弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一、 原判決を取消す。
     二、 別紙第一目録記載の土地中、同第二図面に赤斜線で表示してある
部分(八〇四、二三平方米、坪数にして二四三、二八坪)につき、控訴人Aが二分
の一、控訴人Bが四分の一、控訴人Cが四分の一の各共有持分権を有することを確
認する。
     三、 被控訴人は控訴人らに対し右土地部分につき、それぞれ右第二項
記載の割合による各持分権移転の登記手続をせよ。
     四、 本訴によつて生じた訴訟費用中、控訴人ら(承継前の一審原告亡
Dの分を含む)と被控訴人との間に生じた部分は全部被控訴人の負担とし、参加に
よつて生じた部分は参加人の負担とする。
         事    実
 控訴人ら訴訟代理人は「主文第一ないし第三項同旨(但し、第三項では記載土地
部分の分筆をもあわせ求める。)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とす
る。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人
らの負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の主張及び証拠関係は次のとおり附加するほか原判決事実摘示と同一
(但し、原判決中「原告」とあるのをすべて「控訴人ら先代亡D」とし、原判決末
尾添付の第一目録を本判決末尾添付の第一目録のように改め、原判決末尾添付の第
二図面の「A」及び「B」(Bは四カ所)として摘示してある部分をそれぞれ本判
決末尾添付の第二図面の「青斜線部分中政府から売渡を受けたが占有を放棄した土
地と記載した一劃」及び「赤斜線部分」とし、原判決四枚目表三行目の「Q」を
「Q」と、同五枚目表七行目の「R」を「R」と各訂正する。)であるからここに
これを引用する。
 (被控訴人の主張)
 (一) 別紙添付第一目録記載の土地については公用開始行為がないから被控訴
人はこれを公物と主張する趣旨ではない。しかし、右土地は被控訴人京都市の児童
公園予定地でいわゆる予定公物であり(地方自治法二三八条第三項(昭和三九年四
月一日施行)参照。なお、右施行により廃止された京都市財産及び営造物条例第二
条第二号も右と同じ趣旨を規定していた。)予定公物は法律上公物に準じて取扱わ
れるのが通常であるから、右土地は私法上の時効取得の対象とならない。
 (二) かりに時効取得の適用があるとしても、控訴人ら先代D(以下先代と略
称)が占有していた部分、すなわち、別紙添付第二図面赤斜線部分(以下本件土地
と略称)及び同青斜線部分中「政府から売渡を受けたが占有を放棄した土地」と記
載した一劃(以上の二つを以下本件土地等と略称)につき、同人は終始他主占有を
していたもので所有の意思をもつて自主占有していたことはなかつたからこの点に
おいて取得時効の要件を欠く。すなわち、先代は昭和一二年頃から本件土地等をそ
の管理人である補助参加組合(以下単に組合という)から無償で借受け耕作してい
たもので他主占有にほかならない。そうして、本件土地はもともと右組合の土地区
画整理事業にあたり被控訴人京都市の児童公園として予定してあつた関係上その後
昭和二三年一一月一日土地区画整理事業の完了と同時に被控訴人京都市の所有に帰
し(旧都市計画法第一五条の三。組合規約第二一条にも「公園敷地はこれを京都市
所有地として特別処分をする。」と定められている)昭和二九年一〇月二八日にそ
の登録がされた。先代が本件土地等を占有していた関係は右土地が以上の如く京都
市所有となつた後も変りがなく、依然他主占有である。もつとも、先代は昭和二三
年一二月二日自作農創設特別措置法第一六条により政府より京都市a区b町c番地
のdの一部(これが本件係争土地でないことは原審で主張したとおりであるが、か
りに本件土地を含むとしても)の売渡処分を受けたけれども、右売渡処分はその後
昭和三四年五月二二日に取消されており、右取消しは売渡処分の無効宣言にほかな
らないから(無効理由は控訴人主張の理由のほか、自創法第五条第五項違反の重大
且つ明白な瑕疵がある点にも求め得る。すなわち、本件土地は右条項にいう「近く
土地使用の目的を変更することを相当とする農地」であるにもかかわらずその指定
がなされないまま買収された。)、先代は新権原によりさらに本件土地を所有の意
思で占有を始めたと解することはできない。
 (三) かりにそうでないとしても先代には本件土地占有の始め次のような過失
があつた。
 (1) 先代に対する前記売渡処分の効果は売渡通知書の記載によつて決められ
るべきものである。しかるに、先代が組合から使用を許されていた本件土地と、売
渡通知書記載の土地の表示とが異つているのであるから、このような場合、被売渡
人としてはこの点を十分調査すべきにかかわらずその調査を怠り、その使用地が売
渡されたものと信じて占有を続けていた過失がある。かりに売渡土地の範囲につい
て現地で農地委員や同補助委員の指示を受けてこれを信じたとしても、右委員らは
買収及び売渡処分につき何らの権限をもたないからやはり過失を免れない。
 (2) さらに、先代は組合に勤務し組合の土地区画整理事業の施行中その土地
分譲案内ビラ(乙第四号証)を配布する等本件土地が将来被控訴人京都市の所有と
なり児童公園が造られることを知つていたのであるから、たとえ京都府知事から売
渡処分通知を受け、自己が使用している土地を売渡されたものと信じたとしても、
同人はそれまで組合の好意で昭和一二年頃以来無償でこれを使用してきたのである
から、右売渡処分に一応の不審を抱くのが当然であり、従つて農地委員あるいは同
補助委員らに確かめるのが当然であり、この点の調査を怠つた点に過失がある。
 (3) かりに以上の主張に理由がないとしても、昭和三〇年三月二五日被控訴
人京都市建設局公園緑地課技術吏員らが本件土地を含む公園新設予定地の測量を完
了した上、同三一年一一月に本件十地に公園予定地の標識を建てるため現地に行つ
たところ、先代は鍬を振り上げ大声で怒鳴つて右標識の設置を妨害したので前記技
術吏員は右標識の設置を断念するほかなかつた。このよらに、先代は暴力で被控訴
人京都市の本件土地に対する管理を妨害したのであるから、その後の先代の本件土
地に対する占有の保持は平穏なものではなく、取得時効はこの時点で中断されたも
のと解すべきである。
 (四) 本件土地を含む組合の土地区画整理地域につき自創法第五条第四号に基
く京都府知事の買収除外指定のなかつたこと、及び先代の死亡により控訴人らがそ
の相続人となつたことは認める。
 (五) なお、本件土地については昭和三〇年一月二七日旧所有者Eから被控訴
人京都市に所有権移転登記手続がされた。
 (控訴人らの主張)
 (一) 建設省が本件土地を被控訴人京都市都市計画児童公園と決定したことは
認めるが、被控訴人京都市は未だこれを公園予定地としているだけで、その公用開
始行為はない。
 (二) 先代に対する売渡通知書記載の物件表示は単に売渡の目的物件を特定す
るにすぎず、同人は従前から耕作中の本件土地を「旧三三番地の一畑九畝一〇歩」
として農地委員会から現地で指定を受けた上(補助委員Fは現地を指示してこの土
地の売渡手続きをしてやる、と言つた)その売渡を受けたものである。右売渡通知
書記載の地番と先代が耕作中の土地の地番が一致しないのは、買収計画樹立時と売
渡処分時との間に地番変更があつたのに関係機関がこれを看過したためである。従
つて、先代が右地番不一致の点に不審を抱かず、その点を調査しなかつたことを過
失とはいえない。
 (三) 本件土地は国が自創法によつて買収し、これを従前から耕作中の先代に
売渡し、同人はその対価も支払い、その後所有の意思で占有を始めたのであるか
ら、その占有が自主占有であることはいうまでもない。また、国の売渡処分を正当
と考えて所有権取得を信ずるのは当然のことである。およそ一般国民は行政庁の行
う行政処分は法律に従い正当になされたものと信ずる。かかる行政処分の効力を疑
うようなことは高度の法律知識を有するもののみがなしうることであつて、先代の
ような法律に無知なものにかかることを要求できるものではない。従つて、先代が
前記売渡処分によつて所有権を取得したと信ずるについては何の過失もない。
 (四) 先代がその意に反して本件土地に立てられようとした公園予定地の標識
の設置を拒否したとしても、かかる行為は本件土地の占有の保持につき法律上許さ
れない強暴な行為であるとはいえないから、先代の占有が平穏であることに変りは
ない。
 (五) 先代は昭和三九年五月二一日死亡したので控訴人らが相続人となつた
が、その相続分は控訴人A(右先代の二女)が二分の一、控訴人B(先代長女亡G
の長女)、控訴人C(右Gの長男)が各四分の一の割合である。
 (六) なお、本件土地を含む組合の土地区画整理区域については自創法第五条
第四号の買収除外の指定はされていない。
 (七) 当審において組合がした本訴被控訴人京都市に対する補助参加の申出に
異議がある。補助参加組合は被控訴人との間にその主張のような利害関係はない。
かりにそうでないとしても、その本案に関する主張を否認する。
 (補助参加組合の参加申出並びに本案に関する主張)
 (一) 補助参加組合(単に組合という)は以下のような参加の理由があるから
本訴につき被控訴人を補助するため参加の申出をする。すなわち、(イ)組合が被
控訴人京都市に本件上地を譲渡したのは元来組合が土地区画整理法に基く公法人で
あつて、京都府知事の認可も受けており、被控訴人との間にも拘束力を有する組合
規約(乙第七号証)第二一条第六項「公園敷地ハ之ヲ京都市有地トシテ特別処分
ス」との規定上の義務に基くものであつて、もし被控訴人が本訴において敗訴すれ
ば組合としては本件土地に代る面積を被控訴人にあらためて譲渡する義務が残る。
(ロ)また、げんに被控訴人が本件土地の使用を妨げられているため、組合はやむ
なく本来他に売却分譲する筈であつた西隣地を被控訴人に無償提供し、他方その公
租公課だけは永年にわたり負担し続けており、その結果、清算の結了を遅延させら
れている。以上のとおり組合は被控訴人の本訴の結果につき利害関係を有する。
 (二) 本案について。
 (1) 先代は本件土地占有の始め善意ではなかつた。すなわち、組合は昭和一
二年以来右先代を小使いとして雇つていたものでその間、組合長H個人のはからい
で本件土地等を何時でも返す約束で無料で使わせていたが、昭和十九年三月桂西口
組合出張事務所閉鎖に当り右先代を所定の手当を支給の上解雇するとともに右土地
の返還を求めていた。ところがそのうち昭和二一年に至り、組合は右土地が農地買
収の対象となつていることを知り、直ちに右京農業委員会長Iに抗議するととも
に、先代に対してもあらためて土地返還方を再三にわたり、桂小学校長Jや同校書
記中山幸治郎を介して請求し続けてきたのである。しかるに、先代は右組合の意向
を無視して政府より右土地の売渡しを受けてしまつた。
 (2) 本件は受託物を不法に横領した関係に類似する。先代は右売渡しを受け
るについて当然組合を調査したり登記関係等を検討すべきであつたのにこれを怠つ
たのは過失ある占有者というべきである。
 (3) 昭和三二年三月二九日右京農業委員会において同会長K、京都府拓地課
L係長、桂農業委員会委員M、京都市公園課N課長代理、O同係長、参加組合組合
長H及び先代が列席協議の上、先代は坪当り二、〇〇〇円の割合による金員と引換
えに本件係争地を明渡すことを約し、ここに先代の占有意思はその内容を変更した
ため、占有の継続を欠くに至り時効の完成はありえなくなつた。
 (4) 本訴における控訴人らの時効取得の主張はその経過に照らし、信義則に
反するものであり、かかる主張によつて被控訴人京都市が本件土地を公園に供しよ
らとする計画を妨げることはまさに公共の福祉に反し権利の濫用である。
 (証拠関係)
 控訴人らは当審証人Fの証言を援用し、後記乙号並びに丙号各証の成立を認め、
被控訴人は乙第五ないし第七号証を提出し、当審証人H、同Oの各証言を援用し、
補助参加人は丙第一、二号証を提出した。
         理    由
 一、 次の事実は当事者間に争いがない。
 (一) 本件土地は昭和九年頃から始つた参加組合の土地区画整理事業の施行地
域内にあり、右整理事業の対象ではあつたが、組合の規約の定めにより当初から被
控訴人京都市の児童公園とする目的のため一般分譲地とせず組合の保留地に指定さ
れていたこと。
 (二) 右整理事業は昭和一二年頃既に工事完了したがその法律上の手続は遅
れ、ようやく昭和二三年一一月一日に至り京都府知事の換地処分の認可を受け(旧
耕地整理法第三〇条第四項参照)、同一二日その旨告示されたのであるが、本件土
地はその後前記既定方針に基き被控訴人京都市に譲渡せられ現在その所有名義に登
記されていること。なお、本件土地の番地は右換地処分によつて京都市a区b町e
番地のfとなつたもので、その範囲は換地処分前の旧番地である同町c番地のd、
c番地、g番地のd、g番地のh、i番地、i番地のjの以上旧六筆の土地の各一
部分宛を包摂して一筆となつたこと、及び右従前地六筆と本件土地との現地におけ
る位置の対応関係がほぼ原判決添付第二図面記載のとおりであること。
 (三) ところで、控訴人ら先代は組合の土地区画整理の工事が完了した昭和一
二年頃から本件土地等を組合から借受け耕作していた関係上、国は昭和二二年一〇
月二日右組合の整理事業と無関係に自創法の規定により「旧c番地のdのうち田九
畝一〇歩」なる表示の土地を所有者Eから買収し、昭和二三年一二月二日既に前記
組合の換地処分の認可、告示が済んでいたにもかかわらずこれを先代に売渡す処分
をしたこと(但し。右買収、売渡処分の対象となつた土地の存否及び範囲について
は争いがある)、しかし、京都府知事はその後前記のような区画整理事業があつた
ことに鑑み昭和三四年五月二二日に至り右先代に対する売渡処分を以下の理由で取
消したこと。「この土地(旧c番地のdの一部)は土地区画整理法に基く換地処分
によつて売渡期日前にすでに存在せず、かつ換地後の土地は農地ではない。」
 (四) その間本件土地は被控訴人京都市の申請に基き昭和三一年六月一日付建
設省告示により被控訴人京都市都市計画公園に決定されたが、被控訴人京都市は公
園予定地としているだけで、未だ公園としての公用開始行為があつたわけではない
こと。
 二、 次に弁論の全趣旨によれば控訴人らは前記取消処分により先代の受けた売
渡処分(従つて、右売渡しによる本件土地の所有権取得)は効力を失つたことを自
認しているものと認めることができる。
 三、 控訴人らは、以上の事業関係の下で先代は昭和二三年一二月二日前記国の
売渡処分を受けた時点以降一〇年間本件土地の占有を継続し、右占有につき民法第
一六二条第二項所定の要件を具備しているため、その所有権を時効取得した旨主張
するので以下その成否について考察する(なお、先代が存命中本訴において右時効
を援用したことは記録上明白である)。
 (一) まず、被控訴人は本件土地は京都市都市公園(公共用財産)予定地とし
ていわゆる予定公物であるから公物に準じ取得時効の適用はないと主張するので検
討する。
 <要旨>一般に公物(公用又は公共用財産)に私法上の取得時効制度が妥当するか
否かは公物の有する公共性(他の一般財産と異なる特殊性)が時効制度によ
つて保護されるべき私的利益に比し大であつてこれに替え難いものであるか否かに
かかると考えられる。そこで、この理をすすんで本件土地のような予定公物につい
ても適用して考えるに、いわゆる予定公物とは将来公用又は公共用財産に予定され
たものを言らに過ぎないのであつて、本件においても被控訴人京都市は本件土地を
児童公園予定地としたのであるが、もとよりこれを直ちに現実に外見上児童公園の
形態を具備させたというわけではなく(公用開始行為がないことは被控訴人も自認
する)、従つて現に公共用財産としてその使命を全うしているのではなく、依然先
代の耕作占有状態が継続されてきたことは明らかである(後記認定事実参照)。ま
た、公園の社会的機能を考慮にいれて本件土地の公共的必要性を考えても、被控訴
人京都市としてはどうしてもここに児童公園を設置しなければ他に替え難いほどに
本件土地に強い必要性があるとはにわかに認め難いところである(当審証人Oの証
言と原審での検証の結果によれば現に参加組合の協力により本件土地西隣地が事実
上公園として使用されその機能を果していることが認められる)。のみならず、本
件で控訴人らの主張する時効起算日昭和二三年一二月二日当時は本件土地は未だ参
加組合の保留地に過ぎず、公有財産ですらなかつたのであり(被控訴人に所有権移
転登記がなされたのは昭和三〇年一月二七日)、まして被控訴人主張の建設大臣の
決定は(右決定の根拠は都市計画法第三条。なお右決定にさいし同条による内閣の
認可を必要としない点につき都市計画法及び同法施行令臨時特例第二条第一号参
照)時効完成の終期に近い昭和三一年六月一日になつてはじめてなされたことも前
記争いない事実によつて認められるところである。
 以上のような本件土地に窺われるいわゆる公共性の実質及び時効制度が本来一定
の事実状態の永続に法的効果を付与するものであつてその要件も専ら具体的事実状
態に着眼されており、当該物件の観念的な法的性質が変つた如き(公有財産が公共
用財産予定地に変つた如き)は何ら直接の関係がない点、殊に本件では前記のとお
り先代の占有開始時点が公園予定地に決定された時点を遥かに先行している点等を
彼此綜合すると、結局本件土地についてはいま時効取得の適用を排除するに足るほ
どの合理的な理由を認めることは到底できない。一般に行政法学上予定公物は公物
に準ずべきものと考えられるけれども、そもそも当該予定公物が如何なる法律関係
につき公物に準じ、又は準ずべきでないかはそれぞれの実定法規や条理に照らし個
々に検討されなければならないのであつて、公物に時効制度の適用がないことを前
提として、即予定公物にも時効制度の適用なしとする被控訴人の主張はにわかに首
肯し難い。(被控訴人の指摘する地方自治法第二三八条第三項及び同旨の旧京都市
財産及び営造物条例第二条第二号はいわゆる行政財産を定義して、公用又は公共用
に供するもののほか右用に供することと決定した財産をも含む旨定めているけれど
も、右法条は専ら地方行政目的に照らし地方公共団体の財産管理体制を確立し、責
任の所在を明確にするため規定されたものであるから、これを根拠に直ちに本件の
ような公園予定地につき私法上の取得時効制度の適用を排斥すべきであると解する
ことはできない。)
 以上のとおりであるから、被控訴人の前記主張は公物一般に取得時効の適用があ
るか否かに論及するまでもなく理由がない。
 (二) そこですすんで本件時効取得の要件について検討する。
 (1) 先代が昭和一二年頃組合から本件土地等を借受けこれを耕作占有してい
たことは当事者間に争いがなく、先代が本件土地の取得時効完成時点と主張する昭
和三三年一二月二日当時これを耕作占有していたことは原審での控訴人亡D本人尋
問の結果によつてこれを認めることができる。そうすると、先代が自創法に基き政
府から前記一(三)の売渡処分を受けた昭和二三年一三月二日以降右同三三年一二
月二日まで一〇年間本件土地の占有を継続してきたこと並びに右占有は所有の意思
をもつて善意、平穏、且つ公然になされたものであることが推定される(民法第一
八六条第一、二項)。
 被控訴人及び参加組合は右各推定事実に反する主張をするので以下その主張につ
いて順次検討する(なお、控訴人らは参加組合の補助参加申出に対し異議を述べる
けれども、参加組合がその参加理由として主張する(イ)の事実は乙第七号証や弁
論の全趣旨に照らし疎明せられ、不参加申出は理由ありと認められるから、これを
適法なものとして許す)。
 (イ) (占有の継続を欠くとの点)
 参加組合は、昭和三二年三月二九日被控訴人や組合の関係人と先代が話し合いの
結果、坪二、〇〇〇円の割合による金員と引換えに先代が本件係争地を明渡す旨協
議が成立したからこの時点において先代の占有の継続はなくなつたと主張し、当審
証人Hの証言によれば右のような協議のあつた(もつとも先代は右金員を受け取ろ
うとしなかつた)ことが認められるけれども、このような事実だけで先代の前記占
有の継続が中断したとは考えられないことは言うまでもない。却つて、原審での控
訴人亡D本人尋問の結果によれば先代Dは前記期間中引続き本件土地を畑として耕
作しその占有を継続していたことが明らかである。
 (ロ) (他主占有であるとの点及び占有の始め善意でなかつたとの点)
 次に被控訴人は先代の本件土地占有は所有の意思を欠いていたと主張し、参加組
合は占有経過に照らし先代の本件土地取得は善意を欠くと主張するけれども右主張
を肯認するに足りる証拠はない。却つて、前記争いのない事実と成立に争いない甲
第四号証、原審証人P、原審及び当審証人H、同Fの各証言、前掲亡D本人尋問の
結果を綜合して先代の占有の経過及び態様をみると次の事実を認めることができ
る。先代は昭和一〇年頃から参加組合に雇われ、組合が区画整理工事中はその人夫
として、同一一年頃右工事終了後は組合事務所の小使として雑用に従事していたも
のであるが、右工事完了の頃たまたま本件土地等が休閑地であり、また丁度自宅の
向かい側にもなるのでその一部をねぎ等を作るため一時使用させてほしい旨組合に
申込んだところ、組合側でも本件土地等は元来被控訴人京都市に譲渡(特別処分)
するため一般分譲地と区別し保留扱いにしており(以上のことは先代も知つてい
た)、差し当りこれを使用させても支障がなかつたので右申入れに応じ、特に使用
の範囲も明確にしないまま一時無償で使用耕作することを許し、よつて先代はその
頃から右趣旨で本件土地等の耕作を始めた。組合は昭和一九年三月末頃になつて桂
西口の組合事務所(出張所)を閉鎖し、そのさい先代を解雇するとともに右土地の
返還を求めたが、先代は暫時明渡の猶予を懇請したので、組合もこれを承認し、そ
のご右返還の件は沙汰やみとなつた。ところが、そのうち終戦となり政府は自創法
の施行に伴い昭和二二年一〇月二日本件土地等をEから買収の上、同二三年一二月
二日同法第一六条に基きこれを先代に売渡し(先代は対価一、二三二円を支払
い)、ここに先代は同法によつて本件土地等の売渡しを受けその所有権を取得した
ものと信じ、引き続きその耕作占有を継続してきた。もつとも、右農地買収及び売
渡処分の目的物件の表示は「旧三三番の一田九畝一〇歩」としてなされたけれど
も、それは担当農地委員の係員が現地につき指示したところにより右上地を対象と
する趣旨の表示であつたことは明かであり、ただ買収計画樹立当時同委員会が現地
の地番調査上誤りを犯し、買収と売渡の間に前記のような換地処分があつたことを
看過したためにかかる誤つた表示をしたけれども先代は右処分はその耕作にかかる
本件土地等を対象として行われたと承知し、その結果右土地は自分の所有に帰した
と信じて占有を継続して来たものである。
 右事実によれば、先代は本件土地等の売渡処分があるまでは使用貸借の意思でこ
れを占有していたに過ぎないが、右処分後は所有権を取得したものと信じ(従前の
耕作関係が無償使用であり、土地区画整理事業上その目的土地が公園予定地となつ
ていることを知つていたからと言つて、先代が政府の売渡処分の無効を知つていた
と言うことはできない)、従つて所有の意思をもつて占有を継続したものと認める
ことができる。被控訴人は右売渡処分はその後取消され、右取消は無効宣言にほか
ならないのであるから、先代は右のような売渡処分によつては当初から何らの権原
を取得することができず、従つて所有の意思ありとは解しえないと主張するけれど
も、右のような後発的な(時効完成後)取消処分は何ら先代の前記自主占有自体に
消長を及ぼすものではないと解すべきであるから右主張は到底首肯し難い。
 (八) (平穏な占有でないとの点)
 当審証人Oの証言によれば被控訴人京都市は昭和三一年一〇月頃作業員を本件土
地にさしむけ、「公園予定地」と表示した約二米の標識杭を打とうとしたところ、
本件土地を自己の所有であると確信している先代がこれを見つけ、大声を発し所携
の鍬を振り上げる等して拒否したことが認められる。しかし、右事実は単に被控訴
人の杭打作業を拒否したにほかならず、未だ先代の本件土地占有自体が強暴な方法
によつて保持されるに至つたと解することはできない。
 以上のとおりであるから先代の本件土地占有の態様に被控訴人ら主張のような瑕
疵はなく、もとより前記推定を覆えすに足る事実は認められない。
 (2) そこで次に先代が右売渡処分の結果所有権を取得したと信ずるにつき過
失があつたか否かについて検討する。
 一般に自創法の規定による農地の売渡処分があつた場合、その処分に取消原因が
あつても右処分は取消されるまで適法の推定を受けるから、その買受人は右処分の
結果として、その所有権を取得したと信ずるのは当然であり、特別の事情がない限
りそう信ずるにつき過失がなかつたと認めるのが相当である。被控訴人は、売渡土
地の表示が違つていた点や、従前の本件土地使用関係が無償であり、しかも区画整
理事業地域内の保留地であることを先代が知悉していた点(以上の点につき前記
(1)の(ロ)の認定事実参照)に鑑み、先代としては当然本件売渡処分を不審に
思いその瑕疵につき調査すべき注意義務があつたと主張するけれども、先代は前記
認定のとおり人夫や雑役に従事していたもので特に法律知識を有していたものとは
認められず、このような者にまで政府のした売渡処分の瑕疵(叙上の事情から見て
無効の原因になるかどうか一般人にとつて判断が困難である)に思いを至すことを
期待するのは難きを強いると言うほかなく、結局右のような事情をもつて特別の事
情と認めるわけにはいかず、他に先代の過失を認めるに足る事情もない。
 そうすると、先代は本件土地占有の始め無過失であつたと言うことができる。
 (3) 以上のとおりであるから先代は控訴人ら主張のとおり本件土地の所有権
を時効取得したことが認められる。
 四、 なお、参加組合は控訴人らの本訴における時効取得の主張は権利の濫用で
あると言うけれども、本件土地(公園予定地)の時効取得自体が認められる以上、
右土地の将来の利用目的が公共のものであるとの一事をもつて時効の援用を非難す
ることは当らないし、他に権利の濫用と認められる事情もないから右主張は理由が
ない。
 五、 次に先代が昭和三九年五月二一日死亡し、控訴人らが共同相続人となつた
ことは当事者間に争いがなく、訴人らの相続分の割合が控訴人ら主張のとおりであ
ることは被控訴人も明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみな

 そうすると、控訴人らが本件土地につきその主張の割合による各持分権を有する
ことは明らかであるから、控訴人らの本訴請求中右各持分権の確認を求める部分は
理由があり、次に右持分割合により所有権(持分権)移転登記手続を求める部分に
ついても、元来相続人は被相続人の有した権利一切を包括的に承継し、第三者との
関係では連続する同一人格とみられるのであるから相続人はその名において直接白
己に登記名義の移転を求めうると解されるから右移転登記請求もまた理由がある
(なお、控訴人らは分筆登記手続をもあわせ求めるけれども控訴人らとしては一筆
の土地の一部本件上地について所有権移転登記を命ずる判決を得ればこれを原因証
書として被控訴人に代位して分筆登記手続を先行しうるのであるから主文において
特に「分筆の上」右移転登記を命ずる必要はない)。
 六、 よつて、控訴人らの本訴請求は全部正当であるからこれを認容するのが相
当で、これと異る原判決は取消しを免れず、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第
九六条、第八九条、第九四条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 石井末一 裁判官 竹内貞次 裁判官 畑郁夫)
 別紙
 第一(目録)
 京都市a区b町e番地のf
 一反三畝二一歩(一三五八、六七平方米)
 但し、第二図面中、赤斜線、青斜線を含む長方形のある長方形の一区劃(四つの
角にいずれも隅切りがある全部)
<記載内容は末尾1添付>

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