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平成15年(ネ)第5786号商標使用差止請求控訴事件
口頭弁論終結日 平成16年1月19日
判    決
控訴人         有限会社ニューイングランド
同訴訟代理人弁護士   稲 元 富 保
同           丸 山 裕 司
被控訴人        株式会社ラブラドールリトリーバー
同訴訟代理人弁護士   藤 本 知 哉
同           岡 田   淳 
同           飯 塚 卓 也
同           宮 谷   隆
主    文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
  1 控訴人
   (1) 原判決を取り消す。
   (2) 被控訴人は,被服(毛皮製を除く。)又は被服(毛皮製を除く。)の包
装に,原判決別紙「被告標章目録」(1)ないし(12)記載の各標章を付して,譲渡し,
引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示若しくは所持し,被服(毛皮製を除
く。)に関する広告に同標章を付して展示し若しくは頒布し,同広告を内容とする
情報に同標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
   (3) 被控訴人は,その所有し,占有する原判決別紙「被告標章目録」(1)な
いし(12)記載の各標章を付した被服(毛皮製を除く。),その包装,広告用パンフ
レット及び取引書類その他同標章を使用した物品を廃棄せよ。
  2 被控訴人
    主文と同旨
第2 事案の概要
 1 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人による原判決別紙「被告標章
目録」(1)ないし(12)記載の各標章(以下,順次「被控訴人標章(1)」,「被控訴人
標章(2)」などといい,これらを併せて「被控訴人標章」と総称する。)の使用は控
訴人の有する商標権の侵害に当たるとして,商標権に基づき被控訴人の第1の1(2)
記載の行為の差止め等を求めている事案である。
   原判決は,被控訴人標章は本件商標に類似するとは認められないから,被控
訴人が被控訴人標章を使用することは,控訴人の商標権を侵害するとはいえないと
して,控訴人の請求を棄却した。控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起
した。
 2 争いがない事実
   原判決の「事実及び理由」欄の第2の2に記載のとおりであるから,これを
引用する。
第3 争点及び争点に関する当事者の主張
 1 本件の争点は,本件商標と被控訴人標章とが類似し,被控訴人標章の使用が
本件商標権を侵害するか否かである。
 2 争点に関する当事者の主張
  (控訴人の主張)
   被控訴人標章と本件商標とは,次のとおり類似するものであり,使用する商
品は同じであるから,被控訴人が被控訴人商標を使用する行為は本件商標権を侵害
するものである。
  (1) 外観の類似性
    本件商標は,「Labrador」の英文字を横書きした構成であるのに
対し,被控訴人標章は,「LABDOR」,「Labdor」,「labdor」
の英文字を原判決別紙「被告標章目録」記載の各書体で,1段又は2段に横書きし
た構成である。被控訴人標章は,本件商標「Labrador」の構成文字中の
「ra」の文字を欠く点において本件商標と異なるが,被控訴人標章の構成文字
は,すべて本件商標の構成文字に含まれ,しかも,各文字の順序は同じであるか
ら,両者は外観上類似する。
    被控訴人標章は本件商標の構成文字中の「ra」の文字を欠いているが,
一般的に複数の文字が並べられた商標の場合,語頭,語尾が観察者の注意を惹くの
であって,中間の文字の有無については語頭,語尾の文字よりも識別力は弱いので
ある。被控訴人標章は,本件商標「Labrador」のうちの最も観察者の注意
を惹く語頭「Lab」,語尾「dor」だけを組み合わせ,注意を惹かない(識別
力の弱い)中間の「ra」を除いたものであって,この「ra」の文字の差異は外
観が類似しないことを理由付けるほどのものではない。また,被控訴人標章の文字
数が本件商標の8文字に対して6文字であることは,むしろ,本件商標との外観の
類似性を高めることにはなるものであって,類似性を否定する要素となるものでは
ない。
    なお,被控訴人標章は,原判決別紙「併用商標目録」記載の「Labra
dor Retriever」の英文字と犬のシルエット図形を組み合わせた登録
商標(平成2年1月30日設定登録の商標法施行令(平成3年政令第299号によ
る改正前のもの)1条別表の第17類「被服,その他本類に属する商品」を指定商
品とする第2202445号商標。以下「併用商標」という。)と併せて使用され
ているが,被控訴人標章は,その使用態様から明らかなように,上記の英文字,及
び犬の図柄,文字から独立しており,「LABDOR」,「Labdor」,「l
abdor」という1つのまとまりのある英文字として認識することが可能である
から,被控訴人標章と本件商標との類似性を判断するに当たっては,被控訴人標章
と本件商標とを対比すべきである。
  (2) 称呼の類似性
    本件商標は,ラブラドル地方あるいは半島を意味すると理解されているこ
とから,「ラブラドール」,「ラブラドル」などの称呼が生ずる。これに対し,被
控訴人標章は,本件商標の構成文字中の「ra」を除いただけであること,被控訴
人標章が使用されている商品には併用商標が併せて使用されていること等から,
「ラブドール」,「ラブドル」などの称呼が生ずるものといえ,需要者の一般的な
注意力からすれば,場合によっては「ラブラドール」あるいは「ラブラドル」と称
呼されることさえあり得る。
    そして,被控訴人標章は,本件商標と対比すると,商標の重要要素である
構成文字中の接頭語「lab」(ラブ)及び接尾語「dor」(ドール,ドル)の
部分が共通であり,中間部の「ra」を欠いているが,「ra」の発音の有無は両
者の称呼上の違いを決定づけるほどのものではない。
    したがって,被控訴人標章と本件商標とは,称呼において類似する。
  (3) 観念の類似性
    本件商標からは,ラブラドル半島及びラブラドール・リトリバー犬の観念
が生ずる。これに対し,被控訴人標章は造語であり,特定の観念を意味する用語で
はないが,ラブラドール・リトリバー犬の愛称として「labdor」と一般に表
記されること,被控訴人標章を使用している商品には併用商標が使用されているこ
と等から,被控訴人標章からも,ラブラドル半島あるいはラブラドール・リトリバ
ー犬の観念が連想される。
    また,被控訴人標章の語頭である「LAB」は辞書にも掲載されているよ
うに「ラブラドール(リトリーバ犬)」を意味するところ,被控訴人標章は造語で
あるが故に,むしろ,これに接した需要者は,ラブラドール(リトリーバ犬)と何
らかの関係があるという連想ないし印象を抱くものである。
    したがって,被控訴人標章と本件商標とは,観念において類似する。
  (4) 商標権侵害の場面において,商標の類似性は,外観,称呼及び観念を総合
し,取引の実情を勘案し,需要者が前に見たような商標であると認識するか否かで
判断すべきである。
   ア 被控訴人標章は,上記のとおり,本件商標の構成文字中から「ra」の
文字部分を除いたものにすぎず,文字の配列順序も同じであり,外観,称呼,観念
において類似すること,被控訴人標章が使用されている商品は被服であって,愛犬
家を含むいわゆる一般大衆がその需要者であること,しかも,被控訴人標章は,常
に「Labrador Retriever」の英文字を含む併用商標と併用され
ていることなどに徴すると,被控訴人標章を上記商品に使用するときは,需要者
に,本件商標を付した商品との関係で,その出所につき混同を生じさせるおそれが
ある。
   イ 本件商標の指定商品である被服は,子供から大人までを需要者とし,店
頭販売若しくはネット販売されているものであり,このような商品,需要者層,販
売形態からすれば,観念や称呼の差異よりも,外観の類似性が重要であるというべ
きである。まして,本件で被控訴人標章が特定の定まった観念を生じないのであれ
ば,観念の差異なるものを考慮する必要はなく,また,被控訴人標章として特定の
1つの称呼しか生じないというものではないことからすれば,称呼の差異が類似性
判断で占める重要性は極めて低いというべきである。
     しかるとき,被控訴人標章は本件商標に含まれる文字のすべてを抽出し
たものであって,その文字の並びも中間の「ra」がないだけで同じであることか
らすれば,外観の類似性は高く,取引の実情を勘案すれば,両者は取り違えられる
ほど似ているというべきである。
 (被控訴人の反論)
   被控訴人標章と本件商標とは,次のとおり類似するものではなく,被控訴人
による被控訴人標章の使用は,本件商標権を侵害するものではない。
  (1) 外観の類似性
    被控訴人は,被控訴人標章を単独で使用することはなく,他の文字や図柄
と複合して使用するなど,Tシャツ等の胸部又は背面全面にプリントされたデザイ
ンの一部分に英文字の「Labdor」を使用しているにすぎない。したがって,
被控訴人標章と本件商標との外観の類似性を判断するに当たっては,被控訴人標章
を含んだデザイン全体と本件商標とを比較する必要がある。ところで,被控訴人標
章は,原判決別紙「被告デザイン一覧表」記載のとおり,いずれも他の英文字,図
柄又は飾り文字と組み合わされ,種々の色彩が施され,ゴシック調,ポップ調,斜
体,太字又は白抜きなどの各種字体が使用され,文字列を2段組みに配置されたも
のがあるなど,独創性に富んだデザインが用いられている。したがって,被控訴人
標章を含んだデザインと本件商標とは,その外観において相違する。
    また,仮に,被控訴人標章と本件商標とを対比したとしても,被控訴人標
章は本件商標の構成文字中の「ra」を含まない英文字6文字によって構成されて
いるのに対して,本件商標は,英文字8文字によって構成されており,文字列の長
さや欠字部分の存否の点で相違するので,両者は,外観において類似しない。
  (2) 称呼の類似性
   ア 被控訴人標章は,被控訴人によって作成された造語である。したがっ
て,造語である被控訴人標章に接した一般需要者は,被控訴人標章を未知の英単語
として認識することとなる。その場合,一般需要者は被控訴人標章を英語的に発音
することから,被控訴人標章からは「ラブドー」との称呼が生じるのが自然であ
る。被控訴人標章の称呼が「ラブドー」である以上,本件商標の称呼「ラブラドー
ル」とは,その称呼の音節数を2音欠く点,発声上比較的強く響く中間の「ラ」の
音を欠く点,及び語尾が異なる点において,明らかな差異が認められる。かかる相
違点に照らせば,被控訴人標章と本件商標の称呼が類似しないことは明らかであ
る。
     事実,英単語において「corridor」や「major」のよう
に,単語の末尾が「or」であるものは,発音の最後の[r]は発音されず,発音
の[r]の後に[u]の母音が切れ目なしに続かない限り,「ル」と発音されない
のが通例である。
     なお,厳密には,英語的な発音として,「ラブドー」のほかに「ラブダ
ー」という発音がなされることも考えられようが,「ラブラドール」と「ラブダ
ー」の称呼が類似しないことは明らかであり,論ずるまでもない。
   イ 上述のとおり,被控訴人標章を認識した一般需要者が同標章を「ラブド
ール」や「ラブドル」と称呼する可能性は考え難い。
     しかし,仮にその可能性が存在することを想定したとしても,本件商標
の称呼とは類似しない。すなわち,「ラブドール」や「ラブドル」という称呼を,
本件商標の称呼である「ラブラドール」と比較した場合でも,本件商標の称呼であ
る「ラブラドール」又は「ラブラドル」という5音節のうち1音欠く点とともに,
本件商標の称呼において発声上比較的強く響く中間の「ラ」の音を欠く点において
明らかに異なる。これらの点に照らせば,被控訴人標章と本件商標は,称呼におい
て明らかに相違するからである。
  (3) 観念の類似性
    本件商標からは,カナダ東部ニューファンドランド州の地名であるラブラ
ドル地方,又はその地方が存するラブラドル半島が観念される。また,「Labr
ador」は,ラブラドール・リトリバー犬の発祥地の名称にすぎないことから,
同語からラブラドール・リトリバー犬を観念するのは,一部の愛犬家に限られ,本
件商標からラブラドール・リトリバー犬の観念が生ずることはない。これに対し,
被控訴人標章は,前記のとおり,造語であり,その観念は,需要者等の一般の取引
者には全く知られていない。
    したがって,被控訴人標章と本件商標とは,観念において,類似しない。
  (4) 被控訴人標章は,外観,称呼,観念のいずれにおいても,また,被控訴人
標章が用いられている具体的な被控訴人デザインとの外観比較においても,本件商
標とは類似せず,被控訴人標章が本件商標との関係で,取引者及び需要者に商品の
出所の混同を生じさせるおそれは一切ない。
第4 争点に対する判断
 1 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合
に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであ
り,誤認混同を生ずるおそれがあるか否かは,そのような商品に使用された商標が
その外観,観念,称呼等によって取引者及び需要者に与える印象,記憶,連想等を
考察し,これらに加え,その商品についての取引の具体的な実情に照らし,その商
品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断
すべきものと解される。
そこで,以下,上記の観点に立って,被控訴人標章と本件商標とが類似する
か否かについて検討する。
2 まず,被控訴人標章と本件商標とを対比観察することとする。
(1) 称呼,観念の類似性                      
   ア 本件商標は,「Labrador」の英文字8文字を一連に横書きした
構成であり,「ラブラドール」の称呼を生ずるものと認められる。これに対し,被
控訴人標章は,「LABDOR」,「Labdor」,「labdor」の英文字
6文字を原判決別紙「被告標章目録」(1)ないし(12)記載の書体で,1段又は2段に
横書きした構成であり,造語であることから,これに接する取引者及び需要者は被
控訴人標章を未知の外国語として認識するものと解される。そして,我が国におい
て,一般取引者及び需要者が上記のような未知の外国語に接した場合,通常は英語
風に「ラブドー」と発音し,時にはフランス語風に「ラブドール」,「ラブドル」
と発音したりすることもあると考えられる。
なお,証拠(甲33ないし40)によれば,ラブラドール・リトリバー
犬を愛好する一部の愛犬家の間では,ラブラドール・リトリバー犬の愛称として
「Labdor」との表記や「ラブドル」との称呼が用いられていることも窺われ
るが,このことから,直ちに,一般の取引者及び需要者の間で,被控訴人標章から
一律に「ラブドル」の称呼が生じると認めるのは困難である。
上記のように被控訴人標章を原則どおり「ラブドー」と英語風に発音す
る場合,本件商標と被控訴人標章とは,語頭の「ラブ」の音が共通するが,他方,
音節数の差異,発声上,比較的強く響く中間の「ラ」の音の有無,語尾の音の差異
等の相違点があることから,本件商標と被控訴人標章とは,称呼において類似しな
いというべきである。もっとも,被控訴人標章を上記フランス語風に「ラブドー
ル」と発音する場合,中間部の「ra」を欠いているが,商標の重要要素である構
成文字中の接頭語の「Lab」ないし「LAB」(ラブ)及び接尾語の「dor」
ないし「DOR」(ドール,ドル)の部分が共通であり,一般の取引者及び需要者
にとって,両者は,称呼上紛らわしい点があるといわざるを得ない。
 イ 証拠(甲11ないし14,19)及び弁論の全趣旨によれば,本件商標
からは,カナダ東部ニューファンドランド州の地名であるラブラドル地方及びその
地方があるラブラドル半島並びに同地方を発祥の地とする犬種名であるラブラドー
ル・リトリバー犬との観念が生ずるものと認められる。これに対し,被控訴人標章
は,造語であるから,特定の観念は生じない。
     前記のとおり,ラブラドール・リトリバー犬を愛好する一部の愛犬家の
間では,ラブラドール・リトリバー犬の愛称として「Labdor」との表記が使
用されることがあるが,このことから直ちに,被控訴人標章に接する一般の取引者
及び需要者が,被控訴人標章から一律にラブラドール・リトリバー犬を連想すると
認めるのは困難である。
 また,証拠(甲15ないし17)によれば,被控訴人標章の語頭である
「LAB」は「ラブラドール(リトリーバ犬)」の略称として使用されることが認
められるが,他方,証拠(甲15ないし17,乙5の(3)ないし(6))によれば,
「LAB」は,「laboratory」(研究室),「Labour Part
y」(労働党)等の略称でもあり,我が国では,一部愛犬家の間ではともかくとし
て,一般には,「LAB」は「laboratory」の省略の意味で用いられる
ことが多く,「ラブラドールリトリーバー犬」の略称として用いられている例はほ
とんど存在しないことは公知の事実であり,一般の取引者及び需要者がそのような
略称への認識を共有している事実を認めるに足りる証拠はない。
上記のとおり,本件商標と被控訴人標章とが,観念において類似すると
までいうことはできない。
(2) 外観の類似性
 証拠(甲3,4の(1)ないし(7),5の(1),(2),6の(1)ないし(3),7
の(1)ないし(5))によれば,被控訴人は,被控訴人標章を他の文字や図柄と併せて
使用していると認められるが,文字の大きさや書体,他の部分との位置関係などか
ら,被控訴人標章は,併用している他の文字や図柄から独立した商標として認識し
得るものと認められる。したがって,本件商標と被控訴人標章との外観の類似性
は,本件商標と被控訴人標章とを対比して判断するのが相当である。
    本件商標は,前記のとおり,「Labrador」の英文字8文字を一連
に標準的書体で横書きした構成であるのに対し,被控訴人標章は,「LABDO
R」,「Labdor」,「labdor」の英文字6文字を,原判決別紙「被告
標章目録」(1)ないし(12)記載の標準的書体と異なる各種書体で,1段又は2段に横
書きした構成であり,また,同目録(1)ないし(8)記載の標章は英文字6文字がすべ
て英大文字で,同目録(9),(10),(12)の標章はいずれも,本件標章と同じく「L」
の文字を大文字で,その他の文字を英小文字で,同目録(11)の標章は全部英小文字
で構成してなるものである。
    そこで,両者を対比してみるに,本件商標のように標準的書体で観念を伴
う文字商標の場合,外観で印象付けられ,記憶するウェイトは低く,称呼,観念で
印象付けられ,記憶するのが一般であると考えられる。これに対し,被控訴人標章
は,標準的字体でなく,図案的要素を含む字体で構成され,その図形的要素が看者
の注意を惹くものと考えられる。このことに加え,両者は語頭の「Lab」と語尾
の「dor」が共通しているものの,被控訴人標章は本件商標の中間の「ra」の
文字を欠くこと,被控訴人標章は文字数が本件商標全体の8文字の中の6文字であ
り異なること,なかでも同目録(1)ないし(8)記載の標章は英文字6文字がすべて大
文字で,さらに,同目録(7),(8)記載の標章は2段書きしてなるものであることに
照らせば,両者は,看者に対し,外観において異なった印象,記億を生じさせるも
のと考えられる。
 3 進んで,被控訴人標章をその商品(被服)に使用することが,本件商標との
関係でその取引者及び需要者にその出所につき誤認混同を生じさせるおそれがある
か否かについてみる。
  (1) 証拠(甲3,4の(1)ないし(7),5の(1),(2),6の(1)ないし(3),7
の(1)ないし(5),乙14,15)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人標章を付し
た被控訴人の商品である被服は,子供から大人までを需要者とし,店頭販売若しく
はネット販売されているものであること,控訴人会社の代表者であるA(以下
「A」という。)は,被控訴人会社が設立された昭和62年5月11日当時,同社
の取締役であり,その後,代表取締役に就任したが,平成7年9月に代表取締役を
解任され,同年10月,被控訴人会社の取締役を辞任し退社したこと,被控訴人
は,Aが取締役在職当時から併用商標(原判決別紙「併用商標目録」記載の「La
brador Retriever」の英文字と犬のシルエット図形を組み合わせ
た商標)を使用した衣服類を製造販売していたこと,Aが,上記退社後に独自に併
用商標を付した衣料品等の販売を開始したことから,被控訴人とAとの間で併用商
標に係る商標権の帰属をめぐって紛争が生じ,平成8年から平成9年にかけて,こ
の点に関して被控訴人とAらとの間に訴訟が提起されるに至ったこと,同訴訟の控
訴審において,平成12年3月31日,被控訴人において併用商標に係る商標権が
Aに帰属することを認め,一方,Aは,被控訴人に併用商標の使用を許諾すること
等を内容とする裁判上の和解が成立し,被控訴人は,その後,Aから使用権の許諾
を得て,その商品に併用商標の使用を継続し,これと併せて被控訴人標章を使用し
ていること,なお,現在,上記使用許諾の合意の効力に関して争いが生じ,別件の
訴訟が継続していることが認められる。
上記のとおり,被控訴人は,本件商標の登録出願(平成11年12月17
日)前から,その商品(被服)に併用商標を継続して使用してきたものであり,少
なくとも上記和解成立後には被控訴人標章も併せて使用しているところ,本件商標
(平成12年12月7日に登録査定となり,その後に,登録出願人であるAから控
訴人に権利譲渡がされ,平成13年2月16日に設定登録がされた(甲1,乙
1)。)は,結合商標である併用商標の一部を構成する「Labrador」と文
字の書体及び文字構成を共通にするものであり,本件商標が併用商標の有する商品
識別機能を超えて独自の商品識別機能を有するとしても,一般の取引者及び需要者
は,両者が何らかの関係のあるブランドであるかのような印象を抱くのが自然であ
り,その点で紛らわしさがあると考えられる。加えて,本件商標が控訴人ないし控
訴人から本件商標の使用許諾を受けた者の製造販売に係る被服を識別表示するもの
として,周知著名性を獲得しているという事情を認めるに足りる証拠はなく,他
方,被控訴人標章が被服の分野で周知著名性を獲得しているという事情を認めるに
足りる証拠もない。
    上記事実に照らせば,本件商標を付した商品(被服)あるいは被控訴人標
章を付した商品(被服)に接した一般の取引者及び需要者は,いずれについてもそ
の商標,標章だけではその出所を明確には認識できず,その商品の選択は,その製
造販売会社,品質,商品の仕様その他の要素をも考慮して行われるのが通常である
と考えられる。
(2) 被控訴人標章と本件商標とを対比した場合,両者は,称呼において紛らわ
しい事例もない訳ではないが,通常は類似しないというべきであるばかりでなく,
外観において看者に異なる印象,記憶を生じさせるものであり,また,観念におい
ても類似するところはないと認められることは,前記説示のとおりであり,このこ
とに上記(1)の取引の実情を併せ考えれば,被控訴人標章を被控訴人の商品である被
服に使用したとしても,その商品の取引者及び需要者が本件商標を想起し,本件商
標に係る商品ないしその兄弟ブランド又はファミリーブランドに係る商品であるか
のようにその出所につき誤認混同を生ずるおそれは存在しないというべきである。
  (3) 以上の次第で,被控訴人標章は本件商標に類似するとは認められず,した
がって,被控訴人が被控訴人標章をその商品に使用する行為が本件商標権を侵害す
るということはできない。
 4 結論
   よって,控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由
がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
    東京高等裁判所第3民事部
        裁判長裁判官  北  山  元  章
           裁判官  青  栁     馨
           裁判官  沖  中  康  人

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