弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人渡辺里樹の上告理由第一点および第二点について。
 原判決は、被控訴会社(上告人)代表者Dが、昭和三六年七月頃、訴外E株式会
社代表者Fから、右Eが多額の債務を負つて経営に行きづまつているので、被控訴
会社振出の手形を債権者に示して債務支払の猶予をうるために約束手形を振り出さ
れたい旨依頼され、被控訴会社において一切手形上の責任を負わない約束のもとに
これを承諾し、甲第一号証の一ないし四の各約束手形用紙の振出人欄および右各用
紙に貼られた金額五〇円の収入印紙に被控訴会社代表者の印を自ら押印し、金額、
満期、支払地、支払場所、振出地、振出日、受取人の各欄を白地としてこれを前記
Eに交付した旨の事実を認定したものであつて、右事実認定は、原判決挙示の証拠
により肯認できる。訴外E株式会社において、右手形用紙を被控訴会社振出手形と
してその債権者に対する見せ手形に使用するためには、被控訴会社代表者の署名が
完備し、その他の手形要件も金額、満期など主要な事項が記入済みでなければその
役に立たないから、右の事実関係の下においては、特段の事情がない限り、被控訴
会社代表者Dにおいて、右手形用紙に自己の名称を記入することやその他の手形要
件の記入を右訴外人に委託したものと推認することができる。原判決は、被控訴会
社とE間において、被控訴会社の承諾をえた上で前記手形用紙の未補充部分の補充
をなすべき約束があつた旨を供述する各証人および被椌訴会社代表者本人の証言を
措信しない旨判示するが、原審の右証拠の取捨を違法とすべき廉が見受けられない。
右のような特段の約定もなく前記手形の授受が行われたとすれば、原審がその挙示
の証拠により、被控訴会社代表者DがEに対し右手形用紙に右Dの名称を記入する
権限および他の手形要件の白地補充権を附与した旨認定した(金額については、D
が手形用紙添付の五〇円の収入印紙に押印した事実により、五〇万円の限度内にお
いて補充すべき旨の白地補充権の制限が附せられたと認定している。)ことをもつ
て、所論のように理由不備、理由齟齬の違法があるとはいえない。所論の指摘する
乙第一号証も右認定の妨げとなるものではない。なお、原判決は、被控訴会社代表
者DはEに対し、Dの署名の代理権を付与した旨判示するが、手形の署名自体は事
実行為であつて意思表示ではないから、これにつき代理はありえないのみならず、
原判決は、右Dが自ら手形振出をなしたことを前提とし、未記載の手形用件の補充
権をEに付与した旨判示しているところに徴すれば、原判決の趣旨は、DはEに対
し、単にDの氏名の記入行為をする権限を附与した旨を判示したものであつて、手
形振出の代理権を附与したものと判示したものではないと解すべきである。而して、
Eは、前記のように本件手形の振出人の署名欄に押捺された被控訴会社代表者印の
上にA株式会社代表取締役Dと記入したことは原判決の確定するところであるから、
これにより右Dの本件手形振出人としての署名は完成したものというべきである。
その他の手形要件についても、原判決は、Eおよび控訴人(被上告人)において前
記のように附与を受けた白地補充権を行使して白地部分の記入をなしたことを確定
しているから、手形振出人の押印のみで手形振出の効力を認めたとして原判決を非
難する所論はその前提を欠く。論旨はいずれも採用できない。
 同第三点について。
 本件記録によれば、証人Fは、第一審および第二審において、数度におよぶ呼出
にもかかわらず出頭せず、不出頭に対する過料の制裁を受けながらその後の呼出に
もなお出頭しなかつたことが認められる。その他原審における本件審理の経過に徴
すれば、原審において右証人の採用を取消し、右証人の訊問をなすことなく口頭弁
論を終結したことをもつて審理不尽の違法があるということはできない。論旨は採
用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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