弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人中川鼎の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、こ
こにこれを引用する。
 第二点(事実誤認)について
 論旨は、本件「金敷」は古物であつて金属屑ではなく原判決には事実の誤認があ
ると主張する。そして古物営業法には古物の意義につき所論のような規定があり、
又本件条例の定める金属屑中には前記同法の定める古物はこれを含まないものとさ
れていることも所論のとおりである。しかし原判決挙示の被告人の原審公判廷にお
ける供述、証人Aの証言並びに当公廷における被告人の供述を綜合すれば、本件の
金敷なるものは元プレス機械の一部を為していた金属板であるが機械の解体により
これを金物の叩き台として利用していたものであつて本来の製造目的に従つて使用
されていたものではなく、又プレス機械にはそれぞれ規格があるため他のプレス機
械にも全然通用できず部分品としても取引の目的になり得ないものであり即ち本来
の用法に従い使用に堪えないものであつて、被告人もこれを金属屑として買受けた
ものであることが認められるから、所論のように右は古物であるとは到底解し難く
金属屑と認めるのを相当とする。従つて原判決には所論のような事実の誤認は認め
られない。論旨は理由がない。
 第一点(法令適用の誤)について
 <要旨>昭和二六年八月一〇日広島県条例第三九号金属屑業条例第一条は「この条
例は古物営業法(昭和二四年法律</要旨>第一〇八号)及び質屋営業法(昭和二五
年法律第一五八号)と相まつて金属類の盗犯その他の犯罪を防止する見地から金属
屑業者の守らなければならない事項を定め、及びその履行を確保し、もつて公共の
秩序の維持に資することを目的とする」と定め、同第三条は「金属屑業を営もうと
する者は営業所ごとに次に掲げる事項を営業所(中略)の所在地を管轄する公安委
員会に届出なければならない(以下略)」と定め、更に第一〇条は「業者は、未成
年者又はその委託を受けた者と金属屑を売買し、若しくは交換し又はこれらの者か
らその売買若しくは交換の委託を受けてはならない。但し未成年者の同居親族又は
法定代理人の同意があるときはこの限りではない。」と定め、なおその第二〇条に
おいて右第三条第一〇条の違反行為につき罰則を設けている。従つて金属屑業者に
ついてはそれらの規定が営業の自由を制限するものであることは所論のとおりであ
る。そして論旨は右の条例の規定を以て憲法第二二条、地方自治法第二条第一四
条、民法第四条第五条等に違反し無効であると主張する。しかし憲法第二二条は国
民の権利として職業選択の自由従つて又営業の自由を保障しているが、その自由を
無制限に享有させているのではなく公共の福祉の要請がある限り制限され得ること
も認めているのであつて、金属屑営業に届出義務を課し且或る種の取引行為につき
一定の制限を設けこれに違背した場合を処罰することが公共の福祉を維持するため
に必要であるならばその制限は何等憲法に違反するものではなく、又憲法第九四条
は地方公共団体に対しその権能である行政を執行するため法律の範囲内において条
例の制定権(いわゆる自治立法権)を保障しているところであつて、地方自治法第
二条第一四条によれば、地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて地方公共の
秩序を維持し、住民及び滞在者の安全健康及び福祉を保持するためにも条例を制定
し且つその条例中に条例違反者に対する罰則を設けることができる旨を定めてい
る。そこで問題は金属屑営業者に対する前記の如き制限が公共の福祉即ち地方公共
の秩序を維持し住民及び滞在者の福祉を保持するため必要なものであるかどうか及
び右の制限は他の法令に違反するものであるかどうかであるが、古物商並びに質商
については従前から許可営業主義を採り且つこれに対し種々の営業制限が設けられ
以て今日にも及んでいるのであるが(昭和二四年法律第一〇八号古物営業法、同二
五年法律第一五八号質屋営業法)それは賍物の相当数がそれらの業者に流れる現実
の事態に鑑みその流れを阻止し又はその発見に努め被害者の保護を計ると共に犯罪
の予防ないし検挙を容易にするために必要であつて、右は国民生活の安寧を図りい
わゆる公共の福祉を維持する所以であるから、公共の福祉を維持するため必要なも
のとして右の制限も是認されているのである。(なお昭和二六年(あ)第四六二九
号同二八年三月一八日最高裁判所大法廷判決参照)本件金属屑についても事情は全
く同一であつて殊に終戦後金属屑の需要が盛んとなるに従い、これらが盗犯その他
の犯罪の対象となり且つその犯人は未成年者の少年が多数である広島県下の実情に
鑑み同県が前記本件条例を制定するに至つたことも十分首肯し得るところであつて
右は地方公共の秩序を維持し住民及び滞在者の福祉を保持するため即ち公共の福祉
を維持するため必要なものと認めざるを得ない。また条例はその規定事項について
他の法令(法律、政令、省令等)に違反することを得ないものであつてその違反す
る限度においては無効であることはいうまでもないけれども、しかし前記第一〇条
の規定は単に金属屑業者に対し一部の未成年者即ち法定代理人又は同居の親族の同
意のない未成年者と金属屑の取引をすることを禁止制限したに止まり未だ一般的に
未成年者の行為能力を制限したものでないことは勿論右違反行為の私法上の効力に
ついては毫も触れるところはないのであるから右の規定を以て所論のように民法第
四条第五条等に矛盾牴触する規定であるとは認め難い。即ち右第一〇条は行政上の
取締の目的で之に違反する金属屑業者に刑罰を科するけれどもその私法上の効力を
無効とする法意ではないと解すべきであつて、これらはすべて民法の定めるところ
に従つて決せられるものであることは前記条例と他の法令との関係からも自明とす
るところであるから従つて所論の民法の規定にも何等違反するものではないと言わ
ねばならない。ただ業者に対する右の制限の結果前記同意のない一部の未成年者
(これらは概ね犯罪者と想像される)が業者に対し金属屑を売渡すことは事実上困
難となるであろうけれも、しかしそれは前記制限のいわゆる反射効ともいうべきも
のであつて、これを以て右制限が所論のように民法第四条第五条等に違反する無効
の規定であると見るべきものではない。故に原判決が同条例を適用処断したのは相
当であつて所論のような法令適用の誤はない。論旨は理由がない。
 第三点(量刑不当)について
 記録を精査して諸般の情状を考察し所論を検討するに、当時被告人が本件制限規
定の存したことを全然知らなかつたとの点はたやすくこれを信じ難いところであ
り、更に本件金敷は盗品であつたこと等を考慮するときは所論のその余の被告人に
有利な事情を勘案しても原判決が被告人に対し罰金二千円の実刑に処したことを以
て量刑が不当であるとは認められない。
 論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三九六条に従い主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 伏見正保 判事 尾坂貞治 判事 小竹正)

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