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平成24年(う)第1991号窃盗,建造物侵入,危険運転致死,道路交
通法違反被告事件
平成25年2月22日東京高等裁判所第8刑事部判決
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中120日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人山本達雄作成の控訴趣意書に記載されたとおり
であるから,これを引用する。
第1理由のくいちがいの主張について
論旨は,要するに,原判決には,原判示第5の危険運転致死に関して,
「罪となるべき事実」の項における判示と「争点に対する判断」の項におけ
る説示とで,①被告人車両の走行態様,②被害者車両が急制動の措置をとっ
た原因,③被害者及び被害者車両が衝突した車両について,くいちがいがあ
る,というのである。
そこで記録を調査して検討すると,原審で取り調べた証拠に照らして原判
決を精査しても,前記①ないし③について,原判決には理由のくいちがいは
認められない。
所論は,原判決は,①被告人車両の走行態様について,「罪となるべき事
実」の項で,「時速約50ないし約90㎞で反対車線を走行し」と判示しな
がら,「争点に対する判断」の項の2(1)ウでは,「中央線から車体の半分
ほどが右側車線に出た状態で,時速約50ないし約70㎞で走行を続けた」
と説示し,②被害者運転の普通自動二輪車が急制動の措置をとった原因につ
いて,「罪となるべき事実」の項で,被告人は被害者車両に先行する2台の
車両及び被害者車両に「順次著しく接近し,よって,同人らに,衝突を避け
るため急制動の措置をとらせ」と判示しながら,「争点に対する判断」の項
の2(1)オでは,被害者は先行の「A車両が急に減速したため,これとの衝
突を避けようとして,急ブレーキを掛けた」と説示し,③被害者及び被害者
車両が衝突した車両について,「罪となるべき事実」の項で,被害者を「路
上に転倒させ,その頭部及び左腕部を被告人運転車両に衝突させ」と判示し
ながら,「争点に対する判断」の項の2(1)オでは,被害者車両の「車体
は,右側を下にして転倒して滑走し,A車両に衝突した」と説示しているか
ら,それらの点でくいちがいがある,という。
しかし,まず①についてみると,被告人は,窃盗を行った後,トヨタRA
V4を運転して,パトカーに追跡されながら,片側1車線の道路を逃走し,
先行するBが運転するトヨタエスティマ及びその前のCが運転するボルボ9
40ワゴンを追い抜くため,反対車線に出たところ,後部座席に乗車してい
たDから,反対車線を対向して走行してくる車両がある旨注意を喚起され,
いったんB車両とC車両の間に入った。その後,被告人は,B車両とC車両
の間で,中央線を跨いで車体の半分くらいが反対車線に出るようにして,C
車両を抜く機会をうかがいながら走行していたところ,C車両が,減速して
左に寄り,被告人車両に道を譲ってきたので,そのまま走行して,対向する
Eが運転するニッサンマーチとすれ違いざまに,C車両を抜き去り,その直
後に本件事故が起きている。
このような事実関係の下で,原判決は,「罪となるべき事実」の項では,
被告人車両がB車両及びC車両を追い抜いた一連の走行態様について概括的
な判示をしているのに対して,「争点に対する判断」の項の2(1)ウでは,
B車両を追い抜いた後,B車両とC車両の間で走行していた際の態様に特化
した説示をしていると理解できるから,理由にくいちがいがあるとはいえな
い。
次に②についてみると,被害者は死亡しているので,被害者が急制動の措
置をとった原因を直接示す証拠はないが,被害者は,普通自動二輪車のヤマ
ハマジェスティを運転し,転倒して滑走しながら,まずE車両に追従してい
たAが運転するマツダファミリアに追突しているから,直接的には,先行す
るA車両が急制動の措置をとったため,それに応じて急制動の措置をとった
ということができる。しかし,A車両が急制動の措置をとったのは,被告人
車両が中央線を跨いだ状態で向かってきたので危険を感じ,先行するE車両
に続いて,衝突を避けようとしたためであったから,結局,被害者車両が急
制動の措置をとった本来の原因は,被告人車両が接近してきたためというこ
とができる。原判決は,被害者車両が急制動の措置をとったことについて,
直接的な原因とそれから遡った本来の原因をそれぞれ示しているにすぎない
から,理由にくいちがいがあるとはいえない。
最後に③についてみると,被害者は,被害者車両と共に転倒し滑走しなが
ら,被害者車両がA車両に追突した後,その反動で投げ出されて被告人車両
と衝突しているのであり,A車両は,被害者車両とは衝突しているが,被害
者の身体には衝突していない。そうすると,原判決が,被害者車両はA車両
に衝突したこと,被害者の身体は被告人車両に衝突したことをそれぞれ示し
ているのは,証拠に基づいた正確な認定であり,理由にくいちがいはない。
論旨は理由がない。
第2事実誤認の主張について
論旨は,要するに,原判決には,原判示第5の危険運転致死に関して,①
反対車線を走行してきて急制動の措置をとった車両,②被害者の運転態様に
ついて,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのであ
る。
そこで記録を調査して検討すると,原審で取り調べた証拠によれば,前記
①及び②について,原判決が認定,説示するとおりの事実が認められるか
ら,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認はない。
所論は,原判決は,①「罪となるべき事実」の項で,被告人が,反対車線
に進出して,対向走行してくるE,A及び被害者に「衝突を避けるため急制
動の措置」をとらせたと認定しているが,急制動の措置をとったのは被害者
だけであり,E及びAは急制動の措置をとっていない,②「争点に対する判
断」の項の6(3)で,「車間距離について,被害者の運転に過失があったと
はいえない」と説示しているが,被害者がA車両に追突した原因は,車間距
離の不保持,A車両の動静に対する安全確認の不全,ブレーキ操作の誤り,
あるいはこれらの競合であり,被害者は停止した前車に追突し反対車線に飛
び出したのであるから,運転上の過失があったことは間違いない,という。
しかし,まず①についてみると,Eは,原審で証人として,被告人車両が
向かってきて,接触する危険を感じたため,音がしたり,路面に痕跡が残っ
たりするほどの強さではなかったが,強くブレーキを踏んだ旨供述してい
る。Aも,原審で証人として,被告人車両が中央線を跨いで近づいてきたの
で,危ないと思って,通常よりは強めにブレーキを踏んだ旨供述している。
この点について,原判決は,「罪となるべき事実」の項で,E,A及び被害
者に被告人車両との「衝突を避けるため急制動等の措置をとらせ」と認定し
た上,「争点に対する判断」の項の2エで,E及びAがそれぞれ「強くブレ
ーキを掛けた」と認められる旨説示している。このように,原判決は,E及
びAが原審で供述する事実を的確に表現しているのであり,その認定に誤認
があるなどとはいえない。
次に②についてみると,原判決が「争点に対する判断」の項の6(3)で説
示するように,Aは,原審で証人として,後方から追従してきた被害者車両
は,一定の間隔を保って走行しており,接近してきたとか,煽ってきた,と
いうことはなかった旨供述しており,A車両が急制動の措置をとったのに応
じて,同じく急制動の措置をとった被害者車両が,A車両に追突したのは,
急制動の措置をとったタイミングにずれがあった可能性があるほか,制動の
かかり方から,乗用車よりも二輪車の方が停止するまでの距離が長くなる
上,転倒し滑走した場合には,さらに停止距離が長くなるためであったとい
うことができる。そうすると,原判決が,被害者の運転に過失があったとは
いえないと説示したことに,不適切なところはない。
論旨は理由がない。
第3法令適用の誤りの主張について
論旨は,要するに,被告人には,被害者ら対向車両の通行を妨害する目的
はなかったのに,その目的があったとして,原判示第5の危険運転致死罪の
成立を認めた原判決は,刑法208条の2第2項前段の解釈適用を誤ってお
り,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というので
ある。
そこで記録を調査して検討すると,原審で取り調べた証拠から認定できる
事実関係に照らすと,被告人には被害者ら対向車両の通行を妨害する目的が
あったものということができ,これにつき原判決が「争点に対する判断」の
項の4において説示するところも概ね正当として是認できるから,原判決に
は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。その理由は,
以下のとおりである。
1まず,関係証拠によれば,次のように認めることができる。
(1)本件事故の現場の道路は,片側1車線で,中央線の表示によって,
追い越しのため右側部分にはみ出して通行することが禁止されているとこ
ろ,被告人は,このような道路において,B車両とC車両の間で,中央線を
跨いで車体の半分くらいが反対車線に出るようにして走行し,C車両が,減
速して左に寄り,被告人車両に道を譲ってきたので,C車両を抜き去ってい
る。そのときの状況について,反対車線を走行してきたE及びAは,原審で
それぞれ証人として,一致して,被告人車両と衝突し接触する危険を感じ
て,自車を減速させて道路左に寄せた旨供述しており,そのことは,路側帯
も含めた車線の幅員が約3.8メートルであり,E車両,A車両及び被告人
車両の車幅がいずれも約1.7メートルであることからも首肯することがで
きる。
(2)被告人は,原審において,一方では,C車両が減速してきたときに
は,C車両に注意を払っており,前方右側の反対車線には注意を払っていな
かった旨供述している。しかし,他方では,被告人は,中央線を跨ぐように
走行していたところ,C車両が左に寄ってきたので,C車両と反対車線のE
車両の間を抜けられると判断した旨,さらには,E車両とすれ違った後,C
車両を追い抜かした旨を供述している。そうすると,被告人は,C車両を追
い抜く際には,E車両等の反対車線の車両が接近してきていることを十分認
識していたということができる。
(3)しかも,被告人は,先行するB車両及びその前のC車両を追い抜こ
うとして,反対車線に出たが,Dが反対車線の車両が接近してきていると注
意を促してきたため,それに応じて,危険を察知して,前方のC車両を追い
抜くことを躊躇し,いったんB車両とC車両の間に入っているから,C車両
を追い抜くときには,Dから注意を促された反対車線の車両が間近に接近し
てきていることを認識していなかったはずはない。
2これらの事実に照らすと,被告人が,車体の半分を反対車線に進出さ
せた状態で走行し,C車両を追い抜こうとしたのは,パトカーの追跡をかわ
すことが主たる目的であったが,その際,被告人は,反対車線を走行してき
ている車両が間近に接近していることを認識していたのであるから,上記の
状態で走行を続ければ,対向車両に自車との衝突を避けるため急な回避措置
を取らせることになり,対向車両の通行を妨害するのが確実であることを認
識していたものと認めることができる。
ところで,刑法208条の2第2項前段にいう「人又は車の通行を妨害す
る目的」とは,人や車に衝突等を避けるため急な回避措置をとらせるなど,
人や車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することをいうものと解
される。しかし,運転の主たる目的が上記のような通行の妨害になくとも,
本件のように,自分の運転行為によって上記のような通行の妨害を来すのが
確実であることを認識して,当該運転行為に及んだ場合には,自己の運転行
為の危険性に関する認識は,上記のような通行の妨害を主たる目的にした場
合と異なるところがない。そうすると,自分の運転行為によって上記のよう
な通行の妨害を来すのが確実であることを認識していた場合も,同条項にい
う「人又は車の通行を妨害する目的」が肯定されるものと解するのが相当で
ある。
3以上からすると,被告人には,対向車両の通行を妨害する目的があっ
たということができるから,その目的を肯定して,被告人に刑法208条の
2第2項前段の危険運転致死罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及
ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。
論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における未決勾留
日数の算入について刑法21条を,当審における訴訟費用を被告人に負担さ
せないことについて刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用し,主文の
とおり判決する。
(裁判長裁判官飯田喜信裁判官山口雅高裁判官安藤祥一郎)

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