弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 原判決を次のとおり変更する。
     控訴人は被控訴人ら各自に対し、それぞれ金一八〇万円およびこれに対
する昭和四六年九月九日から支払済までの年五分の割合による金員を支払え。
     被控訴人らのその余の請求を棄却する。
     二 訴訟費用は第一・二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の、
その一を被控訴人らの各負担とする。
         事    実
 控訴人訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費
用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら訴訟
代理人は、控訴棄却および「控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め
た。
 当事者双方の主張および証拠の関係は、次に付加するほかは原判決の事実摘示と
同じであるから、ここにその記載を引用する。
 控訴人訴訟代理人は別紙第一のとおり付加陳述し、被控訴人ら訴訟代理人は別紙
第二のとおり反論した。
 (立証省略)
         理    由
 一 被控訴人らの長男A(昭和三六年一〇月四日生)が昭和四六年七月四日午後
五時三〇分ころ、愛媛県北宇和郡a町大字b内の河内川で溺死したこと、同人が溺
死した右場所は、河川管理者である愛媛県知事において、昭和四五年九月ころから
河川敷の拡幅ならびに新設水門壅壁工事(河小規第九号、小規模河川河内川改良工
事、同知事が昭和二七年から継続的に施行してきた河内川改修工事の一環である河
積増加、河道の整正、拡幅、河床の掘さく工事とそれに付帯する管理施設の設置工
事に当る。以下この工事にかかる設備の全体を水門または水門設備という。)を施
行し、昭和四六年三月末ころその第一期工事が終了した場所であることは当事者間
に争いがない。
 二 そこで、Aが前記場所において、どのような経過をたどつて溺死するにいた
つたかについて考察する。
 成立に争いのない乙第一号証ないし第一七号証および甲第三号証ないし第五号証
(これらの甲号証は、乙第九号証ないし第一一号証の写真と照合し、弁論の全趣旨
と合せて、右写真と同じころに撮影された本件事故現場付近の写真と認められ
る。)、証人B1、同B2、同B3、同B4の各証言(以上いずれも原審および当
審)、被控訴人C本人尋問の結果(原審および当審)並びに検証の結果(原審およ
び当審)を総合すると、次の事実を認めることができる。
 すなわち、本件事故現場は、前記工事が施行される以前においては、旧第一水門
(汐留水門)より上流が、高さ約二メートル、五〇度勾配の石積護岸によつて両岸
が区画された幅員約九・五〇メートルの小規模河川で、平素は流水量が極めて少な
く、所々に河床が露出し、水深も全般に浅く(深くても二~三〇センチメート
ル)、満潮時においても、同水門が自動的に閉ざされて潮流の潮上を防ぐので、わ
ずかに増水をみる程度であつて水深の格段の変化はなかつた。
 しかし、本件事故当時においては、同水門の上流約一〇メートル付近から更にそ
の上流にかけて前記水門工事が施行されたのにともない、その付近の状況は次のと
おり変化することとなつた(別紙図面は同水門設備の一部、同水門の壅壁付近を示
したものである。)。
 すなわち、満潮時に滞留した水門上流の水を干潮時に下流に急速に疎通させる目
的のもとに、河床の一部を幅約一九メートルに拡張するとともに、従前の河床より
約一・五〇メートル掘り下げ、その掘さく部分の両側に直立したコンクリート壅壁
を設けて護岸の一部とし、さらに東側コンクリート壅壁の上流側の端付近から川中
央に向い直角に突き出る形で、土留用「からみ」(木杭を打ち、竹をからんだもの
で水面下八〇センチメートル位に沈んでいる。)を川幅の中央付近まで設け、両岸
のコンクリート壅壁と残存している在来の石積護岸との間をそれぞれ、第二期工事
までの暫定的工事として、河床から麻袋詰め土のうを数段に積み重ねて連絡させ
た。その結果、右「からみ」より上流は従前どおりの河床であつて水深も浅いが、
「からみ」付近でさえも以前の河床よりも約五〇センチメートル低下して水深もそ
れだけ増し、さらに「からみ」から下流に向い「からみ」を境として急激に水深が
約一・八メートルに増す形状となつた。
 Aは事故当時小学校四年生であつて、事故の一週間位前ごろ学校で教材用の水棲
昆虫の採集を指示され、そのころ父の被控訴人Cとともに昆虫採集のため右水門の
付近に行つたのであるが、事故当日の午前中にも単独で昆虫採集に出かけ、一旦帰
宅した後、さらに午後にも虫かごと約二メートルの長さの昆虫採集用の「すいで」
(虫採り網)等をもち、半袖シヤツ、半ズボンの姿で昆虫採集に出た。しかし、そ
のまま同日午後五時を過ぎても帰宅しなかつたところから、その安否を気づかつた
被控訴人らにおいて方々を探索し、右水門付近を探しているうちに、別紙図面のA
点(すなわち、東側コンクリート壅壁と石積護岸との間の連絡に積み重ねた土のう
部分の上方護岸上の小道の辺に当る。)付近にAが当日携行していた昆虫採集用虫
かごと魚の入つたばけつが置いてあり、また付近の水面にAの草履が浮いていたと
ころから、同人が同水門付近において水死したおそれもあることが懸念され、被控
訴人らにおいてさらに探索を続けているうちに、同日午後八時三〇分ころ同水門
内、東側コンクリート壅壁から約一メートル、「からみ」から下流に約二メートル
の川底に溺死体となつて沈んでいるのが発見された。そして、同人は同日午後五時
三〇分ころ死亡したものと推定された。
 しかして、東側コンクリート壅壁は水面上約二メートルに直立しており、同壅壁
の上流側端と石積護岸とを連絡する土のう積みの部分は長さ約七・二メートルのほ
ぼ全面にわたり水際線に沿つて土りうが約三〇センチメートル位の高さに水面上に
出ており、その上は立ち入るのには狭隘で足場がよくないが、五~六〇センチメー
トル幅のほぼ平らな面(以下第一段階という。)となつており、その上方には高さ
約七〇センチメートル、約五〇度勾配の土手が続き、土手の上は川側に向つて緩や
かに傾斜した面となつている(以下第二段階という。)土のう部分付近の水深は下
流のコンクリート壅壁寄りの箇所において約五五センチメートル(但し、事故後約
五か月、工事後約八か月余経過した、原審検証時の昭和四六年一二月一三日当時の
状況であつて、事故当時より時間の経過による土砂の幾分かの堆積も考慮されない
ではない。)であるが、上流に向つて徐々に浅くなり、土のう部分のうち、コンク
リート壅壁寄りの一部を除き、それより上流側の水深は平常時においては極めて浅
くなつている。土のう部分の上流側に接続する石積護岸は前述のとおり高さ約二メ
ートル、約五〇度勾配の法面をもつ石積みであり、これは工事施行の以前と変りが
なく、その付近の水深は平常時においては極めて浅くなつている。そして、第二段
階上に居てそこから長さ約二メートルの柄がついた「すいで」により水中をすくう
ことは、地表に腹ばいになれば不可能ではないが身体の状況が不安定となり危険で
ある。土のう部分から川内に立入ることは極めて容易である。
 Aは水泳ができず、学校での水泳訓練の際には水を恐怖し、水に顔をつけること
も嫌忌していた。
 Aが溺死体で発見されるまでの経緯および溺死事故の現場となつた前記水門の、
工事前後の状況とその変化は以上のとおりであり、この認定に反する証拠はない。
 右事実から、Aがどのような経路をへて前記のような地点において溺死体となつ
て発見されるにいたつたのかについて考察するのに、先ず、虫かごと魚の入つたば
けつが同水門東側コンクリート準壁上流の土のう部分上方第二段階の上に置いてあ
つたこと、Aが「からみ」の下流約二メートルの所で溺死体で発見され、その付近
で溺死したと考えられること、から見て、同人は事故当日の午後単独で水棲昆虫等
の採集のため同水門東側護岸付近に行き、前記虫かごやばけつの置いてあつた近く
で虫取りをしようとしていて誤つて溺死したものと考えられる。
 では、虫かご等の置いであつた近くのどの辺から、どのようにして水中に入つた
かを更に考えてみると、同水門の東側コンクリート壅壁は、水面上約二メートルの
高さに突出していて、その上から腹ばうなどの姿勢で「すいで」により水中をすく
うことは不可能に近く、Aが近くの第一段階からならば容易に水中をすくうことが
できるのにわざわざコンクリート壅壁の上からすくおうとし誤つて川に転落したと
考える余地はほとんどない。もしかりにそのような場合を想定すれば、Aの身体に
何らかの擦過傷などが残ると考えられるのに乙第一二号証、第一七号証によつても
その痕跡がないので、この点からも右のような事故と考える余地は存しない。ある
いはまたAが壅壁上を歩いているうちにつまづいて水中に転落したことも考える余
地がないではないが、これは稀有の事例であり、またこの場合も前同様Aの身体に
何らかの傷痕が残ると考えられるから、かような事態も考慮外としてよいと思われ
る。
 さらに、土のうの第一段階に立ち入つているうちに、積み重ねられた土のうの一
部が崩落し、それにともなつてAが水中に転落したと考えることも、土のうが崩落
したと認められる確かな証拠がなく無理である。
 したがつて、事故前後の前記状況から、もつとも自然に考えられるのは次の二つ
の場合である。
 すなわち、Aは、「すいで」により水中をすくうのに、最も便利な土のう部分の
第一段階のうち東側コンクリート壅壁寄りの部分に立ち入つているうちに前記のよ
うに足場が悪いため、何らかのはずみで転落し(この場合は土のう部分の高さから
みて傷痕が残るとは必ずしも考えられない。)、「からみ」をこえてその下流の深
みに移動したか、あるいは第一段階の石積護岸寄りの部分かまたはすぐ近くの石積
護岸部分から川の浅瀬に立入つている(石積護岸の構造、傾斜、高さから推して同
部分から川に立入ることも可能であつたと考えられる。)うちに深みにはまり、
「からみ」をこえてその下流の一層深い場所に移動したか、そのいずれかにより前
記遺体発見場所付近において、水泳ができないことと相俟ち、脱出不能となつて溺
死したものと推断される。
 三 そこで、愛媛県知事の同水門設備の管理について瑕疵があつたかどうかにつ
いて検討する。
 (一) 前記二で認定したところによれば、同水門付近は工事施行後水深の増加
等により格段に危険な状態となつたというべきであるところ、証人B2、同B3
(いずれも原審)、同B5の各証言と右認定の事実とを総合すると、同水門および
その上、下流付近一帯は工事施行の以前においては水深が浅く平常時において溺死
事故が発生することなど全く考慮する余地のない安全な場所であつて、付近の住
民、ことに児童らが時々魚釣りや魚すくいなどに来ていたことが認められ、また乙
第一号証ないし第四号証、第八号証ないし第一〇号証、原審および当審における検
証の結果によると、同水門の付近はa町の市街地からかなり離れていて人家の密集
している地域とはいえないが、近くにはかなりの数の人家が散在していることが認
められこれらの認定に反する証拠はない。
 したがつて、付近住民の居住状況や従前からの前記利用状況(それが児童らの遊
び場といえる程度に多数の者により頻繁に利用されていたかどうかを問わない。)
からすれば、同水門付近の一連の改修工事が完了して壅壁の整備が完成し、危険が
除去されたかあるいは付近住民が危険な状態について的確な認識をもつて対処でき
るような状況となつた場合は格別、前記のようにいまだ第一期工事を終えて間もな
く、かつ同水門の上流一帯の状況が従前と変りがないという前記諸事情のもとで
は、児童などの付近の住民が同水門付近が格段に危険な状態に変化したことについ
ての的確な認識をもたないままに、従前と同様に同水門付近において魚取りなどを
しようとして水際に近づき、あるいは川内に立ち入ることが予測されないことでは
なかつたのである。そうだとすると、ひいては本件のような経過をたどつて同様の
結果をもたらすこともまた予測できないことではない状態にあつたというべきであ
る。
 しかして、前記認定の事情からすると、Aが溺死するにいたつたそもそもの原因
は同水門付近が右のような危険な状態に変化したのに、水泳のできない同人がその
変化について的確な認識をもたずに同所付近に立ち入つたことにあるといわねばな
らない。
 (二) ところで、公の営造物の設置ないし管理に瑕疵がある場合(国家賠償法
二条)とは、当該営造物が本来備えるべき安全性を欠いている状態をいうものであ
るが、何が瑕疵に当るかは各種の営造物について周囲の環境、通常の利用方法等の
関係を考慮して具体的に決すべきものである。河川についてはこれが自然公物とし
て自然に存するままで前記法条の公の営造物に当るかについては問題があるが、少
くとも本件のようにその管理方法として水門を設置したような場合にはこれが設
置、管理について営造物責任の問題を生ずることは論ずるまでもない。
 控訴人は河川管理について瑕疵があるとされるのは、河川の通常予見すべき危
険、すなわち河川の機能の喪失、減退等にともなう災害等の危険に対して河川の通
常備えるべき安全性を欠く場合を指すものであり、河川についてどの程度の安全性
を保持すべきかは、各河川の具体的な危険状況に応じ、財政上の能否をも勘案して
総合的に決定されるべきこと、前記水門設備においては工事が計画どおり完成し、
機能上何ら支障がなかつたこと、河川は自然公物であり、住民一般の自由使用に供
されるものであつて、住民は自らの責任において危険を防止しつつ河川を利用すべ
きものとして従来からそのように利用されてきたこと、したがつて、河川の個々の
危険箇所につき管理者が危険防除の措置を講ずる義務はないこと、さらに本件事故
が被害者側の一方的な過失に起因して生じたこと、をそれぞれ理由として、前記水
門設備の設置、管理につき瑕疵がなかつたと主張している。
 河川がいわゆる自然公物であつて、公衆一般の自由使用に供され、個々の河川利
用にともなう危険は、利用者たる住民自らの責任により防除されるべきものとする
河川の特殊性は一般には認められてよいし、また河川管理者が河川管理のために設
置した営造物がその設置目的に従つて通常備えるべき安全性を備え、営造物の機能
上にも欠陥のない限り一応、主張のように安全性を具備していると認めて差支はな
い。
 <要旨>しかし、河川管理者が河川管理のために新たな営造物を設置し、河川の従
来の状態に変更を加えたときは、河川ないしは営造物のもつべき安全性とは
叙上の点のみに止まらないのであり、河川が長く一定の状態のまま一般公衆の共同
の使用に供される公共用物であることの性質上、利用者がその変更に十分気付かず
従前どおりの使用を継続するであろうと、その状況からして予測するのが相当とさ
れ、かつ、その使用により危険の生ずるおそれのあることが予見されるような場合
には、かような状態に対し危険防除のための適切な処置が施されることもまた河川
ないし営造物のもつべき安全性の一つであると解される。したがつて、そのような
処置がなされずに放置されることは河川ないし営造物のもつべき安全性を欠くもの
であり、その管理に瑕疵がある場合に該るというべきである。
 ただかような安全性を欠くや否やは、前記のような河川自体の性質、周囲の環
境、従来の利用状況等を考慮して慎重に決定すべき問題である。
 そこで、本件の事実関係に即して、前記水門設備の安全性の欠如の有無について
検討するのに、本件では、工事途中(第一期工事としては一応終了したが工事全体
としては未完成である。)の前記のような状況からして、前記(一)に認定のよう
な事故発生のおそれが予見される事情にあつたものである。
 したがつて、同水門設備の管理者たる知事は右の事態に応じ、その危険を防除す
るための適宜の方途を講じて設備の必要とする安全性を保持すべきものであつた。
その具体的な方法としては、水深が深くかつ水深が急激に変化する状況にあつて、
付近に立入ることが最も危険な状態をもたらすと認められる同水門護岸のうち、東
側土のう積みの部分への付近住民の立ち入りを遮断(付近における金網等の防護柵
の施設等)するとか川中において「からみ」付近に近づかないような措置く(杭な
どによる防止)をとることが最も緊要であつたと解される。
 しかるに、乙第二号証、第三号証、第六号証、第八号証、第一〇号証の各写真を
見ても、また原審検証の結果によつても、本件事故当時までに、右のような措置が
講ぜられた形跡はなく、むしろ、証人B4の証言(原審および当審)、同B6の証
言および弁論の全趣旨によれば、管理者側は、同水門の設備に以上のような危険が
ともなうことについて全く認識を欠き、また前記のような措置を講ずるときは却つ
て出水時における護岸の安全性、堅牢性を害し、あるいは付近住民の河川に対する
自由使用を妨げるものとして、前記のような措置はもとより、そのほかにも付近の
住民に危険を警告するための特段の方途を講じなかつたことが認められる。
 そうだとすると、右水門設備は如上の危険防除の方法を備えていなかつた点にお
いて通常備えるべき安全性を欠いていたことになり、その管理者たる知事の営造物
管理に瑕疵があつたことは明らかである。
 そして、営造物が通常備えるべき安全性を欠くときは、たとえそれが予算上の制
約にもとづく場合であつても、その設置、管理に瑕疵がないとすることはできない
(最高裁判所昭和四〇年四月一六日判決、判例時報四〇五号九頁参照、まして本件
においては、前述の程度の危険防除措置を講ずることが必要とされるのにすぎない
ので、予算上の制約は問題とするにたらない。)し、またAの溺死事故について被
害者である同人自身およびその監護者である被控訴人らにも過失があつたと認めら
れることは後記のとおりであるが、それだからといつて、前記水門設備の安全保持
に欠けるところがあつたことに変りはなく、その管理に瑕疵があつたことを否定す
ることはできない。
 控訴人の主張はいずれも採用できない。
 四 以上に説示したとおり、公の営造物である前記水門設備について、知事の管
理に瑕疵があつたところ、Aの溺死事故は右瑕疵がなければ避けることができたと
考えられ、瑕疵と死亡事故との間に因果関係を肯定することができるので、控訴人
は国家賠償法三条一項、二条により河川管理の費用負担者として(河川法三条一〇
条一項、五九条、河内川は弁論の全趣旨に照し、二級河川で愛媛県知事が同河川と
その管理施設である同水門設備とを合わせて管理し、控訴人はその費用を負担する
関係にある。)、同水門設備管理の瑕疵に基きAが溺死したことによつて生じた損
害を被控訴人らに賠償すべきである。
 五 そこで賠償すべき損害の額について次に検討する。
 (一) Aの得べかりし利益の喪失による損害についての判断は原判決のそれと
同じであるから、原判決の理由四、(一)の記載のうち、初めから、原判決二六枚
目裏五行目までを引用する。
 控訴人は、Aの得べかりし利益の喪失による損害額を定めるのについて、同人の
死亡により被控訴人らが支出することを免れた養育費を控除すべきであると主張す
るけれども、当裁判所は養育費を控除すべきではないと解する(最高裁判所、昭和
三九年六月二四日判決、民集一八巻五号八七四頁参照)ので、右主張は採用できな
い。
 しかし、右損害のうち控訴人の賠償すべき金額を定めるのについては被害者A自
身およびその監護義務者である被控訴人らの、後記のような過失を斟酌すべきであ
る。
 1 被害者A自身に過失があつたと認めるべきことは、原判決の判断と同様であ
るから、原判決の理由四、(一)のうち(過失相殺)の項の記載(但し初めから、
原判決二七枚目裏四行目「認められる。」までおよび同八行目「右認定事実によれ
ば」から二八枚目表一〇行目まで、に限り、かつ、二七枚目裹一二行目「転落する
こと」の次に「等」を加入する。)をここに引用する。
 2 次に被控訴人らの過失の有無についてみるのに、原審および当審の検証の結
果、証人B7の証言並びに被控訴人C本人尋問の結果(当審)によれば、前記水門
付近は、水が濁つていて河床の状態を見通せる状況にはなかつたけれども同水門が
深くなつていることは渕のような様相を呈しているその場の様子を眺めることによ
つても、ある程度推測できる状況にあり、また被控訴人らは同水門の設置により同
所付近の河床が低下して深くなり危険な状態に変つたことについてかなりの程度そ
の認識をもつていたことは否定できないところである。
 さらに本件事故の一週間前ごろにも被控訴人Cが水棲昆虫採集のためAを連れて
同水門付近に行つたことがあることは先に認定したとおりであつて、Aが水棲昆虫
採集のために危険な同水門付近に行くおそれがあることは被控訴人らにとつて予測
されないことではなかつたと思われる。そして、前記1において判断したようにA
が当時九才九か月の小学児童であつて、危険についての事理を弁識し、危険回避の
ための適応力をかなりの程度備えていたものと認められるにしても、その能力がい
まだ十分でないことはその年令に照して明らかなのであり、もし水泳のできないA
が独りで前記水門付近に立ち入るときは具体的な危険状況の場において判断を誤
り、ひいては本件のごとき事故死を遂げるにいたることも、稀有ではなく、予測し
得ないことではなかつたと考えざるを得ない。そうだとすると、事故当日の午後、
被控訴人富子からAに対し、午前に昆虫採集をしたのでそれ以上の昆虫採集をやめ
るよう注意を与見たにしても、結局Aを独りで前記水門付近に昆虫採集に行くのに
任かせてしまつた被控訴人らに親権者として尽すべき監護義務を怠つた過失がある
というべきである。
 3 しかして、本件において控訴人の営造物管理に瑕疵がありその責任がいわば
無過失責任として把握されるべきものとしても、本件の事故が河川の管理施設たる
水門設備内の出来事であつて、元来河川が一般公衆の自由使用に供される反面にお
いて、利用者自らの注意により危険を回避しながら利用されてきたという一般の事
情にも無視できないものがある。そして、このような事情をも加味して考察すると
きは、被害者側の過失は決して少なくないといわなければならない。
 以上の諸般の事情を含めて被害者側の過失を斟酌すれば、前記Aの得べかりし利
益の喪失による損害額三四〇万一、五五七円のうち、控訴人の賠償すべき金額を一
二五万円と定めるのを相当と認める。
 (二) A自身の精神的損害に対する慰藉料についての判断は原判決のそれと同
じく金三五万円をもつて相当と認めるので、原判決の理由四、(二)の記載をヒこ
に引用する。
 (三) 被控訴人らがAの父母であることは当事者間に争いがなく、同人らはA
の右(一)、(二)の合計金一六〇万円の損害賠償債権を各その二分の一ずつ、す
なわち金八〇万円ずつ相続したことが明らかである。
 (四) 被控訴人ら各自の精神的損害に対する慰藉料については、成立に争いの
ない甲第一号証によると、Aは二人姉弟で被控訴人らの唯一の男子であつたことが
認められ、被控訴人らがAを不慮の事故により失つた精神的打撃が甚大であつたで
あろうことは推察するに難くない。そして、そのほか前記認定の瑕疵の態様、事故
発生の経緯、前述の被害者側の過失等諸般の事情を併せて考慮すれば、被控訴人ら
各自の慰藉料はそれぞれ金一〇〇万円をもつて相当と認める。
 六 以上に説明したとおりであつて、控訴人は被控訴人ら各自に対し、前記五の
(三)および(四)の合計金一八〇万円を損害の賠償として支払う義務があるか
ら、被控訴人らの請求はそれぞれ控訴人に対し、右金額およびこれに対する弁済期
後の昭和四六年九月九日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金
の支払を求める限度で理由があり認容すべきであるが、そのほかは理由がなく棄却
すべきである。
 よつて、原判決は以上の結論と異なる限度で相当でなく、本件控訴は一部理由が
あるので、原判決を主文第一項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九五
条、九六条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 合田得太郎 裁判官 伊藤豊治 裁判官 石田眞)
別 紙 第 一
<記載内容は末尾1添付>
別 紙 第 二
<記載内容は末尾2添付><記載内容は末尾3添付>

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