弁護士法人ITJ法律事務所

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過失運転致死被告事件
主文
被告人を禁錮1年4月に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成30年4月14日午前10時15分頃,普通乗用自動車を運転し,
愛知県西尾市a町bc番地d先道路をe町方面からf町方面に向かい時速約40
ないし50キロメートルで進行するに当たり,自動車の運転者としては,前方左右
を注視し,進路の安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこ
れを怠り,左手に持ったスマートフォンの画面に表示させたゲームに気を取られ,
同スマートフォンの画面に脇見をし,前方左右を注視せず,進路の安全確認不十分
のまま漫然前記速度で進行した過失により,折から進路前方に路外施設に向かい佇
立していたA(当時85歳)に気付かないまま,自車左前部を同人に衝突させ,そ
の衝撃により同人を自車ボンネット上に跳ね上げて自車のフロントガラスに同人
の頭部を衝突させた上,同人を付近路上に転落させ,よって,同人に多発性外傷の
傷害を負わせ,同日午前11時57分頃,同県安城市g町hi番地所在のB病院に
おいて,同人を前記外傷により死亡させたものである。
(証拠)
省略
(適用法令)
省略
(量刑の理由)
本件事故現場は,見通しの良い直線道路である上,事故発生時刻が日中であった
ことからすると,被告人が前方注視を怠らなければ,進路前方に佇立していた被害
者の姿を早期に発見して,容易に事故発生を回避できたものと考えられる。しかる
に,被告人は,買い物に向かうため自宅を自動車で出発した後,その移動途中でス
マートフォンの「ポケモンGO」という名前のゲームアプリを起動させ,その状態
のスマートフォンを左膝に乗せるなどした状態で運転を続行し,事故現場手前の直
線道路においては,左膝に乗せていたスマートフォンを左手に持ち,左手の小指や
薬指をハンドルにかけ,右手はハンドルをつかんだ状態でスマートフォンの画面や
進路前方を交互に見ながら運転を続け,事故直前には視線を左手に持ったスマート
フォンの画面に向けながら運転を続けた結果,被害者に衝突するまでその存在に全
く気が付いていない。関係証拠によれば,本件では,被告人が,本件事故直前にお
いて,少なくとも,約108メートルの距離を,7秒余りにわたってスマートフォ
ンの画面に気を取られながら運転していた事実が認められるところ,これらの点か
らしても被告人の過失の程度は非常に大きいといえる。被告人自身もゲームアプリ
を操作しながら運転することが事故につながる危険性があることは認識していた
のであるから,被告人はかような危険な運転行為は厳に慎むべきであったといえ
る。そうすると,自動車の運転に全く必要のないスマホゲームをしながら運転行為
を続けた被告人の運転行為は厳しい非難に値する。
被害者は,高齢とはいえ,長男と同居しながら元気に余生を送っていたところ,
被告人の不注意な運転により突如として一命を奪われたものであり,結果はもとよ
り重大である。突如として母親を失った遺族の受けた悲しみと喪失感は大きく,被
害者の息子も被告人に対して厳しい処罰感情を抱いている。
以上によれば,本件は,たまたま一時的に脇見をしてしまった結果起きた単純な
過失による事故とは一線を画する事案といえるのであって,被害者1名の過失運転
致死の事案としては,非常に重いといわなければならない。
そうすると,被告人の刑事責任は相当に重く,被害者が道路上に佇立していた可
能性が高いこと,被告人が,事故原因を含めて犯行を素直に認め,被害者及び遺族
に対する謝罪の気持ちを明らかにし,本件刑事裁判手続を通じて真摯に反省の態度
を示していること,本件事故による損害については被告人運転車両に掛けられてい
た自動車保険によって適正な補償がなされることが見込まれること,被告人に前科
前歴がないことなど,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,本件が執
行猶予を付すべき事案とは認め難く,実刑は免れないものと判断したが,なお,被
告人のために酌むべき上記事情も考慮して量定することとした。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑禁錮2年)
令和2年3月23日
名古屋地方裁判所岡崎支部刑事部
裁判官鵜飼祐充

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