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平成11年(行ケ)第249号 審決取消請求事件
 判    決
原      告     株式会社エポ
代表者代表取締役      【A】
 訴訟代理人弁理士    【B】
 被      告  【C】
 訴訟代理人弁理士      【D】
 主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 事    実
第1請求
特許庁が平成10年審判第30567号事件について平成11年6月10日にし
た審決を取り消す。
第2前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
 原告は、別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)の別紙に示すとおりの構
成からなり、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のも
の)別表第7類「建築専用材料、その他本類に属する商品」とする登録第2031
565号商標(昭和59年2月13日出願、昭和63年3月30日設定登録、平成
10年5月6日存続期間の更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であ
る。
 被告は、平成10年6月2日、商標法50条の規定に基づき、本件商標の指定商
品中「建造物組立てセット」につきその登録を取り消す旨の取消請求をし、同年7
月1日、その旨の予告登録がされた。
 特許庁は、この請求を平成10年審判第30567号事件として審理した結果、
平成11年6月10日、被告の請求と同旨の審決をし、その謄本は、同年7月5日
原告に送達された。
 2 審決の理由
 審決の理由は、審決書のとおりであり、被請求人(原告)は、本件審判請求の予
告登録前3年以内に日本国内において、本件商標を請求に係る商品「建造物組立て
セット」について使用していなかったものと認定し、本件商標の登録は、指定商品
中、前記商品について取り消すべきものである旨判断した。
第3 審決の取消事由
 1 審決の認否
  (1) 審決の理由1(本件商標)、同2(請求人の主張)及び同3(被請求人の
答弁)は認める。
  (2) 同4(当審(審決)の判断)のうち、審決書4頁2行ないし13行は認め
るが、その余は争う。
 2 取消事由
 審決は、本件商標は、組立式マンホールには使用されていないと誤って認定し、
かつ、組立式マンホールが「建造物組立てセット」に該当しないと誤って判断した
ものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
  (1) 取消事由1(本件商標の使用対象についての認定の誤り)
 審決は、「上記カタログ、宣伝用テレホンカード等は、もっぱら「人孔鉄蓋維持
修繕工法」あるいは「下水道管路新設工法」等のエポ工法と称する工法についての
記述・宣伝であり、「組立式マンホール」について広告・宣伝がなされているもの
とは認められない」(審決書4頁14行ないし18行)と認定するが、誤りであ
る。
   ア 「建造物組立てセット」の典型である組立物置セットにおいて、本体の
組立物置とその組立作業ないし設置工事がセットで販売されているように、原告の
エポ工法は、マンホール設置工事に関する工法であり(甲第2、第3号証)、原告
は、組立式マンホールとその設置工法をセットで販売しているものである。
 すなわち、組立式マンホールは、調整リング、斜壁、直壁、管取付け壁及び底版
の各部材で構成されている(甲第17号証)。組立式マンホールは、この世に商品
として出されてから約20年が経過しており、下水道の業界では組立式マンホール
が工場生産の商品であることが常識となっており、下水道協会認定の種々の組立マ
ンホールが商品として存在して市場に流通している(甲第18号証の3)。
 そして、原告は、多くの企業と各種エポ工法について、実施権契約を締結してい
る(甲第4号証)。エポ工法をライセンスすることは、その工法に使用する装置、
部材をライセンシーに供給することを約することであるが、原告は、提携会社であ
りエポ工法の実施権の許諾先である羽田ヒューム管株式会社から組立式マンホール
(ユニホール規格)の提供を受け、本件商標を付して販売することができるもので
ある。
   イ 被告は、マンホールの設置深さは現場ごとに異なるから、規格化して一
式のセット商品として販売することは不可能である旨主張するが、マンホールの需
要者は、設置深さを指定して注文し、メーカーがそれに応じて各部材を適宜選択し
て組立式マンホールセットとして販売するものである。
  (2) 取消事由2(建造物組立てセット該当性についての判断の誤り)
 審決は、「被請求人が本件商標の使用を主張している「組立式マンホール」は、
取消請求に係る商品「建造物組立てセット」にはあたらないものといわなければな
ら(ない)」(審決書5頁8行ないし11行)と判断するが、誤りである。
   ア マンホールは、蓋、蓋受枠、シャフトの専用部材一式からなり、シャフ
トを構成する単位体をマンホール側塊といい、蓋及び蓋枠は金属製、マンホール側
塊は一般にコンクリートで構成されている建造物である(甲第5号証)。
 特許の国際分類においても、マンホールは地下構造物に分類されており、この各
部材は、E02D 29/12に「マンホールの立孔」(マンホールシャフトを指
す)、同29/14に「マンホールまたは類似物の蓋;蓋の枠」に分類され(甲第
6号証)、マンホールは構造物として捉えられている。
 したがって、マンホールは、構造物であることが明らかである。
  イ そして、マンホールの蓋を開けて勝手に侵入すれば、刑法の建造物侵入罪
(刑法130条)を構成することは明らかであるから、マンホールは建造物であ
る。
第4 審決の取消事由に対する認否及び反論
 1 認否
 原告主張の審決の取消事由は争う。
 2 反論
  (1) 取消事由1(本件商標の使用対象についての認定の誤り)について
   ア 「下水道管路新設工法」等のエポ工法に標章を付することは、その工法
を使用した工事等請負の役務について標章を使用しているにすぎず、その資材たる
組立式マンホールなる商品について標章を使用したことにはならない。
 また、これらの工事の請負において、これに使用する資材を個別に販売すること
があるとは認められない。
   イ さらに、マンホールは径や深さが現場ごとに著しく異なるから、マンホ
ールの設置は、現場ごとの径や深さの設置形態に対応することが宿命付けられてお
り、これを現場に共通に設置できるように規格化して一式のセットをなす商品とし
て流通させ、販売するといったことは不可能である。原告主張の組立式マンホール
なるものも、審決が認定するとおり、各部材を工場製品化し、システム化して組立
式にしたものであるとしても、その取引形態は個別商品であって、これがセット商
品とされて流通し、取引されるものではない。
  (2) 取消事由2(建造物組立てセット該当性についての判断の誤り)について
   ア 商標法施行規則(平成3年通商産業省令第70号による改正前のもの。
以下、同じ。)の別表商品区分第7類は、用途主義を主とし、これに材料主義を加
えて、「建築または構築専用材料 セメント 木材 石材 ガラス」とするととも
に、「建築または構築専用材料」を更に材料主義に従って「金属製」、「陶磁
製」、「リノリューム製」、「プラスチックス製」、「アスファルト製」、「その
他」等に区分してそれぞれ具体的な商品を例示している。この例示によれば、審決
が、組立式マンホールなるものを「金属製マンホール」あるいは「セメント」概念
の商品であると認定したことに誤りはない。
  イ 「建造物」の「建造」とは、「建設造営すること。建物・船などをつくる
こと」(広辞苑)を意味する。この一般的な意味に照らせば、原告が主張する組立
式マンホールなるものは、土木分野における「地下構築物」であるとしても、「建
造物」とすることはできない。
          理    由
1 取消事由2(建造物組立てセット該当性についての判断の誤り)について
 (1) 原告は、取消事由1において、調整リング、斜壁、直壁、管取付け壁及び底
版の各部材をセットとした組立式マンホールに本件商標を使用している旨主張す
る。
 (2) しかしながら、仮に原告の上記本件商標の使用の事実が認められるとして
も、原告主張の組立式マンホールは、商標法施行規則別表第7類にいう「建造物組
立てセット」には該当しないものといわざるを得ない。
 すなわち、「建造」とは、「建設造営すること。建物・船など大きな構造のもの
をつくること。」を意味するものであり、「建造物」とは、「建物・船・塔など、
建造したもの」と説明されている(広辞苑第5版参照)ところ、「建造物」が建物
や建築物以外の工作物を含む広い概念であることは明らかであるが、地下に埋設さ
れるマンホールが一般的に「建造物」と指称されていることを認めるに足りる証拠
はない。さらに、乙第1号証によれば、特許庁商標課編商品区分解説(昭和55年
4月7日改訂版発行)においても、「この概念に属する「建造物組立てセット」と
は、特定の使用目的を有する簡易な組立式建造物の専用部材であって、一式のセッ
トとして取引に供されるもの(例えば、物置組立てセット)をいう。」(25頁)
と説明されていることが認められる。これらの点からすると、「建造物組立てセッ
ト」に、地下に設置されるマンホールの組立セットが含まれると解することはでき
ず、他にこの解釈を左右するに足りる証拠はない。
 原告は、マンホールの蓋を開けて勝手に侵入すれば、刑法130条の建造物侵入
罪を構成することは明らかであるから、マンホールは建造物である旨主張する。し
かしながら、各法律等において同じく「建造物」の語が使用されていても、その意
味するところは、各法律等の規制目的等に応じて異なってくるものであるから、例
えば地下に構築された電気設備の保管室に通じるマンホールのようなものが、刑法
130条の解釈上、上記保管室の一部として建造物に当たると解する余地はあり得
るとしても、そのことをもって、原告主張の組立式マンホールのセットが商標法施
行規則別表第7類にいう「建造物組立てセット」に当たると解することはできず、
原告の上記主張は採用することができない。
 (3) よって、原告主張の取消事由2は理由がない。
2結論
 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない
から、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年11月25日)
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 塩  月  秀  平
    裁判官 市  川  正  巳

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