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平成19年11月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成17年(ワ)第23171号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成19年8月30日
判決
東京都新宿区<以下略>
原告グレートインフォメーション株式会社
訴訟代理人弁護士工藤勇治
同田中敏夫
同西口徹
同横山康博
同安部井上
同川上詩朗
同杉浦正敏
同茶谷豪
東京都文京区<以下略>
被告株式会社テレパーク
訴訟代理人弁護士柏木薫
同松浦康治
同今井浩
同柏木秀一
同福井琢
同斎藤三義
同黒河内明子
同粕谷宇史
同小林利男
同古屋正典
同黒田貴和
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,1億2000万円及びこれに対する平成17年12月
2日から支払済みに至るまで,年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,別紙文書内容目録記載の各内容を含む文書を頒布してはならない。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,被告が原告と競合するサービスを開始する意
図を秘して原告の営業秘密の開示を受けた行為が不正競争防止法2条1項4号
,,,の不正競争行為に当たるとともに情報の詐取として不法行為に当たりまた
被告が原告の営業秘密を不正に使用した行為が原被告間の秘密保持契約等に違
反するとともに,不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為に当たり,さら
に,被告が原告と競合するサービスを開始する意図を秘して秘密保持契約を合
意解除して業務提携交渉を打ち切った行為が継続的な契約関係の不当な破棄と
して不法行為に当たり,加えて,被告が後記文書を配布して虚偽の事実を告知
した行為が不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に当たるとともに,
原告の信用を毀損する不法行為に当たると主張して,損害賠償金の一部として
1億2000万円の支払及び上記虚偽の事実を記載した文書の配布の差止を求
める事案である。
1前提となる事実等(当事者間に争いがないか,該当箇所末尾掲記の各証拠及
び弁論の全趣旨により認められる)。
()原告と被告は,平成16年2月16日ころ,同日付け秘密保持契約書(甲1
8。以下「本件秘密保持契約書」という)によって,秘密保持契約(以下。
「本件秘密保持契約」という)を締結した。。
本件秘密保持契約書には,以下の記載がある。なお「三井物産テレパー,
ク株式会社」は,被告の旧商号である。
ア「三井物産テレパーク株式会社(以下『甲』という)とグレートインフォ
メーション株式会社(以下『乙』という)は,株式会社ココストアならび
に九州コンビニエンスシステムズ株式会社におけるバーコード・タッチパ
ネルによるプリペイドカードのカードレス発券事業(以下『本事業』とい
う)に関し相手方が有する秘密情報の取扱につき,次の通り契約を締結す
る」。
イ「第1条(目的)
甲及び乙は,本事業に関する甲乙間の事業提携の可能性につき検討を行
うこと(以下『本検討』という)を目的として本契約を締結する」。
ウ「第2条(秘密保持義務)
1甲及び乙は,相手方から本検討の為に開示された本事業に関する情報
(以下『本秘密情報』という)を善良な管理者の注意をもって管理し且
つ本検討の目的の為にのみ保有・使用するものとし,その他の目的には
一切使用してはならない。
2本契約において『本秘密情報』とは,甲または乙が相手方に開示する
自己の技術情報,財務情報,営業情報及びその他の情報であって,書面
により開示され且つ印刷或いは押印等で秘密情報である旨明記されたも
のを意味する。開示者が口頭で情報開示を行う場合には,開示者がその
開示の際に秘密である旨を明示し且つ当該情報に含まれる秘密情報を特
定した書面が開示の時から14日以内に受領者へ提出される場合に限
り,本秘密情報として扱うものとする。受領者において本秘密情報を複
製した場合は当該複製も本秘密情報とする(判決注・以下,本判決。」
においても,この情報を「本秘密情報」という)。
エ「第3条(検討期間)
1.本検討の期間は,本契約締結日から3ヶ月間とする。但し,甲及び乙
は両者の合意に基づき,本検討の期間を延長することが出来る(上記。
3ヶ月間と延長期間を合わせて以下『本検討期間』という」,)
オ「第4条(秘密情報の返却)
甲及び乙は,相手方が要求した場合,本契約に基づき相手方から受領し
た本秘密情報をすべて相手方へ返却し又は破棄する。尚,破棄した場合は
これを証明する書面を相手方に提出する」。
カ「第5条(事業開始義務)
甲及び乙は,本契約の締結により相互に本事業を行なう義務を何ら負う
ものではないことを確認する」。
キ「第7条(契約期間)
,。,,本契約は本検討期間満了日を以って終了する但し第2条の規定は
本契約終了後3ヶ月間は有効に存続する」。
()原告と被告は,平成16年12月13日ころ,同日付け覚書(甲9。以下2
「本件覚書」という)によって,本件秘密保持契約を同年11月16日に。
遡って終了させることを合意した。
本件覚書には,以下の記載がある。
ア「1.株式会社テレパーク(以下『甲』という)とグレートインフォメー
ション株式会社(以下『乙』という)とは,甲乙間において,平成1
6年2月16日付で締結した『秘密保持契約』に基づく,バーコード
タッチパネルによるプリペイドカードのカードレス発券事業以下本(『
事業』という)の検討を行った結果,甲乙間での本事業の事業化につ
いて,平成16年11月16日の検討時を以って『事業開始不可能』
との結論に至った」。
イ「2.上記1にともない,同日に遡及し,本事業の検討を終了することを
確認した」。
ウ「3.上記2にともない,甲と乙は『秘密保持契約』が同日付で終了する
ことを確認した」。
エ「4.上記3にともない,甲と乙は『秘密保持契約』第4条を速やかに履
行することを確認した」。
()原告と被告は,平成17年2月15日ころ,平成16年12月1日付け商3
品売買基本契約書(甲50。以下「本件売買基本契約書」という)によっ。
て商品売買基本契約以下本件売買基本契約というを締結した乙,(「」。)(
13の1ないし3。)
本件売買基本契約書には,以下の記載がある。
ア「株式会社テレパーク(以下『甲』という)とグレートインフォメーシ,
ョン株式会社(以下『乙』という)とは,甲の取扱う『PIN(この契,
約の第2条に定義』の売買等に関して,以下のとおり契約を締結する」)。
イ「第2条(本件商品)
この契約における『(の略語』とは,PINPersonalIdentificationNumber)
プリペイド式で提供されるサービスの利用権を当該サービスの提供事業者
(以下『サービス提供事業者』という)から購入した者を識別する番号を
いうものとする」。
ウ「第3条(適用範囲)
1.この契約は,甲が乙にを販売した後に乙が株式会社ココストアPIN
およびそのエリアフランチャイズ店舗(以下『丙』という)にを,PIN
販売し,さらに丙が丙の店舗内システム端末から印字されるシーPIN
トを通じて一般顧客に販売するにつき,甲・乙間で締結される個PIN
別具体的な売買契約(以下『個別契約』という)の全てに適用される,
ものとする。なお,甲が乙に販売する具体的なの種類は,別途甲PIN
が乙に対して通知するものとする」。
エ「第7条(納入・引渡し)
1.甲は,予め甲・乙間で協議し決定した場所(以下『指定場所』とい,
)。,,うにを納入するものとするなお甲から乙へのの納入はPINPIN
甲がを電子記憶媒体(フロッピーディスク,,等のこPINCD-ROMMO
とをいい,以下『フロッピー等』という)に記憶させ,そのフロッピー
等を乙に納入する方法によるものとし,乙は,甲からフロッピー等を納
入された場合は,受領証を甲に対して発行するものとする。乙から甲に
対する受領証の発行をもって,の納入の完了とする」PIN。
オ「第18条(秘密保持)
甲および乙は,この契約及び個別契約の内容,これらの履行を通じて知
り得た相手方の業務上の機密,相手方より提供を受けた文書・資料等を第
,。」三者に開示・漏洩せずその機密保持に万全の措置を講ずるものとする
()被告は,平成17年4月28日,株式会社サークルKサンクス(以下「サ4
ークルKサンクス」という)収納決済部部長A(以下「A」という)に。。
対し,同日付けの「プリペイドPINデータ販売における商材・商流・ベン
」(。「」。)ダー選定に関します件と題する文書甲10以下本件文書という
を手交した(乙17)。
本件文書には,以下の記載がある。
ア「標題の件,この度の御社ご方針を受け,弊社としてのあらゆる角度より
検討を行って参りました。
現状の市場環境及び,各事業者様のご方針・ご内情,及びこの度御社よ
りお名前を戴きました『グレートインフォメーション株式会社様(以下G
IC社』に関します諸情報も含め,御社様の利益追求・リスク回避を大)
命題として,極めて合理的かつ確度の高い結論を導き出せたと自負する次
第です。
以下,弊社見解(結論)につきご案内申し上げます。
内容方ご賢察賜りました上,御社ご方針につき,ご再考賜れますよう切
にお願い申し上げます」。
イ「1.GIC社特許申請に関します件
御社様の予ねてからのご懸念事項の1つである本件につき,弊社は延べ
3年間に渡り,多額のコストも費やし,弊社親会社である三井物産株式会
,。社の指定国際特許事務所に協力を得て審査の状況を観察して参りました
同社の国内における本事業関連の特許申請は2件存在し,現状次の状況に
あります。
①特許公開2001−76036(MMK関連)
ⅰ)出願;平成11年9月2日
ⅱ)出願審査請求;平成13年11月30日
ⅲ)拒絶通知;平成16年3月11日
ⅳ)意見書・手続補正書;平成16年5月21日
ⅴ)刊行物等提出書;平成16年7月12日
⇒匿名第三者による
②特許公開2003−162755(バーコードシート関連)
ⅰ)出願;平成13年11月27日
ⅱ)出願審査請求;平成14年2月26日
ⅲ)拒絶通知;平成16年12月22日
ⅳ)刊行物等提出書;平成17年2月14日
⇒匿名第三者による
ⅴ)意見書・手続補正書;平成17年3月7日
上記2件の特許申請は,審査過程だけを見ても,各々拒絶通知を受け,
それに対し補正を入れるという,極めて苦しい状況にあります。また,そ
の補正及び意見書内容に目を向けると,各々刊行物提出書(所謂第三者に
よる情報提供)の存在により,審査官の判断を待たずとも,特許性が無き
ものであることが誰の目にも明白であります。また,特許事務所からは最
も信頼性のある,延べ100頁以上にも渡る特許鑑定書を作成して戴き,
その内容からも,同社の特許申請が取得は99.9%以上と表現出来る程
に不可能であること。また,補正・意見書提出が,審査中という実態を営
。,業に生かすための時間引き延ばし策であるとの結論に至りましたよって
当然ながら,同社に対して特許的理由による便宜を図る必要性は全く無き
ものと断言する次第です」。
ウ「末筆ながら,本事業推進決定時の合意事項通り,弊社での商流一本化及
び指定ベンダーとして選定戴くことこそが,御社様の最大利益であると確
信致しますこと,申し添えさせて頂きます」。
()原告代表者B(以下「原告代表者B」という)及びCは,次の特許出願5。
,,,,を行い原告は平成14年11月1日その特許を受ける権利を譲り受け
同月5日,出願人名義変更届を提出した(以下「本件特許出願」という。。)
(乙2の1及び2,乙8の1及び2,乙11の1の1ないし3)
ア発明の名称プリペイドカード情報発行システム,通話料決済シス
テム,通信料決済システム,及び代金決済システム
イ出願日平成13年11月27日
ウ出願番号特願2001−361236号
エ公開日平成15年6月6日
オ公開番号特開2003−162755号
カ拒絶理由通知平成16年12月22日起案
キ拒絶査定平成17年11月29日起案
()原告は,次の特許権を有している(以下「本件先行特許権」といい,そ6,
「」。)。(,)の特許出願を本件先行特許出願という乙21乙3の1ないし3
ア特許番号第3782617号
イ発明の名称有価暗号情報発行システム及び通話料決済システム
ウ出願日平成11年9月2日
エ出願番号特願平11−248617号
オ公開日平成13年3月23日
カ公開番号特開2001−76036号
キ拒絶理由通知1回目:平成16年3月11日起案
2回目:平成17年9月6日起案
ク登録日平成18年3月17日
()ウェルネット株式会社(以下「ウェルネット」という)は,2005年7。
(平成17年)9月30日,同社ホームページにおいて「サークルKサン,
クス“ネットプリカ”販売システム稼動」についてのプレスリリース(乙1
5。以下「本件プレスリリース」という)を行った。。
本件プレスリリースには,以下の記載がある。
ア「ウェルネット株式会社(本社:札幌市)は,年月日よりサー2005103
クルK・サンクス全店舗でのネットプリカ販売システムの本番稼動をいた
します」。
イ「ウェルネットは年月より,サークルK・サンクスの店舗に設置20037
されているPOSレジとウェルネットサーバー間の双方向通信システムを
共同開発し,ペーパーレス&リアルタイム現金決済サービス“ケータイ決
済”※1を提供してまいりました。
このシステムは国内主要航空会社,高速バス事業者(約社)の他,各100
種通信販売の前払決済手段として幅広くご利用いただいております。
今般この双方向通信システムに改修を加えることで,新たにプリペイドカ
ードをオンラインで販売できるシステムとしての稼動を致します」。
ウ「月日開始時点での取り扱いは,携帯電話,国際電話,電子マネー103
など種類以上のプリペイドカードが予定されております」30。
エ「販売フロー】【
,,①お客様がサークルK・サンクス売場でご希望商品の見本カードを取り
レジカウンターにお持ちになる
②従業員が商品見本に記載のバーコードをレジにて読み取るとPOSとウ
ェルネットサーバーが通信,サーバーは当該プリペイドカードを保有する
事業者のサーバーからプリペイドカード番号を自動的に取得し,POSに
配信する
③お客様は代金をお支払いになり,POS内蔵のチケット発券機から発行
される『プリペイドカード番号』を記載したチケットを受け取る。
④お客様はその番号を利用してサービスを受ける」。
オ「取り扱うカード種類の選定は株式会社サークルKサンクスが行い,ウェ
ルネットはそれらプリペイドカード販売を行う事業者からの仕入れ販売の
形態を取ります」。
カ「ネットプリカのリリースはサークルKサンクスより年月日に2005815
行われております」。
2本件の争点
()不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争の成否(争点1)1
()本件秘密保持契約違反の成否(争点2)2
()原被告間の黙示の合意に基づく守秘義務違反の成否(争点3)3
()本件売買基本契約違反の成否(争点4)4
()不正競争防止法2条1項4号所定の不正競争の成否(争点5)5
()情報の詐取としての不法行為の成否(争点6)6
()継続的な契約関係の破棄としての不法行為の成否(争点7)7
()不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争の成否(争点8)8
()信用毀損としての不法行為の成否(争点9)9
()損害額(争点10)10
3争点に関する当事者の主張
()争点1(不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争の成否)について1
ア原告の主張
)原告が,被告に対し,技術上,営業上の秘密情報(以下「本件営業秘a
密」という)を開示するに至った経緯等は,以下のとおりである。。
①原告は,平成11年以降,コンビニエンスストアに設置された情報
((「」。)端末株式会社ファミリーマート以下ファミリーマートという
のファミポート,株式会社ローソン(以下「ローソン」という)の。
ロッピー等)を利用して,プリペイド式電話(携帯電話や国際電話)
のPINコード,電子マネー等を発行するカードレスプリペイドサー
(。「」。)。ビス甲3以下情報端末式サービスというを運営していた
従来のプリペイド式電話においては,スクラッチカード式のプリペ
イドカードを販売し,購入者がスクラッチを削ってそこに記載されて
いる所定の桁数の数字(PINコード)を入力することで料金分の通
話ができるという仕組みとなっていたものの,この仕組みでは,プリ
ペイドカードの発行・流通コストがかかるとともに,販売店が在庫リ
スクを抱えるという弱点があった。
情報端末式サービスは,購入者が情報端末を操作してPINコード
の記載された紙片を出力し,レジで料金を支払うという仕組みとする
ことで,プリペイドカードの発行・流通コストの代わりに少額の通信
,,コストだけで済み販売店が在庫リスクを負わないという利点があり
情報端末を設置しているコンビニエンスストアチェーンは順次同サー
ビスを導入していき,他に同種の営業を行っている事業者はいない状
況であった(甲4。)
しかし,情報端末式サービスには,情報端末を設置していない店で
は導入することができないという弱点があった。
そこで,原告は情報端末式サービスを発展させ,すべてのコンビニ
エンスストアで導入されているPOSシステムを利用した新たなカー
ドレスプリペイドサービス(以下「本件サービス」という)を開発。
し,平成13年11月27日付けで特許申請した(本件特許出願。)
これは,各コンビニエンスストアに各サービスに対応するバーコード
を記載したパンフレット(甲6)を備置し,購入者が希望のサービス
を選択すると店員が当該サービスに対応するバーコードをレジのPO
Sで読み取り,購入者が所定の料金を支払うとPINコードが記載さ
れたレシートが発行されるという仕組みとなっている(甲5。)
本件サービスは,平成15年12月にコンビニエンスストアチェー
ンの株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークス(以下「ホ
ットスパー」という)を皮切りに提供開始されている。。
②平成15年10月27日,沖縄で行われたホットスパーの展示会に
おいて,原告代表者Bは,被告従業員D(以下「D」という)から。
自己紹介され「すばらしいサービスなので本社に知らせてもいいで,
すか?」という話を受けた。その後,同年12月15日,Dが上司の
E(以下「E」という)らを連れて原告本社を訪れ,Eは「貴社に。
ついては,以前から知っており,どのようにしてアポイントを取るか
模索していました「是非貴社のバーコードシステムにテレパーク。」
として参加させてもらいたい」という申出を行った。。
原告としては,その後も何度か打ち合わせを重ね,被告が事業提携
に積極的であるので,平成16年2月16日,本件秘密保持契約を締
結し,原告は,被告に対し,本件営業秘密を順次開示した。
また,原告は,事業提携の正式契約は未締結であったものの,確実
に正式契約を締結するという相互の了解のもと,本件サービスの導入
を進めていたサークルKサンクス株式会社セイコーマート以下セ,(「
」。),(「」。),イコーマートという株式会社ポプラ以下ポプラという
株式会社デイリーヤマザキ(以下「デイリーヤマザキ」という,。)
ミニストップ株式会社(以下「ミニストップ」という)等の有望な。
見込み顧客との打ち合わせに被告従業員を同行して紹介した。これら
見込み顧客に関する情報も本件営業秘密を構成する。
③被告は,原告と業務提携して,本件サービスを提供することに非常
に積極的だったが,平成16年秋ころから急に消極的になって原告へ
の連絡も少なくなり,同年12月13日にEが原告本社を訪れ,検討
の結果「事業開始不可能」という結論に至ったので,業務提携の検討
を終了したいと申し出た。原告は,被告の態度の変わりようが不可解
ではあったものの,被告と提携しなくても本件サービス上何ら問題は
ないので,被告と本件覚書を交わし,本件秘密保持契約4条に基づい
て速やかに原告の提供した秘密情報の返却又は廃棄を行うこととし
た。
④ところが,被告は,平成17年に入り,単独で本件サービスと全く
同じサービス(以下「被告サービス」という)を開始して営業活動。
を行った。被告は,同年7月には,原告が本件サービスの提供開始を
検討している有望な見込み顧客として引き合わせたセイコーマートと
契約して被告サービスの提供を開始した。被告は,同様に,原告が本
件サービスの提供開始を検討している有望な見込み顧客として引き合
わせたサークルKサンクスからも,携帯電話のプリペイドサービスの
契約を獲得し,同年10月からサービス提供を開始している。
,,(「」また被告は平成16年9月30日に原告を退職したF以下F
という)を雇い入れている。Fは,原告の営業課長(その後営業部。
長代理に昇進)として,原告代表者Bをサポートしてシステム面を含
む営業活動を統括するとともに客先窓口となっており,本件サービス
に関する営業秘密をほぼすべて知る立場にあった。Fは別の会社の名
前を挙げ,そこに移るといって退職したにもかかわらず,実は被告に
雇い入れられていたもので,その時期は被告が急に事業提携に消極的
になった時期と符合している。Fが退職後に就職活動をしていて偶然
被告の求人に応募したなどということはおよそ信憑性がなく「引き,
抜き」であることは誰の目にも明らかであろう。また,本件の経緯か
らすれば,被告がFを引き抜いた目的が,本件サービスに関する原告
の営業秘密を獲得し,被告サービスに活用することにあったことも自
明というべきである。Fが原告を退職した後,原告代表者Bがサーク
ルKサンクス本社でEと一緒にいるFに出くわしており,Fが被告サ
ービスの立ち上げに従事していたことは間違いないものと思われる。
)本件営業秘密の内訳は,以下のとおりである。b
①技術情報
()本件サービスに用いられているサーバシステムの構成,処理能i
力等
()本件サービスの管理運営に用いるプログラム群の構成内容,仕ii
様等
()コンビニエンスストアチェーン毎のPOSの機種及び仕様の違iii
い,及びこれに対応する本件サービスのサーバシステムの仕様の
違い等
()PINのファイルフォーマットiv
②営業情報
()商品別販売手数料率・利益率i
()平成14年度,平成15年度,及び平成16年度(11月分まii
で)のコンビニエンスストアチェーン別,商品別の販売実績
()PINの発注単位及び仕入れ先,契約条件iii
()共同事業開始についての予想収支iv
()セイコーマートとの交渉状況,担当者,仕様,契約条件等v
()サークルKサンクスとの交渉状況,担当者,仕様,契約条件等vi
()各コンテンツ提供会社との契約内容,担当者,契約状況等vii
)本件営業秘密は,いずれも不正競争防止法上の営業秘密の要件を満たc
している。
すなわち,本件営業秘密は,いずれも,被告サービスの開始に当たっ
て,収支の見込みを立て,各コンビニエンスストアチェーンのPOSの
仕様に合わせてシステムを開発し,各コンテンツ会社と契約し,各コン
ビニエンスストアチェーンとの契約を獲得するという,特にサービスの
準備段階において必要又は有用な情報である。被告が原告に業務提携を
持ちかけて本件営業秘密の開示を受けたのも,真に原告との業務提携を
意図していたにせよ,被告サービスの開始を意図していたにせよ,被告
にとって有用な情報であるからにほかならない。
原告は,これらの情報を秘密として取り扱い,Fら本件営業秘密にア
クセスできる従業員からは,営業秘保持に関する誓約書(甲15)を徴
求して秘密保持に努めていた。本件営業秘密は,すべてこの誓約書の秘
密保持義務の対象となる「秘密情報」に該当する。また,原告において
は,カードレスプリペイドサービスに従事する従業員は新宿の本社に,
保険代理店事業に従事する従業員は池袋にそれぞれオフィスがあり,物
。,,,理的にも分離されているそして本件営業秘密はサーバーではなく
各従業員に割り当てられログインパスワードにより管理されたパソコン
端末(パソコン内のデータはネットワーク上で共有されていない)にお
いて管理されており,保険代理店事業に従事する従業員等,本件営業秘
密にアクセスする必要のない従業員からは,ネットワーク上もアクセス
が遮断されている。紙資料についても,施錠された書庫に保管されてい
て,担当者以外は開けることができない。さらに,原告は,システム会
社,コンビニエンスストア,PIN卸業者等の契約の相手方当事者との
間で,秘密保持条項を含む契約を締結し(甲51ないし甲53,契約)
の相手方当事者が本件営業秘密を漏洩・不正使用することのないよう手
段を講じている。
,。,,本件営業秘密はすべて非公知の情報であるこれに対して被告は
原告の契約の相手方当事者から本件営業秘密を知り得たから,本件営業
秘密は公知であると主張する。しかし「非公知」とは,秘密管理者の,
,,,他の競業者に対する優位性が失われていない場合を意味し公知公用
刊行物記載がある場合に特許要件を欠くとする特許法29条1項のいわ
ゆる新規性の要件よりも緩い要件であると解されている。したがって,
仮に原告の契約の相手方当事者から本件営業秘密を知り得たとしても,
現に知られて競争者に対する優位性が失われていなければ公知とはいえ
ないし,原告の契約の相手方当事者は原告に対して本件営業秘密の秘密
保持義務を負っており,これらの者から本件営業秘密の開示を受けるこ
とは不可能であったのであるから,被告の主張は理由がない。
)本件営業秘密のうち「本件サービスに用いられているサーバシステd,
ムの構成,処理能力等」については,被告に交付した資料に記載されて
いる(甲17ないし甲20,甲37。また,原告は,被告の要請に基)
づき,平成16年6月7日,原告のシステムが格納されている西新宿の
KDDIビルに,被告従業員のE,G(以下「G」という)及びEが。
同行した技術者である株式会社ワイヤーアクション代表取締役Hを案内
した。その際,KDDI株式会社(以下「KDDI」という)の子会。
社で,原告がシステム管理業務を委託している株式会社Kソリューショ
ン(現商号・株式会社KDDIネットワーク&ソリューションズ)従業
員Iから本件サービスに用いられているサーバシステムの構成,処理能
力等について実物を見ながら説明させ,被告側からの質問にも回答し,
その場で回答しきれなかった質問には後で電子メールにより回答してい
る(甲25。)
そもそも,甲37号証の接続工事仕様書のとおり,株式会社ココスト
ア(以下「ココストア」という)でのサービスに関し,被告は現にサ。
ーバを原告のシステムに接続しており,被告が原告からサーバシステム
の構成や処理能力について聞かされていないはずがない。
なお,甲17号証の文書については,原告が株式会社エム・エス・コ
ミュニケーションズ(以下「エム・エス・コミュニケーションズ」とい
う)に提供した営業秘密が含まれている同文書を過去の例として被告。
に提供したものである。また,甲18号証ないし甲20号証の各文書に
は,いずれも「(機密)との表示があるとおり,当該CONFIDENTIAL」
資料及び口頭での説明については,機密として取り扱うという合意のも
とプレゼンテーションされたものである。甲25号証の電子メールの内
容,及びこの回答メールの前提となるKDDIビルでのシステム見学と
説明が公開のものではなく,営業秘密の開示にあたることが明らかであ
ることからすると,甲25号証の電子メールでの補足説明についても営
業秘密に該当することは十分に認識可能である。
)本件営業秘密のうち「本件サービスの管理運営に用いるプログラムe,
群の構成内容,仕様等」については,原告は,平成16年7月22日に
原告本社で行われた会議の席上,被告に対し,カードレス運用管理ウェ
ブシステムの構成内容,仕様等について説明の上,実際にデモンストレ
ーションして見せ,在庫管理やPINのアップロード,照会方法に関す
る説明等を行った(甲32。また,Fは,同年8月19日には,被告)
に対し,電子メールで上記ウェブシステム用の支援プログラムの機能説
明を行っている(甲27。さらに,原告は,ココストアで共同事業を)
開始するに当たって原告の支援プログラムを被告の要望に従って改変す
るなども行っている(甲33。)
甲27号証の電子メールに記載された情報は,その内容からすれば,
被告が守秘義務を負っているからこそ開示された非公開の情報であり,
秘密として取り扱うべきことは,被告において十分に認識可能である。
また,甲33号証の議事録には「TP用支援ツール完成時期11月見
込みオプションごとの見積書がほしい」と記載されており,その後,
原告は,被告に対し,ココストアでのサービス提供のために支援プログ
ラムを提供しており,被告は,現在も原告が提供した支援プログラムを
使用している。
)本件営業秘密のうち「コンビニエンスストアチェーン毎のPOSのf,
機種及び仕様の違い,及びこれに対応する本件サービスのサーバシステ
ムの仕様の違い等」については,原告は,各コンビニエンスストアチェ
ーンが採用しているPOSの違いをまとめて被告に開示しているし(甲
36,平成16年11月16日の会議の席上,ココストア用のシステ)
ムの製作仕様書も交付している(甲37。)
。,被告は調査すれば得られる情報は営業秘密でないと主張するしかし
当該調査結果がそのまま世の中に公開されているのでない限り,現に他
人が秘密として管理している調査結果は営業秘密となる。甲36号証の
文書は,原告において各コンビニエンスストアチェーンが採用している
POSを調査して一つの調査結果としてまとめたものであり,ほかの営
業秘密と同様に秘密として管理しており,非公知で,有用な情報を記載
したものである。
,「」,g)本件営業秘密のうちPINのファイルフォーマットについては
(),上記ココストア用システム製作仕様書甲37に含まれる情報のほか
商品別のファイルフォーマットを開示している(甲29。)
被告は,ファイルフォーマットが各PINコード発行会社から入手可
能であり,同種業者であれば当然に知っている情報であると主張する。
しかし,PINのファイルフォーマットは,PINコードの販売事業を
開始するに当たって,原告が各PINコード発行会社と協議して策定し
たものであるから(それ以前はPINコードの販売事業そのものが存在
していなかった,被告がPINコードの納入業者としてではなく,原)
告の競業者としてこれを使用することは許されない。また,甲29号証
の電子メールにおける「他社様」であるコンビニエンスストアチェーン
にはPINコードのファイルフォーマットは開示していないし,PIN
コードを提供しているコンテンツプロバイダはPINコードを知ってい
,。るもののコンテンツプロバイダは原告に対して守秘義務を負っている
)本件営業秘密のうち「商品別販売手数料率・利益率」については,h,
原告は,被告に対し,平成16年11月5日の電子メールでこれを開示
しており(甲28,この電子メールは乙1号証の2の秘密情報返却確)
認書(以下「乙1号証の2確認書」という)にも記載されている。。
)本件営業秘密のうち「平成14年度,平成15年度及び平成16年i,
度(11月分まで)のコンビニエンスストアチェーン別,商品別の販売
実績(甲21,甲26)については,被告も開示を認めている。」
被告は,この情報について「返還済み」であると主張するものの,,
電子メールによって受領した情報を物理的に「返還」することはできな
いのであるから,ここでいう「返還」とは,その複製も含めて「今後一
切使用しない」ことを意味する。被告が本件サービスと全く同じ被告サ
ービスを開始するための事業計画を立てるに当たって上記情報を使用し
ていないはずがない。
)本件営業秘密のうち「PINの発注単位及び仕入れ先,契約条件」j,
については,原告は,被告に対し,平成16年12月21日の電子メー
ルでこれを開示している(甲30。)
)本件営業秘密のうち「共同事業開始についての予想収支」についてk,
は,原告は,被告に対し,被告から提出を受けたプリペイドカードの売
上実績を基に売上の予測を開示しているし,上記のとおり商品別販売手
数料率・利益率も開示している。また,原告は,被告に対し,システム
開発等にかかる費用についても見積もりを開示している(甲48。)
,「,,,l)本件営業秘密のうちセイコーマートとの交渉状況担当者仕様
契約条件等」については,原告は,被告に対し,被告との会議でかかる
情報を開示している(甲31。また,原告は,被告の担当者をセイコ)
ーマートとの会議に同席させており,被告の担当者をセイコーマートに
紹介するとともに,仕様,契約条件等に関する交渉状況もすべて開示し
ている。
)本件営業秘密のうち「サークルKサンクスとの交渉状況,担当者,m,
仕様,契約条件等」についても,上記)のセイコーマートと同様であl
る。なお,同席した被告の担当者は,原告のシステムを前提とした提案
書まで提出している(甲39。)
甲39号証の提案書自体は,原告が開示した本件営業秘密に基づいて
被告が作成したものであり,被告が原告との事業提携を行う前提でサー
クルKサンクスとの打ち合わせに出席を許されたものであることを如実
に示している。また,甲39号証の内容は,甲17号証ないし甲20号
証の焼き直しといってよく,被告が原告から甲17号証ないし甲20号
証を開示されたことも示している。
,「,,n)本件営業秘密のうち各コンテンツ提供会社との契約内容担当者
契約状況等」についても,すべて開示しており,本件文書の別紙①で引
用されている各コンテンツ提供会社との契約状況,商流については,す
。,,べて原告が被告に開示した情報である被告はココストアについては
現在も原告にPINコードを納入しているが,ココストアでサービスを
開始するに当たっては,原告は,どのような商材をどのようなルートで
仕入れるのかについて被告と打ち合わせを重ねている。
被告は,本件文書の別紙①に記載された原告と各コンテンツ会社との
契約状況について,原告から開示を受けたものではなく,被告従業員が
「さまざまな取引先」から得た営業情報を基礎に作成したものであると
主張する。しかし,Fの退職までの契約(交渉)状況については,Fが
知っており,しかも被告は本件営業秘密については営業秘密性はないと
いうのであるから,原告からFを引き抜いた被告において,Fに聞かず
に,敢えて手間をかけて「さまざまな取引先」に聞いて歩いたというの
は不合理極まりない主張である。また,各コンテンツプロバイダやウェ
ルネットは原告に対して守秘義務を負っており,これらから原告との契
約内容を聞き出すのも不正取得に該当する。
,,o)被告はセイコーマートやサークルKサンクスは取引先であったから
原告から紹介を受ける必要はないと主張する。しかし,セイコーマート
も,サークルKサンクスも,カードレスプリペイドサービスの導入を検
討していた部署と,プリペイドカードを含む仕入れを担当していた部署
は異なっており,被告の担当者を本件サービス導入の打ち合わせに同席
させた際には名刺交換から始めている。被告の担当者(Gともう1名)
は,セイコーマートの担当者J(以下「J」という)との打ち合わせ。
に同席させた際に「はじめまして」といって名刺交換を行っており,,
面識はなかった。また,サークルKサンクスの担当者Aは仕入れとシス
テム導入の担当を兼職していたため,被告の担当者と面識があったよう
であるが,被告担当者はAとカードレスプリペイドサービスの導入に関
する話をしたことはなかった。
)本件営業秘密を被告サービスのために使用することは不正な競業行為p
に該当し,本件秘密保持契約の有効期間中,期間後を問わず,不正競争
防止法2条1項7号に違反することになる。
カードレスプリペイドサービスはまさにシステムありきの商売である
にもかかわらず,被告がシステム開発を行わずにカードレスプリペイド
サービスを開始し得たのは,原告から開示された資料をもとに,原告の
使用しているものと基本的に同一のシステムを使用しているからにほか
ならない。すなわち,乙5号証の1のロ号システムは,本件特許出願に
係る発明の技術的範囲に属すると鑑定されているとおり,原告のシステ
ムと基本的に同一である。そして,平成17年4月20日ころに作成さ
れたという乙5号証の3でもロ号システムを記載していること,被告が
ロ号システムとは別個のシステムを開発したという事実も顕出されてい
ないこと,過去に同じサービスを行っている原告でさえ,新たにココス
トアでサービスを開始する際には甲37号証の仕様書を作成し,KDD
Iと打ち合わせをしながら何度も改訂してシステムを作り上げているこ
,,とからすれば初めてカードレスプリペイドサービスに参入する被告が
原告から開示された情報なしに,短期間で独自のシステムを完成させた
とは考えられず,最終的にロ号システムを使用して被告サービスを提供
していることは間違いない。
イ被告の反論
)原告主張の本件営業秘密は,その大半が抽象的主張に過ぎず,具体的a
特定を欠いている。また,不正競争防止法2条6項所定の要件を充足し
ておらず,同項の営業秘密に当たらない。
原告は,具体的に特定された情報と結びつく形で,当該情報の秘密管
。,,理性を主張していないその点をさておくとしても原告主張によれば
本件営業秘密は,各従業員のパソコン端末(ネットワーク接続されてい
る可能性は高い)で個別に管理されていたというのであるから,たとえ
当該端末がパスワード管理されており,本件営業秘密たる情報がネット
ワークにおいて共有設定されていなかったとしても,到底秘密管理性を
肯定することはできない。
)原告主張の本件営業秘密のうち「本件サービスに用いられているサb,
ーバシステムの構成,処理能力等」については,平成16年6月7日に
KDDIビルにおける見学を通じて口頭でその概要の説明を受けたのみ
であり,被告が原告からその詳細について開示を受けた事実はない。
また,甲17号証ないし甲20号証の各文書が原告から被告に開示さ
れた事実はない。なお,甲17号証の文書は,エム・エス・コミュニケ
ーションズが営業活動において客先であるセイコーマートに対して提出
した説明資料であることが明白であり,甲18号証ないし甲20号証の
,(,「」各文書はいずれもその記載例えば甲18号証4頁目NDA締結
)「」「」()などから機密保持契約ないしNDANon-DisclosureAgreement
の締結を前提とすることなく,営業目的でサービス概要を説明した資料
と推測されるから,これらが本件営業秘密を構成する性格のものとは考
えられない。
甲25号証の電子メールは,単にサーバの処理能力の程度を概算で示
したに過ぎず,秘密である旨の表示もないのであり,何ら原告の営業秘
密となるような情報ではない。
原告主張とは異なり,被告側サーバの原告側システムへの接続は一切
ない。本件売買基本契約においては,上記1()エのとおり,PINコ3
ードの納入はこれを記憶させた電子記憶媒体によって行われており,シ
ステムを接続する必要はない。また,甲37号証の接続工事仕様書は,
その内容から明らかなとおり,仮に原被告間における事業提携が実現し
て,原被告間においてシステム接続を行う場合に必要となる可能性のあ
る仕様書にすぎない。
)原告主張の本件営業秘密のうち「本件サービスの管理運営に用いるc,
プログラム群の構成内容,仕様等」については,被告は,原告からその
項目及び概要の開示を受けたのみである(甲27。その内容は,被告)
が自身のシステム開発に利用できるようなものではないし,開発者であ
れば,容易に定義可能な内容である。
原告主張の支援プログラムの提供や被告がこれを使用したとの事実は
ない。
)原告主張の本件営業秘密のうち「コンビニエンスストアチェーン毎d,
のPOSの機種及び仕様の違い等」については,被告が原告から開示を
受けた事実はない(甲36号証,甲37号証の各文書の開示は受けてい
ない。また,これら文書記載の情報は,各コンビニエンスストアチ。)
ェーンから聴取すれば,容易に入手可能な情報であり,単に各コンビニ
エンスストアチェーンの採用しているPOSのメーカーの違いが原告の
営業秘密を構成するとの主張自体理由がないことは明らかである。
)原告主張の本件営業秘密のうち「PINのファイルフォーマット」e,
については,各PINコード発行会社から入手可能であるし,PINの
納入(卸販売)を行うには必須の情報であって,被告も含め,同種事業
者であれば,当然に知っている情報である。甲29号証の電子メールの
「ファイルのフォーマットは,現在の他社様での運用時のフォーマット
のままですので,たぶん今回も一緒だと思いますが」との記載からすれ
ば,ファイルのフォーマットが業界内公知であることは明らかである。
また,甲29号証の電子メールが送付されたのは,平成16年12月
21日であり,同月13日に本件覚書により本件秘密保持契約の終了が
合意された後のことである。
)原告主張の本件営業秘密のうち「商品別販売手数料率・利益率」にf,
ついては,開示を受けた甲28号証の電子メールは,返還・破棄済みで
ある(乙1の2。)
)原告主張の本件営業秘密のうち「平成14年度,平成15年度,おg,
(),よび平成16年度11月分までのコンビニエンスストアチェーン別
商品別の販売実績」については,開示を受けた甲21号証,甲26号証
,()。,の電子メール記載の情報は返還・破棄済みである乙1の2なお
甲22号証の電子メール記載の情報は,更新版である甲26号証の電子
メールによって,差し替えられている。
)原告主張の本件営業秘密のうち「PINの発注単位及び仕入れ先,h,
契約条件」については,被告は原告から開示を受けていない。
甲30号証の電子メールは,原告の被告に対する単なるPINの発注
を示す電子メールである。また,甲30号証の電子メールが送付された
のは,平成16年12月21日であり,同月13日に本件覚書により本
件秘密保持契約の終了が合意された後のことである。
,「」i)原告主張の本件営業秘密のうち共同事業開始についての予想収支
については,被告は原告から開示を受けていない。
甲38号証の電子メールは,被告が原告に送付したものであり,この
電子メールで開示した「ココストア様カード出荷実績」を基に,原告が
作成し被告に開示したという「共同事業開始についての予想収支」自体
については,証拠が提出されていない。原告が開示したと主張する「シ
ステム開発等にかかる費用の見積もり」も,証拠が提出されていない。
,,甲48号証の電子メールは被告が原告との事業提携を検討するに際し
被告側のパーソナルコンピュータと原告側システムとの接続に必要な通
(),信インフラを提供する事業者第三者に対して支払うべき費用につき
インターネット上で取得可能な当該事業者による費用額の見積もり結果
を報告する電子メールにすぎず「システム開発等にかかる費用」につ,
いての見積もりではない。
)原告主張の本件営業秘密のうち「セイコーマートとの交渉状況,担j,
当者,仕様,契約条件等」については,被告は原告から開示を受けてい
ない。
甲31号証の議事録がかかる事実の開示を立証するものではないこと
は明らかである。
,「,k)原告主張の本件営業秘密のうちサークルKサンクスとの交渉状況
担当者,仕様,契約条件等」については,被告は原告から開示を受けて
いない。
甲39号証の提案書は,その最終頁の記載から明らかなように,被告
が原告を紹介するための資料である。また,甲39号証の提案書がデイ
リーヤマザキに対し提出された際,原告が被告を立ち会わせた事実はな
く,被告従業員Gがデイリーヤマザキの阿部壮一と約束を取り付けたも
のであるし(乙9,原告が被告に対し「サークルKサンクスとの交渉)
状況,担当者,仕様,契約条件等」について開示したとの証拠たり得な
い。
,,「,l)原告は本件営業秘密のうち各コンテンツ提供会社との契約内容
担当者,契約状況等」についても,すべて開示しており,本件文書の別
紙①で引用されている各コンテンツ提供会社との契約状況,商流につい
ては,すべて原告が被告に開示した情報であると主張する。しかし,本
件文書の別紙①記載の情報の情報源は原告ではない。すなわち「1.,
商材・商流について」記載の各情報は,いずれも市場流通情報であり,
被告従業員Gらが,日常の営業活動中においてさまざまな取引先から得
た営業情報を基礎に作成したものである。その作成の基礎となった情報
は,原告から得たものではなく,原告と取引のある各社からも入手可能
な情報であり,原告以外の市場流通関係者から得ることが可能な性質の
情報である。また「2.スキーム(システム面)について」記載の各,
情報も,Gらが,本件文書の提出を促したサークルKサンクスやJAS
DAQに上場する独立系企業であるウェルネットから聴取した情報を基
礎として検討の上作成したものである。
)被告が本件営業秘密を不正に使用したという点について,原告からm
具体的な主張はなく,原告が被告に対して開示した情報について不正使
用の事実はない。なお,被告が関係しているウェルネットのカードレス
プリペイドサービスは,同社の「ケータイ決済」に係る技術をベースと
して,同社が独自に開発したものであり(乙14,乙15,被告がカ)
ードレスプリペイドサービスに係る事業を展開するために,原告から取
得した情報を使用する必要はない。
)Fが,平成16年9月30日付けで原告を退職し,その後,同人の求n
,。職活動を経て同年11月1日付けで被告に就職したことは事実である
しかし,原告の主張は懐疑心による憶測にすぎない。Fが原告を退社す
る際に転職先として被告とは異なる会社の名前を挙げたという事実はな
い。
)被告は,プリペイド式携帯電話及び同種携帯電話のプリペイドカードo
卸販売について,業界トップシェアを確保している最大手であり,株式
会社セブン−イレブン・ジャパン(以下「セブンイレブン」という),。
やサークルKサンクスを含めた大手のコンビニエンスストアチェーンを
含む多数の継続的な取引先を抱えている。
コンビニエンスストアチェーンにおけるプリペイド商材担当者と被告
従業員とは,原告との業務提携検討開始以前より日常的な折衝を行って
いる。セイコーマートにおける担当者は,同社商品統括部商品部商品仕
入課課長のJであり,サークルKサンクスにおける担当者は,同社マー
(「」ケティング本部収納・決済部部長のA及び同部バイヤーのK以下K
という)であり,これらの担当者が,従前からプリペイドカードの仕。
入れを担当しており,かつ,カードレスプリペイドサービスの導入を検
討する際の窓口にもなっていた。カードレスプリペイドサービスは,プ
リペイドカードの在庫リスク等の問題点を解決するために導入されてき
,,ているものであってプリペイド商材担当者がこれをも担当することは
極めて自然なことである。
したがって,原告に取引先の新規紹介を受ける必要はない。
)そもそも,被告は,事業提携模索前はもとより,その後においてもカp
ードレスプリペイドサービスの提供自体を行っているのではなく,一貫
してそこで「商品」となっているPINコードを電話会社等のサービス
提供事業者から仕入れ,これをコンビニエンスストアチェーンに販売し
ているにすぎない。被告が原告に事業提携をもちかけた理由は,従前よ
り被告の行っていたプリペイド式携帯電話のプリペイドカードの販路を
利用して,原告との事業提携によりPINコードの販売を拡大できる可
能性があったからである。被告は,PINサーバないし管理サーバを設
置して,ウェルネットに接続しているにすぎず,ウェルネットがコンビ
ニエンスストアとの接続部分を運営している。被告が原告と競争関係に
あるのは,PINコードの卸販売という分野においてである。
()争点2(本件秘密保持契約違反の成否)について2
ア原告の主張
本件営業秘密の開示,使用等については,上記()アを援用するほか,1
以下のとおり主張する。
)被告は,原告から開示された本件営業秘密を被告サービスに転用してa
おり,かかる転用は,本件秘密保持契約にいう本秘密情報の要件を満た
しているものはもちろん,満たさないものについても,本件秘密保持契
約の趣旨からいって,本件秘密保持契約2条1項に違反する。
)本件営業秘密のうち,本件秘密保持契約にいう本秘密情報の形式要件b
を満たしているのは,甲18号証ないし甲22号証,甲26号証,甲2
8号証,甲37号証,甲38号証,甲40号証ないし甲47号証の各文
書である。
)本件秘密保持契約上,第2条に定める秘密保持義務は契約終了後3かc
月で終了する旨規定されているものの,本件覚書においては,本件秘密
保持契約4条を速やかに履行する旨合意している。本件秘密保持契約4
条では,開示側の要求により本秘密情報すべてを返却又は破棄すること
がうたわれており,被告が返却又は破棄を完全に履行した場合には,現
に本秘密情報を保有していないのであるから,契約終了後3か月を経過
しても使用することはできない。被告が本秘密情報を保有し使用できる
という事実は,被告が返却義務を履行していないことを意味する。本件
,,秘密保持契約上本秘密情報の返却を要求するかどうかは任意であるが
返却を要求した場合には本秘密情報は返却又は破棄され,将来にわたっ
て一切使用できないというべきである。本件では専ら原告から被告への
本秘密情報の開示が予定されていたのであり,常識的に考えても,原告
が被告に対し,本秘密情報を開示しておいて,3か月後には自由に使用
してもよいなどという合意をするはずがない。
)被告は,乙1号証の2確認書により,ここに記載されている以外に本d
件秘密保持契約にいう本秘密情報はないこと,及び,これらがすべて返
却又は破棄されたことを原告が確認したと主張する。しかし,そのよう
な事実はない。乙1号証の2の確認書は,被告従業員Eが原告本社を訪
れて業務提携の検討を終了したいと申し出た際に持参したもので,一緒
に持参した資料をリストアップしているものにすぎない。このようなも
のを見せられたところで,被告が本秘密情報の複製を保管していないか
どうかを原告として確認する術などないし,そもそも電子メールをCD
−Rに格納して原告に渡しても,当該CD−R自体が複製なのであるか
,。,,らこれは単なる儀式にすぎないまた本秘密情報の内容についても
例えば甲22号証の電子メールが本件秘密保持契約上の本秘密情報に属
することは争いないものと思われるものの,乙1号証の2確認書には甲
22号証の電子メールの記載がなく,乙1号証の2確認書が本秘密情報
を網羅していないことも明らかである。このように,乙1号証の2確認
書は当日Eが持参した書類の受領を確認するという以外に意味はない。
)被告が被告サービスへの参入を最初に意図したのかは不明であるものe
の,平成17年2月10日には原告代表者BがサークルKサンクスのA
から被告が被告サービスの売り込みを開始したことを聞いており,その
段階で既に営業を開始できる状態にあったことは間違いない。参入の検
討開始から事業計画を立て,社内稟議を通し,システムを開発し,各コ
ンテンツプロバイダと契約交渉を進め,コンビニエンスストアチェーン
に営業を開始するまでには,少なくとも半年程度は必要なので,被告が
被告サービスの立ち上げ作業を開始したのが,本件秘密保持契約終了後
3か月が経過する前であることはもちろん,本件覚書の締結よりも前で
あることは明らかである。
そうすると,仮に,本件秘密保持契約の締結時には被告サービス開始
の意図はなく,本件秘密保持契約が契約終了後3か月が経過すれば秘密
情報を自由に使用してもよい趣旨だったとしても,既に原告から開示を
受けている本秘密情報を被告サービスの立ち上げに利用したことは本件
秘密保持契約違反となる。
イ被告の反論
本件営業秘密の開示,使用等については,上記()イを援用するほか,1
以下のとおり主張する。
)本件秘密保持契約において秘密保持の対象となる本秘密情報を,被告a
が自身のサービスのために使用した事実はない。
)原告から被告に提供された本秘密情報については,被告が乙1号証のb
2確認書を提示し,原告がこれを確認して,合意の上具体的に特定した
(乙1の2。被告は,本件秘密情報のすべてを原告に返却するか,そ)
の破棄等を完了している(乙18。)
)本件秘密保持契約は,9か月間の事業提携の可能性の検討期間後であc
る平成16年11月16日,合意により終了した(甲9。本件秘密保)
,,持契約2条の秘密保持義務は契約終了後も3か月間は有効であったが
平成17年2月16日の経過により,この義務も終了した。
)本件秘密保持契約7条は,契約終了後も,4条で定められている本秘d
密情報の返却・破棄義務が履行されるまでの間は秘密保持義務を保つ必
要があり,かつ,その返却・破棄に要する期間は一般に3か月間あれば
必要十分であることから,例外的に2条の有効期間を契約終了後3か月
間存続させたものにすぎない。
()争点3(原被告間の黙示の合意に基づく守秘義務違反の成否)について3
ア原告の主張
本件営業秘密の開示,使用等については,上記()アを援用するほか,1
以下のとおり主張する。
,,本件営業秘密は本件秘密保持契約にいう本秘密情報よりも広いものの
,,本件秘密保持契約に付随して開示されたものであり原告と被告の間では
被告が,本件秘密保持契約上の本秘密情報に該当しない本件営業秘密につ
いても,同様の守秘義務に服するという黙示の合意が成立していた。
イ被告の反論
本件営業秘密の開示,使用等については,上記()イを援用するほか,1
以下のとおり主張する。
原告が主張する黙示の合意の成立は否認する。原告からこの合意を基礎
付けるに足りる事実の主張はない。
()争点4(本件売買基本契約違反の成否)について4
ア原告の主張
本件営業秘密の開示,使用等については,上記()アを援用するほか,1
以下のとおり主張する。
)被告が本件営業秘密を含む本件文書を配布した行為は,本件売買基本a
契約に基づく秘密保持義務に違反している。
)本件営業秘密に含まれる甲29号証,甲30号証記載の情報を開示しb
たのが本件覚書の締結後で,本件秘密保持契約による守秘義務が及ばな
いとしても,これらを使用することは,本件売買基本契約に基づく秘密
保持義務違反となる。
イ被告の反論
本件営業秘密の開示,使用等については,上記()アを援用するほか,1
以下のとおり主張する。
上記1()オのとおり,本件売買基本契約に基づく秘密保持義務は「こ3,
の契約及び個別契約の内容,これらの履行を通じて知り得た相手方の業務
上の機密,相手方より提供を受けた文書・資料等」に係るものであり,極
めて限定されたものである。本件秘密保持契約と本件売買基本契約とは独
立した別個の契約であり,本件覚書により本件秘密保持契約は終了してい
る。
()争点5(不正競争防止法2条1項4号所定の不正競争の成否)について5
ア原告の主張
,,被告は当初から原告と事業提携する意思などなかったにもかかわらず
架空の事業提携を持ちかけて原告から本件営業秘密を詐取したものであ
り,この被告の行為は,不正競争防止法2条1項4号に該当する。
イ被告の反論
否認する。
()争点6(情報の詐取としての不法行為の成否)について6
ア原告の主張
)上記()ア)のとおり,被告は,原告との業務提携交渉を打ち切るまa2e
でのいずれかの時点において単独で競合サービスへの参入を意図したこ
とは間違いない。しかし,被告は,原告に対して,競合サービス開始の
意図を有している旨は最後まで告げていない。
被告が原告に業務提携を持ちかけた時点において,既に競合サービス
開始の意図を有していた場合,原告がその旨を告げられていれば,被告
。,に対して一切の情報開示を行わなかったことは明らかであるしかるに
被告は,原告が被告に情報開示を行うかどうかを決定的に左右する重要
な事実を故意に隠し,競合サービス開始の意思を有していないかのよう
に装って情報の開示を受けたものであるから,原告から情報の開示を受
ける行為は情報の詐取として不法行為となる。
他方,被告が競合サービス開始を意図したのが,原告に業務提携を申
し入れて本件営業秘密の開示を受け始めた後であったとしても,かかる
意図を生じた後に開示された情報については上記と同様であるし,それ
までに開示された情報についても,本件秘密保持契約2条1項に基づい
て以後一切の利用が禁止されるというべきである。しかるに,被告は,
原告に対して競合サービス開始を検討していることを秘したまま,さら
に情報の開示を受け,それまで開示を受けた情報についても何ら返還等
の措置を講じることなく利用を継続したものであるから,被告のこの行
為は,商取引上の信義に反する不法行為となる。
)被告は,被告がプリペイドカードの卸しの大手であったから,カードb
レスプリペイドサービスでも契約を獲得することができると主張する。
しかし,カードレスプリペイドサービスにおいては,プリペイド携帯
電話のPINコードは,電子マネーやオンラインゲーム等と並んで数あ
る商材の一つにすぎず(甲6,売上金額も他の商材より少ない。)
また,これまでコンビニエンスストアチェーンにプリペイドカードを
納入していた業者(被告等)は,カードレスプリペイドサービス事業者
(原告)に対するPINコードの納入業者にすぎず,コンビニエンスス
トアチェーンがカードレスプリペイドサービスを導入するに当たり,特
にアドバンテージを有するものではない。
現に,原告はプリペイドカードを取り扱ったことはないが,原告の開
発したシステムを採用したことのあるコンビニエンスストアチェーン
,,,,は情報端末式サービスではファミリーマート株式会社スリーエフ
ローソン(契約終了後同システムを自主運用,ミニストップ及びサン)
クス(端末撤去につき契約終了,本件サービスでは,ココストア,株)
式会社エブリワン(以下「エブリワン」という,リック,ココスト。)
ア九州,サークルKサンクス(プリペイド携帯電話以外)と多岐に渡っ
ている。
これに対し,被告と契約しているのは,セイコーマートとサークルK
サンクス(プリペイド携帯電話のみ)だけであり,セブンイレブンとの
契約も獲得できていない。
被告は,セブンイレブンのほか,複数の大手コンビニエンスストアチ
ェーンを顧客に有していると強調するものの,プリペイドカードでは継
続的な取引があっても,カードレスプリペイドサービスにおいてはこれ
,,だけしか契約が取れないという実情から明らかなとおり原告としては
PINコードの納入業者という以外に被告に期待するところはなかっ
た。
被告従業員のEは,提携の申出をした際に,コンビニエンスストアチ
ェーンがこぞって原告のシステムを採用すると,これまでのプリペイド
カードの納入先を失うおそれがあるので,原告と組んでPINコードの
販売に転換したい旨明言していた。
)既に述べたとおり,原告と被告の業務提携交渉について,業務提携をc
持ちかけたのも,提携に積極的であったのも被告である。
)本件秘密保持契約の書類は被告が用意したものである。通常,秘密保d
持契約書を締結する場合には,最低でも開示後数年間の秘密保持義務を
負わせるところ,本件秘密保持契約の3か月というのは異常に短い。
原告は,本件秘密保持契約の締結当時,被告を信用していたため,特
に深く検討することなく被告が用意した契約書に署名捺印したものであ
る。しかし,その後の経緯と併せて考えれば,被告が3か月という異常
に短い秘密保持期間を定めたのも,秘密情報を詐取して被告サービスに
おいて利用することを狙ったものと理解される。
被告が被告サービスを開始して営業活動を行い,原告を誹謗中傷し始
めた時期も本件覚書の締結から3か月を経過した時期と符合している
(甲10。)
)「弊社は延べ3年間に渡り,多額のコストも費やし,…(中略)…審e
査の状況を観察して参りました」との本件文書の記載が真実であれば,
被告が原告に事業提携を申し出た動機は,同様のサービスへの参入を狙
って本件サービスのあら探しをし,架空の事業提携を持ちかけて原告か
ら本件営業秘密を詐取することにあったものと理解できる。
被告は,セブンイレブンをはじめとする複数の大手コンビニエンスス
トアチェーンを取引先に持つために営業力や人脈には自信があり,他方
で,本件特許出願は取得可能性が99.9%以上なく,しかも本件営業
秘密のようなノウハウは有用性がなく,本件営業秘密がなくてもサービ
スはできると主張するものの,そうであれば,被告において事業提携を
申し出る合理的な理由は見当たらない。
)被告は,原告や原告代表者Bによる信頼関係の破壊が原告と業務提携f
を見合わせた主たる原因であると主張する。
しかし,これはまったくの言いがかりである。
まず,原告がココストアと本件サービスの導入について交渉を開始し
たのは,被告が原告に提携話を持ちかける以前のことである。したがっ
て,原告代表者Bが「ココストアとの交渉は任せて欲しい」などと被告
の委任を取り付けるいわれも必要もまったくない。しかも,ココストア
への本件サービス導入に当たり,被告が確実に事業提携を進めるという
前提で,原告はPINコードの納入業者に被告を選定しており,これは
被告が裏切った現在でも同様であるから,プリペイドカードのシェアを
失うことなく,PINコードの販売に転換するという被告の目的は完全
に達成されている。なお,乙19号証において議論されているのは,利
益率に関するココストアとの交渉である。被告主張のとおり,当初原被
告間でココストアに対する利益率を見積もり,被告はこの数字に基づい
て社内決裁を行ったものの,ココストアに提案してみると,受け入れら
れなかった。そこで,原告側ではココストアに譲歩して利益率を引き下
げることを提案した。しかし,被告担当者は既に社内決裁が下りている
ため引き下げたくないとごね,あまつさえ,被告が見積もりどおりの利
益を得られるように,原告の利益を削って被告に配分するように主張し
た。原告としてもそれは受入不可能な話であったことから,被告が利益
率に不満で決裁が下りないというのであれば,ホットスパーの場合と同
様,被告にシステム改修費用を半分負担させるのをやめて原告が全額負
担し,被告が原告にPINコードを納入する方式(被告に初期投資が生
じない方式)でも構わないと提案して,被告の選択に委ねたのである。
このように,乙19号証から読みとれるのは,被告が傲慢な主張をして
原告が困惑していることであって,何ら原告が被告との約束を違えたと
いうことではない。
また,セイコーマートについても被告が事業提携を持ちかける以前か
ら本件サービスの導入について交渉を開始していた。そもそも,上記1
()アのとおり,本件秘密保持契約には,セイコーマート及びサークル1
Kサンクスへの本件サービスの導入は含まれていない。セイコーマート
が本件サービスを導入した後にPINコードの納入業者として被告を選
定することを検討し,そのために被告の担当者をセイコーマートとの打
ち合わせにも立ち会わせたものの,セイコーマートとの契約は被告が横
取りしたために成立しなかった。甲20号証の1及び2で述べられてい
るのは,サークルKサンクスの契約がまとまれば,北海道エリアにおい
てサークルKサンクスとライバル関係にあるセイコーマートについても
契約が獲得できるかもしれないということであり,いずれも被告をパー
トナーとすることを想定しての話であるから,両天秤にかけるどころか
一挙両得である。原告は何ら信頼関係を破壊するような行為は行ってい
ない。
イ被告の反論
)上記アは否認する。a
原告と被告とは,当初,相互の業務提携を前向きに検討していたので
あり,被告のみが業務提携に積極的であったわけではない。
)被告が原告との事業提携を検討したのは,被告が継続的に取引関係にb
あるホットスパーが原告の主導するバーコード方式のカードレスプリペ
イドサービスを導入し,続いて被告の継続的な取引先であるココストア
が同サービスを導入するとの情報があったからである。このことは,上
記1()アの本件秘密保持契約書の頭書の記載からも明らかである。1
既にホットスパーにカードレスプリペイドサービスを導入させること
に成功していた原告と事業提携をすることにメリットがあると当時は考
えたからこそ,被告は,原告との事業提携を考えたのである。
しかし,被告は,原告と従前の取引等がなかったから,原告がいかな
る会社であるかを承知していなかった。そのため,被告は,まず,原告
が被告と当該事業提携を行う適格性を有しているか否か等を見極めるた
めに,本件秘密保持契約を締結して,当該検討に必要な情報の提供を受
け,本事業に関する事業提携の可否を検討したのである。
)被告が原告との業務提携を見合わせたのは,原告や原告代表者Bによc
る信頼関係の破壊が主たる原因である。
すなわち,ココストアとの条件交渉において,原告代表者Bは「ココ
ストアとの交渉は任せて欲しい」旨を述べたので,被告は,この条件交
渉を原告側に任せた。しかし,その結果は,被告との合意事項には全く
沿わないものであったばかりか,結局は,原告より「原告単独で事業を
行う」旨の一方的な申し出がなされたことが,事業提携を無意味なもの
とした。すなわち,原告及び被告は,平成16年1月21日及び同年2
月1日の商談時に,ココストアに係る事業提携について,全事業に係る
費用収益を原被告双方で折半することを合意した。そして,ココストア
側のシステム改修に要する費用を原被告双方が一旦負担した上で,その
費用を将来得られる事業収益から回収していくこととし,ココストアに
対しては,この費用回収前と費用回収後で,異なる利益率を提示するこ
ととしていた(乙19の1。にもかかわらず,原告代表者Bは,被告)
に対し,同年11月1日,費用回収前・回収後の異なる利益率条件を一
方的に破棄し,被告が提供していた携帯電話関連の商品の利益率低減を
求めながら,原告が提供する商品の大半の利益率を向上させる内容の提
案を行うに至った(乙19の2。そして,この提案にEが異を唱える)
と(乙19の3,原告は,被告に対し,同月2日,ココストアに係る)
事業について,ホットスパーで展開していた方式同様,原告単独にて事
業展開を行う旨を一方的に告げてきた(乙19の4。)
また,原告は,突如,当時未登録であった本件先行特許出願及び本件
特許出願を持ち出し,それを名目に事業提携によって得られる利益の配
分を原告に有利になるように求めたり,各PINコード発行会社に対し
ても一時金等を設定しようとしたりするなどした。このように,原告代
表者Bの言動は,一貫性・合理性・正当性という観点からも極めて疑問
であって,原告との事業提携は,被告の業界内での信頼を損なうと判断
せざるを得なかった。
さらに,原告は,被告に無断で,セイコーマートに対し,同社と提携
関係にあるファミリーマートの子会社である株式会社ファミマ・ドット
・コムを通じてカードレスプリペイドサービスの営業活動を行ってい
た。そして,サークルKサンクスへのサービス導入とセイコーマートへ
のサービス導入とを天秤にかけ,被告に「揺さぶり」をかけようとした
上(乙20の1及び2,平成16年10月29日に,被告が抗議した)
ところ,原告代表者Bは「もうファミマ・ドット・コムに決まったんじ
ゃない。でもセイコーマートの自由でしょ。僕は知らないよ」と回答。
するなどしたため,もはや被告の原告に対する信頼は完全に失われた。
結局,原告代表者Bが,被告に対し,同年11月2日付けの電子メー
ルで,ココストアについて,原告単独で事業を行う旨を述べたため,原
告と事業提携を行うことはできなくなった。
)本件秘密保持契約における秘密保持義務が契約終了後3か月間というd
短期間とされているのは秘密情報の管理リスクの低減のためである乙,(
18。すなわち,事業提携検討のための開示情報を当該検討に用いる)
ほかに目的外使用する意思は一切持ち合わせておらず,かつ実際にも目
的外使用は一切行っていないものの(乙17,原告がいかなる情報を)
持っているか分からないので,秘密保持義務の存続期間を短期間の3か
月間とし,仮に原告との事業提携が奏功しなかった場合に無用な紛争が
生ずることを避けようとしたにすぎない。なお,原告も,被告による提
案に異議なく承諾して本件秘密保持契約を締結し,その終了についても
,。異議なく承諾したのであるから事後的に異議を述べるのは不当である
()争点7(継続的な契約関係の破棄としての不法行為の成否)について7
ア原告の主張
被告は,原告に対して,業務提携をもちかけ,約10か月にわたって必
要な情報の開示を受けておきながら「事業開始不可能」との結論に至っ,
たとして提携交渉を打ち切り,直後に本件サービスと競合するサービスを
開始するに至った。
原告と被告は,正式に業務提携契約を締結したわけではないので,提携
交渉を打ち切れば即違法ということにはならないとしても,本件では,被
告は既に本件サービスを完成させサービス提供を開始していた原告に業務
提携を申し入れ,ほぼ一方的に情報開示を受けていたのであるから「事,
業開始不可能」というのは本件サービス及び同様のサービスに参入しない
ことを意味するものであり,被告が単独で競合サービスに参入するから原
告と事業提携しないということは含まれないというべきである。
そうすると,被告は単独で競合サービスを開始する意図を有していなが
ら,原告に対してはこれを隠し,秘密保持契約を合意解除させて提携交渉
を打ち切ったものであるから,かかる打ち切りは継続的な契約関係の不当
な破棄として不法行為となるというべきである。
イ被告の反論
本件において,事業提携検討のため,本件秘密保持契約を締結し,当該
検討が終了したため,当該契約を合意により終了させたことが「継続的な
契約関係の不当な破棄」として違法になることはない。原告は,本件覚書
に記載された「事業開始不可能」との文言について独自の見解を述べるも
のの,上記1()アのとおり,当該文言の前に「甲乙間での本事業の事2,
業化について,すなわち「原被告間でのバーコード・タッチパネルによ」
るプリペイドカードのカードレス発券事業の事業化について」と明記・限
定されている事実を無視するものであり,理由がない。
()争点8(不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争の成否)について8
ア原告の主張
)被告は,競争関係にある原告について,サークルKサンクスやセイコa
ーマートの他,セブンイレブン等カードレスプリペイドサービス未導入
のコンビニエンスストアチェーンに対しても,別紙文書内容目録記載の
事実を告知して営業活動を行っている。
そして,別紙文書内容目録記載の事実は虚偽の事実である。
すなわち,本件特許出願については,進歩性をめぐって審査官と見解
の相違があり,拒絶査定を受けるに至ったものの,進歩性を理解しても
らえるように補正しながら特許登録を目指しているところである。そも
そも,進歩性の判断は審査官の主観によるところが大きく,少なくとも
本件文書が作成された時点において,特許権の取得が99.9%以上不
可能であったという事実はない。しかも,本件文書においては,特許事
務所による特許鑑定書において特許の取得が99.9%以上不可能であ
ると判断されているかのように記載されているものの,進歩性の判断に
ついて,弁理士が「特許の取得は99.9%以上不可能である」などと
いう鑑定意見を出すはずがない。
また,日本においてもその他の国においても,現実に特許が取得でき
るかどうかは審査結果が確定しないとわからないものである。原告は,
本件特許出願につき,国際出願までして,現に台湾では特許を取得して
おり(甲16の1及び2,日本においても特許登録を目指して多額の)
費用もかけているのであるから,被告が誹謗中傷するように,原告が,
特許性がなく特許取得が999%不可能であるにもかかわらず補,.,「
正・意見書提出が,審査中という実態を営業に活かすための時間引き延
ばし策である」などということは断じてない。
よって,上記営業活動は不正競争防止法2条1項14号に違反する。
)なお,本件文書においては,本件特許出願とともに,本件先行特許出b
願についても,原告が「99.9%以上と表現できるほどに不可能」か
つ「審査官の判断を待たずとも,特許性が無きものであることは誰の目
にも明白である」特許を申請し「審査中という実態を営業に活かすた,
めの時間引き延ばし策」として補正・意見書を提出しているとして,誹
謗中傷されている。しかし,上記1()のとおり,本件先行特許出願に6
ついては特許登録されており,被告が虚偽の事実を述べたことが立証さ
れている。
イ被告の反論
)原告と被告が競争関係にあること,被告が別紙文書内容目録記載の事a
実をサークルKサンクスに対して告知したことは認める。
しかし,本件文書は,サークルKサンクスが販売元の選定を検討する
にあたり,同社側からの依頼により,被告が鑑定書等の客観的資料に基
づき自己の見解を述べたものとして作成,提出したものであり,その他
の営業先にこのような書面を提出したことはない。
)原告の本件特許出願が,現状の請求項の記載のまま特許権の設定登録b
がなされる可能性は限りなく低いというべきである。
すなわち,本件特許出願は,進歩性を欠くことを理由に平成17年1
月11日発送で拒絶理由通知(乙2の2)がなされ,同年2月16日に
は刊行物等提出書及び刊行物が提出され,同年3月7日に手続補正書・
意見書が提出されており(乙2の1,同年12月6日発送で拒絶査定)
がなされた(乙8の1及び2。また,本件特許出願とほぼ同一の発明)
に関する特許出願である本件先行特許出願についても,平成16年3月
23日発送で1回目の拒絶理由通知(乙3の2)がなされ,同年5月2
1日に手続補正書・意見書が提出されたものの,同年7月12日に第三
者から刊行物等提出書及び刊行物が提出され,平成17年9月13日発
送で2回目の拒絶理由通知(乙3の3)がなされている。
,,,以上からすれば少なくとも我が国において本件特許出願について
現状の請求項の記載のまま特許権の設定登録がなされる可能性が限りな
く低いと考えることに何ら問題はない。
)本件文書は,原告がカードレスプリペイドサービスに係る特許申請をc
しているからといって,この特許申請の事実を理由に原告側に「便宜を
」。,図る必要性はないという被告の見解を示すことに主眼があるそして
本件先行特許出願の出願時における特許請求の範囲は,補正の結果極め
て限定されたものとなり被告及びウェルネットが採用するシステム乙,(
10号証の「ロ号システム)は,本件先行特許権を侵害するものでは」
ない(乙5の1及び2,乙10。すなわち,上記被告の見解の結論自)
体は,何ら変化していない。たしかに,本件文書には,特許請求の範囲
が補正により事後的に変更した場合の特許登録の可能性には何ら言及が
なく,鑑定書(乙5の1)の「本件発明1について,現状の請求項の記
載のまま特許権の設定登録がなされる可能性は相当に低いものと認めら
れる」との記載を根拠として本件文書を作成した営業担当従業員の表現
には若干の法的な不正確さがあるものの,それが直ちに虚偽との評価に
結びつくものではない。
()争点9(信用毀損としての不法行為の成否)について9
ア原告の主張
上記()アを援用するほか,以下のとおり主張する。8
)被告は,本件文書において,別紙文書内容目録記載の各内容を単なるa
自らの主観的な「見解」としてではなく,特許事務所の特許鑑定書等を
引き合いに出して,証拠に裏打ちされた客観的な「事実」として摘示し
ている。
「」,「.」その事実は原告が999%以上と表現できるほどに不可能
かつ「審査官の判断を待たずとも,特許性が無きものであることは誰の
目にも明白である」特許を申請し「審査中という実態を営業に活かす,
ための時間引き延ばし策」として補正・意見書を提出しているというも
のであるから,読者には原告が本件特許を申請中であると喧伝して本件
サービスについて不正ないしは誇大な表示を行って営業活動を行ってい
るかのような疑念を与え,原告の社会的経済的評価を低下させる。
そもそも,被告が本件文書を配布する目的自体が,原告の社会的経済
的評価を低下させることで相対的に自らの評価を高め,被告サービスの
受注を得ることにあるのであるから,被告自身このような記載が原告の
信用を毀損することを十分認識しており,そうでなければ敢えてこのよ
うな記載を行う必要がない。
サークルKサンクス担当者が原告に本件文書について問い合わせてき
たのも,原告の社会的経済的評価に疑念を持たざるを得ない「事実」で
あると認識して事実確認を行う必要があると考えたからであり,単なる
被告の「見解」で「事実」ではないと認識したのであれば,原告に事実
確認を行う必要はない。
,「」b)もちろん本件文書が一般の営業文書の範囲を超えるものではない
などとは到底言えない。
)被告は,真実性,公益性の主張立証をしていないし,できるはずもなc
い。
)被告は,本件文書はサークルKサンクスからの依頼に基づいて作成,d
提出したと主張する。しかし,この主張も虚偽である。本件文書の存在
は,被告からこれを受領したサークルKサンクスが困惑し,原告に事実
関係を確認してきたために発覚したものである。サークルKサンクスが
依頼したのであれば,本件文書に関して原告に事実関係を確認してくる
はずがない。
イ被告の反論
上記()イを援用するほか,以下のとおり主張する。8
)自由競争という観点からすれば,原告と競争関係にある被告が,取引a
先の求めに応じて,客観的な調査結果を基に自己の「見解」を述べたに
過ぎない本件文書を提出したことをもって違法であるとすることはでき
ない。本件文書の記載は虚偽ではないし,一般の営業文書の範囲を超え
るものではない。上記()イ)のとおり,被告及びウェルネットが採用8c
するシステムは,本件先行特許権を侵害するものではないから,本件文
書の主眼である原告の特許申請に基づく便宜を図る必要はないとの結論
は何ら変化していない。
)本件文書の提出による具体的な信用毀損の事実もない。提出先の要請b
に基づき,単に被告の主観的な見解を述べたにすぎない本件文書を,特
定の相手方に一回交付した行為は,原告の営業上の信用を毀損するほど
のものではない。
)本件文書をサークルKサンクスに提出した経緯は以下のとおりであc
る。
サークルKサンクスは,当時,電子マネー・国際電話に係るプリペイ
ドPINデータを購入する方針を被告に示していた。原告と被告とは,
このプリペイドPINデータをサークルKサンクスに販売する契約を締
結すべく,営業活動を行っていた。
サークルKサンクスは,当初,被告に対し,プリペイドPINデータ
について,すべて被告経由で納入を受ける旨を表明していた。しかし,
平成17年4月初旬ころになって,サークルKサンクスのマーケティン
グ本部収納・決済部バイヤーであるKが,被告に対し,口頭で,原告に
よる本件特許出願の存在を懸念事項の一つとして提示しつつ,一部のプ
リペイドPINデータについては原告から直接納入することを検討して
いる旨の伝達がなされた。
そして,サークルKサンクスは,被告に対し,当初の表明のようにプ
リペイドPINデータについてすべて被告経由で納入を受けるか,又は
一部のプリペイドPINデータについては原告から納入を受けるかを判
断するための資料として,同社の上記懸念事項及び原告と被告とが共に
サークルKサンクスへの直接の納入業者として併存することによるデメ
リット等について,書面により,被告の見解を,同社マーケティング本
部収納・決済部部長であるA宛に提出することを依頼した。
上記依頼に基づき,被告の営業担当従業員であるGは,鑑定書(乙5
の1及び2,拒絶理由通知(乙2の2,乙3の2)等の資料や,それ)
まで自らが営業活動の中で聴取した情報を総合して検討した上で,本件
文書を作成した。
原告が問題とする本件文書の1項(上記1()イ)は,原告が出願し4
ている本件特許出願及び本件先行特許出願について,被告が取得してい
た情報,本件特許出願は現状の請求項の記載のまま特許権の設定登録が
なされる可能性は限りなく低いとの弁理士の見解,及び,拒絶理由通知
書(乙2の2)の「商品の種類等を選択する際に選択シートを用いるも
のは例示するまでもなく周知技術である」との記載などをもとに検討の
上,被告の見解を述べたものである。
()争点10(損害額)について10
ア原告の主張
被告による本件営業秘密の不正使用,本件文書の配布による虚偽事実の
告知等の行為の結果,原告は,以下の損害を被った。
)逸失利益1億円a
被告がこれまでに契約したサークルKサンクス(携帯電話のみ)及び
セイコーマート(フルサービス)は,本件サービスの提供開始を検討し
ている有望な見込み顧客として原告が引き合わせたものであり,両社が
カードレスプリペイドサービスを導入することは確定的であった。
特にサークルKサンクスは,合併前のサンクスに対し原告が情報端末
式サービスを提供していた状況において,新たに本件サービスの導入を
検討していたものであるし,現に被告が提供する携帯電話以外(電子マ
ネーやオンラインゲームの利用料金の支払い等)については原告と契約
している。
他に同種サービスの提供者がいないことからも,本件侵害行為がなけ
れば,両社が原告と契約して本件サービスを導入していたことは確実で
あった。被告は,本件侵害行為により,これを「横取り」し,原告に損
害を与えたものである。
原告による端末式サービスと本件サービスは合計約1万店のコンビニ
エンスストアで導入されており,売上規模は1か月当たり約20億円か
ら25億円程度である。ここからの原告の利益(手数料収入)は1か月
当たり約3500万円(うち携帯電話分が約900万円)であり,1店
舗当たりの手数料収入は概ね3500円(うち携帯電話分が900円)
となる。
業界の慣行では1年契約(更新あり)であるため,本件侵害行為がな
ければ,原告は最低でも1年間は両社から手数料収入を得ることができ
た。
サークルKサンクスは6349店舗(平成17年8月末現在,セイ)
コーマートは986店舗(平成17年8月末現在)あるから,原告が得
られたはずの手数料収入は,1億998万1200円となる。本件訴訟
においては,一部請求として1億円の支払を求める。
(算式)
900(円)×6349(店舗)×12(月)
=6856万9200円
3500(円)×986(店舗)×12(月)
=4141万2000円
6856万9200円+4141万2000円
=1億998万1200円
)信用毀損による損害1000万円b
被告は,上記サークルKサンクスやセイコーマートのほか,セブンイ
レブン等カードレスプリペイドサービス未導入のコンビニエンスストア
チェーンに対しても別紙文書内容目録記載のような虚偽の事実を告知し
て営業活動を行い,原告の信用を毀損しており,これによる原告の損害
は1000万円を下らない。
)弁護士費用1000万円c
本件訴訟のために原告が支払う弁護士費用は1000万円を下らな
い。
イ被告の反論
否認又は不知。
第3当裁判所の判断
1争点1(不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争の成否)について
()該当箇所末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,上記第2の1で認1
定の事実のほか,以下の事実を認めることができる。
ア原告は,平成11年以降,コンビニエンスストアに設置された情報端末
(,),ファミリーマートのファミポートローソンのロッピー等を利用して
プリペイド式電話(携帯電話や国際電話)のPINコード,電子マネー等
を発行するカードレスプリペイドサービス(情報端末式サービス)を運営
していた。従来のプリペイド式電話においては,スクラッチカード式のプ
リペイドカードを販売し,購入者がスクラッチを削ってそこに記載されて
いる所定の桁数の数字(PINコード)を入力することで料金分の通話が
できるという仕組みとなっていたものの,この仕組みでは,プリペイドカ
ードの発行・流通コストがかかるとともに,販売店が在庫リスクを抱える
という弱点があった。情報端末式サービスは,購入者が情報端末を操作し
てPINコードの記載された紙片を出力し,レジで料金を支払うという仕
組みとすることで,プリペイドカードの発行・流通コストの代わりに少額
の通信コストだけで済み,販売店が在庫リスクを負わないという利点があ
り,情報端末を設置しているコンビニエンスストアチェーンは順次同サー
ビスを導入していった。
しかし,情報端末式サービスには,情報端末を設置していない店では導
入することができないという弱点があった。
そこで,原告は情報端末式サービスを発展させ,すべてのコンビニエン
スストアで導入されているPOSシステムを利用した新たなカードレスプ
リペイドサービス(本件サービス)を開発し,平成13年11月27日付
けで本件特許出願を行った。これは,各コンビニエンスストアに各サービ
スに対応するバーコードを記載したパンフレットを備え置きし,購入者が
希望のサービスを選択すると店員が当該サービスに対応するバーコードを
レジのPOSで読み取り,購入者が所定の料金を支払うとPINコードが
記載されたレシートが発行されるという仕組みとなっている。本件サービ
スは,平成15年12月以降,ホットスパー,ココストア,エブリワン,
リック,ココストア九州などのコンビニエンスストアチェーンで提供され
ている(原告代表者,甲54)。
イ被告は,平成15年から平成16年ころにかけて,プリペイド式携帯電
話及び同種携帯電話のプリペイドカード卸販売について,最大手ともいう
べき存在であり,セブンイレブンやサークルKサンクスなど大手のコンビ
ニエンスストアチェーンと継続的な取引があった(乙22)。
ウ平成15年10月27日,沖縄で行われたホットスパーの展示会におい
て,原告代表者Bは,被告従業員Dと名刺交換して,面識を持った。その
後,同年12月15日,Eらが原告本社を訪れ,原告及び被告は,本件サ
ービスにおける事業提携を検討することとなり,その後も何度か打ち合わ
せを重ねた末,平成16年2月16日ころ,本件秘密保持契約を締結する
に至った(原告代表者,甲14の1,甲54,乙22)。
エその後,原告及び被告は,サークルKサンクス,セイコーマート,ポプ
ラ,デイリーヤマザキ,ミニストップ等のコンビニエンスストアチェーン
に同行して,本件サービスの営業活動を行った(甲54)。
オ原告及び被告は,平成16年3月ころ,原告をシステム管理会社(特許
提出会社,被告(ただし,旧商号)を販売代理会社とするPOSレジを)
利用したカードレスプリペイドサービスのチラシ(甲5)を費用折半で作
成し,サークルKサンクス,ポプラ,デイリーヤマザキ,ミニストップ等
のコンビニエンスストアチェーンに配布した。
カ原告及び被告は,平成16年3月24日,被告従業員Gが面会の予約を
した上で,デイリーヤマザキを訪問し,同社に対し,原告及び被告(ただ
し,旧商号)の連名による「プリペイドPINデータ販売のご提案」と題
する提案書(甲39)を交付した(乙9。)
同提案書の2頁以降は,最下部に被告(ただし,旧商号)の名前のみが
,「」,「」,記載され被告を弊社原告をGIC社と呼ぶ体裁となっており
最終頁に「本システムの利点」として,以下の記載がある。
「1.GIC社システムは信頼が高く,ホットスパー社を皮切りに,各社
も導入を検討中。またMMK(他CVSへ技術提供)でも稼動中!
2.弊社(本商材販売№1)とGIC社(PINデータ販売№1)が手
を組み御社を最大限にバックアップが可能です」。
キFは,平成15年7月28日付けで原告へ入社し,カードレスプリペイ
ドサービス事業に深く関与し,被告との折衝などを行っていたものの,平
成16年9月30日付けで原告を退職した。
その後,Fは,同年11月1日付けで被告へ入社し,Eの部下として,
カードレスプリペイドサービス事業に関与し,サークルKサンクスとの同
サービスの打ち合わせに参加するなどした(証人E,同F,甲56,乙。
17)
ク被告は,平成16年10月ころ,サークルKサンクスから,既にウェル
ネットがサークルKサンクスに導入している「ケータイ決済」の仕組みを
使って,カードレスプリペイドサービスを行うことを検討している旨の情
報を得た。その後,同年11月ころ,被告は,サークルKサンクスから,
カードレスプリペイドサービスはウェルネットの「ケータイ決済」の仕組
みを使うこと,PINコードの仕入窓口は被告に一本化するとの連絡を受
,,。(,,け同年12月20日にはその詳細の連絡を受けた証人E乙22
甲10)
ケ原告及び被告は,平成16年11月16日,本件サービスにおける事業
提携につき,ミーティングを行ったが,その後,同年12月13日ころ本
件覚書を締結するまでの間,ミーティングを行わなかった(証人E,甲3
5。)
コ原告及び被告は,平成16年12月15日ころ「貴我間『秘密保持契,
』()」約書平成16年2月16日締結第2条第2項に基づく秘密情報一覧
と題する書面(乙1の2。以下「本件秘密情報一覧」という)に捺印し。
た(乙1の1。)
本件秘密情報一覧は,その右上部に被告の記名捺印があり「標題の通,
り,一覧を下記申し上げます」として,紙媒体3通と,電子メール媒体。
6通が特定して記載されており「また,標題契約第4条に基づき,下記,
一覧情報を返却申し上げますと共に,返却不能なる電子メール媒体で受領
,。」したる情報データに就きましては弊社にて責任をもって破棄致します
とされている。のみならず,その右下部に原告の記名捺印がなされ,原告
から被告に送付されたものである(乙1の1。)
サ石田国際特許事務所弁理士Lらは,被告に対し,平成17年1月17日
付け鑑定書を発行し,同鑑定書別紙目録記載のイ号システム及びロ号シス
テムが本件特許出願に係る発明の技術的範囲に属するか否かを鑑定した
(乙5の1。)
同鑑定書には,以下の記載がある。
)「特許請求の範囲の記載は,平成16年12月1日時点で調査可能な最a
新のものとし」
)「イ号システム及びロ号システムは,何れも複数主体が各部の運営を担b
当する形式で実施されるものである」
シ石田国際特許事務所弁理士Lらは,被告に対し,平成17年1月17日
付け鑑定書を発行し,同鑑定書別紙目録記載のイ号システム及びロ号シス
テムが本件先行特許出願に係る発明の技術的範囲に属するか否かを鑑定し
た(乙5の2。)
ス被告東海支社プリペイド営業室作成の平成17年4月20日付け「鑑定
書結果の要約」と題する書面(乙5の3)には「当社事業の要約」とし,
て,以下の記載がある。
「イ号サークルKサンクスにて導入検討中のケータイ決済方式を利用し
たPIN販売
ロ号その他CVSにて実施されると予想されるバーコード読込による
PIN販売」
,,,セ被告は平成17年4月18日サークルKサンクスのバイヤーKから
同社のカードレスプリペイドサービスの仕入窓口を被告に一本化するので
はなく,被告からは携帯電話の商材を仕入れることとし,原告からは携帯
電話以外の商材を仕入れることとする旨を告げられた(証人E,乙22,
甲10。)
ソ被告は,ウェルネットとともに,平成17年7月ころから,セイコーマ
ート及びサークルKサンクスに対し,カードレスプリペイドサービスを提
供している(以下「本件被告サービス」という。本件被告サービスに。)
おいて,被告は,サービスの商品となるPINコードをデータとして各サ
ービス提供事業者(当時のボーダフォン株式会社等)から仕入れ,このP
INコードをデータとして蓄積することを行い,ウェルネットが,販売先
からの要求及びPINコードの払出しを可能とする通信環境を構築し,蓄
積されたPINコードを販売先(サークルKサンクス等の直営及びフラン
チャイジー店舗)からの要求の都度即時に通信し払い出すこと,販売先に
おいて,末端顧客が購入を希望する商品を選択し,PINコードの要求を
可能とする環境を構築すること(実際の構築は販売先及び販売先が採用し
ているPOSレジメーカーが行う)を分担している(乙17,乙22)。。
タウェルネットは,平成15年7月から,サークルKサンクスにおいて料
金収納サービスを行っている。カードレスプリペイドサービスの導入に当
たり,この既存の料金収納サービスのためのシステムを活用することは,
サークルKサンクスの意向であり同社から原告及び被告に伝えられた原,(
告代表者,乙17。)
チなお,原告は,被告が本件文書をサークルKサンクスに交付したほか,
セイコーマートやセブンイレブン等に対しても被告が別紙文書内容目録記
載の事実を告知したと主張する。しかし,被告がかかる告知を行ったと認
めるに足りる証拠はない。
()以上認定の事実によれば,被告は,カードレスプリペイドサービス事業に2
関し,平成16年2月に原告と本件秘密保持契約を締結し,本件営業秘密の
少なくとも一部の開示を受けたものの,同年12月に原告と本件秘密保持契
約を終了させることで合意し,平成17年7月ころから,ウェルネットとと
もに,セイコーマート等に対してカードレスプリペイドサービスを提供する
に至ったことが認められる(上記()コ,ソ,第2の1(),(),()。ま1127)
た,被告は,平成16年11月1日付けで,原告においてカードレスプリペ
イドサービスに深く関与していたFが入社すると,Fをカードレスプリペイ
ドサービス事業に関与させ,サークルKサンクスとの打ち合わせに参加させ
るなどしていた(上記()キ。1)
しかし,本件において,原告は,被告において,原告の本件営業秘密のう
ちどの情報を本件被告サービスのどの部分に使用したのか,具体的に特定し
た主張も立証もしていない。また,本件営業秘密が本件被告サービスの構築
に有用であるとはいえるとしても,本件営業秘密を使用しなければ,本件被
告サービスを構築することが不可能であることを示す証拠は見当たらない。
かえって,コンビニエンスストアの店舗のPOSとサーバーとの接続は,
被告ではなく,ウェルネットにおいて行っていること(上記()ソ,ウェ1)
ルネットは,本件秘密保持契約の締結に先立つ平成15年7月から,サーク
ルKサンクスの店舗に設置されているPOSレジとウェルネットのサーバー
との間の双方向通信システムを共同開発し,ペーパーレス&リアルタイム現
金決済サービス「ケータイ決済」を提供しており,本件被告サービスはこの
双方向通信システムを基にしたシステムであること(上記()ク,タ,第21
の1())が認められ,本件被告サービスには固有の技術的基盤が存在した7
と考えられるから,被告ないしウェルネットが,本件営業秘密中,技術に関
する情報について,これを使用しなければシステム開発ができなかったとま
では認められない。また,本件営業秘密中,営業に関する情報についても,
例えば,コンビニエンスストアチェーンとの契約条件や,商材であるPIN
の仕入れ先との契約条件,商品別販売手数料率・利益率などの情報は,結局
のところは,契約の相手方当事者との相対交渉により定まる性質のものであ
るし,携帯電話のプリペイドカード卸販売の大手として,既にプリペイドサ
ービス事業に従事していた被告に相場感が全くなかったとも考えがたいから
(上記()イ,被告がこれらの情報を使用しなければ本件被告サービスを1)
構築できなかったとは認めがたい。原告の過去の販売実績や収支予測などの
情報についても,カードの有無の差はあれ,被告が既にプリペイドサービス
事業に従事していたことからすれば,被告がこれらの情報を使用しなければ
本件被告サービスの事業化を決断できなかったと認めることもできない。
そうすると,被告において,本件営業秘密を使用したことを認めるに足り
る証拠はないといわざるを得ず,その余の点を判断するまでもなく,被告に
ついて不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争があったものと認めるこ
とはできず,この主張に基づく原告の請求は理由がない。
2争点2(本件秘密保持契約違反の成否)について
上記1認定のとおり,被告において,本件営業秘密を使用したことを認める
に足りる証拠はないから,被告において,本件営業秘密に包含される本件秘密
保持契約上の本秘密情報を本件被告サービスのために目的外使用したことを認
めることはできない。
よって,その余の点を判断するまでもなく,被告が本件秘密保持契約に違反
したとの主張に基づく原告の請求は理由がない。
3争点3(原被告間の黙示の合意に基づく守秘義務違反の成否)について
原告は,本件営業秘密は本件秘密保持契約に付随して開示されたものである
から,原被告間には,本件秘密保持契約上の本秘密情報に該当しない本件営業
秘密についても,被告が本件秘密保持契約と同様の守秘義務に服するという黙
示の合意が成立していたと主張する。
しかし,本件においては,かかる黙示の合意の成立を認めるに足りる証拠は
ない。かえって,上記第2の1()ウのとおり,本件秘密保持契約が,秘密保1
持義務の対象となる情報について,秘密情報である旨が明示され,最終的に書
面化されたものに限定していることからすれば,このような限定から外れた情
報について,本件秘密保持契約上の秘密保持義務と同様の義務を発生させる黙
示の合意の成立を認めるのは困難というべきである。原被告間の黙示の合意に
よる守秘義務違反の主張に基づく原告の請求も理由がない。
4争点4(本件売買基本契約違反の成否)について
()上記第2の1()オのとおり,本件売買基本契約上の秘密保持義務の対象13
は,本件売買基本契約及びココストアにおけるカードレスプリペイドサービ
スに係る原被告間の個別具体的なPINの売買契約の内容,これらの履行を
通じて知り得た相手方の業務上の機密,相手方より提供を受けた文書・資料
等に限定されている。
,,,しかるに原告は本件文書に本件営業秘密が含まれると主張するのみで
本件文書のいかなる部分が上記のように限定された本件売買基本契約上の秘
,。,密保持義務の対象に当たるのか具体的に特定して主張していないそして
本件文書の内容のうち特定の部分が本件売買基本契約上の秘密保持義務の対
象となる情報を使用したものであることを示す証拠も見当たらない。
本件文書の配布が本件売買基本契約上の秘密保持義務に違反することを認
めるに足りる証拠はない。
()上記1認定のとおり,被告において,本件営業秘密を使用したことを認め2
るに足りる証拠はないから,被告において,甲29号証,甲30号証記載の
情報を使用したことを認めることはできない。
()よって,その余の点を判断するまでもなく,被告が本件売買基本契約に違3
反したことを認めることはできず,本件売買基本契約違反の主張に基づく原
告の請求は理由がない。
5争点5(不正競争防止法2条1項4号所定の不正競争の成否)について
上記1()オ,カのとおり,被告は,本件秘密保持契約の存続期間中に,カ1
ードレスプリペイドサービスの潜在的顧客であるコンビニエンスストアチェー
ンに対し,原告との共同事業をうたうチラシを配布し,原告のシステムの信頼
性をアピールしている。このような被告の行為は,原告の有する本件営業秘密
を不正に取得し,原告と提携することなく,同種サービスを行うことを意図し
た者の行動とみることは困難であるから,被告による本件秘密保持契約の締結
が,原告の有する本件営業秘密を不正に取得し,将来自らが行う同種サービス
にこれを使用することを目的としたものであると認めることはできない。した
がって,被告が架空の事業提携を持ち出し,原告から本件営業秘密を詐取した
との不正競争防止法2条1項4号に基づく原告の請求は理由がない。
6争点6(情報の詐取としての不法行為の成否)について
()被告による本件秘密保持契約の締結が,原告の有する本件営業秘密を不正1
に取得し,将来自らが行うカードレスプリペイドサービスにこれを使用する
ことを目的としたものであると認めることはできないことは,上記5認定の
とおりである。
,,,,()もっとも被告は平成16年11月ころにはサークルKサンクスから2
カードレスプリペイドサービスのPINコードの仕入窓口を被告に一本化す
るとの連絡を受けていたというのであるから(上記1()ク,被告が,同1)
年12月13日ころ本件覚書により本件秘密保持契約を終了させる以前か
ら,原告と事業提携することなく,サークルKサンクスのカードレスプリペ
イドサービスのPINコードの仕入窓口となるために,同社と情報交換を行
ったり,同社に営業活動を行っていたことが推認される。
しかし,被告が,サークルKサンクスから,既にウェルネットがサークル
Kサンクスに導入している「ケータイ決済」の仕組みを使って,カードレス
プリペイドサービスを行うことを検討している旨の情報を得たのは,平成1
6年10月ころであり(前記1()ク,原告と被告とが最終ミーティング1)
を行ったのは,平成16年11月16日であって(前記1()ケ,被告が1)
サークルKサンクスから,カードレスプリペイドサービスのPINコードの
仕入窓口を被告に一本化するとの連絡を受けたのも同じく11月ころであ
る。そして,被告が原告から本件営業秘密の開示を受けたのは,主に,本件
秘密保持契約を締結した平成16年2月から同年7月ころまでの間である
(なお,甲28号証の電子メール記載の情報は,平成16年11月5日に開
示されており,その例外である(乙1の2。したがって,被告が,原告。))
と事業提携することなく,サークルKサンクスのカードレスプリペイドサー
ビスのPINコードの仕入窓口となる目的で,同社に営業活動を行った後に
,,,,おいては甲28号証の電子メール記載の情報を除き原告が被告に対し
本件営業秘密を開示したことを認めるに足りる証拠はない。また,甲28号
証の電子メール記載の情報についても,そもそも上記の時期に本件秘密保持
契約の下に原告に開示されたのであるから,そのこと自体で原告に損害が生
じるものと考えるべきではなく,その秘密情報が被告によって使用されるこ
とによって,はじめて原告に損害が発生するものと考えるべきところ,被告
において本件営業秘密を使用したことを認めるに足りる証拠がないことは,
上記1認定のとおりである。
()よって,その余の点を判断するまでもなく,情報の詐取による不法行為の3
主張に基づく原告の請求は理由がない。
7争点7(継続的な契約関係の破棄としての不法行為の成否)について
本件秘密保持契約は「株式会社ココストアならびに九州コンビニエンスシ,
ステムズ株式会社におけるバーコード・タッチパネルによるプリペイドカード
のカードレス発券事業」に関する原被告間の「事業提携の可能性につき検討を
行うこと」を目的とするものであり,一定の検討期間が定められるとともに,
事業を開始する義務がないことが確認されている(上記第2の1()。他方,1)
本件秘密保持契約書には,事業提携を行わなかった場合の競業避止義務を定め
た条項はない(甲8。そうすると,被告に競業の意図があったとしても,被)
告が,本件秘密保持契約を原告と合意して終了させ,原告との事業提携交渉を
打ち切ったことが違法であるということはできないから,原告の継続的契約の
破棄としての不法行為の主張は採用することができず,これに基づく原告の請
求は理由がない。
8争点8(不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争の成否)について
()本件文書の送付先について1
被告が本件文書をサークルKサンクスの収納決済部部長のAに手交したこ
とは,前記第2の1()のとおりであり,また,被告がサークルKサンクス4
以外のセイコーマートその他のコンビニエンスストアチェーンに対し本件文
書を送付したり,手交したとの事実を認めるに足りる証拠がないことは,前
記1()チのとおりである。1
()本件文書の趣旨について2
本件文書は,本件先行特許出願及び本件特許出願について,拒絶理由通知
がなされ,意見書及び手続補正書が提出されたこと,第三者による刊行物提
出がされたこと,特許事務所の鑑定書があることなどを根拠として,被告の
営業部門が「審査官の判断を待たずとも,特許性が無きものであることが誰
の目にも明白「特許申請が取得は99.9%以上と表現出来るほどに不」,
可能「補正・意見書提出が,審査中という実態を営業に生かすための時」,
間引き延ばし策である」と述べたものである(前記第2の1()イ。これ4)
,,「.らはいずれも被告の営業部門が作成した営業用の文書であるため99
9%以上」とか「誰の目にも明白」とか「時間引き延ばし策である」と,,
か,誇張された表現が多いものの,営業用文書に誇張された表現が記載され
ることは世上まま見受けられることからすれば,本件文書の受け手であるサ
ークルKサンクスの担当者等は,その趣旨を,端的に,本件先行特許出願及
び本件特許出願について,特許性がなく,特許査定がされる見込みがない趣
。,,,旨を述べたものであると解するものと認められるなお本件文書は将来
本件先行特許出願及び本件特許出願のいずれについても特許査定されること
がない旨の将来の特許庁の行政処分についての予想を記載しただけでなく,
本件文書作成当時における,本件先行特許出願及び本件特許出願についての
特許性の有無ないし特許取得の可能性について述べたものであると解すべき
である。
()「虚偽の事実の告知」の要件について3
ア本件先行特許出願については,本件文書手交後の平成18年3月17日
に特許登録がなされていること(前記第2の1())からすれば,本件先6
行特許出願について,特許性がなく,特許登録される見込みがないとした
本件文書における上記記載は「虚偽の事実」の告知に該当するものと認,
められる。
イ本件特許出願については,本件文書手交後の平成17年11月29日こ
ろに拒絶査定がなされた(ただし,拒絶査定は未だ確定していない(前。)
記第2の1()。したがって,本件特許出願について,特許性がなく,5)
特許登録される見込みがないとした本件文書における上記記載について
は,現在のところ「虚偽の事実の告知」であるとの立証には至っていな,
い。
したがって,本件特許出願に関する本件文書の上記記載についての原告
の不正競争防止法2条1項14号に基づく請求は,その余の点について判
断するまでもなく,いずれも理由がない。
()「競争関係にある他人の営業上の信用を害する」との要件について4
本件文書の受け手は,サークルKサンクスであり(前記第2の1(),4)
同社は,同社がカードレスプリペイドサービスのPINコードを購入する相
手方(以下「PINコード購入先」という)をその種類毎に原告及び被告。
の2社に担わせるか,それとも被告に一本化するかをめぐって現に被告と折
衝を続けてきており,最終的にPINコード購入先を決定する立場にあるも
のである。また,サークルKサンクスは,被告に対し,当初,PINコード
購入先を被告に一本化する旨述べていたものの(前記1()ク,その後,1)
PINコード購入先をその種類毎に原告及び被告の2社に担わせる方針に変
更した旨を告げている(上記1()セ。1)
以上からすれば,原告と被告とは競争関係にあったことは明らかである。
そして,本件文書は,このような状況下で被告からサークルKサンクスに手
交されたものであるから,少なくとも本件先行特許出願について,競争関係
にある原告の営業上の信用を害し得る虚偽の事実の告知行為であったものと
認められる。
()本件文書の今後の頒布のおそれについて5
本件先行特許出願については,上記のとおり,既に特許登録がなされてい
るため,被告が,本件先行特許出願について,特許登録される見込みがない
との本件文書と同趣旨の記載をした文書を第三者に配布するおそれは認めら
れない。
したがって,本件先行特許出願に関する本件文書の頒布行為の差止請求は
理由がない。
()損害について6
本件文書の内容は,前記のとおり,本件先行特許出願の特許性がなく,特
許取得の見込みがないとの虚偽の事実を記載したものである。
しかし,本件文書は,PINコード購入先を,当初,被告に一本化する旨
述べていたものの(上記1()ク,その後,PINコード購入先をその種1)
類毎に原告及び被告の2社に担わせる方針に変更した旨を告げた上記1()(1
セ)サークルKサンクスにおいて,被告から巻き返しのための営業文書が交
付されることを十分予期し得た時期に,同社に対して1回限りで手交された
ものである。また,本件文書には「この度の御社ご方針を受け「この度,」,
御社よりお名前を戴きました『グレートインフォメーション株式会社様(以
下GIC社「御社ご方針につき,ご再考賜れますよう切にお願い申し)』」,
上げます「末筆ながら,本事業推進決定時の合意事項通り,弊社での商。」,
流一本化及び指定ベンダーとして選定戴くことこそが,御社様の最大利益で
あると確信致します」と記載されている(上記第2の1()ア,ウ。これ4)
らの事実によれば,本件文書を交付されたサークルKサンクスは,本件文書
が,PINコード購入先をその種類毎に原告及び被告の2社に担わせるとい
うサークルKサンクスの本件文書交付直前の方針を覆し,PINコード購入
先を被告に一本化するという当初の方針に再度変更させるべく,被告が巻き
返しを図った営業文書であると認識したものと考えられる。このように,本
件文書を全体としてみれば,上記のようなPINコード購入先の選定につい
て巻き返しを図るため,本件先行特許出願(及び本件特許出願)の客観的な
出願経過を前提として「同社(判決注・原告)に対して特許的理由による,
便宜を図る必要性は全く無」いという「見解(結論」を述べることを主眼)
としたものであって「審査官の判断を待たずとも,特許性が無きものであ,
ることが誰の目にも明白「特許申請が取得は99.9%以上と表現出来」,
るほどに不可能「補正・意見書提出が,審査中という実態を営業に生か」,
すための時間引き延ばし策である」などの記載は,上記のような結論を導く
前提として記載されたものであることが認められる。そして,営業文書,殊
に本件文書のような巻き返しを図る目的の営業文書においては,自社の相対
的な優位性をアピールするために,いささか誇張的な表現が使用されること
も世上まま見受けられるところであるから,本件文書が交付されるに至った
上記のような背景を知るサークルKサンクスにおいて,普通の注意と読み方
をすれば,本件先行特許出願(及び本件特許出願)に関する上記各記載をそ
のまま鵜呑みにすることは考えがたいことというべきである。現に,本件文
書の交付を受けたサークルKサンクスのAは「こんなのが出てるよ。これ,
で間違いないの」と言って,本件文書を原告代表者Bに示し「99.9%,
なんて,どこから出た数字なの」と,原告代表者Bとお互いに笑いあったと
いうのであるから(原告代表者,サークルKサンクスが上記各記載をその)
まま鵜呑みにしたとの事情は窺われないところである。
以上によれば,本件文書の前記記載は,本件先行特許出願については原告
の営業上の信用を害し得る虚偽の事実の告知に当たるものであるものの,被
告がサークルKサンクスに本件文書を手交した行為が,上記のような状況の
下で行われたこと,及び,サークルKサンクスのAの上記対応からして,原
告の営業上の利益を害し,原告に具体的な損害を与えたものと認めることは
できない(なお,このことは,本件文書の本件特許出願に関する記載を含め
ても同様である。。)
なお,原告は,被告が,カードレスプリペイドサービスについて,サーク
ルKサンクスと携帯電話のみ契約したこと,及び,セイコーマートとフルサ
,,,ービスの契約をしたことをとらえ原告に逸失利益が生じた旨主張しまた
上記2社とセブンイレブンその他に本件文書を送付したことにより原告の信
用が毀損された旨主張する。しかし,被告がサークルKサンクス以外のコン
ビニエンスストアチェーンに本件文書を送付したことを認めるに足りる証拠
がないことは前記のとおりであり,また,サークルKサンクスとの関係で損
害が生じていないことも,上記のとおりであるから,原告の主張はいずれも
理由がない。
9争点9(信用毀損としての不法行為の成否)について
本件文書がサークルKサンクスのPINコード購入先を被告1社から原告と
被告の2社にするとの方針変更を受けてその巻き返しを図るために提出された
営業文書であり,本件文書を交付された背景を知るサークルKサンクスにとっ
ても,普通の注意と読み方をすれば,本件先行特許出願及び本件特許出願に関
する上記記載をそのまま鵜呑みにすることは考えにくく,現に,サークルKサ
ンクスのAは本件文書の記載内容を真剣に取り合わなかったこと,及び,本件
文書がサークルKサンクスという特定の第三者のみに交付されたものであり,
その交付の方法も手交による1回限りのものであることは前記8認定のとおり
である。以上によれば,被告によるサークルKサンクスに対する本件文書の交
付によって,原告の社会的評価を低下させたとの損害が生じたことを認めるこ
ともできない。
10結論
よって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いず
れも理由がないから,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官設樂隆一
裁判官関根澄子
裁判官古庄研
(別紙)
文書内容目録
1.本件特許は,審査官の判断を待たずとも,特許性が無きものであることは誰
の目にも明白である
2.原告の特許取得は99.9%以上と表現できる程に不可能である
3.原告が補正・意見書を提出しているのは,審査中という実態を営業に活かす
ための時間引き延ばし策である

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採用情報


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ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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