弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、被告人A1、同A2の弁護人吉田太郎、同内田達夫連名提出
及び弁護人内田達夫提出の各控訴趣意書、被告人A3の弁護人金澤清提出の控訴趣
意書、被告人A4の弁護人松本治雄提出の控訴趣意書及び同補充書、その余の被告
人の弁護人野村佐太男、同小林健治連名提出の控訴趣意書記載のとおりであり、こ
れらに対する答弁は、検察官提出の答弁書記載のとおりであるので、いずれもここ
に引用し、これらに対し次のように判断する。
 第一、 原判示第一及び第二の事実につき、資料提供者、記事作成関与者及び頒
布者の間に順次共謀を認めた原判決の判断を論難する主張について。
 野村、小林両弁護人の控訴趣意(以下、野村・小林控訴趣意と略称する。他の弁
護人の控訴趣意についても同じ。)のうち、(1)原判示第一の事実につき、A4
の取材に応じ資料を提供した被告人A5、同A6、同A7、同A8、原判示第二の
事実につき、A2の取材に応じ資料を提供した被告人A6、同A5、同A7、同A
8並びにA9、A10は、原判示の各頒布による犯罪の実行行為に関与していない
者であるのに、これらに実行共同正犯者としての刑責があるとしている点に、原判
決には、共同正犯理論の解釈の誤りに基づく事実誤認があるとの主張(同第二点第
三の一乃至八)、(2)いわゆる資料提供者とされている、被告人A8、同A7、
同A5、同A6について、原判示第一については、A4と、同第二については、A
2と共謀したと認定している原判決には、採証法則違背による事実誤認がある旨の
主張(同第四の一乃至三ノ一)、(3)原判示第一、第二の各頒布実行者と取材に
応じ資料を提供したにとどまる者とを、順次共謀したと認定している点に、共同正
犯理論の解釈の誤りに基づく事実誤認があるという主張(同第三の九)、(4)内
田控訴趣意のうち、原判示第二の事実について、被告人A6、同A7、同A8、同
A5、A10、A9と被告人A2、被告人A1、更には、被告人A5、同A11、
同A12の順次共謀を認定した原判決は、共謀共同正犯の理論、ひいては刑法六〇
条の解釈について誤りを犯し、昭和三三年五月二八日の大法廷判決の判例に違反し
ている旨の主張(同第二点)、(5)金澤控訴趣意のうち、原判決は、「被告人A
3は、同A4を介して右共謀に加わり、もつて被告人A4、同A8、同A7、同A
6、同A5および同A3は、Bを公表頒布することを順次共謀した」旨判示してい
るが、被告人A3はその余の被告人と共謀したことはないから、右判示部分には事
実誤認がある旨の主張(同第四)、(6)吉田・内田控訴趣意及び内田控訴趣意の
うち、原判示第二の事実についての原判決の認定中、(イ)「三月二日夕刻C和食
コーナーにおいて、被告人A6、同A7および同A8が、D1の女性関係の話を記
事にして掲載してほしい旨を依頼し、被告人A2は、それらの話を記事にする旨答
えた」旨の判示部分につき、被告人A2には、記事掲載の決定権はなく、その記事
掲載が決まつたのは、三月四日被告人A2が被告人A1に電話連絡して、記事にな
りうると話した時点においてであること、被告人A2は、三月二日の夕刻までの取
材では、D1市長の女性関係の輪廓を知つた程度であり、三日以降の裏付け取材の
結果を待たずしては、記事になりうるかどうか判断できない時点で、記事にすると
答えることは、ありうべからざることであること、被告人A2にとつては、被告人
A6、同A7らの依頼を承諾せねばならぬような事情はなかつたことなど諸事情に
照らせば、右判示に沿う供述記載のある関係被告人の検察官に対する各供述調書は
措信しえないものであり、これを措信して、前記判示部分の認定をした原判決に
は、事実誤認がある旨の、(ロ)その段階において、原判決は、「ここに、被告人
A2、同A6、同A5、同A7および同A8は、D1に関して真実性の極めて疑わ
しい女性関係の噂話等をそれが虚偽であつてもあえて記事にしてF誌上に掲載公表
し、選挙のために、頒布することを意思相通じて共謀するに至り」と判示している
が、その段階において、被告人A2には、被告人A6、同A7らの提供した材料の
虚偽性の認識は全くなかつたとみるべきであるから、原判決には、この点にも事実
誤認がある旨の、(ハ)被告人A2が、被告人A6、同A7らに、D1市長の女性
関係の話を記事にする旨を答えたとの右認定の時点で、「同時に被告人A2は同A
9からの前記取材に基づき同様女性関係記事を公表しようと決意し、ここに、被告
人A2と同A9は、D1に関して真実性の極めて疑わしい女性関係の噂話等をそれ
が虚偽でもあえてF誌上に掲載公表し、選挙に利用するために頒布することを意思
相通じて共謀するに至つた」との原認定には、事案誤認がある旨の、(ニ)更に、
三月三日被告人A2の取材に同行した被告人A5とA10の行為を判示したのち、
「以上のようにして、被告人A10、同A2および同A5は、D1に関して真実性
の疑わしい話をそれが虚偽であつてもあえてFに掲載公表し、選挙のために頒布す
ることを意思相通じて共謀するに至つた」との原認定にも、事実誤認がある旨の、
(ホ)被告人A1が、D1の女性関係についての虚偽の事実を掲載したFを公表頒
布することにつき、被告人A2を介して、他の被告人らとの順次共謀に加わつた旨
の原認定には事実誤認がある旨の各主張及び(7)松本控訴趣意のうち、原判示第
一の後援会、支部、F会の各頒布は、被告人A4と無関係に独自の動機、発端によ
りなされたものであるといい、被告人A4を頒布公表の共犯者と認定した原判決に
は、事実誤認乃至法令解釈適用の誤りがある旨の主張(同第一点乃至第三点)につ
いて。
 <要旨第一>〔A〕 新聞又は雑誌の頒布という態様による名誉毀損及ひ公選法二
三五条二項の各罪は、取材、原稿の作成、原稿の検討加除による最終稿
の決定、最終稿の印刷、発売、読者への頒布という一連の過程を経て、不特定又は
多数の読者が、その記事内容を読みうる状況に至つて、はじめて既遂となり、刊行
公表される記事の内容をなす事実は、取材という行為により、新聞又は雑誌社がこ
れを入手するものであるから、右の各罪の実行の着手は、記事の内容をなす事実を
取材する時点において生じうるものである。そして、被取材者の提供する事実が記
事の内容となつて刊行公表される場合にあつては、被取材者において、それが特定
人の名誉を毀損する虚偽の事実であることの確定的乃至未必的認識を有しながら、
その公表を意欲し、かつ、刊行された場合、その記事内容が公選法二三五条二項所
定の目的をもつて頒布公表されることを予測して、これを取材者に提供するにおい
ては、名誉毀損の罪及び公選法二三五条二項の罪の実行の着手があるのであり、そ
の取材内容が記事に至らないで、つまり紙面に掲載されないで終つた場合には、被
取材者において着手した名誉毀損の罪及び公選法二三五条二項の罪が未遂に終るに
とどまるのであると解せられるのであつて、記事の作成、つまり原稿の作成の段階
ではじめて、名誉毀損の罪及び公選法二三五条二項の罪の着手があるという所論の
主張する考え方は、当裁判所の採らないところである。
 新聞又は雑誌の頒布による名誉毀損の罪及び公選法二三五条二項の罪は、被取材
者側に、右に述べたような実行の着手があつたとしても、これを取材した新聞社又
は雑誌社側が、その提供された事実を内容とする原稿を作成してこれを印刷し刊行
しない限り、既遂となる余地はないのであるが、その頒布公表により名誉毀損の罪
及び公選法二三五条二項の罪が成立する記事が掲載されている新聞又は雑誌が刊行
された場合、これが不特定又は多数の読者に公選法二三五条二項所定の目的で頒布
されることが予測諒知されるのに、その記事の作成と最終稿の決定に関与した記者
及び編集者は、その記事の内容をなす事実が虚偽であることの確定的乃至未必的認
識を有する限り、その記事の内容となつた事実の資料を提供した被取材者ともど
も、頒布者の頒布公表行為により成立する名誉毀損の罪及び公選法二三五条二項の
罪の共同正犯となるものであり、この場合、具体的になにびとが頒布公表の所為に
出るかについて、被取材者及び取材者、記事作成者が予知していることは必要では
ないし、また頒布者において、被取材者、取材者、記事作成者がなにびとであるか
を特定して諒知していることは必要ではないのであるが、被取材者は、取材者、記
事作成者、頒布者の行為を利用しない限り、また取材者、記事作成者は、被取材者
の情報の提供行為、及び頒布者の頒布行為を利用しない限り、更に頒布者は、被取
材者による情報の提供行為、取材者、記事作成者による記事の作成刊行の行為を利
用しない限り、各自の意思を実行に移すことはできないものであるから、被取材
者、取材者、記事作成者、頒布者の間には、名誉毀損の罪及び公選法二三五条二項
の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となつて互に他人の行為を利用し各自の意
思を実行に移すことを内容とする意思の連絡があり、よつて右犯罪が実行に至ると
いう関係があるのであつて、原判決は、これを順次共謀という用語で説明している
ものと解せられるのであり、原判示第一、第二の各頒布実行者と、取材に応じ資料
を提供したにとどまる者、記事作成に関与した者とを、順次共謀した者と認定した
原判決には、右(1)(3)及び(4)の所論のいう共同正犯理論や共同正犯につ
いての法令解釈の誤りはなく、また右(4)の所論引用の大法廷判決の判例に違反
したかどもない。そして、以上の見解に立脚して、原審記録及び原審取調べの証拠
を検討してみると、
 〔B〕 原判示第一の被告人A4の取材に応じ、被告人A5が、昭和四六年三月
三〇日朝、市政批判の文書等(一部はその写)をGホテルロビーまで持参し、同所
において、被告人A4に対し、右の各文書に基づいて、概略、地裁跡地の件につ
き、県有地である地裁跡地と市有地との等価交換、更にHビル株式会社への払い下
げの経緯などを話したほか、I会の土地を秋田県に売却するのにD1市長が斡旋
し、右I会の運営資金を捻出した件に関して、D1市長が同会から一〇〇万円の現
金か又は三五〇万円の仏像をもらつたものの、その後あわててこの仏像を市美術館
に預けたことなどを話したが、右一〇〇万円と仏像のことについては、被告人A5
は単なる噂話として聞いていただけで、極めて疑わしいものとの認識を有していた
こと、同日午後C内Jクラブにおいて、被告人A6、同A7、同A8は、同席して
被告人A4の取材に応じ、被告人A7が主となり、これに被告人A6及び同A8が
口をはさむかたちで、地裁跡地と市有地を等価交換するに至つた経緯、右地裁跡地
をHビル株式会社に低廉な価格で払い下げた経緯、Kヘの入居問題、Hビル株式会
社の実情及び秋田市議会における各党派の議席分布情況等について多少の誇張を交
えつつも、その大筋において真実を説明し、そのあと、I会の件について、被告人
A7が、I会の所有地がD1市長の旋斡により都市建設公社を経て県に転売され、
そこに生じた売買差益七五〇万円が同公社からI会に還元された経緯を説明すると
ともに、I会が右還元された利益の中から謝礼としてD1市長に一〇〇万円を贈つ
たこと、右の件が市議会で問題になつたところD1市長はこれについて別に何もい
わなかつたこと、そのことに関し、D1市長は同会にねだつて時価三〇〇万円相当
の仏像をもらい、これが問題になつて、その仏像を市の美術館に置くことにしたこ
と等を話し、これについて被告人A8が合槌を打つなどし、更に被告人A4が、同
A6、同A7、同A8らに対し、D1市長の資産が一〇億円以上あるという話を聞
いたがどうかと尋ねたのに対し、同被告人らはそのくらいはあるかも知れないと答
え、またその際被告人A7が、某銀行の外交員の話によればD1市長は現金だけで
三億円くらいもつているということだからその他に資産は一〇億円くらいあるだろ
うなどと話したうえ、右に関連して、被告人A7が、秋田市でJ2会館の隣接地に
土地区画整理事業による保留地ができたがこれがいつの間にかD1市長の個人名義
になつていることを話し、更に被告人A4の手にしていた文書の裏面に右保留地の
所在を略図に書いて説明するなどしたが、I会の件、資産の件、保留地の件につい
ては、被告人A6、同A7、同A8は、非常に真実性にとぼしい乃至はそのような
事実はないとの認識を有していたものであること、被告人A5、同A6、同A7、
同A8は、真実性にとぼしい乃至はそのような事実はないとの認識を有していた右
の事実を被告人A4に提供した際、それら事実をBに載せてもらつてD1市長を叩
いてもらいたいと意欲しており、かつ、その事実を内容とする記事が刊行された場
合には、右D1の四選を阻止する目的で、被告人A5は自らこれを購入して市内有
権者に配りたいと考え、被告人A6は、A5あたりが買つてばらまいてくれるだろ
うと考え、被告人A8、同A7は、A6が購入して有権者に配付するだろうと思つ
ていたという各事実が認められるのである。そして、右四名が提供した事実を内容
の一部とする記事がBに掲載され、これが原判示のように頒布されたことが認めら
れるのであるから、被告人A5、同A6、同A7、同A8を、虚偽と知つて提供し
た事実資料の範囲内において、名誉毀損の罪及び公選法二三五条二項の罪の実行共
同正犯者と認定した原判決には、事実誤認のかどはなく、右(1)のうち、原判示
第一に関する論旨は理由がない。
 〔C〕 取材に応じ、資料として提供する事実が虚偽の事実であることの確定的
又は未必的認識を有しながら、その内容が記事として刊行されることを意欲して取
材に応じる被取材者と、取材者間の名誉毀損の罪及び公選法二三五条二項の罪を行
うための共謀は、取材者において、提供された事実が虚偽の事実であることの確定
的又は未必的認識を有しながら、それを内容として、記事を作成し刊行すれば、、
それが公選法二三五条二項所定の目的で頒布されることを予測しながら、その提供
された事実を内容とする記事を作成刊行することを決意して、これを明示又は黙示
に被取材者に伝えるなど、外的にその決意が示された時点において成立するものと
解せられるところ、被告人A5の昭和四六年八月一一日付検察官に対する供述調書
中には、「A4が秋田に取材にみえた時、新聞が出来たら不動産業者名鑑に基づい
て郵送しますが、その他に秋田市内の何か名簿はありませんか、それに基づいて送
つておきましようという趣旨の話があり、これは私が材料を提供した時だつたと思
う……配つてくれるならと思い早速秋田のM所から会員名簿と特定業者名簿を取寄
せた。それをA4に渡したのですが、秋田にいる時に渡したか、あるいは後で郵送
したかははつきりしない」旨の記載があり、同A5、同A4の原審公判における供
述により、A5がA4に提供したと認められる、市政批判の文書の写のうち、原稿
用紙に『市長は一〇〇万円の現金か、または三五〇万の仏像か、あわてて美術館に
預けたが、知らぬは市民とホトケサマ』との記載のあるものの裏面の万年筆での記
載中に、「百万」「礼」「仏像三五〇万円」「市長室」「市美術会に預けた」との
記載のあること、及び被告人A4の昭和四六年七月九日付検察官に対する供述調書
七項及び九項の記載に鑑みれば、原判決の判示中「被告人A4は、前日来の取材活
動を通しまた被告人A5から説明を受ける間に、右A5の提供する記事材料の真実
性に多分に疑問を抱くとともに同人がBの記事を来るべき市長選挙に利用すること
を認識したが、右記事材料の性質上これを取材して新聞に掲載すれば秋田市方面に
大きな反響が期待され特ダネになるものと考え」、「被告人A5の説明等をもとに
記事にしょうと考えて、被告人A5に対し、同新聞を秋田市内へ郵送配布するのに
適当な名簿がないものか打診をするなどして暗に右Bの頒布を匂わせ、これに対し
被告人A5が、後日適当な名簿を被告人A4に郵送する旨諒解を示し、ここにおい
て、被告人両名は、前記I会に関する事項が虚偽であるかも知れない旨の認識を抱
きながらあえて右事項をBの紙面上に掲載公表し、市長選挙のために頒布すること
を意思相通じて共謀するに至つた」旨の判示は、これを肯認することができ、ま
た、被告人A4の昭和四六年六月二四日付、同年七月九日付、七月一一日付各検察
官に対する供述調書によれば、前記のように、被告人A6、同A7、同A8の三名
が、共同して記事材料を提供した折に、こもごも「D1市長のやり方はワンマン
だ、この辺でやめてもらわなければ困る」、「D1不動産だ」、「株式会社秋田市
だ、もう愛想がつきた」などといつてD1市長が市政を私物化している旨を強調し
たうえ、それらの話を、右材料をもとに新聞記事にして掲載してほしい旨依頼し、
これに対し、A4は、前日来の取材活動を通し、またA7、A6、A8らから右の
ような説明を受ける間に、同人らの提供する記事材料の真実性に疑問を抱くととも
に、同人らが右新聞の記事を来るべき市長選挙に利用することを認識したが、これ
らの材料及ひ被告人A5から提供された材料を主体にB紙に登載する記事を作成し
ようと決意し、右三名の側から、新聞はいつごろ発行されますかと聞かれたのに対
し、帰つたらすぐ原稿を書いて工場に廻すので二、三日したらできると思う、でき
たら送つてあげますよと答えていると認められるから、この時点において、被告人
A4と、同A6、同A7、同A8との間において、右三被告人が提供し、かつ虚偽
であると認識していた前記各事実を内容とする記事をBの紙面に掲載公表すること
の共謀及び公選法二三五条二項所定の目的をもつてそれが頒布されることの共同認
識が成立するに至つたと認めることができるから、この点についても、原判決に
は、事実誤認のかどはなく、右(2)前段の論旨は理由がない。
 〔D〕 B五一号中のD1市長関係の記事は、右認定のように、被告人A7、同
A8、同A6、同A5と同A4の共同加功により作成刊行されたものであり、か
つ、右五被告人において、右Bが公選法二三五条二項所定の目的をもつて秋田市の
有権者にA12派の者により頒布されることの共同認識があり、更に、関係証拠に
よれば、
 (い) 被告人A3は、昭和四六年二月五、六日頃、右B五一号の記事を見て、
真偽に問題のある記事が載つていることを認識しながら、上京してこれを買受け、
D1候補の当選を得させない目的で大量に郵送頒布したのであり、その際にこの記
事を作成したのが被告人A4であることを認識していたと認められるのであるか
ら、頒布者である被告人A3は、なにびとが情報提供者であるかを知らなかつたも
のの、情報提供着たる被告人A7、同A8、同A6、同A5及び記事作成者たる同
A4の行為を利用して、自己の意思を実行に移すと同時に、右五被告人の意思を実
行に移したものと法律的には評価されるのであり、この評価を、原判決は、「被告
人A3は、同A4を介して右共謀に加わり、もつて被告人A4、同A8、同東梅
林、同A6、同A5および同A3は、右Bを公表頒布することを順次共謀した」旨
判示しているものである。したがつて、右判示部分には、事実誤認乃至法令解釈の
誤りのかどはなく、右(3)のうち原判示第一に関する論旨、(5)の論旨及び
(7)のうちF会の頒布関係の論旨は理由がない。
 (ろ) 後援会の頒布については、頒布者たる被告人A5が、また市支部の頒布
については、同A13、同A14、同A15、同A7が、いずれも右Bの記事が、
真偽に問題のあるものであることを認識しながら購入して、D1候補の当選を得さ
せない目的で頒布したものであるが、その際この記事の作成者が被告人A4であ
り、情報提供者が、被告人A7、同A8、同A6、同A5であることを、後援会の
頒布については、被告人A5が認識していたと認められ、また市支部関係頒布の共
謀者中、被告人A13、同A14、同A15において、記事作成者及び情報提供者
がなにびとであるかを知らなかつたものの、被告人A7は、記事作成者がA4で、
情報提供者が被告人A8、同A6、同A5及び同被告人であることを認識していた
と認められるから、後援会の頒布については、被告人A5が、また市支部の頒布に
ついては、被告人A13、同A14、同A15、同A7が、記事作成者たる被告人
A4の行為を利用して、自己の意思を実行に移すと同時に、被告人A4の意思を実
行に移したものと法律的には評価されるものであり、後援会及び市支部の頒布につ
き、被告人A4を頒布公表の共犯者と認定した原判決には、事実誤認乃至法令解釈
の誤りのかどはなく、右(3)のうち原判示第一に関する論旨及び(7)のうち後
援会及び市支部の頒布関係の論旨も理由がない。
 〔E〕 関係証拠によれば、同年三月二日午後、秋田市内の被告人A6方におい
て、被告人A2が、D1市長の女性関係についての取材の協力方を依頼した際、被
告人A6、同A5が、できるだけ協力すると答え、右両被告人は、D1がN支部委
員長の頃、国鉄関係のOに勤めていたA10と情交関係があつたこと、県議当時a
の県議会指定寮のママと情交関係があつたこと、及び現市長秘書のPと情交関係が
あること等の噂話を提供したこと、ついで、被告人A2が取材におもむいた折、A
9が提供した話の内容は、D1とD3との関係について、同女の姓名、D1が当
時、東京aの県指定寮の娘であつた同女を他の県議と争つてものにしたこと、D1
が市長になつて右指定寮を市の寮に指定し以前と同様月三万円位支払つていたこ
と、D1が同女に金をやつていると耳にしたこともあること、その後他の市職員が
気を使つてそこには泊らなくなつたためD1の別邸のようになつているとの噂話が
あつたこと、及びD1がKにある「Q」に頼んで同女をそこで雇つてもらつでいる
との噂があるがそれは嘘と思われること等であり、D1とRとの関係について、同
女の姓名、D1が県議当時県議会事務局員だつた同女と情交関係ができたこと、県
庁の中でもその噂は広まり誰も同女に近づかなかつたがD1は市長になつてから同
女に振り向かなくなつたこと、そこで同女もいろいろな男性と関係があると噂さ
れ、同女も出先機関へ転勤になり、同女と関係があと噂された県厚生部の某課長も
左遷されたが、D1はそれくらいのでたらめはやりかねないこと等であり、またD
1とPとの関係について、同女の名、D1と同女が情交関係にあることは市役所内
ではあまりにも有名であること、D1の個人的な預金の出し入れも同女がまかさ
れ、同女名義の預金もたくさんあること、及びD1が秋田市bに同女の家を建てて
やつたとの噂もあること等であり、更に、土木会社S組について、S組の社長がD
1と個人的に親しいので、S組は市の工事を請負わせてもらつていること等であつ
たが、ついで被告人A9は、同A2から「もつとおもしろい話はないか」と聞か
れ、以前被告人A9がD1らとともに県議会の総務委員として出張で佐渡ケ島へ行
つた際、D1がその連絡船上で一緒になつた弘前から来た未亡人と仲良く話をして
いたこと、及びその後D1をひやかすために皆で「あの船の上のシートの中でやつ
たのでは」と話したことを素材として虚偽の話を作り上げ、被告人A2に対し、D
1が右連絡船上で皆の見ている前でシートをはがしてその中で右未亡人と肉体関係
を結んでしまつた旨話したこと、同日夕刻C和食コーナーにおいて、被告人A7、
同A8、同A6、同A5の同席するところで、被告人A2がA9から聞いてきた一
人一人の女性についてのエピソードや連絡船上の話などをも話したが、被告人A
7、同A8、同A6及び同A5は、こもごも被告人A2に対して、D3が東京cの
マンシヨンに住んで月に二、三回秋田へ来ること、D1は同女に「Q」をプレゼン
トしたこと、D1がN支部委員長の頃Oに勤めていたA10と情交関係ができ、同
女を現在Tの雇われママにしていること、D1とRの間に情交関係があるとの話を
聞いていること、D1はPに家をプレゼントしたこと、Pは親と別れてbに一人住
んでいること、及びS組の社長とD1の仲が良かつたので何かそこにくさいものが
あると言われていること等を話したこと、A10は、被告人A5と一緒に被告人A
2が取材するのを自動車で案内している間に、同月五日頃、S組の前社長UとD1
とが麻雀友達であつたこと、S組が請負つた市の下水道工事の完成が遅れて市議会
でも問題にされたことがあること、及びその際市係官がUを市庁舎へ呼んで工事が
遅れていることを注意するとUが「あんた方がわからなければ、市長に直接言う」
と係官に喰つてかかつたことがあること等を素材として虚偽の話を作り上げ、被告
人A2に対し、S組の前社長はD1と親しく、S組で請負つた市の下水道工事の完
成が遅れて市議会で取り上げられそうになつた際、D1市長がそれをもみ消した
が、それ以後D1と社長との間に溝ができ、D1はS組に市の工事を請負わせなく
なつたこと、そこで社長は市庁舎へ怒鳴り込みD1の女関係などを喋りまくり、V
大学の整地工事をもらつたこと、社長が急死すると市はそのV大学の工事を他の土
木会社に請負わせたこと等を話したこと、A9が提供した資料のうち、連絡船上で
の未亡人との交合の話は全くの作り話であり、D3に関するもののうち、D1と深
い関係があつたかどうか、その寮がD1の東京別宅といえる状況にあつたかどう
か、D1が同女に手当を与えていたかについては噂話にすぎず、A9として真偽の
程を知らなかつたものであること、Pに関するもののうち、D1がPと深い関係が
あるとか、母親が邪魔になるので母親と別れ一人暮しをしているとか、D1がPに
家を建てて与えたとか、D1の預金の出し入れは同女に自由にさせているという話
は、これまた噂話で、確かな根拠があるものではないことをA9が認識していたこ
と、Rに関するものも噂の域を出ないもので真偽の程がわからぬことをA9が認識
していたこと、右三女性とD1との関係についての話はその真実性が疑わしく、虚
偽かも知れぬとA9が考えていたため、D1批判のためWに掲載することを用心し
て差しひかえていたものであること、そしてA9は、右の各事実をA2に提供した
際、それが適当に潤色されてFに掲載されることを承知し、D1の四選阻止に同人
の女性問題の件を利用できたらこれをA2に提供して書かせようと思い、かつ、そ
の話がFに載れば、反D1派の者がD1を落選させるため大量に入手して、秋田市
内の有権者に配るなどして利用するものと予測していたこと、A10が提供した資
料は、A10が知つていた事実を素材として作り上げた全く虚偽の事実であり、A
10としては、A2が記事を書く材料として取り上げてくれることを意欲していた
ものであり、かつ、D1の四選阻止の目的で、D1の女性問題に関する記事がFに
載つたら五、〇〇〇部から一万部を秋田市内にばらまくことの必要性につき被告人
A5と話合い、被告人A2に、D1市長の女性問題に関する記事が出たら五、〇〇
〇部か一万部県連で買う話が出ている旨を告げたことがいずれも認められ、また、
被告人A7、同A8、同A6、同A5が前記和食コーナーに同席して、こもごも被
告人A2に提供した情報のうち、D3がHビルのQのママに納まつており月に二、
三回秋田に来ているという話は、被告人A7が話し、同A8、同A6がそうだそう
だと合槌を打つたもの、D1がA10イエと深い関係にあるという話は、被告人A
6がして、同A7が合槌を打つたもの、PがD1と深い関係にあり、最近家をプレ
ゼントしてもらいbに住んでいるという話は、被告人A6がし、同A7がそうだそ
うだ、Pは親と別れてbに一人で住んでいると話をしたもの、U社長とD1との間
にくさいものがあるという話は、被告人A6がしたもの、RとD1と関係があつた
と聞いているという話は、被告人A8がしたものであるが、これらの情報につき、
A6は真偽の程は疑わしいという気持もあつたが、ともかく、D1が四選できない
よう叩いてもらう為、A2に提供したものであること、被告人A8は、D2とD1
が深い関係にあるとの話は初耳であり、また、その余の女性関係については真偽の
程は疑わしいと思つたが、記事にしてもらうことを意欲して、他の人の話に合槌を
打ち肯定するような態度をとつたもの、被告人A7は、その席で出た女性関係の話
は単なる噂の域を出ず、極めてあいまいなものであることを認識していたが、D1
の四選を阻止するため、被告人A2がこれを記事にしてくれるものと思つて提供し
たということ、このようにして提供したD1の女性関係の記事がFに載れば、被告
人A6は、自分で買つてばらまくまでの考えはなかつたが、秋田市内に配付される
ことは予測したこと、被告人A7は、誰がまとめて注文するかはわからなかつた
が、誰かが注文して秋田市内に配付することを予測していたと推認されること、被
告人A8は、A6らが購入し秋田市内に配られ、D1の四選阻止の為に利用される
ことを、また、A9、A10も自己の提供した事実についての記事を載せたFが、
選挙に関し頒布されることを各認識していたことの各事実が認められる。そして、
右六名が提供した事実を内容の主要部分とする記事が、被告人A2の関与によりF
に掲載され、これが原判示のようにA5により頒布されたことが認められるのであ
るから、被告人A6、同A7、同A8並びにA9、A10を、虚偽と知つて提供し
た事実資料の範囲内において、名誉毀損の罪及び公選法二三五条二項の罪の実行共
同正犯者と認定し、また頒布者たる被告人A5との共犯者と認定した原判決には、
事実誤認のかどはなく、右(1)及び(3)の各論旨のうち、原判示第二に関する
論旨は、いずれも理由がない。
 〔F〕 関係証拠に照らし、原審が措信したことに違法のかどがないと認められ
る被告人A2の昭和四六年六月二四日付、七月二日付、同A8の七月一三日付、同
A7の七月一四日付、同A5の七月二日付、七月一七日付各検察官に対する供述調
書中の関係記載、被告人A2の原審公判における供述によれば、前記三月二日夕刻
C和食コーナーにおいて、D1市長の女性関係の話ののち、D1市政についての露
骨な批判及び同年四月に施行される市長選挙ではC1党も候補者を一人にしぼつて
D1市長の四選を阻止するつもりであることが話題とされ、被告人A6、同A5、
同A7及び同A8が、前記の各女性関係の話を記事にして掲載してほしい旨依頼
し、同A2は、これらの記事が特ダネになると考え、かつ、右記事を掲載した場合
その雑誌が右被告人らによつて選挙のために頒布されることも認識したうえ、正義
感からそれらの話を記事に書きましようと答え、次の週の号に載るだろうと話した
と認められ、この時点において、被告人A2、同A6、同A5、同A7及び同A8
は、D1に関して真実性の極めて疑わしい女性関係(Rとの情交関係を除く)の噂
話等をそれが虚偽であつてもあえて記事にしてF誌上に掲載公表し、選挙のため
に、頒布することを意思相通じて共謀するに至つたと認められるから、右(2)後
段の論旨は理由がない。所論中には、この時点において、駆出しの取材記者にすぎ
ない被告人A2が、Fを代表して書いて載せますよということ自体ありえないこと
であるとの主張があるが、被告人A6の昭和四六年七月一四日付検察官に対する供
述調書四項中に、翌三日夜Jクラブで被告人A2、同A5に会つた際、「真実性に
ついて非常に疑わしいD1市長の女性関係がFに載り、秋田市内で配付されるであ
ろうという事が判つていたので、なんだか不安を感じたので、A2に対し、あんな
事書いて大丈夫だろうかと聞くと、A2は、何心配いりませんよ、絶対に迷惑をか
けませんから大丈夫ですよなどと言つてくれたので、私は安心した記憶がありま
す」との記載のあること、被告人A2は、原審で、三月五日離秋するまでの間にA
10からC1党県連がD1の女性関係の記事の載るFを五、〇〇〇か一万部買いた
いという話があつたと供述していることに鑑みれば、被告人A2が、F社を代表し
て述べたとはいえないまでも、三月二日夕刻和食コーナーで、被告人A6、同A
5、同A7、同A8の面前において、D1の女性問題を記事に書きましようと答え
た事実は存在したものと認めざるをえない。そして、被告人A2の昭和四六年六月
二四日付、七月一一日付各検察官に対する供述調書中の関係記載によれば、右の共
謀成立の段階において、それまでに取材したD1の女性関係の話は、本当とは思え
ない話や、真実性のはつきりした根拠のある取材のできていなかつたものであるこ
とについて、被告人A2がこれを認識していたと認められるから、同被告人に、虚
偽性の認識が全くなかつたことを前提とする右(6)の(ロ)の論旨も採用の限り
ではないし、また、被告人A2は、記事にすれば反D1派の連中が選挙戦に利用
し、D1四選阻止に使うことは推測できたものと認められるから、被告人A2と、
同A6、同A7、同A8、同A5との間に、原判示の共謀が成立した旨の原認定に
は、採証法則違反による事実誤認のかどはなく、右(4)及び(6)の(4)の論
旨は、いずれも理由がない。
 先に述べたように、A9が被告人A2に提供した話の内容については、A9自身
虚偽であることを認識し、乃至は、その真実性が疑わしく虚偽かもしれぬと考えて
いたものであつたが、A9は、それが適当に脚色されてFに掲載されることを承知
し、D1の四選阻止に同人の女性問題の件を利用できるなら、被告人A2にこれを
書かせようと思い、かつ、その話がFに載れば、反D1派の者がD1を落選させる
ため大量に入手して秋田市内の有権者に配るなどして利用するものと予測していた
ものであり、被告人A2においても、A9から提供された話の虚偽性を認識し、か
つ、それがFに掲載されたら、D1四選阻止に使われると推測していたのであるか
ら、被告人A2が、同A6、同A5、同A7、同A8のD1市政批判及び四選阻止
の話を聞いて、A9や右の四被告人から提供された情報に基づきD1の女性関係に
つき記事を書こうとの意思を表明した諸点において、A2とA9の間においても、
D1の女性関係についての噂話等を、虚偽であつてもF誌上に掲載し、D1の当選
を得させないため頒布公表することの共謀が成立したものと認められ、この点の原
判示にも、事実誤認のかどはなく、右(6)の(ハ)の論旨も理由がない。
 また、関係証拠によれば、A10が、前叙のように被告人A5の面前で同A2に
提供したS組の前社長の話は、全くの虚偽のものであつたうえ、A10としてはA
2が記事の材料として取り上げてくれることを意欲し、D1の女性関係の記事の載
つたFをD1の四選阻止のため市内にばらまくことを被告人A5ともども予測して
いたのであると認められ、かつ、A2がA10から提供された話を、虚偽かもしれ
ぬとの認識を有しながら、Fの本件記事の素材の一つとしたのであるから、少なく
ともS組の件の記事の範囲において、被告人A2、A10及び被告人A5の間に
も、D1に関して真実性の疑わしい話を、それが虚偽であつてもあえてFに掲載公
表し、D1市長の四選阻止のため頒布することを意思相通じて共謀したと認めら
れ、右(6)の(ニ)の論旨も結局理由がない。
 〔G〕 関係証拠に照らし、原審が措信したことに違法のかどがないと認められ
る被告人A1の昭和四六年六月二四日付、六月二七日付、七月八日付各検察官に対
する供述調書、本件記事の原稿、被告人A2の原審公判の供述その他関係証拠によ
れば、被告人A2の取材をもとにXがリライトした原稿三八枚を見て、被告人A1
としては、記事内容のうち、連絡船上の記事及びY関係の記事は事実に反するし、
その余のZ関係の記事及びB1関係の記事の一部も事実と違うのではないかと感
じ、右原稿の内容に市長選挙の件や、「アンチD1派のデツチあげとみれないフシ
がないでもない」との記載のあつたこと、及び被告人A2から秋田のC1党関係者
から市長の女性問題の載るFを五、〇〇〇部ばかりまとめて買いたい申出があつた
との話を聞いていて、A2の取材先や秋田で会つた関係者の中にC1党関係の人が
いるとわかつていたことなどから、取材先のC1党関係者が、D1を落とすため、
ありもしないD1の女性問題をさも事実あつたようにA2に話したものだと思い、
かつ、その原稿の女性関係の記述をそのまま最終稿の内容としてFに登載すれば、
C1党関係者が市長選挙でD1を落選させるため、これを秋田市内に配り、選挙に
利用することはわかつていたが、表紙ネームを入れたあとで、代りの原稿を集める
時間もなかつたので、原稿に多少の加筆訂正をして掲載することにして最終稿を印
刷に廻したとの事実が認められる。この事実関係のもとにおいては、真実性につい
て裏付けのない極めて疑わしいD1の女性関係等の話を、それが虚偽であるかも知
れないがあえて記事にして掲載公表することについて、被告人A1が同A2と意思
相通じ、かつその際、被告人A1も、右記事の載つたFがD1四選阻止の目的で秋
田市内でC1党関係者により頒布公表されることの認識を有していたと認め、被告
人A1を、被告人A2を介して、他の被告人らとの順次共謀に加わつたとした原認
定には事実誤認のかどはなく、右(6)の論旨も理由がない。
 第二、 原判決には、主文と理由との間にくいちがいの違法がある旨の主張(野
村・小林控訴趣意第一点)について。
 〔A〕 一人分被取材者が提供した事実についての資料は、記事の最終稿になる
までの間に、他の被取材者が提供した別な事実についての資料が参酌されたり、添
加されたりし、また、記者や記事作成者により加筆修飾されたりして一つの記事と
なるのであつて、必ずしも提供された資料そのままの姿で記事の内容となるもので
はない。そしてその記事の掲載された新聞や雑誌が、前項で述べた順次共謀によつ
て頒布公表され名誉毀損の罪及び公選法二三五条二項の罪が成立する場合には、資
料提供者にとどまる者の責任は、その公表を意欲して提供した虚偽の事実の資料の
範囲内にとどまるものである。
 原判決は、B(判示第一)の記事に関し、被告人A8、同A7、同A6に対する
各公訴事実中(1)地裁跡地払い下げの件及び(2)一七社の件の、被告人A5に
対する公訴事実中(1)地裁跡地払い下げの件、(2)一七社の件、(3)資産の
件及び(4)保留地の件の、各事実を公表摘示したという点については、いずれ
も、公職選挙法違反及び名誉毀損の罪の犯罪の証明がない、ただし、被告人A7
((1)地裁跡地払い下げの件及び(2)一七社の件)及び同A5((1)地裁跡
地払い下げの件、(2)一七社の件、(3)資産の件及び(4)保留地の件)につ
いては、同被告人らがBに掲載された右各記事を一読したうえで頒布自体の共謀に
加担した分(被告人A7につきC1党E1支部関係の頒布分約九、四〇〇部、被告
人A5につき後援会関係の頒布分約二、六六九部)に限つては、犯罪の証明があつ
たと判示し、また、F(判示第二)の記事に関し、被告人A8、同A7及び同A6
に対する各公訴事実中、(1)連絡船上の件、(2)Yの件のうち、D1が市長に
なつてから東京の寮は市会議員の寮にかわり、月三万円の家賃と彼女への手当を払
つて市長の東京別宅扱いだつたということ、(4)B1の件、(5)F1の件のう
ち、D1市長は同女を市の金も自由に出し入れできる立場においていること、及び
(6)S組の件等の事実を公表摘示したとの点については、公職選挙法違反及び名
誉毀損の罪の犯罪の証明がないとしたうえ、いずれも、当該被告人について罪とな
るべき判示第一又は第二の事実と、一罪の関係にあるとして起訴されたものと認め
られるので、いずれも主文において特に無罪の言渡をしないと判示している。
 所論は、主文で無罪の言渡をするべきもので、その言渡をしないことは主文と理
由のくいちがいに当ると主張する。
 前項第一の〔A〕に述べたように、被取材者が取材者に虚偽の事実についての情
報を、記事として公表されることを意欲して提供する個々の行為は、名誉毀損の罪
及び公選法二三五条二項の罪の実行の着手にとどまり、記事作成者及び頒布公表者
の加功なしには既遂とならないものであり、かつ、頒布公表された一つの記事の中
に、他の被取材者の提供した別な虚偽の事実についての資料や、記者や記事作成者
の加筆修飾した虚偽の事項が含まれている本件BやFの記事のような場合には、個
々の被取材者の提供した、虚偽の事実についての情報に基づく虚偽の事実の記載
は、その頒布公表が前記の罪を構成する一つの記事の一部をなすものであり、その
記事を頒布公表するという一つの行為により、一罪が成立するに至る関係にあるも
のであるから、個々の被取材者が、右記事の内容となる数個の虚偽の事実の一部に
ついて、これを虚偽の事実と知り、かつ、記事として公表されることを意欲して提
供したものとの認定がなされた所為と、記事のうちその余の虚偽の事実を提供した
こと乃至は提供したが虚偽の事実であることを認識していたことの点について証明
が十分でないとされた所為とは、別罪の関係に立つものではない。したがつて、そ
の提供をしたこと乃至は提供はしたが虚偽の事実であることを認識していたことの
点について証明がないとされた所為と、罪となるべきものとされた所為とを、一罪
の関係にあるとして起訴されたものと認め、犯罪の証明がないとされた点につい
て、主文で無罪の言渡をしなかつた原判決の措置に違法のかどはなく、論旨は理由
がない。
 〔B〕 原判決は、
 「被告人A11、同A14、同A13、同A15、同A12および同A3に対す
る各公訴事実(本件B約二万三、〇〇〇部の頒布)のうち、
 (1) 被告人A11および同A12については後援会関係の頒布分(約二、六
六九部)およびC1党E1支部関係の頒布分(約九、四〇〇部)以外の頒布分
 (2) 被告人A14、同A13および同A15についてはC1党E1支部関係
の頒布分(約九、四〇〇部)以外の頒布分
 (3) 被告人A3については、F会関係の頒布分(約九、五一四部)以外の頒
布分。」
 については、犯罪の証明がないとし、
 「これらは、いずれも、当該被告人についての判示罪となるべき事実第一(B関
係)と一罪の関係にあるとして起訴されたものと認められるから、いずれも、主文
において特に無罪の言渡をしない。」
 と判示しているのであるが、小林弁護人は、この点についても、主文で無罪の言
渡をするべきもので、その言渡をしないことは主文と理由のくいちがいに当るか
ら、職権発動を願うという。
 しかしながら、本件Bの各記事の材料提供乃至記事の掲載、発行等に関与した被
告人A4、同A8、同A7、同A6及び同A5は、原判示のような各共謀の範囲の
限度において、後援会関係(約二、六六九部)、C1党E1支部関係(約九、四〇
〇部)及びF会関係(約九、五一四部)のすべての頒布分について、頒布の概括的
認識を有し、共謀による刑責を負うのであり、右各共謀者に対しては、後援会関
係、市支部関係及びF会関係の頒布は包括して一罪となるものであるところ、被告
人A11、同A14、同A13、同A15、同A12及び同A3は、いずれも、本
件Bの具体的な頒布行為を個別的に認識して、前記の材料提供乃至記事の掲載、発
行等に関与した各被告人と順次共謀のうえ、包括して一罪となる所為の一部に加わ
つたその認識共謀の限度においてのみ刑責を負うことになるのである。そして、右
被告人六名についての起訴状の記載(原審第一回公判で訴因の変更のあつたものを
含む)に鑑みれば、右各被告人が個別的に認識のあつたことの証明のあつた具体的
頒布行為と、個別的に認識があつたことの証明のない具体的頒布行為とが、包括し
て一罪の関係にたつとして訴追されていると認められるから、個別的に認識のあつ
たことの証明のない具体的頒布行為に関しては、罪にならないことを理由中で示せ
ばたり、主文で特に無罪の言渡をすることは必要ではない。したがつて、右の職権
発動を求める申立について、職権の発動はこれをしないこととする。
 第三、 BのC1党E1支部関係の頒布及びF会関係の頒布についての原認定を
論難する主張について。
 〔I〕 野村・小林控訴趣意のうち、原判示第一の事実中、市支部の頒布に関
し、(1)二月八日頃の役員会の席上、Bの購入頒布が話合われた折、被告人A7
はその席をA8と共に中座しており、その席にいなかつたものであるから、被告人
A7を支部の頒布の共謀共同正犯者と認定した原判決には、採証法則違背による事
実誤認がある旨の、(2)被告人A15が右二月八日頃の役員会で回覧に供したB
は、二月一六日にA15の所に到着したものであるから、二月八日頃の役員会でそ
れを回覧に供したことはありえず、したがつてその購入頒布が話合われ、被告人A
7、同A14、同A13及び同A15がG1らとともに、その頒布を二月八日頃共
謀した旨の原判決には、事実誤認がある旨の、(3)被告人A13は、右役員会で
右の頒布の話があつた折には同席しておらず、同日右の会合後、G1から、Bを買
つて配るから承知してくれといわれたが、賛成できないと述べ、また、G1の命を
うけBを注文した事務員のD4に、「Bがきたらぶつとばせ」と命じた位であるか
ら、被告人A13を本件支部の頒布についての共謀共同正犯と認定した原判決に
は、採証法則違反による事実誤認がある旨の、(4)被告人A14は、右の役員会
の席上、Bの購入頒布の話が出た折、購入頒布に積極的に反対することはしなかつ
たが、自分の選挙運動が忙しく配布には手が廻らないと発言し、暗に反対したもの
であるから、被告人A14を右支部の頒布についての共謀共同正犯と認定した原判
決には、採証法則違反による事実誤認がある旨の各主張(同第二点第四の一及び三
ノ二の1の(二))及び、(5)原判決第一のうち、支部による頒布の部数につい
て、事実誤認がある旨の主張(同第三の一一)について。
 〔A〕 原審取調べの証人D4、同D5の各供述記載及び昭和四六年七月三〇日
付加畑検察事務官作成の捜査報告書によれば、D4がB五一号(二月一日号)購入
方につきB社のD5に電話で折衝し、一万部を注文したのが昭和四六年二月八日で
あること、押収にかかる経済日記(符号五四)中の二月九日欄に、被告人A8が、
「B出まわる」と記載していることに照らせば、同年八月四日付金澤検察事務官作
成の捜査報告書にある、麻布局から料金別納郵便として同年二月八日にB五一号
二、九二二通が発送される以前に、B社から直接秋田市内の住人にB五一号が郵送
されたものがあつたと推認されること、被告人A14の同年七月一四日付検察官に
対する供述調書九項中に、二月上旬C1党E1支部ての会議が「一段落したころ、
A15が、B二月一日号を広げて見せながら、このような新聞が、直接私の家に送
られて来た、非常にいいものを持つて来たから、これを見てくれと言い、順に皆に
回覧しました」との記載、同一一項中に、その場でG1副支部長が、事務職員のD
4に命じB社に電話して、その新聞を大量に購入する折衝をさせた旨の記載のある
こと、Bが支部に到着したのが二月一四日であること、押収にかかる被告人A7の
手帳(符号五五)中昭和四六年二月七日欄には「H1後援会、I1、J1、K1」
との記載があるところ、被告人A15の同年七月二一日付検察官に対する供述調書
中(四、七、八項)に、A12候補の応援演説会があり、J1等がきて演説をした
日の翌日頃、「私の家に私宛で、B社と印刷された茶色の大封筒が郵送されて来
た、開いてみると、B二月一日号が一部入つていた……その日だつたと思うがC1
党E1支部で役員会が開かれたので、私はこのBを封筒ごと持つて出席した。……
役員会で立候補者の激励をした後、私は持つて行つたBを出し、こんなに良いもの
が私の所へ郵送されて来たから見てくれと言つて回覧しました」との記載のあるこ
と、原審公判で被告人A14は、配付の郵送料のことをA15が話したのは二月一
四、五日頃であると供述していることを綜合すれば、二月八日の役員会で被告人A
15が、B五一号を回覧に供した旨の原認定は正当として肯認しうるのであり、当
審取調べの角封筒に二月一六日着と記載されている事により、それ以前の二月八日
頃にB五一号が郵送されてきたという前記認定事実を否定することはできない。し
たがつて、原認定の二月八日の共謀に事実誤認がある旨の右(2)の所論は採用の
限りではない。
 〔B〕 右二月八日頃の支部役員会でB購入頒布が話合われた席に、被告人A7
がいて、回覧されたBを見て、「これはいいものだ」とか「D1を叩くにいい材料
だ」といつた趣旨の発言を被告人A7がして、購入頒布に賛意を表した旨の原認定
は、被告人A15の昭和四六年七月二二日付、被告人A14の七月一九日付、七月
三一日付、被告人A7の七月一七日付各検察官に対する供述調書、田口正男、渡辺
兼治の各検察官に対する供述調書を綜合すれば、優にこれを肯認しうるのであり、
所論指摘の押収にかかる被告人A8の経済日記二月八日欄の記載をもつては、被告
人A7が、B購入頒布の話合い前に、その席をはなれたとの被告人A7の原審公判
供述が裏付けられているとは到底認められない。したがつて、右(1)の所論も採
用の限りではない。
 〔C〕 原判決が措信したことにつき、条理又は経験則に反するかどがあるとは
到底認められない被告人A15の昭和四六年七月二一日付検察官に対する供述調書
中(九、一〇項)には、前記役員会でA15が回覧に供したBが、「一通り回覧し
終つた頃、被告人A14が、これは大したもんだ、これを是非大量に注文したう
え、支部で配付したらいいんではないかと提案した」、「誰かが、これをバラまく
のはA14さんとA15さんでやつてくれないかと言いました。するとA14君
が、私は御承知のように今回の市議選に立候補するので、自分のことてとでも忙し
くつて、他人のことまで手がまわらないので、選挙に出ないG1さんとA15さん
にお願いできないか。事務局を使い、それを監督してくれれば良いのではないかと
言つたのてす」との記載があり、これに符合する供述記載が、被告人A14の昭和
四六年七月一四日付、七月二四日付各検察官に対する供述調書中にあることに鑑み
れば、被告人A14を、Bを市支部で大量に購入し配付することの共謀共同正犯者
と認定した原判決には、採証法則違背による事実誤認のかどはなく、右(4)の所
論は採用の限りではない。
 〔D〕 G1の昭和四六年七月二七日付、A15の同年七月二一日付、七月二二
日付、A14の同年七月一四日付、七月一九日付、七月二四日付、七月三〇日付、
七月三一日付、A11の同年七月一一日付、七月一二日付、七月三一日付各検察官
に対する供述調書及びそれらを含む関係証拠上、措信した原審の措置が不合理とは
認められない被告人A13の同年七月二九日付検察官に対する供述調書中の関係記
載を綜合すると、被告人A13は、Bの購入頒布を決めたC1党E1支部役員会
で、本件Bの購入頒布に賛同して、被告人A14、同A15、同A7らと原判示の
頒布を共謀し、その代金をA12後援会に負担させることについても関与したこと
が認められる。そして、D4の昭和四六年八月四日付、同年七月二九日付各検察官
に対する供述調書によれば、市支部の購入したBの一部を廃棄したのは、昭和四六
年三月中旬頃、Fが出まわり、Bの頒布の効用が殆どなくなつた時期においてであ
ると認められ、Bを東京から郵送すべく東京に送つた頃、被告人A13から市支部
にあつたBを捨ててしまえといわれたので捨てた旨の原審証人D4の尋問調書中の
記載及び、BがきたらぶつとばせとD4に命じた旨の被告人A13の原審公判にお
ける供述を措信しなかつた原審の措置が不合理なものとは認められない。したがつ
て、被告人A13を、市支部関係の頒布の共謀共同正犯者と認定した原判決には、
事実誤認のかどはなく、右(3)の所論は採用の限りではない。
 〔E〕 市支部関係のBの頒布部数を、原判決は約九、四〇〇部と認定している
ところ、所論はこれを七、六〇〇部位と主張するのであるが、所論主張のとおりと
しても、その差異は、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認に当らないか
ら、所論自体適法な控訴理由に当らないのみならず、頒布部数と、廃棄部数につい
ての、D4の原審の証人尋問調書中の記載、同人の昭和四六年七月二九日付及ひ同
年八月四日付の各検察官に対する供述調書中の記載を対比検討してみても、右八月
四日付検察官に対する供述調書中の記載を措信し、頒布部数を約九、四〇〇部と認
定した原審の措置が不合理なものとは認められないから、右(5)の所論も採用の
限りではない。
 〔F〕 したがつて、右(1)乃至(5)の論旨は、いずれも理由がない。
 〔Ⅱ〕 金澤控訴趣意のうち、F会によるBの頒布につき、被告人A3は、D1
市長に四選を得させない目的をもつてしたものではないから、「D1に四選を得さ
せない目的をもつて、Bを頒布した」旨の原判示には、事実誤認があるとの主張
(同第一)について。
 所論に鑑み、原審記録及び原審取調べの関係証拠を検討してみると、市政をFす
る会(以下F会と略称)なる政治団体が成立するに至つた経緯は、所論主張のとお
りのものであること、昭和四六年四月二五日施行の秋田市長選挙に際し、立候補し
た被告人A12の確認団体ということで推進母体となつたのが告示の日であつて、
選挙運動期間中は、A12支持の運動を展開したものであること、被告人A3が同
年一月中旬頃同会の事務局長に就任したものであること、同被告人がB社のD5に
原判示のB二月一日号一万部の注文をしたのは、同年二月九日頃であること、同月
一一日頃から東京都内のB社及びL旅館において、被告人A5から借りた秋田市の
選挙人名簿の写に基づき、当時F会にアルバイトに来ていたM1、N1らに秋田市
内の有権者に郵送するための宛名書き作業を行わせ、同月中旬から下旬にかけ、約
九、五一四部を麻布郵便局から秋田市内の有権者らに郵送配付したことの各事実が
認められる。そして、被告人A3が右M1、N1を連れ上京するに当り、その目的
を秘したうえ他言しないよう口止めをしていたこと、被告人A3は、右Bの購入代
金三五万円をD5に支払う折、裏金として扱いB社の帳簿にのせないよう依頼し、
受取つた領収書も上京中に廃棄していること、配付方法も、B社が自主的に郵送配
付した形をとり、F会の名を表に出していないことなどに鑑みれば、所論主張のよ
うに、「D1市政を市民の批判にさらし、市政をFする目的」でBを郵送配付した
ものとは到底認められないのであり、被告人A3の昭和四六年八月七日付及び同月
一二日付各検察官に対する供述調書に記載のあるとおり、被告人A3がB五一号を
大量に買つて秋田市民に配付したのは、D1の四選を阻止し、A12の当選を得さ
せる目的でなされたものと認められ、右の各供述調書の記載に信用性がない旨の所
論は採用の限りでなく、この点の原認定に、事実誤認のかどはないから、論旨は理
由がない。
 第四、 被告人A12、同A11を原判示第一の後援会及び市支部関係の頒布並
びに同第二の頒布についての共謀共同正犯者と認定した原判決を論難する主張につ
いて。
 野村・小林控訴趣意のうち、原判示第一中、後援会及び市支部による各頒布並び
に原判示第二の頒布につき、頒布に無関係な被告人A11、同A12を共謀共同正
犯者と認定している点において、原判決には、共謀共同正犯理論の解釈の誤りに基
づく、事実誤認乃至は採証法則違背による事実誤認がある旨の主張(第二点、第三
の九の1及び第四の三ノ二の1の(一)、(三)、同四乃至七)について。
 〔A〕 所論に鑑み、まず、被告人A11の所論指摘の各検察官に対する供述調
書の信用性を検討してみると、(イ)C1党E1支部が頒布のため注文したB五一
号一万部の件について、その話が最初被告人A13により後援会事務所の被告人A
11のところに、市支部の役員らと相談して決まつたからといつてもちこまれ、被
告人A11としては、それは構わんが金の方はあなたの方でお願いする旨を話した
こと、ついて、被告人A14から一万部を一部三〇円で注文したからよろしくとの
電話があり、被告人A11が了解の返事をし、市支部の一万部の代金を後援会で負
担することを承知し、二月中旬頃、被告人A12の娘で後援会の会計を担当してい
たP1に話して用意させ、三一万円を市支部の事務担当者D4に二月末頃渡し、D
4から右代金はQ1の偽名でB社に送金した旨の記載が、被告人A11の昭和四六
年七月一一日付、七月一二日付、七月二四日付(乙83)、八月三日付各検察官に
対する供述調書中にあるが、右七月一一日付、七月一二日付各調書は、検察官が被
告人A13、同A14及びD4を取調べる以前のものであり、被告人A11の供述
によりはじめて明らかにされた事実であり、後に作成された被告人A13、同A1
4、同A15及びD4の供述調書の記載により裏付けられていること、(ロ)後援
会により配付されたB三、五〇〇部注文の件については、被告人A11の七月一一
日付調書作成前のものとしては、被告人A5の七月二日付、七月五日付各検察官に
対する供述調書に記載があるが、これらを対比してみると、A11調書には、Bを
被告人A12に見せ、A5から後援会関係に配るのに三、五〇〇部とつたらどうだ
ろうという話があつて、そうすることにしたが、市支部からも一万部欲しい話があ
る、どんなものでしょうかと言うと、A12が、後援会の三、五〇〇部でよいので
はないか、一万部もいらんのではないかと言つた旨の、A5調書には全く記載のな
い事実の記載があり、しかも、この供述のなされたのは、被告人A12の取調べ以
前のことであること、(ハ)被告人A11が逮捕されたのは、昭和四六年七月七日
であり、七月八日の取調べでは、Bの後援会及び支部の頒布に無関係であると述べ
ていたが、三日後の七月一一日には、Bの後援会及び支部の頒布とFの頒布につ
き、被告人A5や、被告人A13、同A14との折衝につき具体的かつ詳細な供述
をしていること、(二)被告人A11は原審公判において、右七月一一日の供述に
至つた経緯につき、当時健康を害してもうろうとしており、事業のことも気にな
り、検事に迎合同調し、A5がこう述べていると押しつけられ検察官の調書が作ら
れた旨述べているが、関係証拠によれば、被告人A11には高血圧の症状があつた
が重篤なものではなく、事業についても気になることはあつたと認められるが、前
述したように、被告人A11が、被告人A5や、同A13、同A14との折衝、被
告人A12との話合いについて具体的かつ詳細な供述を始めたのは、身柄を拘束さ
れて四日目のことであり、その供述内容は、それ以前のA5調書にない事項にもわ
たり、更に、支部の頒布関係については、支部関係者の取調べ以前に右の供述がな
されていることなどを綜合すると、被告人A11の右七月一一日付調書及びその内
容の反覆、敷桁にわたるその後の日付の検察官に対する供述調書に信用性があると
して、これを証拠の標目にかかげている原判決には、採証法則違背のかどはない。
 〔B〕 次に、被告人A12の所論指摘の各検察官に対する供述調書の信用性を
検討してみると、(イ)被告人A12は身柄不拘束のまま昭和四六年七月二二日、
二三日、二四日の三日間取調べられていること、(ロ)被告人A12は、原審公判
において、七月二二日の調書は、検事から被告人A11がこう言つていると言わ
れ、記憶がないと言うと、検事が席をはずし、被告人A11に確かめてきたと言わ
れ、また、被告人A12の娘P1もそう言つていると言われ、市政を一日も遷延さ
せることのできない立場におかれていたので、やむなく検事の言うことを認めた旨
供述しているのであるが、右七月二二日付調書には、Fの頒布の件についての被告
人A11と同A12との話合いについての供述記載があるところ、被告人A11の
七月二四日付調書の末尾には、「Fの関係については明日申し上げます」とあり、
右のFの頒布についての話合いについては、同被告人の七月二六日付(乙85)供
述調書になつて、はじめてその記載が現われていることに鑑みれば、被告人A11
がこう言つていると検事に押しつけられ、やむなく検事の言うことを認めた旨の原
審における供述は措信できないものであること、(ハ)P1の検察官に対する供述
調書は、昭和四六年七月二二日付のもの一通だけであるが、その中には、「投票日
の前でしたが自宅で父にA11さんからお金が必要だと言われたのでA9さんに話
し、A9さんから貰つてA11さんにあげておきましたという趣旨のことを話した
ことはある。その時にBとかFの関係で金を渡したんだということまで話したかど
うかよく思い出せない」旨の記載があり、被告人A12の最初の検察官に対する供
述調書である右同日付のものの中に、「二月下旬頃P1からBの代金は会社から持
つて来た金から払つたと聞いた」、「三月下旬頃P1からFの代金は払つたと聞い
た」旨の記載があるところ、両者を対比してみると、被告人A12の調書は、P1
の調書の記載をこえて、B、Fの代金支払いの資金関係について武藤調書にない事
項について記載されていると認められるうえ、原審証人D6の供述によれば、A1
2調書の右の記載はA12の口から出たものであり、P1を勾留する事実は何もな
いから、A12が否認すればP1を勾留するということを言うはずはないし、ま
た、A12を勾留して調べると言つていないというのであるから、右調書作成に当
り、P1がこう言つていると誘導されたとか、否認すればP1を勾留するとか、被
告人A12を勾留して調べるとか言つて押しつけられたとかいう被告人A12の弁
解は措信できないものであること、(ニ)所論中には、被告人A12の検察官に対
する供述調書は、偽計によつて獲得された自白に当るもので証拠能力を欠く旨の主
張があるが、被告人A12を取調べた検察官であるD6の原審における証人尋問の
結果に徴すると、当時被告人A11は東京拘置所に入つていたのであり、被告人A
12の調べは地検第二庁舎で行われたのであつて、A12の調べの途中でA11に
確かめるといつて席をはずし、A11は間違いないと言つているといつてA12に
自白を迫つた事はないというのであり、この供述を措信し、被告人A12の原審公
判におけるこれに反する弁解を措信しなかつた原審の措置が、他の関係証拠を勘案
しても不合理とは認められないから、被告人A12の検察官に対する供述調書が偽
計により獲得された自白に当る旨の所論は前提を欠くものである。
 したがつて、被告人A12の各検察官に対する供述調書に証拠能力及び信用性が
あるとして、これを証拠の標目にかかげている原判決には、採証法則違反のかどは
ない。
 〔C〕 所論は、後援会のBの頒布についての、被告人A5が同A11に頒布し
たいと申出で、同A11が同A12に同様の申入れをし、右両被告人がこれを了承
したから同A5と共謀した旨の原認定につき、購入頒布はA5がやつたのであり、
A11、A12はその頒布行為には全く関係がなく、実行行為に及んでいないもの
であり、A11、A12が自らの行為としてA5をしてこれをなさしめたとは認め
られないから、単に犯罪の認識があつたにすぎない被告人A11、同A12を共犯
者と認定することはできない旨主張しているのであるが、被告人A5、同A11、
同A12の原審公判における各供述を綜合すれば、C1党R1支部連合会(以下県
連という)の事務員であつた被告人A5は、昭和四五年一二月下旬A12後援会の
事務所開きのあつた頃、被告人A12の要請により、県連からA12後援会に出向
し、同後援会事務局長に就任した被告人A11を補佐していたこと、被告人A11
は、同A12が昭和三四年県議選挙に立候補したとき以来同人の選挙の都度その応
援をし、とくに同三八年、同四二年の県議選挙に際しては、選挙事務所の事務長格
として選挙運動の采配を揮い、本件市長選挙に際しては、A12後援会の事務局長
として、後援会よりの大口の選挙費用の支出につき指示する立場にあり、被告人A
12が設立し、代表取締役社長に就任していたS1株式会社のA9経理部長から、
被告人A12の負担において同社の金から必要な資金を支出してもらうことについ
ては、被告人A12も従来の選挙以来当然のこととして被告人A11にまかせてい
たこと、A12後援会に対する寄付金などは、右A9が受入れて別途に保管し、被
告人A11の指示により支出することになつていたことが認められ、また、被告人
A5の昭和四六年七月二日付、七月五日付、七月一七日付、八月一一日付、及び被
告人A11の同年七月一一日付、七月二四日付(乙83)、被告人A12の同年七
月二二日付、七月二三日付、七月二四日付各検察官に対する供述調書中の関係記載
を綜合すれば、被告人A5は、同年二月初旬、A12後援会事務所において、市内
の不動産業者が持参したB五一号に掲載されたD1市長についての記事を読み、原
判決が虚偽と認定した(1)乃至(5)の記事の真実性に強い疑問を抱いたが、右
Bを購入して秋田市内に頒布すれば、D1市長の社会的評価を落としその市長四選
を阻止するのに効果があると考え、同月八日頃、被告人A11に、右B三、五〇〇
部くらいを注文して配りたいと相談を持ちかけたこと、同A11は、後援会事務所
で前記Bの各記事を読んでその真実性に強い疑問を抱いたがA12後援会事務所の
責任者として、D1市長の社会的評価を落とし、その市長四選を阻止するために
は、右Bを購入して頒布した方がよいと考え、被告人A5の右申出を承諾し、購
入、頒布を一任する旨答えたので、同A5がB社のD5に電話し、被告人A4に渡
してある名簿に基づいて郵送してくれと依頼したこと、右購入代金は同年二月末
頃、被告人A11の指示により、P1が被告人A12の負担において用立てた金の
中から支払われたこと、更に、その頃、被告人A11は、被告人A12が右後援会
事務所に立寄つた際、前記B五一号を同人に見せ、被告人A5の申出により、三、
五〇〇部位購入することを承認した旨話して諒解を求めたところ、同A12は、右
Bの前記記事を読み、その真実性に強い疑問を抱くとともに、記事内容が全体とし
てD1市長の人身攻撃にわたるものであつたためこれを秋田市民に大量に頒布する
ことについては躊躇したが、同A11及び同A5が、A12の当選のみを願つてB
の頒布を画策した熱意を無視することもできないと考え、右B約三、五〇〇部を購
入し秋田市内の後援会会員らに頒布することを承諾したこと、被告人A11が、同
A12に右の承諾を求めたのは、頒布するBの内容上、頒布することにより選挙に
影響が及ぶこと及びかなりの金の支払いを伴うことになるので、被告人A12の了
解を得ておく必要があると考え、A12のとりやめろとの指示があればこれに従う
ことを考えてのことであつたことの各事実が認められ、これら事実関係のもとにお
いては、被告人A11、同A12は、自らの行為として、被告人A5に購入頒布を
なさしめたものと評価しうるのであり、被告人A11、同A12は、単に被告人A
5の犯罪を認識していたにとどまるものではないというべきであるから、右両被告
人を、被告人A5のした頒布公表行為の共犯者と認定した原判決には、事実誤認の
かどはない。
 〔D〕 所論は市支部関係のBの頒布について、被告人A11は、同A14、同
A13から購入資金を出してくれと頼まれて了承し、同A12はA11にいわれ了
承したから、被告人A11、同A12は、同A14、同A13らと共謀した旨の原
認定につき、購入頒布は市支部関係者がしたのであり、A11、A12はその頒布
行為には全く関係がないから、右両被告人を共犯者と認定した原判決には事実誤認
がある旨主張しているのであるが、被告人A14の昭和四六年七月一四日付、七月
二〇日付、七月三一日付、同A13の七月二九日付、同A15の七月二一日付、G
1の七月二七日付、七月二九日付、被告人A11の七月一一日付、七月一二日付、
七月二六日付(乙85)、七月三一日付、八月三日付、同A12の七月二二日付、
七月二三日付、七月二四日付、D4の七月一八日付各検察官に対する供述調書中の
各関係記載を綜合すると、昭和四六年二月八日頃、G1、被告人A14、同A1
5、同A7、同A13らは、C1党E1支部としてB五一号を購入して秋田市内の
有権者らに頒布すること、購入資金については市支部に負担のかからないようにG
1が善処することなどを話合い、被告人A7、同A14、同A13及び同A15
は、G1らとともに、D1に関して真実性の疑わしい事項を掲載した右Bを、その
内容が虚偽であつても、あえて選挙のために頒布することを意思相通じて共謀し、
同日D4に命じてB一万部を注文させたこと、被告人A14は、同月九日頃G1及
び被告人A13から右一万部の購入資金をA12後援会から支出するよう被告人A
11に頼んでほしい旨依頼されたため、A11にその旨を伝えたが確約は与えられ
なかつたこと、A11は、その頃、後援会事務所において、被告人A12にB三、
五〇〇部頒布の件を話したついでに、市支部ても一万部を購入して頒布したい意向
であることを伝え相談したところ、被告人A12は、一旦は右三、五〇〇部の頒布
で十分であり、市支部の一万部については一応その必要がないものとして反対した
が、更に、被告人A13からも同趣旨の依頼があつた後、その日か翌日頃被告人A
14からも再び同様の依頼があつたため、被告人A11は、市支部の者らが、B一
万部を購入頒布することを決めたのは、ひとえに市長選挙をA12に有利に展開さ
せようという気持から出たことであるので、A12後援会としては、結局右一万部
の購入資金を負担しなければならないものと考え、被告人A14に対し、前記依頼
を承諾する旨伝えたこと、被告人A11は、その二、三日後、後援会事務所におい
て、被告人A12に対し、B一万部の購入資金を後援会て負担してほしいとの市支
部からの依頼を承諾した旨話して同人の諒解を求めたところ、同A12は、同A1
1をはじめ市支部の同A13らが、ひとえに自己の当選を願つて取り決めて来たこ
とを考え、右A11の申出に諒解を与えたこと、右購入代金は、同年二月中旬頃、
被告人A11の指示により、P1が被告人A12の負担において用立てた金の中か
ら支払われたこと、被告人A11が同A12に右の承諾を求めたのは、頒布するB
の内容上頒布することにより選挙に影響が及ぶこと、及びかなりの金の支払いを伴
うことになるので被告人A12の了解を得ておく必要があると考え、A12が配る
ことをやめろと言うのであればこれに従うことを考えてのことであつたことの各事
実が認められ、これら事実関係のもとにおいては、被告人A11、同A12は、自
らの行為として、市支部関係者にBの頒布をなさしめたものと評価しうるのであ
り、単に購入資金を出してくれと頼まれて了承したものにとどまるものではないか
ら、右両被告人を、市支部関係者のした頒布公表行為の共犯者と認定した原判決
に、事実誤認のかどはない。
 〔E〕 所論はFの頒布につき、頒布行為は被告人A5がしたもので、被告人A
11は同A5から購入頒布したいがどうかと言われ、同A12は同A11からどう
かと言われ承諾したものにすぎないのであり、被告人A5の犯行を諒承したという
だけのものであるから、右両名を共謀共同正犯者と認定した原判決には、事実誤認
があると主張しているのであるが、被告人A5の昭和四六年七月二日付、七月五日
付、七月一八日付、八月一日付、同A11の七月一一日付、七月二六日付(乙8
5)、八月三日付、同A12の七月二二日付、七月二三日付、七月二四日付各検察
官に対する供述調書中の関係記載を綜合すれば、被告人A11は、昭和四六年三月
初旬、A12後援会事務所において、被告人A5から、Fの記者がD1市長の女性
関係の話の取材に来たので被告人A6、同A7及び同A8らとD1の女性関係等を
話したこと、及び右記者を案内して女の所をまわつたこと等を聞いていたが、更
に、その頃被告人A5からF五、〇〇〇部を注文して配りたい旨の相談を受けた
際、同A5らがBのときと同様に、D1に関して真実性の疑わしい女性関係の噂話
等を掲載した右FをD1四選阻止のために頒布する意図であることを知り、これに
賛同し、被告人A5に注文部数はまかせると言つたこと、同A5の注文したFが一
長堂に入荷する前に、同年三月一〇日頃、被告人A11はF三月二二日号を見て、
配つたら逆にA12が反感を買うのではないかと心配し、大金の支払いを伴うこと
でもあつたので被告人A12にFの件についても了承をえることとしたこと、被告
人A5が注文したFが一長堂に入荷したのは、同年三月一四日頃であるが、これに
先立ち被告人A12は、三月中旬頃、A12後援会事務所に立ち寄つた際、同所に
あつたF三月二二日号に掲載された前記記事を読み、右記事がD1に関する真実性
の極めて疑わしい女性関係の噂話等を記載したものであることを知つたが、その
際、既に被告人A5が右F五、〇〇〇部を頒布のため注文したことを被告人A11
から聞き、更に同人から右頒布の承諾を求められたこと、その際、被告人A12
は、同A11及び同A5らがBの際と同様に右Fを既に注文し、D1市長四選阻止
のために頒布しようとしていることを知つたが、A12のためを思つてのことであ
るという被告人A5らの気持を無視するわけにもいかず、しょうがないなあと言つ
て承諾を与えたこと、右の購入代金五〇万円は、同年三月下旬被告人A11の指示
によりA12後援会の預金から支払われたこと、被告人A11は、A12から絶対
にやめろと強く言われればA5に配ることを取りやめさせようと考えていたことの
各事実を認めることができるのであり、これら事実関係のもとにおいては、被告人
A11、同A12は、被告人A5の犯行を諒承したというだけのものではなく、自
らの犯罪として、被告人A5のする頒布公表行為に賛同関与したものと評価しうる
のであるから、右両被告人を右頒布公表行為の共同正犯者と認定した原判決には事
実誤認のかどはない。
 〔F〕 所論は、原判決が、後援会関係及び市支部関係のB頒布について、
 「市長選挙に立候補するD1の評判を落として同人に当選を得させない目的をも
つて、被告人A4および同A5がさらに被告人A4、同A8、同A7および同A6
が、D1に関して虚偽の事実を掲載したB第五一号(昭和四六年二月一日付)を公
表頒布することを共謀し、そしてこれに引続き、
 一、 後援会関係の頒布につき、被告人A11が同A5を介して右共謀に加わ
り、被告人A12が同A11およひ同A5を順次介して右共謀に加わり、もつて被
告人A4、同A8、同A7、同A6、同A5、同A11および同A12は、右Bを
公表頒布することを順次共謀し、
 二、 C1党E1支部関係の頒布につき、被告人A14、同A13および同A1
5が同A7を介して右共謀に加わり、被告人A11が同A14、同A13および同
A7を順次介して右共謀に加わり、被告人A12が同A11、同A14、同A13
および同A7を順次介して右共謀に加わり、もつて被告人A4、同A8、同A7、
同A6、同A5、同A11、同A14、同A13、同A15および同A12は、右
Bを公表頒布することを順次共謀し」
 と判示している点について、前者につき「右虚偽性の共通認識の下に、A5、A
11、A12が共謀があつたとすることは、それが、A4、A6、A8、A7らと
結びつくものではない。また、原判決はA5は(5)のI会の件についてのみA4
と共謀があつたとするのですから、もしそれA11、A12をA5を介して共謀に
加わつたとするにおいては、それ丈に限られるべきものである。A8、A7、A6
との共謀は、順次共謀理論を拡張してもこれを認むべきでない」と主張し、後者に
つき、「A14、A13、A15、A7らが購入頒布したとするも、被告人A1
1、同A12は、A5、A8、A7いわんやA4とは何らのかかわりを持つもので
はない。それなのに被告人A11、同A12がそれらの被告人らとの共謀関係にた
つと認定できるかむしろ不思議という外はない。」といい、また、Fの頒布につい
て、「D1の評判を落として同人に当選を得させない目的をもつて、被告人A2、
同A8、同A7、同A6および同A5が、(1)連絡船上の件、(2)Yの件、
(3)Zの件、(4)B1の件、(5)F1の件および(6)S組の件についてい
ずれも虚偽の事実を掲載したF昭和四六年三月二二日号を公表頒布することを共謀
し、被告人A9および同A1がいずれも被告人A2を介して右共謀に加わり、被告
人A10が被告人A2および同A5を介して右共謀に加わり、被告人A11が被告
人A5を介して右共謀に加わり、さらに被告人A12が被告人A11および同A5
を順次介して右共謀に加わり、もつて右被告人らは右Fを公表頒布することを順次
共謀し」と認定している点につき、「被告人A11、同A12が、A9、A10、
A8、A7、A6そしてA1、A2と共犯関係にたつとはあまりに飛躍的認定であ
る」とし、これら認定には、共謀共同正犯理論の解釈の誤りに基づく事実誤認があ
ると主張している。
 先述したように、順次共謀による多数人の共同正犯の場合、その全員につき相互
に直接犯意の連絡がなされること、及び全員が他の共犯者がなにびとであるかを了
知していることは必要ではないのであり、その一部の者の間に意思の連絡があつ
て、これを通じて、順次間接的に他の者に意思の連絡があつて全員に及び、犯行が
なされたものと評価しうるときには、全員が共同して各自の犯意を実現したものと
して共同正犯の責任を負うものであるから、Bの、後援会関係の頒布について、A
6、A8、A7、A4と共謀したA5を介し、A11、A12が共謀に加わつたと
して、A11、A12を、A6、A8、A7、A4とも共同正犯の関係にたつとし
た原判決の認定、市支部関係の頒布について、A7を介して、A8、A6、A5、
A4と、A14、A13、A15らとの間に共謀が成立し、A14、A13を介し
てA11、A12が共謀に加わつたとして、A11、A12を、A6、A8、A
5、A4、A7らとも共同正犯の関係にたつとした原判決の認定、Fの頒布につい
て、A6、A7、A8、A5、A10、A9、A2、A1の間に共謀が成立し、A
5を介してA11、A12が共謀に加わつたとして、A11、A12をA6、A
7、A8、A10、A9、A2、A1とも共同正犯の関係にたつとした原判決の認
定には、いずれも共謀共同正犯理論の誤りはなく、したがつて右の誤りに基づく事
実誤認のかどもないのであるから、この点の論旨はいずれも理由がない。当然のこ
とながら、被告人A11、同A12は、D1に関するBの記事及びFの記事につ
き、他の共犯者と同様各自が虚偽性を認識した事項の限度において、名誉毀損の罪
及び公選法二三五条二項の罪の責任を負うものであるから、後援会関係の頒布につ
いて、被告人A5が被告人A4に提供したI会の件の限度に、被告人A11、同A
12と被告人A5との間の共謀の内容を限るべきものという所論は、採用の限りで
はない。
 〔G〕 したがつて、論旨はすべて理由がない。
 第五、 被告人A4、同A2、同A1について、公選法二三五条二項に問擬した
原判決に、事実誤認乃至法令解釈適用の誤りがある旨の主張について。
 松本控訴趣意のうち、原判示第一の公選法違反の点につき、被告人A4は、D1
の当選を得させない目的を有しなかつたものであるから、被告人A4を公選法二三
五条二項に問擬した原判決には、事実誤認乃至法令解釈適用の誤りがあるとの主張
(同第四点及び控訴趣意補充書)、並びに、吉田・内田控訴趣意及び内田控訴趣意
のうち、原判示第二の公選法違反の点につき、被告人A2、同A1は、D1の当選
を得させない目的を有しなかつたものであるから、右両名を公選法二三五条二項に
問擬した原判決には、事実誤認乃至法令解釈適用の誤りがあるとの主張(吉田・内
田控訴趣意一、内田控訴趣意第一点の第四及び第五の二)について。
 <要旨第二>〔A〕 公選法一条は、選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて
公明かつ適正に行われることを確保することをその目的の一つとして掲
げている。同法二三五条二項は、右の目的に鑑みると、同項所定の虚偽の事項が公
にされると、それが選挙人の公正な判断を誤らせる因となり、選挙の自由公正を害
するところが大であるので、かかる行為を処罰の対象とするにあることが明らかで
ある。同項の構成要件に「当選を得させない目的をもつて」としている点について
考察するに、公選の候補者又は公職の候補者となろうとする者に関して、虚偽の事
項を公にするという行為は、客観的に選挙の自由公正を害する結果を招来するが故
に違法と評価されるのであるが、このように違法と評価される結果を招来する行為
に出た者について、どの範囲で主観的にも違法であると判断すべきかの基準とし
て、法は「当選を得させない目的をもつて」その行為に出たことを要すると定めた
ものと解せられる。したがつて同項にいう「目的」は、刑法六五条にいう「身分」
には該当しないものであると解せられるから、共犯者において、正犯が同項所定の
目的で虚偽事項を公表することを了知認識して、虚偽事項の公表行為に加功するの
であれば、行為加功者たる共犯者自身に固有のものとして、「当選を得させない目
的」が存在しなくとも、同人を、当選を得しめない目的をもつて虚偽事項を公表し
た罪の共犯者と認定するを阻げないものと解せられる(通貨偽造罪、文書偽造罪、
有価証券偽造罪などにいう「行使の目的」を、自己行使の目的に限らず、自己行使
の目的は存在しないが正犯者が行使する目的の存在を了知認識しながら偽造行使に
加功した者を偽造罪の共同正犯者としている、最高裁・昭和三四年六月三〇日三小
判決、刑集一三巻六号九八五頁、大審院・大正五年一二月二一日判決、刑録二二巻
一九二五頁、大正一五年一二月二三日判決、刑集五巻五八四頁、大正九年一〇月二
八日判決、刑録二六巻七九三頁、東京高裁・昭和二八年一二月二五日判決、高刑特
報三九号二三八頁も同旨のものと解せられる。本件のような「目的」の概念につい
ては、「一身的な性質又は関係」と対比される「行為に関する違法要素」に属する
ものであり、「構成要件的結果に向けられた故意」乃至は「行為の違法を修飾する
構成要件的結果の主観的反映」と解せられる。Shoenke―Schroede
r,Strafgesetzbuch.Kommentar,16.Aufl.,
1972.,S.415参照。)。
 〔B〕 原判決は、被告人A4を、公選法二三五条二項の罪の共犯者と認定して
いるのてあるところ、被告人A4の昭和四六年七月九日付検察官に対する供述調書
二項、七項には、「市長選挙の直前の時期であつたことから提供をうけた材料の内
容は右選挙でD1を批判し叩く材料ばかりで結局材料提供者らの選挙運動に捲き込
まれるかたちになつてしまつたのです、ですからA6らから提供をうけた材料をそ
のまま記事にすれば新聞を発行した際にその新聞が同人らに選挙のため利用される
ことは判り切つたことでした」、「この記事を新聞にすれば保守派の方で市長選挙
に利用することは当時の時期的な問題から判り切つた事でしたが、その事を承知の
上で記事にしてしまつたのです」との記載がある。そして、被告人A4が、D1に
関する虚偽の事実を内容とするB五一号の当該記事を作成した際、同被告人固有の
ものとして、D1に当選を得させない目的を有したと認定しうるにたりる証拠は存
しないが、同被告人が右記事作成の際、その記事を掲載した新聞が、秋田市のC1
党関係者により、D1に当選を得させない目的をもつて、頒布公表されることを了
知、認識していたと前掲引用の証拠により認定しうるから、原判示の後援会、市支
部及びF会関係の頒布につき、同被告人を、公選法二三五条二項の罪の共同正犯者
と認定した原判決には、事実誤認乃至法令解釈適用の誤りのかどはなく、論旨は理
由がない。なお、松本控訴趣意補充書中には、目的の認識は、未必的認識ではたり
ず、確定的認識があることを要する旨の主張があるが、関係証拠を検討すると、被
告人A4においては、同人作成の前記記事を掲載したB五一号が、秋田市のC1党
関係者により、D1に当選を得させない目的で頒布公表されることについて、確定
的認識を有したものと認められるから、同被告人を公選法二三五条二項の罪の共同
正犯者と認定した原判決には、この点の法令解釈の誤り乃至事実誤認のかどはな
く、この点の論旨も理由がない。
 〔C〕 原判決は、被告人A2、同A1を、公選法二三五条二項の罪の共犯者と
認定しているのであるところ、被告人A2の昭和四六年六月二一日付検察官に対す
る供述調書七項には、「記事が出ればC1党秋田県連においてこれを市長選挙に利
用しD1市長を落す為に使われる事は判つており乍らスクープなので記事にして出
してしまつたのです」、同年六月二四日付供述調書七項、九項には、「私自身もD
1市長に対し反感を抱いておりましたからもし本誌でD1市長の女性問題を掲載す
ればこれを反D1派の連中が選挙戦に利用しD1四選を阻止する為に使うであろう
事は推測出来ましたが、正義感から市長の女性問題に関する記事を書きましようと
話したのです」、在秋中に「A10さんは『C1党の秋田県連で(D1市長の女性
問題に関する記事の載つたFを)買うという話が出ているのです』と教えてくれた
のです」との供述記載があり、また、被告人A1の昭和四六年六月二四日付検察官
に対する供述調書二項には、「秋田のC1党といえば、T1党所属のD1市長とは
対立する反対の立場にあるわけであり、そのC1党関係の人がD1市長の女性関係
の記事が掲載されている本を五千部も買つてくれるというのですから自分で読むは
ずはありませんから間もなく始まる秋田市長選挙に利用するために買つてくれるの
だなと思いました」、「端的に申しますとD1市長と対立する秋田のC1党関係の
人が市長選挙にはD1市長に票が集まらないように利用するためではないかと私は
思いました」、同年六月二九日付供述調書四項には、「その原稿を見た時、A2の
取材先がC1党関係者である事は推測出来ていたのでそれら取材先関係者が今度の
市長選挙にはD1氏を落しC1党関係候補を当選させる為にありもしないD1市長
に関する女性問題をさも事実あつたようにA2に話したものだなと思つたのです
が、既に表紙のネームにも取り入れてしまつていましたし代りのトツプを飾る原稿
を集めると言つても時間がなかつたので思い切つてこれを掲載する事にしたので
す」との記載がある。そして、被告人A2、同A1が、D1に関する虚偽の事実を
内容とするFの当該記事の作成に関与した際、右両被告人に、各固有のものとし
て、D1に当選を得させない目的を有したと認定しうるにたりる証拠はないが、右
両被告人が、右記事作成に関与した際、その記事を掲載するFが、秋田市のC1党
関係者により、D1に当選を得させない目的をもつて頒布公表されることを了知、
認識していたと前掲引用の証拠により認定しうるから、原判示のFの頒布につき、
右被告人両名を公選法二三五条二項の罪の共同正犯者と認定した原判決には、事実
誤認乃至法令解釈適用の誤りのかどはなく、論旨は理由がない。なお、所論中に
は、被告人A1が右の記事を掲載公表したのは、革新市長D1の姿勢の是非につい
て全国読者の意向を問うという高次の目的からであり、同被告人には、D1の当選
を得させない目的は存在していなかつた旨の主張がある。同被告人自身の固有のも
のとして、D1を当選させない目的があつたものではないが、記事内容をなすD1
の女性関係の事項の相当部分について、被告人A1に虚偽性の認識があつたもので
あると認められる以上、右にいう高次の目的を同被告人が有したものとみる余地は
なく、当然のことながら、同人の所為が正当行為に当ると評価する余地もない。し
たがつて、原判決には、この点についても、事実誤認乃至法令解釈適用の誤りのか
どはなく、この点の論旨も理由がない。
 第六、 Bの原判示の記事の虚偽性とその認識についての原認定を論難する主張
について。
 (一) 記事の虚偽性について。
 〔1〕 野村・小林控訴趣意第二点第一の一乃至四並びに金澤控訴趣意第二の一
及び二の1について
 所論の骨子は、原判示「地裁跡地払い下げの件」の虚偽性につき、被告人A4が
「独断決定」「強行採決」と記載したのは、A4が正当妥当な意見乃至評論を記載
したものであり、公選法二三五条二項にいう「虚偽の事項」にも、また、刑法二三
〇条にいう「事実の摘示」にも当らないと主張し、仮に、右の記載が事実を摘示し
たとしても、右の件の記事全体からみて重要な部分は真実であるから、一部多少真
実に合致しない部分があるとしても前記両条項に該当しないというにある。
 そこで、所論B(東京高裁昭和五〇年押第七〇七号の二)をみると、その第一面
の上部に大活字の横書きで「市有地払い下げ強行採決」と見出し(付帯横見出し)
を付し、本文の冒頭には、「24倍の土地と等価交換」と題し、本文には、「昭和
四十四年三月三十一日、D1秋田市長は、県にはかつて、県所有の旧裁判所跡地
を、所有地であるd地区、e地区と等価交換することを取り決めた。ところが、こ
れはまつたくのD1T1党市長の独断で決定されている。」と記載し、ついで四月
九日に県と等価交換した裁判所跡地払い下げの件を議題として召集された臨時市議
会につき、「もちろん、議会で決議通過したことはいうまでもない。
 ちなみに秋田市議会の各党の勢力分野は、T1党、十二議員、C1党、六議員、
民社党、二議員、P2党、二議員、公明党、一議員、無所属、十六議員と、なつて
いるところから判断しても、議会の決議が容易であつたろうことは、うなづけよ
う。」と記載し、ついで、「払い下げ先は、D1市長が社長に就任しているHビル
となれば、市民が不審の目を向けるのも当然のことといえよう。」と記載し、次に
は、或る市会議員が、このようなD1市長のやり方を嘆いていることを紹介したう
えで、「それでもD1市長は『Hビルの建物は、市内の多くの中小企業者に対し、
売場を安く提供し、業者育成の意味もある』と強引に議会の議決をはかつたとい
う。」と中段を結んでいる。
 関係証拠を検討してみると、右等価交換に関する事項をD1市長が独断で決定し
たものでないと認められることは原判示(六二丁)のとおりであり、また、地裁跡
地をHビル株式会社に払い下げる案件につき、強引に議決をはかつた乃至は強行採
決した事実のないことも原判示(六三丁)のとおりであるから、右の記事のうち、
「独断で決定された」旨の記載部分及び「強行採決」乃至「強引に議決をはかつ
た」旨の記載部分に限つては、いずれも虚偽の事実を記載したものであるとの原認
定に事実誤認のかどはない。
 更に関係証拠によれば、「被告人A4は地裁跡地払い下げの問題について、記事
材料提供者らの説明に従つて大筋において真実の記事を作成したものの、その筆の
おもむくまま右記事材料提供者らがD1市政全般に対して抱いていた独断的との評
価に基づき、前掲各具体的な事実に関して独断決定ないし強行採決の説明を受けた
かのように歪曲して本件各記事を作成したものと認められる。」との原判示部分
は、優に肯認しうるところである。そして、以上の「独断決定」及び「強行採決」
の記事部分は、その用語の意味からも、またBの記事の文脈や記事中での扱い方な
どからみても、いずれも具体的事実の記載と解せられ、意見、判断乃至評論の記載
にとどまるものとは到底解されないから、それが意見、判断乃至評論の記載に当る
との見解を前提とし、いわゆるフエアーコメントルールに依拠して虚偽の事項の記
載に当らないとする論旨は、採用の限りではない。また、地裁跡地払い下げの件に
ついての見出しの記載を含む右の一連の記事全体を通読すれば、D1市長により
「独断決定」がなされ「強行採決」がなされたとの摘示事実部分が、その記事の重
要な部分の一部であることは疑いの余地のないところであるから、告訴状の告訴事
実中にこの点の記載がないからといつて、右の虚偽の事項の記載部分が枝葉末節部
分であるとの主張も独自の見解で、採用の限りではない。
 〔2〕 野村・小林控訴趣意第二点第一の五及び金澤控訴趣意第二の2について
 原判示「一七社の件」について、野村・小林所論は、D1市長が社長に就任した
のは三社(記事外を加えれば四社)、関係会社として特別の関係があるとか、社長
と懇親の関係のあるものを含めて九社があるので、表現に多少の誤りはあるもの
の、大筋において真実であると主張し、金澤所論は、原判決が社長に就任したと認
めた三社(記事外を加えれば四社)、取締役、監査役に就任したと認めたもの三社
のほか、実権を握つたとするもの、何らかの面で援助、助言乃至は便宜を与えたと
するものがその余の一一社であるので、本件記事は真実を指摘したものと認められ
るから、虚偽の事実を記載したものと認めた原判断は、証拠の取捨選択を誤つた結
果、事実を誤認したものというのである。
 そこで、B(前押号)をみるに、その一面の上段のD1市長の写真を挾んだ大文
字横七行の中程に、「市長職のかたわら民間一七社の社長・重役として君臨、『重
機関車』のごときらつ腕をふるつている。」と、紙面の中央の点線の枠内に記事中
横見出しで「市長、一七社の社長・重役兼務」と掲げ、本文には、「別表のよう
に、D1市長個人が社長に就任している会社は、U1デパートをはじめ、五社にお
よんでいる。この他重役相談役として関係している会社は十二社にものぼつてい
る。」と記載し、別表として直径約一〇糎の円内に、肩書を社長として五会社、重
役として七会社、相談役として二会社、顧問として三会社の各社名を列記してい
る。そして通観すると、D1市長の会社に対する関係度を現わすものとしては、社
長、重役、相談役、顧問の職名に限られている。所論の引用する証人V1、同W
1、同D1の各証言によつても、右記事記載の一七社のうち、原判決の認定したH
ビル株式会社、U1デパート株式会社及び株式会社X1の三社で社長に就任し、Y
1株式会社、C2株式会社、株式会社E2の三社で監査役又は取締役に就任した以
外に、前記のような役職に就いた会社のあることを認めるに足りる証拠は見当らな
いから、その余の一一社の記載部分が虚偽の記載に当るものであり、D1市長が社
長に就任している会社は五社、その他重役、相談役として関係している会社は一二
社にのぼる旨の記事は、事実を歪曲した虚偽の記事に当るから、その旨の原認定に
は、採証法則違背による事実誤認のかどはなく、したがつてその表現に多少の誤り
があるにすぎないとか大筋において真実であるとか、本件記事は真実の事実を指摘
したものであるとかいう所論に左袒することはできない。
 〔3〕 野村・小林控訴趣意第二点第一の六及び金澤控訴趣意第二の二の3につ
いて
 所論は、いずれも、D1がその経歴に徴し分不相応に多額の蓄財をなしたことは
真実であつて、一三億円という数字はこのことを比喩的に表現したのにすぎないか
ら、記事の本質的部分は虚偽の事実を摘示したものではないと主張する。
 そこで、B(前押号)をみると、その第一面の大文字横七行の中程に、「市長は
国鉄出身のT1党員だ。すでに三選、その間貯めも貯めたり資産一三億円……」
と、紙面の略中央に記事中継見出しで、「一代で一三億円築く」と掲げ、本文に
は、「F2銀行G2支店の或る行員は、『市長の資産は、十三億円くらいある。そ
れも、これも、市長という権力の座にあつた賜ですよ』とはつきり語つている。」
という記事が存在する。
 しかして、関係証拠に徴すれば、「昭和四六年当時におけるD1の資産は、動産
約三、〇〇〇万円のほか、不動産として秋田市内の通称f所在山林約一、二〇〇
坪、同通称g所在の山林約六〇〇坪、同字h所在の山林約七五〇坪、同所在墓地八
四坪および秋田市i町字j所在の保安林約六五四坪があつた程度でしかも右fの山
林約一、二〇〇坪は、D1が市長就任前に所有していた秋田駅前の建坪約六〇〇坪
の建物を約三〇〇万円で処分して得た金で購入したもので、その後昭和四八年九月
ころこれを売却しているが、そのときにおける売却価格ですら約二、五〇〇万円に
すぎず、従つて、昭和四六年当時、D1の所有資産の額は多くとも一億円程度であ
つたと認められる。」と判示する原判断は、これを肯認することができる。仮に、
所論指摘の秋田のk地区(証人H2の証言)、旧l内(同V1の証言)に土地を所
有していたとするも、それが、億を以て算する価額の土地で本件記事の一三億に迫
る額にのぼる土地であることを推認させる証拠は見当らない。他人の財産を的確に
知ることはなにびとにとつても困難であることは所論の自認するところでもあり、
巷間、地方銀行の行員が一三億くらいあると洩らしたからといつて、それを以てD
1の資産が一三億円あることの証拠となす由もない。叙上引用の一三億円に関する
三個の記事のうちの前二個の記事が、前叙の体裁で明確に「一三億円」と表現して
いるところによれば、正に一三億円の数値そのものに本質があるのであつて、これ
を比喩的表現にすぎないとすることは、社会通念上到底首肯しえない。原判断が、
D1の資産が一三億円くらいあるとの記事について虚偽の事実の記載であることが
明らかであるとしたのは正当である。
 〔4〕 野村・小林控訴趣意第二点第一の七及び金澤控訴趣意第二の二の4につ
いて
 B(前押号)の第一面下段から三段目の「市保有地が市長名義」という小見出し
に続いて、「また、或る革新系市会議員は『市長は、かつて同志だつたが現在の市
長のやり方を見ていると感心できない面が多い。いい例が秋田市m町nのo―pに
あるI2会館の隣接地がそうだ。あの土地は簿価一千五百万~二千万はするところ
で、確か先の区画整理で、市の保有地となつていたところ。それがいつの間にかD
1市長の個人名義になつているんだ』ともいう。」とある。そして、右記事にある
土地区画整理により市の保留地となつた土地で、D1市長の個人名義になつた土地
は皆無である旨の原認定は証拠上肯認しうるから、右の記事自体が虚偽の事実を記
載したものであることは明白である。しかし、所論は、まず、「D2がq町字rs
の田二九二坪を買受けたことになつており、それが一時市の保留地となつたJ2会
館の隣地三四ブロツク二ロツトに仮換地指定され、それが転々と換地されたこと
は、D1とA10が特殊の関係があつたことに本質的な問題があり、」(野村・小
林趣意書一〇一頁末行以下)、「本件Bの記事もその真意乃至は主要部分は、登記
名義よりも市の保留地がいつの間にか実質的にD1の個人所有になつていたことを
問題としているものである。」(同趣意書一〇二頁末行以下)と前提し、右実質的
所有関係上虚偽の事項に当らないことの理由として、更に所論は、(い)D2が秋
田市q町字rs番地田二九二坪を昭和三九年二月九日、所有者K2から買受けた
が、その過程では、D1が同市建設部都市計画課用地係のL1に公共用土地を入手
するように命じ、L1とK2との間では、仮登記寸前までそのようにして話が運ば
れたこと、(ろ)同四一年三月三〇日、右土地が同市区画整理事業の実施により、
m地区三四ブロツク二ロツト(宅地七五五平方米)に仮換地指導を受けたこと、
(は)後に、隣接のM2組合所有地である同三ロツトとの間に同組合の要望により
交換分合がなされた際、D1が、D2の所有土地につき処分権限ある者として、同
組合との折衝に当つたこと、(に)同四二年七月一八日に、同女所有の仮換地土地
が同四二ブロツク三ロツトに(宅地七五五平方米)に仮換地指定変更されたが、右
は、同女の苦情に基づきD1が同市区画整理課長菅原定雄に指示してなされたもの
であり、右変更された宅地は、一等地に位し、変更前のものに比べ、地価が比較に
ならぬ程高価であること、(ほ)同年一〇月九日に、右変更された仮換地の隣接地
である同ブロツクは四ロツト(市の保留地、二三五平方米)が、時価より著しく廉
価で同女に払い下げられていること、(へ)D2名義で支払われた前記(い)のK
2所有の土地の買入資金三〇〇万円及び前記(ほ)の保留地の購入資金二一三万
六、一五〇円について、その出所不明の部分が大きいことなどの一連の事実があ
り、前記(い)のK2所有の土地の買受けに際してD1の執つた欺瞞的措置、前記
(は)の交換分合の際のD1の挙措態度、前記(に)の仮換地指定変更と前記
(ほ)の保留地払い下げとに見られるD1の地位乃至職権利用によるD2に対する
莫大な利益供与、前記(へ)の資金出所不明などの諸点を併せ考えると、本件D2
名義の土地は、D1がその出資者であり、右土地の実質上の所有者はD1であるこ
とが推認されるから、本件保留地に関する記事は、虚偽の事実の摘示に当らないと
いうのである。
 D2が、右四二ブロツク三ロツト及び同四ロツトの土地を取得するに至つた経緯
につき、関係証拠に照らせば、同女がアパート用の土地を探していると聞いたD1
市長が、秋田市建設部用地係として不動産取引に詳しいL1に適当な土地を探すよ
う頼み、A10は同人の尽力で、秋田市q町字rs番地田二九二坪を所有者K2か
ら代金三〇〇万円で譲り受けたこと、その後右土地がJ2会館の隣接地で市の保留
地ではなかつた三四ブロツク二ロツトに仮換地の指定を受けたが、これに隣接する
同三ロツトに仮換地の指定を受けたM2組合からの陳情により、D1市長は、区画
整理についてできるだけ関係者に不満のでないよう処理するとの平素の方針に則
り、所管の区画整理課長に命じてA10と交渉させ、同女の承諾を得て右二ロツト
と三ロツトについて横割に変更する交換分合手続をとつたこと、その後しばらくし
てA10が区画整理課長やD1市長に同土地の立地条件につき苦情を申出たことか
ら、D1は区画整理課長に指示して適当な換地を探させた結果、四二ブロツク三ロ
ツトの土地をA10に見分させ、その諒解が得られたので、前記三四ブロツク二ロ
ツトを右四二ブロツク三ロツトに仮換地変更をしたものであるが、右四二ブロツク
三ロツトも市の保留地になつていたものではなかつたこと、その後、同女の希望に
より所定の手続をとつて右四二ブロツク三ロツトに隣接する保留地であつた同四ロ
ツトを相当価格で同女に売渡したことの各事実を認めることができる。そして、所
論のうち、前掲(は)、(に)、(ほ)については、社会通念上市長の地位にある
者として常軌を逸した便宜乃至利益供与とみられ、また、(い)、(ほ)の各土地
の購入資金中の一部の出所について、原審におけるD2の証言の内容に一貫性を欠
くものがある点を考慮に容れても、右資金の大部分がD1より出ていると推認する
ことはできず、ひいては、本件土地がすべて、名義人はD2となつていても、その
実質はD1個人の所有に帰着するものと認めさせるに足りるものでないとの原認定
は容認しうるところであるから、「市の保留地がいつの間にかD1の実質上の個人
所有地になつた」旨の主張を前提として、本件保留地に関する記事が虚偽の事実の
摘示に当らないとする主張も、採用の限りでない。
 〔5〕 野村・小林控訴趣意第二点第一の八、九及び金澤控訴趣意第二の二の5
について
 所論は、社会福祉法人I会が、昭和四二年夏にその所有する土地を秋田県から新
産業都市計画の工業用地として買収する申入を受けたが、同年一一月、D1が自ら
理事長をしている秋田市都市建設公社をして県の提示額より高価に買収させ、か
つ、使途の自由な運用資金の捻出にまで、同I会のために骨折つたことにつき、W
が、「D1はI会側から謝礼一〇〇万円を貰つた」と掲載したため、昭和四四年四
月九日の臨時市議会において、D1が右謝礼収受の有無について質疑を受けるに至
つた際、D1は、簡明直截に貰つたことはないと答えていないのであるから、本件
Bの「この件も、その後議会で問題となり、とりあげられたが、別に否定しなかつ
たといわれている。」旨の記事は、虚偽の事実を摘示したものではなく、また、前
記謝礼の趣旨で、D1がI会側から、仏像一体(時価三〇〇万円)の贈呈を受け、
これを市立美術館に預けたが、このことが問題になるに及んで、後にN2保育所に
移したものと推定されるから、「ねだつて贈呈を受けたが、市議会で問題になる
と、個人として県立美術館へ寄贈したと弁明し、何とかその場を切り抜けた」旨の
記事は、仏像購入につきI会の当初予算に計上されず、本件報奨金から支出されて
おり、安置すべき保育所が未完成であり(所論は括弧書中に昭和四八年四月ころ完
成と記しているが、引用の証人D7の尋問調書には、同四四年四月に完成予定で同
四五年四月に完成したと記載されている)、保育所の建設資金のため農協から三、
〇〇〇万円を借入れているなどの諸事情からみても、I会は保育所の守り本尊とす
るために仏像を購入したのではなく、D1に謝礼として贈呈するために購入し同人
に贈呈したものであり、その重要部分は、真実を摘示しており、いずれも虚偽の事
項に該当するものではないというのである。
 所論に鑑み関係証拠を検討してみると、I会の所有地を県に売却するに当り、D
1が理事長をしていた秋田市都市建設公社が、一旦I会から買受け、県に転売し、
その差益金中七五〇万円を報償費名下にI会に支払い、I会としては使途自由な運
用資金を捻出してもらつたことに感謝し、同理事会の決定に基づき、昭和四三年五
月D1市長、D8助役、A14助役、O1都市建設公社理事の各夫人に現金五万円
宛を贈つたが、D1、D8、A14の三夫人が、その後直ちにそれをI会に返還し
た事実の存在したことを認めることができる。そして昭和四四年四月一日付W(前
押号の二四)・秋田市議会会議録(前押号の六)中、本件一〇〇万円についての質
疑応答部分によれば、右Wが、市長、助役夫人らがI会から金五万円を受取つてこ
れを返還したこと、及び同公社理事O1が警察でD1市長がI会から金一〇〇万円
を貰つた旨供述しているがその点について証拠がないことなどの記事を掲載したた
め、同月九日の臨時市議会において、P2党所属議員が、D1市長に対し右一〇〇
万円贈与の件をただしたところ、D1が、この件についてWの編集発行責任者であ
るA9に電話で抗議し、記事の悪い部分は早速訂正する旨の返事があつたと応答し
ていることが認められるが、その応答の趣旨に照らせば、右一〇〇万円の授受は事
実無根で迷惑している趣旨の答弁をしたものと優に認められ、かつ、原審における
証人D7の尋問調書の記載などを綜合すれば、右一〇〇万円の授受は全くなされな
かつた旨の原認定は肯認しうるから、「I会が謝礼としてD1市長に百万円渡した
といわれる」との記事は、虚偽の事実を記載したものであり、またその件が議会で
問題になつた際、「D1市長は別に否定しなかつたといわれている。」との記事は
事実をゆがめたものと認められるから、ともに虚偽の事実を記載したものであると
の原認定に事実誤認のかどはない。また、仏像一体の贈与の件の所論のうち、仏像
購入予算は当初全く計上されていなかつたなどの背景諸事実の点(野村・小林控訴
趣意第二点第一の九の1乃至4、金澤控訴趣意第二の二の5の(二))について
は、仮にこれらの諸事実が認められても、直ちにD1が所論仏像の贈呈を受けた事
実を認めるに足りないものであるばかりでなく、仏像贈呈の件に関する本件Bの記
事が虚偽の事実に当らないとの所論が、証拠上是認し得ないものであることは、後
出(第六の(二)の〔1〕の〔C〕の(へ))の判断のとおりである。
 (二) 記事の虚偽性の認識について。
 〔1〕 野村・小林控訴趣意第二点第一の六〔(3)の件〕、七〔(4)の
件〕、九〔(5)の件〕及び金澤控訴趣意第三について
 原判決は第一の事実につき、「被告人A4及びA4の取材に応じ資料を提供した
同A5、同A6、同A7、同A8、以上五名と後援会関係で共謀頒布・公表した同
A11、同A12、右五名と市支部関係で共謀頒布・公表した同A14、同A1
3、同A15、同A11、同A12、右五名とF会関係で共謀頒布・公表した同A
3は、それぞれ本件記事ないしは各該当記事を真実と信じるに相当の理由がなかつ
たことはもちろん、それらの記事内容が虚偽であることにつき確定的または少なく
とも未必的認識があつた」旨判示しているが、被告人ら(同A4を除き)は、該当
各記事の虚偽性の認識を欠き真実であると信じたか、あるいは真実と信ずるにつき
正当の事由があつたのであるから、右判示部分には事実誤認がある旨の主張につい

 〔A〕 地裁跡地払い下げの件について
 (イ) 被告人A11、同A14、同A13、同A15、同A12、同A7及
び、同A5(A7については市支部関係、A5については後援会関係各頒布のみ)
について
 関係各証拠、就中、昭和四四年四月九日会期の秋田市議会会議録(前押号の六)
によれば、被告人A7、同A13は、同日の会議に出席し、「土地売払いの件」の
議案の審議に関与していること、同A11の同四六年七月二四日付検察官に対する
供述調書中「私がBを見たとき、要するにD1市長が市政を独断専行し、私財を貯
えたという事を訴えるために嘘や本当の色々な話を取りまぜて書かれている、ある
事、ない事を非常に誇大にしかも色々脚色して書かれているなと思つた、強行採決
する必要などないし、その様な噂も聞いていないので、事実とは思わなかつた」旨
の記載、同A14の同日付検察官に対する供述調書中「私は市会議員を長くやつて
いるのでよく判るが、D1市長がいかに私腹をこやすとしても、社長のようにふる
まつて、秋田市を株式会社のように運用することはできないから、この書き方は全
く事実に反する」旨の記載、原審第二七回公判調書中被告人A13の「裁判所跡地
の払い下げ議案について、この議案は、四五年の三七番の議席で最後列でありまし
た、その時、わたしは採決の瞬間に、まさに採決せんとするとつさの場合に退場し
ました」の供述記載、及び同A13の七月二九日付検察官に対する供述調書中「当
時市の総務委員会で一〇名中私一人だけ反対したのにもかかわらず多数決で払い下
げが決つてしまつたのでこれは私に言わせれば強行採決だと思つています」旨の記
載、同A15の七月二一日付検察官に対する供述調書中「当時の議会の構成から
は、いわゆる強行採決などということは必要のないことです、市議会での質疑応答
の詳細は知らないし、このような記事がはたして事実かどうか判断する資料はなく
非常に疑わしいものと思つた」旨の記載、同A12の同月二三日付検察官に対する
供述調書中「私は、Hビルヘの市有地払下げが、満場一致で可決されたと聞いてい
たから、この強行採決も事実に反するだろうと思つた」旨の記載、同A5の同月一
七日付検察官に対する供述調書中「私の原稿中、D1が市有地をHビルに安く譲渡
して不当利得を得ていると書いた部分、D1の株式会社秋田市の様相を呈している
と書いた部分は、D1市長の悪政を市民に訴えるため曲げて書いた」旨の記載、同
A7の原審第二〇回公判調書中の供述中、Jクラブで同A4に話をした際のことに
つき、「私は、強引に議決をしたとは言つていない、D1市長は、Hビルの建物は
中小企業者に対して売場を安く提供される、業者の育成だと言いながら結論的にそ
うなつていない、うそを言つたわけです、だから強引と言えば強引なことになるん
じやないですか、ただ強引に議決をしたとは言つていない」旨の記載に加え、本件
地裁跡地と市有地の等価交換及びそのHビルヘの払い下げは、前記認定のように、
秋田市都市計画事業の一環として、国及び県の協力のもとに、秋田市における長年
の懸案事項を解決しようとしたいわば長期にわたる大計画のひとつの結末であり、
秋田市民においてひとしく注目するところであり、しかも、右被告人らは、いずれ
も秋田市乃至はその近隣に在住し、かつ、地方政治に直接乃至間接に関与するもの
で、市政の動向に対しても平素から深い関心を持ち正確な情報を入手し得る立場に
あつたものと認められることに照らせば、「右被告人ら(A11、A14、A1
3、A15、A12及びA3)が、右各記事(独断決定・強引議決)についてすく
なくともそれが虚偽であるかも知れない旨の未必的な認識を有していたことは容易
に認めることができる。なお、被告人A7および同A5については、記事を一読し
たうえ、頒布の共謀に加担した分(被告人A7につきC1党E1支部関係の頒布
分、被告人A5につき後援会関係の頒布分)に限り、右と同様の理由により、記事
の存在およびその虚偽性についての認識があつたものと認められる。」との原認定
に事実誤認のかどはない。
 (ロ) 同A3について
 金澤控訴趣意第三の一、六の骨子は、(い)政党又は秋田市長候補とは全く無関
係のB社から、同様無関係な東京都内で発行されているBに、D1市政についての
記事が掲載されているのを知つたので、右の新聞の性格からその記事の公正及び真
実性が信じられた、また、(ろ)青森、又は国会内にまで喧伝されていたものであ
ることから考え、地裁跡地問題等が、広く社会一般に問題化されたことが明らか
で、(は)同被告人は同旨のことが秋田市民の間で広く話題となつていたのを聞知
していたから、記事は真実なものと信じたというのである。
 そこで関係証拠を検討すると、右のうち(い)については、Bという新聞が直ち
にその記事の真実性と公正さを信じさせるような性格であることを含めて、すべて
これを認めるに足りる証拠はなく、(ろ)についても、被告人がそのようなことを
認識していたということの証拠は見当らず、(は)については、これに沿う同被告
人の原審第二六回公判調書中の供述記載があるところ、それは、「Hビルとあの土
地を評価すると、なんだかんだで一三億円になるということをちよつと耳にしたと
か、D1市長の会社関係とのゆ着ぶりは大変な話題だつた」というものであり、等
価交換やHビルにまつわる独断決定とか強行採決ということが、「街の中の話とし
て、だれも調べようとしないで人の口から口へ話題となつてひろがつている、市民
にそう映つていた」のを同被告人は本当だと思つていたというのであつて、街の中
の話としてひろがつていたということが、真実と信ずるにつき相当の理由に当ると
いうに足らないことは言うをまたないのみならず、同被告人の同年八月五日付検察
官に対する供述調書中の「市有地払下げ強行採決の記事については、真偽の程は判
らなかつたがD1市長のやり方(前後の記載から、D1が市政を独断専行し、私利
私欲を求めていることを指すものと窺われる)を攻撃するのによい記事だと思つ
た」旨の記載中の真偽の程は判らなかつたということと表裏をなすものと解せら
れ、その他関係各証拠に照らし、前掲(イ)に引用の原判示は優に肯認することが
できる。なお、ほかに、これを信ずるにつき相当の理由があつたことを窺わさせる
に足りる証拠は何ら存しない。したがつて、同被告人の認識及び真実と信ずること
の相当の理由の存在についての弁護人の所論は理由がない。
 〔B〕 一七社の件について
 被告人A3について金澤控訴趣意第三の二、六の主張は、平素からD1市長と会
社関係のゆ着ぶりは大変であると市民間で話題となつているのを聞知していたの
で、本件記事を真実であると信じていたというのであり、前出〔A〕(ロ)(は)
と同旨であるから、これに対して示した判断と同一であるうえ、同被告人の同年八
月五日付検察官に対する供述調書中「Hビル株式会社、U1デパートの社長、Y1
株式会社の重役については、その通りと考えたが、その他の会社については、真偽
は判らず、中には疑わしいものがあると思つた」旨の記載に照らし、所論は理由が
ない。
 〔C〕 資産の件、保留地の件、I会の件
 原審記録及び原審取調べの関係証拠を検討してみると、
 (イ) 被告人A6、同A7、同A8について
 右被告人らが、資産の件、保留地の件、I会の件の各記事につき、非常に真実に
乏しい乃至はそのような事実はないとの認識を少なくとも未必的に有したものであ
ると関係証拠により認められることは、第一の〔B〕においてすでに判断を示した
とおりである。
 (ロ) 被告人A5について
 関係証拠、就中、同被告人の昭和四六年七月二日付検察官に対する供述調書中
「昨年一二月二三日の後援会の事務局開きからA12当選の準備を進めた次第で、
A8、A7、A6らからD1市長の政策、私行について聞くようになつた、A6か
らは、女性関係があることや資産を一桁の単位ではなく二桁の単位は持つているの
ではないかと云うことなどを聞いたが、いずれも噂程度のもので確認の方法はなか
つた」旨、同被告人の同月一七日付検察官に対する供述調書中「二月中、私が後援
会事務局で人の持つて来たBを初めて見た、極めて疑わしいと思つていたI会の市
長に対する百万円贈呈とか仏像を送つたとか、その他に区画整理によつて生じた保
留地がD1市長個人名義になつていると云う事まで書かれていた、保留地問題にし
ても私は、市長D1名義になつているものと思つておりましたが、その新聞にはD
1の個人名義になつているとあつたので、そのような事実はあり得ないと思つた」
旨、
 (ハ) 被告人A11、同A14、同A15、同A13、同A12、同A3につ
いて
 就中、同A11については、その同年七月二四日付検察官調書中「いかにやり手
のD1でも一代で一三億円も築くなど、とても信じられず嘘だろうと思つた」、
「色んな悪評判のあるD1市長も市の保有地を自分の個人名義にするという様なこ
と、I会からまさか百万円の現金を貰うことはないと思つた」、「I会から土地売
却斡旋の謝礼として金の仏像を貰つたという噂は相当前から聞いていましたが、単
なる噂の域を出ない話で、私は確めた事もなかつたし、D1市長がその事で警察な
どから事情を聞かれたという話も聞いていなかつたから真実性は非常に疑わしいと
思つた」旨の記載、同A14については、その前同日付検察官に対する供述調書中
「一代で一三億築くというのも嘘だと思つた、常識的に考えて市の行政をごまかし
て貯められる額ではないと思つた、また銀行員が他人の財産等を口にする筈はな
く、記事を書いた者がもつともらしく見せるために書いたものと思つた、記事の中
で嘘の最大のものは保有地の部分です、私は長らく市の建設委員をして良く判つて
いますが、全くのデタラメ記事です、I会がD1に百万円渡したという記事は、当
時市議会で何ら弁明がなかつたので本当か嘘かはつきり判らなかつた、仏像をくれ
と要求して貰つたという記事も確証も持たず判定ができず真実性に疑を持つてい
た」旨、同A15については、その同月二一日付検察官に対する供述調書中「一代
で一三億円築いたという部分は、いくらD1君が公私を混合して利益をはかつても
せいぜい一億円位だと思つていたので、この部分も嘘が書かれていると思つた、保
有地問題や仏像等のことについては、この新聞を読んで初めて知つた、市議を離れ
て二〇年にもなり、これらの中で市議会で取り上げられたことも有るようだが、質
疑応答の詳細は知らず、事実かどうかの判定資料はなく本当か嘘か非常に疑わしい
ものと思つた」旨、同A13については、その同月二九日付検察官に対する供述調
書中「一〇〇万円渡されたという点については本当か嘘か私には判らなかつた、仏
像をねだつて貰つたと書いてあるが、噂によれば、D1さんの母親が欲しいという
ので要求したというのだが事実かどうか判らない、はつきり一三億あるのか直接調
べてみたわけではないからはつきり判らない、保有地をD1市長の個人名義にした
という部分は登記所などを確めていないから嘘か本当か判定はできない」旨、同A
12については、その同月二三日付検察官に対する供述調書中「一代で一三億を築
くの記事は、五、六億位はあるだろうと思つた、仏像については噂を前からきいて
いた、真偽のいずれとも判らないものだつた、一〇〇万円はBを見て初めて知つ
た、私はBを見た時、要するにこの記事は、D1市長が秋田市政を私物化して財産
をたくわえたことをあらわすため、町の噂されている本当の話や嘘の話などを取り
まぜて書かれたものだと思つた」旨、原審第二九回公判調書中同被告人の「市保有
地の記事は、人のうわさだから、あてにならんこともあるんだ、本当かも知れんけ
ども、うそかも知れんと、そういう気持をもつた」旨の各供述記載、同A3につい
ては、その同年八月五日付検察官に対する供述調書中「一代で一三億円築くの記事
については、真偽は判らなかつたがD1氏がそんなには築いていないだろう、オー
バーではないかと思つたが、私利私欲を追及していることをあらわすのにピタツと
した記事だと思つた、市保有地が市長個人名義の記事についても、真偽のほどは判
らなかつたが、多分に疑わしいと思つた、仏像と百万円の贈与をうけたという記事
は、当時は噂には聞いていたが、真偽については判らなかつた」旨の各記載があ
る。
 (ニ) 関係証拠、就中、右に記載した各証拠によれば、
 (い) 資産の件の記事について、「被告人A6、同A7および同A8は、被告
人A4の話に合槌を打ち、またD1の資産が一三億円ぐらいあるものと示唆して右
記事の材料を提供したものであり、その他の頒布自体の共謀ないし実行につき刑責
を負うべき被告人ら(被告人A11、同A14、同A13、同A15、同A12お
よび同A3)は、いずれも本件Bの頒布に先だち、右Bを一読したものであつて、
いずれの被告人も右記事について認識を有していたことは明らかである。
 そして、右被告人らはいずれも秋田市ないしはその近隣に在住する者達であるう
えに、被告人A6は、一級建築士として秋田市建築審査委員などをつとめ、日頃市
政に深い関心を抱いていたものであり、その他の被告人らも、いずれも地方政治に
直接ないし間接に関与するものとして、市政の動向に深い関心を抱いていたもので
あつて、そうした各被告人らの地位や政治への関心からすれば市長の財力や資産に
ついて比較的正確な情報を入手し得る立場にあつたものと認められ、それに加えて
常識的にみても一三億円は市長が容易に蓄財し得る金額とは考えられないことなど
の事情を勘案すると、右各被告人らが、本件記事についてすくなくともそれが虚偽
であるかも知れない旨の未必的認識を有していたものと認めることができる。
 なお被告人A5については、右記事を一読したうえで頒布の共謀に加担した分
(後援会関係の頒布分)に限り、右と同様の理由により、記事の存在およびその虚
偽性についての認識があつたものと認められる。」との判示部分(原判決六九丁、
七〇丁)、
 (ろ) 保留地の件の記事について、「被告人A6、同A7および同A8は、被
告人A4の取材に協力して本件記事の材料を提供したもの、被告人A4は右提供さ
れた材料に基づいて本件記事を作成したもの、その他の頒布自体の共謀ないし実行
につき刑責を負うべき被告人ら(被告人A11、同A14、同A13、同A15、
同A12および同A3)はいずれも本件Bの頒布に先だち右Bを読んで本件記事が
掲載されている旨認識していたものであつて、いずれの被告人も右記事について認
識を有していたことは明らかである。そして、右記事の真偽は不動産登記簿などを
調査すれば直ちに判明することであるうえに、事柄の性質上市長の公職にあるもの
が容易になす筈のないことであるから、地方政治に直接ないし間接に関与するもの
として市政の動向に関心を抱いていた被告人A8、同A7、同A6、同A11、同
A14、同A13、同A15、同A12および同A3は、その真実性について何ら
の調査をしていないこと前記のようであるのに右記事が真実であると信じたものと
は到底認め難く、すくなくともそれが虚偽であるかも知れない旨の未必的な認識を
有していたことは容易に認めることができる。
 なお、被告人A5については、右記事を一読したうえで頒布の共謀に加担した分
(後援会関係の頒布分)に限り、右と同様の理由により、記事の存在およびその虚
偽性について認識があつたものと認められる。」との判示部分(同七二丁、七三
丁)、
 (は) I会の件の記事について、「被告人A5、同A6、同A7および同A8
は被告人A4の取材に協力して、本件記事の材料を提供し、被告人A4は、右提供
された材料に基づいて本件記事を作成したものであり、その他の頒布自体の共謀な
いし実行により刑責を負う被告人ら(被告人A11、同A14、同A13、同A1
5、同A12および同A3)は、いずれも本件Bの頒布に先だち右Bを読んで、本
件記事が掲載されている旨認識していたものであつて、いずれの被告人も右記事に
ついて、認識を有していたことは明らかである。そして、右記事の内容は、それが
真実であれば刑事事件に発展する可能性の強い重大事であつて、市長の公職にある
ものが、容易になす筈のない事柄であるから、地方政治に直接ないし間接に関与す
るものとして市政の動向に関心を抱いていた被告人A8、同A7、同A6、同A
5、同A11、同A14、同A13、同A15、同A12および同A3は勿論、被
告人A4も、その真実性について何らの調査等もしていないこと前記のとおりであ
るのに右記事が真実であると信じたものとは到底認め難く、すくなくともそれが虚
偽であるかも知れない旨の未必的な認識を有していたものと認めることができ
る。」との判示部分(同七六丁、七七丁)は、(い)につき、「常識的にみても一
三億円は市長が容易に蓄財し得る金額とは考えられないこと」、(ろ)、(は)に
ついて「市長の公職にあるものが容易になす筈のない事柄であること」と断定する
など、例外もあり得ることに意を用いないやや独断と疑われる節のある点を除き、
その余はすべて相当であるとして、これを肯認し得るところであり、結局事実誤認
のかどはない。
 (ホ) 被告人A3の真実であると信じるに正当の事由があるという主張(金澤
控訴趣意第三の三乃至六)について
 所論が、Bの資産の件、保留地の件、I会の件につき、同被告人には記事が真実
であると信ずるに足る相当な理由があるとして挙げる点については、第六の(二)
の〔A〕地裁跡地払い下げの件の(ロ)において示したい(い)、(ろ)、(は)
の理由と同じて、それに対する判断もそれに対して示したと同趣旨であり、各記事
を真実と信ずるに相当の理由があるとするに足りないものである。加えて、所論
は、保留地の件につき、同被告人は、D10から、同人が県警厚生課長時代にQ2
会館を建てようとしたら、その土地がD1の土地であつた旨の話を聞いていたので
右記事は真実と思つたというのであるが、原審第二六回公判調書中の被告人A3の
供述記載と原審証人D10の尋問調書(記録二九冊二〇七八丁以下)の記載を対比
検討すると、同被告人がJ2会館の隣接地の市の保有地がいつの間にかD1市長の
個人名になつているという本件記事を読む前に知つていたというのは、D10が昭
和三九年七月頃から同四一年八月頃まで県警厚生課長の職にあつた間に、「Q2会
館を建てようとしたらその土地がD1の土地であつた」という程度の、あまり詳し
くない話を、D10がR2事務所の事務局長をしていた昭和四五年中(七月以降)
に、同事務所の秘書であつた被告人A3に話したというのであり、右D10がQ2
会館建設に係わつたというのは、同人の証人尋問調書の記載その他関係調書によれ
ば、県警の厚生施設の宿泊所を建てるのに、警察の土地とD2名義の土地が互いに
細長く隣り合せていたので、それを互いに正方形の土地になるように交換分合をし
たとき、その話合いや手続の履践についてD2側はD1市長乃至は市の担当部課の
職員がたずさわつたというのである。被告人A3が、D10から「Q2会館を建て
ようとしたらD1の土地だつた」と聞いていたことを詳しく調べることもなく、こ
れを直ちに「市の保有地がD1市長の個人名義になつている」という記事の記載内
容に結びつけて、この記事を真実であると信ずることは、社会通念からみて、軽率
のそしりを免れず、到底信ずるにつき相当の理由がある場合に当るということはで
きない。次に、I会の件の記事について、所論(第三の五)は、一〇〇万円と仏像
の贈呈を受けたことにつき、県警特捜班においてD1市長に対し汚職容疑で捜査が
行われ逮捕直前に立至つた旨の事実を指摘し、本件は単なる市井の噂にとどまらぬ
信ずべき事実であるというが、被告人がかかる捜査の行われた事実を知つていたこ
との証拠は見当らず、仮に知つていたとしても、原審証人V1の証言によれば、同
人が捜査を担当して、汚職容疑で逮捕状請求の可能性を検討したというのは、本件
一〇〇万円や仏像に関する容疑事実ではない。また、一〇〇万円及び仏像の件はO
1の取調べの結果判明した事実であるという点については、W昭和四四年四月一日
号(前押号の二四)に、「広報あきたの不正事件」として報ぜられ、「I会に飛火
か、会長D7氏取調べられる」という見出しの本文中に、「D1会長から、押収の
関係書類につき説明と取調べを行つたが、O1の自供したD1市長に礼として百万
円の授受の証拠はない」と記載されているところ、仮に被告人がこれを読んでいた
としても、一〇〇万円贈呈の事実を信じるについて有力な根拠となるものとはなし
難い、また、原審証人A14芳郎尋問調書中「I会の理事長や理事を調べたと思う
が、当時は、いろいろな問題があつたようで、記録全体を見ると中途半端になつて
いたようで、継続捜査の資料として残つていた、内偵して送検に至らなかつたよう
なものを担当の刑事が一般社会人に喋るということがあるのかといえば、事件の内
容は話していない」旨の供述記載を俟つまでもなく、他の被告人についてと同様、
同被告人においては、本件Bを読んだ当時、すでに捜査の事実とその内容について
知つていたことを窺わせる証跡は見当らないから、所論は前提を欠き、採用するに
由ない。
 次に仏像の件については、原審取調べの各証拠、就中、Bの仏像贈呈の件の記
事、すなわち「I会側では、その仏像を購入、市長に贈呈したそうだが、この件が
市議会で問題になつた。ところが市長は、『仏像は個人として秋田県立美術館へ寄
贈した』と弁明、何とかその場を切り抜けたが、現在、寄贈されたはづの仏像は展
磨(覧の誤植と思われる、)されていない。」のうち「市議会で問題になつた」と
の記載は、それに先行する一〇〇万円贈呈の件の記載に対比すれば、議会の議題と
して質疑の対象となつた趣旨に読まれるところ、そのような事実のなかつたこと
は、原審第六回公判調書中の証人D8の「議会で問題となつたことは、はつきり記
憶ない、そのような噂はあつたかも知れぬ、議会あたりでそういう話が出たんじや
なかつたですか」との供述記載によつて十分窺われるところであり、前記D7の証
人尋問調書中「市長が仏像をせがんで私共に買つてほしいということを要請したよ
うな事実は全然ない、私が理事会にはかり、値段のことについては、U2美術館長
に伺い、S2宅を訪問したら慈母観音でなく如意輪観音だつたので実はがつかりし
て、しばらくはその問題を避けていたが、私は保育所の守り仏にしようという非常
に強い信念を持つていたし、それでもよいではないかという役員の希望が強かつた
のでT2理事と再び上京して話を進めた、仏像は市立美術館に送られて来て、日新
保育園が新築完納と同時に市立美術館から移した、それまで寺宝展から懇望され
て、県立美術館に出品した時以外は、どこへも移したことはない」旨、原審証人U
2(市立美術館長)の尋問調書中「I会から預かつて呉れと頼まれ、随分長く市立
美術館に預つた、寺宝展以外どこへも動かしたことはない、一年半か二年位預か
り、展示室の中に安置していた、所有者であるI会の名前をちやんと表示してい
た」旨、同証人V2(I会理事)の尋問調書中「建設公社から骨折つてもらつたと
いうので、理事長であつたD1さんにお礼という意味で仏像を買おうという話にな
つたということは全然聞いていない」旨の各供述記載に照らせば、原判決中、「ま
たI会では、昭和四三年春ころ、同会の理事長D7が、秋田市立美術館長U2から
紹介されたことをきつかけとして、理事会にはかつたうえ、故S2作の如意輪観音
像を右S2氏の未亡人から金三〇〇万円で買受けたが、右の仏像の安置場所に予定
していた同会の保育園が改築の予定であつたため、右U2に依頼して暫時右仏像を
市立美術館で保管してもらうこととなり、同仏像は、同館に暫く展示された後、右
保育園改築後今日まで同園に安置されている。その間、右仏像は、県立美術館で催
された展覧会に数日間出品されたことが一度あるがそれ以外に他に移されたことは
なく、市長室に安置されたこともない。また、D1市長が、I会に対し仏像一体を
ねだつて同会から貰い受けたことも、仏像の件が市議会で問題となつたこともな
い。」との判示部分は肯認することができ、したがつて、「『他にもD1市長はI
会に仏像一体(時価三百万円)をねだり、I会側では、早速その仏像を市長に贈呈
したそうだが、この件が市議会で問題になると、市長は、仏像は個人として秋田県
立美術館へ寄贈したと弁明し、何とかその場を切り抜けた』との記事が、虚偽の事
実を記載したものである」との判示部分も肯認することができ、事実誤認のかどは
ない。なお、所論が、I会の件が、かつて捜査の対象となつたことのあることを指
摘して、このことは一〇〇万円収受及び仏像収受記事が単なる市井の噂にとどまら
ず、その真実性を窺わせるに充分であると主張する点について検討すると、原審証
人D9(元秋田県警察本部刑事部長)の尋問調書中には、Bの下から三段目に記載
のI会関係記事と殆ど同じ内容を、O1が、業務上横領の件で捜査された折、供述
したことを窺わせる記載はあるが、その供述が具体的にどの範囲内容のものか、ど
のような関係で、如何なる動機目的によりなされたかなどは、右尋問調書自体から
は明らかでないところ、原審証人D7の尋問調書中に「警察での仏像についての調
べをずつと聞いていたが、理事の方々が仏像に名を借りて、ちつぽけな仏像でも買
つて膨大な金額を支払つて、あとの余分なものをふところにしたんじやないかとい
うような疑いをもつて聞かれたというような気分がして、非常に、内心、怒りを感
じた。警察官は美術館に現物を見に行つて時価一、〇〇〇万円もすると聞いて驚い
て帰つて来たという話をあとで聞いた」との供述記載があることに鑑みれば、仏像
の価格に関してのものとも窺われるのであり、右O1の捜査記録が存在したとして
も、その一事をもつて、本件I会の記事の虚偽性を払拭するに足りるものとは評価
し難いといわなければならない。
 したがつて、一〇〇万円謝礼の件及び仏像贈呈の件に関する本件Bの記事が虚偽
の事実に当らず、被告人が真実と信じ、かつ、それを信ずるにつき相当の理由があ
つたとの所論は、証拠上も、また社会通念からもこれを是認することを得ない。
 (へ) 野村・小林控訴趣意中の真実であると信じることに正当の事由があると
いう主張(第二点第一の六、一〇に資料の件、第一の七に保留地の件・第一の八、
九にI会の件)について
 所論は、右正当の事由があることについて、趣意書中に後記(い)、(ろ)、
(は)に所述する点のほか、その根拠を具体的に明らかにしていないが被告人らの
原審における供述中には、金澤弁護人指摘の諸点に沿うような供述があるところ、
それらの弁解については、被告人A3についての(ホ)に判断したところと同様で
ある。
 (い) 資産の件につき、所論(同趣意書九九頁、一二九頁)は客観的事情から
信ずるにつき相当の理由があるというが、就中、被告人A8、同A7、同A6ら
が、所論指摘のH2、W2、V1の各供述内容を知つていたとして考えてみても、
同A4から、同人が飲み屋で銀行員と称する男から一〇億位の財産はあると聞かさ
れたことを聞いたことにより、D1の資産が一三億あると信じたということに相当
な理由があつたものと認めるには足りない。
 (ろ) 保留地の件につき、所論(同趣意書一一九頁)は、信ずるにつき相当の
理由があることについて、該土地が実質上D1の所有と推認しうる証拠を同趣意書
一〇三頁乃至一一八頁に列挙し、これを援用しているが、これら証拠の大部分は、
所論のいうように、弁護人、被告人らが本件の調査として「発掘した数々の証拠」
であり、それらが該土地が実質上D1の所有に属することを推認させるに足りるも
のでないことは前述のとおりであり、被告人らが、それぞれの本件犯行の際にそれ
ら事実を知つていたものとして考えてみても、被告人らが本件(4)の記事を真実
と信ずることを相当とする理由としては十分のものではない。
 (は) I会の件につき、同趣意書中主として一二四頁乃至一二八頁に掲げる
「証拠及び事実を踏えて」その主張を述べているが、同一二四頁以下の1乃至4の
点は、本件一〇〇万円及び仏像がD1に贈呈されたか否かの事実につきこれを肯定
する情況的事実としては、その根拠性が社会通念上稀薄といわざるを得ず、そのう
ちI会がS2宅から仏像を購入するに至る経緯の詳細な事実やI会の仏像購入の資
金措置等についての事実は、本件との関連性の曖味な原審の証人D9の供述にかか
る業務上横領捜査事件に関する記録が残存するという事実とともに、被告人らにと
つては、本件の調査によつて公判廷に顕われた証拠乃至事実であり、被告人らが本
件犯行時それら事実を知つていたとして考えてみても、被告人らが本件B関係
(5)のI会の件の記事を真実と信ずることを相当とする理由として十分なもので
あるとは認められない。
 第七 Fの原判示記事の虚偽性とその認識についての原認定を論難する主張につ
いて。
 (一) 記事の虚偽性について。
 〔1〕 野村・小林控訴趣意第二点第二の一、二、九及び内田控訴趣意第一点第
六の四について
 所論は、原判決第二部の第二の(1)連絡船上の件及び同(6)S組の件の各記
事については、同(2)Yの件、(3)Zの件、(4)B1の件、(5)F1の件
に記載の四人の女性とD1との間に情交関係があつたという記事の中の重要部分中
に見られるD1の性的に奔放な性格を比喩的に表現しているのにすぎない。また、
(6)の記事は、右のような奔放な女性関係が批判されていること等を示す記事で
あつて、枝葉の点に関するものであるから、多少真実に合致しない点があつても、
名誉毀損の罪にいう事項及び公選法二三五条二項にいう虚偽の事実に該当しないと
いうのである。
 そこで、本件F(前押号の一)の一八頁乃至二一頁をみると、右(1)及び
(6)の各記事は、所論が本件記事中の重要な部分であるという(2)乃至(5)
の記事と順次並列して掲載してあり、これらと同じ重要度をもつと思わせる記事の
外形を具えており、かつ、(1)の記事は、内容が(2)以下と同様に具体性をも
つたもので比喩的表現とは言い得ないこと、(6)の記事は、D1市長から煙たが
られて請負工事を貰えなくなつたS組前社長が、D1の女性問題等を取り上げてD
1を困惑させたあげく、D1市長がやむなく約一億円のV大学整地工事を請負わせ
たという経緯の記述がその本筋と認められ、右(1)及び(6)の各記事は(2)
乃至(5)の事項と対照してみても、その所論のいう枝葉の点に関するものに当ら
ないことは、すべて、記事自体から明らかなところであるから、所論は前提を欠き
採用の限りでない。
 〔2〕 野村・小林控訴趣意第二点第二の三乃至五及び内田控訴趣意第一点第六
の一について
 所論は、原判決第四部の二において(2)Yの件につき、原判決が(イ)とし
て、
 「証人D3、同D11、同D12、同D13および同D1の各証言によれば、D
3の母親の経営する料理屋は、県議D1の協力もあつて昭和二八、九年ころから三
年間位秋田県の指定寮をしたこと、D1は東京出張の折は右寮に宿泊し、その際
に、右料理屋を手伝つていたD3もD1の酒席の相手をしたり、D1を『X2』と
呼ぶこともあつたこと、指定寮をやめて後D3は秋田料理の材料の仕入れのため
一、二度秋田へ行つたこともあるが、秋田でD1と会つたことはないこと、指定寮
をやめて後もD1は右料理屋へ食事のために行くことはあつたが宿泊したことはな
いこと、昭和三二、三年ころ料理屋をやめて後は、D1とD3は会つたことがない
こと、D3は同三二年ころ夫と別居しその後離婚したが、その原因はD3は性格の
不一致と思ついるが夫D11にはその原因が理解できないこと、そのころY2新聞
記者D12はD3の母から、D3の夫の働きが悪いのでどうしたらよいかと夫婦別
れの話ともとれる話の相談を受けたことがあること、その後D12は上司から酒席
でD3夫婦の別れ話にはD1君が一枚噛んでいたと聞いたことがあること等の事実
が認められる。」
 と判示した情況的事実に、原判決が証拠とした前記各証言中D1証言を除くその
余の各証言を仔細に吟味して認められる諸事実を加味すれば、D1と同女との間に
情交関係があつたことが認められるから、
 「しかし、これら各事実を総合しても、いまだD1とD3が通常の県指定寮の娘
と宿泊客という関係以上に出でてその間に情交関係があつたものと認めることはで
きないうえ、証人D3は、同女とD1との間には情交関係がなかつた旨証言してお
り、D3の夫であつた証人D11の証言によつても、同人がD3とD1の間に情交
関係があると疑つたようなことも全くなかつたことが認められる。してみると結局
証人D3の証言により、同人とD1の間に情交関係はなかつたものと認められ
る。」
 とした原判断には、証拠の価値評価を誤つた結果、事実誤認があるというのであ
る。
 しかし、所論がその引用の証拠により認められるとする諸事実、就中、D13の
第一二回公判における証言中の「D1が『Z2』に三、四回泊つたとき、D3がD
1を大チヤンと呼び、困る事はD1に相談していた。二人は一緒に熱海に行つたこ
とがあるように感じられた。D1が泊つたときは一室をとり、D3が給仕に当り、
他の者はその部屋に入るのに遠慮する有様だつた」という点、D3の証言中「指定
寮をやめた後もD1と行来があつた」という点(この点は、D3の証人供述調書の
記載では、『指定寮をやめて、秋田料理をやるので、材料の仕入に主人と一、二度
秋田に行つた、D1はお客さんとして店へ来たことはあつたと思う』―一八冊四五
八六丁―というにすぎない。)の各証言部分はD13の右証言中、弁護人の「D3
は他にも浮いた噂はあつたか。浮気つぽい人ですか。」との問に対しては肯定しな
がら、「D1とD3が特に深い関係にあると感じたことはないか。」との問に対し
ては「それは分りません。」と答えているなどを含むD13証言全体に照らし、ま
た、D1証言とも併せて吟味すれば、直ちに情交関係の存在を窺知しうるとは断じ
難く、この点に関する(イ)の原認定には、証拠の価値評価に明白な誤りを犯した
とは認められないうえ、他の関係証拠に照らしても、原判断に所論の事実誤認のか
どは認め難い。
 ついで、原判決が(ロ)として、
 「D1が秋田市長になると同時に東京の寮が市会議員の寮にかわり、月三万円の
家賃と彼女への手当を払つて市長の東京別宅扱いだつた旨および市長がQをプレゼ
ントし、Yがそこのママにおさまつている旨の各記事が虚偽の事実を記載したもの
であることは、証人D3、同D1および同D14の各証言によつて明らかに認めら
れるところであり、右認定に反する証拠はない。」
 と説示するところは、関係証拠に照らし肯認することができ、また、右記載が付
随的記載にすぎず、独立した虚偽事実に当らないとの所論には、左袒することがで
きない。
 したがつて、(2)Yの件に関する記事の「虚偽性」について事実誤認をいう所
論は理由がない。
 〔3〕 野村・小林控訴趣意第二点第二の六及び内田控訴趣意第一点第六の二に
ついて
 所論は、原判決が、第四部の二の(3)Zの件の(イ)において、D1がD2の
土地購入、仮換地分合、仮換地指定の変更、保留地の縁故売却等に関与している点
について、
 「T賄婦D2は昭和三八年ころ右クラブの客D1市長にアパートを建てるのに良
い土地を見つけてほしい旨依頼したところ、D1は、市建設部用地係をしていたL
1に土地の購入方を委託したこと、その結果D2の購入した土地は隣地のM2組合
用地と交換分合し、仮換地指定の変更を受けるに至つたが、その際、M2組合側の
県警厚生課長D10は、右交換分合を希望してD1市長に直接その旨を伝えたとこ
ろ、D1は右希望に応ずる旨を約束し、右希望を区画整理課長B2に伝え、同人が
都市計画課換地係員C3を介してD2から交換分合の承諾を得たこと、その後、D
2が右交換分合に対する苦情を区画整理課長やD1に申し出たため、D1が、右課
長に指示して適当な換地を探させた結果、四二ブロツク三ロツトに仮換地変更され
たこと等である。」
 と認定しながら、
 「しかし、証人D2は、同人との間には情交関係がなかつた旨証言しており、さ
らに証人D15の証言によれば、D2がO女中からT賄婦となるについてはD1は
全く関係していないことが認められ、しかも、前記の各事実を総合しても、いまだ
D1とD2が通常のT賄婦と客、あるいは市長と市民という関係とは顕著に異なつ
た間柄にあつたものとは認められないから、結局、D1とD2との間に情交関係が
あつたものと認めることは到底不可能である。そして証人D2の証言により、同人
とD1の間に情交関係はなかつたと認められるので、その間に情交関係があつた旨
の記事は虚偽の事実を記載したものであると認めることができる。」
 との判断を下しているけれども、(い)K2とD2間の土地売買に当つては、D
1が下僚である前記用地係L1に命じ、市の用地買収という欺瞞的手段により売主
K2との間に契約を取りつけたこと、(ろ)D2、M2組合間の仮換地指定土地の
交換分合の折衝に当つては、D1がD2の土地の処分権限を有する者として振舞い
処理したこと、(は)仮換地変更及び変更地の隣接保留地の払い下げは、D2の依
頼によるものとして、市長の職権乃至は地位を利用し、不当な利益供与を行つたこ
とが証拠上認められ、これら一連の諸事実と、(に)前記(い)のK2との土地買
受け及び(は)の保留地払い受けの資金の出所につき、買主であるD2の原審にお
ける証言内容からは、D1からの出資が推認されることを併せ考えれば、D1と同
女とは、通り一辺の客とクラブの雇われマダム乃至は賄婦との関係にとどまるもの
とは理解できず、原審のD9証言と同V1証言からみれば、D1と同女との間には
情交関係があつたものと認定するのが妥当であるとして、情交関係があつた旨の記
事を虚偽の事実を記載したものとしている原認定には事実誤認があると主張する。
 しかしながら、右D9、V1の各証人尋問調書によれば、前者は、「巷にそうゆ
う話はあつたが、情交関係があつたのかなあと思つただけです」、後者は、「女性
関係についてP、D2について内偵をしたが、捜査はしなかつた」というにすぎな
いばかりでなく、(い)乃至(に)の所論に鑑み、検討しても、D1とD2との間
に情交関係があつたことを窺うことはできないから、情交関係があつた旨の本件記
事が虚偽の事実を記載したものであると認定した原判示はこれを肯認することがで
き、この点に事実誤認のかどはない。
 〔4〕 野村・小林控訴趣意第二点第二の七及び内田控訴趣意第一点第六の四に
ついて
 所論は原判決第四部の二の(4)のB1の件の記事については、D1とRとの間
に情交関係があつた旨の部分が重要部分であり、「同女が県庁某課長と結婚する」
以下の記事は、重要部分ではなく、独立した虚偽の事実に当らないとの所論に左袒
しえないから、所論は採用の限りでない。
 〔5〕 野村・小林控訴趣意第二点第二の八及び内田控訴趣意第一点第六の四に
ついて
 所論は、原判決前同の(5)のF1の件の記事については、Pが昭和三四年一一
月市長公室秘書係となり、同四一年一一月に買入れた土地に、同四三年一月に家を
建て単身居住していたこと、独身であること、ソ連旅行中のD1から文通があり、
また、土産を貰つたこと、D1市長に同行して数回の長期出張をしたこと、とりわ
け人目を慮り、Pの外に休暇・私費の同僚E3を伴つたこともあること、D1市長
の妻と共に服飾店を経営したこと等の事実を挙げて、これらを綜合すれば両者の間
に情交関係があつたと認定すべきが当然であるのに、情交関係がある旨の記事を虚
偽の事実と認めた原判決の事実判断には誤りがあるという。
 しかしながら、関係証拠を検討するに、原判決が(イ)として、Pは昭和三四年
秋から同四六年春まで市長公室秘書係に勤務し、その間に市役所内で「F3」との
あだ名をつけられたこともあること、同女は公務出張でD1市長に随行したことは
何度かあるが、他に随行員がいるかあるいは同女の知人E3が同行したため、D1
と二人だけになつたことはないこと、同女は、D1に随行して東京へ出張した際、
他の随行員秘書係員とともにD1の娘の住居に寄泊したこともあること、同女はD
1から海外出張のみやげとしてトルコ石をもらつたが、その際他の秘書係員もみや
げをもらつたこと、同女はD1の私印を預つていたことがあること、同女は、D1
の妻がD1の親しい土木業者数社の社長の妻らとともにHビル内に手芸用品の店を
出した際、それに加わつたことがあること等の事実を認定したうえ、これら各事実
を総合しても、いまだD1とPが通常の市長と秘書という関係以上に出でてD1と
Pの間に情交関係があつたものと認めることはできず、情交関係がある旨の記事は
虚偽の事実を記載したものであると認めた措置に不合理な点はなく、また証拠によ
り、(ロ)として、D1が同女に家を新築してやつたり、市の金も自由に出し入れ
できる立場においている旨の記事が虚偽の事実を記載したものであると認めた判断
は、優にこれを肯認することができるから、所論の事実誤認のかどはない。
 (二) 記事の虚偽性の認識について。
 〔1〕 野村・小林控訴趣意第二点第二の五〔(2)の記事のうち情交の事
実〕、六〔(3)の記事の前同〕、八〔(5)の記事の前同〕、九〔(2)乃至
(5)の記事〕、内田控訴趣意第一点第七、第八及び吉田・内田控訴趣意(一)、
(二)について
 原判決は第二の事実につき、「被告人A2、同被告人の取材に応じ資料を提供し
た同A5、同A6、同A7、同A8、さらに同A2から報告を受け、取材について
指示し、最終稿の決定、発刊をした同A1及び以上の被告人らと共謀して頒布・公
表した同A11、同A12は、それぞれ本件記事ないし各該当記事を真実であると
信じたとは、到底認め難く、また真実と信じるにつき相当の理由がなかつたことは
もちろん、それらの内容が虚偽であることについて確定的あるいは未必的認識があ
つた」旨判示しているが、被告人らは該当各記事内容の虚偽性の認識を欠き、これ
を真実と信ずるにつき相当の理由がある場合に当るから、右判示部分には事実誤認
がある旨の主張について
 (Ⅰ) 被告人A8、同A7、同A6、同A5、同A11、同A12について
 〔A〕 Yの件について
 野村・小林控訴趣意第二点第二の五は、D1とD3との間に情交関係がないとし
ても、原判決七七丁以下にYの件の記事の虚偽性の存否を判断するについて、同女
とD1との関係について認定判示した事実に加え、更に、弁護人において原審証人
D11D3、D12、D13らの証言によれば認められるとする事実を含めた「情
況的事実」乃至「客観的各証拠」が存在するから、これによつて被告人らがD1と
D3との間に情交関係があつたと信じたことに正当の理由があつたと主張する。し
かしながら、所論は、被告人らが、右にいう情況的事実乃至客観的各証拠の全部又
は大部分を、被告人A8、同A6については、判示A2に対して記事材料を提供し
た際、同A5、同A7については、記事を読んだ際までに、その余の右記被告人に
ついては、記事を読んだ際にすでに知つていたことを前提として、はじめて主張と
して成り立つというべきであるから、この点を検討してみる。関係各証拠によれ
ば、原判決がF関係の記事の虚偽性に対する被告人らの認識について説示している
(八四丁以下の関係部分)点は、優に肯認しうるところであるが、就中、(イ)被
告人A8については、その昭和四六年七月一三日付検察官に対する供述調書中「C
鍋料理の店で、A2はA9から聞いて来ていたようで、県の東京第三宿泊所の娘と
D1の間にも関係があつたという話をしていたが、私は、この件については、私が
県事務局勤務の頃、そこへ泊り、噂話として両人が深い仲らしいという事を耳にし
たことはあるが、真偽の程は判らなかつた」旨、(ロ)同A7については、その同
月一四日付検察官に対する供述調書中「JクラブでA2に話をしたとき、D1が県
議当時寮の管理人をやつていたD3と深い関係ができ、同女は夫と別れ、D1が面
倒をみるはめになつて、面倒をみている。東京cのマンシヨンに住んでいて月二、
三回はD1と合うため秋田に来てHビルのG3ホテルに泊るのだという噂をきいて
いたので、これを話したが、Qのママに納つていることは知らなかつたので言わな
かつた」旨、(ハ)同A6については、その同月一四日付検察官調書中「誰から聞
いたかと云われると特定できないが、要するに街の噂で、D1が県議当時、a県指
定旅館のD3というママさんと深い関係ができたということを話した、A7がその
女はHビルQのママに納つており、月二、三回秋田に来ると話した。A2は相手の
女性の所をまわつたが否定され、あるいは逃げられたと言つており、私の考えたと
おり、深い関係を確かめることはできなかつたようだ」旨、(ニ)同A5について
は、その同月二日付検察官に対する供述調書中「D1市長の女性に関する話は全く
噂であり、A2がP、R、D2方等に取材にまわるのに同行した。反撃されたとき
A12にとりマイナスになるので、私自身も一緒に確めておきたいと云う気持があ
つたからです」旨、(ホ)同A11については、その原審第二八回公判調書の供述
中「昭和四六年二月当時D1がaの県議会指定寮の女性と関係し、その後、市議会
の寮に変えて手当を与え、Qをプレゼントしたというふうな話を聞いていません」
旨、同被告人の同年七月二六日付検察官に対する供述調書中「その記事のうち、噂
に聞いていたのは、市役所の女子職員F1さんのところだけで、他の女性関係は、
その記事で初めて知つた。そんな色々な女性と深い関係にあつたなどという事は、
とても信じられなかつた」旨、(へ)同A12については、その同月二三日付検察
官に対する供述調書中「Fの記事を読んだとき、要するにD1の噂の域を出ない女
性関係で人身攻撃をするものと判つた」旨の各記載に照らせば、いずれの被告人に
ついても、その材料を提供する際の話し振り、記事を読んだ際の感想の洩らし振り
からみて、所論のいう情況的事実や客観的各証拠を具体的に知つたうえで、真実と
信じてA2に材料を提供し、又は記事を読んだものとは到底認めることはできな
い。
 〔B〕 Zの件について
 同控訴趣意第二点第二の六は、被告人らと弁護人らはD2とD1との間に情交関
係があるとの被告人らの感覚を裏付けるべく、調査によつて発掘し、法廷に顕出し
た証拠として、D1市長が同女に代つて、K2から土地を取得してやり、その換地
につき同女の希望に叶う交換分合の措置をしてやり、仮換地指定変更と仮換地の隣
接保留地の払い下げにつき利益を計つてやつたことにつき一連の詳細な事実を挙
げ、果してそうであつたかと被告人らが確信を得たというのである。被告人らが、
本件記事内容を真実と信ずるについての根拠となる証拠を犯行後に発見したこと
は、直ちに情交関係の存在を信じたことに正当の事由があることには結びつかない
から、主張自体理由がないというべきである。
 所論が発掘したという詳細な事実を被告人が知つていたという点につき、原審に
おける被告人らの供述を精査してみると、被告人A5の第二二回公判調書中の「昭
和四五年一二月頃、市の区画整理の仕事をしていたというH3からI3協会の松井
が、I2会館の隣接地の市の保留地がいつの間にかD1の個人名義になつていると
いうことをきいたことを知つている」旨、及び同A3の第二六回公判調書中の「D
10が県警の厚生課長のときQ2会館を建てようとしたら、その土地がD1の土地
であつたということを昭和四五年頃きいた」旨の各記載の程度のものを見出し得る
にすぎないこと、加えて、被告人らの検察官に対する供述調書、すなわち、被告人
A8の昭和四六年七月一三日付九項、同A7の同月一四日付四項、同A6の同日付
二項、同A5の同月一八日付二項、同A11の同月二六日付二項、同A12の同月
二三日付三項の各記載を通じて、いずれも当該被告人が判示Zの件の記事は、噂の
域を出でず、真実性の疑わしいものと思つた趣旨の記載があることに照らせば、被
告人らにおいて、記事について真実性が疑わしいとの認識があつたと認めた原判示
は肯認できる。
 〔C〕 F1の件について
 同控訴趣意第二点第二の八は、原判決がF1の件に事実の虚偽性の存否を判断す
る過程において、その八一丁以下に、同女につき、市長公室秘書係の勤務歴、市庁
内でF3の綽名をつけられたことがあること、公務出張でD1市長に随行した状
況、海外出張をしたD1市長から土産を貰つた状況、同女がD1の私印を預つてい
たことがあること、D1の妻らと共同してHビル内の手芸品の出店に加わつたこと
等に関して認定した諸事実に加えて、弁護人らが証拠により認め得るとする同女の
更に詳細な職歴、その生い立ちと家庭の状況、随行出張における各行先、その泊日
数、同行者等の詳細、同女が昭和四一年一一月に買入れた宅地に、同四三年一月に
家屋を建て、爾来、養母とは別居し単身で同家屋に居住していたことなどの諸事実
がある以上は、被告人らが両名に情交関係の存したことを真実と信じたことに正当
の事由があると主張する。そこで、〔A〕に前述したと同様の見地に立脚して検討
すると、原判決中八四丁以下の被告人らの虚偽性の認識に関する判示部分は優にこ
れを肯認しうるところであるが、就中、(イ)同A8については、その前掲七月一
三日付供述調書中「A2やA6は、当時市長の秘書だつたPと関係があるらしいと
話していた、私もその噂は聞いていた」旨、(ロ)同A7については、その前掲同
月一四日付供述調書中「Pについては、当時市長の秘書だつたこと、噂では、市長
の二号でちよいちよい上京するし、東京から秋田へ戻る途中でD1に会つていたこ
とがあり、一人でbの大きい家に住んでいるということは聞いていた、親と別居し
ていたかどうかまでは知らなかつた、その家を見たこともない……」旨、(ハ)同
A6について、その前掲同月一四日付供述調書中「A2に対し、市長秘書室勤務の
Pと深い関係があり、最近家をプレゼントして貰い、bに住んでいるという話をし
てやつたが、それは単なる噂にすぎず、今まで真偽を確かめたこともなかつたし、
確かめる方法もなかつた」旨、(ニ)同A5については、その同月一七日付検察官
に対する供述調書中「詳しいことは知らないのでWのA9にきけば判るかも知れな
いと話した、秘書のPと肉体関係があるとかの噂が出ていた、A6と一緒に話して
みて、二人共余り詳しくなかつたので、たつたこれだけだつたのかと話し合つた記
憶がある。A2は私たちの話をメモしていたが、余り中味がないので疑問を持たれ
たものと思う」、同被告人の同月一八日付供述調書中「A2の取材を案内したが、
Pの家では住居を確認しただけ、その車中A2から、市役所に行き市長に面会を求
めたところPが出て来たが、直ぐ引込んで現われず、他の人が市長は不在だと云つ
て面会ができなかつた、という話をきいた、私は、噂ではD1がPを一人住まわせ
ておいたが、母が病気になつたので一旦は引き取つたものの、また邪魔になるので
外に出て行つて貰つたという話をしてやつた、ついで、Rの家、入院中のその父、
Rの勤め先、TのD2を訪問取材したが、Rには面会できず、D2は剣もほろゝ
で、何れの所も決め手になるものは得られなかつた、噂の女性が実在することは判
つたが、市長との関係は極めて疑わしいと思つた」旨、(ホ)同A11について、
その前掲同月二六日付供述調書中「私が記事を見て、噂に聞いていたのはF1だ
け、他の女性は初めて知つた、F1は秘書課勤務のPという女子職員のことで、D
1と深い関係にあり、家を建てて貰つたという様な噂を聞いていた、確かめたこと
もなく、真偽のほどは非常に疑わしいと思つた」旨、(ヘ)同A12については、
その前掲同月二三日付供述調書中「Fを見たとき、その記事のうち、連絡船上の件
とS組の件の記事はそのことを初めて知つた、四人の女性関係については、これま
で確かめたことはなく、確かめようがない事柄で、単なる噂の域を出ないものだつ
た」旨の各記載にも照らせば、〔A〕に前出の判断に示したと同様に、所論の情況
的諸事実を具体的に知つたうえ、真実と信じ、取材に応じ材料を提供し、又は刊行
された記事を読んだものと認める余地はない。
 (Ⅱ) 被告人A2及び同A1について
 (1)、 内田控訴趣意及び吉田・内田控訴趣意は、A2につき、(い)材料提
供者らは、A2に対し、その抱く目的からして、具体性を欠かない可成りまとまつ
た話をしたことが想像に難くないこと、(ろ)取材相手が秋田市の有力者であつた
こと、(は)D1が取材者に対し面会拒否あるいはコメント拒否に出た事実がある
こと、(に)相手方女性のA2に対する態度、(ほ)記事差止め運動があつたこ
と、(へ)市内で広く噂になつていたこと、(と)記事の一部がWやBに出たこと
があること、(ち)D1の特異な性格などの諸般の状況から、記事に高度の真実性
ありと信じたのであり、かく信ずるにつき相当の理由があるというのであり、
(2)、前記両控訴趣意は、A1につき、(い)A1は、A2から噂話としてでは
なく、調査済みの真実の話として報告を受けており、編集局長として取材記者A2
の報告に余程不合理不自然な点のなかつた本件の取材報告を真実と信ずるのは当然
であること、(ろ)秋田における相当有力な人たちの話であること、(は)同市で
は誰もが知つているような公然の噂でもあること、(に)記事差止めの依頼があつ
たことなどとも併せて、真実と信ずるにつき相当な理由があつたというのである。
 〔A〕 被告人A2について
 (イ) 関係各証拠、就中、材料提供者である被告人A8、同A7、同A6、同
A5の(二)の〔Ⅰ〕の〔A〕、〔C〕中に引用の検察官に対する各供述調書の記
載のほか、J3の同年七月一二日付検察官に対する供述調書中「A2からPの件を
きかれたので、今、D1と一番近い女性で母と二人暮しだつたが、昨秋、bの浜の
近くに家を建て、一人で住んでいる。人の話では、その家はD1が建ててやつた。
D1は彼女の生活の面倒もみているのかと聞かれたので、小遣銭的な預金を委せて
いるという意味で、預金の出入を任されていると答え、bの家の住所を教えてやつ
た、母親がいたのでは市長が来たとき都合が悪いだろうとの噂がしきりだつたとも
話した、bの家は見に行つたが、ちやちな家で、お粗末すぎるので、やはり噂にす
ぎないので嘘だつたなと思つた、真実であるならばWに載せたかも知れない」旨の
記載、(二)の〔Ⅰ〕の〔B〕中に引用の被告人らの検察官に対する各供述調書の
記載部分、被告人らの原審公判調書中の各関係部分に関する供述記載によれば、
 「被告人らは公判廷において、それぞれ、当時それらの話について誰からどのよ
うに聞いていたかを各別に供述しているが、それらの内容は、例えば『D1がその
女に手を出したらしい』、『D1の二号になつた』(被告人A6)、『D1と仲良
くなつている』(A7)、『D1とねんごろの関係にある』(同A5)などという
ものか、あるいは『大助のやつ女ぐせが悪くてこまる』(同A6)、などというよ
うに、いずれも極めて具体性に欠ける話が主であり、他に具体性を有する内容とい
つても判示のごとく被告人A2に提供した話の程度に止まるのであり、当該女性と
情交関係があつたと認めさせるに足りるような具体性が高度な事実は何ら含まれて
いないのである。」
 との原判示部分は、肯認することができるのであり、また、各女性関係につき、
まとまつた話が出たことを想像させるに足りる資料も見出し難い。(ロ)関係証拠
によれば、取材相手の被告人らが、いずれも秋田地方における政界、業界の有力者
であることについての原判示(第一部、一、被告人らの経歴等)は概ね肯認しうる
ところであるが、他方、同A2は、取材相手がいずれもD1市長の四選阻止を標榜
するいわゆる反D1側に属する者であること、そのことを取材相手の被告人らの言
動から諒知していたことは前述のとおりであること、更に被告人A2の原審第二七
回公判調書中「取材に際して、非常に目標をしぼつていたわけだつたが、向うの方
でお膳立てのようなものが出来ていて、サービスをしすぎるような気がした」旨の
供述記載等に鑑みれば、取材相手の被告人らが秋田市の有力者であることの一事に
よつて直ぐに、そういう人達が提供するD1市長の行状についての材料を真実だと
信じさせる根拠となるものとは、社会の一般通念に照らして、肯認し難いところで
ある。(へ)取材者に対し、面会あるいはコメントの拒否があつたとしても、その
ことは、取材の申込とそれに対する拒否の方法、態度などを相関的にみて、拒否す
ることが直ぐに、取材の対象者にとつて不利益な事実を、真実なりと信じさせるよ
うな特段の情況が客観的に認められる場合は格別、そうでない限りは、直ちにそう
いう事実を真実なりと信じさせるに足りるものでないことも、また一般の社会通念
乃至経験則に照らして肯認されるところである。本件では、関係証拠を検討して
も、そのような特段の状況は認められない。(ニ)相手方の女性らのうちPについ
ては、被告人A2の同年六月二四日付検察官に対する供述調書によれば、「秘書課
で私の名刺を出して市長に面会を求めたところ、そのとき胸にPという名をつけた
女性が出て来たので呼び止めたが、奥に入つて出て来なかつた」旨、同年七月一一
日付検察官に対する供述調書によれば、「……呼びとめようとしたが、間に合わな
かつた」旨、原審第一六回公判調書中のA2の略これらと同旨の記載、A2の同年
六月二四日付検察官に対する供述調書中「TにD2を訪ねて面会ができたが、本人
の口から市長と肉体関係があつたと云うことは聞けなかつた」旨、原審第一六回公
判調書中のA2の「D2に向つて、『市長と関係があるといわれているが、どうで
すか』と問うたら、非常に最初はおこつたような、まあ、非常に、もちろんいい取
材じやないんでですね、驚いたようなあれで、それで、まあ否定されたわけです、
それでTのママには誰でもなれるというわけではないでしようねということを言つ
たら相当立腹されたようでしたね、私も別にけんかしに行つたわけじやないんです
ね、それ以上は、別に、ひと通り聞いて出て来た」との記載のほか、関係各証拠を
調べても、相手方女性のA2に対する態度に、D1との間に情交関係のあることを
確信させるに相当な客観性のある証跡のあつたことは見当らない。(ホ)記事差止
めの依頼のあつた点については、原審第一〇回公判における証人D16の供述中
「秋田市長から世話になつているK3という人や、D1市長が敗れると都合の悪い
というL2代議士らから、D1市長のスキヤンダルの事実がある、ないにせよ、そ
れを書かれては困るといつて依頼を受け、Fの編集部へ電話をしたら、A1は不在
でM3が出たので、秋田市長のことに関して取材を進めているかと聞いたら、やつ
ているというので、実はそれをやめて欲しいという依頼が来ているんだが、という
内容を話したら、A1に直接話してくれといつた、一日間をおいてA1に電話し
て、実は秋田市長に関してちよつと話をきいてほしいと申したところ、A1はもう
表紙に刷り込んでしまつておそかつたと言つた、何とかならないかと頼んだが、そ
れには巨額の費用がかかるというので依頼者側もとりやめにした」旨、第二六回公
判調書中被告人A1の供述として「三月八日だかに、D16から電話があつて、D
1市長の記事をやめてもらう方法はないかというので、私は、秋田の市長に何回も
意見、コメントを取りたいと思つているが、取れなかつた、締切つてしまつたから
申し訳ないがという返答をした、まあ、あの人も随分ひどいことをやつて、いろい
ろあるから、まあ、仕方がないと言えば仕方がないもんな、というつぶやきの電話
だつた。長年の経験と勘では、かえつてこういう事実があるから差止めに来るんだ
なというふうに受取るのがまあ普通の場合です、その時もそうでした」旨、A2の
原審第一五回公判調書中「三月三日、最初にD1市長に面会を求めた日に、本社の
M3次長に電話で第一報を入れた際、同人から、記事を差し止めてくれないかとい
うD16からの電話が本社に入つたと聞いた」旨、更に「朝一〇時頃に行つたんて
すが、約三〇分ほど市長室でやりとりしたんですが、その二、三時間後にもう、こ
ちらが行つても会いもしないで、すでにやめてくれというような電話を入れるとい
うことは、事実に近いという自信と、それから何て卑怯な男というか、……裏から
手を回すというようなことで非常に憤慨したし」との供述記載及びその他の関係証
拠によれば、A2の取材中に、A1編集局長やM3次長あてに記事差止めの依頼が
なされたこと、それをA2が、同日中に知つたことは明らかであり、またA2がそ
の依頼は、その源をD1に発していると憶測して憤慨すると同時に、情交関係の事
実が真実ではなかろうかとの感を抱いたことを窺いえないでもない。しかし候補者
の女性関係の記事が掲載された雑誌が選挙前に刊行されれば、その真否に拘わら
ず、候補者側が選挙の影響を慮つて発行の差止めを求めることは、社会常識から何
ら異とするに足りないことであり、差止め運動があつたことを以て、直ちに情交関
係の存在を信ずるに正当な理由があつたと断定することはできない。(へ)関係証
拠によれば、所論の秋田市に広く噂となつているということは、A2が、主として
材料提供者である被告人らから聞知したことであること、A2は、かつて新聞、雑
誌関係の数社で記者として体験を積み、現に週刊雑誌社の取材記者であることが明
らかであるから、噂となつていることや、すでにWとBに掲載されていることが、
同人の心緒に及ぼす影響は、常に受動的に噂や活字の前に晒されている一般人にお
ける程強いものでないことは、社会通念上肯認し得られるところであるし、(ト)
所論D1の特異な性格とは、内田控訴趣意全文から付度すると、「ワンマン的性格
(一九頁)」「性豪伝……性格の一端(二三頁)」をいうものとするほかないが、
これもまた、関係各証拠によると、取材者A2が材料提供者たる被告人らの話から
D1の性格として形成したものにすぎないと窺われるところ、同被告人は材料提供
者の話が多分の扮飾、誇張、創作を含むことを察知し、或る程度用心をして取材に
当つていた節は、その検察官に対する各供述調書や、原審公判調書中の供述記載の
随所に窺われるところであつて、A2がD1の性格を、直ちに情交関係が真実に相
違ないと思わせるほど偏向した性格だと考えていたとは証拠上到底認めることはで
きない。(チ)したがつて、原審が事実審理を経たうえの判断として原判決の理由
中、
 「また、判示記事内容のうちのD1と各女性の間の情交関係の存否の点について
考察しても、被告人らの中でさえも、Yの件については被告人D2(同人の公判廷
供述、前掲各検調)および同A11(同人の前掲46・7・26検調、公判廷にお
ける検察官の質問に対する供述)が知らず、Zの件については被告人伊藤(同人の
公判廷供述、前掲各検調)、同A11(同人の公判廷供述、前掲各検調)同A8
(同人の46・7・13検調)および同D2(同人の46・7・13検調)が知ら
ず、被告人A6も昭和四六年一月末にBの被告人A4の取材に応じた時には知らな
かつた(同人の46・7・14検調)のであり、またF1の件については被告人D
2が知らなかつた(同人の46・7・13検調)というのであるから、右記事内容
になつた各話は、秋田市内においても、それ程までには広範囲に知れわたつていた
ものではなかつたと認められるのである。
 そして、それらの件のうち、情交関係の存否以外の点、すなわち、Yの件のうち
東京別宅およにQの点、B1関係の件(某課長に押しつけて結婚させ他市の部署へ
追いやつた)、F1の件のうち家の新築および市の金の自由な出し入れの点、なら
びにS組の件に至つては、多くの被告人がそれらの話を以前に聞いたことがなかつ
たことは前掲各証拠によつて認められるところである。」(原判決八五丁)、「被
告人A2は、本件記事材料の提供を受けた者につき、秋田の有力者もいるが、それ
らの被告人A7、同A8、同A6、同A5、同D2および同伊藤がすべてD1市政
を批判し同年春の市長選挙ではD1と対抗するA12を推すC1党関係の者である
ことを、C和食コーナーやW事務所での話から諒解し、Xにも取材結果としてその
趣旨を伝え、記事に『アンチD1派のデツチあげとみれないフシがないでもない』
と書かせているのである(被告人A2の公判廷供述、前掲各検調および昭和四七年
押第五九〇号の一二の原稿三八枚)。ところが被告人A2は、記事材料の話の真偽
を確めるため市庁舎へ行くと市長公室秘書係参事からそれらの話がすべてでたらめ
であると言われ、D2にもD1との情交関係を否定されたりしているにもかかわら
ず、取材の観点を変えていわゆるD1派の者からも取材しようという努力を全くし
ていない。
 また、被告人A2は、連絡船上の件、Yの件およびS組の件については、話の関
係者に面会する等の真偽の確認の手段を全くとつていないのである。すなわち、連
絡船上の件は被告人伊藤の話を聞いたのみであり、Yの件ではQがあるというHビ
ルの写真をとつたのみであり、S組の件ではS組前社長の二号が経営するというバ
ーへ行つたのみでそこでS組に関する何らかの話を聞いたことはない。
 さらに、提供を受けた記事材料のうちには直ちにそれが真実であるとは信じ難い
ような連絡船上の件も含まれていたのである。
 以上のような各事実に照らせば、被告人A2には、前記のごとく記事差止めの依
頼、D1の面会拒否等の事実のみで、記事全体が真実であると信じたとは到底認め
難く、同人には、真実と信じるにつき相当の理由がなかつたことはもちろんそれら
の記事内容が虚偽であることについて少なくとも未必の認識があつたものと認めら
れる。」(原判決九一丁ないし九二丁)
 の部分は、肯認することができる。
 〔B〕 被告人A1について
 (イ) 関係証拠、就中、同被告人の同年六月二四日付検察官に対する供述調書
中「三月四日午後四時頃の電話で、A2に出張を一日延ばして翌日帰るように指示
したのは、A2が三回も行つてD1市長に会おうとしても会えなくて、市長のコメ
ントが取れていないことが判つたからで、当の本人の言い分が全然聞いてないので
はまずいと思つたからである、A2が五日に帰社したので取材先を聞いてみるとD
1市長とは反対の立場にある人達ばかりに会つて話を聞いて来たように思えた、そ
のあとA2は秋田で五千部の注文があつたというので、その注文先を確かめさせた
らC1党関係の人だと判つた」旨、同じく同月二七日付供述調書中「三月四日夕方
のA2からの電話では、市長のコメントを取つたかと念を押したら未だだというの
で、結論としていけるのかと聞いたら、いけると思うという返事をしたので、それ
では次の号の表紙のネームに入れるので、明日でいいから市役所に行き市長のコメ
ントを取つて来いと指示した、翌五日の午後A2が帰社した、すでに表紙のネーム
を入れた後なので、取材内容が心配だつたから取材先を聞き、四人の女性から取材
したかと尋ねたところ、女性の経営している店にも行つた、市長の一番可愛がつて
いる現秘書に逢うべく三回も尋ねたが面会できなかつたという程度しかなかつた、
表紙のネームにまで入れてしまい、一折のトツプ記事部分を空けているので今更ど
うするわけにもゆかないが、結論としていけるかと確かめたら、いけるというので
市長のコメントは取れたかと聞いたら、いくら手を打つても帰るまでには逢えなか
つたのでコメントはとれなかつたと云う事だつた、そこで、明日の昼過ぎまでには
何とか市長のコメントが取れるように電話をかけろと指示した」、同じく同月二九
日付供述調書中「それから秋田の五千部の注文先に確認の電話をさせたが、その電
話のあとでも、もう一度D1市長からコメントは取つておけよと念を押した、翌六
日A2は多分昼頃出社したと思うが、確かめたところ市長のところへ何回も電話を
かけたがコメントは取れなかつたというので、不信の感があつたので本当にかけた
のかと念を押した、するとA2はふくれたような態度で、ちつとも信用してくれな
いという意味のことをつぶやきながら、私の所を離れて行つたので、それ以上はコ
メントを取ることを要求しなかつた」、「その日の午後、Xから原稿を受取つて見
たら、余りにも内容表現が強すぎるので困つてしまつた、実は四日と五日のA2の
報告からは、革新市長でも十二年間も市長の座にあると段々と行政官僚的になり口
には貧乏人の生活安定云々をし乍ら、その実、女性関係も出来、優雅な生活をする
ようになるのだと云う程度のほんのりとした読んでいてニヤニヤしてくるような内
容の記事になるものと思つていたのです、……困つたと思つたが、表紙にネームを
入れたし、原稿締切りまでにトツプ記事の原稿を取る時間的余裕がないので、思い
切つて印刷にまわした」旨の記載があり、また原審第二六回公判調書中同人の供述
として「三月四日の電話では、もう一日ずれても必ず市長に会いそのポイントの女
性の質問をして帰つてくれと話した、五日の報告のときも、市長のコメントは取れ
たかと聞いた、取れなかつたという返事だつたから、それは金曜日、帰る時に、土
曜日もう一回午前中時間があるから、市長に電話しろと指示した、くり返し指示し
たのは、刑事事件になつた場合以外は、相手のコメントを取るのが普通だから、原
稿を載せる瞬間まで、最後までそれをやり続けるのが我々のつとめです、一方的な
ことを書かないで言い分があれば載せようということともう一点、M3からD16
の電話はもみ消し工作のニユアンスだという報告もあつたから、そうなら何か意思
表示もあると思つたから、D1市長に電話をかけるように指示した」、「A2君の
場合、正直言つて一人前になるには、そう簡単になれないんです、まあ特別に能力
があるなしの意味でなくして、その期間は、ある時間をかけなければいけない、彼
は、交際範囲が普通の人よりもあつたから、原稿を書くというよりも、俗にいうネ
タ捜し、材料捜しの点では普通並みかそれ以上であつたと思う、ただ、表現する点
では、まあ、年季が入つていないから無理からぬことと思う、見習修業中という段
階じゃなかつたかということは、非常に微妙、むつかしいが、僕としてはその期間
はすぎたと思う、……ネームは入れた、今のようなA2の立場からみて、果して十
分な取材ができているかどうか非常に気になつたのではないかという点について
は、取材が不備で気になるのと、完全であつて、やつぱり、気になるというか心配
はある、心配しているのは事実だが、欠陥があつて心配する、それは違うと思う、
ということは、四日の夜、或る程度部下と信頼関係ですけれども、いけると何回も
お互に確認し合つた以上は、これはやはり相当な自信のあつてのことだと思いまし
たから、信じておりました」旨の各記載に鑑みれば、内田控訴趣意中第一点第八の
「A1としては編集局長として部下の取材記者の取材について、間違いないと言え
ばそれを信用するのは当然であつて、余程不合理不自然な点がない限り、信用せざ
るを得ない」、また、吉田・内田控訴趣意中(一)の(2)の「取材内容を真実と
信じた被告人A2からの報告を上司たる編集局長のA1も亦信頼するに足る報告と
してその内容を真向から信じていたものとみられる」とは到底認め難いと言わなけ
ればならないし、(ロ)A2のもたらしたD1市長の行状についての取材報告は、
その取材先が秋田市の有力者であるからといつて、直ちに、その報告を受け、その
報告に基づいて作成された記事を読んだA1において、これらを真実と信ずる相当
な根拠となり難いものであることは、容易に肯認されるところである。(ハ)「被
告人A1が秋田市では誰もが知つているような公然の噂であることなどと聞いたこ
と」、(ニ)同被告人に対し記事差止めの依頼があつたことの二つは、記事を真実
と信用するに極めてもつとものことだとか、そう信じるにつき相当の理由になると
かいう場合に当らないことは、前述(二)のAの(ホ)、(ヘ)において被告人A
2について示した判断と同様である。更に、所論(2)の(い)、(ろ)、
(は)、(に)の事由が競合し、かつ、被告人A1がA2に市長のコメントを取る
ように再三に亘つて命じ、X作成の記事を見て功績面を追加させたり、政治評論家
のコメントをとつて付加するよう命じたことがあつても、なお、被告人A1に記事
を真実であると信ずるに相当な理由があつたというを得ないものである。したがつ
て、原判決中、被告人A1の虚偽性に関する認識についての
 「各証拠によれば、被告人A1は、被告人A2から取材先が秋田の有力者である
ことの報告を受けていたが、五、〇〇〇部の注文者が『C1党秋田県連A5』であ
ること等から右取材先がC1党関係者であることを認識し、さらに、記事の原稿を
見て、D1市長が革新系であり、同年春の選挙に立候補し四選をめざしているこ
と、およびアンチD1派のデツチあげとみれないフシもないでもないことを知つた
ものと認められる。さらに、各証拠によれば、被告人A1は、被告人A2からD1
市長からは話を聞いていないことの報告を受けており、さらに、記事原稿を読んで
市役所秘書課員もそれらの話を否定し、噂される女性もD1との情交関係を否定し
ていること、および、記事のうち一部の話については全くその真偽の確認の手段を
とつていないことを認識したものと認められる。
 また、本件記事のうちには、直ちに真実であるとは信じられないような(被告人
A1も、公判廷において半信半疑であつたと述べている。)連絡船上の件も含まれ
ていたのである。
 以上のような各事実に照らせば、被告人A1には、前記のごとくD1が面会を拒
否し、記事差止めの依頼が来たからといつて、それのみで右記事全体が真実である
と信じたものとは到底認め難く、真実と信ずるにつき相当の理由がなかつたことは
もちろん、それらの記事内容が虚偽であることにつき少なくとも未必的認識があつ
たものと認められる。」(同九二丁、九三丁)
 との判示部分は相当であり、原判決に所論の事実誤認のかどはない。
 (三) したがつて、記事の虚偽性とその認識についての原認定を論難する
(一)及び(二)の各論旨はいずれも理由がない。
 第八 したがつて、第一乃至第七の各主張については、各弁護人の控訴趣意中の
論旨はすべて理由がない。よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却するこ
ととし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 木梨節夫 裁判官 時國康夫 裁判官 佐野精孝)

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