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裁判例


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主文
1本件各控訴をいずれも棄却する。
,,2差戻前控訴審上告審及び差戻後の当審において生じた訴訟費用は
次のとおりの負担とする。
()控訴人Aと被控訴人武蔵府中税務署長との間に生じた費用は,1
これを7分し,その4を同控訴人の,その余を同被控訴人の負担と
する。
()控訴人Bと被控訴人渋谷税務署長との間に生じた費用は,これ2
,,。を7分しその6を同控訴人のその余を同被控訴人の負担とする
()控訴人C株式会社と被控訴人新宿税務署長との間に生じた費用3
は,これを7分し,その2を同控訴人の,その余を同被控訴人の負
担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2控訴人Aの被控訴人武蔵府中税務署長に対する請求
()主位的請求1
被控訴人武蔵府中税務署長が控訴人Aに対して平成3年3月12日付けでし
た同控訴人の昭和62年分の所得税に係る更正処分(ただし,平成17年12
月16日付け更正処分によって一部取り消された後のもの)のうち,納付すべ
き税額1001万2900円を超える部分を取り消す。
()予備的請求2
被控訴人武蔵府中税務署長が控訴人Aに対して平成3年3月12日付けでし
た同控訴人の昭和62年分の所得税に係る更正処分(ただし,平成17年12
月16日付け更正処分によって一部取り消された後のもの)のうち,還付金に
相当する金額7283万8237円を超える部分を取り消す。
3控訴人Bの被控訴人渋谷税務署長(被控訴人武蔵府中税務署長の権限事務の承
継者)に対する請求
被控訴人武蔵府中税務署長が控訴人Bに対して平成3年3月12日付けでした
同控訴人の昭和62年分の所得税に係る更正処分(ただし,平成7年7月4日付
け裁決及び平成17年12月16日付け更正処分によって一部取り消された後の
もの)のうち,納付すべき税額4億2595万0600円を超える部分を取り消
す。
4控訴人株式会社C(以下「控訴会社」という)の被控訴人新宿税務署長に対す。
る請求
被控訴人新宿税務署長が控訴会社に対して平成3年3月18日付けでした昭和
62年3月分の支払給与に係る源泉徴収所得税の納税の告知(ただし,平成7年
7月4日付け裁決及び平成17年12月16日付け納税の告知により一部取り消
された後のもの)を取り消す。
第2事案の概要
1紛争の経緯の概要
()昭和62年当時,控訴人Aは,控訴会社(当時の商号はD株式会社)及びそ1
(。「」の関連会社である株式会社E昭和62年当時の商号は株式会社F以下F
という)の代表者であり,控訴人Bは,控訴会社の役員であり,かつ,その関。
連会社である株式会社G(以下「G」という)の代表者であった。。
()被控訴人らは,①控訴会社が,昭和62年3月11日,控訴会社の株式32
00万株を発行価額500円で発行し(以下,上記発行に係る株式を「本件新
株」という,控訴人Aがこのうち200万株を,同Bが84万株をそれぞれ。)
引き受けたこと,②控訴人Aが,同年5月12日,Gに対して上記のとおり
引き受けた本件新株200万株を譲渡したこと(以下,上記譲渡に係る株式を
「A譲渡株」という,③控訴人Aが,同年3月30日及び31日,控訴会。)
社からFの株式(以下「F株」という)113万株を譲り受けたことをとらえ。
て,①につき,本件新株の時価と発行価額との差額が控訴人A及び同Bの一時
所得に当たる,②につき,控訴人Aに譲渡所得が生じている,③につき,控訴
会社から控訴人Aに対するF株の譲渡は低額譲渡に当たり,その時価と譲渡価
額との差額が控訴人Aに対する賞与に相当するとして,控訴人A及び同Bの昭
和62年分の所得税に係る更正及び控訴会社の昭和62年3月分の源泉徴収所
得税に係る納税の告知をした(以下,上記各処分を「A更正「B更正」及び」,
「本件納税告知」といい,併せて「本件各処分」という。。)
()控訴人らは,本件各処分について,異議申立て及び審査請求を行った結果,3
①A更正については,これに対する異議申立て及び審査請求がいずれも棄却
されたが,②B更正については,平成7年7月4日付け裁決により一部が取
り消され(なお,同裁決においては,控訴人Bが,同年3月26日,H株式会
社以下Hというに対して本件新株18万7000株を譲渡したこと以(「」。)(
下,上記譲渡に係る株式を「B譲渡株」という)につき,譲渡所得の発生が認。
定された,③本件納税告知についても,平成7年7月4日付け裁決により。)
一部が取り消された。
()控訴人Aは,主位的にA更正の取消しを,予備的に同処分のうち還付金に相4
当する金額7283万8237円を超える部分の取消しを求め,控訴人BはB
更正の,控訴会社は本件納税告知の(ただし,いずれも前記()の各裁決によっ3
て一部取り消された後のもの)の各取消しを求める本件訴訟を提起した。
()原判決は,控訴人Aの主位的請求及びその余の控訴人らの請求をいずれも棄5
却し,控訴人Aの予備的請求に係る訴えを却下したので,控訴人らが控訴をし
た。
()差戻前控訴審判決は,控訴人らの各控訴をいずれも棄却したので,控訴人ら6
が,差戻前控訴審が,①文書提出命令申立てを却下し,却下決定に対する抗
告許可の申立てを却下したこと,②控訴人Aによる本件新株の引受けが,G
のための事務管理に当たることを否定したこと,③控訴会社株及びF株の時
価を純資産価額方式によって算定するに当たって,法人税額等相当額を控除し
なかったこと,④控訴人Aの本件新株の引受けの意図に関する事実認定が経
験則に違背すること,⑤控訴人Aの予備的請求に係る訴えを却下したことな
どには,重要な事項に関する法令の解釈に誤りがあるとして上告受理の申立て
をした。
()最高裁判所は,上記上告受理の申立ての理由のうち,①,②,④及び⑤につ7
いては,これを排除する決定をしたが,控訴人Aの昭和62年分の給与所得,
一時所得及び譲渡所得,同Bの同年分の一時所得及び譲渡所得を算定するに前
(),提となる課税時期における控訴会社株及びF株の価額時価の評価について
類似業種比準方式による評価と1株当たりの純資産価額による評価との選択が
認められるべきであり,これらの評価方法により算定される価額の低い方をも
って評価すべきであるとする差戻前控訴審判決の判断は是認しつつ,上記の1
株当たりの純資産価額の算定に当たっては,課税時期における各資産を国税庁
長官の発出した昭和39年4月25日付け直資56,直審(資)17「相続税
財産評価に関する基本通達(平成6年課評2−8,課資2−113による改正」
前のもの。以下「評価通達」という)に定めるところによって評価した価額の。
合計額から課税時期における同社の負債の金額の合計額及び同通達186−2
により計算した評価額に対する法人税額等に相当する金額(以下,この金額を
「法人税額等相当額」という)を控除した金額を課税時期における発行済株式。
数で除して算定すべきであり(以下,上記算定方式によって算定される株式の
価額を「純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの」という,1株当,)。)
たりの純資産評価額の算定に当たって,法人税額等相当額を控除しなかった差
戻前控訴審判決の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があ
るとして,同判決を破棄し,控訴会社株及びF株について,課税時期における
1株当たりの純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)と類似業種比準
価額の低い方をもって評価し,これに基づいて控訴人らの納付すべき税額を算
定させるために,本件を当審に差し戻した(以下,上記判決を「本件上告審判
決」という。。)
()本件上告審判決を受けて,被控訴人らは,平成17年12月16日付けをも8
って,改めて,控訴人らに対し,再更正及び訂正の告知を行い,控訴人らが納
付すべき税額を減額した(以下,上記再更正後のA更正を「A再更正,上記再」
更正後のB更正をB再更正といい上記訂正の告知後の本件納税告知を本「」,「
件訂正告知」といい,これらを併せて「本件各再更正等」という。。)
()当審の口頭弁論終結時における審理の対象は,本件各再更正等の適法性であ9
る。
2争いのない事実
,「」「」以下のとおり訂正するほかは原判決事実及び理由欄第二事案の概要
の「一前提となる事実(当事者間に争いのない事実である」記載のとおりで。)
あるから,これを引用する。ただし,原判決中「E」とあるのは,すべて「F」,
と改める(以下の原判決の引用においても同じ。。)
同判決13頁5行目から18頁3行目までを次のとおり改める。
「()A再更正に至る経緯1
控訴人Aは,別表1の1「確定申告」欄記載のとおり昭和62年分の所
得税の確定申告をしたが(その内訳は別表1の2「確定申告」欄記載のと
おり,被控訴人武蔵府中税務署長は,別表1の1,1の2「更正処分」欄)
記載のとおりA更正を行い,同処分については,同表記載の経過の下に,
平成17年12月16日,同表「再更正処分」欄記載のとおり,その一部
が取り消された。
()B再更正に至る経緯2
控訴人Bは,別表2の1「確定申告」欄記載のとおり昭和62年分の所
得税の確定申告をしたが(その内訳は別表2の2「確定申告」欄記載のと
おり,被控訴人武蔵府中税務署長の権限及び事務を承継した同渋谷税務署)
長は,別表2の1,2の2「更正処分」欄記載のとおりB更正を行い,同
処分については,同表記載の経過の下で,平成7年7月4日付け裁決及び
平成17年12月16日付け再更正により,同表「裁決」欄及び「再更正
処分」欄記載のとおり,その一部が取り消された。
()本件訂正告知に至る経緯3
被控訴人新宿税務署長は,別表3「告知処分欄」記載のとおり本件納税
告知を行い,同処分については,同表記載の経過の下で,平成7年7月4
日付け裁決及び平成17年12月16日付け訂正の告知により,同表「裁
決」欄及び「訂正告知処分」欄記載のとおり,その一部が取り消された」。
3本件各再更正等の適法性に関する被控訴人らの主張
(本項記載の事実のうち,その金額等について当事者間に争いがない事実につ
いては,かっこ内に「争いがない」と記載した)。。
控訴人A及び同Bの昭和62年分の所得金額及び納付すべき税額並びに控訴会
社が昭和62年3月に控訴人Aに支給した賞与の額とこれに係る源泉所得税額は
以下のとおりであり,本件各再更正等は,いずれも適法である。
()A再更正の根拠(別表1の2「再更正処分」欄参照)1
ア総所得金額65億8646万3304円
上記金額は,次の(ア)ないし(キ)の金額の合計金額である。
(ア)不動産所得の金額(争いがない)△1725万1425円。
(△は損失を示す)。
(イ)配当所得の金額(争いがない)3554万0404円。
(ウ)給与所得の金額16億5134万3250円
上記金額は,次のaの金額から,bの給与所得控除額を控除した後の金
額である。
a給与等の収入金額17億3993万5000円
上記金額は,次の⒜と⒝の金額の合計金額である。
⒜確定申告における給与等の収入金額(争いがない)。
8561万5000円
⒝控訴会社から支給された賞与に相当する金額
16億5432万円
上記金額は,控訴人Aが控訴会社から昭和62年3月30日及び同
月31日に譲り受けたF株に係る1株当たりの経済的利益の金額に譲
受株数を乗じた金額であり,控訴会社から支給された賞与に相当する
金額として,控訴人Aの昭和62年分所得税の計算において給与所得
の収入金額に加算される金額である。
Ⅰ1株当たりの経済的利益の金額1464円
上記金額は,昭和62年3月中に,控訴人Aが,控訴会社から譲
り受けたF株の1株当たりの純資産価額(法人税額等相当額を控除
したもの)2664円(別紙1参照)から譲受価額1200円を差
し引いた金額である(別表1の3「純資産価額方式」欄参照。)
Ⅱ譲受株数(争いがない)。
昭和62年3月30日の譲受株数90万株
昭和62年3月31日の譲受株数23万株
b給与所得控除額8859万1750円
上記金額は,所得税法28条3項5号(ただし,昭和62年法律第9
6号による改正後で,平成元年法律第68号による改正前のもの)に規
定する給与所得控除額である。
(エ)雑所得の金額(争いがない)2万円。
(オ)一時所得の金額34億5277万5800円
上記金額は,控訴人Aが控訴会社から引き受けた控訴会社株200万株
,,のうち一時所得の対象となる173万0840株に係る所得金額であり
次のaの総収入金額から,bの特別控除額を控除した後の金額に,所得税
法22条2項2号の規定に従い2分の1を乗じた金額である。
a一時所得の総収入金額69億0605万1600円
上記金額は,次の控訴会社株の1株当たりの⒜の価額から⒝の価額を
差し引いた⒞の金額に⒟の株数を乗じた金額である(別表1の4「純資
産価額方式」欄参照。)
⒜控訴会社株の1株当たりの価額4490円
上記価額は,純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)によ
り評価した昭和62年3月時における控訴会社株1株当たりの価額で
ある(別紙2の1。)
⒝控訴会社株の1株当たりの引受価額500円
上記価額は,控訴人Aが引き受けた控訴会社株の1株当たりの引受
価額である。
⒞控訴会社株の1株当たりの収入金額3990円
上記金額は,上記⒜の価額から⒝の引受価額を差し引いた経済的利
益の額である。
⒟一時所得の対象となる控訴会社株の引受株数
173万0840株
上記株数は,控訴人Aが引き受けた控訴会社株200万株のうち,
株主等として新株引受権が与えられたもの以外の引受株数である。
b特別控除額50万円
上記金額は,所得税法34条3項に規定する特別控除額である。
(カ)短期譲渡所得の額14億3407万0550円
上記金額は,控訴人AがGに譲渡した控訴会社株200万株のうち,取
得の日以後5年以内の短期譲渡所得の対象となる191万9800株に係
る所得金額であり,次のaの総収入金額から,bの取得費及びcの譲渡費
用を控除し,さらに,dの特別控除額を控除した後の金額である。
a短期譲渡所得の総収入金額87億7348万6000円
上記金額は,次の控訴会社株の1株当たりの⒜の価額に⒝の譲渡株数
を乗じた金額である(別表1の5の短期譲渡所得の「純資産価額方式」
欄参照。)
⒜控訴会社株の1株当たりの譲渡価額4570円
上記金額は,純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)によ
り評価した昭和62年5月時における控訴会社株1株当たりの価額4
574円(別紙2の2)から配当期待権の金額4円を控除した後の価
額である。
⒝短期譲渡所得の対象となる控訴会社株の譲渡株数
191万9800株
,,上記株数は控訴人AがGに譲渡した控訴会社株200万株のうち
取得の日から5年以内の譲渡株数である。
b取得費の額73億3363万6000円
上記金額は,上記a⒝の控訴会社株に係る取得価額である。当該金
額の根拠は,別表1の6〔取得費〕欄のとおりである。
c譲渡費用の額527万9450円
,。上記金額は上記a⒝の控訴会社株に係る有価証券取引税の額である
当該金額の根拠は,別表1の6〔譲渡費用〕欄のとおりである。
d特別控除額50万円
上記控除額は,所得税法33条4項に規定する控除額である。
(キ)長期譲渡所得の額2996万4725円
上記金額は,控訴人AがGに譲渡した控訴会社株200万株のうち,取
得の日以後5年を超える長期譲渡所得の対象となる8万0200株に係る
所得金額であり,次のaの総収入金額から,bの取得費及びcの譲渡費用
を控除した金額に,所得税法22条2項2号の規定に従い2分の1を乗じ
た金額である。
a長期譲渡所得の総収入金額3億6651万4000円
上記金額は,次の控訴会社株の1株当たりの⒜の価額に⒝の譲渡株数
を乗じた金額である(別表1の5の長期譲渡所得「純資産価額方式」欄
参照。)
⒜控訴会社株の1株当たりの譲渡価額4570円
上記価額は,昭和62年5月時における控訴会社株の1株当たり価
額を純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)により評価した
価額4574円(別紙2の2)から配当期待権の金額4円を控除した
後の価額である。
⒝長期譲渡所得の対象となる控訴会社株の譲渡株数
8万0200株
,,上記株数は控訴人AがGに譲渡した控訴会社株200万株のうち
取得の日から5年を超える譲渡株数である。
b取得費の額3億0636万4000円
上記金額は,上記a⒝の控訴会社株に係る取得価額である。当該金額
の根拠は,別表1の6〔取得費〕欄のとおりである。
c譲渡費用の額22万0550円
,。上記金額は上記a⒝の控訴会社株に係る有価証券取引税の額である
当該金額の根拠は,別表1の6〔譲渡費用〕欄のとおりである。
イ分離課税に係る長期譲渡所得の金額(争いがない)。
6693万9853円
ウ所得控除の額(争いがない)207万6260円。
エ課税総所得金額65億8438万7000円
上記金額は,前記アの総所得金額65億8646万3304円から前記ウ
の所得控除の額207万6260円を控除し,国税通則法(以下「通則法」
という)118条1項の規定に基づき,1000円未満の端数を切り捨てた。
後の金額である。
オ課税分離長期譲渡所得金額(争いがない)6693万9000円。
上記金額は,前記イの分離課税に係る長期譲渡所得金額6693万985
3円から,通則法118条1項の規定に基づき,1000円未満の端数を切
り捨てた後の金額である。
カ算出税額39億5969万1100円
上記金額は,次の(ア)及び(イ)の金額の合計額である。
(ア)課税総所得金額に対する税額39億4360万9700円
上記金額は,前記エの課税総所得金額65億8438万7000円に所
得税法89条(ただし,昭和62年法律第96号による改正後で,昭和6
3年法律第109号による改正前のもの)に規定する税率を適用して算出
した金額である。
(イ)課税分離長期譲渡所得金額に対する税額(争いがない)。
1608万1400円
キ納付すべき税額28億7040万9300円
上記金額は,前記カの算出税額から,次の(ア)及び(イ)を控除し,通則法1
19条1項の規定に基づき100円未満の端数を切り捨てた後の金額から次
の(ウ)を控除した金額である。
(ア)配当控除の額(争いがない)177万7020円。
上記金額は,控訴人Aの昭和62年分所得税の確定申告書に配当控除の
額として記載された金額と同額である。
(イ)源泉所得税額10億8066万5117円
上記金額は,次のa及びbの合計金額である。
a確定申告書に記載された源泉所得税額(争いがない)。
5662万8533円
b本件訂正告知に係る源泉所得税額10億2403万6584円
上記金額は,後記()イの本件訂正告知に係る源泉所得税額である。3
(ウ)予定納税額(争いがない)683万9600円。
()B再更正の根拠(別表2の2「再更正処分」欄参照)2
ア総所得金額16億6480万1304円
上記金額は,次の(ア)ないし(エ)の金額の合計金額である。
(ア)給与所得の金額(争いがない)1529万9800円。
(イ)一時所得の金額16億2479万5205円
上記金額は,控訴人Bが控訴会社から引き受けた控訴会社株84万株の
うち,一時所得の対象となる81万4559株に係る所得金額であり,次
のaの総収入金額から,bの特別控除額を控除した後の金額に,所得税法
22条2項2号の規定に従い2分の1を乗じた金額である。
a一時所得の総収入金額32億5009万0410円
上記金額は,次の控訴会社株の1株当たりの⒜の価額から⒝の価額を
差し引いた⒞の金額に⒟の株数を乗じた金額である(別表2の3「純資
産価額方式」欄参照。)
⒜控訴会社株の1株当たりの価額4490円
上記価額は,純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)によ
り評価した昭和62年3月時における控訴会社株1株当たりの価額で
ある(別紙2の1。)
⒝控訴会社株の1株当たりの引受価額500円
上記価額は,控訴人Bが引き受けた控訴会社株の1株当たりの引受
価額である。
⒞控訴会社株の1株当たりの収入金額3990円
上記金額は,上記⒜の価額から⒝の引受価額を差し引いた経済的利
益の額である。
⒟一時所得の対象となる控訴会社株の引受株数81万4559株
上記株数は,控訴人Bが引き受けた控訴会社株84万株のうち,株
主等として新株引受権が与えられたもの以外の引受株数である。
b特別控除額50万円
上記金額は,所得税法34条3項に規定する特別控除額である。
(ウ)短期譲渡所得の額2443万3799円
上記金額は,控訴人BがHに譲渡した控訴会社株18万7000株のう
ち,取得の日以後5年以内の短期譲渡所得の対象となる18万3000株
に係る所得金額であり,次のaの総収入金額から,bの取得費及びcの譲
渡費用を控除し,さらに,dの特別控除額を控除した後の金額である。
a短期譲渡所得の総収入金額8億2167万円
上記金額は,次の控訴会社株の1株当たりの⒜の価額に⒝の譲渡株数
を乗じた金額である(別表2の4の短期譲渡所得「純資産価額方式」欄
参照。)
⒜控訴会社株の1株当たりの譲渡価額4490円
上記金額は,純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)によ
り評価した昭和62年3月時における控訴会社株1株当たりの価額で
ある(別紙2の1。)
⒝短期譲渡所得の対象となる控訴会社株の譲渡株数
18万3000株
上記株数は,控訴人BがHに譲渡した控訴会社株18万7000株
のうち,取得の日から5年以内の譲渡株数である。
b取得費の額7億9623万3000円
上記金額は,上記a⒝の控訴会社株に係る取得価額である。当該金額
の根拠は,別表2の5〔取得費〕欄のとおりである。
c譲渡費用の額50万3201円
,。上記金額は上記a⒝の控訴会社株に係る有価証券取引税の額である
当該金額の根拠は,別表2の5〔譲渡費用〕欄のとおりである。
d特別控除額50万円
上記控除額は,所得税法33条4項に規定する控除額である。
(エ)長期譲渡所得の額27万2500円
上記金額は,控訴人BがHに譲渡した控訴会社株18万7000株のう
ち,取得の日以後5年を超える長期譲渡所得の対象となる4000株に係
る所得金額であり,次のaの総収入金額から,bの取得費及びcの譲渡費
用を控除した金額に,所得税法22条2項2号の規定に従い2分の1を乗
じた金額である。
a長期譲渡所得の総収入金額1796万円
上記金額は,次の控訴会社株の1株当たりの⒜の価額に⒝の譲渡株数
を乗じた金額である(別表2の4の長期譲渡所得「純資産価額方式」欄
参照。)
⒜控訴会社株の1株当たりの譲渡価額4490円
上記価額は,純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)によ
り評価した昭和62年3月時における控訴会社株1株当たりの価額で
ある(別紙2の1。)
⒝長期譲渡所得の対象となる控訴会社株の譲渡株数4000株
上記株数は,控訴人BがHに譲渡した控訴会社株18万7000株
のうち,取得の日から5年を超える譲渡株数である。
b取得費の額1740万4000円
上記金額は,上記a⒝の控訴会社株に係る取得価額である。当該金額
の根拠は,別表2の5〔取得費〕欄のとおりである。
c譲渡費用の額1万0999円
,。上記金額は上記a⒝の控訴会社株に係る有価証券取引税の額である
当該金額の根拠は,別表2の5〔譲渡費用〕欄のとおりである。
イ所得控除の額(争いがない)134万9115円。
ウ課税総所得金額16億6345万2000円
上記金額は,前記アの総所得金額16億6480万1304円から前記イ
の所得控除の額134万9115円を控除し,通則法118条1項の規定に
基づき,1000円未満の端数を切り捨てた後の金額である。
エ算出税額9億9104万8700円
上記金額は,前記ウの課税総所得金額16億6345万2000円に所得
税法89条(ただし,昭和62年法律第96号による改正後で,昭和63年
法律第109号による改正前のもの)に規定する税率を適用して算出した金
額である。
オ納付すべき税額9億8679万7000円
上記金額は前記エの算出税額から源泉所得税額425万1648円争,,(
いがない)を控除し,通則法119条1項の規定に基づき100円未満の端。
数を切り捨てた後の金額である。
()本件訂正告知の根拠(別表3「訂正告知処分」欄参照)3
ア控訴人Aに支給した賞与に相当する金額16億5432万円
上記金額は,前記()ア(ウ)a⒝記載の金額で,控訴会社が控訴人Aに昭和1
62年3月30日及び同月31日に支給した賞与に相当する金額で,控訴人
Aの昭和62年分所得税の計算において給与所得の収入金額に加算される金
額である(別表1の3「純資産価額方式」欄参照。)
イ源泉所得税の納付すべき税額10億2403万6584円
上記金額は,次の(ア)及び(イ)の源泉所得税の合計額であり,控訴人Aの昭
和62年分所得税の計算において源泉所得税額に加算される金額である。
(ア)昭和62年3月30日の賞与に相当する金額に対する源泉所得税額
8億1527万0184円
上記金額は,同日付けでされたF株90万株の譲り渡しによって控訴人
Aに支給した賞与に相当する金額13億1760万円について,所得税法
186条2項1号(昭和59年法律第5号による改正後で,昭和62年法
律第96号による改正前のもの。以下同じ)の規定に基づいて徴収すべき。
税額である。
(イ)昭和62年3月31日の賞与に相当する金額に対する源泉所得税額
2億0876万6400円
上記金額は,同日付けでされたF株23万株の譲り渡しによって控訴人
Aに支給した賞与に相当する金額3億3672万円について,所得税法1
86条2項1号の規定に基づいて徴収すべき税額である。
4争点に関する当事者の主張
()のとおり原判決を引用するほか当審における当事者の主張は()ないし()125,,
記載のとおりである。
,「」「」()以下のとおり訂正した上原判決事実及び理由欄の第二事案の概要1
の「四争点に関する当事者の主張」の1,2及び6を引用する。
「,」「。」ア原判決63頁1行目の評価についてはから2行目算定すべきである
までを,次のとおり改める。
「価額については,課税時期である昭和62年3月時における1株当たりの
純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)と類似業種比準価額の低い
方をもって算定すべきところ,前者が後者よりも低いので,前者をもってこ
れを算定すべきことになる」。
イ同66頁5行目の「後記3」から7行目の「相当である」までを次のとお。
り改める。
「前記のとおり,純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)をもっ
て評価するのが相当である」。
()A譲渡株の引受け及びその譲渡による所得に対して課税することの適法性2
ア控訴人Aの主張
(ア)本件新株のうち控訴人Aが引き受けた200万株は,当初からGに取得
させる予定であったが,Gが引受資金の融資を受けることは困難であった
ため,Gがその取得資金の融資を得やすい状況を作り出するために,いっ
たん,控訴人Aが銀行から融資を受けて,本件新株200万株を引き受け
たにすぎず,A譲渡株は,実質的にはGが取得したものである。このこと
は,以下の事実によって明らかである。
a控訴人Aは,A譲渡株を昭和62年3月11日に引き受けたが,同年
5月12日にはGにこれを譲渡しており,この間わずか2か月である。
しかも,控訴人Aは,A譲渡株の引受価額と全く同額でGにこれを譲渡
し,この際,事務管理費用(同控訴人が銀行に支払った利息の支払請求
権)と本来であればGが受け取るべき配当金の引渡債務とを相殺し,事
務管理費用の超過額は同控訴人において負担したままとして,Gのため
に有利な方法で処理を終えている。
b昭和62年当時のGは,経営実績2年の会社で,営業損益も赤字であ
,,,,(,り金融機関に対する預金額はI銀行J銀行K銀行L銀行以下
まとめて「本件各金融機関」という)とも50万円から100万円程度。
であり,本件各金融機関からの借入実績も皆無であって,10億円にも
のぼる借入申込みは拒否されると考えざるを得ず,Gが本件株式の引受
資金を調達することは事実上不可能であった。このため,控訴人Aは,
同控訴人が10億円の借入れをして本件各金融機関からいったん現金を
支出させた後に,同控訴人が連帯保証をすることを条件に,全く同じ融
資条件でGから借入れの申込みをさせることによって,Gに対する融資
をしやすい状況を作り出し,その結果,当初の予定どおりGに本件新株
のうち200万株を取得させることが可能になったのである。
c控訴人Aは,控訴会社とFとの合併,その株式上場による創業者利益
の獲得を企図してA譲渡株を引き受けたとされるが,実際には,上記合
併や上場の計画は全く存在しない。かえって,当時,Fは,昭和63年
9月の株式上場に向けて準備を進めており,そこでは,Fの親会社であ
る控訴会社からの独立性を保つための動きが進行していたのである。し
たがって,控訴人Aが自らA譲渡株を引き受ける理由がない。
この点に関し,控訴人AがA譲渡株を引き受ける際の払込資金の融資
及び同控訴人の連帯保証の下で行われたGに対する融資に際して作成さ
れたJ銀行,I銀行,L銀行の各稟議書等(乙22ないし34号証(枝
番を含む。以下「本件各稟議書」という)が存在する。しかし,本件。)。
に係る調査を担当したM調査官の質問調査権の行使は,調査の必要性を
欠き,その入手方法が極めて違法性の高いものであった疑いがあるなど
の点で違法であり,本件各稟議書は,証拠能力を欠くものというべきで
ある。また,当時は,いわゆるバブル期にあって,金融機関は,厳密な
調査も査定もないまま融資を実行しており,本件各稟議書は,そもそも
信用性が乏しいものといえるし,しかも,控訴会社のメインバンクであ
るK銀行の稟議書が提出されていないことや,提出された稟議書の記載
内容に不一致があることなどからみても信用性に欠けることが明らかで
ある。
(イ)実質課税の原則違反
所得の形式的な帰属先ではなく,実質的な帰属先を明らかにして,その
帰属先に課税することが実質課税の原則の趣旨とするところである。
上記(ア)の事実関係からすれば,控訴人Aが形式的にA譲渡株を引き受け
たとしても,控訴人Aは,その引受け及び譲渡によって,一切現実的な利
益を得ておらず,数十億円という課税に対する担税力はない。経済的利益
を実質的,終局的に取得したのはGにほかならず,所得の帰属先はGとさ
れなければならない。
(ウ)事務管理
上記(ア)の事実関係を法的に構成すると,控訴人Aは,GのためにA譲渡
株に係る株式の申込みと引受けを行ったものであり,上記行為については
事務管理が成立しているものというべきである。そして,控訴人AのGに
対するA譲渡株の譲渡行為は,事務管理者が本人のために受け取った金品
をそのまま本人に引き渡したというにすぎず,そこに,事務管理者である
控訴人Aに担税力が生ずる余地はない。
イ被控訴人武蔵府中税務署長の主張
(ア)以下の事実によれば,控訴人Aが,A譲渡株を取得したことは明らかで
ある。
a控訴会社は,昭和62年2月9日開催の控訴会社の臨時取締役会にお
いて新株300万株を発行価額1株当たり500円で発行し,うち20
0万株を第三者割当てにより控訴人Aに割り当てることを決議し,控訴
人Aは,当該決議に基づく払込期日である同年3月11日に本件新株2
00万株の発行価額全額の払込みを完了し,A譲渡株200万株を取得
したものである。
b仮にGが当初から本件新株200万株を取得しようとしたならば,本
件各金融機関とも,控訴会社が多額の含み資産を有しており,Gが引き
受ける本件新株を担保として取得できれば,融資の担保としては十分で
,,あると考えていたことからすると控訴人Aの保証を得ることによって
その取得資金調達をすることは可能であったし,また,控訴人Aがいっ
たん融資を受けた後,Gが同控訴人から本件新株の取得資金を借り入れ
て,本件新株を引き受ければ足りるのであるから,控訴人Aの前記ア(ア)
bの主張は不自然である。
c貸出稟議書は,金融機関の内部資料とはいえ,多額の金銭の貸出しに
関する資料となるものであるから,全く根拠のない虚偽の事実が記載さ
れるとは一般に考え難い。控訴人Aに対して本件新株の引受資金を貸し
付けた本件各金融機関が,控訴会社が上場を計画しており,控訴人Aに
よる本件新株の引受けがその際の創業者利益の確保を目的とするもので
,,あるというような重大な事実について控訴会社からの聞き取りもなく
虚偽の事実を記載するなどということは考えられない。しかも,控訴人
Aの創業者利益の確保の観点から本件新株の割当てがされたこと,その
後の事情変更によりGに譲渡することになったことについては,本件各
稟議書の記載は一致している。金利負担に耐えられなくなったこと及び
相続税対策の両方の理由から,控訴人Aは,GにA譲渡株を譲渡してい
るのであるから,本件各稟議書にその一方の理由だけが記載されている
からといって,本件各稟議書の信用性が失われるものではない。
(イ)控訴人Aは創業者利益の確保などを目的として,自らの計算においてA
譲渡株を引き受けたのであるから,事務管理が成立する余地はないし,A
譲渡株の引受け及び譲渡による所得に対して課税することが実質課税の原
則に違反するものとはいえない。
()B譲渡株の引受け及びその譲渡による所得に対して課税することの適法性3
ア控訴人Bの主張
本件新株の発行については,昭和62年2月9日に開催された控訴会社の
臨時取締役会において決議がされ,既にその発行手続が相当に進んだ同年3
月上旬になってから,控訴会社の株主であるHから,発行手続に問題がある
こと,株主の持株比率を変更することになることの指摘があり,その点につ
いての抗議がされた。本来であれば,新株発行手続をやり直すべきであった
が,新株引受けのための控訴人Bに対する銀行融資も決定していたこともあ
り,控訴会社は,Hとの間で協議した結果,上記手続上の不備と持株比率の
変更を是正する方法として,手続をやり直すのではなく,控訴人Bが引き受
けた株式のうち18万7000株をHに引き渡すことを合意をし,同年3月
19日に開催された取締役会において,上記譲渡を承認する決議を行ったも
のである。
以上のとおり,控訴人BがB譲渡株18万7000株の名義を保有してい
たのはわずか2週間,控訴会社の取締役会で譲渡承認がされた同年3月19
日まででみるとわずか1週間であり,しかも,同控訴人は,引受価額と全く
同額でHに譲渡しているのである。控訴人Bは,Hからの抗議に対する是正
措置の一環として,形式的に名義をごく短期間保有したにすぎず,同控訴人
,,,にはB譲渡株の引受け及び譲渡によって一切現実的な利益を得ておらず
課税に対する担税力はない。実質課税の原則からすれば,経済的利益を実質
的,終局的に取得したのはHにほかならず,所得の帰属先はHとされなけれ
ばならない。
イ被控訴人渋谷税務署長の主張
控訴人BのHに対するB譲渡株の譲渡が,本件新株発行手続の瑕疵の是正
のために行われたとする同控訴人の主張は,事実関係において,真実に反す
るものであるし,また,上記譲渡によって,取締役会の通知の欠缺,新株発
行の通知の欠缺などの手続的瑕疵が是正されるものではない。上記譲渡は,
本件新株発行が有効であることを前提として,事後的に,Hの持株比率を回
復するために行われたものというべきである。
()課税時期のF株の時価を売買実例により算定すべきか。4
ア控訴人A及び控訴会社の主張
昭和45年7月1日付け直審(所)30例規「所得税基本通達(平成10」
年課法8−2,課所4−5による改正前のもの。以下,単に「所得税基本通
達という23∼35共−9()イは非上場株式の評価方法について売」。),,「4
買実例があるものにあっては,最近において売買が行われたもののうち適正
と認められる価額」によるものと定める。このような基準が定められている
以上,当該株式について売買実例が存在する場合にあっては,売買の相手方
について,特別の利害関係がないという第三者性が確保されている以上,そ
の売買代金額が特別に非合理に実体とかけ離れた価額でない限り,それは売
買実例として尊重されるべきである。
控訴会社は,昭和62年3月30日,I銀行及びN銀行(以下,両行を併
せて「I銀行ら」という)に対してF株を譲渡しているが,両行は,控訴会。
社のメインバンクでもない通常の取引先であり,取引支配関係,人的支配関
係のいずれもが存在しない純然たる第三者に該当する。
そして,その売買代金額(1株1200円)は,O株式会社第二企業部が
昭和61年2月に発行した「発行価額算定書(以下「発行価額算定書」とい」
う)と昭和62年3月3日付け「株式会社F株式売却資料(以下「売却資。」
料」という)により確認された金額であり,関係者全員が適正な価額である。
と認識していた。しかも,この価額については,昭和60年5月23日に大
蔵大臣に提出されている株価算定書添付の昭和60年5月の株価算定書,昭
和61年2月18日に同大臣に提出されている有価証券通知書に添付されて
いる昭和61年2月の発行価額算定書においても確認されているのである。
以上のように,上記譲渡の相手方であるI銀行らについては特別の利害関
係のない第三者性が確保されており,かつ,1株1200円という株価は,
専門家による分析と試算を経て,その資料が大蔵省に提出されていることか
らすれば,少なくとも,所得税基本通達23∼35共9()イにいう「適正と4
認められる価額」というべきである。
イ被控訴人武蔵府中税務署長及び同新宿税務署長の主張
,控訴人A及び控訴会社が売買実例として挙げるI銀行らへのF株の譲渡は
他の金融機関等と同程度の株式をI銀行らにも保有してもらい,安定株主を
増やすとともに,将来にわたる両行との円滑な取引を期待してされたという
側面があることは否定できず,利害関係のからまない公正な取引とはいえな
い。
また,発行価額算定書及び売却資料の基礎となったデータは,控訴会社の
第22期(昭和58年9月1日から昭和59年8月31日までの事業年度)
及び第23期(昭和59年9月1日から昭和60年8月31日までの事業年
度)という古い事業年度の資本合計及び当期利益が使われている上,純資産
価額を時価評価せず帳簿価額で評価しており,Fが所有している土地につい
て実際よりも低く計算されている。
したがって,かかる売買価額をもって「適正と認められる価額」というこ
とはできない。
()課税時期におけるF株及び控訴会社株の純資産価額(法人税額等相当額を控5
除したもの)の算定の基礎となる資産評価の適法性
ア被控訴人らの主張
(ア)本件上告審判決の判断に従えば,控訴会社及びF株の1株当たりの純資
産価額(法人税額等相当額を控除した額)と類似業種比準価額を算定し,
その算定した純資産価額と類似業種比準価額との低い方をもって課税時期
における控訴会社株及びF株の時価を評価した上で,控訴人らの納付すべ
き税額を算定すべきことになる。
(イ)控訴会社株及びF株の評価額
aF株の昭和62年3月時の評価額
⒜類似業種比準方式による1株当たりの評価額5984円
上記価額は,類似業種比準方式によるF株の1株当たりの評価額で
あり,原判決が認定した評価額である。
⒝純資産価額方式による1株当たりの評価額2664円
上記価額は,純資産価額方式(法人税額等相当額を控除する評価方
式)による控訴会社株の1株当たりの評価額であり,別紙1のとおり
算出した評価額である。
⒞F株の1株当たりの評価額2664円
昭和62年3月時のF株の評価額は,上記⒜と⒝の価額のうち低額
である純資産価額方式による評価額2664円となる。
b控訴会社株の昭和62年3月時の評価額
⒜類似業種比準方式による1株当たりの評価額4823円
上記価額は,類似業種比準方式による控訴会社株の1株当たりの評
価額であり,原判決が認定した評価額である。
⒝純資産価額方式による1株当たりの評価額4490円
上記価額は,純資産価額方式(法人税額等相当額を控除する評価方
式)による控訴会社株の1株当たりの評価額であり,別紙2の1のと
おり算定した評価額である。
⒞控訴会社株の1株当たりの評価額4490円
昭和62年3月時の控訴会社株の評価額は,上記⒜と⒝の価額のう
ち低額である純資産価額方式による評価額4490円となる。
c控訴会社株の昭和62年5月時の評価額
⒜類似業種比準方式による1株当たりの評価額7580円
上記価額は,類似業種比準方式による控訴会社株の1株当たりの評
価額であり,原判決が認定した評価額である。
⒝純資産価額方式による1株当たりの評価額4574円
上記価額は,純資産価額方式(法人税額等相当額を控除する評価方
式)による控訴会社株の1株当たりの評価額であり,別紙2の2のと
おり算出した評価額である。
⒞控訴会社株の1株当たりの評価額4574円
昭和62年5月時の控訴会社株の評価額は,上記⒜と⒝の価額のう
ち低額である純資産価額方式による評価額4574円となる。
(ウ)別紙1,同2の1,同2の2記載のとおり,被控訴人らは,F株及び控
訴会社株の1株当たりの評価額を純資産価額方式(法人税額等相当額を控
除する評価方式)によって算定するに当たり,昭和62年3月時(控訴会
社については本件新株発行前)における資産及び負債の額については,控
訴人らが原審において主張し,原判決が認定した額をそのまま採用してこ
れを算定した上,課税時期における控訴会社株の1株当たりの評価額につ
いては,同年3月11日の増資による払込金額についてのみ調整を行った
ほかは,資産,負債の金額については変動がないものとして,これを算定
した。
(エ)時機に後れた攻撃防御等
控訴人らは,差戻後の当審において,保有土地の純資産価額の具体的算
定方法について,新たな主張を始めた。しかし,被控訴人らがA再更正,
B再更正及び本件訂正告知の基礎とした各課税時期における控訴会社及び
Fの資産の額は,①控訴人らが審査請求時に国税不服審判所長に対して
提出した反論書甲24に記された金額であり控訴人らは上記反「」(),,「
論書」は,税理士らを中心に控訴会社及びFの関係者でプロジェクトチー
ムを組織し,衆知を集めて検討,調査,計算の上で作成したものであると
して,国税不服審判所長に提出したものであること,②控訴人らは,本
件訴訟提起後も,上記「反論書」を甲24号証として提出し,一貫して,
その評価方法が合理性を有すると主張してきたこと,③原判決は,控訴
人らが主張する課税時期における控訴会社及びFの資産の額をもって,控
訴人らが「自認する」評価額であるとして,その認定の基礎としており,
控訴人らは,差戻前控訴審において,原判決の上記認定を全く争ってはい
なかったのである。
以上の経過から明らかなように,差戻後の当審における控訴人らの新た
な主張は,原審段階から主張することが十分に可能であったにもかかわら
ず,原審及び差戻前控訴審を通じてその主張を行わず,差戻後の当審に至
って,それまで堅持してきた自らの主張を覆すものであって,このような
主張・立証は,故意又は重大な過失により時機に後れたものというほかは
ないし,訴訟上の信義則にも反するものといえる。そして,改めて課税時
期における控訴会社及びFの資産の評価を行おうとすれば,訴訟の完結が
遅延することは明らかである。
したがって,差戻後の当審における控訴人らの新たな主張は,民事訴訟
法157条1項及び訴訟上の信義則に照らし,却下されるべきである。
イ控訴人らの主張
(ア)差戻後の当審における新たな主張
a公示価格に比準した土地価格の適切さ
被控訴人らは,F及び控訴会社の課税時期における保有土地の評価に
当たり,棚卸資産のうち,保有1年以内の土地については帳簿価額によ
ってこれを評価し,保有1年以上のものについては公示価格比準価格と
帳簿価額とを比較して高い価格を選択するという方法を採っているが,
このような評価方法は適切ではなく,公示価格比準価格が算定できるも
のについては,これによるべきである。
すなわち「適正な時価」とは「正常な条件の下に成立する当該土地,,
の取引価格,すなわち,客観的な交換価値」をいうものと解すべきであ
る(最高裁平成15年6月26日第二小法廷判決。そして,純資産価額)
の算定の基礎となる土地の時価の算定に当たっては,一般に「正常な取,
引事情の下において行われた売買実例額又は公示価格を基として算定す
るのが合理的である」ことは,国税不服審判所の裁決も認めるところで
ある。バブル期において,公示価格比準価格に比べて帳簿価額が高いこ
とがあったとしても,それは,当時のバブル現象の下で,社会的には公
正とはされがたい,投機的要素が土地の価格に入ったために形成された
価額である。かかる投機的価額をもって国の認定する公正な時価とはい
うことはできず,これをもって「正常な条件の下に成立する当該土地の,
取引価格」であるとも「客観的な交換価値」であるともいうことはでき,
ない。
公示価格は,我が国の法体系全体の下においても,適正な時価である
と位置付けられていることは,地価公示法1条の2,8条,10条,公
有地の拡大の推進に関する法律7条,国土利用計画法16条1項1号,
19条2項,27条の5第1項1号,27条の8第1項1号,33条な
どの規定からみても明らかである。
これに対して,昭和62年当時の帳簿価額として計上されているF及
び控訴会社の棚卸資産の原価を分析すると,土地購入費の他に,仲介手
数料,地質調査費,道路負担金,登記費用,支払利息,融資手数料,公
租公課等が含まれており,これらが含まれた金額が公正は時価とはいえ
ないことは明らかである。
b形状調整による価格見直し
土地の価格算定に当たっては,形状調整としての価格見直しがされな
ければならない。課税時期における控訴会社及びFの保有土地の価格算
定に当たっては,形状修正は全くされていない。形状修正がされていな
い価格は適正な時価とみることができないことは明らかである。
c上記のとおり,課税時期における控訴会社及びFの保有不動産の時価
を公示価格に比準して算出し,かつ,形状修正等を加えると,別紙「不
動産再評価価格表」記載のとおりとなる。
,,(イ)被控訴人らは控訴人らの上記(ア)の主張が時機に後れた攻撃防御であり
訴訟上の信義則に違反すると主張するが失当である。
aそもそも,被控訴人らは,これまで課税時期におけるF株及び控訴会
社株の時価を純資産価額方式によって算定すること自体を否定してきた
ため,被控訴人らによって,純資産価額方式によって算定された上記時
価の主張は一切されてこなかったのである。課税庁である被控訴人らに
は,純資産価額算定の前提となる資産の評価をどのように行ったのかを
明らかにして,その評価方法が適正であることを主張,立証する責任が
ある。しかるに,被控訴人らは,その主張・立証責任を尽くしていると
はいえない。
bまた,訴訟の経過をみれば明らかなように,これまでは,上記時価の
算定方式について決着することが求められ,控訴人らとしても,純資産
価額方式によることの正当性とその場合における法人税額等相当額控除
の正当性について主張,立証を尽くしてきた。その結果,保有土地の具
体的評価については,従来のままの主張を続けざるを得なかったのであ
る。最高裁判決において,上記時価について,1株当たりの純資産価額
(法人税額等相当額を控除したもの)と類似業種比準価額の低い方をも
って評価すべきことが確定され,控訴人らとしては,初めて純資産価額
,,,の具体的算定方法特に保有不動産の評価方法について具体的に主張
立証をすることが可能な状態となったのである。したがって,控訴人ら
が差戻後の当審において,新たに上記(ア)の主張を行うことには過失はな
いし,訴訟上の信義則に反するものでもない。
そして,被控訴人らは,控訴人らが国税不服審判所に提出してある資
料等を基にすれば,公示価格比準方式による保有不動産の評価の正確性
を容易に検証することができるのであり,控訴人らが形状修正を求めて
いる物件はわずかに10件であることからすれば,上記(ア)の主張につい
て審理をしたとしても,それにさほどの日時を要するものではない。
したがって,控訴人らの上記(ア)の主張を却下することは許されない。
第3当裁判所の判断
,,,当裁判所は本件各再更正等はいずれも適法であって控訴人Aの主位的請求
控訴人B及び控訴会社の各請求は理由がないから棄却すべきであり,控訴人Aの
予備的請求にかかる訴えは不適法であるから却下すべきであると判断する。その
,「」「」,,理由は原判決事実及び理由欄の第三当裁判所の判断一二及び七を
1のとおり訂正して引用するほかは,2ないし7のとおりである。
1原判決の訂正
()原判決115頁1行目の「証人P」の次に「同Q,同R,同S」を,同11,,
19頁1行目の末尾に続けて「これらの記載は,いずれも各銀行の担当者が控
訴会社の取締役経理部長Pから聴取したことを基礎に記載したものである」を。
それぞれ加え,同120頁末行の「審議書」を「稟議書」と改める。
「」,「,」()同130頁5行目の原告A本人尋問の結果から10行目実際にも2
を削除する。
()同140頁末行の「Eの一株の価額」から同141頁2行目末尾までを「こ3
れが適正な価額ではなく,適正価額との差額は控訴人Aに対する賞与に当たる
として,別表1の2「給与所得の金額」の「更正処分」欄のとおり,給与所得
として加算した」と改める。。
「,,,」「,」,()同142頁2行目に七八一一とあるのを七ないし一一と改め4
3行目の「二五の2」の次に「三二」を加える。,,
()同144頁8行目の「合計額」の次に「の平均額」を加え,9行目の「評価5
額」の次に「1499.1円との平均額(①845.33円と②1499.1
円との平均額)である」を加える。
()同145頁3行目及び8行目の各「四月」をそれぞれ「九月」に改める。6
2A譲渡株引受け及び譲渡による所得に対して課税することの適法性
()前記引用に係る原判決の認定事実によれば,昭和62年2月9日に開催され1
た控訴会社の臨時取締役会において,本件新株のうち200万株を控訴人Aに
割り当てることが決議され,控訴人Aは,同年3月11日,上記のとおり割り
当てられた本件新株200万株の発行価額全額の払込みを行い,これを引き受
けているのであるから,同株式は,この時点において,控訴人Aに帰属したも
のと認められる。
したがって,同株式の引受け及びその後の譲渡によって生ずべき経済的利益
は,いずれも,控訴人Aに帰属するものというべきである。
()この点につき,控訴人Aは,本件新株のうち控訴人Aが引き受けた200万2
株は,当初からGに取得させる予定であったが,Gが引受資金の融資を受ける
ことは困難であったため,Gがその取得資金の融資を得やすい状況を作り出す
ために,いったん,控訴人Aが銀行から融資を受けて,本件新株200万株を
引き受けたにすぎず,A譲渡株は,実質的にはGが取得したものであると主張
し,このことは,①同控訴人は,A譲渡株を同控訴人の名をもって引き受け
た後わずか2か月後に,引受価額と全く同額でGに譲渡し,この際,事務管理
費用(同控訴人が銀行に支払った利息の支払請求権)と本来であればGが受け
取るべき配当金の引渡債務とを相殺し,事務管理費用の超過額は同控訴人にお
いて負担したままとして,Gのために有利な方法で処理を終えていること,②
,,,,Gは昭和62年当時経営実績2年の会社で営業損益も赤字であるなど
,10億円にものぼる借入れは拒否されると考えざるを得ない会社であったこと
③控訴人Aの本件新株引受の動機は,控訴会社とFとの合併と,その上場に
よる創業者利益の獲得にあったとされるが,上記の合併や上場の計画は全く存
在しないのであって,原審において上記動機の認定根拠となった本件各稟議書
には証拠能力がないし,信用性もないことなどに鑑みれば明らかであると主張
する。
ア確かに,控訴人Aは,発行価額を1株当たり500円として本件新株20
0万株の割当てを受け,昭和62年3月11日,同株式の発行価額全額の払
込みを了してA譲渡株200万株を引き受けたが,そのわずか2か月後であ
る同年5月12日には,Gに対し,これを1株当たり500円で譲渡してい
ることは前記争いのない事実記載のとおりであり,証拠(甲27,28,原
審証人M,同P)及び弁論の全趣旨によれば,Gは,昭和62年当時,経営
実績2年の会社で,営業損益も赤字であったこと,昭和62年3月当時,控
訴会社とFの合併や控訴会社株の上場の計画が具体化していたとはいえない
ことなどの事実を認めることはできる。
イしかし,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第三当裁判所の
判断」のうち,一の3の㈡の()ないし()に説示されたところに加え,以下13
に説示するところに照らせば,本件新株のうち控訴人Aが引き受けた200
万株は,当初からGに取得させる予定であったとの趣旨の原審における控訴
人A及び証人Pの供述はいずれも採用し難く,前記アの事実があったとして
も,それだけでは,控訴人Aが主張するように,A譲渡株は,その発行の当
初において,実質的にはGが取得したとの事実を推認することは困難という
ほかはない。
(ア)原審証人Pの証言によれば,本件新株のうち現にGが割り当てを受けて
これを引き受けた16万株に加え,200万株をGに割り当てるべきであ
るが,Gがその取得資金の融資を受けられるまで,一時的に控訴人Aがこ
れを引き受けるという話は,控訴人Aと控訴会社の取締役経理部長の地位
にあったPの二人だけで相談をしていたことで,控訴会社の取締役会の議
題とされたことはなかったというのであり,本件全証拠を精査しても,控
訴会社の取締役会において,本件新株のうち現にGに割り当てられ,Gが
引き受けた16万株に加え,200万株をGに割り当てることを決議され
たことが認められないことはもちろんのこと,控訴会社の取締役会におい
,,,て本件新株の発行に先だって控訴人Aに対する200万株の割当ては
Gが同株式の取得資金を調達できるまでの一時的な措置であり,これが調
達でき次第,Gに上記200万株を取得させるとの計画ないし予定を事実
上確認したことすら認めることはできないし,甲6号証によれば,控訴人
AからGに対するA譲渡株の譲渡の承認に関する取締役会議事録にも,A
譲渡株のGに対する譲渡が,上記のような事前の計画ないし予定に基づく
ものであることをうかがわせる記載は全くない。以上の事実関係に加え,
原審証人Pは,昭和62年3月時における控訴会社の発行済株式のうちG
の保有株式数の占める割合に応じて240万株を割り当てるのが本来の姿
であると供述する一方で,なぜこれを下回る株式数である216万株をG
に取得させることになったのかについてはその理由や経過については全く
,,供述ができないなどその供述自体が具体性に欠けることをも考慮すると
控訴会社において,本件新株の発行に当たり,このうち控訴人Aが引き受
けた200万株をGに取得させることが予定されていたとの事実はおよそ
認め難いものといわざるを得ない。
(イ)また,この点に関する控訴人Aの主張の変遷についてみてみると,控訴
人Aは,本件訴状においては,Hから本件新株発行が違法であるとしてそ
の是正の申入れを受け,昭和62年3月19日,その一部を是正するため
に,B譲渡株をHに譲渡することを取締役会で承認した際に,Gの権利の
侵害についても問題にされ,この点についても協議の結果,A譲渡株をG
に移転することにより違法を是正して解決することになったとの趣旨の主
張を行い,平成8年5月28日付け準備書面でも同旨の主張をしていたに
もかかわらず,平成8年11月6日付け準備書面㈣において,当審におけ
る上記主張と同様の主張を行うようになったこと,控訴人Aが,昭和62
年3月期の控訴会社の配当金を受領している点については,審査請求の段
階では,Gに対する信用供与の対価として受領したにすぎないと主張して
いたにもかかわらず(甲1,本訴提起後は,上記配当金の金額よりも,控)
訴人Aが本件新株を引き受けるために借り入れた金員についての支払利息
の方が多額であったため,これを相殺し,利息金残額をGに対して請求し
ていないというだけのことであるなどと主張するようになったことなど,
控訴人Aの主張には,不自然な変遷があるといわざるを得ない。
この点につき,控訴人Aは,国税当局がA譲渡株を同控訴人が引き受け
たものと認定する方針であることが明らかとなった平成3年2月27日の
直後である同年3月5日に,同控訴人の意を受けたT税理士らがM調査官
,,,の下を訪れその際当審における上記主張と同旨の主張を行ったことや
異議申立て,審査請求においても同旨の主張を行っていることは,甲1号
証,証人Mの証言によって明らかであり,控訴人Aの主張は一貫している
と主張する。しかし,証人Mの上記証言は,その証言の全体を通じてみれ
ば,上記税理士らから,Gが本件新株200万株の割り当てを受けるべき
ところ,取得資金を準備できるまで一時的に控訴人Aがこれを引き受けた
にすぎないものとして,直接Gが割り当てを受けた取扱いをしてほしいと
の陳情を受けたとの趣旨をいうものであって,同証言によって,T税理士
らが,M調査官に対し,Gに本件新株200万株を取得させることは,本
件新株の発行当初から決まっていたとの事実を主張をしていたと認めるこ
とは困難である上,控訴人Aの上記主張を考慮しても,同控訴人の本訴に
おける主張に不自然な変遷があったこと自体は何ら左右されるものではな
い。
(ウ)さらに,控訴人Aは,Gには,本件新株200万株の取得資金の融資を
受けるに足りる信用力がなかったことを縷々主張するが,前記引用に係る
原判決の認定事実によれば,Gが,昭和62年5月には,控訴人Aの保証
により,現に合計10億円の融資を本件各金融機関から受けることができ
たというのであり,しかも,証拠(乙13,当審証人R)によれば,Gが
216万株を引き受けることを前提として,その取得資金の融資申込みが
あった場合,本件各金融機関としては,G単体の信用力のみではなく,担
保や保証人等の総合的判断によって融資の可否を決定していたであろうこ
とが認められることをも考慮すると,本件各金融機関が,上記のような申
込みに応じてGに対して融資を実行する可能性は決して小さくはなかった
ものと認められる。しかるに,原審証人Pの証言によれば,Gが本件新株
のうち216万株を引き受けることを前提とする金融機関に対する融資の
打診や交渉は一切行わなかったというのであり,このような交渉経過は,
本件新株の発行当初から,Gに本件新株のうち216万株を取得させるこ
とが予定されていたとしたならば,著しく不自然というほかはない。
(エ)なお,控訴人Aは,本件各稟議書の証拠能力には疑問があり,その信用
性も認められないとも主張するが,本件各稟議書の証拠能力に関する同控
訴人の主張は独自の見解というべきであるし,本件各稟議書の信用性につ
いても,これらは,J銀行,I銀行及びL銀行の各担当者が控訴会社の取
締役経理部長であるPから聴取したことを記載したものと認められること
は前記認定のとおりであり,Pが控訴人Aの意向を無視して虚偽の事実を
述べたと認めるべき証拠はなく,その記載自体も,当時,控訴会社とFの
合併や控訴会社株の上場が具体化していたことを記載するものではなく,
将来に向けた控訴会社又は控訴人Aの思惑を記載したにとどまるものとみ
るのが相当であることをも考慮すると,これらを信用することができない
ということもできない。
以上のとおりであるから,控訴人Aの当審における上記主張は,これを認め
るに足りず,他に前記()の認定を左右するに足りる証拠はない。1
()控訴人Aは,前記()の①ないし③の事実関係に鑑みれば,控訴人Aは,A32
譲渡株の引受け及び譲渡によって一切経済的な利益を得ておらず,経済的利益
を実質的,終局的に取得したのはGにほかならないから,実質課税の原則によ
れば,所得の帰属先はGと認定されなければならないし,また,同事実関係に
よれば,控訴人Aは,GのためにA譲渡株に係る株式の申込みと引受けを行っ
たものというべきであるから,上記行為については事務管理が成立しているな
どとも主張する。
しかし,前記()イに説示したように,本件新株の発行に当たり,控訴会社に2
おいて,本件新株のうち控訴人Aが引き受けた200万株をGに取得させるこ
とが計画ないし予定されていたとは認め難い上,控訴人Aが,Gがその上記株
式を取得するための資金の融資を得やすい状況を作り出すために,いったん,
控訴人Aが銀行から融資を受けて,本件新株200万株を引き受けたにすぎな
いとの趣旨の主張するまでには不自然な変遷があることや,Gが上記株式を引
き受けることを前提とした融資交渉や融資の打診が全く行われていないことな
どを考慮すると,控訴人Aは,名実ともに,割当てを受けたA譲渡株を引き受
け,これを取得したものと認めることができ,控訴人AによるA譲渡株の引受
けが,Gのためにする事務管理に当たるとみる余地はない。同控訴人は,自ら
の計算でA譲渡株を取得し,これによる経済的利益を得たものというほかはな
い。
そして,控訴人Aが,Gに対し,A譲渡株を発行価額と全く同額で譲渡した
結果,同控訴人は,譲渡益を現実に手にすることはなく,GがA譲渡株の時価
と発行価額との差額相当額の経済的利益を得ていることは明らかであるが,G
が得た上記利益は,A譲渡株の低額譲渡により生じたものであって,Gがその
ような利益を得ているからといって,A譲渡株の引受けによる経済的利益が実
質的にGに帰属するものとみることはできない。
したがって,控訴人Aの上記主張も理由がない。
()以上に説示したところによれば,控訴人Aは,自らの計算において,A譲渡4
株を現に引き受け,これを取得しているのであって,その引受け及びこれを譲
渡したことによる所得は,同控訴人に帰属するのであって,これらに対して課
税することは適法である。
3B譲渡株の引受け及びその譲渡による所得に対して課税することの適法性
()前記引用に係る原判決の認定事実によれば,昭和62年2月9日に開催され1
た控訴会社の臨時取締役会において,本件新株のうち84万株を控訴人Bに割
り当てることが決議され,控訴人Bは,同年3月11日,上記のとおり割り当
てられた本件新株84万株の発行価額全額の払込みを行い,これを引き受けて
いるのであるから,同株式は,この時点において,控訴人Bに帰属したものと
認められる。
したがって,同株式の引受け及びその後の譲渡によって生ずべき経済的利益
は,いずれも,控訴人Bに帰属するものというべきである。
()この点につき,控訴人Bは,Hから本件新株の発行手続に問題があること,2
持株比率を変更することになることについて抗議を受けた控訴会社が,本件新
株発行に係る手続上の不備と持株比率の変更を是正する方法として,控訴人B
が引き受けた本件新株のうち18万7000株をHに引き渡すことを合意した
ものであり,控訴人Bは,上記引渡しまでのごく短期間B譲渡株の名義を保有
しただけで,同控訴人は,その引受け及び譲渡によって,一切経済的な利益を
得ておらず,経済的利益を実質的,終局的に取得したのはHにほかならないか
ら,実質課税の原則によれば,所得の帰属先はHと認定されなければならない
と主張する。
しかし,B譲渡株をHに譲渡する措置によって本件新株の発行手続の瑕疵が
是正されることにはならないことや,控訴人BからHに対するB譲渡株の譲渡
の承認に関する取締役会議事録には,B譲渡株のHに対する譲渡が,控訴人B
の主張するような是正措置として行われるものであることをうかがわせる記載
は全くないことは,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第三当裁
判所の判断」のうち,一の3の㈠に説示されたとおりであるし,本件全証拠を
精査しても,本件新株の発行に先だって,控訴会社の取締役会において,本件
新株の発行後直ちに,控訴人Bが引き受けた本件新株のうち18万7000株
をHに譲渡することを承認するなどの決議がされたことを認めることはできな
いのはもちろん,これを事実上確認したことすら認め難い。これらのことに,
本件新株発行前のHの持株比率は,9.3パーセントであったものが,控訴人
BからB譲渡株の譲渡を受けても,Hの持株比率は7パーセントに回復したに
すぎなかったことをも考慮すれば,控訴会社は,本件新株の発行による持株比
率の変更についてHから抗議を受けたことを受けて,控訴人Bが,割当のとお
りに控訴会社から本件新株84万株の発行を受けた上で,その中から,18万
7000株を発行価額と全く同額でHに譲渡することによって,事後的に和解
的な解決を図ったものと認めるのが相当である。したがって,控訴人Bが,B
譲渡株の発行を受けた後,ごく短期間でこれを譲渡したからといって,同控訴
人が,これを取得し,これによる経済的な利益を取得した事実が左右されるも
のではない。
そして,控訴人Bが,Hに対し,B譲渡株を発行価額と全く同額で譲渡した
結果,同控訴人は,譲渡益を現実に手にすることはなく,HがB譲渡株の時価
と発行価額との差額相当額の経済的利益を得ていることは明らかであるが,H
が得た上記利益は,B譲渡株の低額譲渡により生じたものであって,Hがその
ような利益を得ているからといって,B譲渡株の引受けによる経済的利益が実
質的にHに帰属するとみることはできないことは,前記()に説示したところと4
同様である。
()以上に説示したところによれば,控訴人Bは,B譲渡株を現に引き受け,こ3
れを取得しているのであるから,その引受け及びこれを譲渡したことによる所
得は,同控訴人に帰属するのであって,これらに対して課税することは適法で
ある。
4課税時期のF株の時価を売買実例により算定することの可否
,,()控訴人A及び控訴会社は所得税基本通達23∼35共−9()イによれば14
非上場株式の評価方法について「売買実例があるものにあっては,最近におい,
て売買が行われたもののうち適正と認められる価額」によるものと定められて
いるのであるから,当該株式について売買実例が存在する場合にあっては,売
買の相手方について,特別の利害関係がないという第三者性が確保されている
以上,その売買代金額が特別に非合理に実体とかけ離れた価額でない限り,そ
れは売買実例として尊重されるべきであるとして,控訴人Aが控訴会社から昭
和62年3月30日及び31日に,F株合計113万株を譲り受けたことによ
る給与所得の収入金額の算定に当たっては,控訴会社が,昭和62年3月30
日,I銀行らにF株を譲渡した際の売買代金額をもってその価額を評価すべき
であると主張する。
()しかし,所得税基本通達23∼35−9()イが,売買実例がある場合であ24
っても「適正と認められる価額」によるものに限り,その売買代金額をもって,
非上場株式の評価をすべきものとしている趣旨は,たとえ,第三者との間の取
引といえども,必ずしも適正な価額で取引されるとは限らないことから,第三
者との間の売買実例のうち,これが適正な価額での取引がされたものであると
認められる場合に限り,その売買代金額をもって,当該株式の評価をすべきこ
とを定めたものというべきである。そして,純然たる第三者間において,種々
の経済性を考慮して定められた取引価額は,一般に合理性を有するものといえ
るから,通常は,これをもって適正な価額と認めるのが相当であるが,その取
引価額の算定が経済的合理性を欠くことが明らかである場合には,これをもっ
て適正な価額と認めることはできないことは当然である。
これを本件についてみると前記引用に係る原判決事実及び理由欄の第,「」「
三当裁判所の判断」の二に説示するように,控訴会社のI銀行らに対するF
株の譲渡は,I銀行らにも,他の金融機関と同程度の株式を保有してもらうこ
とによって,安定株主を増やすとともに,将来にわたるI銀行らとの円滑な取
引を期待してされたという側面があることを否定しきれないのであって,I銀
行らに特別の利害関係がない第三者性が確保されていると認めるについては,
疑問を差し挟まざるを得ない。また,仮に,I銀行らが,控訴会社とは特別の
利害関係のない第三者であるとしても,前記引用に係る原判決の上記部分に説
示するように,控訴会社とI銀行らとの間のF株の売買代金額は,O株式会社
第二企画部が発行した発行価額算定書及び売却資料に依拠したものであるが,
発行価額算定書は,Fの第22期(昭和58年9月1日から昭和59年8月3
1日までの事業年度)及び第23期(昭和59年9月1日から昭和60年8月
31日までの事業年度)という古い事業年度の事業報告書を基礎資料として,
純資産価額方式よって算定した株式の価額と上記事業年度の平均当期利益を用
いて収益還元法によって算定した株式の価額との折衷によってF株の時価を評
価したものであり,売却資料は,Fの第24期(昭和60年9月1日から昭和
61年3月31日までの事業年度)の貸借対照表を基礎資料として純資産価額
方式によってF株の時価を評価したものであって,しかも,発行価額算定書及
び売却資料は,純資産価額方式によってF株の価額を算定するに当たり,帳簿
価額をもってその資産を評価しており,当該資産の取得時から評価時までの価
格上昇による評価益が全く算定の基礎に含まれていないのである。これらの事
実に,Fの第24期ないし第26期の資本合計及び当期利益が,それぞれ第2
2期,第23期に比べて大幅に増加していることや昭和62年当時,不動産の
価格が高騰を続けていたことが公知であることをも考慮すると,発行価額算定
書及び売却資料によるF株の価額が,上記のように古い事業年度の事業報告書
等を基礎資料として,しかも,帳簿価額をもって資産を評価して算定された価
額であることが明らかである以上,これらに依拠して定められた売買代金額を
もって,昭和62年3月時の適正な価額と認めることはできない。
5課税時期におけるF株及び控訴会社株の純資産価額(法人税額等相当額を控除
したもの)の算定の基礎となる資産の評価の適法性
()課税時期における控訴人Aの給与所得,一時所得及び譲渡所得並びに同Bの1
一時所得及び譲渡所得の算定に当たっては,F株及び控訴会社株の1株当たり
(),の純資産価額法人税額等相当額を控除した額と類似業種比準価額を算定し
その算定した純資産価額と類似業種比準価額との低い方をもって課税時期にお
ける控訴会社株及びF株の時価を評価した上で,上記所得金額と控訴人らの納
付すべき税額を算定すべきことは,本件上告審判決の説示するところであり,
課税時期におけるF株及び控訴会社株1株当たりの類似業種比準価額が以下の
とおりであることについては,控訴人らにおいて争うことを明らかにしない。
アF株(昭和62年3月時)5984円
イ控訴会社株
(ア)昭和62年3月時4823円
(イ)昭和62年5月時7580円
()次いで,課税時期におけるF株及び控訴会社株1株当たりの純資産価額(法2
人税額等相当額を控除したもの)について検討すると,証拠(甲1ないし3,
,),,甲2441ないし43及び弁論の全趣旨によれば甲24号証の反論書は
控訴会社及びFの昭和62年3月時(本件新株発行前)の資産及び負債につい
て,F及び控訴会社の昭和61年3月期の決算報告書及び両社の昭和62年2
月末日現在の試算表を基礎資料として,①上場有価証券については課税時期
の終値によって計算した金額,②土地のうち固定資産に属するもの及び棚卸
資産に属するもので保有期間が1年を超えるものは,公示価格を基準に路線価
に比準して計算した金額(ただし,当該金額が帳簿価額を下回る場合には,帳
。),,簿価額による棚卸資産に属するもので保有期間1年以内のものは帳簿価額
また,海外に所在する不動産は帳簿価額,③ゴルフ会員権は,市場価格のあ
るものについては課税時期のその価格,また,市場価格のないものについては
帳簿価額,④取引相場のない株式等のうち子会社及び関連会社の株式等は,
甲24号証による評価方法と同様の方法によって計算した価額,⑤④以外の
取引相場のない株式等は帳簿価額,⑥①ないし⑤以外の資産及び負債につい
ては,評価基本通達に基づいて計算した金額をもってこれを評価し,その純資
産価額を算出したものであり,控訴人らは,審査請求手続において,平成7年
2月28日に東京国税不服審判所長に対し,これを提出して,同号証に基づき
F及び控訴会社の資産及び負債を時価評価すべきであると主張し,前記各裁決
において,その評価自体は,適正にされていると判断されていることが認めら
れるのであって,これらの事実に鑑みると,同号証に基づくF及び控訴会社の
資産及び負債の評価には,相応の合理性を認めることができる。そして,控訴
人らは,原審においても,同号証に基づいて両社の課税時期における資産及び
負債を評価すべきであるとの主張を行い,その評価が,両社の保有不動産を低
,額に評価している疑いがあるとの趣旨の被控訴人らの主張に反論してきたこと
原判決が,甲24号証の評価をもって,控訴人らが自認する資産及び負債の評
価であると判断し,この評価を基礎として純資産評価額を算定したことについ
ては,控訴人らは差戻前控訴審において,全く争うことはなかったこと,昭和
62年当時は,不動産価格が高騰を続けていた時期であり,不動産の市場価格
は,帳簿価額や公示価格をかなり上回る金額であったことは公知であることな
どの事情を考慮すると,昭和62年3月時(本件新株発行前)の両社の差引純
資産の評価額は,甲24号証によって認められる価額を下回ることはないと認
めるのに十分である。
そして,控訴会社が昭和62年3月11日に1株当たりの発行価額500円
で300万株の新株を発行し,その発行価額全額の払込みを受けたことは弁論
の全趣旨によって明らかであるので,控訴会社株1株当たりの評価額について
は,上記増資による株価の修正を行った上で,課税時期におけるF株及び控訴
会社株1株当たりの純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)を算出す
ると,別紙1及び同2の1,2記載のとおり,以下のとおりとなる。
アF株(昭和62年3月時)2664円
イ控訴会社株
(ア)昭和62年3月時4490円
(イ)昭和62年5月時4574円
()以上()及び()に説示したところによれば,課税時期におけるF株及び控訴312
会社株1株当たりの純資産価額(法人税額等相当額を控除した額)は類似業種
比準価額を下回ることが明らかであるので,上記時点における両社株式の時価
は,純資産価額(法人税額等相当額を控除した額)をもって評価すべきことに
なる。
()控訴人らの新たな主張の却下4
ア控訴人らは,差戻後の当審において,課税時期におけるF株及び控訴会社
株の純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)算定の基礎となる保有
土地の評価方法に関し,当審における当事者の主張()イ(ア)のとおり,甲25
4号証による試算の評価方法に不合理な点があるとの主張を行う。
しかし,本件訴訟提起後,控訴人らは,原審において甲24号証に基づく
F及び控訴会社の資産の評価が適正であるとの主張を行い,両社の資産の評
価額は同号証による評価額を上回る旨の被控訴人らの主張に反論をしてきた
こと,控訴人らが同号証に基づく両社の資産及び負債の評価額を自認してい
るとして,原審がこれを基礎に両社の課税時期における純資産価額を認定し
たことについては,差戻前控訴審においては,全く争うところがなかったこ
とは,前記()において説示したところである。そして,本件上告審判決が,2
課税時期における控訴人Aの給与所得,一時所得及び譲渡所得並びに同Bの
一時所得及び譲渡所得の算定に当たっては,F株及び控訴会社株の1株当た
りの純資産価額(法人税額等相当額を控除した額)と類似業種比準価額を算
定し,その算定した純資産価額と類似業種比準価額との低い方をもって課税
時期におけるF株及び控訴会社株の時価を評価した上で,上記所得金額と控
,訴人らの納付すべき税額を算定すべきであるとの判断を示したことを受けて
被控訴人らは,上記のような訴訟の経過に鑑み,甲24号証に基づき,昭和
62年3月時におけるF及び控訴会社の資産及び負債を評価して,平成17
年12月16日付けで控訴人A,同Bに対する各再更正、控訴会社に対する
訂正の告知を行ったことは,弁論の全趣旨によって明らかである。
以上の訴訟の経過に鑑みれば,本件訴訟においては,昭和62年3月時に
おけるF及び控訴会社の保有土地の評価方法については,原審において争点
となっており,控訴人らは,この争点について,主張する機会を与えられて
いたことは明らかである。この争点について,控訴人らは,原審において,
甲24号証に基づく資産の評価の合理性を主張し,この評価を基礎として課
税時期におけるF株及び控訴会社株1株当たりの純資産価額を認定した原審
の判断については,差戻前控訴審においておよそ争点とすることがなかった
のもかかわらず,被控訴人らが,甲24号証に基づき,昭和62年3月時の
資産及び負債の評価をして,上記各再更正及び訂正の告知を行うや,差戻後
の当審に至って,その保有不動産の評価について争う新たな主張を行ってい
るのであって,控訴人らの差戻後の当審における新たな主張は,故意又は重
大な過失により時機に後れて提出されたものであり,しかも,訴訟上の信義
則にも反するものといわざるを得ず,仮に,同時点の資産の評価について,
改めて審理を行うとすれば,訴訟の完結が遅延することは明らかである。
イこれに対し,控訴人らは,①甲24号証による資産の評価が適正なもの
であることについて,被控訴人らは主張,立証を尽くしているとはいえない
し,②本件訴訟においては,これまで,F株及び控訴会社株の時価の算定
方式を決着することに主眼が置かれており,本件上告審判決によってこの点
について確定がされたことによって,控訴人らは,初めて資産の具体的算定
方法について主張,立証をすることが可能になったと主張し,差戻後の当審
における新たな主張が時機に後れたものであることや,訴訟上の信義則に反
することを争う。
しかし,昭和62年3月時におけるF及び控訴会社の差引純資産の評価額
は,差戻後の当審における被控訴人らの主張金額(甲24号証に基づく評価
額)を下回ることはないと認められることは,既に前記()において説示した2
とおりであり,上記①の点は,その前提を欠くものというほかはない。そし
て,本件訴訟においては,F株及び控訴会社株の時価の算定方式について主
として争われてきたことは,訴訟の経過に鑑み明らかではあるが,しかし,
それだからといって,控訴人らがF及び控訴会社の課税時期における保有土
,,地の具体的評価についての主張立証の機会がなかったとはいえないし現に
控訴人らは,甲24号証に基づいて,両社の保有土地の評価額について主張
をしていたことは,既に前記()に説示したとおりである。被控訴人らは,原2
審においては,甲24号証に基づく評価額は,昭和62年当時,土地の価格
が高騰を続けていた状況の下においては,両社の保有土地の含み益が評価さ
れていないなどの点で保有土地を低額に評価している疑いがあることを指摘
していたにもかかわらず,これを差戻し後の当審における争点とすることが
ないように,控訴人らの主張を前提に上記各再更正及び訂正の告知を行って
いるのであって,これらの処分が行われた後になって,控訴人らが,自らの
これまでの主張を覆すような新たな主張を行うことは,訴訟上の信義則にも
反するものというべきである。
ウしたがって,F及び控訴会社の資産の具体的算定方法に関する控訴人ら新
たな主張は,民事訴訟法2条,157条1項に基づき却下するのが相当であ
る。
6本件各再更正等の適法性
前記争いのない事実及び以上の認定判断の下に,本件各再更正等の適法性につ
いて判断する。
()控訴人Aが納付すべき昭和62年分の所得税1
当事者間に争いのない事実及び以上の認定判断によれば,昭和62年分の控
,,,,訴人Aの不動産所得の金額配当所得の金額給与所得の金額雑所得の金額
一時所得の金額,分離長期譲渡所得金額,所得控除の額は「事実及び理由」欄,
の「第2事案の概要」3の()のアの(ア)ないし(オ),イ,ウ記載のとおりとな1
る。
しかし,前記のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第二事
案の概要」一の5,控訴人Aは,昭和62年3月11日に引き受けた本件株式)
200万株(A譲渡株)を,同年5月12日,Gに譲渡していることは当事者
間に争いがないのであるから,上記譲渡による所得は,すべて取得の日以後5
年以内にされた譲渡に基づくものとして,短期譲渡所得に当たるものというべ
。,,,きであるそして既に認定説示したところによれば短期譲渡所得の金額は
以下のアの短期譲渡所得の収入金額から,イの取得費及びウの譲渡費用を控除
し,さらに,エの特別控除額を控除した,14億9400万円となる。
ア短期譲渡所得の収入金額
①時価(純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの))
4574円
②配当期待金額4円
③譲渡価額(①−②)4570円
④譲渡株数200万株
⑤短期譲渡所得の収入金額(③×④)91億4000万円
イ取得費の額76億4000万円
別表1の6〔取得費〕欄1及び2のとおり,譲渡所得に係る取得費の計算
の基礎となる1株当たりの価額は3820円となるから,これに譲渡株式数
を乗ずると,取得費の価額は,76億4000万円となる。
ウ譲渡費用の額550万円
別表1の6〔譲渡費用〕欄①ないし⑤記載のとおり算出される有価証券取
引税額である。
エ特別控除額50万円
以上に認定説示したところによれば,控訴人Aの昭和62年分の総所得金額
は66億1642万8029円となる。
上記認定に加え,昭和62年分の控訴人Aの源泉徴収税額が10億8066
万5117円となることは後記()に説示するとおりであり,その配当控除の額3
及び予定納税額は当事者間に争いがないから,控訴人Aの納付すべき同年分の
所得税額は,28億8838万7000円となり,A再更正により納付すべき
税額28億7040万9300円を上回ることが明らかである。
()控訴人Bが納付すべき昭和62年分の所得税2
当事者間に争いのない事実及び以上の認定判断によれば,昭和62年分の控
訴人B給与所得の金額,一時所得の金額及び所得控除の額は「事実及び理由」,
欄の「第2事案の概要」3の()のアの(ア)及び(イ),イ記載のとおりとなる。2
しかし,前記のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第二事
案の概要」一の4,控訴人Bは,昭和62年3月11日に引き受けた本件株式)
84万株のうちの18万7000株(B譲渡株)を,同月26日,Hに譲渡し
ていることは当事者間に争いがないのであるから,上記譲渡による所得は,す
べて取得の日以後5年以内にされた譲渡に基づくものとして,短期譲渡所得に
当たるものというべきである。そして,既に認定説示したところによれば,短
期譲渡所得の金額は,以下のアの短期譲渡所得の収入金額から,イの取得費及
びウの譲渡費用を控除し,さらに,エの特別控除額を控除した,2497万8
800円となる。
ア短期譲渡所得の収入金額
①時価(純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの))
4490円
②配当期待金額―円
③譲渡価額(①−②)4490円
④譲渡株数18万7000株
⑤短期譲渡所得の収入金額(③×④)8億3963万円
イ取得費の額
別表2の5〔取得費〕欄1及び2のとおり,譲渡所得に係る取得費の計算
の基礎となる1株当たりの価額は4351円となるから,これに譲渡株式数
を乗ずると,取得費の価額は,8億1363万7000円となる。
ウ譲渡費用の額51万4200円
別表2の5〔譲渡費用〕欄①ないし⑤記載のとおり算出される有価証券取
引税額である。
エ特別控除額50万円
以上に認定説示したところによれば,控訴人Bの昭和62年分の総所得金額
は16億6507万3805円となる。
上記認定に加え,控訴人Bの昭和62年分の源泉徴収税額が425万164
8円であることは当事者間に争いがないから,控訴人Bの納付すべき同年分の
所得税額は,9億8696万円となり,B再更正により納付すべき税額9億8
679万7000円を上回ることが明らかである。
()控訴会社が納付すべき昭和62年3月分の源泉所得税3
当事者間に争いのない事実及び以上に認定説示したところによれば,控訴会
社が控訴人Aに対し,昭和62年3月30日及び同月31日の両日,譲り渡し
たF株の時価と譲受け価額との差額に相当する賞与について,所得税法186
条2項1号(昭和59年法律第5号による改正後で,昭和62年法律第96号
による改正前のもの。以下同じ)の規定に基づいて徴収すべき税額は,10億。
2403万6584円となることが計算上明らかである。
以上()から()の説示したところによれば,本件再更正等は,いずれも適法で13
ある。
7結論
以上によれば,本件各再更正等の取消しを求める控訴人らの請求(控訴人Aの
予備的請求を除く)はいずれも理由がなく,控訴人Aの予備的請求にかかる訴え。
は不適法であって,控訴人らの上記請求を棄却し,控訴人Aの予備的請求にかか
る訴えを却下する限度で効力を有する原判決は,相当というべきであるから,本
件控訴はいずれも棄却すべきである。
そこで,訴訟費用の負担について検討すると「第2事案の概要」1及び2記,
載の,紛争の経緯と本件各再更正等に至る経緯によれば,①本件訴訟提起当時
において,被控訴人武蔵府中税務署長は,控訴人Aの納付すべき昭和62年分の
所得税額を42億6449万0900円とするA更正を,被控訴人渋谷税務署長
は,控訴人Bの納付すべき昭和62年分の所得税額を10億6939万2400
円とするB更正(裁決によって一部取り消された後のもの)を,被控訴人新宿税
務署長は,控訴会社が納付すべき昭和62年3月分の源泉所得税額を25億05
10万4982円であるとする本件納税告知(裁決によって一部取り消された後
のもの)を維持していたこと,②控訴人Aは,A更正のうち,納付すべき税額
1001万2900円を超える部分の,控訴人Bは,上記のB更正のうち,納付
すべき税額4億2595万0600円を超える部分の,控訴会社は上記の本件納
税告知の各取消しを請求したが,その請求を全部棄却され,かつ,訴訟費用の負
担を命じられたこと,③しかし,本件上告審判決を受けて,被控訴人らは,平
成17年12月16日付けで各再更正及び訂正の告知を行い,差戻後の当審の口
頭弁論終結時においては,被控訴人武蔵府中税務署長は,控訴人Aが納付すべき
昭和62年分の所得税額を28億7040万9300円に,被控訴人渋谷税務署
長は,控訴人Bが納付すべき昭和62年分の所得税額を9億8679万7000
円に,被控訴人新宿税務署長は,控訴会社が納付すべき昭和62年3月分の源泉
所得税を10億2403万6584円にそれぞれ減額していることが明らかであ
り,その結果として控訴棄却の判断に至ったのであって,以上の経緯を総合勘案
するならば,差戻前控訴審,上告審及び差戻後の当審において生じた費用を通じ
,。て控訴人ら及び被控訴人らに次のとおり訴訟費用を負担させるのが相当である
,,()控訴人Aと被控訴人武蔵府中税務署長との間に生じた費用はこれを7分し1
その4を同控訴人の,その余を同被控訴人の負担とする。
()控訴人Bと被控訴人渋谷税務署長との間に生じた費用は,これを7分し,そ2
の6を同控訴人の,その余を同被控訴人の負担とする。
()控訴会社と被控訴人新宿税務署長との間に生じた費用は,これを7分し,そ3
の2を控訴会社の,その余を同被控訴人の負担とする。
よって,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官小林克已
裁判官山崎惠
裁判官綿引万里子

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