弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人両名を各懲役二年に処する。
     押収のハンマー一挺(証第一号)はこれを没収する。
     原審並びに当審における訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。
         理    由
 被告人Aの弁護人鍵尾豪雄被告人Bの弁護人平山雅夫上山武の控訴趣意は記録編
綴の各控訴趣意書記載のとおりであるからここにこれを引用する。
 平山、上山両弁護人の論旨第二点の二及び鍵尾弁護人の同第三点(手続法違反)
について
 本件の起訴状に記載された訴因と原審第六回公判廷において検察官から予備的追
加の請求のあつた訴因との間には所論のように表現において多少の差異があるけれ
ども、その基本たる事実としては、被告人等は共謀して本件旧軍艦「C」の蒸化室
装置の砲金製キングストンバルブのカバーを窃取しようとして同カバー取付のナツ
トを取外したが容易にこれを取外すことができなかつたため、更に右カバーの船体
固著部分にタガネを当てハンマーで打込み破壊して窃取しようとしたが右破壊部分
から海水が浸入したためその目的を遂げず、且つ右浸水により遂に同艦を沈没させ
るに至つたというのであつて、要は前記二個の訴因の差異は右犯行の客体である旧
軍艦「C」を器物と見るやはた又艦船と見るやの主として法律上の評価の問題に帰
省するのであつて、前者の訴因はこれを器物毀棄としたのに対し後者の訴因はこれ
を艦船損壊とした差異があるに過ぎず、その公訴事実に至つては豪もその同一性を
害するものではないから原審が右予備的訴因の追加を許したのは当然であつて何等
違法のかどはない。又数個の訴因が予備的に為されている場合、裁判所が審理の結
果右数個の訴因中何れかの一について有罪の判決をした以上他の訴因は自ら排斥さ
れたものであることは明らかであつてその排斥の理由をことさら判決に示す必要は
ないのであるから、従つて又本件において器物毀棄の点に関する告訴の有効無効に
つき争があつたとしてもすでに右訴因が全面的に排斥されたものである以上特に告
訴の効力の点につき判断を示す必要は豪も存しないものといわねばならない。なお
原審が本来の訴因である器物毀棄の点につき審理をつくしたものであることは右の
予備的訴因追加は一旦審理を終結した後弁論を再開した原審第六回公判廷において
為されていること並びに右追加は主として法律問題にかかるものであつたことに徴
しても明らかなところである。従つて原判決には何等所論のような訴訟手続に関す
る法令違背はない。論旨は何れも理由がない。
 平山、上山両弁護人の第一点、第二点の一及び鍵尾弁護人の第一、二点(事実誤
認、法令適用の誤)について
 論旨は、本件の客体である旧軍艦「C」は当時すでに完全に艦船たるの機能を喪
失し単なる船骸ないし一塊のスクラップに過ぎなかつたものであるから刑法第二六
〇条の艦船と認むべきものではない。又被告人等には艦船損壊の犯意もない。然る
にこれを艦船であると認定し前記同条を適用処断した原判決は事実を誤認し且つ法
令の解釈適用を誤つた違法があると主張する。そして原審並びに当審において取調
べた証拠に現われている事実によれば、右の旧軍艦「C」(全長二二〇米、巾三四
米、総屯数四五、〇〇〇屯)は昭和二〇年七月四日の空襲により被爆し広島県賀茂
郡a島沖合で沈没擱座中のものを終戦後連合国の指令により解撤船艇として破壊を
命ぜられ同所においてDの手により先ず干潮時水面迄の上装部分を解撤されそのま
ゝ久しく放置されてあつたが、これを引揚げスクラツプとして熔解用及び伸鉄材料
として再製使用する目的で昭和二五年四月三日株式会社Eが国から金千百十一万千
円で払下げを受け、ついでF株式会社の所有となり同会社の手により昭和二六年七
月完全浮揚に成功し、これを同郡b島cの北西方約六〇〇米の海上に曳航繋留し、
同所において排水ポンプを備付けつつ解撤作業中のものであつたが、本件犯行当時
はすでに上部より全体の約三分の二を解撤し終り残余の下甲板より以下の部分につ
き右作業が進められ居り艦内作業として保安要員を含め毎日約七、八〇名の作業員
がこれに出入して該作業に従事していたものであることが認められる。
 <要旨>ところで刑法第二六〇条にいわゆる艦船であるがためには現に自力又は他
力による航行能力を有するものであることを要するものと解すべきものであ
るから、右のように六年間も海底に沈没して錆腐し且つその三分の二を解体撤去さ
れたとえ水上に浮いていたとはいえ、完全に航行能力を喪失し一部の船骸を残すに
過ぎないものであるからもとは軍艦であつても同条にいわゆる艦船には当らないも
のと解するを相当とする。然らば右は単なる器物又はスクラップの塊りに過ぎない
ものと見るべきや否やというに、右は解体途上にあつたもので本件犯行当時は既に
三分の二を解撤されたとはいえ、なお下甲板以下の巨大なる原型構造を存し内部に
人の出入し得べき各室を有して毎日約七、八〇名の作業員がこれに出入して解撤作
業に従事していたもので浮べる解体工場ともいゝ得べく且つ地上ではないとしても
一定の場所に繋留されていたものであるから右は家屋類似の工作物であつて同条に
いわゆる建造物に当るものと解するのを相当とする。そして被告人等はこれを沈没
せしむる意思はなかつたとしてもその一部を故意に破壊したものであることは明ら
かであるから、本件は建造物損壊を以て論ずるのを相当とする。(物の一部を破壊
する犯意があればその物に対する犯意は否定し得ないし、建造物損壊罪は一部の損
壊を以て既遂となる。)然るに原判決がこれを艦船損壊と判断したのは法律上の判
断を誤つたものと言わねばならない。しかし建造物損壊と判断すると艦船損壊と判
断するとによつて罰条に差異はなく等しく刑法第二六〇条前段を適用すべきであ
り、なお本件は右と一所為数法の関係に在る重い窃盗未遂罪の刑に従つて処断され
る場合であるから、結局右の違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるとは言え
ない。
 従つてこの点の論旨もいずれも理由がない。
 平山、上山両弁護人の論旨第三点及び鍵尾弁護人の同第四点(量刑不当)につい

 記録を精査して諸般の情状を考察し、所論を検討するに、本件は被告人等の判示
所為に因つて遂に再び同艦は沈没するの結果を生ずるに至り、これが再浮揚に巨額
の失費を余儀なくせしめて所有者に多大の損害を蒙らしめたことは犯情においてま
ことに軽くないものがあるけれども、しかし一面右の沈没は被告人等の全く予想し
なかつたところであつて、沈没を認識し乍ら敢て右のような所為に出たものではな
く単に前記砲金製金属を窃取しようとして判示のような破壊行為に及んだが意外に
もにわかに同個所から海水が流入し噴き出したためその目的を遂げずして終つたも
のであることが是認せられ、その他所論の事情を考量するときは原審の科刑は重き
に過ぎるものがあると認められる。論旨はいずれも理由がある。
 よつて刑事訴訟法第三九七条第三八一条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条
但書に従い当審において左のとおり自判する。
 (罪となるべき事実)
 被告人両名は共謀の上、昭和二六年一二月二一日午前一〇時頃広島県安芸郡d町
字ecの北西方約六〇〇米の沖合に繋留され解撤作業施行中のF株式会社の所有に
かかる旧軍艦「C」(同艦は昭和二〇年七月四日の空襲により爆沈擱座し爾来六年
間海底に在つて錆腐したため航行機能を完全に喪失し且つすでに上装部より全体の
約三分の二を解撤されて下甲板より艦底部までの部分となり、引続き解撤作業のた
め毎日約七、八〇名の作業員がこれに出入して右作業の行われていたもので建造物
と認められるものである。)において、その左舷艦尾艦底部蒸化室に装置されてい
た砲金製キングストンバルブのカバーを窃取しようとしてこれに取付けてあつたナ
ツトを取外したが容易に右カバーを取外すことができなかつたので、更にその部分
を破壊して窃取すべく艦体の右固著部分に所携のタガネを当てハンマー(証第一
号)で数回これを叩いて該部分を破壊したが、にわかに同個所から海水が流入し噴
き出したため窃取の目的を遂げずして終つたが、右浸水のめ同艦は再び海底に沈没
するに至つたものである。
 (証 拠)
 当審証人Gの供述の外原判決挙示の証拠と同一につきこれを引用する。
 (法令の適用)
 被告人等の判示所為中窃盗未遂の点は各刑法第二三五条第二四三条第六〇条に、
旧軍艦「C」なる建造物を損壊した点は各同法第二六〇条前段第六〇条にそれぞれ
該当するところ、右は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから各同法
第五四条第一項前段第一〇条により重い窃盗未遂罪の刑に従い所定刑期範囲内にお
いて諸般の情状に照し被告人等を各懲役二年に処し、押収のハンマー一挺(証第一
号)は本件犯行の供用物件であつて被告人等以外の者の所有に属しないから同法第
一九条第一項第二号第二項に従いこれを没収し、原審並びに当審における訴訟費用
は刑事訴訟法第一八一条第一項、第一八二条に従い全部被告人両名に連帯して負担
させることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 伏見正保 判事 尾坂貞治 判事 小竹正)

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