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裁判例


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平成15年・第313号,第403号,第506号
 刑務所を出所後に無為徒食の生活をしていた被告人が,たまたま上がり込んだ1
人暮らしの老女の家で,同女を殺害して現金約7000円を奪うなどした事案につ
き,被告人に求刑どおりの無期懲役を言い渡した判決
主       文
        被告人を無期懲役に処する。
        未決勾留日数中160日をその刑に算入する。
理       由
(犯行に至る経緯)
 被告人は,2人兄弟の次男として甲府市において出生したが,中学校時代から勉
強が苦手で,学校をさぼることが多く,非行に走るようになり,昭和42年に車上
荒らしをして東京医療少年院に入院した。少年院入院中に中学校を卒業し,1年く
らいで少年院を退院するも,少年院退院後は親元に寄りつかず,塗装工やホテル従
業員等の職を転々としていたが,その間,昭和46年にひったくりをして,再び東
京医療少年院に入院させられたのを皮切りに,車を盗んだり,車上荒らしをした
り,空き巣に入ったりを繰り返して,窃盗や常習累犯窃盗の罪で何度も刑務所に服
役した。最近では,平成14年11月に甲府地方裁判所で,交際中の女性と喧嘩に
なり,同女に怪我を負わせたことなどにより懲役8月の実刑判決を受け,服役し,
平成15年6月27日
に甲府刑務所を満期出所した。出所直後は,まじめにやるには仕事を見つけなけれ
ばと思い,心当たりをいくつか当たったが,簡単には仕事が見つからず,世間の厳
しさを思い知らされたため,すぐに自暴自棄な心境になり,泥棒をして生活してい
こうと思い立ち,公園で野宿して車上荒らしや空き巣狙いを繰り返すなど無為徒食
の生活を送るようになった。
(犯罪事実)
第1 被告人は,別表甲記載のとおり,平成15年6月29日ころから同年7月2
日ころまでの間,前後3回にわたり,金品窃取の目的で,山梨県東八代郡a町bc
番地A方ほか2か所において,同表の「侵入態様」欄記載の態様で侵入して,同人
ほか2名の所有する現金合計約5万円を窃取した。
第2 被告人は,別表乙記載のとおり,平成15年7月4日ころから同年8月2日
ころまでの間,前後7回にわたり,甲府市de丁目f番g号有限会社B東側路上ほ
か6か所において,Cほか6名所有の現金合計約8万8000円及び普通乗用自動
車等23点(時価合計約29万6500円相当)を窃取した。
第3 被告人は,平成15年7月18日午前零時ころ,甲府市h町i番j号スナッ
ク「D」店内において,同店経営者E(当時59歳)から閉店時間である旨告げら
れたことなどに激高し,同女に対し,その左大腿部及び左膝部を足蹴にする暴行を
加え,よって,同人に加療約10日間を要する左大腿打撲,急性腰痛症の傷害を負
わせた。
第4 被告人は,平成15年7月25日,これまでの所持金を使い果たしたため,
以前も金銭面で世話になったことのある知人に金を借りようと考え,同日午後1時
前後ころ,同人の居住する山梨県東八代郡a町kl番地のm町営住宅n団地を訪
れ,徒歩で知人の住む同団地1号に向かっていたが,偶然掃き出し窓から外を見て
いた同団地6号に単身居住するFを見かけて挨拶を交わしたところ,同団地に居住
し被告人が以前交際していた女性が死亡したことが話題になり,上記掃き出し窓の
敷居に腰掛けて上記Fと話を続けることになった。やがて,話の途中で同
女がトイレに立ったが,そのとき,被告人は,上記掃き出し窓近くの炬燵
の上に置かれていた財布に気づいた。被告人は,所持金がなく現金がほしかったた
め,財布を手に取りチャッ
クを開いて紙幣が入っていることを確認していたが,その最中にトイレか
ら戻った同女から「お兄ちゃん何してるで」とこれを見咎められた。被告人は,警
察に通報されることを恐れ,咄嗟に,土足で部屋に上がり込んで同女に飛びかかっ
た。このとき,被告人は,同女を殺害して財布の中の現金を強取しようと決意し
た。こうして,被告人は,同日午後2時前後ころ,上記団地6号F(当時67歳)
方において,同女から金員を強取しようと企て,殺意をもって,同女に対し,同女
の背後から,自己の右腕を同女の首に回して締め付けたが,同女もろともその場に
仰向けに転倒して被告人の腹部の上に同女が仰向けに乗る姿勢になったと
ころをさらに,同女の背後から,手近にあった電気コードを同女の頸部に2重に巻
き付け,コードの左右を両
手で強く引いて同女の頸部を絞め続け,よって,そのころ,同所において,同女を
絞頸により窒息死させて殺害した上,同女所有に係る現金約7000円を強取し
た。
第5 被告人は,同月29日午後1時ころ,甲府市o町p番地q株式会社G社員駐
車場において,H所有の軽四乗用自動車1台(時価約10万円相当)を窃取した。
(累犯前科)
 被告人は,・ 平成5年4月9日甲府簡易裁判所で窃盗罪により懲役2年10月
に処せられ,平成12年4月11日その刑の執行を受け終わり,・ その後犯した
傷害,道路交通法違反,道路運送車両法違反,自動車損害賠償保障法違反の罪によ
り平成14年11月26日甲府地方裁判所で懲役8月に処せられ,平成15年6月
26日その刑の執行を受け終わったものであって,上記各事実は検察事務官作成の
前科調書及び上記・の前科に係る判決書謄本によってこれを認める。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の各所為のうち,各住居侵入の点はいずれも刑法130条前段
に,各窃盗の点はいずれも同法235条に,判示第2及び第5の各所為はいずれも
同法235条に,判示第3の所為は同法204条に,判示第4の所為は同法240
条後段にそれぞれ該当するところ,判示第1の各住居侵入と各窃盗との間にはそれ
ぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条によりいずれも1罪
として重い窃盗罪の刑で処断することとし,所定刑中判示第3の罪について懲役刑
を,判示第4の罪について無期懲役刑をそれぞれ選択し,判示第1ないし第3及び
第5の各罪は前記各前科との関係でいずれも3犯であるから,上記各罪につき同法
59条,56条1項,57条によりそれぞれ3犯の加重をし,判示第1ないし第5
の各罪は同法45条
前段の併合罪であるが,判示第4の罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46
条2項本文により他の刑を科さないで,被告人を無期懲役に処し,同法21条を適
用して未決勾留日数中160日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟
法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,刑務所を出所した後に無為徒食の生活を送っていた被告人が,寝床代わ
りや足代わりにするために自動車を窃取したり,生活費を得るために車上荒らしや
空き巣狙いを繰り返したばかりか(判示第1,第2,第5),スナックで閉店を告
げられたことに立腹し,スナックのママに暴力をふるって傷害を負わせ(判示第
3),さらに,たまたま上がり込んだ家で,家人を殺害して同人の現金を奪った
(判示第4)という,住居侵入,窃盗,傷害,強盗殺人の事案である。
 被告人は,少年時代から窃盗を繰り返してきており,安易に他人の物に手を出す
性癖が顕著に認められるところ,今回も,前刑出所後わずか2日ほどで,簡単に仕
事が見つからないことから自暴自棄な心境に陥り,野宿しながら,泥棒をして生活
していくことを思い立って,判示第1,第2,第5記載のとおりの自動車盗,車上
荒らし,空き巣狙いを繰り返すことになったものであり,また,前科の状況や判示
第3の傷害事件の内容を見ても,被告人の粗暴な性格をうかがい知ることができる
のであって,今回の強盗殺人は,このような被告人の自堕落な生活状況,性格が招
いたものといわざるを得ないから,強盗殺人にまで至った経緯に酌むべき事情は乏
しい。
 その強盗殺人の犯行内容は,初対面に等しい年輩の女性であるF(以下「被害
者」という。)を,わずかな金を得たいがために殺したものであるが,いとも簡単
に何物にも代え難い貴重な人命を奪うという人命軽視の人格態度が如実に認められ
るのであって,その利欲的かつあまりに自己中心的な犯行動機には一片の酌量の余
地もない。その犯行態様を見ても,被告人は,体力的に著しく劣る被害者に対し突
然飛びかかり,その頸部を腕で締め付け,「お金はやるよ。お金はやるよ。」など
と苦しみながらも必死に命乞いをする被害者の声を聞くや,声が出せるようでは殺
せないと判断して,すかさず手近にあった電気コードを2回も首に巻き付け,引き
続き約5分間にわたり首を絞め続けて窒息死させており,極めて卑劣であり,残忍
であり,非道なもので
ある。
 もとより,被害者には,このような凶行に遭わなければならないような落ち度は
全くなかったのである。安全であるべき自宅内で,突如としてこのような凶行に遭
遇した被害者の恐怖,精神的衝撃は相当なものであったと推測され,しかも,被害
者は,激しい苦悶の中で非業の死を遂げることになったのであり,殺害されるまさ
にその瞬間に被害者の胸に去来したであろう無念と悲痛は想像を絶するものがあ
る。それにもかかわらず,いまだ被害弁償はされておらず,残された者たちの悲し
みや怒りは計り知れないものがあり,処罰感情が厳しいのも至極当然である。被害
者の遺族である長男は,検察官に対し被告人を死刑にして欲しい旨供述し,次男
は,当公判廷において,涙を流して自らの悲痛な心情を吐露し,被告人に対する複
雑な心境を供述しており
,真に痛ましい限りであるといわざるを得ない。加えて,白昼,一人暮らしの老婆
が殺されて所持金を奪われたという事件内容自体からして,地域社会に相当の衝撃
を与えたことは推測するに難くなく,本件の社会的影響も軽視することはできな
い。
 のみならず,被告人は,本件犯行後,乗ってきた自動車に戻って軍手を持ち出
し,より入念に被害者の居宅内を物色したばかりか,指紋をふきとったり本件犯行
当時の着衣や靴を投棄するなどの隠滅工作に出た上,本件犯行で得たわずかばかり
の金もたちまちのうちに費消してしまっており,そこに人間としての良心の呵責を
うかがうことができないなど,本件犯行後の情状も悪質である。
 以上に照らすと,被告人の刑事責任は真に重大である。
 他方で,①強盗殺人の事案については,財布を物色していた現場を目撃された被
告人が,警察に通報されることを恐れたことが契機となって衝動的に犯行に及んだ
ものであり,計画性までは認められないこと,②強盗殺人の被害者の遺族である次
男が,当公判廷において,極刑にしてもらいたい気持ちがないとはいえないが,母
の人生を価値あるものにするためにも,被告人にも自分という人間の中にある光を
発見してもらいたいので十分な思索の時間を与えてほしい,自分という人間への希
望と人間として生まれてきたことへの喜びを被告人が発見できることを心から望む
旨供述していること,③被告人が,本件各犯行を認めて反省の態度を示しているほ
か,強盗殺人について自らの犯した犯行の重大性に思いを致し,当公判廷において
命のある限り被害者
の冥福を祈る旨供述し,被害者の遺族に対して手紙を書いて真摯な謝罪の気持ちを
示しているなど,被告人のために斟酌するべき事情も認められる。
 そこで,当裁判所は,以上のような諸事情を総合考慮し,被告人に対しては,そ
の生涯をかけて被害者に対する贖罪の人生を歩ませるのが相当と判断し,無期懲役
の刑を量定した次第である。
(検察官佐藤方生,国選弁護人田邊護各出席)
(求刑-無期懲役)
  平成16年3月31日
     甲府地方裁判所刑事部
         裁判長裁判官   山  本  武  久
            裁判官   柴  田     誠
            裁判官   肥  田     薫

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