弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決のうち上告人の敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人山崎利男,同松本哲哉の上告理由について
1本件は,白山市(以下「市」という。)の市長の職にあった者がA神社(以
下「本件神社」という。)の鎮座2100年を記念する大祭に係る諸事業の奉賛を
目的とする団体の発会式に出席して祝辞を述べたことが,憲法上の政教分離原則及
びそれに基づく憲法の諸規定(20条1項後段,3項,89条。以下「政教分離規
定」という。)に違反する行為であり,その出席に伴う運転職員の手当等に係る違
法な公金の支出により市が損害を受けたとして,市の住民である被上告人が,上告
人に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,その支出当時市長の職に
あった者に上記支出相当額の損害賠償の請求をすることを求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)本件神社は,全国に多数存在する白山神社の総社として市内に所在する神
社であり,宗教法人である。本件神社は,古来からその存在が知られており,例年
多数の初詣の参詣客が訪れるとともに,平素に訪れる参詣客等も相当多数に上って
いる。また,本件神社が所在する白山周辺地域については,その観光資源の保護開
発及び観光諸施設の整備を目的とする財団法人B協会が設けられている。
(2)本件神社では,鎮座2100年を記念して,平成20年10月に5日間に
わたり御鎮座二千百年式年大祭(以下「本件大祭」という。)が行われることとな
り,同17年,本件大祭に係る諸事業の奉賛を目的とする団体として同大祭奉賛会
(以下「奉賛会」という。)が発足した。奉賛会の規約では,上記の目的が掲げら
れたほか,事業内容として,本件大祭の斎行,本件神社の諸施設の工事等が挙げら
れていた。
(3)平成17年6月,市内の一般の施設である「C」で開かれた奉賛会の発会
式(以下「本件発会式」という。)に,当時市長の職にあったDは来賓として招か
れ,職員の運転する公用車を使って出席し,祝辞を述べた。本件発会式の式次第
は,開会の辞,会長あいさつ,来賓祝辞,役員紹介,来賓紹介,事業計画説明,宮
司御礼の言葉,乾杯及びあいさつ並びに閉会の辞というものであり,関係者約12
0名が出席し,約40分ほどで終了した。
(4)市の主務課長は,専決により,本件発会式への上記出席に伴う勤務に係る
部分を含む上記運転職員の時間外勤務手当につき支出命令をし,当該手当の支出が
された。
3原審は,上記事実関係等の下において次のとおり判断し,被上告人の請求を
一部認容した。
奉賛会の事業は,本件神社の宗教上の祭祀である本件大祭を奉賛する宗教活動で
あり,本件発会式は,上記宗教活動を遂行するために,その意思を確認し合い,奉
賛会の発足と活動の開始を宣明する目的で開催されたものである。そして,その当
時市長の職にあったDが本件発会式に出席して祝辞を述べた行為は,上記宗教活動
につき賛同,賛助及び祝賀の趣旨を表明し,ひいては本件神社の宗教上の祭祀であ
る本件大祭を奉賛し祝賀する趣旨を表明したものと解されるから,市長としての社
会的儀礼の範囲を逸脱している。したがって,その当時市長の職にあった同人の上
記行為は,その目的が宗教的意義を持ち,かつ,その効果が特定の宗教に対する援
助,助長,促進になる行為であり,憲法20条3項の禁止する宗教的活動に当た
り,前記時間外勤務手当のうち上記行為に伴う部分の支出は違法である。そして,
その当時市長の職にあった同人は,当該支出を阻止すべき指揮監督上の義務に違反
し,故意又は過失によりこれを阻止しなかったものとして,市に対し,上記支出相
当額の損害を賠償する義務を負う。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係等によれば,本件大祭は本件神社の鎮座2100年を記念する宗教
上の祭祀であり,本件発会式は本件大祭に係る諸事業の奉賛を目的とする奉賛会の
発会に係る行事であるから,これに出席して祝辞を述べる行為が宗教とのかかわり
合いを持つものであることは否定し難い。
他方で,前記事実関係等によれば,本件神社には多数の参詣客等が訪れ,その所
在する白山周辺地域につき観光資源の保護開発及び観光諸施設の整備を目的とする
財団法人が設けられるなど,地元にとって,本件神社は重要な観光資源としての側
面を有していたものであり,本件大祭は観光上重要な行事であったというべきであ
る。奉賛会は,このような性質を有する行事としての本件大祭に係る諸事業の奉賛
を目的とする団体であり,その事業自体が観光振興的な意義を相応に有するもので
あって,その発会に係る行事としての本件発会式も,本件神社内ではなく,市内の
一般の施設で行われ,その式次第は一般的な団体設立の式典等におけるものと変わ
らず,宗教的儀式を伴うものではなかったものである。そして,Dはこのような本
件発会式に来賓である地元の市長として招かれ,出席して祝辞を述べたものである
ところ,その祝辞の内容が,一般の儀礼的な祝辞の範囲を超えて宗教的な意味合い
を有するものであったともうかがわれない。
そうすると,当時市長の職にあったDが本件発会式に出席して祝辞を述べた行為
は,市長が地元の観光振興に尽力すべき立場にあり,本件発会式が上記のような観
光振興的な意義を相応に有する事業の奉賛を目的とする団体の発会に係る行事であ
ることも踏まえ,このような団体の主催する当該発会式に来賓として招かれたのに
応じて,これに対する市長としての社会的儀礼を尽くす目的で行われたものであ
り,宗教的色彩を帯びない儀礼的行為の範囲にとどまる態様のものであって,特定
の宗教に対する援助,助長,促進になるような効果を伴うものでもなかったという
べきである。したがって,これらの諸事情を総合的に考慮すれば,Dの上記行為
は,宗教とのかかわり合いの程度が,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信
教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超える
ものとは認められず,憲法上の政教分離原則及びそれに基づく政教分離規定に違反
するものではないと解するのが相当である。
以上の点は,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和46年(行ツ)第69号同52年
7月13日判決・民集31巻4号533頁,最高裁平成4年(行ツ)第156号同
9年4月2日判決・民集51巻4号1673頁,最高裁平成19年(行ツ)第26
0号同22年1月20日判決・民集64巻1号登載予定等)の趣旨に徴して明らか
というべきである。
5以上によれば,これと異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすこと
が明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分
は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,上記部分に関する被上告人の請求
は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき被上
告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官白木勇裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
金築誠志裁判官横田尤孝)

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