弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人木ノ宮圭造、同滝井繁男、同仲田隆明、同重吉理美の上告理由につい

一 建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)四七条二頃の管理組合
法人(以下「管理組合」という。)が、その規約によって、代表権のある理事の外
に複数の理事を定め、理事会を設けた場合において、「理事に事故があり、理事会
に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、これを代理出席させ
ることができる。」と規定する規約の条項(以下「本件条項」という。)は、法四
九条七項の規定により管理組合の理事について準用される民法五五条に違反するも
のではなく、他に本件条項を違法とすべき理由はないと解するのが相当である。
二 すなわち、法人の理事は法人の事務全般にわたり法人を代表(代理)するもの
であるが、すべての事務を自ら執行しなければならないとすると、それは必ずしも
容易ではないとともに、他方、法人の代理を包括的に他人に委任することを許した
場合には、当該理事を選任した法人と理事との信任関係を害することから、民法五
五条の規定は、定款、寄附行為又は総会の決議によって禁止されないときに限り、
理事が法人の特定の行為の代理のみを他人に委任することを認めて、包括的な委任
を禁止したものであって、複数の理事を定め、理事会を設けた場合の右理事会にお
ける出席及び議決権の行使について直接規定するものではない。したがって、理事
会における出席及び議決権の行使の代理を許容する定款又は寄附行為が、同条の規
定から直ちに違法となるものではない。
三 ところで、法人の意思決定のための内部的会議体における出席及び議決権の行
使が代理に親しむかどうかについては、当該法人において当該会議体が設置された
趣旨、当該会議体に委任された事務の内容に照らして、その代理が法人の理事に対
する委任の本旨に背馳するものでないかどうかによって決すべきものである。
 これを、管理組合についてみるに、法によれば、管理組合の事務は集会の決議に
よることが原則とされ、区分所有権の内容に影響を及ぼす事項は規約又は集会決議
によって定めるべき事項とされ、規約で理事又はその他の役員に委任し得る事項は
限定されており(法五二条一項)、複数の理事が存する場合には過半数によって決
する旨の民法五二条二項の規定が準用されている。しかし、複数の理事を置くか否
か、代表権のない理事を置くか否か(法四九条四項)、複数の理事を置いた場合の
意思決定を理事会によって行うか否か、更には、理事会を設けた場合の出席の要否
及び議決権の行使の方法について、法は、これを自治的規範である規約に委ねてい
るものと解するのが相当である。すなわち、規約において、代表権を有する理事を
定め、その事務の執行を補佐、監督するために代表権のない理事を定め、これらの
者による理事会を設けることも、理事会における出席及び議決権の行使について代
理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定めることも、可能というべきである。
 そして、本件条項は、理事会への出席のみならず、理事会での議決権の行使の代
理を許すことを定めたものと解されるが、理事に事故がある場合に限定して、被選
任者の範囲を理事の配偶者又は一親等の親族に限って、当該理事の選任に基づいて、
理事会への代理出席を認めるものであるから、この条項が管理組合の理事への信任
関係を害するものということはできない。
四 そうすると、本件条項を適法であるとして上告人の請求を棄却した原審の判断
は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見
解に基づいて、又は原判決の措辞の不当をとらえて、原判決を非難するものにすぎ
ず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    香   川   保   一
            裁判官    木   崎   良   平

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