弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人Aを懲役一年に処する。
     第一審における未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入する。
     但し三年間右懲役刑の執行を猶予する。
     押収に係る偽造公文書二通(証第一五号)を没収する。
     押収に係る小刀和泉守国貞(証第三号)は被害者B寺ことC神社に、太
刀橘常光(証第四号)同佐賀吉広(証第一九号)、脇差無銘(証第二一号)は被害
者Dに、太刀肥前国忠吉(証第五号)同勢州桑名住村正(証第八号)は原判示第一
(四)の被害者(氏名不詳)に、脇差延寿国昌(証第一七号)太刀助宗(証第一八
号)は被害者Eにそれぞれ還付する。
     原審の訴訟費用(但し証人Fに支給した分を除く)は被告人Aの負担と
する。
     本件公訴事実中木炭についての臨時物資需給調整法違反の事実について
は被告人Aを免訴する。
     被告人Gの上告はこれを棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人阿比留兼吉の上告趣意第一点について。
 しかし原審第九回(昭和二四年一〇月二〇日)公判調書によれば裁判長は各証人
訊問調書の取調をした旨の記載があり(記録五九六頁裏以下)之により所論の各証
人訊問調書についても適法に証拠調が為されたことが明らかであるから論旨は理由
かない。
 同第二点について。
 銃砲等所持禁止令は昭和二〇年勅令第五四二号(ポツダム宣言の受諾に伴い発す
る命令に関する件)に基き制定せられたものであるが、同令が新旧いづれの憲法に
おいても有效であることは当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第二七九号、同二三
年六月二三日大法廷判決、集二巻七号七二二頁)とするところである。そして同令
が所論昭和二二年法律第七二号日本国憲法施行の際現に效力を有する命令の規定の
效力等に関する法律第一条の適用を受けるものでないことは同法第一条の二の追加
規定からみても明らかなところであるから同令が昭和二三年一月一日以降失效した
ことを前提とする所論は採用できない、(なお銃砲等所持禁止令は銃砲刀剣類等所
持取締令「昭和二五年一一月一五日政令第三三四号昭和二五年一一月二日施行」附
則第二項で廃止されたが同第三項で「この政令施行前にした旧銃砲等所持禁止令に
違反する行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例による」と規定せられ、
次いで右銃砲刀剣類等所持取締令は昭和二七年三月二八日法律第一三号により平和
条約效力発生以後は法律としての效力を有するものとせられたのであるから旧銃砲
等所持禁止令廃止前に為された同令違反行為は今日においてもなお同令によりこれ
を処罰することができるのである)。
 同第三点について。
 しかし相被告人Gに所論各証明書を作成する権限があるということは原判決の認
定していない事実である(却つて原判決は同人に右権限がなかつたと判定している
のである)。そして原判示第一の(五)の事実は挙示の各証拠によつてこれを認定
できるのであるから原判決が被告人の右所為に対して刑法第一五五条第一項第六〇
条を適用したのは固より正当である。所論は原審の採用しない証據に基き原審の認
定しない事実を基礎として原判決を非難するものであつて採用することができない。
 同第六点について。
 横領罪は自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に発現する行為が
あつたときに成立するものである。そしてその不法領得の意思を発現する行為は必
ずしもその物の処分のような客観的な領得行為たることを要せず、単に領得の意思
をもつて為した行為たるをもつて足るのである。原判示によれば被告人は昭和二一
年夏Eから同人所有の脇差延寿国昌(証第一七号)及び太刀助宗(証第一八号)に
ついて銃砲等所持禁止令による保管許可申請手続をすることを頼まれてこれを受取
り恩賜京都博物館第八号室の蹴込に置いて保管中これを自分の物として日頃交際す
る警察官に贈与する目的で故ら所定期日の昭和二一年一〇月一四日迄にその手続を
せず以後擅に自己の為にこれを前記場所に蔵置していたというのであり、右事実は
原判決挙示の各証拠によりこれを認めることができるのである。そして右判示事実
によれば被告人に不法領得の意思を表現する行為があつたものと認められるから原
判決には所論の如き違法はなく論旨は理由がない。
 同第七点について。
 しかし原判決認定の事実はその挙示する証拠によつてこれを認定することができ
るし、被告人にその業務上保管中の判示物件につき不法領得の意思を表現する行為
があつたものと認められること前点につき説明したところと同様であるから論旨は
採用できない。
 同第八点について。
 行為者間に共同行為の認識があり互に一方の行為を利用し合つて犯罪事実を実現
せしめた以上共同正犯が成立するのである。そして原判示第一の(四)の事実は挙
示の証拠によりこれを認定できるのであり、これによれば右犯行については被告人
とHとの間に共同行為の認識があり互に他の一方の行為を利用し合つて為されたも
のであることが明らかであるから原判決には所論の違法なく論旨は理由がない。
 同第九点について。
 所論の証明書中の一通(証第一五号の二)は原判決において被告人が業務上横領
したと認定した原判示第一の(四)の小刀和泉守国貞(証第三号)に関するもので
あることは所論のとおりであるが、この小刀が既に没収になつていたと認むべき証
拠もなく、原判示第一の(四)においても右小刀が既に没収になつたものであるこ
とは何等確定していないのである。所論は右小刀が既に没収になつていることを前
提とする議論で採用の限りではない。
 同第一〇点について。
 然し原判決認定の事実はその挙示の各証拠によつてこれを認定できるのである。
又銃砲等無許可所持の罪は銃砲等所持禁止令第一条の規定に違反し許可を受けずし
て銃砲等を所持することによつて直ちに成立する罪であり(同令第二条)たとえ判
示の刀剣につき後にその保管を許可された事実があつたとしてもその許可の前提た
る許可申請は同令施行の日たる昭和二一年六月一五日から遅くとも同年一〇月一四
日迄に為されていなければならないこと同令附則に徴して明らかである。本件につ
いては右期間内にその許可申請がなされたことが認められないから許可があつたと
してもその許可は犯罪の成否には関係がないものというべきである。従つて所論は
採用の限りではない。
 被告人A弁護人草野豹一郎の上告趣意第一点について。
 しかし原審第四回公判調書に依るとその裁判所の構成は第一回公判のときと同じ
だと云うことになつており第一回公判の構成が裁判長判事富田仲次郎、判事中治武
二、同林平八郎であることはその公判調書で明らかであるから第四回公判の構成が
右の三判事であることは明白であるのみならず、第二回公判は裁判長判事富田仲次
郎、判事吉田正雄、同林平八郎の構成で審理されたのであるが、第三回公判は第一
回と同じ構成で開廷されたが何等審理に入ることなく変更された期日であつて、第
二回公判と第四回公判との間には十五日以上経過して居り又構成も替つて居るので
当然更新手続が為されねばならなかつたことから考えると第四回公判調書に前回と
あるのは第三回公判を指すのではなく、第二回公判の意味であることが明らかであ
る。従つて第四回公判に如何なる裁判官が関与したか不明であるとの所論は到底採
るを得ない。
 同第三点について。
 右に対する判断は阿比留弁護人の上告趣意第三点に対する判断と同一である。
 被告人A弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について。
 しかし原判決の挙示する各証拠によれば原判示の事実を認定できるのであつて其
の間何等所論の如き採証法則の違反があると認めることはできない。論旨は理由が
ない。
 同第二点について。
 右に対する判断は阿比留弁護人の上告趣意第六点に説明したところと同一である。
 同第三点について。
 しかし原判示第一の(四)の事実は挙示の証拠により之を認定できるのであり原
判決がC神社所有の和泉守国貞と被告人 持ち帰つたそれとが同一であると認定し
た趣旨であることは原判文自体から明白であるから論旨は理由がない。
 同第四点について。
 右に対する判断は阿比留弁護人上告趣意第七点について説明したとおりである。
 被告人A弁護人大井尚俊の上告趣意第一点中(ロ)乃至(へ)について。
 所論は事実誤認の主張で適法な上告理由に当らない。
 同第二点について。
 所論は最刑不当の主張であるから適法な上告理由に該らない。
 被告人G弁護人野呂清一の上告趣意第一点について。
 しかし原判決挙示の証拠により原判示第二の事実は十分認定できるのであるから
原判決には所論の如き理由齟齬の違法なく論旨は採用できない。
 同第二点について。
 原判決が被告人の原判示第二の所為につき刑法第一五五条第一項を適用したこと
の正当なることは阿比留弁護人の上告趣意第三点について説明したとおりである。
 次に職権により調査するに被告人Aに対する公訴事実中原判示第一の(一)の事
実については昭和二七年政令第一一七号一条八八号により大赦があつたので刑訴施
行法二条旧刑訴四五五条三六三条四四八条により原判決中被告人Aに関する部分を
破棄し同被告人に対し右公訴事実については免訴の言渡をなすべきものとする。従
つて弁護人大井尚俊の上告趣意第一点の(イ)、阿比留兼吉の上告趣意第四点及び
第五点、同草野豹一郎の上告趣意第二点並びに同鍛治利一の上告趣意第五点につい
ては判断を省略する。
 よつて原判決が被告人Aに対して証拠によつて確定した右大赦にかからない事実
即ち原判示第一の(二)乃至(六)の事実を法律に照らすに(二)は刑法二五二条
一項、(三)は同法二五三条、(四)は同法六五条一、二項、二五三条に当り同法
二五二条の刑を科すべく以上(二)乃至(四)は連続しているので同法五五条(昭
和二二年法律第一二四号附則四項)により業務上一罪とし(五)、は同法六〇条、
一五五条一項、五五条、(六)は銃砲等所持禁止令一条二条同令施行規則一条、(
銃砲刀剣類等所持取締令附則三項昭和二七年法律第一三号、但し刑法六条一〇条に
より罰金等臨時措置法二条は適用しない。懲役刑選択。)に当るところ以上は刑法
四五条前段の併合罪であるから同法四七条一〇条により最も重い公文書偽造罪の刑
に法定の加重をした刑期範囲内で被告人Aを懲役一年に処し同法二一条により第一
審における未決勾留日数中大〇日を右本刑に算入し、同法二五条により三年間右懲
役刑の執行を猶予すべく、没収につき同法一九条押収品の被害者還付につき刑訴施
行法二条旧刑訴三七三条、訴訟費用の負担につき刑訴施行法二条旧刑訴法二三七条
を適用する。又被告人Gの上告は理由がないから刑訴施行法二条旧刑訴四四六条を
適用し主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和二七年一〇月一七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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