弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人青山新太郎の上告趣意第一点について。
 所論第一段は、大津地方裁判所長浜支部判事上坂広道が、被告人被疑者に対し弁
護人を選任し得る旨を告知した「尚判事ハ弁護人選任シ得ル旨告ケタリ」との調書
の記載(記録二九丁裏)が不動文字で印刷されていることを非難し、これを無効の
記載であり従つてこの事項の告知がなかつた結果となるものであると主張するので
あるが、記録を査閲すると、正に前示所論指摘のとおりの不動文字による記載がな
されているのである。しかし不動文字の記載と雖も、その記載事項である告知の事
実のあつたことを否定するに足る資料のない限りは、その記載が不動文字によつて
なされているとの一事によつて、その記載を無効であると即断することを得ないこ
とは殆んど喋辞を要しないところであらう。しからば、前示反対資料(告知がなさ
れなかつたとの資料)の認められない本件においては(否、該調書を見ると、所論
指摘記載の次に「右録取シ続ミ聞ケタルニ相違無キ旨申立テ署名栂印シタリ」との
記載があり、又そのとおり被告人(当時被疑者)の署名栂印のあることが明らかで
ある)、論旨の謂われないこと言を要しない。されば、所論告知のなかつたもので
あることを前提としての憲法第三四条違反の主張は、これに対する判断を用いるの
要を認めない。しかのみならず勾留処分の当否については別途の救済手段があるの
であつて、これをもつては上告理由となし得ないことは当裁判所の判例とするとこ
ろである(昭和二三年(れ)第四二四号、同年一二月二七日大法廷判決参照)。さ
れば論旨は何れにするも理由がない。
 次に所論第二段は、刑訴応急措置法第四条は被告人の請求があることを前提とす
るものであつて、裁判所が積極的に被告人に対してかゝる請求権のあることを告知
する義務までも規定したものでないことは、当裁判所の判例とするところである(
昭和二四年(れ)第二三八号、同年一一月三〇日大法廷判決参照)。そして、記録
を調査しても、被告人から右請求のあつた事実はこれを認められないのであるから、
この点の論旨も理由がない。
 次に所論第三段は、刑訴応急措置法第三条の被疑者の弁護人選任権は旧刑訴法第
三九条第二項所定の者についても認められていることは所論のとおりではあるが、
それだからといつて、所論のように刑訴応急措置法の解釈上これ等の者に対してま
で、被疑者が勾留された事実並びに弁護人の選任権なる旨を通知しなければならな
い義務を裁判所に課しているものとは到底解することはできない。それ故本件被告
人の勾留に際し裁判官が所論の通知手続をとらなかつたとて、素より何等の違法は
ない。この点の論旨も理由がない。
 以上のとおりであるから、刑訴施行法第二条旧刑訴第四四六条に従い、主文の如
く判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 岡本梅次郎関与
  昭和二四年一二月二八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    粟   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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