弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 各弁護人の各上告趣意はいずれも末尾添附別紙記載の通りでありこれに対する当
裁判所の判断は次きの如くである。
 弁護人鍜冶利一のA、Bの為めの第二上告趣旨第一及第二点に付て。
 刑訴応急措置法第十二条は違憲のものでなく所論の様な聴取書及訊問調書を証拠
に採ることの違憲、違法でないことは、昭和二三年(れ)第八三三号事件(昭和二
四年五月一八日言渡)において同弁護人の本上告論旨と全然同様の論旨に付き当裁
判所大法廷の判示する処である論旨は採用し難い。
 同弁護人のAの為めの上告趣旨第七点に付て。
 犯罪事実の一部たる所論の様な点に付き被告人本人の自白のみでも差支ないこと
及被告人の自白と相被告人の自白を綜合して事実を認定しても差支ないことはいず
れも当裁判所大法廷の判示する処であつて原判決には所論の様な違法はない論旨は
理由がない(昭和二三年(れ)第一六八号事件昭和二三年七月二九日言渡判決、昭
和二三年(れ)第一一二号事件昭和二三年七月一四日言渡判決)。
 弁護人三宅正太郎の上告趣旨第一点及弁護人鍜冶利一のAの為めの上告趣旨第五
点に付て。
 適法な手続で訊問された証人の証言は法令に別段の定ある場合(例へば刑訴応急
措置法第一二条第一項の如き)を除いては其内容の如何を問わず本件に適用ある旧
刑事訴訟法上証拠能力があるのであつて、その証人が過去において事件に関与した
立場や、証言の内容の如何によつてその証人の証人たる資格や、証言の証拠能力を
制限した法則はない、本件においてCに対する訊問は法定の手続に従つてなされて
いるのであるから、その証言の内容が所論の様な内容のものであるとの故を以て証
拠能力がないということは出来ない、また所論の様な伝聞や証人の主観的意見(こ
れによつて其証人がそういう意見を持つたという事実は立証される)はその証明力
は一般的に甚だ弱いものであるといわなければならないから、他の証拠なく専らこ
れ等のものだけで事実を認定したようなときは、場合によつては、これ等の証拠に
実験則上認めることの出来ない不当に高い証拠価値を附与したものとして採証上の
法則に反するものというべき場合もあるかも知れないしかし此の様な証拠を他の証
拠と綜合して事実を認定したときは、これ等の証拠が皆証拠能力のあるものであつ
て、これを綜合すればその事実を認定することが出来る限り、其中の一部の証拠が
右の様な証明力の弱いものであるからといつて、それだけの理由で右認定が実験則
に反するということは出来ない、本件において所論Cの証言は他の多数の証拠と綜
合して被告人Aと同BがDを斬つた事実を認定するに用いられているのであること
は判文上明瞭であつて、これ等原判決挙示の証拠を綜合すれば原審の様な認定が出
来るのである、其故右Cの証言が論旨の様に証明力の弱いものであるからといつて
該認定全体が実験則に反する違法のものとする論旨は当らない、要するに本件に適
用ある訴訟法の下においては右Cの証言を事実認定の一資料として挙示した原審の
措置を違法なりとすることは出来ない論旨は採用し難い。
 弁護人三宅正太郎の上告趣旨第二点に付て。
 記録を見るとDに対する司法警察官の訊問調書の冒頭には同人をE病院において
訊問した旨明記してあつて、右E病院の所在地の記載こそないが、それは記録にお
ける他の証拠で明にわかるのであるから、これを以て取調をした場所の記載がない
とはいえない、論旨は理由がない。
 同第三点に付て。
 記録を調査すると原審は第一回公判において第一審における検証調書のみの証拠
調をなし、強制処分における検証調書の証拠調をして居ないが、第六回公判におい
て審理を更新した上強制処分における検証調書も適法に証拠調をして居るから論旨
は理由がない。
 同第四点に付て。
 記録を調査すると原審第一回公判調書には裁判長が鑑定人の鑑定書について証拠
調をしたことが記載されていて、同第六回公判調書には第一回公判調書に記載され
た各書類の外に、更に鑑定人Fの鑑定書の証拠調をしたことが記載されている、そ
して本件において鑑定人の鑑定書は右Fの作成にかかるものの外には鑑定人G作成
のものだけであるから、右第一回公判調書にいわゆる鑑定人の鑑定書は鑑定人Gの
鑑定書を指すこと明である従つて右鑑定書も第六回公判において適法な証拠調を経
たこと記録上明瞭であるから、論旨は理由がない。
 同第五点に付て。
 刑訴応急措置法第一二条第一項は同条所定の書類については被告人の請求あると
きは公判期日において、その供述者又は作成者を訊問する機会を被告人に与えなけ
ればこれを証拠とすることが出来ない旨を規定しているだけで、右訊問の結果が書
類の記載と異る場合において、書類の証拠能力又は証明力を制限する趣旨の規定で
はない、右の様な場合に書類の記載と公判廷における供述とのいずれを採るかは証
拠の取捨撰択一般の場合と同じく原審の専権に属するものである、又旧刑訴訟法第
三六〇条によつて判決には証拠によつて事実を認定した理由を説明しなければなら
ないけれども、証拠を取捨撰択した理由を説明することは法の要求する処でない、
此ことは所論の様な場合でも異るところはない、論旨は採用し難い。
 弁護人鍜冶利一のAの為めの上告趣旨第六点に付いて。
 証人の供述の一部を措信してこれを証拠に採り他の部分を措信出来ないものとし
て排斥することは証拠の取捨選択の一の場合として事実審の自由採量の範囲に属す
る、尤も此点に付いて全く分離することの出来ない一個の供述の一部を切り離して
其全体と反対の趣旨において証拠に採ることは許されない旨の当裁判所第一小法廷
の判例があるけれども、本件の場合はその様なものではない、原判決の引用する部
分は所論供述の趣旨を変更して居るものではないから論旨は理由がない。
 同弁護人の被告人A同B両名の為めの第二上告趣旨第三点及弁護人有吉実の上告
趣旨第三点について。
 日本刀の刀身に附着した血液は容易に拭い取ることが出来るものであること実験
則上明である(此の点鑑定人Fの鑑定書にも所論G鑑定人の鑑定書の次にある刀匠
の証言にもあるし所論鑑定書にも拭い取ることも出来ないとは書いてない)事件後
相当期間を経過した後に同所論の日本刀に血液が附着して居なかつた一事によつて
被告人AがDを斬らなかつたと断定することは出来ない、Dが斬られてから同被告
人等が逮捕される迄の間に右日本刀を拭う暇さえ無かつたという弁論人の主張は記
録上到底是認出来ない処である、そして原審が其挙示の証拠によつてAがDを斬つ
た事実を認定したことに実験則に反する処はないから論旨は理由がない。
 各弁護人の其余の各論旨はいずれも結局原審の事実認定の批難に帰する、原審挙
示の証拠によれば被告人等に殺意(少なくとも未必の故意)があつたこと及び犯行
当時被告人等の間に互に意思の連絡のあつたことは十分これを認めることが出来る
(共同正犯たるには論旨のいう様に互に相談等したことを要するものではない、犯
行をするとき互の間に意思の連絡があれば足りるので本件の場合被告人等の間に意
思の連絡があつたことは論旨に摘録してある証拠だけでも明に認められる)故に原
審が殺人の規定及共同正犯の規定を適用したことを批難する論旨は総て理由がない、
それから原審は被告人等の行為は狼狽、恐怖、興奮、驚愕等によつたものとは認め
られないと判示して居るのであるから、犯行の場所が所論の「現場」といえると否
とに拘わらず盗難等の防止及処分に関する法律の第一条第一項をも第二項をも適用
しなかつたのは当然であり又正当防衛、又は所謂誤想防衛に関する事実を認定して
居ないのであるからこれ等に関する規定を適用しなかつたのも当然である、原審は
D等が兇器を所持して来た事実も暴行に着手しようとした事実も容易に認められな
いと判示して居るのであつて、記録を通覧すると原審が右の様に認定して狼狽、驚
愕、恐怖、興奮等によるものとは認められないとしたのも決して実験則に反する違
法のものとすることは出来ない、(此点に付て論旨に摘録してある「庭に落ちて居
た短刀は被告人等側の者の所有ではない」とか「Dがドスを持つて来たとか」の証
言はいずれも原審の採用しないものである)論旨は要するに記録に存する各種の資
料中から被告人等に有利な資料を(其中には原審の採用しない証拠も沢山あるので、
これ等を根拠として原判決を攻撃するのは上告適法の理由とならない)摘き出し、
これに被告人等に有利な想像、解釈を加えて原審の認定しない事実を作り出し、こ
れに基いて原判決を攻撃して居るのであつて上告適法の理由とならないものである、
記録全体を通覧して見ると原審の認定を実験則に反するものと断ずることは到底出
来ない、論旨にいう様な想像も出来るかも知れないけれども反対の考え方も出来る、
例えば論旨では被告人Aはもと博徒であつたからやくざのすることはよく知つて居
るだけ余計に恐怖心を起したのだといつて居るけれども、反対にもと博徒であつた
から度胸がよく又やくざの談判、交渉等には慣れて居て少しも驚かず、自分達が奥
の室にある日本刀を取つて武装する迄の間「煙草を持つて来い」とか「シヤツを持
つて来い」とかくだらない事をいつて所謂「時をかせいで」居たのだという風にも
考えられなくはない、(実際日本刀を取ると直ちに攻撃に出て相手が逃げるのもか
まわず斬り殺したのである)又雨戸をしめさせたことも論旨にいう様になぐり込み
が必ず来ると思つた為めではなく万一に備えるつもりだつたと考えることも出来る
であろう、万事がこういう風で想像や理窟は本件の場合どちらにでもつけられる、
要するに記録全体を通覧し総ての資料を対比綜合して見ると本件は到底正当防衛と
か前記盗難防止に関する法律とかを適用して無罪と為すべき事案でないとした原審
の判断を実験則に反する違法のものとすることは出来ない、なお誤想防衛に関する
主張は、たとえそういう事実があつたとしても裁判所は必ず刑の減免をしなければ
ならないものではないからその主張は刑事訴訟法第三六〇条第二項の主張には当ら
ない従つて原審がこれに付き特に判断を示さなくても違法ではない、論旨はいずれ
も採用出来ない。
 よつて上告を理由なしとし旧刑事訴訟法第四四六条最高裁判所裁判事務処理規律
第九条第四項に従つて主文の如く判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二四年七月一二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    河   村   又   介

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