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平成27年10月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第3179号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成27年9月8日
判決
原告P1
同訴訟代理人弁護士赤木真也
同訴訟代理人弁理士内山美奈子
同補佐人弁理士川西幸治
被告サンエス自動車興業株式会社
同コルハート株式会社
上記2名訴訟代理人弁護士川村和久
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告に対し,連帯して550万円及びこれに対する平成25年4
月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告サンエス自動車興業株式会社は,原告に対し,330万円及びこれに対
する平成25年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告コルハート株式会社は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成
平成25年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1請求の要旨
本件は,原告が,その有する2件の商標権に係る登録商標に類似する標章を
被告らが使用したと主張して,商標権侵害の(共同)不法行為に基づき,①被
告らに対し,被告コルハート株式会社(以下「被告コルハート」という。)が
製作管理した被告サンエス自動車興業株式会社(以下「被告サンエス」とい
う。)のホームページでの標章使用について,連帯して,平成23年5月から
平成25年4月までの2年間の全損害756万円の一部として500万円及び
弁護士費用50万円の損害賠償,②被告サンエスに対し,同被告の看板及び名
刺での標章使用について,平成16年5月から平成25年4月までの9年間の
全損害4536万円の一部として300万円及び弁護士費用30万円の損害賠
償,③被告コルハートに対し,同被告が運営するポータルサイトでの標章使用
について,平成20年11月から平成25年4月までの54か月間の全損害1
れらに対する不法行為後である平成25年4月4日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の各支払を請求した事案である。
2前提事実(争いがないか証拠により明らかに認められる。)
(1)当事者
被告サンエスは,自動車一般修理サービス等を営む会社である。
被告コルハートは,自動車関連商品や自動車の販売等を営む会社である。
(2)原告の商標権(甲1及び2)
原告は,別紙登録商標目録記載の商標権の商標権者である(以下,別紙登
録商標目録記載1,2の商標権をそれぞれ「原告商標権1」,「原告商標権
2」といい,それらに係る登録商標をそれぞれ「原告商標1」,「原告商標
2」といい,それらを併せて「原告商標権」,「原告商標」という。)。
(3)被告らの標章使用
ア被告サンエスは,過去において,同被告の車検,点検業務や自動車鈑金
及び自動車貸与等の業務の紹介及び受注のための広告として,同被告のホ
ームページにおいて,別紙被告標章目録記載1の標章(以下「被告標章1」
という。)を使用し(甲4),被告コルハートは,同ホームページを製作
管理していた。
イ被告サンエスは,過去において,①同被告の車検,保険代理業務等のた
めの従業員の名刺において,別紙被告標章目録記載2の1及び2の標章
(以下「被告標章2」という。)を使用し,②同被告の店舗看板において,
同目録記載3の標章(以下「被告標章3」という。)を使用した(甲5)。
ウ被告コルハートは,過去において,同被告が運営し,全国から様々な自
動車整備工場や自動車販売会社の登録を受け付けて,全国の整備工場や鈑
金工場を検索するポータルサイトにおいて,別紙被告標章目録記載4の標
章(以下「被告標章4」といい,被告標章1ないし4を併せて「被告標章」
という。)を使用した(甲3及び6)。
エ被告サンエスによる被告標章の使用は,①原告商標権1の指定商品・役
務中,「自動車の修理又は整備」(37類)に関する使用であり,②原告
商標権2の指定商品・役務中,「損害保険契約の締結の代理,損害保険に
係る損害の査定,損害保険の引受け,保険料率の算出」(36類),「自
動車の貸与」(39類),「自動車の車検のための検査代行,自動車の車
検のための申請代行,車検のための自動車の検査」(42類)に関する使
用である。
被告コルハートによる被告標章の使用は,①原告商標権1の指定商品・
役務中,「自動車の修理又は整備」(37類)に関する使用であり,②原
告商標権2の指定商品・役務中,「広告」,「商品の販売に関する情報の
提供」(35類),「自動車の車検のための検査代行,自動車の車検のた
めの申請代行,車検のための自動車の検査」,「電子計算機のプログラム
の設計・作成又は保守」(42類)に関する使用である。
オ本件訴えの提起日は,平成26年4月9日である。
3争点
(1)被告標章の使用が商標的使用に当たるか。
(2)被告標章は原告商標に類似するか。
(3)被告標章の使用が商標法26条1項3号に該当するか。
(4)原告の損害の有無及び額
(5)消滅時効の成否
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(被告標章の使用が商標的使用に当たるか)について
【被告らの主張】
「○○110番」という場合の「110番」とは,比喩的に,電話での相談
等に応じる組織を示す接尾語として,従来より広く使用されている語句であり,
被告らが使用した「車110番」という標章は,「車に関する(緊急の)相談
窓口」又は「車に関して困ったことがあれば,いつでもすぐに弊社にご連絡く
ださい」というような,単なる顧客誘因のキャッチフレーズないし宣伝文句と
して用いていたものである。需要者は,ホームページ等に記載された被告らの
商号等により,役務の出所を識別しているのが実態であり,「車110番」と
の語句を見て,被告らの役務の出所を識別してはいないから,被告標章の使用
は商標的使用ではない。
【原告の主張】
(1)役務の内容を表す語句に「110番」を付記した商標が,特許庁によって
多数登録されていることからすると,それらが単なるキャッチフレーズない
し宣伝文句として認識されているとはいえない。
(2)被告標章1は,被告サンエスのホームページにおいて,車検等の役務を宣
伝するトップページに,非常に目立つように,「鈑金レスキュー」との文言
よりも上に,本文より大きなフォントで,黒字の背景に白抜きで表記してい
る。また,被告サンエスのURLにおいても,「car-110」が「sannesu」よ
りも前に表記されており,被告標章1は,単なるキャッチフレーズや宣伝文
句ではなく,自社の役務を表示するものとして使用されている。また,ホー
ムページに商標を使用することは,検索サイトにおいて自社のホームページ
を検索結果一覧に掲載する役割も果たすことからも,商標的使用に当たる。
被告標章2は,いずれも名刺の上部に,社名よりも上部に記載されている
(被告標章2の2については,他のどの文字よりも大きく記載されている。)
上,「car-110」が被告サンエスのホームページにおいて使用されているこ
とからも,被告標章2を含んだ名刺を受領した者にとって,「車110番」
が被告サンエスの車検等の役務であると容易に認識できる。
被告標章3は,車検等を役務として行う店舗において,敷地内に看板とし
て表示されるものであること,同一敷地内には被告サンエスの商号を示す看
板もあること,被告標章3は白地に赤文字という非常に目立つ態様で大きく
表記されていることから,被告標章3を含んだ看板を見た者は,「車110
番」が被告サンエスの車検等の役務であると容易に認識できる。
被告標章4は,自動車の修理等の役務を宣伝するホームページにおいて,
いわゆるタイトルを表示するタイトルバー部分に表示されている上,「新着
情報」欄や「登録会員のご紹介」部分などホームページの至る所で使用され
ており,アドレスにおいても「car-110.com」とされているから,ホームペ
ージを閲覧した者は,「車110番」を被告コルハートの提供する役務を表
示するものと容易に認識できる。また,被告標章1と同様,検索サイトにお
いて自社のホームページを検索結果一覧に掲載する役割も果たすことからも,
商標的使用に当たる。
また,これらの使用態様からすると,被告コルハートは,「車110番」
との名称により,全国の自動車整備会社を会員とするグループを形成してお
り,被告サンエスは,そのグループの1社として,被告標章1ないし3を使
用していたのである。
(3)これらからすると,被告標章はいずれも商標として使用されているといえ
る。
2争点(2)(被告標章は原告商標に類似するか)について
【原告の主張】
(1)原告商標1は,別紙商標目録記載1のとおり,二段併記の外観を有し,二
段併記商標では,上段と下段の観念が同一ないし類似する場合には,分離観
察が可能である。原告商標1では,下段が「中古車の110番」と記載され
ているところ,その自然な称呼は,「ちゅうこしゃのひゃくとーばん」であ
る。他方,上段は,「くるま」,「ヒャクトーバン」である。したがって,
原告商標1の称呼は,下段の「ちゅうこしゃのひゃくとーばん」と,上段の
「くるまひゃくとーばん」の二つが生じる。なお,「くるま」,「ヒャクト
ーバン」の表記は,フォントサイズからして読み仮名ではないが,読み仮名
と見る場合には,それに従い,「くるまのひゃくとーばん」の称呼が生じ,
また,「中古車の110番」の自然的称呼として,「ちゅうこしゃのひゃく
とーばん」の称呼が生じる。また,原告商標1からは,「車の110番」と
の観念が生じる。
他方,被告標章は,いずれも,ゴシック体の「車」と「110番」の文字
を組み合わせた外観を有し,「くるまひゃくとーばん」の称呼,「車の11
0番」という観念が生じる。
したがって,原告商標1と被告標章とは,称呼及び観念が同一である。ま
た,両者とも,後半部分の「110番」が同一であり,原告商標1の前半部
分には上段に比較的大きな文字で「くるま」,下段には「車」の文字があり,
日常用語的にも「車」は「中古車」を含むものであるから,両者は,外観も
相紛らわしい。よって,両者は類似する。
被告らは,被告標章は原告商標1の外観上の特徴を有していないと主張す
るが,原告商標1が単に二段併記していることをもって外観上の特徴とはい
えない。
(2)原告商標2は,別紙商標目録記載2のとおり,左側部分が「くるま」及び
「中古車」と二段併記され,「の」により,右側部分の「110番」との結
合商標となっている。左側部分上段の「くるま」は,下段と全く同じフォン
トであることから読み仮名ではない。したがって,原告商標2については,
上段から右側に読み進める「くるまのひゃくとーばん」の称呼と,下段から
右側に読み進める「ちゅうこしゃのひゃくとーばん」の称呼が生じる。
また,上記の構成のうち,「110番」は識別力のある部分ではなく,
「くるま」「中古車」もそれだけでは識別力を持たない。したがって,自然
に生じる称呼は,「くるまのひゃくとーばん」と「ちゅうこしゃのひゃくと
ーばん」である。なお,前者では下段の「ちゅうこしゃ」が,後者では上段
の「くるま」がそれぞれ除かれているが,それは,「中古車」,「くるま」
が識別力を持たない部分だからである。また,このように上段と下段を横一
連の読み方をしても,二つの称呼から想起される観念がほぼ同一であるため,
分離して読まれやすくなる。
なお,商標全体から,「くるまちゅうこしゃのひゃくとーばん」の称呼も
生じ得るが,冗長である一方,続けて読むことで何かの意味合いが生まれる
わけではないこと,業界では「中古車」を「くるま」と省略して称呼するこ
と,左側部分下段の「中古車」の概念は,同上段の「くるま」の概念に包含
されることからすると,原告商標2をあえて冗長な「くるまちゅうこしゃの
ひゃくとーばん」と呼ぶ必要性に乏しい。
そして,観念については,「中古車」が「くるま」に含まれており,「1
10番」との関係ではほぼ同等に近い意味に用いられることからすると,観
念はいずれにせよ「車の110番」である。
また,外観は,識別力のない「中古車」を除いた部分が分離して認識され
るから,「くるまの110番」と認識される。
他方,被告標章は,いずれも,ゴシック体の「車」と「110番」の文字
を組み合わせた外観を有し,「くるまひゃくとーばん」の称呼,「車の11
0番」という観念が生じる。
したがって,原告商標と被告標章とは,称呼と観念が同一である。また,
両者とも,後半部分の「110番」が同一であり,原告商標2の左側部分に
は上段に下段と同程度の大きさで「くるま」,下段にも「車」の文字がある
から,両者は,外観も相紛らわしい。よって,両者は類似する。
【被告らの主張】
(1)原告商標1は,①左側部分が上下二段の「くるま」,「中古車」の文字
(なお,「くるま」は「中古車」の文字に比べて明らかに文字が小さいこと
から,「中古車」の読み仮名として配されたものと認識される。),②中間
に格助詞「の」,③右側部分に上下二段の「ヒャクトーバン」「110番」
の文字(なお,「ヒャクトーバン」は「110番」の文字に比べて明らかに
文字が小さいことから,「110番」の読み仮名として配されたものと認識
される。)の三つの部分の構成よりなる。原告商標1は,全体の構成として
一体的にまとまった印象を与えており,これに接した取引者,需要者は,そ
れぞれの構成が相互に深く関連する,一体的な標章であると認識,理解する。
したがって,原告商標1において,「くるまの110番(あるいはヒャクト
ーバン)」のみが,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を
与える部分と認めることはできない。そして,称呼としては,原則的には読
み仮名に従い「くるまのひゃくとーばん」の称呼が生じ,「ちゅうこしゃの
ひゃくとーばん」という称呼も付随的に生じる。また,観念は,「中古車に
ついての緊急相談窓口」といった観念が生じる。
原告商標2は,①左側部分が上下二段の「くるま」,「中古車」の文字か
らなり(ここでも,その位置関係や原告商標1からの推測から,「くるま」
は「中古車」の読み仮名として配されたものと認識される。),②その右側
に「の110番」と,左側の2列の中間部分に記載されている。原告商標2
は,全体の構成として一体的にまとまった印象を与えており,これに接した
取引者,需要者は,それぞれの構成が相互に深く関連する,一体的な標章で
あると認識,理解する。したがって,原告商標2において,「くるまの11
0番」のみが,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与え
る部分と認めることはできない。そして,称呼としては,原則的には読み仮
名に従い「くるまのひゃくとーばん」の称呼が生じ,「ちゅうこしゃのひゃ
くとーばん」という称呼も付随的に生じる。また,観念は,「中古車につい
ての緊急相談窓口」といった観念が生じる。
(2)被告標章は,いずれも「車」と「110番」の文字をほぼ連接して一体的
に横書きした外観を有し,「くるまひゃくとーばん」との称呼を生じ,「車
についての緊急相談窓口」といった観念を生じさせる。
(3)原告商標は,上記のように一体的な商標であり,特に「中古車」の文字に,
一般的ではない「くるま」という読み仮名を組み合わせた点にある種奇抜な
印象をもたらすのであり,この点に外観上の有意な特徴を見いだし得る。
他方,被告標章は,「車」「110番」という識別力の弱い標章を単に連
接して配しただけの構成であって,外観上相違する。また,称呼においても
「の」の有無といった相違があり,観念も,「中古車」は「車」の下位概念
であるから相違する。
したがって,被告標章は原告商標に類似しない。
(4)また,原告商標権は,争点(1)に関する被告らの主張のとおり,キャッチ
フレーズないし宣伝文句として理解されるものであるが,にもかかわらず登
録が認められたのは,①ロゴ全体の雰囲気や組合せの言葉との関係による外
観上の顕著な特徴,②広告宣伝の仕方によって,独自の識別力を有している
ことが強調されたためである。したがって,①からすると,原告商標と同様
の外観上の特徴を有していない標章は非類似とされるべきであるし,②から
すると,実際に広告宣伝に使用された商標と異なる標章は非類似とされるべ
きである。
そして,被告標章は,原告商標1のような「中古車」の上に読み仮名のよ
うに「くるま」と記載し,「110番」との間に格助詞「の」を挿入する外
観や,原告商標2のような,「くるま」と「中古車」を上下2段にして,
「くるま」を「中古車」の読み仮名のように配置し,「110番」との間に
格助詞「の」を挿入する外観と異なり,実際に原告が使用していたとする,
「車/買取/110番」をデザイン的に特徴のある書体で特筆大書したもの
とも異なるから,仮に称呼及び観念が類似するとしても,被告標章は原告商
標に類似しない。
3争点(3)(被告標章の使用が商標法26条1項3号に該当するか)について
【被告らの主張】
被告らが使用した「車110番」という標章は,「車に関する(緊急の)相
談窓口」又は「車に関して困ったことがあれば,いつでもすぐに弊社にご連絡
ください」というような,単に顧客誘因のキャッチフレーズないし宣伝文句に
すぎず,役務に関して,その質や効能,態様を普通に用いる方法で表示したも
のにすぎないから,商標法26条1項3号の適用又は類推適用により,原告商
標権の効力は及ばない。
【原告の主張】
争う。
4争点(4)(原告の損害の有無及び額)について
【原告の主張】
(1)被告サンエスは,被告コルハートが製作管理する自社のホームページにお
いて,遅くとも平成23年5月頃以降,平成25年4月4日までの少なくと
も2年間,原告商標権1の関係では「自動車の修理又は整備」(37類)に
関して,原告商標権2の関係では「自動車の貸与」(39類)及び「自動車
の車検のための検査代行」等(42類)に関して,被告標章1を使用し,被
告コルハートは同ホームページを製作管理してきた。
原告は,登録商標1類・1件につき,原則として毎月10万5000円
(税込み)で他者に使用許諾しているから,本件でも商標法38条3項によ
る使用料相当額は,同じ基準によるべきである。
したがって,被告サンエスのホームページでの被告標章1の使用につき,
原告が受けるべき金銭の額は,756万円(105,000×3×24)となるところ,
本件ではその一部である500万円及び弁護士費用50万円を請求する。
(2)被告サンエスは,遅くとも平成16年5月頃以降,平成25年4月までの
9年間,上記(1)と同じ役務のほか,「損害保険契約の締結の代理」等の業
務(36類)に関して,同被告従業員の名刺及び店舗看板において,被告標
章2及び被告標章3を使用した。
したがって,被告サンエスの名刺及び店舗看板での被告標章2及び被告標
章3の使用につき,原告が受けるべき金銭の額は,4536万円(105,000
×4×108)となるところ,本件ではその一部である300万円及び弁護士費
用30万円を請求する。
(3)被告コルハートは,遅くとも平成20年11月頃以降,平成25年4月頃
までの54か月間,上記(1)と同じ役務に関して,その運営するポータルサ
イトにおいて被告標章4を使用し,被告サンエス等の同ポータルサイトに登
録している会社等に被告標章4の使用を許諾した。
したがって,被告コルハートのポータルサイトでの被告標章4の使用につ
き,原告が受けるべき金銭の額は,1701万円(105,000×3×54)となる
ところ,本件ではその一部である200万円及び弁護士費用20万円を請求
する。
(4)被告らは,原告に損害が発生していないと主張する。しかし,原告は,株
式会社共進オートサービスの代表取締役として,自動車の買取り業務のため
の名刺に原告商標1を使用しているほか,原告商標を使用した中古車買取り
専用サイト(「中古車の買取110番」)を運営し,全国で買取り業務を行
っており,現に福岡県久留米市や福岡市の在住者からの買取りも行っている
から,原告商標には一定の業務上の信用ないし顧客吸引力がある。他方,被
告標章は著名でなく,他に被告らが信用ないし顧客吸引力のある標章を使用
しているものではないことからすると,被告標章の使用が被告らの売上げに
寄与していないとはいえない。
【被告らの主張】
(1)当初,被告サンエスのホームページで使用されていたのは「車検110番」
との標章であったが,時期不明の頃から被告標章1が使用されるようになり,
平成25年4月頃に原告から警告を受けて以降は使用をしていない。
(2)
標章2を使用していたが,平成25年4月頃に原告から警告を受けて以降は
使用をしておらず
て被告標章3を短期間使用していたが,時期不明の頃に使用を中止した。
(3)被告コルハートが,ポータルサイトで使用していたのは「車検110番」
との標章であったが,時期不明の頃から被告標章4が誤記により使用される
ようになった。同ポータルサイトで最も目立つように記載されているのは
「車検110番」であり,被告標章4はその下に目立たない文字で記載され
ているにすぎない。
(4)原告商標にはほとんど顧客吸引力は認められないし,自動車修理や車検業
の業界においては,大手ディーラーや大手自動車用品販売店でない限り,地
域に密着した小規模事業者の商圏は一般に極めて地理的に限定されており,
原告の商圏と被告らの商圏とは全く重なっておらず,原告商標は,被告らの
商圏である九州北部においては,原告の役務を識別するものとして全くその
存在を知られていない。他方,被告標章4は,「車検110番」というメイ
ンの標章に小さく付随するものであり,被告標章1ないし3は,自社商号や,
「鈑金レスキュー」,「カーコンビニ倶楽部」という他のキャッチフレーズ
や著名商標と共に用いられたり,道路脇の看板に大きくない字で書かれてい
るにすぎない。このように,被告らの事業の売上げに被告標章の使用は全く
寄与していないから,原告には損害が発生していない。
5争点(5)(消滅時効の成否)について
【被告らの主張】
平成23年4月8日以前の被告らの行為については,消滅時効が完成してい
る。被告らは,本件の平成26年6月12日付け答弁書において,同時効を援
用する旨の意思表示をした。
【原告の主張】
原告が,被告らによる侵害行為を知ったのは平成25年4月1日頃であるか
ら,消滅時効は完成していない。
第4争点に対する当裁判所の判断
1争点(2)(被告標章は原告商標に類似するか)について
(1)商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用さ
れた場合に,商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否
かによって決すべきであり,商標の類否の判断に当たっては,同一又は類似
の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引
者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,かつ,その商品又は役
務に係る取引の実情を踏まえた上で全体的に考察すべきものである。そして,
商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品又は役務につ
き出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず,上記三点の
うち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違するか,又は取
引の実情等によって,何ら商品又は役務の出所を誤認混同させるおそれが認
められないものについては,これを類似商標と解することはできない(最高
裁昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成9年3
月11日判決・民集51巻3号1055頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,
商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標
そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又
は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場
合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認
められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁平成20年
9月8日判決・裁判集民事228号561頁参照)。
(2)原告商標1について
ア原告商標1は,別紙商標目録記載1のとおりであり,①ゴシック体横書
きで「中古車」,その右側に②小さなゴシック体で「の」,さらにその右
側に③太ゴシック体で①よりはやや小さく「110番」とし,④「中古車」
の上には小さなゴシック体で「くるま」,⑤「110番」の上には小さな
ゴシック体で「ヒャクトーバン」と記載してなるものである。
そして,④及び⑤部分は,それぞれ①及び③部分の上に小さく添えるよ
うに平仮名及び片仮名で記載されていることからすると,①及び③部分の
読み仮名として記載されていると認識されると認められる。
イ原告商標1の外観については,上記④及び⑤は読み仮名で,文字も小さ
なことから,原告商標1に接した需要者には,①から③部分の「中古車の
110番」が特に強い支配的な印象を与えると認められる。
ウ原告商標1の称呼は,読み仮名に従い,④②⑤の構成から,「くるまの
ひゃくとーばん」の称呼が生じると認められる。しかし,これは,同時に,
外観上強く支配的な印象を与える「中古車の110番」の称呼としては不
自然なものであることからすると,その自然的称呼である「ちゅうこしゃ
のひゃくとーばん」の称呼も生じると認められる。
なお,原告は,業界では,「中古車」を「くるま」と省略して呼ぶ取引
の実情があると主張する。しかし,たとえ中古車を実際に取引する場面で,
対象となる中古車のことを「くるま」と呼ぶことがあるとしても,「中古
車の110番」と表記された商標に接した場合まで,それを「くるまのひ
ゃくとーばん」と自然に称呼するとは認められない。
エ原告商標1の観念については,外観上強く支配的な印象を与える「中古
車の110番」のうち,「中古車の」の部分からは,文字どおりに「中古
車についての」の観念が生じると認められる。また,「110番」につい
ては,一般に「110番」が警察に緊急通報する周知の電話番号であるこ
と,そこから転じて,「○○110番」という場合,「○○についての緊
急対応先」とか「○○についての相談窓口」といった意味で使用される例
が多数見られること(乙8,弁論の全趣旨)からすると,同様に,「緊急
対応先」とか「相談窓口」といった観念が生じると認められる。したがっ
て,「中古車の110番」全体からは,「中古車についての緊急対応先・
相談窓口」という観念が生じると認められる。
なお,原告商標1からは,読み仮名に従い「くるまのひゃくとーばん」
の称呼が生じることは前記のとおりである。しかし,これは,飽くまで
「中古車の110番」の読み仮名として認識されるものであることからす
ると,原告商標1に接した需要者が,このような読み仮名の部分のみに着
目して,「自動車についての緊急対応先・相談窓口」といった,自動車一
般に関する観念を想起するとは認められない。
(3)原告商標2について
ア原告商標2は,別紙商標目録記載2のとおりであり,①左側部分に,ゴ
シック体横書きで,(ア)上段に「くるま」,(イ)下段に「中古車」を配し,
②右側部分に,左側部分の上下段の中間高さ部分に,(ア)ゴシック体で
「の」,その右側に(イ)太ゴシック体で「110番」を配してなるもので
ある。
そして,①(ア)の「くるま」部分は,①(イ)の「中古車」部分と同じ字体
及び大きさの文字が用いられていることからすると,原告商標2に接した
需要者が,前者が後者の読み仮名であると認識するとは認められず,前者
と後者は並列的に記載されていると認識すると認められる。
イところで,外観上,原告商標2は,①(ア)(イ)の「くるま」及び「中古車」
の部分が,同じ字体,同じ大きさの文字で,左右両端がそろうように表さ
れていること,②(ア)(イ)の「の110番」が,①(ア)(イ)の「くるま」及び
「中古車」の上下段の中間高さ部分に配されることにより①(ア)(イ)の「く
るま」及び「中古車」の双方をくくる形となっていることからすると,視
覚上,まとまりのある一体的なものとして認識されると認められ,特に
「くるま」と「の110番」の部分だけが注意をひくとは認められない。
また,①(ア)(イ)の「くるま」及び「中古車」と②(イ)の「110番」は,
自動車に関する役務に関しては,いずれも一方だけでは出所識別力が認め
られないことからすると,両者は一体的に認識されると認められる。以上
からすると,原告商標2は,外観上,全体が一体的なものとして認識され
ると認めるのが相当である。
ウまた,原告商標2全体からは,②(ア)(イ)の「の110番」が①(ア)(イ)の
「くるま」及び「中古車」の双方をくくる形となっていることからすると,
「くるまちゅうこしゃのひゃくとーばん」の称呼が生じると認められる。
これについて原告は,このような冗長な称呼は取引の実情として生じな
いと主張するが,14音とはいえ,一気に発音し得るものであるから,原
告の主張は採用できない。
また,原告は,原告商標2は,実際の取引上は「くるまの110番」と
称呼されると主張する。しかし,そのことを認めるに足りる証拠はない。
さらに,原告の実際の使用態様は,①小さくゴシック体横書きで「中古車
の」,その右側にやや大きくゴシック体で「買取」,さらにその右側に更
に大きく「110番」と記載され,かつ,「中古車」の上には小さく「く
るま」と記載される構成(甲13の各号)や,②小さくゴシック体横書き
で「中古車の」,その右側に大きくゴシック体で「110番」と記載され,
かつ,「中古車」の上には小さく「くるま」と記載される構成(甲24,
ないし27),さらには,③大きく「車」,その下に小さく「買取」,そ
の下に大きく「110番」と記載される構成(甲27)等があり,①及び
②では,「くるま」が最も小さく目立たない態様で記載されていることか
らすると,それらの実際の使用態様の標章が「くるまの110番」と称呼
されるのが通常であるとは考え難い。また,③は「くるま110番」と称
呼されるのが自然であるが,そもそも上記の実際の使用態様が原告商標2
と同一であるとは認められないから,その称呼が,原告商標2の称呼とし
て通常生じる称呼であるとは認められない。したがって,原告の主張は採
用できない。
エまた,原告商標2全体からは,「自動車と中古車についての緊急対応先
・相談窓口」といった観念が生じると認められる。
この点について,原告は,「中古車」は「くるま」に観念上含まれ,
「110番」との関係ではほぼ同等に近い意味に用いられると主張すると
ころ,この主張は,原告商標2からは上記のような「自動車と中古車につ
いての」という観念は生じず,「自動車についての」という観念のみが生
じるとの主張であると解される。
確かに,「中古」の意味は,中古車に関係するものとしては,「やや古
くなったもの。ちゅうぶる。」とされる(「広辞苑」第6版)が,世上,
中古車の語が使用される際には,「中古車買取」や「中古車市場」のよう
に,一度購入されたが再び売りに出された自動車という趣旨で用いられる
のが通例であり,自動車一般よりも限局されたものを意味する。そうする
と,「110番」との関係で見ても,「緊急対応先・相談窓口」が,自動
車一般についてのものなのか,一度購入されたが再び売りに出された自動
車についてのものなのかによって,想起される緊急対応や相談の内容も変
わってくることになるから,「中古車」と「くるま」が「110番」との
関係ではほぼ同等に近い意味に用いられるとはいえず,原告の上記主張は
採用できない。
オそして,前記のとおり,原告商標2を構成する「くるま」,「中古車」,
「110番」の語は,自動車関係の役務に関しては,それぞれ単独では出
所識別力が認められない語であるから,特にそれらのうちの一部又は一部
の組合せのみが需要者に強い印象を与えるとも認められない。
この点について,原告は,原告商標2のうち,「くるま」,「中古車」
が出所識別力のない語であることから,それらがそれぞれ捨象された「中
古車の110番」,「くるまの110番」が,それぞれ分離して認識され
ると主張する。しかし,原告商標2を構成する「くるま」,「中古車」,
「110番」の語が,いずれも単独では出所識別力が認められない語であ
ることからすると,そのうち「くるま」だけ又は「中古車」だけが捨象さ
れて,残りの部分のみが分離して認識される合理的理由があるとはいえな
い。他方,「くるまの110番」も「中古車の110番」も,「自動車に
ついての緊急通報先・相談窓口」,「中古車についての緊急通報先・相談
窓口」との観念を有することからすると,それが自動車関係の役務に使用
される場合には,役務そのものを示していて出所識別力がないとはいえな
いものの,役務を暗示しており,識別力が弱いことは否定できず,それら
が需要者の間で周知性を有しているとも認められないから,原告商標2に
おいて,それら部分のみが特に強い印象を与えるとも認められない。した
がって,原告の上記主張は採用できない。
カ以上検討したところを総合すると,原告商標2は,その全体が一体のも
のとして認識されるというべきであるから,その全体を被告標章と対比す
べきであり,その一部である「くるまの110番」部分のみを抽出して,
これを被告標章と対比するのは相当でないというべきである。
(4)被告標章について
被告標章は,いずれも,白地に黒文字又は黒地に白文字のゴシック体で,
「車110番」と一体に横書きしてなるものであり,「くるまひゃくとーば
ん」の称呼と「自動車についての緊急対応先・相談窓口」との観念が生じる
と認められる。
(5)原告商標と被告標章の類否について
ア原告商標1の読み仮名による称呼は「くるまのひゃくとーばん」であり,
被告標章の称呼は「くるまひゃくとーばん」であるから,ほぼ同一である。
しかし,その外観は,原告商標1では,「中古車の110番」が強く支配
的な印象を与えるのに対し,被告標章では「車110番」であり,相違す
る。また,観念も,原告商標1では,「中古車についての緊急連絡先・相
談窓口」であるのに対し,被告標章では,「自動車の緊急連絡先・相談窓
口」であり,前記のとおり,「中古車」が,一度購入されたが再び売りに
出された自動車と理解されることからすると,観念も異なる。そして,ほ
ぼ同一である称呼も,原告商標1で強く支配的な印象を与える「中古車の
110番」についての自然でない読み仮名によって初めて生じるものであ
り,それにより「車の110番」を想起するわけでもないことからすると,
原告商標1では,「中古車の110番」との外観とそれに伴う「中古車に
ついての緊急連絡先・相談窓口」との観念が,上記の読み仮名による「く
るまのひゃくとーばん」の称呼による印象を凌駕し,役務の出所を誤認混
同するおそれがあるとは認められないから,原告商標1は,被告標章と類
似するとはいえない。
イ原告商標2と被告標章は,その外観において大きく異なり,称呼におい
ても,原告商標2が「くるまちゅうこしゃのひゃくとーばん」で,被告標
章が「くるまひゃくとーばん」と異なる。また,観念については,原告商
標2では,「自動車と中古車の緊急通報先・相談窓口」であり,被告標章
が「自動車の緊急通報先・相談窓口」であって,「自動車の緊急通報先・
相談窓口」である点で重なるが,原告商標2では,一度購入されたが再び
売りに出された自動車という特別な場合についての緊急通報先・相談窓口
という観念も生じる点で相違するから,観念も類似しないというべきであ
る。したがって,原告商標2は被告標章と類似するとはいえない。
2以上によれば,原告の本件請求は,その余の点について判断するまでもなく
理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
松宏之
裁判官
田原美奈子
裁判官
大川潤子

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