのあるべき
求償権も当然には右行為の対価としての経済的利益に当たるとはいえないところ、
いわゆる同族会社の実質的な経営者である破産者が会社のため右行為をした場合で
あつても、当該破産手続は会社とは別個の破産者個人に対する総債権者の満足のた
めその総財産の管理換価を目的として行われるものであることにかんがみると、そ
の一事をもつて、叙上の点を別異に解すべき合理的根拠とすることはできないから
である。
 これを本件についてみるに、原審の確定したところによれば、(1) 訴外D株式
会社(以下「D」という。)は、昭和五一年八月、訴外E株式会社の代表取締役で
ある訴外F(以下「破産者F」という。)が中心になり同会社の下請として設立さ
れたいわゆる同族会社で、破産者Fがその実質的な経営者であつた、(2) 上告人
は、同年九月一四日、Dに対し運転資金として一五〇〇万円を貸し付け、破産者F
との間で、同人がDの上告人に対する銀行取引上の一切の債務につき一五〇〇万円
を限度として連帯保証(以下「本件保証」という。)をし、かつ、同人所有の本件
不動産につき上告人のため極度額一五〇〇万円の根抵当権(以下「本件根抵当権」
という。)を設定する旨の合意をし、その旨の登記を経由した、(3) 破産者Fは、
本件保証及び本件根抵当権の設定に際し、保証料の取得その他破産財団の増加をも
たらすような経済的利益を受けなかつた、(4) 破産者Fは、同年一二月二一日破
産の申立をされ、昭和五二年三月一四日京都地方裁判所において破産宣告を受け、
被上告人が破産管財人に選任された、(5) その後、本件不動産について任意競売
手続が開始され、同裁判所により、上告人に対し本件根抵当権に基づき一五〇〇万
円を配当する旨の配当表が作成されたため、被上告人は、右根抵当権の設定が破産
法七二条五号にいう無償行為に当たるとして否認権を行使し、配当期日において異
議を申し立てるとともに、本訴において同号に基づき本件保証も否認した、という
のであり、以上の事実認定は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らして首肯する
ことができ、その過程に所論の違法はない。
 そうすると、右事実関係のもとにおいては、破産者Fが破産の申立前六月内に義
務なくしてDのためにした本件保証及び本件根抵当権の設定は破産法七二条五号に
いう無償行為に当たり、被上告人の本件否認権行使を肯認すべきものとした原審の
判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひ
つきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又はこ
れと異なる見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官島谷六郎、同林藤之輔
の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官島谷六郎の反対意見は、次のとおりである。
 私は、破産者Fが義務なくしてした本件保証及び本件根抵当権の設定が破産法七
二条五号にいう無償行為に当たるとする多数意見に賛成することはできない。その
理由は、最高裁昭和五八年(オ)第七三四号同六二年七月三日第二小法廷判決にお
いて述べたとおりであるから、これを引用する。
 したがつて、原審の判断は、法令の解釈適用を誤り、その違法が判決に影響を及
ぼすことは明らかであるから、右違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免
れない。そして、同条五号による否認のみを原因とする被上告人の本訴請求は理由
がないものというべきであるから、これを認容した原判決を破棄し、第一審判決を
取り消して、右請求を棄却すべきである。
 裁判官林藤之輔の反対意見は、次のとおりである。
 私も、多数意見の結論に賛成することができない点では、裁判官島谷六郎の反対
意見と同じであるが、その理由とするところを異にするので、私の考えを述べてみ
たい。
 破産者が義務なくして他人のためにした保証若しくは担保の供与は、破産者がそ
の対価として経済的利益を受けない限り、破産法七二条五号にいう無償行為に当た
ると解すべきことは、多数意見の説示するとおりである。しかし、主たる債務者が
破産者及びその一族の所有かつ経営にかかるいわゆる同族会社であり、破産者がこ
れを支配しうる経営者であるような関係にあつて、債権者が破産者の保証若しくは
担保の供与(以下「保証等」という。)があればこそ会社に対して出捐をしたもの
であり、かつ、会社が右出捐を得られないことになれば、その営業の維持遂行に重
大な支障を来たすため、破産者自らこれに代わる措置を講ずることを余儀なくされ
たなどの事情があつて、実質的に、破産者が自己及び一族の出資の維持ないし増殖
を図るため保証等をしたものといえるときには、破産者自ら直接ないし間接に経済
的利益を受け破産財団の保全に資したものとして、右行為は無償行為には当たらな
いものと解するのが相当である。けだし、右の経済的利益の有無は、具体的事案に
即して実質的に考察すべきものであつて、多数意見が引用している大審院の判例も、
対価関係の存否の判断については破産者の意思をも参酌しうるものとし、破産者自
ら経済的利益を受けたといえる場合の例示として、主たる債務者の扶養義務者であ
る破産者が保証等をすることにより債権者の出捐がされたため破産者の右義務の履
行が緩和された場合、あるいは一種の企業形態である匿名組合において匿名組合員
である破産者が相手方の営業上の債務につき保証等をした場合を挙げているところ、
その趣旨とするところは、前者にあつては、主たる債務者が債権者から出捐を得ら
れなければ、それによる経済的不利益が破産者に帰するため、破産者のする保証等
が右の不利益を免れさせる意義を有することとなり、また、後者にあつては、破産
者が相手方の営業のために出資しその営業より生ずる利益の分配請求権を有する地
位にあるため、自己のする保証等が利益分配請求権及び出資の維持ないし増殖に資
するからにほかならないからであり、以上の理は、前述のような場合にも等しく妥
当するものというべきである。
 これを本件についてみるに、原審の確定したところによれば、(1) Dは、破産
者F及びその義父で創業者でもある訴外Gとそれらの一族が所有かつ経営するいわ
ゆる同族会社たるEの営業の一部門を独立させ、破産者が中心となつて設立した子
会社であり、破産者Fが右両会社ともに実質的な経営者であつた、(2) その設立
の約一か月後にDが上告人から本件運転資金(機械購入資金)の貸付けを受け、こ
れを担保するため破産者Fが本件保証等をした、というのである。右事実関係に照
らせば、破産者Fは、D及びその親会社たるEと法人格を異にするとはいえ、これ
を支配しうる経営者であつて、実質的に極めて密接な関係にあり、経済的観点から
みても利害関係を共通にし、かつ、破産者Fの本件保証等があればこそDが上告人
から出捐を得られたものというべきであつて、他に格別の事情がない限り、Dにお
いて右出捐を得られないことになれば、Eの運営に欠くことができない一部門とし
てその営業の維持遂行に重大な支障を来たし、破産者Fが、自己所有の本件不動産
を処分するなどして、自らDに対し資金の手当を講ぜざるをえなかつた蓋然性が高
いものと解しうるのである。そうとすれば、破産者Fは、形式的にDの代表者若し
くは株主ではなかつたとしても、実質的には、親会社たるEに対する自己及び一族
の出資並びにDに対する一族及びEの出資の維持ないし増殖を図るため本件保証等
をしたものとみることができるのであつて、原判示のように保証料等を取得しなか
つたとしても、自ら直接ないし間接に経済的利益を受けて破産財団の保全に資した
ものとして、右行為が無償行為に当たらないと評価する余地が十分に存するものと
いうべきである。
 したがつて、破産者Fが本件保証及び本件根抵当権の設定の対価として経済的利
益を受けたものとはいえないとしたうえ、右行為が破産法七二条五号にいう無償行
為に当たるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽の違法
があるものというべく、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、
これと同旨をいう論旨は、理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件に
ついては、叙上の見地から更に審理を尽くさせるため、これを原審に差し戻すのが
相当である。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    香   川   保   一
            裁判官    林       藤 之 輔

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