弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す、控訴人は浜松市a町b番地のc宅地五十坪
七合五勺に対する浜松市戦災都市計画による仮換地第一工区九十九ブロツク四号三
十一坪五合九勺の地上に、建物の所有を目的として期間の定めなく、賃料一坪につ
き一ケ年金十八円の約旨の賃借権と同一の内容を有する使用収益権を有することを
確認する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、
被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出、認否、援用は、控訴代理人におい
て、「控訴人が換地予定地の指定を受けた第一工区九十九ブロツク六号の土地の従
前の土地である浜松市d町e、f番合のgの宅地百坪は、控訴人が昭和二十三年六
月三日訴外Aから買い受け、同月三十日その所有権移転登記手続を経たものであ
る。また、控訴人は戦災復興都市計画土地区劃整理地区内の浜松市a町b番地宅地
七十六坪につき賃借権ある旨の権利申告を、当時の土地所有者Bの賃貸証明書を添
付して、昭和二十二年二月二十七日浜松市長宛に提出した。」と陳述し、被控訴代
理人において、「右控訴人主張の事実を認める。」と答弁し、立証として控訴代理
人において、甲第四ないし第六号証を提出し、当審における控訴本人の供述を援用
し、被控訴代理人において、原審における証人Cの証言、当審における検証の結果
及び証人D、同E、同Fの各証言並びに被控訴本人の供述を援用し、甲第四ないし
第六号証の各成立を認めた外、原判決事実摘示の記載と同一であるから、ここにこ
れを引用する。
         理    由
 旧浜松市a町b番地のc宅地五十坪七合五勺(以下「従前の土地」と略称する)
はもと訴外Bの所有であつて、控訴人は古くからこの土地を賃借して地上に控訴人
主張の建物を所有し、且つこれに居住していたこと、被控訴人は昭和二十一年二月
五日右土地を買い受け、その所有権移転登記手続を経たこと、昭和二十三年五月十
一日浜松市戦災復興都市計画に基ずき右土地に対する換地予定地として同計画第一
工区九九ブロツク四号三十一坪五合九勺(以下「換地予定地」と略称する)が指定
され、土地所有者たる被控訴人に対し右指定通知がなされたこと、控訴人に対して
は右土地の借地権に基ずく換地予定地上の使用権に関する指定通知がなされていな
いこと及び控訴人は別にその所有にかかる浜松市d町e、f番合のg宅地百坪を従
前の土地として都市計画第一工区九九ブロツク六号に換地予定地の指定通知を受け
たこと、はいずれも当事者間に争のないところである。
 そこで被控訴人は、控訴人が本件「換地予定地」上に使用権の指定通知を受けて
おらないことを理由として、控訴人は本件借地権を主張することはできない、と主
張するので、この点について考えるに、本件「換地予定地」の指定通知がなされた
当時施行されていた特別都市計画法第十四条の規定によれば、従前の土地の所有者
及びその土地について権原に基ずき使用収益することのできる者は、同法第十三条
の規定による指定通知を受けた日の翌日から、その換地予定地についてその権利の
内容たる使用収益をなすことができる、旨規定してあつて、右指定通知がなされな
い以上これを使用収益することはできないものと解すべきは勿論であるが、一方同
法第一条、当時施行されていた都市計画法第十二条、耕地整理法第十七条、第三十
条の規定によれば、換地は原則として従前の土地とみなされる結果、従前の土地の
上に有する権利は換地処分により当然その換地上に移行するものというべきであつ
て、この理は換地予定地として指定された土地についても、なんら別異に<要旨>解
すべきいわれはないから、従前の土地に対する借地権者は、その所有者に対する関
係においては、換地予定地の上に同一内容の使用権を主張することをうべ
く、ただその使用権についての指定通知があるまで公法上その権利の行使を停止さ
れるに止まるものと解すべきである。従つて控訴人は「従前の土地」について借地
権を有するならば「換地予定地」について使用権の指定通知がなくとも、被控訴人
に対しその権利の確認を求めることはできるものといわざるをえない。
 次に被控訴人は、控訴人がその主張する借地権を放棄した、と主張するのでこの
点について審案するに、控訴人が同市d町e、f番合のg宅地百坪を従前の土地と
して本件都市計画第一工区九九ブロツク六号の換地予定地の指定通知を受けたこと
は前示認定のとおりであるところ、右換地予定地の指定を受けるにいたつた経緯に
ついて、成立に争のない乙第一号証、当裁判所の検証の結果、原審証人C、同G、
同B、原審及び当審証人E、同D、当審証人Fの各証言、当審における控訴人(但
し後記措信しない部分を除く)、被控訴人の各供述並びに弁論の全趣旨を合わせて
考えるときは、次の事実を認めることができる。
 控訴人はその先代の頃から「従前の土地」を当時の所有者Bから賃借し、その地
上に建物を所有して薬局を経営してきたものでありところ、浜松市戦災復興都市計
画に基ずき区劃整理が施行されることとなつたについて、長期間営業を継続してき
た右土地の附近に土地を所有したいと考え、地主のBや浜松市都市計画課長H及び
区劃整理委員Dらにはかつた結果、同一工区内に別の土地の所有権を取得してこれ
を従前の土地として浜松市に提供すれば、その換地として従来の居住地の附近に換
地指定を受けることができることを知り、右Dのあつ旋により前示d町の土地をそ
の所有者Aから買い受けその登記を経、これを従前の土地として換地指定の申請を
なし、これによつて第一工区九九ブロツク六号の土地(控訴人現住地)の換地予定
地指定を受けたものである。而して右d町の土地は右買受当時既に右都市計画に基
ずき道路敷地として収用されることに確定していた土地であつて、控訴人はただ右
の換地指定を受くることのみを目的として、右土地が道路敷となることを知りなが
らこれを買い受けたものである。また浜松市区劃整理委員会においては、右d町の
土地はその位置が同市の中心地帯から遠く隔つた地域であり、且つ当時の状況は原
野であつて、それ自体としては価値の低い土地であるが、控訴人が永く同市の中心
地帯である「従前の土地」に借地権を有し、ここに居住していた実績を考慮に入れ
て、特に飛換地として右九九ブロツク六号の土地を換地予定地に指定したものであ
る。なお右特別の措置をとるに当つて、区劃整理委員Dは控訴人から、右換地予定
地の指定を受ける上は別に「従前の土地」に対する借地権はこれを主張しない旨の
言質をえていたので、右の特別措置をとつたものである。従つて市当局において
も、控訴人は既に自己の営業を継続するために支障のない右換地予定地の指定を受
けたのであるからこれを以て満足しているものと見て、別に本件「換地予定地」の
上に使用権の指定をしなかつたものである。一方被控訴人は、これまた古くから旧
a町b番のh、にある三十一坪五合九勺の土地の上に存する家屋を、所有者Bから
賃借して物品販売業を営んでいたものであるところ、今次大戦において罹災し、そ
の後あらためてその同一土地(但し二十六坪七合一勺に減坪となる)を賃借してそ
の地上に建物を建築したのであるが、右都市計画による区劃整理が施行されること
になつたので、その同一場所に所有地を得たいと考え、地主B及びG都市計画課長
らにはかつた結果、附近の土地の所有権を取得して、これを従前の土地として換地
指定の申請をなすこととし、右Bから「従前の土地」(右地上に控訴人が借地権を
有した)を買い受け、これを従前の土地として換地指定の申請をなし、よつて本件
「換地予定地」の指定を受けた。しかして右土地は控訴人が借地権を有する土地で
あることは、当時被控訴人も知つていたのであるが、被控訴人は当時Bから、控訴
人は別に九九ブロツク六号に換地予定地の指定を受けることになつているのである
から、この土地について借地権を主張することはない、旨の説明を受けたので、か
く信じて換地予定地の指定を受けたものである。
 以上認定の事実に反する控訴人の供述部分は、前示各証拠に照らし容易に措信し
難く、その他右認定を覆えすに足る証拠はない。
 右認定事実によつて考えるに、控訴人は被控訴人に対して本件借地権を放棄する
旨の明示の意思表示はしなかつたにしても、少くとも暗黙のうちに本件借地権を放
棄する意思を表明したものであつて、これあるがために控訴人は右九九ブロツク六
号の換地予定地の指定を受けることができたものであることは極めて明らかであ
る。よつてその換地予定地の指定がなされた後にいたつて、更に本件「換地予定
地」に対して使用権を主張することはとうてい許さるべきではない。されば控訴人
の本件「換地予定地」上の借地権は既に消滅したものであるから、これが確認を求
める本訴請求は失当であつて、控訴人の請求を棄却した原判決は結論において正当
であるから、本件控訴は理由なきものとして棄却すべく、訴訟費用の負担につき民
事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し、主文のとおり判決した。
 (裁判長判事 岡咲恕一 判事 亀山脩平 判事 脇屋寿夫)

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