弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人須藤静一の上告趣意について。
 論旨は、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 所論は、文化財保護法四七条四項の「技術的指導を求める」というのは、重要文
化財の所有者又は管理責任者が文化財保護委員会に対し修理工事につき工事監督の
適任者の推薦方の申入をなすことを指し、委員会の技術的援助指導は、工事監督適
任者を選考推薦することに尽き、推薦により施行者側から委嘱された工事監督者の
現場における指導監督は、同条による技術的指導ではない。されば工事監督の地位
にあるものが文部技官であるとしても当該修理工事については法三五条三項による
指揮監督の職務権限を有しない。しかるに原判決は、A寺管理者たるBより委員会
に工事監督並びに現場主任の推薦方申入があり、当時文部技官であつた被告人が同
委員会により工事監督として寺側に推薦された結果、工事監督に委嘱された事実を
認定しながら、同人の工事監督としての行為を同法四七条四項による技術的指導即
ち文部技官の職務行為と誤解し、さらに同人は本件A寺修理工事につき同法三五条
三項による指揮監督権を有するものと誤判し、これにつき金員の収受のあつた故を
もつて被告人に収賄罪を認めた第一審判決を維持したことは、法令の解釈を誤り、
罪とならないものを有罪としたものであると主張する。しかし、第一審判決の認定
するところによれば、被告人は文部技官として文化財保護委員会事務局保存部建造
物課勤務第一修理係として重要文化財等の国庫補助金下附申請についての意見具申、
修理設計書の作成、同工事の技術的指導監督等の職務に従事しており、本件の茨城
県久慈郡所在A寺の修理工事に関しても、その調査、設計、補助金下附申請の意見
具申をすると共に委員会から派遣されて工事監督に当つたものであり、これらの職
務の報酬として金四万円を受領したというのであつて、第一審判決は被告人が同法
三五条により指揮監督をしたものと認定したとは認められない。されば、原判決も
この点を特に判示して、第一審判決の用いた監督の用語は、同条の指揮監督とは解
しがたく、仮にそのように解したとすれば事実誤認か法令解釈の誤りがあることに
なるが、右誤認ないし誤解は、被告人の収受した前記謝礼の趣旨の一部のみに関す
るにすぎないから、その違法は判決に影響を及ぼすこと明かな場合ではないと述べ
ているのであつて、原判決の右判断は正当と認められる。そして、原判決は被告人
がB等工事施行者側から委嘱又は雇傭されて本件工事監督に従事したものとは証拠
上認められないと判示しているのであり、この点につき所論のような事実誤認も認
められない。ところで、同法四七条四項の技術的指導は、所論のように工事監督適
任者の選考推薦のみに限定されるものと解すべきでないことは、改正(昭和二七年
法律二七二号で削除され同年八月政令三八七号文部省組織令五五条に引継がれてい
る)前の同法一八条一三号に「文化財に関する専門的、技術的な指導及び助言に関
すること」が同条二号の「重要文化財の管理又は修理に関する命令、勧告、指示及
び指揮監督に関すること」と並んで規定されており、共に文化財保護委員会事務局
保存部の所掌事務とされていたことからもうかがうに足りるので、被告人が右委員
会の推薦によつて現場に派遣されて工事監督に従事したことは、右委員会の技官と
して同法四七条の職務を執行したことに外ならないものというべきであるから、こ
の点に関する原判示も正当であつて所論は理由がない。また記録を調べても刑訴四
一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三二年四月二三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔

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