弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一〇月及び罰金五〇万円に処する。
     本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
     右罰金を完納することができないときは、金二、五〇〇円を一日に換算
した期間被告人を労役場に留置する。
     押收にかかる米国軍票一〇ドル券一、〇四八枚、同五ドル券五二六枚、
額面二〇ドルの旅行用小切手一枚(原審昭和二九年押第二四三号の一、二)は、い
ずれもこれを没收する。
     外国為替及び外国貿易管理法違反の公訴事実については、被告人は無罪。
     原審の訴訟費用の二分の一は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人大竹武七郎、同松本重夫の上告趣意について。
 論旨は、判例違反を主張するけれども、論旨引用の各判例はいずれも本件に適切
でなく、上告適法の理由に当らない。
 しかし、職権によつて調査するに、原判決認定事実は、その引用する第一審判決
判示事実によれば、被告人は法定の除外事由がないのに、第一、支払手段たる旅行
用小切手及び米国軍票を輸入しようと企て、昭和二八年八月二八日釜山から米国軍
票一〇ドル券一、〇四八枚、同五ドル券五二六枚計一三、一一〇ドル及び額面二〇
ドルの旅行用小切手一枚(原審昭和二九年押第二四三号の一、二)を携帯しA航空
会社所属の航空機に塔乗して、同日東京都大田区羽田江戸見町所在東京国際空港に
到り外貨申告所において右外貨を申告せずに通過上陸し以て輸入し、第二、所定の
通関手続を経ないで右第一記載の旅行用小切手及び米国軍票を輸入しようと企て、
前同日右航空機に塔乗して右旅行用小切手及び米国軍票を右空港に携帯輸送し所定
の通関手続を経ずに国内に搬入しようとしたが、荷物検査所において税関吏員に発
見されたのでその目的を達せず以て法定の免許を受けることなく右物品を輸入しよ
うとしたというのである。原審は、右第一の所為につき外国為替及び外国貿易管理
法(昭和三三年法律一五六号による改正前のもの、以下同じで、単に「管理法」と
いう。)四五条、七〇条一九号、外国為替管理令一九条、昭和二七年政令一二七号
四条一項等を、第二の所為につき関税法(昭和二九年法律六一号による改正前のも
の、以下「旧関税法」という。)七六条二項一項等をそれぞれ適用した上、両者を
刑法四五条前段の併合罪として処断したものである。
 しかしながら、原審の検証調書及び原審証人C(大蔵事務官)、同D(大蔵事務
官)に対する各尋問調書の記載によれば、税関空港である前記東京国際空港に到着
した旅客は、検疫及び入国管理関係の手続をすませた後、為替管理所(外貨申告所)
において外貨申告手続をし、最後に旅具検査所において関税法による携帯品の検査
を受け、その輸入免許を受けて始めて携帯品を持つて税関外に出て行くことができ
るように施設されていることが認められ、かつ、被告人が前記支払手段を輸入しよ
うと企て、前記第一の日時に前記空港において本件旅行用小切手は所持の手帳の中
に入れ、本件軍票は自己着用のチヨツキの中に縫い込んで、これらを隠匿し、無申
告のまま為替管理所を通過したが、旅具検査所において税関吏員に発見され、本件
支払手段を税関外に持ち出すに至らなかつたという事実関係にあることは、原判決
挙示の各証拠により明らかなところである。
 ところで、原判文によれば、原判決は前記外貨申告手続を終了したときに管理法
違反の輸入の所為は既遂となると認めたものであるが、本来、支払手段にかかる管
理法四五条違反の罪の構成要件たる輸出または輸入の行為を関税法違反の罪におけ
る輸出または輸入の行為と別異に解するを相当とする理由はなく(大審院昭和一三
年(れ)第一一四八号、同年一〇月二七日判決、刑集一七巻一八号七六六頁参照)、
対外支払手段の集中という目的の達成もこれを同一に解することによつて害せられ
ることもない。すると、本件におけるように、外貨申告手続は終つていたとしても、
最後の旅具検査所における手続は終つておらず、本件支払手段はまだ自由流通の状
態におかれるには至つていなかつたという事実関係の下では、前記第二の旧関税法
上の貨物輸入の所為が未遂であるのと同様に、本件支払手段の輸入の所為もまた未
遂の段階に止まつたものと認めるのが相当である。しかして、管理法には未遂処罰
の規定がないのであるから、右輸入未遂の所為は何ら同法違反の犯罪を構成するも
のでないというべきである。
 以上説示したところにより、前記第一の被告人の所為をもつて管理法四五条、七
〇条一九号の罪にあたるものとして、これと前記第二の関税法違反の罪とを刑法四
五条前段の併合罪の関係にあるものとし、懲役刑につき同法四七条を適用処断し、
かつ、右第一の所為につき罰金刑を併科した原判決には、判決に影響を及ぼすべき
法令の違反があり、かつ、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認めら
れる。
 よつて、刑訴四一一条一号、四一三条但書により、原判決を破棄し、当裁判所に
おいて更に判決をすることとする。
 原判決がその挙示の証拠によつて確定した前記第二の関税法違反の所為は、昭和
二九年四月二日改正にかかる関税法附則一三項の規定によつて旧関税法七六条二項
一項、罰金等臨時措置法二条一項本文に該当するから、懲役及び罰金を併科するこ
ととし、所定刑期、金額の範囲内で主文第二項掲記の各刑を量定し、懲役刑の執行
猶予につき刑法二五条一項、罰金刑の換刑処分につき同法一八条、押收の米国軍票
及び旅行用小切手の没收につき右関税法附則一三項、旧関税法八三条一項、訴訟費
用の負担につき刑訴一八一条一項本文を適用する。
 外国為替及び外国貿易管理法違反の公訴事実は、関税法違反の犯罪事実と併合罪
の関係にあるものとして起訴せられたものと認められるところ、前記の理由によつ
て罪とならないから、刑訴四一四条、四〇四条、三三六条によつて、無罪の言渡を
すべきものとする。
 よつて、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 村上朝一、同羽中田金一公判出席
  昭和三七年一〇月三日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    高   木   常   七
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    斎   藤   朔   郎

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