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平成10年(ワ)第10031号 特許権侵害差止等請求事件
(口頭弁論終結の日 平成15年12月15日)
            判    決
     原   告        日特エンジニアリング株式会社
     訴訟代理人弁護士     杉 浦 幸 彦
     補佐人弁理士       後 藤 政 喜
     同            松 田 嘉 夫
     同            飯 田 雅 昭
     同            三 田 康 成
     被   告        株式会社多賀製作所
     訴訟代理人弁護士     高 橋 敬一郎
     補佐人弁理士       吉 田 芳 春
     同            荒 垣 恒 輝
            主    文
      1 原告の請求を棄却する。
      2 訴訟費用は原告の負担とする。
            事実及び理由
第1 原告の請求
   被告は,原告に対し,5億0393万7547円及びこれに対する平成13
年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   原告は,後記のとおり,偏向コイルの巻線機及び圧着用導電性部材の特許権
を有している。
   原告は,被告がかつて製造・販売していたコイルの巻線機用装置(以下「被
告装置」という。)の具体的構成は別紙「第1物件目録」記載のとおりであるとし
た上(同目録記載の構成を有するコイルの巻線機用装置を,以下「本件装置」とい
う。),被告装置は上記特許権に係る発明の技術的範囲に属する偏向コイル巻線機
の生産のみに使用されるものであり,平成12年9月までの間に被告が被告装置を
製造・販売した行為は上記特許権の間接侵害(平成14年法律第24号による改正
前の特許法101条1号)に該当すると主張して,補償金及び損害賠償金の支払を
求めている。
 1 争いのない事実
 (1) 当事者
    原告は,自動機及び同部品の製造販売等を目的とする株式会社であり,被
告は,各種巻線機及び電気器具の製造販売等を目的とする株式会社である。
  (2) 原告の特許権
    原告は,下記の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
               記
 特許番号    第2693401号
 発明の名称   偏向コイルの巻線機及び圧着用導電性部材
 出願日     平成7年5月15日
 公開日     平成8年7月2日
 優先日     平成6年10月17日
 優先権主張国  日本国
 登録日     平成9年9月5日
  (3)本件特許発明
    本件特許権に係る明細書(平成14年12月11日付け訂正審決による訂
正後のもの。以下「本件明細書」という。)における特許請求の範囲請求項1の記
載は,次のとおりである(以下,この請求項1記載に係る発明を「本件特許発明」
という。)。
    「被覆導線からなる線材を供給する線材供給機構と,線材供給機構から供
給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する回転金型とを備えた偏向コイルの
巻線機において,線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接ま
たは近接して配置される導電性部材と,これらの導電性部材を線材に圧着し,かつ
線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極による圧着通電
機構と,移動した導電性部材を第1の電極以外の場所に係止する手段と,この導電
性部材を移動する手段と,この導電性部材と前記圧着通電機構により新たに線材に
圧着された導電性部材との間に電圧を印加する一対の第2の電極とを備えるととも
に,前記導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成し,この帯状連続部材をその最
先端部が前記圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように供給する手段
と,前記線材供給機構から供給された線材が前記最先端部に挟み込まれた前記帯状
連続部材を所定の位置で切断する手段とを備えたことを特徴とする偏向コイルの巻
線機。」
  (4) 構成要件の分説
    本件特許発明を構成要件に分説すれば,次のとおりである(以下,分説し
た各構成要件をその符号に従い「構成要件A」のように表記する。)。
A 被覆導線からなる線材を供給する線材供給機構と,線材供給機構から供
給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する回転金型とを備えた偏向コイルの
巻線機である。
B 前記偏向コイルの巻線機は,以下の各構成を備えている。
① 線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接又は近
接して配置される導電性部材とこれらの導電性部材を線材に圧着し,かつ線材の導
電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極による圧着通電機構
② 移動した導電性部材を第1の電極以外の場所に係止する手段
③ この導電性部材を移動する手段
④ この導電性部材と前記圧着通電機構により新たに線材に圧着された導
電性部材との間に電圧を印加する一対の第2の電極
   C 前記偏向コイルの巻線機は,前記Bの各構成を備えるとともに,
    ① 前記導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成し,
     かつ,以下の各構成を備えている。
    ② この帯状連続部材をその最先端部がB①記載の圧着通電機構の第1の
電極の間に送り込まれるように供給する手段
    ③ 前記線材供給機構から供給された線材が前記最先端部に挟み込まれた
前記帯状連続部材を所定の位置で切断する手段
  (5) 本件特許発明の作用効果
    本件特許発明においては,線材の両側からその外周に当接又は近接して配
置される導電性部材が線材に圧着される(構成要件B①記載)。その圧力と一対の
第1の電極による通電発熱の相互作用で線材の被覆が溶融しながら除去され,導電
性部材が被覆の下の導線と接触し,導電性部材を介して第1の電極と導線との確実
な接続が実現される。
    その上で,導電性部材を移動する手段によって同部材を第1の電極以外の
場所(実際には,偏向コイルを形成する回転金型)に係止し,その係止した状態で
回転金型に基づく巻線を行い,巻き終わった線材に圧着通電機構(構成要件A)に
より新たな導電性部材を圧着する。そして,このように圧着された2つの導電性部
材に一対の第2の電極により電圧を印加することで,導線の被覆材を加熱溶融し,
被覆線どうしが交互に溶着するので,コイルの成型を容易に行うことができる。
    また,本件特許発明においては,構成要件C②,③記載のように,帯状連
続部材がその最先端部が圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように供給
され,このようにして供給された帯状連続部材の最先端部に,構成要件Aの線材供
給機構から供給された線材が挟み込まれた上,帯状連続部材が所定の位置で切断さ
れる。導電性部材を帯状連続部材で構成することにしたのは,圧着通電機構への導
電性部材の供給を容易にするためと,導電性部材の線材の外周への当接又は近接を
確実にするためである。このように導電性部材が帯状連続部材によって構成されて
いるので,帯状連続部材を圧着通電機構に供給する段階(構成要件C②)において
は,当該部材は連続した状態を保っており,圧着通電機構に供給された後に連続し
た部材から切り離され(構成要件C③),個々の導電性部材となる(構成要件B②
~④)。
  (6) 本件装置と本件巻線機
    ところで,別紙「第1物件目録」記載の装置において,別紙「第2物件目
録」記載のように,第2テンション装置200側から送られ,かつ線材供給機構1
によって供給された線材8を巻着するための一対の金型2を一対の回転ケース21
の金型固着用回転円板22にそれぞれ固着するとともに,2個の各金型固着用回転
円板22の外側周囲近傍に複数の孔,回転中心の近傍に押型23を通過し得る孔を
穿設し,一方の金型2に電磁弁24と複数本のエアーホース26を介して連通して
いるピン移動用シリンダー25を備え,前記一対の金型2を備えた一方の回転ケー
ス21の内側において,回転ケース21の軸線中心軸の方向に沿って,往復移動し
得るスライダー30に結合している押型23を備えて,帯状連続部材3を巻着した
帯状連続部材巻着リール71をリール枠73によって挟まれた状態でリール支持軸
70に嵌合させて構成させた場合には,偏向コイル巻線機として使用することがで
きる(以下,上記「第2物件目録」記載の偏向コイル巻線機を「本件巻線機」とい
う。)。
  (7) 警告書の送付
    被告は,平成7年ころから,別紙「第1物件目録」記載のコイルの巻線機
用装置(本件装置)と同種のコイルの巻線機用装置(被告装置)を製造販売してい
た。
    原告は,本件特許発明に係る出願が公開された数日後の平成8年7月9
日,被告に対し,被告装置の製造・販売が本件特許発明の実施に該当し,特許権設
定登録がされるに至った場合には,補償金請求を行う予定である旨の警告書を送付
した。この警告書は,遅くとも同月16日に被告に到達した。
  (8) 被告装置の販売台数等
    被告は,前記警告書が到達した後の平成8年7月16日から本件特許発明
が登録された日の前日である平成9年9月4日までの間に,合計93台に及ぶ被告
装置の新規販売又は株式会社日立メディアエレクトロニクス(以下「日立メディ
ア」という。)に納品していた偏向コイル巻線機について被告装置の構成を備える
ような修繕に基づく再生産を行った。
    また,本件特許発明の登録日である平成9年9月5日から本件訴訟提起
(平成10年5月12日)までの間に,日立メディアに納品していた合計6台の偏
向コイル巻線機について被告装置の構成を備えるような修繕に基づく再生産を行っ
た。
    さらに,平成9年9月5日から平成12年9月末日までの間に,被告装置
を少なくとも184台新規に販売した。
 2 本件の経緯(該当箇所に,認定に用いた証拠を掲げた。)
  (1) 出願時の特許請求の範囲請求項1及び請求項2
    本件特許発明は,前記のとおり,平成7年5月15日に出願され,平成8
年7月2日に出願公開されたものであるが,出願時の明細書における特許請求の範
囲請求項1及び請求項2の記載は,それぞれ下記のとおりであった(乙15)。
    「【請求項1】 被覆導線からなる線材を供給する線材供給機構と,線材
供給機構から供給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する金型とを備えた偏
向コイルの巻線機において,線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外
周に当接または近接して配置される導電性部材と,これらの導電性部材を線材に圧
着する手段と,線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極
と,移動した導電性部材を第1の電極以外の場所に係止する手段と,この導電性部
材を移動する手段と,この導電性部材と前記圧着手段により新たに線材に圧着され
た導電性部材との間に電圧を印加する一対の第2の電極とを備えたことを特徴とす
る偏向コイルの巻線機。」
    「【請求項2】 前記導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成し,この
帯状連続部材を前記圧着手段へ供給する手段と,帯状連続部材を所定の位置で切断
する手段とを備えた請求項1に記載の偏向コイルの巻線機。」
  (2) 設定登録時の特許請求の範囲請求項1
    特許庁は,平成9年4月8日,上記出願に係る発明は,特開昭60-24
3933号公報(乙1の7)に基づき当業者が容易に発明できたものである旨の拒
絶理由を通知した。
    出願人である原告は,これに対し,同年6月6日付けで意見書(乙16)
を提出し,上記公報(特開昭60-243933号公報)に記載された発明におい
ては,あらかじめ切断された金属片を導電性部材として偏向コイル巻線装置に供給
するものであるのに対し,出願に係る発明は,帯状連続部材を供給するものであ
り,そのことによって優れた作用効果を奏するものであるから,上記拒絶理由通知
には承伏できない旨の意見を述べた。それとともに,同日付けで補正書を提出し,
請求項1を下記のとおり補正することなどを内容とする補正を行った(なお,下記
記載から明らかなとおり,この補正は,上記出願時の請求項2を同請求項1に取り
込んだものである。)。
    「被覆導線からなる線材を供給する線材供給機構と,線材供給機構から供
給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する金型とを備えた偏向コイルの巻線
機において,線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接または
近接して配置される導電性部材と,これらの導電性部材を線材に圧着する手段と,
線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極と,移動した導
電性部材を第1の電極以外の場所に係止する手段と,この導電性部材を移動する手
段と,この導電性部材と前記圧着手段により新たに線材に圧着された導電性部材と
の間に電圧を印加する一対の第2の電極とを備えるとともに,前記導電性部材を導
電性の帯状連続部材で構成し,この帯状連続部材を前記圧着手段へ供給する手段
と,帯状連続部材を所定の位置で切断する手段とを備えたことを特徴とする偏向コ
イルの巻線機。」
    上記の経緯を経た後,平成9年8月19日付けで特許査定がされ,本件特
許発明は,同年9月5日に設定登録された(甲1,4)。
  (3) 特許異議及び第1次無効審判
    被告は,平成10年6月24日付けで特許異議を申し立て(特許庁平成1
0年異議第73126号。乙1の1),特許権者である原告自身による公然実施等
複数の無効事由(新規性欠如及び進歩性欠如)の存在を主張した。
    しかるに,特許庁は,平成11年2月2日付けで特許を維持する旨の決定
(甲6)をした。
    また,被告は,平成10年10月26日付けで無効審判を請求し(特許庁
平成10年審判第35509号。以下「第1次無効審判」という。乙3の1),同
審判手続において,特許権者である原告自身による公然実施等複数の無効事由(新
規性欠如)の存在を主張した。
    しかるに,特許庁は,平成13年1月16日付けで上記請求は成り立たな
い旨の審決(甲20)をした。
  (4) 第2次無効審判及び無効審決
    被告は,平成13年6月18日付けで再び無効審判を請求し(特許庁無効
2001-35256号。以下「第2次無効審判」という。乙40),同審判手続
において,公知文献に記載された発明に基づく容易推考等複数の無効事由(新規性
欠如及び進歩性欠如)の存在を主張した。
    原告はこれに対し,同審判において,同年8月29日付けで前記(2)記載の
請求項1を下記のとおり訂正することなどを内容とする訂正請求を申し立てた(以
下「第1次訂正請求」という。甲29)。
    「被覆導線からなる線材を供給する線材供給機構と,線材供給機構から供
給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する回転金型とを備えた偏向コイルの
巻線機において,線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接ま
たは近接して配置される導電性部材と,これらの導電性部材を線材に圧着し,かつ
線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極による圧着通電
機構と,移動した導電性部材を第1の電極以外の場所に係止する手段と,この導電
性部材を移動する手段と,この導電性部材と前記圧着通電機構により新たに線材に
圧着された導電性部材との間に電圧を印加する一対の第2の電極とを備えるととも
に,前記導電性部材を1本の導電性の帯状連続部材で構成し,この帯状連続部材を
その最先端部が前記圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように供給する
手段と,最先端部が圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれている帯状連続部
材を所定の位置で切断する手段とを備えたことを特徴とする偏向コイルの巻線
機。」
    特許庁は,平成14年1月29日,第1次訂正請求を認めた上で,本件特
許発明は,実願昭58-88677号(実開昭59-192821号)のマイクロ
フィルム(乙13)に記載された考案に,特開昭60-115128号公報(乙3
6)及び特公昭44-13060号公報(乙14)に記載された各技術並びに周知
技術を適用することにより,当業者が容易に発明できたものであるとして,同発明
についての特許を無効とする旨の審決(以下「無効審決」という。乙48)をし
た。
  (5) 審決取消訴訟及び訂正審判請求
    原告は,平成14年3月1日,上記無効審決に対し取消訴訟を提起したが
(甲32),他方において,同年5月14日,特許庁に対し,前記(2)記載の請求項
1を下記のとおり訂正することなどを内容とする訂正審判の請求を行った(特許
庁・訂正2002-39119号。以下「本件訂正審判請求」という。甲33の
1)。
    「被覆導線からなる線材を供給する線材供給機構と,線材供給機構から供
給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する回転金型とを備えた偏向コイルの
巻線機において,線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接ま
たは近接して配置される導電性部材と,これらの導電性部材を線材に圧着し,かつ
線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極による圧着通電
機構と,移動した導電性部材を第1の電極以外の場所に係止する手段と,この導電
性部材を移動する手段と,この導電性部材と前記圧着通電機構により新たに線材に
圧着された導電性部材との間に電圧を印加する一対の第2の電極とを備えるととも
に,前記導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成し,この帯状連続部材をその最
先端部が前記圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように供給する手段
と,前記線材供給機構から供給された線材が前記最先端部に挟み込まれた前記帯状
連続部材を所定の位置で切断する手段とを備えたことを特徴とする偏向コイルの巻
線機。」
  (6) 訂正審決
    特許庁は,平成14年8月22日付けで,本件訂正審判請求に係る請求項
1記載の発明は,実願昭58-88677号(実開昭59-192821号)のマ
イクロフィルム(乙13),実願昭52-86100号(実開昭54-14386
号)のマイクロフィルム及び実願昭57-147932号(実開昭59-5378
7号)のマイクロフィルムに記載された各考案に基づいて当業者が容易になし得た
ものであり,いわゆる独立特許要件を充たさないものであるとして,訂正拒絶理由
通知書(乙61)を発送した。
    しかるに,特許庁は,平成14年12月11日,本件訂正審判請求を認め
る旨の審決(以下「訂正審決」という。甲34)をした。
    この訂正審決において,特許庁は,特開昭60-243933号公報(乙
1の7)に記載された発明においては,線材上に跨乗する2つの金属片のところ
へ,「一対の第1の電極」(構成要件B①)に相当する小型抵抗溶接機の電極が移
動し,特に金属片を線材に挟着する工程を経ることなく,上記溶接機により圧着通
電されるものであり,他方,実願昭57-147932号(実開昭59-5378
7号)のマイクロフィルムには,「帯状連続部材」に相当する接続されたままのコ
ネクター端子が同端子の圧着装置に送り込まれることが記載されているから,「圧
着通電機構の第1の電極の間」に送り込まれることを除いては,導電性部材を導電
性の帯状連続部材で構成し,この帯状連続部材をその最先端部が圧着機構に送り込
まれるように供給する手段(同C②参照)が開示されているとした。その上で,特
許庁は,上記小型抵抗溶接機は,それ自体が線材上に跨乗する金属片のところまで
移動してくるものであるから,このような小型抵抗溶接機に上記コネクター端子の
圧着装置の技術手段を適用することは,かなりの創意と工夫を要するものと認めら
れ,当業者が容易になし得ることではないとして,独立特許要件を肯定した。
  (7) 職権審理結果通知
    東京高等裁判所は,上記訂正審決を受けて,平成15年3月27日,無効
審決のうち前記(4)記載の請求項1(第1次訂正請求に係る請求項1)に係る特許を
無効とする旨の部分等を取り消す判決(甲36)をした。
    特許庁においては,この判決を受けて,前記(5)記載の請求項1(本件訂正
審判請求に係る現在の請求項1)を前提に,改めて第2次無効審判の審理がされて
いるが,特許庁は,平成15年8月5日付けで,職権審理結果通知書(乙64)を
発送した。
    この通知書においては,上記(5)記載の請求項1記載に係る発明(本件特許
発明)と特開昭60-243933号公報(乙1の7)に記載された発明とは,
(ア) 前者における導電性部材が「帯状連続部材」で構成されているのに対し,後
者は「断面略U字状の金属片」で構成されている点,(イ) 前者が「帯状連続部材
をその最先端部がB①記載の圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように
供給する手段」(構成要件C②)と「前記線材供給機構から供給された線材が前記
最先端部に挟み込まれた前記帯状連続部材を所定の位置で切断する手段」(同C
③)とを有しているのに対し,後者においては,導電性部材が「断面略U字状の金
属片」で構成されているため,このような供給手段および切断手段を有しない点で
相違するところ,上記(ア)の点,すなわち導電性部材を帯状連続部材で構成する点
は,実願昭58-88677号(実開昭59-192821号)のマイクロフィル
ム(乙13)等に照らして出願前に既に周知とされている。また,特開平4-95
372号公報(乙63の2)には,電線に端子を接合する際に,一対の加圧具で接
合板外面を加圧することによって複数の導線性の線材を接合板で包み込み,加圧具
と同形状の電極で接合板外面を加圧しつつ電極を発熱させることにより,少なくと
も線材相互の温度を高めて圧着結合する装置を用いること及びその際加圧具が電極
を兼ねるように構成できることが記載されており,したがって,圧着通電機構を用
いて電線に端子を接続することが開示されている上に,上記端子として,送り板に
連結板を介して一体に形成された部材(すなわち連続部材)を用い,その最先端部
を圧着通電機構の電極間に送り込まれるように供給する手段が記載されており,か
つ,明確な記載はないものの,端子が所定の位置で送り板から切断されることは自
明であるから,上記(イ)の点も,上記特開平4-95372号公報(乙63の2)
にすべて開示されているものとされている。そして,当業者であれば,上記特開昭
60-243933号公報(乙1の7)に記載された発明において,線材に端子を
圧着通電して接合するに際し,導電性部材として連続部材を用い,特開平4-95
372号公報(乙63の2)に記載された技術を用いて圧着通電することは,容易
になし得るから,本件特許発明は,特許法29条2項に違反して特許されたもので
あり,無効とすべきものであるとされている。
  (8) 第2次訂正請求
    原告は,上記職権審理結果通知書を受けて,平成15年9月26日,第2
次無効審判において,前記(5)記載の請求項1(現在の請求項1)を下記のとおり訂
正することなどを内容とする訂正請求を行った(以下「第2次訂正請求」という。
甲37)。
    「被覆導線からなる線材を供給する移動機構を備えた線材供給機構と,線
材供給機構から供給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する回転金型とを備
えた偏向コイルの巻線機において,線材供給機構から供給された線材の両側から線
材の外周に当接または近接して配置される導電性部材と,前記導電性部材を線材に
圧着し,かつ線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極に
よる圧着通電機構と,前記導電性部材を移動する手段と,移動した導電性部材を第
1の電極以外の場所に係止する手段と,この導電性部材と前記圧着通電機構により
新たに線材に圧着された導電性部材との間に電圧を印加する一対の第2の電極とを
備えるとともに,前記導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成し,この帯状連続
部材をその最先端部が前記圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように供
給する手段と,前記線材供給機構から供給された線材が前記線材供給機構を移動す
ることによって前記最先端部に挟み込まれた前記帯状連続部材を所定の位置で切断
する手段とを備えたことを特徴とする偏向コイルの巻線機。」
 3 争点
  (1) 被告装置の構成及びこれを偏向コイル巻線機として用いる場合における構
成(争点1)
  (2) 本件巻線機が本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点2)
  (3)間接侵害の成否(争点3)
  (4)無効事由の存否(争点4)
  (5) 原告の補償金請求及び損害賠償請求の額(争点5)
第3 当事者の主張
 1 争点1(被告装置の構成及びこれを偏向コイル巻線機として用いる場合にお
ける構成について)
  (1) 原告の主張
    被告装置の構成は,別紙「第1物件目録」記載の本件装置と同一である。
また,被告装置は,別紙「第2物件目録」(本件巻線機)の構成をとることによ
り,偏向コイル巻線機として使用することができる。
    これらの目録は,もともと平成13年5月28日付け原告第19準備書面
に添付したものであるが(同準備書面2頁,7頁参照),被告は,同年6月25日
付け被告準備書面(18)30頁において,被告装置の構成が別紙「第1物件目録」
記載のとおりであること,及び,被告装置が別紙「第2物件目録」記載の構成をと
ることにより偏向コイル巻線機として使用できるものであることを認めたものであ
る。
  (2) 被告の反論
    本件明細書の特許請求の範囲請求項1は,訂正審決によりその範囲が訂正
されたものである。したがって,原告はこの訂正に対応した物件目録を提出すべき
であり,原告第19準備書面に添付した各目録を変更せずそのまま引用するのは,
不適切である。以下,詳述する。
   ア 訂正審決について
     訂正審決は,多種類の長尺部材に係る第4(訂正前の本件特許発明に係
る特許公報〔以下「本件公報」という。〕の図10。以下同じ),第11(図1
7),第12(図18)及び第13(図19)の各実施例をいずれも参考例に減縮
訂正することを認めた。
     すなわち,(ア) 上向き湾曲U字状の長尺部材54に係る図10は第1
の参考例に,横U字状の長尺部材に係る図17は第4の参考例にそれぞれ訂正され
た。また,(イ) 平板状の長尺部材50に係る図18は第5の参考例に,図19は
第6の参考例にそれぞれ訂正された。その結果,(ウ) 残った実施例においては,
一部を切り起こしたフープ材18のみが図示され(図1~3,5,6,12~1
4,20~24,30~34参照),フープ材の存在が前提とされている。さら
に,(エ) 図8と図9に示される実施例3においては,「電極14と15の間でプ
レスされた導電性部材12は,線材8を両側から包み込むように変形する。」(本
件公報9欄3~5行)と記載されているので,導電性部材12(端子片)がプレス
(切断)されたものであることが前提と解されるところ,上記実施例に係る平板状
の長尺部材50については,電極14の下降に伴いカッタ17で平板短冊に切断さ
れると推測されるが,この点は必ずしも明らかでない上に,その後の成型手段も実
施可能な程度に開示されていない。
     上記によれば,特許請求の範囲における「導電性の帯状連続部材」(構
成要件C①)は,訂正審決を経て,一部を切り起こしたフープ材に限定されたもの
と認められる。少なくとも,上記(ア),(イ),(エ)の各事情に照らし,平板状の長
尺部材50については,明確に「導電性の帯状連続部材」から除かれたというべき
である。
     また,訂正審決は,本件特許発明に係る偏向コイルの巻線機が,「帯状
連続部材をその最先端部が構成要件B①記載の圧着通電機構の第1の電極の間に送
り込まれるように供給する手段」(構成要件C②)及び「前記線材供給機構から供
給された線材が前記最先端部に挟み込まれた前記帯状連続部材を所定の位置で切断
する手段」(構成要件C③)を備えるとの訂正を認めたが,これは,帯状連続部材
が連続状態のままでその最先端部に線材を挟み込み,その上で圧着と同時に切断さ
れ,導電性部材が形成されることを明らかにしたものである。しかるに,他方にお
いて,「線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接又は近接し
て配置される導電性部材とこれらの導電性部材を線材に圧着し,かつ線材の導電性
部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極による圧着通電機構」(構成
要件B①)との記載が特許請求の範囲に残っており,この記載からは,予め切断さ
れた導電性部材に線材が配置される構成も特許請求の範囲に含まれると解されるか
ら,導電性部材に関し,構成要件B①と構成要件C②及び③との関係が不明瞭にな
っている。
     上記を前提に,第1物件目録及び第2物件目録につき,それぞれ意見を
述べる。
   イ 第1物件目録について
     原告提出に係る第1物件目録には,随所に「帯状連続部材」との記載が
あるが,前記のとおり,「導電性の帯状連続部材」(構成要件C①)は,訂正審決
を経て,一部を切り起こしたフープ材に限定されたものと認められる。
     しかるところ,被告装置は平板状帯状部材(本件明細書における「平板
状の長尺部材50」に相当する。)の使用のみを予定した専用構造を有しているか
ら,「帯状連続部材」の記載を「平板状帯状部材」あるいは「平板状の長尺部材」
の記載に変更すべきである。
     また,第1物件目録には,端子片を成型するための成型手段の記載がな
いので,本件公報第7図の成型手段を図示した箇所に基づいて説明を追加すべきで
ある。
   ウ 第2物件目録について
     第2物件目録についても,第1物件目録について上述したのと同様の不
適切な箇所がある。
     また,同目録5頁2~3行目における,「第2図の1及び第2図の2に
示すように,導電性部材3は,予めその先端を上方向に折り曲げることによって,
略倒U字状を形成しているが」との記載は,端子片の成型を叙述したものと解され
るところ,上記「導電性部材3」は予め切断された端子片を前提にしているはずで
あるから,同目録に開示された構成は,本件特許発明の「この帯状連続部材をその
最先端部がB①記載の圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように供給す
る手段」(構成要件C②)を欠くことになる。
     さらに,同目録6頁24行目~7頁1行目には,「第7図の1,2に示
すように,導電性部材圧着手段4と帯状連続部材の供給手段7との間にあり,かつ
導電性部材圧着手段4の近傍の位置にて帯状連続部材3及び線材8を夫々切断す
る,帯状連続部材の切断手段9及び線材切断手段12とを備えた」との記載がある
ところ,導電性部材圧着手段4と帯状連続部材の供給手段7との間において,帯状
連続部材の切断手段9及び線材切断手段12とを備えていたとしても,平板状帯状
部材が平板短冊に切断されることを意味するにとどまり,線材を挟み込むことがで
きないはずであるから,同目録に開示された構成は,本件特許発明の「前記線材供
給機構から供給された線材が前記最先端部に挟み込まれた前記帯状連続部材を所定
の位置で切断する手段」(構成要件C③)を欠くことになる。
  (3) 原告の再反論
    被告は,訂正審決により特許請求の範囲が訂正され,「帯状連続部材」
(構成要件C①)の概念が減縮されたので,これに対応した物件目録を提出すべき
であると主張している。
    しかしながら,特許請求の範囲は特許発明の内容を記載するものであるの
に対し,別紙「第1物件目録」は被告装置の具体的構成を,別紙「第2物件目録」
は被告装置を偏向コイル巻線機として使用した場合における具体的構成をそれぞれ
記載したものであり,記述の対象を異にする。したがって,仮に訂正審決によって
特許請求の範囲が訂正されたとしても,上記目録の記載内容に変更が生じる性質の
ものではなく,訂正審決に対応させて別紙「第1物件目録」及び別紙「第2物件目
録」を訂正せよとの被告の主張は,全くの見当違いである。
    上記各目録は,もともと平成13年5月28日付け原告第19準備書面に
添付したものであるが(同準備書面2頁,7頁参照),被告はいったんこれらの目
録の記載内容を認めていた(同年6月25日付け被告準備書面(18)30頁)。こ
のように,被告装置の構成及びこれを偏向コイル巻線機として使用する場合におけ
る構成につき当事者間で争いのない状態となっていたにもかかわらず,被告はその
後訂正審決がされたことを理由に一転して上記各目録を否認するに至ったものであ
り,このような訴訟遂行は審理の遅延を意図するものとしか考えられない。
    上記の点をさておいても,そもそも,被告の主張の前提となる,訂正審決
により「帯状連続部材」(構成要件C①)の概念が減縮されたとの理解が,明らか
な誤りである。すなわち,訂正前後の特許請求の範囲を比較すれば分かるとおり,
訂正審決は,(ア) 金型が回転金型である点,(イ) 第1の電極が圧着手段を兼ね
ることによって圧着通電機構を形成する点,(ウ) 帯状連続部材の最先端部が圧着
通電機構の第1の電極の間に送り込まれる点,(エ) 帯状連続部材の最先端部に線
材が挟み込まれ,かつ最先端部に線材を挟み込んだ状態で帯状連続部材を切断する
点,の4点において特許請求の範囲請求項1を減縮するものである。これらの各点
は,文言上,フープ材か平板状部材かといった帯状連続部材の概念とは全く関連が
ないから,帯状連続部材の概念が減縮されたと解釈する理由はない。
    被告は,第4(図10),第11(図17),第12(図18)及び第1
3(図19)の実施例がいずれも参考例に訂正されたことをもって,帯状連続部材
の概念が減縮され,平板状の長尺部材50が除外されたことの根拠としているが,
これらの訂正は,上記(ア)~(エ)の訂正によって本件特許発明の技術的範囲に含ま
れないこととなった実施例4,実施例11~13をそれぞれ参考例に訂正したもの
であり,帯状連続部材の概念とは全く関係なく行われたものである。
    すなわち,第4(図10)の実施例については,図10に示されるように
帯状連続部材を切断した後に導電性部材12に線材を挟み込んでおり,上記(エ)の
「最先端部に線材を挟み込んだ状態で帯状連続部材を切断する」という構成を満た
さなくなったため,参考例に訂正した。また,第11(図17),第12(図1
8)及び第13(図19)の各実施例については,圧着通電機構が圧着部と通電部
に分離された構成となっており,上記(イ)の「第1の電極が圧着手段を兼ねること
によって圧着通電機構を形成する」という構成を満たさなくなったため,参考例に
訂正した。
    さらにいえば,訂正審決においては,上記(ウ),(エ)の構成を引用例から
導き出すことの困難性に進歩性が認められて訂正が認められたのであり(訂正審決
〔甲34〕37頁18~27行),例えば帯状連続部材をフープ材で構成すること
の利点を強調するなど,帯状連続部材の概念を減縮したことによって進歩性が認め
られたわけではない。
    上記のとおり,訂正の内容及び経緯に照らし,帯状連続部材の概念が減縮
されたと解釈する理由は存在せず,この点に関する被告の主張は,明らかに失当で
ある。
    さらに,被告は,訂正審決は構成要件B①の構成をそのまま残しながら,
構成要件C②(帯状連続部材をその最先端部が圧着通電機構の第1の電極の間に送
り込まれるように供給する手段)及び構成要件C③(線材供給機構から供給された
線材が前記最先端部に挟み込まれた帯状連続部材を所定の位置で切断する手段)の
構成を備える旨の訂正を認めたので,導電性部材に関し,構成要件B①と構成要件
C②及び③との関係が不明瞭になっていると主張する。
    しかしながら,被告の上記主張は,本件特許発明に係る特許請求の範囲が
複数の構成要件の組み合わせによって記載されていることを無視して,複数ある構
成要件のうちB①の,しかも一部を抜き出してその構成を解釈しようとするもので
あり,特許請求の範囲の記載の解釈として根本的に間違っている。すなわち,構成
要件B①のうち「線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接又
は近接して配置される導電性部材」との部分だけを見れば,被告の指摘するとお
り,たしかに,既に切断された導電性部材に線材を配置する構成を含むと解するこ
ともできる。しかし,このような解釈は,その後に続く「前記導電性部材を導電性
の帯状連続部材で構成し」(構成要件C①)との記載により,あらかじめ切断され
た導電性部材に線材が配置される構成が明確に除外されていることを完全に無視す
るものである。このような導電性部材を前提とする構成が特許請求の範囲に含まれ
ると解釈する余地はなく,特許請求の範囲の記載に被告が主張するような不明瞭な
点など存在しない。被告の上記主張は,明らかに失当である。
 2 争点2(本件巻線機が本件特許発明の技術的範囲に属するか)について
  (1) 原告の主張
   ア 本件巻線機の構成は,以下のとおり分説することができる(以下,分説
した各構成をその符号に従い「構成a」のように表記する。)。
    a 線材供給機構1は,台102の上に設置されている複数個の回転プー
リー10及びノズル11を有している線材供給機構1において,前記複数個の回転
プーリー10のうち,ノズル11により近い位置にある回転プーリー10の回転軸
が,台102のノズルに近い側の枠に固定されており,ノズル11より遠い位置に
あるプーリー10の回転軸を有する支持部103が,台102に固定された軸10
4に巻着されたスプリング101と係着した状態にて,該軸104に沿って移動可
能な状態とすることによって,スプリング101,軸104と共に,第1テンショ
ン装置100を形成しているが,これらの複数個の回転プーリー10に対し,第2
テンション装置200側から送られてくる被覆導電線からなる線材8を巻着するこ
とによって,当該線材8を供給する前記線材供給機構1と,当該線材供給機構1か
ら供給される線材8を巻き回して偏向コイルを形成する金型2とを備えた偏向コイ
ル巻線機である。
    b 上記偏向コイル巻線機においては,以下の構成部分を備えている。
     ①ⅰ 線材供給機構1からノズル11を介して供給された線材8を,先
端において予め形成されている略倒U字状の内側に挿通させることによって,当該
線材8の外周に当接又は近接して配置される導電性部材3と,当該導電性部材3を
両側の電極41を介して線材8に圧着する導電性部材圧着手段4
      ⅱ 線材8の導電性部材圧着手段4に所定の電圧を印加し,かつ,導
電性部材圧着手段4の上側押圧部分の下端の位置及び下側固定部分の上端の位置に
設けられている一対の第1の電極41
     ② 移動した導電性部材3を第1の電極41以外の場所に係止するため
に,別紙「第2物件目録」第4図の2,3に示すように,一対の相向かい合う金型
固着用回転円板22と一体をなして回転する一対の回転ケース21のうち一方の回
転ケース21に設けられた係止手段5
     ③ この導電性部材3を,前記係止手段5に至るまで,ノズル11を介
して移動する同第1図に示すような移動手段6
     ④ⅰ 一方側が回転ケース21外に配置され,他方側が回転ケース21
に配置されている一対の接触用通電端子52によって通電が行われ,かつこの導電
性部材3と導電性部材圧着手段4により新たに線材8に圧着された導電性部材3と
の間に電圧を印加するために,導電性部材圧着手段4の下方側の端部に位置してい
る一対の第1の電極の一方にも該当している他方側の電極及び一対の係止手段5の
側端部の位置にそれぞれ設けられている一方側の電極からなる一対の第2の電極5

      ⅱ 前記一方の回転ケース21においては,
       (ア) 電磁弁24が備えられ,かつ当該一方の回転ケース21の内
側には,例えば同第4図の1に示すように,回転中心軸方向にガイドピン211を
突設し,かつ当該ガイドピン211によって嵌合されるガイドブッシュ261を介
して回転中心軸方向に往復移動を行うスライダー30が設けられており,
       (イ)上記スライダー30に固着されることによって,金型固着用
回転円板22の回転中心の位置に対称に設けられた孔を介して,回転中心軸方向に
往復移動することができ,かつ偏向コイルを押圧整型するための押型23が備えら
れており,
       (ウ) 金型2においては,これに巻き付けられている線材8の間に
挿入されることによって,偏向コイルに所定の隙間を設けるためのピン27を往復
移動し得るピン移動用シリンダー25が,複数本のエアーホース26を介して前記
電磁弁24によって,圧縮空気を送付され得る状態で備えられている。
    c 前記偏向コイル巻線機は,前記b①~④の各構成要件を備えるととも
に,
     ① 前記導電性部材3を帯状連続部材3によって構成し,
      かつ,以下の手段を備えている。
     ② 駆動シリンダー74が前方向に移動する場合には上下方向の押圧状
態を実現し,後方向に移動する場合には当該押圧状態からの開放状態を実現し得る
ポール75が,導電性圧着手段4が位置している前方向に移動する場合には,帯状
連続部材3を上下方向に押圧した状態にて一体をなして前進し,その反対方向に移
動する場合には,帯状連続部材3を前記押圧状態から開放したうえで後退すること
によって移動することによる移動機構72の作動に基づき,リール枠73によって
挟まれた状態で支軸70に嵌合している帯状連続部材巻着リール71に巻着されて
いる帯状連続部材3を,その先端が前記導電性部材圧着手段4及び第1の電極41
の間に送り込まれるように供給する供給手段7
     ③ 導電性部材圧着手段4と帯状連続部材の供給手段7の間にあり,か
つ導電性部材圧着手段4,第1の電極41の近傍の位置にて,線材供給機構1から
供給された線材8が略倒U字状の先端に挿通された帯状連続部材3を切断する,帯
状連続部材の切断手段9
   イ 本件巻線機の各構成と本件特許発明の各構成要件とを対比すると,
    (ア) 構成aは,当該線材8を供給する前記線材供給機構1と,当該線材
供給機構1から供給される線材8を巻き回して偏向コイルを形成する金型2とを備
えた偏向コイル巻線機であるところ,別紙「第1物件目録」添付の第1図記載の2
2は金型固着用回転円板であり,ここに金型2が固定されている。この金型固着用
回転円板22は軸中心に回転するから,金型2は「回転金型」に相当するものであ
る。
      よって,構成aは構成要件Aを充足する。
    (イ) 構成b①においては,線材供給機構1から供給された線材8の両側
から線材8の周囲(すなわち外周)に当接又は近接して配置される導電性部材3を
備え,かつ導電性部材圧着手段4は一対の第1の電極41を介して導電性部材3を
線材8に圧着しており,一対の第1の電極41は,線材8の導電性部材圧着部に所
定の電圧を印加している。一対の第1の電極41を介して導電性部材3を線材8に
圧着し,かつ線材8の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加しているのであるか
ら,導電性部材圧着手段4及び一対の第1の電極41は,全体として一対の電極4
1による圧着通電機構ということができる。
      よって,構成b①は構成要件B①を充足する。
    (ウ) 構成b②の係止手段5は,移動した導電性部材3を一対の第1の電
極41以外の場所である一方の回転ケース21に係止している。
      したがって,構成b②は構成要件B②を充足する。
    (エ) 構成b③の移動手段6は,導電性部材3を移動させているから,構
成要件B③を充足する。
    (オ) 構成b④の一対の第2の電極51は,導電性部材3と前記一対の電
極41による圧着通電機構により新たに線材8に圧着された導電性部材3との間に
電圧を印加している。
      したがって,構成b④は構成要件B④を充足する。
    (カ) 構成c①においては,導電性部材3を導電性の帯状連続部材3によ
って構成しているから,構成要件C①(導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成
すること)を充足する。
    (キ) 構成c②の供給手段7は,帯状連続部材3をその先端が「圧着通電
機構」(構成要件B①)の一部を構成する第1の電極41(構成b①)の間に送り
込まれるように供給しており(別紙「第2物件目録」添付第2図の1参照),構成
b①が構成要件B①を充足する以上,構成c②も構成要件C②を充足するというこ
とができる。
    (ク) 本件巻線機においては,導電性部材である帯状連続部材3の先端
が,「圧着通電機構」の一部を構成する第1の電極41(構成b①)の間に帯状連
続部材の供給手段7により送り込まれている(構成c②)。その上,帯状連続部材
の切断手段9は,線材供給機構1から供給された線材8が略倒U字状の内側に挿通
された,すなわち最先端部に挟み込まれた帯状連続部材3を,所定の位置である
「圧着通電機構」に相当する導電性部材圧着手段4及び一対の第1の電極41の近
傍で切断している。
      よって,構成c③は構成要件C③を充足する。
     以上のとおり,本件巻線機は,本件特許発明の構成要件をすべて充足し
ており,その技術的範囲に属する。
  (2) 被告の認否・反論
   ア 前述したとおり(1(2)ア),訂正審決を経て,特許請求の範囲における
「導電性の帯状連続部材」(構成要件C)は,一部を切り起こしたフープ材に限定
され,少なくとも平板状の長尺部材50については,明確に「導電性の帯状連続部
材」から除外されたというべきである。
     また,訂正審決は,構成要件B①の構成をそのまま残しながら,構成要
件C②(帯状連続部材をその最先端部が圧着通電機構の第1の電極の間に送り込ま
れるように供給する手段)及び構成要件C③(線材供給機構から供給された線材が
前記最先端部に挟み込まれた帯状連続部材を所定の位置で切断する手段)の構成を
備える旨の訂正を認めたので,導電性部材に関し,構成要件B①と構成要件C②及
び③との関係が不明瞭になっている。
     上記を前提に,原告の主張に対して認否・反論する。
   イ 原告主張に係る本件巻線機の具体的構成(上記(1)ア)は,(ア) 構成a
のうち,「第2テンション装置200側から送られてくる被覆導電線からなる線材
8を巻着することによって,当該線材8を供給する前記線材供給機構1と,当該線
材供給機構1から供給される線材8を巻き回して偏向コイルを形成する金型2と」
の部分及び(イ) 構成b①ⅰのうち,「先端において予め形成されている略倒U字
状の内側に挿通させることによって,当該線材8の外周に当接又は近接して配置さ
れる導電性部材3と」の部分を除き,すべて認める。
     前述のとおり,そもそも被告装置は平板状帯状部材(本件明細書におけ
る「平板状の長尺部材50」に相当する。)の使用のみを予定した専用構造を有す
るから,同装置を偏向コイルの巻線機として構成した本件巻線機も,平板状帯状部
材の使用のみを予定するものである。
     上記(ア)の部分は,本件装置を購入して使用するユーザーが,偏向コイ
ルや電磁調理器用コイル等の用途に応じて具体的構成を選択するものであることを
看過し,本件装置が本件巻線機の専用構造であるかのごとく主張するものであっ
て,失当である。
     また,上記(イ)の部分は,帯状連続部材を平板状帯状部材で構成した場
合,平板状帯状部材が供給された後に成型手段によって成型されるものであるにも
かかわらず,「予め成型されている」と記載することで成型手段の存在を無視しよ
うとするものであって,失当である。
   ウ 本件巻線機の各構成と本件特許発明の各構成要件との対比(上記(1)イ)
については,
    (ア) 本件巻線機の構成aが構成要件Aを充足することは認める。
    (イ) 前述のとおり,訂正審決により,「帯状連続部材」(構成要件C
①)は,一部を切り起こしたフープ材に限定されたと解すべきものである。したが
って,これを切断成型して得られる「導電性部材」(構成要件B①)についても同
様であり,その結果,第2物件目録における「導電性部材3」は,構成要件B①の
「導電性部材」には含まれなくなった。
      したがって,構成b①ⅰは構成要件B①を充足しない。また,構成c
①も構成要件C①を充足しない。
    (ウ) 以上のとおりであるから,本件巻線機は,本件特許発明の技術的範
囲に属するものではない。
  (3) 原告の再反論
    被告は,平成15年5月19日付け被告準備書面(27)において,訂正審決
による訂正部分を含め,「第2物件目録」記載のコイル巻線機(本件巻線機)が本
件特許発明の構成要件の大部分を充足することを認めつつ,構成要件B①の前半部
分,構成要件C①及び構成要件C③の充足性を争っている。
    前述のとおり,被告の上記主張は,自らがいったん認めた第2物件目録の
記載から遊離した理由のないものにすぎないが,以下,確認の意味も込めて,本件
巻線機が上記各構成要件を充足することについて再論する。
   ア 構成要件B①の前半部分について
     構成要件B①の前半部分は,「線材供給機構から供給された線材の両側
から線材の外周に当接又は近接して配置される導電性部材」という構成要件を規定
したものである。
     第2物件目録の第2図の1を参照しながら,本件巻線機の構成と構成要
件B①の前半部分とを比べてみると,第2図の1には,図外の線材供給機構1から
供給される線材8,さらにその線材8の両側から線材8の外周に当接又は近接され
る導電性部材3が明示されており,本件巻線機が構成要件B①の前半部分を充足す
ることは明らかである。
     被告は,訂正審決によれば,線材の外周に当接又は近接して配置される
のは導電性部材3ではなく帯状連続部材であるから,本件巻線機は構成要件B①の
前半部分を充足しない旨を主張するが,帯状連続部材も導電性部材であることに変
わりはない。帯状連続部材として構成される導電性部材が第2図の1のように配置
されている以上,本件巻線機が構成要件B①の前半部分を充足するのは当然であ
る。被告の上記主張は,失当である。
   イ 構成要件C①について
     構成要件C①は,「前記導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成す
る」ことを構成要件として規定したものである。
     この点につき,第2物件目録の第2図の1を参照してみると,帯状連続
部材で構成された導電性部材3が明示されており,本件巻線機が構成要件C①を充
足することは明らかである。
     被告は,訂正審決により帯状連続部材の概念が一部を切り起こして折り
曲げたフープ材に減縮されたとして,本件巻線機は構成要件C①を充足しないと主
張するが,このような減縮がされたものと到底認めることができないのは,前記の
とおりである。被告の上記主張は,失当である。
   ウ 構成要件C③について
     構成要件C③は,「前記線材供給機構から供給された線材が前記最先端
部に挟み込まれた帯状連続部材を所定の位置で切断する手段」を規定したものであ
る。
     第2物件目録の第7図の1及び第7図の2を参照しながら,本件巻線機
の構成と構成要件C③とを比べてみると,第7図の1には,線材供給機構のノズル
11から供給された線材が帯状連続部材の最先端部に挟み込まれた状態が示されて
おり,第7図の2には,そのような状態にある帯状連続部材を切断手段9で切断す
る様子が示されている。
     したがって,第7図の1及び第7図の2に記載されている切断手段9
が,「前記線材供給機構から供給された線材が前記最先端部に挟み込まれた帯状連
続部材を所定の位置で切断する手段」に相当するものとみることに何ら支障はな
く,本件巻線機は構成要件C③を充足する。
    以上のとおり,本件巻線機は,構成要件B①の前半部分,構成要件C①及
び構成要件C③をいずれも充足しており,他の構成要件の充足性については争いが
ないから,本件巻線機は,本件特許発明の構成要件をすべて充足するものとして,
その技術的範囲に属する。
 3 争点3(間接侵害の成否)について
  (1) 原告の主張
    本件装置は,下記ア~エのとおり,偏向コイルの巻線機として使用した場
合においてのみ不可欠かつ有用な作用を発揮し得る構成を有しており,本件装置の
経済的・商業的な使用としては,偏向コイル巻線機としての使用しかあり得ない。
    したがって,本件装置は,偏向コイルの巻線機としてのみ使用することを
目的として製造販売されているというべきであり,その製造販売は本件特許権の間
接侵害(平成14年法律第24号による改正前の特許法101条1号)に該当す
る。
   ア 線材供給機構1における第1テンション装置
     偏向コイルの形成過程においては,一対の金型が複雑な形状を呈してお
り,回転中心を基準とした場合,同心円状から程遠い形状であるために,線材の金
型に対する巻着位置の変化に伴い,当該巻着位置における回転中心からの径が変化
する。したがって,線材を金型の巻着する際の周速(金型2の巻着位置における回
転速度)も必然的に増減する。しかるに,金型固着用回転円板の回転速度は一定で
あるから,線材8が金型2に巻着する際の周速が増大する場合には,線材を金型の
側に引き込む張力が増大し,逆に前記周速が小さい場合には,前記張力が減少する
ことになる。
     本件装置の線材供給機構1における第1テンション装置が,一部の回転
プーリーの中心軸をスプリングに押圧した状態で係着されているのは,上記のよう
に,周速が低下した場合に,線材に対し更なるテンションを加え,これが緩んだ状
態に至ることを解消するとともに,前記周速が増加した場合に,増加したテンショ
ンを吸収し,周速の増加に伴う線材の切断を防止するためにほかならない。すなわ
ち,通常のコイル巻線機に対する線材の供給であれば,巻着の開始時,終了時,更
には線材をコイル巻線機の回転部分に巻着する際にテンションの変化が生じても,
供給機構に備えられた本件装置の第2テンションのような所定のテンション装置に
よりこれを吸収することが可能である。しかし,偏向コイルを形成する場合には,
線材の金型に巻着する際の周速が増減し,上記のようなテンション装置によるテン
ションの吸収では,周速の変化に伴うテンションの増減に到底対処することができ
ない。それゆえに,本件装置には第1テンション装置が設けられているのである。
     このように,本件装置の第1テンション装置は,偏向コイル巻線機とし
て使用する場合に不可欠かつ有用な作用を発揮する。しかし,逆に偏向コイルの形
成以外(例えば電子調理器用コイルの形成等)に使用する場合には不要なものであ
り,実際上も,偏向コイルの形成以外の場合に前記第1テンション装置のような構
成が採用された例はない。
   イ スライダー30,ガイドピン211及びガイドブッシュ261による移
動機構
     本件装置においては,スライダー30,ガイドピン211,ガイドブッ
シュ261等による移動機構が設けられている(第1物件目録第4図の1参照)。
     本件装置を偏向コイル巻線機として使用する場合には,この移動機構に
より,スライダー30に固着した押型23が,金型固着用回転円板22の回転中心
の位置から対称に設けられた孔を介し,回転ケース21の回転の中心軸方向に往復
移動することが可能となる。押型23は,偏向コイルの巻着が終了し,第2の電極
の通電によって整型を行う際に,偏向コイルを押圧してその整型に寄与するもので
あり,他方,上記移動機構は,当該押型23を往復移動させるために設けられ,押
型23と同様,専ら偏向コイルの形成のためにのみ使用されるものである。電子調
理器用コイルを形成する場合には,このような押型及びこれを移動させる機構は不
要である。
   ウ 電磁弁24
     本件装置の電磁弁24(第1物件目録第1図及び第4図の2参照)は,
第2物件目録が示すように,偏向コイルの形成工程において,コイル間に隙間を生
じさせるためのピン27を移動させるシリンダー25とエアーホース26を介して
連通している。
     このように,電磁弁24は,専ら偏向コイルを形成するためシリンダー
25によってピンを移動させるための構成要素として,不可欠かつ有用な作用を奏
するものである。これ以外の場合,例えば電子調理器用コイルの形成等の場合にお
いては,このような作用を奏することはない。
   エ 両側の駆動モーターによる同期回転機構
     本件装置においては,一対の回転ケース21は,相互に同期した状態で
回転し得る2個の駆動モーターによってそれぞれ駆動されている(第1物件目録構
成の説明参照)。
     このように,一対の駆動モーターによって回転の同期を確保しているの
は,偏向コイルを形成する場合において,共に回転する一対の金型の回転位置にズ
レが生じたときには,所定の形状による偏向コイルを得ることができなくなるの
で,一対の金型の回転位置を合致させる必要があるからである。このような一対の
駆動モーターによる同期機構は,偏向コイル巻線機として使用する場合には不可欠
かつ有用な作用を発揮するが,偏向コイルの形成以外(電子調理器用コイルの形成
等)に使用する場合には不要なものであり,実際上も偏向コイルの形成以外の場合
にこのような機構が採用された例はない(電子調理器用電磁コイルの形成に使用さ
れる治具は,左右に分離されているわけではなく,それゆえ両側の同期回転は不要
である。)。
  (2) 被告の反論
    本件装置は,多品種少量生産の流れに対応して,コイル巻線機としての汎
用性を有するよう設計されたものであって,偏向コイルの巻線機としてだけではな
く,電子調理器用の電磁コイルの巻線機としても使用される(乙7の1,2,乙8
参照)。
    偏向コイルと電磁調理器用コイルは,いずれも巻線後に被覆導線を通電発
熱させて被覆層を溶着させ,コイルの巻線形状を保持ないし固化するボンディング
技術で共通し,かつ被覆導線へのヒュージング技術で共通する。よって,当業者
は,コイルの巻線装置の技術分野において,偏向コイルの巻線装置のヒュージング
技術を,電子調理器用電磁コイルの巻線装置のヒュージング技術に容易に応用でき
る(乙18参照)。このように,ボンディング技術とヒュージング技術を基本とす
る巻線機である以上,汎用性を持たせることは技術的に容易であり,その他の相違
点,例えば偏向コイルと電磁コイルの形状の相違は,ノズルの3次元移動をCNC
制御することで解決できる。
    加えて,本件装置が偏向コイルの巻線機として使用した場合においてのみ
不可欠かつ有用な作用を発揮し得る構成を有するという原告の主張も,下記ア~エ
のとおり,失当である。
    したがって,本件装置が本件巻線機の生産のみに使用されるものであると
いうことはできない。
   ア 第1テンション装置
     一般に,コイルの形成過程においては,巻き回し時のみではなく,巻始
め時あるいは巻き終わり時,線材の導入時などにも,線材が緩んだり緊張したりす
るので,線材にテンションを加える必要がある。したがって,本件装置における第
1テンション装置のような装置は,巻線装置において一般的に必要なものであり,
電子調理器用電磁コイルの製造装置にも備えられている(乙18参照)。上記製造
装置においては,ノズルの移動や第2テンション装置のみで回転時に起こるテンシ
ョンの変動に十分対応できるものではなく,テンションの変動を回避するために
は,第1テンション装置のような装置が必要となる。
     したがって,線材の巻き回し時のみを前提とし,電磁調理器用コイルに
は第1テンション装置が不要であるとする原告の主張は,失当というべきである。
     また,第1テンション装置は,コイル巻線機とは独立した装置であり,
対象に応じて組み合わせて設置されるものであって,容易に取り付け,また取り外
せるようになっている。同装置は,自社製品の仕様に応じた偏向コイルを得るため
にユーザーが設計・使用・保存するものであって,実際には,ユーザーが巻線機を
購入する際に,自社で設計製造するか,あるいは設計仕様に応じた製造を他社に依
頼し,購入した巻線機に自社仕様の第1テンション装置を装備することになる。
     したがって,第1テンション装置が特定の具体的構成を有することを前
提とするかのような原告の主張は,この点においても失当である。
   イ スライダー30,ガイドピン211及びガイドブッシュ261による移
動機構
     これらの移動機構は,スライダの進退移動によって電磁コイル用芯型を
後退させて剥離し,取り出すものである。
     本件装置においては,両側に移動機構が存在するが,電子調理器用電磁
コイルの形成に際しては,右側では電磁コイル用芯型や突き出しピン類等の移動を
必要としないので,ガイドピンとスライダは,移動機構として機能せず,単に右側
回転ケース12に収納されているにすぎない(乙11参照)。右側のガイドピンと
スライダを動作させずに収納することは,巻線機の部品点数を削減することとな
り,製造コストが低下する利点がある。特に,巻線機を偏向コイルの製造用に転用
する際には,移動機構の必要部品を取り付けるだけで足り,転用が容易となる。し
たがって,上記移動機構が電子調理器用電磁コイルの形成に不要である旨の原告の
主張は,失当である。
   ウ 電磁弁24
     一般に,電磁弁はそのオン・オフにより各種機構部品の制御に使用でき
るものであって,電磁弁をピン出し機構にのみ使用しなければならないということ
はない。本件装置の電磁弁24も,ピン動作以外に,第2の電極の開閉やコイルの
中間タップ線の引込み等の各種動作にも接続することができる。
     原告は,上記電磁弁24は,偏向コイルの形成工程において,コイル間
に隙間を生じさせるためのピン27を移動させるシリンダー25とエアーホース2
6を介して連通していると主張するが,第1物件目録の記載から遊離した主張にす
ぎない。
     すなわち,第1物件目録3頁25行には「一方の回転ケース21には,
電磁弁24が設けられ」と記載され,第4図の2には複数のシリンダー25と複数
のエアーホースが図示されているが,これらに対応する電磁弁の数に関する記載は
一切存在しない。原告が電磁弁を問題にするのであれば,その数を第1物件目録中
に明確に記載した上で,数の多寡による電子調理器用電磁コイルへの適用の有無を
論じるべきである。
   エ 両側の駆動モーターによる同期回転機構
     原告は,本件装置における一対の回転ケース21は,相互に同期した状
態で回転し得る2個の駆動モーターによって,それぞれ駆動されているところ,こ
のような一対の駆動モーターによる同期機構は,偏向コイル所定の形状を得るため
のものであり,偏向コイル巻線機として使用する場合に不可欠かつ有用な作用を発
揮すると主張する。
     被告装置のように,電子調理器用の電磁コイルを形成する装置において
は,多数の線材を束ねたものを用いてコイルを形成するため,巻線時にコイルを支
える両側の側板には広がる方向への圧力が生じる。したがって,これに耐える圧力
で支持するため同期回転する必要がある。原告の特許出願に係る電子調理器用電磁
コイルの製造装置(乙18)においても,スピンドルが同期回転するようになって
いる。
     しかしながら,電子調理器用の電磁コイルの形成に際して,一方の回転
ケースを回転駆動させて他方側を従属回転させることは,回転開始時に面圧当接面
域が少ないために技術的に困難である。また,面圧当接による従属回転に依拠する
とすれば,電磁コイル用板型28と右側の金型固着用回転円板22との間で線材の
被覆層が摩擦抵抗により接続することになり,被覆層の剥離が起こるなど,到底実
施不可能である。
     この意味において,原告の上記主張は,電子調理器用の電磁コイルの形
成に際して通常行われていないことを主張するものにすぎず,失当というべきであ
る。
  (3) 原告の再反論
    被告は,平成15年5月19日付け被告準備書面(27)において,間接侵
害の成立を否定する。
    しかしながら,間接侵害の成否については提訴以来議論されており,訂正
審決前にいったん侵害論の審理を終えて損害論に移行した経緯からすると,第1物
件目録記載の装置が第2物件目録記載の偏向コイル巻線機としてのみ使用されると
いう点については,これを肯定する結論に達していたはずである。そして,前述の
とおり,訂正審決により特許請求の範囲が変更されたとしても,第1物件目録及び
第2物件目録の内容には何ら変更はないから,第1物件目録記載の装置が第2物件
目録記載の偏向コイル巻線機としてのみ使用されるという結論にも変更はないはず
である。
    しかるに,被告は,訂正審決により特許請求の範囲が変更されたことを理
由に間接侵害を否定しており,それ自体失当な主張というべきである。
    したがって,これ以上の議論は審理の遅延を招くだけで無意味であるが,
被告の主張には明らかに不適切な点が散見されるので,念のため,以下のとおり反
論を加えておく。
   ア 第1テンション装置について
     被告は,第1テンション装置が容易に取り外し可能であること及びユー
ザーの設計仕様に応じて製造されるものであることを強調している。被告の意図す
るところは必ずしも明らかでないが,第1物件目録記載の第1テンション装置を電
磁調理器用コイル巻線機に使用した場合,そのままでは有用な作用を発揮できない
ことから,上記第1テンション装置を取り外し,ユーザーの設計仕様に応じた第1
テンション装置を取り付ければよいということを述べているものと思われる。
     しかしながら,被告が製造販売する被告装置には,第1物件目録記載の
偏向コイル巻線機用の第1テンション装置が現に装着されており,これが取り外し
可能であるとか,ユーザーの設計仕様に応じて製造されるものであるなどといった
事情は,間接侵害の成否には全く関係がない。なぜなら,構成要素の一部を取り外
し,交換した上で電磁調理器用コイルの巻線機に用いるというのであれば,もはや
第1物件目録記載の装置をそのまま電磁調理器用コイルの巻線機に利用できること
にはならず,ほかの用途が否定されるというべきだからである。
   イ 移動機構について
     被告は,本件装置を偏向コイルの製造用に転用する際には,移動機構の
必要部品を取り付けるだけで足り,転用が容易となる利点がある旨を主張する。
     しかしながら,この主張は,本件装置を電磁調理用コイルの巻線機とし
て使用した場合には,移動機構が無駄となり,有用な機能を発揮しなくなることを
自白するものである。
     間接侵害の成立を否定するためには,実用的な他の用途が存在すること
が必要であるところ,一部の機構が有用な機能を発揮せず,無駄になるような変則
的な使用では,実用的な他の用途が存在するとはいえない。被告の上記主張は失当
である。
   ウ 電磁弁について
     被告は,電磁弁を問題にするのであれば,その数を第1物件目録中に明
確に記載した上で,数の多寡による電子調理器用電磁コイルへの適用の有無を論じ
るべきであると主張する。
     しかしながら,第1物件目録の「第2.構成の説明」欄に電磁弁の数に
関する説明はないものの,添付図面の第1図,第4図の2には多数(具体的には8
個)の電磁弁を設けた構成が明示されており,第1物件目録記載の装置に電子調理
器コイル用の巻線機に要求される以上の個数の電磁弁が設けられていることが明示
されている。
   エ 汎用性について
     被告は,第1テンション装置が容易に取り外し・交換可能であること
や,電磁調理器用コイルの巻線機として用いる場合には,移動機構が無駄になるも
のの,必要な構成を付加すれば転用可能であることなどをもって,第1物件目録記
載の装置には汎用性があると主張する。
     しかしながら,前述したとおり,他の用途(この場合は,電磁調理器用
コイルの巻線機)に使用する場合に,一部の構成が無駄になったり,取り外し及び
交換を前提とするような場合には,もはや汎用性があるとはいえない。
     被告の主張はいずれも的を射ておらず,間接侵害を否定する根拠になり
得ない。
 4 争点4(無効事由の存否)について
  (1) 被告の主張
   ア 公然実施(新規性欠如)
     原告は,本件特許発明の実施品を「SUPER-VH」又は「SUPE
R-VH型DY巻線機」と称し,平成5年1月ころから日本国内で販売活動あるい
は新聞発表をした上,国外に輸出していた。
     したがって,本件特許発明は,特許出願前(優先日前)に公然実施をさ
れた発明(特許法29条1項2号)に該当し,無効事由の存することが明白であ
る。
   イ 公知例に基づく容易推考(進歩性欠如)
    (ア) 構成要件Aが進歩性の根拠となるものでないことは,明らかであ
る。
    (イ) 構成要件B①~④に関し,巻線後のコイルより線の始端と終端にそ
れぞれ電極を設け,電極間に通電して被覆層を相互溶融させることで巻線形状を崩
すことなくボンディング固化させる技術(ヒュージング)は,周知ないし公知の技
術にすぎない(乙1の7,乙13参照)。
    (ウ) 構成要件C①に関し,端子ないし電極をパーツ単位として供給せ
ず,連続するフープ材で供給した後に端子ないし電極を成型する方式(フープ材供
給方式)は,線材に端子ないし電極を圧着接続する技術分野において,一般的に行
われている(乙13,乙14,乙59参照)。
    (エ) したがって,本件特許発明の進歩性を根拠付けるとすれば,構成要
件C②及び③のほかになく,訂正審決も,この点に独立特許要件があると判断して
訂正を認めた。しかしながら,この判断は誤りであり,職権審理結果通知書(乙6
4)が指摘するとおり,構成要件C②及び③の各構成は,公知文献である乙63の
2(ないし63の3)に開示されている。以下,詳述する。
      乙63の2(特開平4-95372号公報)は,「一対の加圧具で接
合板外面を加圧することによって複数の導電性の線材を前記接合板で包み込み,前
記加圧具と同形状の電極で前記接合板外面を加圧しつつ前記電極を発熱させること
により少なくとも線材相互の温度を高めて圧着結合することを特徴とする線材の接
合方法」(上記公報の特許請求の範囲(1))等に関するものであるところ,端子17
が,送り板27の送りによって,アンビル兼下部電極28bとクリンパ兼上部電極
28aとの間に(上記公報第8図),あるいは,アンビル9とクリンパ11とが兼
ねる電極の間に(同公報第9図),連続的に送られる実施例が開示されている。こ
れらの各構成は,構成要件C②の「この帯状連続部材をその最先端部がB①記載の
第1の電極の間に送り込まれるように供給する手段」に一致する。
      また,乙63の2の(実施例)欄には,「第1図(a)のような1個
の端子17がアンビル9上に位置し,電線13,15が挿入されて両者がアンビル
9上に配置されると油圧シリンダ装置21が伸びてクリンパ11が下降する」との
記載が存するところ,このアンビル9とクリンパ11は電極兼用に構成できるの
で,これらは「圧着通電機構」に該当するものと認められる。そして,これらの電
極の間には電線13,15が挟み込まれた端子17が挿入されており(上記公報第
1図(a),第2図,第9図参照),この端子17は,上記公報第1図(a)に示
されるように,アンビル9上で圧着された後に送り板27から切り離されることに
なる(クリンパが下降すると,端子が圧着されて送り板から切断分離されること
は,実質上同一の技術に関する乙63の3〔特開平6-267598号公報〕に照
らしても,自明である。)。そうすると,上記記載には,独立した金属片や帯状連
続部材から切り離された端子片ではなく,切断前の帯状連続部材に線材が挟み込ま
れた上,同部材が切断される構成が開示されていることになる。これは,構成要件
C③の「前記線材供給機構から供給された線材が前記最先端部に挟み込まれた前記
帯状連続部材を所定の位置で切断する手段」に一致する。
      そして,乙63の2に開示された加圧手段と通電手段を一体化させた
実施例(上記第8図,第9図)は,「加圧具から電極へ電線を移動させるといった
作業が不必要となり作業工程も省略させることができる。」という,これら実施例
特有の作用効果を奏するものとされている。この作用効果は,本件特許発明におけ
る,圧着通電機構への導電性部材の供給が容易になるとの作用効果と同一であるか
ら,乙1の7に記載された発明に,乙63の2,さらには乙63の3,乙13に記
載された各発明を組み合わせることは容易である。
    (オ) 以上によれば,構成要件C②及び③に係る構成に独立特許要件を認
めた訂正審決の判断は誤りであり,本件特許発明は,乙1の7(特開昭60-24
3933号公報),乙13,乙63の2(又は乙63の3)を組み合わせて容易に
想到できたものである。
      したがって,本件特許権には特許法29条2項に違反して特許された
無効事由の存することが明らかであり,同特許権に基づく原告の請求は,権利の濫
用に当たるものとして許されない。
  (2) 原告の反論
   ア 公然実施(新規性欠如)について
     原告は,「SUPER-VH」という名称の偏向コイル巻線機の製造及
びこれに基づく営業戦略を企図したことはあったが,内外の関係当事者に対し秘密
保持義務を課しており,本件特許発明が特許出願前(優先日前)に公然実施された
ことはない。
     この点に関する被告の主張に理由のないことは,公然実施を主たる根拠
として被告が請求した第1次無効審判に対し,特許庁が請求は成立しない旨の審決
をし,この審決が既に確定していることに照らして,明らかである。
   イ 公知例に基づく容易推考(進歩性欠如)について
    (ア) 乙1の7並びに乙63の2及び3(なお,乙63の3に開示された
技術は,乙63の2に開示された技術と実質的に同一であるから,以下,これらの
技術を併せて論じる趣旨で,単に「乙63の2」と表記することにする。)に開示
された各発明は,被告が主張するように容易に組み合わせることができるものでは
なく,本件特許発明が,これらに基づき容易に発明できたものということはできな
い。
      乙1の7(特開昭60-243933号公報)は,偏向コイル巻線機
に関するもので,保持台10に一時的に保持されたより線部分に,移動機構16,
チャック17からなる金属片支給機構により運ばれてきた金属片14を跨乗させ,
これをクランプ機構19で保持しておき,この保持されている金属片14のところ
まで小型抵抗溶接機20が移動してきて金属片14を挟持・通電することによっ
て,一連の線材の途中に金属片14を接続している。
      これに対し,乙63の2(特開平4-95372号公報)は,線材の
接合装置に関するもので,アンビル9とクリンパ11の間に接合板としての端子片
17を送り板27を介して送り込み,端子片17に電線13,15の端部を挿入
し,電極を兼ねたアンビル9とクリンパ11により圧着と通電を行うことで2本の
電線13,15を接合している。
      すなわち,乙1の7は,より線部分に跨乗する金属片に向けて小型抵
抗溶接機が移動してきて圧着・通電を行うものであるのに対し,乙63の2は,ア
ンビルとクリンパの間に送り板を介して端子片を送り込み,そこで圧着・通電を行
うものである。両者は端子片を線材に圧着し通電する点において共通するものの,
その構成・動作が大きく相違している。また,乙1の7には,小型抵抗溶接機を金
属片のところまで移動させるのではなく,金属片を小型抵抗溶接機に対して送り込
む構成や,線材側を移動させて金属片に線材を挟み込む構成を採用することを示唆
する記載は一切存在しない。したがって,乙1の7の当該部分の構成を乙63の2
の構成によりそのまま置換できるものではなく,両者を組み合わせるためには,か
なりの創意工夫が必要と考えられる。そのことは,訂正審決が,圧着だけを行う点
で乙63の2と相違する乙59(実願昭57-147932号(実開昭59-53
787号)のマイクロフィルム)につき,乙1の7に記載された上記小型抵抗溶接
機(圧着通電機構に該当する。)は,それ自体が線材上に跨乗する金属片のところ
まで移動してくるものであるから,そのような小型抵抗溶接機に,乙59に記載さ
れた圧着装置の技術手段を適用することは,かなりの創意と工夫を要するものと認
められ,当業者が容易になし得ることではない旨判断したことに照らし,明らかと
いうべきである。
    (イ) 上記に加え,乙1の7に乙63の2を組み合わせるに当たっては,
以下のような阻害要因が存在する。
      すなわち,端子片に線材を挟み込む場合,挟み込みの手順としては,
端子片側を移動させて挟み込む方法と,線材側を移動させて挟み込む方法の2通り
があり,いずれを採用するかは,挟み込みの容易さ,確実性を考慮して決定され
る。
      乙1の7(特開昭60-243933号公報)においては,保持台1
0を線材2に予め保持しておき,そこに金属片支給機構により運んできた金属片1
4を跨乗させることで線材の挟み込みを実現しているが,これは,乙1の7記載の
装置においては,線材の途中の2箇所A,Bにおいて金属片14を接続する必要が
あり,しかも線材はその両端が巻き終わったコイルとノズル9に接続されているこ
とから(乙1の7の図7参照),線材側を移動させて挟み込むことが技術的に難し
いからである。2個の端子片に線材を挟み込むのであれば,予め位置決めされた線
材に対して2個の端子片をそれぞれ移動させた方が容易に挟み込みを行うことがで
きるので,この点を考慮して端子片側を移動させる構成を採用しているのである。
      乙1の7と同様に線材の途中2箇所に端子片を接続する乙13に開示
されるコイル巻線機も,やはり端子片側を移動させて線材を挟み込む構成を採用し
ている。乙13では,帯状連続部材を用いつつも,わざわざ端子片プレス装置19
で帯状連続部材を切断して端子片に成型し,さらにそれらを端子片取付けヘッド2
4a,24bによって移動させて線材を挟み込む構成を採用しているが,かかる構
成を採った理由のひとつには,線材側を移動させて線材を2箇所で挟み込むのが技
術的に難しいことがあるものと考えられる。
      これに対し,乙63の2(特開平4-95372号公報)では,アン
ビルとクリンパの間に端子片を先に送り込んでおき,そこに線材側を移動させて挟
み込んでいる。これは,2本の線材の接合すべき端部を予め隣接させておき,そこ
に端子片を載せる構成を採った場合,線材の端部が容易に動いてしまって端子片へ
の挟み込みを確実に行うのが難しくなるからである。乙63の2ではこの点を考慮
し,端子片側ではなく線材側を移動して挟み込む構成としているのである。所定の
位置に置かれた端子片に線材の端部を送り込む構成であれば,送り込まれた線材の
端部が端子片によって案内・保持され,線材の挟み込みを比較的容易に行うことが
できる。また線材の端部は比較的自由に動かすことができるので,端子片へ線材を
送り込むのも容易である。
      このように,乙1の7では端子片を移動させて線材を端子片に挟み込
む構成を採っているのに対し,乙63の2が線材側を移動させて挟み込んでいるの
には,それぞれ理由がある。端子に線材を挟み込む点で共通するといっても,これ
ら2つの技術を単純に置き換えることはできない。挟み込みの効率・確実性を犠牲
にしてまで乙63の2の構成を組み合わせることが容易であるといえるためには,
これらを組み合わせることの強い示唆が乙1の7に記載されている必要があるが,
乙1の7にはそのような記載もない。
      さらにいえば,乙1の7記載の装置では,保持台10に線材を一時的
に保持しておいて金属片14への線材の挟み込みを行っているが,この状態では線
材を動かすことができないため,乙63の2を組み合わせるにしても,どのように
して線材を端子片に挟み込むかという問題が,なお残ることになる。端子片を線材
に挟み込むためには,端子片の送り動作に加え,他の動作を付加する必要がある
が,乙63の2にそのような内容は開示されておらず,それを示唆する記載もな
い。
      上記のとおりであるから,乙1の7に乙63の2の技術を適用するこ
とによって本件特許発明が容易に発明できたとする被告の主張は,成り立ち得な
い。
    (ウ) 付言するに,仮に乙1の7と乙63の2を組み合わせたとしても,
本件特許発明の構成がすべて導き出されるわけではない。
      本件特許発明と乙1の7(特開昭60-243933号公報)に記載
された発明は,① 前者が,帯状連続部材をその最先端部が圧着通電機構の第1の
電極の間に送り込まれる手段を備えているのに対し,後者は,このような供給手段
を備えていない点(訂正審決認定に係る「相違点b」),② 前者が,線材供給機
構から供給された線材が最先端部に挟み込まれた帯状連続部材を所定の位置で切断
する手段を備えているのに対し,後者が,かかる切断手段を備えていない点(同
「相違点c」)の2点において相違する。
      本件特許発明においては,上記①の供給手段及び同②の切断手段を備
えたことにより,圧着通電機構への端子片の供給を容易かつ確実に行うことができ
る。また,帯状連続部材がその最先端部から順に切断されて端子片として用いられ
るので,同部材が圧着通電機構を越えて延びることがなく,圧着通電機構を越えて
延びる同部材を回収する機構が不要となって装置を簡略化できる。それとともに,
ノズルを圧着通電機構の脇を通って金型近傍まで自由に移動させることができ,端
子片を金型側のチャックに容易に係止することができる。
      これに対し,乙63の2(特開平4-95372号公報)の第2図を
見ると,送り板27は省略線を用いて一部省略された形で描かれており,帯状連続
部材に相当する送り板27は,実際にはアンビル9とクリンパ11の間に送り込ま
れることなくその脇を通過し,最先端部は図外へと送られている。アンビル9とク
リンパ11の間に送り込まれているのは,連結板28を介して送り板27の側方に
接続された端子片17であって,送り板の最先端部が送り込まれているものでない
ことは,明らかである。以上から分かるとおり,乙63の2に記載された発明にお
いては,帯状連続部材をその最先端部が圧着通電機構の第1の電極の間に送り込む
供給手段(上記①参照)が存在しない。
      また,乙63の2記載の発明は,帯状連続部材の最先端部に線材が挟
み込まれた状態ではなく,送り板27の側方に接続する端子片17に線材が挟み込
まれた状態で切断するものである。同発明においては,線材がどこから供給される
のか不明であるばかりか(本件特許発明においては,線材供給機構から供給され
る。),切断されるのは,送り板27と端子片17を接続する連結板28であっ
て,帯状連続部材に相当する送り板27が切断されるわけではない。したがって,
線材供給機構から供給された線材が最先端部に挟み込まれた帯状連続部材を所定の
位置で切断する手段(上記②参照)が存在するということはできない。
      以上のとおりであるから,仮に乙1の7と乙63の2をそのまま組み
合わせたとしても,上記①及び②の相違点はそのまま相違点として残り,本件特許
発明の構成は実現されない。
    (エ) 上記の点をさらに敷衍すると,乙1の7(特開昭60-24393
3号公報)記載の発明は,金属片14を線材に圧着した後にノズル9を前進させ,
かつ右方へ移動させて端子片をチャック24に係止するものであるが,これに乙6
3の2(特開平4-95372号公報)記載の構成をそのまま組み合わせた場合,
アンビル9,クリンパ11の位置を越えて送り板27が延びてしまい,長く延びた
送り板27が邪魔となってノズル9の自由な移動が阻害されることになる。乙1の
7に乙63の2を組み合わせただけでは巻線機として正常に機能せず,送り板27
によるノズル9の移動の阻害を解決するための更なる工夫が必要となる。したがっ
て,両者は容易に組み合わせられるものではない。本件特許発明は,帯状連続部材
が圧着通電機構を越えて延びることがなく,ノズルが自由に移動できるという優れ
た作用効果を奏するものであるが,このような作用効果は,端子片を連続部材とし
て供給するだけでは得られず,圧着通電機構の間に帯状連続部材の最先端部を送り
込み,かつ,最先端部に線材を挟み込んだ状態で帯状連続部材を切断することによ
って初めて得られるものである。しかるに,乙63の2には,このような構成は全
く開示されていない。
      また,乙1の7が2箇所で金属片14を圧着する構成であることから
すると,乙1の7に乙63の2をそのまま組み合わせたものにおいては,圧着通電
機構に相当する小型抵抗溶接機は2個になるはずである。これに対し,本件特許発
明においては,特許請求の範囲の「この導電性部材と前記圧着通電機構により新た
に線材に圧着された導電性部材との間に」(構成要件B④)との記載から分かると
おり,先に圧着される導電性部材と新たに圧着される導電性部材は同一の圧着通電
機構により線材に圧着されており,したがって圧着通電機構はあくまで1個であ
る。この点からも,乙1の7と乙63の2を組み合わせても本件特許発明の構成が
実現しないことは明らかである。
    (オ) 以上のとおりであるから,いかなる観点からみても,本件特許発明
が,乙1の7と乙63の2(又は乙63の3)に記載された各発明を組み合わせて
容易に発明できたものということはできない。
 5 争点5(原告の損害賠償請求及び補償金請求の可否及びその金額)について
  (1) 原告の主張
   ア 補償金請求
     原告は,本件特許発明の出願明細書が公開された平成8年7月2日の後
である同月9日,被告に対し,被告装置の製造販売は同発明の実施に該当するの
で,本件特許発明が登録されるに至った場合には,補償金請求を行う予定である旨
の警告書を発送し,この警告書は遅くとも同月16日までには,被告に到達した。
     被告は,上記到達の後である平成8年7月16日から本件特許発明が登
録された日の前日である平成9年9月4日までの間に,被告装置を新規に販売する
か,又は日立メディアに対して納品していた偏向コイル巻線機につき被告装置の構
成となるような修繕に基づく再生産を行い,これら新規販売及び再生産の合計台数
は93台に及んだ。被告は,これにより合計9億0083万8690円の売上を得
た。
     本件特許発明の実施料は5%とみるのが相当であるから,原告は被告に
対し,上記新規販売及び再生産に関して,少なくとも4504万1934円の補償
金支払請求権(特許法65条1項)を有している。
   イ 損害賠償請求(その1)
     被告は,本件特許発明が登録された平成9年9月5日から本件訴訟提起
(平成10年5月12日)に至るまでの間,日立メディアに対し,上記アの場合と
同様,既に納品していた合計6台の偏向コイル巻線機につき被告装置の構成となる
ような修繕に基づく再生産を行った。この修繕に基づく再生産の代金は,1台当た
り800万円であることから,被告はこの再生産によって少なくとも合計4800
万円の代金を取得し,その2割である960万円の利益を得た。
     この被告が得た利益は,上記再生産により原告が被った損害の額である
と推定される(特許法102条2項)。
   ウ 損害賠償請求(その2)
     被告は,平成9年9月5日から平成12年9月末日までの間に,国内外
において,少なくとも合計184台の被告装置を新規に販売した。
     ところで,平成7年度(平成7年4月~平成8年3月)において,原告
製造に係る偏向コイル巻線機の平均製造原価は913万6274円であり,平均販
売単価は1278万9972円であった。これに対し,平成9年9月5日から平成
12年9月末日までの平均製造原価は738万3397円であって,平成7年度に
おける平均製造原価である上記913万6274円に比して,175万2877円
の差額が生じている。もちろん,被告装置のような製造機械の場合,その製造販売
期間が長くなるにつれ,コストが低減して製造原価が次第に低下する傾向があり,
原告の製造する偏向コイル巻線機とてその例外ではないが,その影響は3割と評価
すれば十分である。これを超えた低下分は,本件特許権を間接侵害して製造販売さ
れた被告装置との市場における競合に由来するものであるから,侵害が開始した平
成9年9月5日以後の原告の平均販売価格は,少なくとも1226万4109円
(1278万9972円-175万2877円×0.3)とみるべきである。した
がって,平成9年以後に原告が偏向コイル巻線機1台を製造販売することによって
得た粗利益は,488万0712円(1226万4109円-738万3397
円)と算出されることになる。
     原告は,製品全体の販売管理費の算出は行っているが,個別の製品の販
売管理費を特に算出しているわけではないので,本件特許発明を実施した偏向コイ
ル巻線機(原告装置)の販売管理費については,総売上高に対する販売管理費の占
める割合から算出するほかない。しかるところ,平成9年~平成12年度の各決算
報告書(甲14~16及び35)によれば,これら各年度における総売上高に対す
る販売管理費の割合は,平均して17.56%であるから,原告装置を上記122
6万4109円で販売した場合の1台当たりの販売管理費は,215万3577円
(1226万4109円×17.56%)と算出される。したがって,原告装置1
台の製造販売から得られる正味利益は,上記粗利益488万0712円から上記算
出に係る販売管理費215万3577円を減じた272万7135円ということに
なる。
     しかるに,被告が製造販売した被告装置においては,第2物件目録記載
の第2テンション装置が設けられておらず,かつ,金型固着用回転円板に当初から
孔が設けられていない。第2テンション装置の販売価格は69万5643円と算出
することができ,また,孔の切り込みを入れる加工金額は5万8136円と算出さ
れるから,原告装置のうち,被告装置に対応する部分の価額は,1151万033
0円(1226万4109円-69万5643円-5万8136円)と算出され
る。
     以上を総合すれば,原告装置の製造販売によって得られる正味利益27
2万7135円のうち,被告装置に対応する部分の金額は,255万9519円
(272万7135円×1151万0330円÷1226万4109円)を下回る
ことはない。
     したがって,原告との競合関係を伴う被告による被告装置の製造販売に
基づき,原告は4億7095万1496円(255万9519円×184台)の損
害を被ったものと推定される(特許法102条1項)。
   エ 小括
     上記ア~ウによれば,原告は被告に対し,合計5億2559万3430
円(4504万1934円+960万円+4億7095万1496円)の補償金請
求権及び損害賠償請求権を有している。
     本訴においては,上記のうち5億0393万7547円の支払と,これ
に対する平成13年1月1日(被告は,被告装置を平成12年9月末日まで販売し
ているところ,仮に原告が原告装置を同日までに販売した場合には,海外販売なら
少なくとも1か月以内に,国内販売でも遅くとも3か月以内に入金が行われること
は間違いない。)から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める。
  (2) 被告の認否・反論
    ① 原告からの警告書が遅くとも平成8年7月16日に到達した事実,②
 被告が,平成8年7月16日から平成9年9月4日までの間に,被告装置を新規
に販売するか,又は日立メディアに対して納品していた偏向コイル巻線機につき被
告装置の構成となるような修繕に基づく再生産を行い,これら新規販売及び再生産
の合計台数が93台に及んだ事実,③ 被告が,平成9年9月5日から本件訴訟提
起に至るまでの間,日立メディアに対し,上記②と同様に,既に納品していた合計
6台の偏向コイル巻線機につき被告装置の構成となるような修繕に基づく再生産を
行った事実,④ 被告が,平成9年9月5日から平成12年9月末日までの間に,
国内外において,少なくとも合計184台の被告装置を新規に販売した事実はいず
れも認めるが,その余の原告の主張は,不知ないし争う。
    本件特許発明の実施料はせいぜい2~3%とみるのが相当である。また,
原告は,被告装置との競合による販売単価の下落を強調し,製造台数が増えたこと
によるコスト低減の影響は3割と評価すれば十分であると主張するが,その具体的
根拠は一切示されていない。
第4 当裁判所の判断
   本件において,被告は,(ア) 被告装置の構成及びこれを偏向コイル巻線機
として用いる場合における構成(争点1),(イ) 本件巻線機が本件特許発明の技
術的範囲に属するか(争点2),(ウ) 間接侵害の成否(争点3),(エ) 原告の
補償金請求及び損害賠償請求の額(争点5)をも争っているが,本件事案の内容及
び本件の審理の経過にかんがみ,まず,(オ) 無効事由の存否(争点4)から判断
する。
 1 本件特許発明について
   第2,1(3)記載のとおり,本件明細書の特許請求の範囲請求項1の記載は,
下記のようなものである。
   「被覆導線からなる線材を供給する線材供給機構と,線材供給機構から供給
される線材を巻き回して偏向コイルを形成する回転金型とを備えた偏向コイルの巻
線機において,線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接また
は近接して配置される導電性部材と,これらの導電性部材を線材に圧着し,かつ線
材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極による圧着通電機
構と,移動した導電性部材を第1の電極以外の場所に係止する手段と,この導電性
部材を移動する手段と,この導電性部材と前記圧着通電機構により新たに線材に圧
着された導電性部材との間に電圧を印加する一対の第2の電極とを備えるととも
に,前記導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成し,この帯状連続部材をその最
先端部が前記圧着通電機構の第1の電極に送り込まれるように供給する手段と,前
記線材供給機構から供給された線材が前記最先端部に挟み込まれた前記帯状連続部
材を所定の位置で切断する手段とを備えたことを特徴とする偏向コイルの巻線
機。」
   また,本件明細書の「発明の詳細な説明」においては,本件特許発明は,偏
向コイルのリード線間に電圧を印加してコイルの形状維持を図る成型処理装置の改
良に関するもので,ブラウン管などに使用する偏向コイルについては,巻芯なしの
コイルのみの状態で鞍型等の特殊な形状を保持できるように成型する必要があり,
そのため,巻線を終えたコイルに通電して被覆線の被覆材を加熱溶融し,被覆線同
士を相互に溶着させるが,その際,巻線両端のリード線に接続する電極を絶縁被覆
の内側の導線に確実に接続する必要があるとされている(甲33の6「全文訂正明
細書」段落【0001】~【0004】。以下,段落番号は,「全文訂正明細書」
による。)。
   しかるに,ヒーターや高周波の加熱により導線から絶縁被覆を剥離させる従
来例においては,剥離した被覆材が導線に付着して通電時に導通不良を起こすおそ
れがあり,そこで例えば,エッジのある凹凸面を備えた電極兼用のクランプ部材で
リード線を把持することにより,エッジが被覆材を破って線材に直接接触するよう
にした装置が提案されたものの(特開昭61-208818号公報),この装置に
おいては被覆材そのものの除去が行われないため,電極と導線の接触の確実性に欠
けるという問題があったとされている(段落【0005】~【0007】)。
   そして,本件特許発明は,上記の課題を解決するため,偏向コイルの巻線機
において,偏向コイルの巻始め及び巻終わりのリード線と加熱溶着用の電極との接
続を確実にするとともに,巻線後の成型を合理的に行える成型機構を備えることを
目的として,特許請求の範囲記載に係る各構成を備えたものであり(段落【000
8】~【0009】),第1の電極が線材の導電性部材圧着部に電圧を印加し,線
材の被覆を溶融して導電性部材の側方に除去することによって,導電性部材と被覆
下の導線との広範囲にわたる接触が確保できるものとされている。また,導電性部
材の移動手段が線材に圧着した導電性部材を移動し,係止手段がこれを係止した状
態で巻線を行い,巻終わりの線材に新たな導電性部材を圧着した後,これらの導電
性部材の間に第2の電極を介して電圧を印加することで,コイルの成型が容易にな
るものとされている。さらに,導電性部材を帯状連続部材で構成し,この帯状連続
部材をその最先端部が圧着通電機構の第1の電極に送り込まれるように供給する手
段と,線材供給機構から供給された線材が最先端部に挟み込まれた帯状連続部材を
所定の位置で切断する手段とを備えたことで,圧着通電機構への導電
性部材の供給が容易になるものとされている(段落【0016】~【0017】,
【0101】~【0102】)。
   本件明細書の上記の各記載を総合すれば,本件特許発明は,線材供給機構と
偏向コイル形成のための回転金型とを備えた偏向コイルの巻線機において(構成要
件A),線材の外周に当接または近接して配置された導電性部材を圧着すると同時
に,その圧着部に第1の電極により電圧を印加し(同B①),線材に圧着されたこ
の導電性部材を移動して第1の電極以外の場所に係止した上,さらに新たな導電性
部材を線材に圧着通電し(同B②,③),こうして圧着された2つの導電性部材の
間に第2の電極により電圧を印加する(同B④)ことによって,線材を覆う被覆材
を加熱溶融し,線材同士を相互に溶着させ,特殊な形状をした偏向コイルの成型を
容易にすることを基本的な構成とした上で,帯状連続部材で構成した導電性部材
を,その最先端部が上記第1の電極に送り込まれるように供給し(同C①,②),
かつ,線材供給機構から供給された線材が上記帯状連続部材の最先端部に挟み込ま
れた状態で帯状連続部材を切断する(同C③)構成を採用したことにより,導電性
部材の供給を容易にしたものと認められる。
 2 特開昭60-243933号公報(乙1の7)について
   特開昭60-243933号公報(乙1の7。甲33の3も同一の書証であ
る。)は,偏向コイル製造装置の発明に係る公開特許公報であるが,その特許請求
の範囲の記載は,「複数の被覆素線からなるより線の一部分を保持する保持台と,
断面略U字状の第1の金属片を前記保持台上のより線部分に跨乗させる金属片支給
機構と,前記金属片を両側方から挟み込んで前記より線部分に圧着させかつ通電す
る加圧通電機構と,前記金属片を加熱用電源の一端に移し替えるための移送機構
と,前記金属片に連なる前記より線を巻回する成形用回転金型と,前記保持台上に
ある前記より線の巻線端縁に前記金属片支給機構により跨乗せしめた断面略U字状
の第2の金属片を前記加圧通電機構により圧着かつ通電したのち前記第2の金属片
を前記加熱用電源の他端に接続する給電機構とを備えてなることを特徴とする偏向
コイル製造装置。」というものである。
   上記発明に係る明細書の記載によれば,複数の被覆素線からなるより線を偏
向コイルの巻線として使用する場合に,1本のより線を形成する多数の繊細な被覆
素線の被覆を部分的に剥離し,この剥離部分を通電端子として巻線の素線を相互に
融着するための加熱作業を施すことが必要となるが,上記発明は,この工程におけ
る被覆素線の部分的な被覆剥離及び通電端子の設定を簡便かつ確実に,しかも自動
的に行うことを目的とするものであり(上記明細書「従来例の構成とその問題
点」,「発明の目的」各欄),その目的達成のために,例えば次のような具体的構
成を採用したものとされている。
   すなわち,より線を束ね合わせた巻線2を巻線ノズル9から昇降自在の保持
台10の上に繰り出して保持する一方で,移動台16とこれに取り付けられたチャ
ック17とからなる金属片支給機構は,直線フィーダ13内に並んだ断面略U字状
の金属片14を1個ずつチャック17に挟み込み,保持台10のところまで運ん
で,巻線2上の位置A及び位置Bの2箇所に跨乗させる。跨乗した金属片14は,
保持台10の一対のクランプ機構19により両脚部の先端縁で保持される。その
後,小型抵抗溶接機20が保持台10側に移動し,この溶接機に備えられた一対の
溶接電極21,22により,まず位置Aにおける金属片14の両脚部が両側方から
強く挟み込まれ,かつ通電加熱される。この圧着通電により,巻線部分の素線被覆
が局部的に除去され,素線の芯線部分に金属片14が密着し,電気的に導通する。
次に,溶接機20が前進して今度は位置Bにおける金属片14を同様に圧着通電
し,この金属片を巻線部分と電気的に導通した後,巻線部分を位置Aと位置Bの間
で切断する。
   ところで,位置Bにおける巻線部分は,成形用回転金型23に既に巻き回さ
れている巻線の巻終わり端縁を兼ねており,もう一方の端縁は予め加熱用電源の一
方の端子に接続されているので,上記切断後に,溶接電極21,22と加熱用電源
の一方の電極との間に電圧を印加することにより,金型23に巻き回された巻線を
相互に融着することができる。このようにして成形された偏向コイルを取り出した
後,次の偏向コイル成形のために巻線の巻き回しを開始するが,その際,ノズルが
移動して,上記位置Aで巻線に固着された金属片14を回転金型23の回転部チャ
ック24に挟持することにより,予め位置Aで金属片を固着しておいた巻線部分
が,新たな巻線の巻き回しの開始部分となる。以上の動作を繰り返すことにより,
多数の偏向コイルが順次製造されていくことになる(上記明細書「実施例の説明」
欄。部材の名称及びこれに付された番号等は,同明細書の記載による。)。
 3 本件特許発明と特開昭60-243933号公報(乙1の7)記載の発明の
対比
   上記1,2から分かるとおり,本件特許発明と特開昭60-243933号
公報(乙1の7)記載の発明は,いずれも偏向コイル巻線機に係るものであり,導
電性部材を線材に圧着通電して電気的に接続し,これをノズルで移動して回転金型
近傍のチャックに止め,金型を回転させて所定のコイル形状に線材を巻き取った
上,もう1つの導電性部材を線材に圧着通電して電気的に接続し,これら2つの導
電性部材の間に電圧を印加して巻線を相互に融着させ,もって成型された偏向コイ
ルを得る点において,基本的な構成を同じくするものということができる(なお,
これら2つの発明は,実施例に関する限り,2つの導電性部材の間に電圧を印加し
て偏向コイルを成型した後に線材を切断するか〔本件特許発明〕,あるいは,予め
線材を切断した上で2つの導電性部材の間に電圧を印加して偏向コイルを成型する
か〔特開昭60-243933号公報〕という点において,相違があるようにも見
える。しかしながら,これも偏向コイルの製造方法の発明に係る特公昭60-11
5128号公報〔乙36〕には,2つの導電性部材の間に電圧を印加して偏向コイ
ルを成型した後に,後から圧着した導電性部材を,次のコイル体を成型する場合の
一方の通電端子と成し得ることが明確に記載されており,偏向コイルの成型後に線
材を切断する構成が開示されているものと認められる。したがって,上記の相違点
が,本件特許発明の進歩性を論じる上で問題になるような性質のものでないことは
明らかである。)。
   そして,上記1,2によれば,特開昭60-243933号公報(乙1の
7)に記載された発明の実施例におけるノズル9が本件特許発明の「線材供給機
構」(構成要件A)に,複数の被覆素線をより合わせた巻線2が「被覆導線からな
る線材」(前同)にそれぞれ該当することは明らかであり,また,回転金型23が
「線材供給機構から供給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する金型」(前
同)に該当することも明らかであるから,特開昭60-243933号公報(乙1
の7)には,構成要件Aの各構成がすべて開示されているものと認められる。
   また,保持台10まで運ばれ,2箇所で巻線2上に跨乗する断面略U字状の
金属片14が,「線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接ま
たは近接して配置される導電性部材」(同B①)に該当するのは明らかであるとこ
ろ,小型抵抗溶接機20は,一対の溶接電極21,22によって金属片14の両脚
部を両側方から強く挟み込み,かつ通電加熱するものであるから,この溶接電極2
1,22は,「線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電
極」(同B①)に該当するものであり,上記小型抵抗溶接機は,圧着機能と通電機
能を兼ね備えた「圧着通電機構」に該当するものと認められる。したがって,特開
昭60-243933号公報(乙1の7)には,構成要件Bの各構成もすべて開示
されているものと認められる。
   そうすると,特開昭60-243933号公報(乙1の7)記載に係る発明
には,構成要件Cの各構成,すなわち,(ア) 導電性部材を「帯状連続部材」(構
成要件C①)で構成する点と,(イ) 「帯状連続部材をその最先端部がB①記載の
圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように供給する手段」(同C②)及
び「前記線材供給機構から供給された線材が前記最先端部に挟み込まれた前記帯状
連続部材を所定の位置で切断する手段」(同C③)を備えている点を除き,それ以
外の構成要件(構成要件A,同B①~④)が,すべて開示されていることになる。
   しかるに,偏向コイルの製造装置において,導電性部材として帯状のフープ
材を用いることを開示する実願昭58-88677号(実開昭59-192821
号)のマイクロフィルム(乙13)に照らし,導電性部材を帯状連続部材で構成す
ること(上記(ア)の点)が,本件特許発明の出願前に周知であったことは明らかで
ある。
   したがって,本件特許発明の構成要件のうち,特開昭60-243933号
公報(乙1の7)記載の発明に開示されておらず,かつ周知慣用の技術ともいえな
いのは,上記(イ)の点,すなわち,帯状連続部材をその最先端部が圧着通電機構の
第1の電極の間に送り込まれるように供給する手段(構成要件C②)及び線材供給
機構から供給された線材がその最先端部に挟み込まれた帯状連続部材を所定の位置
で切断する手段(同C②)を備えた点に限られることになる。
 4 特開平4-95372号公報(乙63の2)について
   ところで,特開平4-95372号公報(乙63の2)は,線材の接合方法
及び装置の発明に係る公開特許公報であるが,その特許請求の範囲(1)の記載は,
「一対の加圧具で接合板外面を加圧することによって複数の導電性の線材を前記接
合板で包み込み,前記加圧具と同形状の電極で前記接合板外面を加圧しつつ前記電
極を発熱させることにより少なくとも線材相互の温度を高めて圧着結合することを
特徴とする線材の接合方法。」というものであり,特許請求の範囲(2)の記載は,
「前記加圧具と電極とが同一部材であることを特徴とする請求項(1)記載の線材の接
合方法。」というものである。
   上記発明に係る明細書の記載によれば,この発明は,単なる加圧のみで線材
を接合する従来例によっては電気的特性及び接合強度が必ずしも十分でないことに
かんがみ,高い電気的特性と強い接合強度とを同時に得る線材の接合方法を提供す
ることを目的とするものであり(上記明細書の(従来の技術),(発明が解決しよ
うとする課題)各欄),このような目的の達成のために,例えば,アンビルが下部
電極を,クリンパが上部電極をそれぞれ兼ねたものを構成した上,連結板を介して
送り板と一体に形成された端子を,この送り板の送りによってアンビルとクリンパ
の間に連続的に送り込み,端子がアンビル上に位置し,接合すべき2本の電線が端
子に挟み込まれると,その状態でクリンパを下降させて端子を加圧して締め上げる
とともに,下部電極と上部電極の間に電圧を印加して線材相互の温度を高めること
により,電気的にも物理的にも線材を強固に接合する。以上のような構成を採用し
たことが,記載されている(上記明細書(実施例)の欄及び上記公報第8図,第9
図各参照。なお,部材の名称は同明細書による。)。
   ここで,上記特許請求の範囲(2)の記載のように,加圧具と電極とを同一部材
で構成した場合(上記公報第8図参照)には,これが本件特許発明の「圧着通電機
構」(構成要件B①)に該当することが明らかであるから,特開平4-95372
号公報(乙63の2)には,複数の導電性の線材を端子に挟み込んだ上,圧着通電
機構により圧着通電して結合する線材の結合方法が開示されているものと認められ
る。そして,上記実施例における具体的動作に照らし,送り板と一体に形成されて
送り板の側方に概ね等間隔で並んだ端子のうち先頭のものが,アンビルを兼ねた下
部電極とクリンパを兼ねた上部電極(圧着通電機構における一対の電極に相当す
る。)の間に送り込まれていることは明らかである。また,上記明細書には記載が
ないが,このようにして送り込まれた端子が,上記アンビル(兼下部電極)及びク
リンパ(兼上部電極)により圧着通電された後,その位置で何らかの切断手段によ
り切断されることは自明である(なお,端子を圧着した後に切断する点について
は,コネクター端子の圧着プレス機の考案に係る実願昭57-147932号(実
開昭59-53787号)のマイクロフィルム〔乙59〕にも,明確に開示されて
いる。)。
   そうすると,特開平4-95372号公報(乙63の2)には,導電性の連
続部材(送り板と一体に形成されて並んだ端子)が,その最先端部が圧着通電機構
に備えられた電極の間に送り込まれるように供給されることと,このようにして供
給された連続部材が,線材がその最先端部に挟み込んだ状態で圧着通電された後に
切断されることが,いずれも開示されており,前記のとおり,実願昭58-886
77号(実開昭59-192821号)のマイクロフィルム(乙13)に照らし,
導電性の連続部材を帯状のもの(例えばフープ材)で構成することは周知技術であ
ったと認められるから,結局,特開平4-95372号公報(乙63の2)には,
前項3(イ)記載の点,すなわち,帯状連続部材をその最先端部が圧着通電機構の第
1の電極の間に送り込まれるように供給する手段(構成要件C②)及び線材供給機
構から供給された線材がその最先端部に挟み込まれた帯状連続部材を所定の位置で
切断する手段(同C③)が,すべて開示されているものと認められる。
 5 特開昭60-243933号公報(乙1の7)及び特開平4-95372号
公報(乙63の2)に基づく容易推考
   上記2~4で判示したとおり,本件特許発明の構成要件A及びB①~④は,
すべて特開昭60-243933号公報(乙1の7)に開示されており,また,構
成要件C①は周知技術である一方で,構成要件C②及びC③は,いずれも特開平4
-95372号公報(乙63の2)に開示されているものと認められる。
   そこで,特開昭60-243933号公報(乙1の7)記載の発明に特開平
4-95372号公報(乙63の2)記載の発明を組み合わせる契機が存するかど
うかにつき検討するに,上述したとおり,特開昭60-243933号公報(乙1
の7)記載の発明は,本件特許発明と同様に,線材に接続した導電性部材の間に電
圧を印加して,偏向コイルを成型する技術に関するものであり,導電性部材を線材
に圧着通電して電気的に接続し,これをノズルで移動して回転金型近傍のチャック
に止め,金型を回転させて所定のコイル形状に線材を巻き取った上,もう1つの導
電性部材を線材に圧着通電して電気的に接続した後,これら2つの導電性部材の間
に電圧を印加して巻線を相互に融着させ,もって成型された偏向コイルを得る点に
おいて,本件特許発明と基本的な構成を同じくする。そして,導電性部材を帯状連
続部材で構成した場合に(何度も述べたとおり,このこと自体は周知技術であ
る。),導電性部材をいかに効率よく線材に接続するかという点においてのみ(構
成要件C②及び③参照),本件特許発明と相違する。
   他方,特開平4-95372号公報(乙63の2)記載の発明は,線材の接
合方法等に関するものであるが,導電性部材を圧着通電機構により線材に圧着結合
させる技術に関するものである点において,特開昭60-243933号公報(乙
1の7)記載の発明と共通するから,特開昭60-243933号公報(乙1の
7)記載の発明において,導電性部材を帯状連続部材で構成した場合に,導電性部
材を線材に圧着結合させる技術として,特開平4-95372号公報(乙63の
2)記載の発明を組み合わせることは,当業者ならば容易に成し得るものと認めら
れる。
   上記によれば,本件特許発明は,当業者が,いずれも出願前の公知文献であ
る特開昭60-243933号公報(乙1の7)及び特開平4-95372号公報
(乙63の2)に記載された各発明並びに周知慣用の技術を組み合わせて容易に発
明できたものであり,本件特許発明には特許法29条2項に違反して特許された無
効事由の存することが明らかというべきである。
 6 原告の主張について
   ところで,原告は,特開昭60-243933号公報(乙1の7)記載の発
明と特開平4-95372号公報(乙63の2)記載の発明は,端子片を線材に圧
着し通電する点で共通するものの,前者が,より線部分に跨乗する金属片に向けて
小型抵抗溶接機が移動してきて圧着・通電を行うものであるのに対し,後者は,ア
ンビルとクリンパの間に送り板を介して端子片を送り込み,そこで圧着・通電を行
うものである点で相違するところ,特開昭60-243933号公報(乙1の7)
には,金属片を小型抵抗溶接機に対して送り込む構成や,線材側を移動させて金属
片に線材を挟み込む構成を示唆する記載は一切存在しないから,特開昭60-24
3933号公報(乙1の7)記載の当該部分の構成を特開平4-95372号公報
(乙63の2)記載の構成と組み合わせることは,当業者にとって容易とはいえな
いと主張する(第3,4(2)イ(ア))。
   しかしながら,前記のとおり,特開昭60-243933号公報(乙1の
7)記載の発明は,構成要件C以外の構成要件について本件特許発明と構成を同じ
くするものであり,導電性部材を帯状連続部材で構成した場合に,導電性部材をい
かに効率よく線材に接続するかという点においてのみ(構成要件C②及び③),本
件特許発明と相違するところ,このように導電性部材を帯状連続部材で構成した場
合に,圧着通電機構に相当する小型抵抗溶接機の方を固定した上,導電性部材の最
先端部分を連続した形状のまま小型抵抗溶接機の電極の間に送り込み,この導電性
部材の最先端部分に線材を挟み込んで切断するのは,連続した形状の導電性部材を
安定して供給し,かつ線材に圧着通電するために,当業者ならば容易に想到するい
わば設計事項に類する事柄にすぎない。
   他方,特開平4-95372号公報(乙63の2)記載の発明においては,
これが線材の接合方法等に係る発明であることもあって,帯状連続部材により導電
性部材を構成した場合に,どのようにして効率よく導電性部材を供給するかという
点は必ずしも十分意識されていないことがうかがわれるが,それでも,前記のとお
り,帯状ではないが連続した部材によって導電性部材を供給し,圧着通電機構によ
りこれを線材に圧着結合することが開示されているのであるから,導電性部材を帯
状連続部材で構成した場合に,その最先端部に線材を挟み込んだ上,圧着通電して
切断し,個々の導電性部材を形成することは,当業者ならばこれもまた容易に想到
可能である。
   上述したところに照らし,特開昭60-243933号公報(乙1の7)記
載の発明と特開平4-95372号公報(乙63の2)記載の発明を組み合わせる
ことが,当業者にとって容易とはいえない旨の原告の上記主張は,採用することが
できない。
   また,原告は,特開昭60-243933号公報(乙1の7)においては,
線材の途中の2箇所(前記位置A及びB)で金属片を接続する必要があり,しかも
線材はその両端が巻き終わったコイルとノズルに接続されていることから,線材側
を移動させて金属片を挟み込むことが技術的に難しいので,金属片(端子片)の方
を移動させて線材を挟み込む構成を採っているのに対し,特開平4-95372号
公報(乙63の2)においては,隣接させた2本の線材に端子片を載せると,線材
の端部が容易に動いてしまって確実な端子片への挟み込みが難しくなることから,
予めアンビルとクリンパの間に端子片を送り込んでおき,そこに線材側を移動させ
て挟み込む構成を採っているものであり,このように,端子片に線材を挟み込む場
合において,端子片を移動させて挟み込むか(特開昭60-243933号公報・
乙1の7),あるいは,線材を移動させて挟み込むか(特開平4-95372号公
報・乙63の2)については,それぞれの構成に由来する技術的な理由があり,端
子に線材を挟み込む点で共通するといっても,これら2つの技術を単純に置き換え
ることはできないと,主張している(第3,4(2)イ(イ))。
   しかしながら,この点についても前記と同様であり,特開昭60-2439
33号公報(乙1の7)記載の発明においては,そもそも導電性の端子片として,
既に切断されて個片となった金属片が予定されているので(そのことは,特許請求
の範囲の記載における「断面略U字状の第1の金属片」及び「断面略U字状の第2
の金属片」の各文言から明らかである。),端子片の方を移動させて線材を挟み込
むのが自然であることから,そのような構成が採用されているにすぎない。他方,
特開平4-95372号公報(乙63の2)記載の発明においては,帯状ではない
が連続した部材により導電性部材を供給することが主な実施例として想定されてい
ることから,線材の方を移動させてこれを端子片に挟み込む構成が開示されている
にすぎない。そして,特開昭60-243933号公報(乙1の7)記載の発明に
おいて,帯状連続部材で導電性部材を構成した場合に,当業者であるならば,導電
性部材が連続した帯状の形状を有することから,端子片に線材を挟み込むに際し,
特開平4-95372号公報(乙63の2)記載のように,線材の方を移動させて
端子片に挟み込む構成を容易に想到することができるのは,既に述べたとおりであ
る。
   原告主張に係る点が,特開昭60-243933号公報(乙1の7)記載の
発明と特開平4-95372号公報(乙63の2)記載の発明を組み合わせるに際
し,阻害要因になるとは考えられず,この点に関する原告の主張は採用することが
できない。
   その他,原告がるる主張する点(第3,4(2)イ(ウ),(エ))を検討しても,
上記5に記載したとおり認定することを妨げる事情を見出すことはできず,原告の
主張はいずれも採用できない。
 7 第2次訂正請求について
   なお,原告は,第2,2(8)記載のとおり,特許庁で審理中の第2次無効審判
において,同(5)記載の請求項1(現在の請求項1)を下記のとおり訂正することな
どを内容とする第2次訂正請求の申立てをしている。
   「被覆導線からなる線材を供給する移動機構を備えた線材供給機構と,線材
供給機構から供給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する回転金型とを備え
た偏向コイルの巻線機において,線材供給機構から供給された線材の両側から線材
の外周に当接または近接して配置される導電性部材と,前記導電性部材を線材に圧
着し,かつ線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極によ
る圧着通電機構と,前記導電性部材を移動する手段と,移動した導電性部材を第1
の電極以外の場所に係止する手段と,この導電性部材と前記圧着通電機構により新
たに線材に圧着された導電性部材との間に電圧を印加する一対の第2の電極とを備
えるとともに,前記導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成し,この帯状連続部
材をその最先端部が前記圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように供給
する手段と,前記線材供給機構から供給された線材が前記線材供給機構を移動する
ことによって前記最先端部に挟み込まれた前記帯状連続部材を所定の位置で切断す
る手段とを備えたことを特徴とする偏向コイルの巻線機。」
   上記から明らかなとおり,この第2次訂正請求は,本件特許発明に係る偏向
コイル巻線機における線材供給機構が移動機構を備えていることを明らかにし,そ
れに伴って,帯状連続部材の最先端部に挟み込まれる線材も,この線材供給機構自
体が移動することによって挟み込まれるものであることなどを明らかにしようとす
るものである。
   しかるに,特開昭60-243933号公報(乙1の7)と特開平4-95
372号公報(乙63の2)を組み合わせることが当業者にとって容易であり,か
つ,そこに導電性部材を帯状連続部材で構成する周知技術を適用した場合におい
て,導電性部材を帯状連続部材で構成したことに伴い,線材の方を移動させて導電
性部材(端子片)に挟み込む構成を採用するのが自然かつ合理的であることから,
この点が当業者にとって容易想到であるのは,上記6において判示したとおりであ
る。このように,線材の方を移動させて導電性部材(端子片)に挟み込む構成を想
到するのが容易である以上,その場合に,線材供給機構を移動機構をも備えたもの
として構成することもまた容易であることは,多言を要しないところである。
   したがって,仮に上記第2次訂正請求が認められたとしても,上記5におい
て認定した無効事由が解消されるものではない。
第5 結論
   以上によれば,本件特許発明は,出願前の公知文献(特開昭60-2439
33号公報(乙1の7)及び特開平4-95372号公報(乙63の2))に記載
された各発明並びに周知慣用の技術を組み合わせて容易に発明できたものであり,
本件特許権には特許法29条2項違反の無効事由の存することが明らかであるか
ら,同特許権に基づく原告の請求は,権利の濫用に当たるものとして許されない
(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54
巻4号1368頁参照)。
   したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由が
ない。
   よって,主文のとおり判決する。
      東京地方裁判所民事第46部
          裁判長裁判官   三  村  量  一
             裁判官   青  木  孝  之
             裁判官   吉  川     泉
(別紙)
第1物件目録第1図第2図第3図第4図の1、2第6図第7図第2物件目録第1図
第2図の1、2、3第3図第4図の1、2、3、4第5図第6図第7図の1、2

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