弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人辻中一二三、同辻中栄世、同森薫生の上告理由第一点について
 一 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 大阪府水道企業は、同府下の水道事業及び工業用水道事業を行うために地方
公営企業法に基づいて設置された大阪府が経営する地方公営企業であり、その業務
を執行させるため大阪府に管理者が置かれ(同法七条)、大阪府水道部は、右管理
者の権限に属する事務を処理させるために設けられた組織である(同法一四条)。
上告人は、昭和五七年四月二日から同五九年六月三〇日までの間、大阪府水道企業
の管理者として、Dは、同五六年四月一日から同五八年四月三〇日までの間、大阪
府水道部の総務課長として在職していた。
 2 大阪府水道部事務決裁規程(昭和五三年大阪府水道企業訓令第三号。以下「
本件事務決裁規程」という。)は、大阪府水道部における事務の円滑かつ適正な執
行を確保するとともに責任の明確化を図るため、事務の決裁に関して必要な事項を
定めることを目的として制定されたものであり、これによれば、管理者の権限に属
する事務について、最終的にその意思を決定することを「決裁」といい、常時、管
理者に代わって決裁することを「専決」というものとされ、「一件百万円未満の予
算の執行及び義務的かつ軽易な予算の執行に関すること」は、総務課長の専決事項
とされている。そして、本件事務決裁規程は、専決事項のうち、議会に付議すべき
事項については管理者の、特命のあった事項又は特に重要若しくは異例と認める事
項については上司の決裁を受けなければならず、また、専決をした者は、必要があ
ると認めるとき、又は上司から報告を求められたときは、その専決した事項を上司
に報告しなければならないものと定めている。
 3 大阪府水道部会計規程(昭和三九年大阪府営水道企業管理規程第一号)及び
本件事務決裁規程等によれば、大阪府水道部における会議接待費の支出事務の手続
は、次のとおりである。すなわち、会議接待を開催する場合には、その主催課にお
いて、会議接待開催に先立って、会議接待の目的、開催年月日、開催場所、出席者、
債権者、経費支出予定額、会計年度及び予算科目等を記載した経費支出伺を作成し、
上司の決裁を受けて会議接待を開催し、右開催後、債権者からの請求に基づき、会
議接待の主催課の課長が上司の決裁を受けた上で支出伝票を発行し、金銭出納員で
ある会計課長又は会計課長代理が支出伝票を審査した上で支出決定し、小切手を振
り出して支払を行うものとされ、会議接待一件の費用が一〇〇万円未満である場合
には、その経費支出伺の決裁は総務課長が専決により処理するものとされている。
 4 昭和五七年五月上旬ころ、当時、総務課長であったDは、総務課の担当職員
に指示して、実際には開催されない埼玉県企業局職員及び岐阜市水道部職員と大阪
府水道部職員との会議接待を行うものと仮装して、会議の目的をいずれも「七拡事
業調査に伴い水道事業の諸問題についての種々懇談のため」とし、開催年月日、開
催場所、出席者、債権者、会議費支出金額を第一審判決添付の別表一記載のとおり
とした内容虚偽の経費支出伺を作成させて、自らその決裁を専決し、さらに、これ
に見合う支出伝票を作成させて、会計課長の審査を受けた。そして、同月三一日、
前記の方法により、同表記載の各債権者に対し、それぞれ同表の会議費支出金額欄
記載の各金額合計六七万八三七〇円が支出された(以下、右各支出を「本件各支出」
という。)。
 5 本件各支出が、第一審判決添付の別表二記載の各会議接待の費用に充てられ
たとの事実を認めることはできず、大阪府水道企業の経営に必要な正当な目的の会
議や接待の費用として支出されたものとは認められない。
 二 原審は、右事実を前提とし、地方公営企業の管理者が自己の権限に属する公
金の支出行為を補助職員に専決させた場合において、管理者は、地方自治法(以下
「法」という。)二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当し、右補助職員に
違法な公金支出について故意又は過失の帰責事由があるときは、管理者は、現実に
右支出行為に関与していなくとも、補助職員をいわば手足として自己の権限に属す
る行為を行わせる者として、補助職員の責任をそのまま自己の責任として負うもの
であると解した上、上告人は、本件各支出につき、内部的な事務処理の便宜上、総
務課長であるDを自己の手足として、管理者である自己の権限に属する右支出行為
の補助執行を行わせたものであり、また、Dは、本件各支出が違法なものであるこ
とを知りながら右支出手続を行ったものであるから、上告人は、違法な本件各支出
によって大阪府に与えた損害を賠償する責任を免れない、と判断した。
 三 しかしながら、原審の右判断のうち、地方公営企業の管理者が自己の権限に
属する公金の支出行為を補助職員に専決させた場合であっても、管理者は、法二四
二条の二第一項四号所定の「当該職員」に該当する旨の判断は是認することができ
るが、その余の原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおり
である。
 法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否
が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされて
いる者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者
を広く意味するものである(最高裁昭和五五年(行ツ)第一五七号同六二年四月一
〇日第二小法廷判決民集四一巻三号二三九頁)。地方公営企業の管理者は、地方公
営企業の業務の執行に関し、当該地方公共団体を代表する者であり、種々の財務会
計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている(地方公営企業法
八条、九条)ことからすると、地方公営企業の業務の執行に関しては、普通地方公
共団体における長と同視すべき地位にあるものとみるべきである(同法三四条参照)。
したがって、地方公営企業の管理者は、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、
その権限に属する一定の範囲の財務会計上の行為をあらかじめ特定の補助職員に専
決させることとしている場合であっても、地方公営企業法上、右財務会計上の行為
を行う権限を法令上本来的に有するものとされている以上、右財務会計上の行為の
適否が問題とされている当該代位請求住民訴訟において、法二四二条の二第一項四
号にいう「当該職員」に該当するものと解すべきである。そして、右専決を任され
た補助職員が管理者の権限に属する当該財務会計上の行為を専決により処理した場
合は、管理者は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮
監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為を
することを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体に対し、右補助職員がし
た財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任
を負うものと解するのが相当である。けだし、管理者が右訓令等により法令上その
権限に属する財務会計上の行為を特定の補助職員に専決させることとしている場合
においては、当該財務会計上の行為を行う法令上の権限が右補助職員に委譲される
ものではないが、内部的には、右権限は専ら右補助職員にゆだねられ、右補助職員
が常時自らの判断において右行為を行うものとされるのであるから、右補助職員が、
専決を任された財務会計上の行為につき違法な専決処理をし、これにより当該普通
地方公共団体に損害を与えたときには、右損害は、自らの判断において右行為を行
った右補助職員がこれを賠償すべきものであって、管理者は、前記のような右補助
職員に対する指揮監督上の帰責事由が認められない限り、右補助職員が専決により
行った財務会計上の違法行為につき、損害賠償責任を負うべきいわれはないものと
いうべきだからである。
 四 そうすると、以上判示したところと異なる見解に立って、上告人において、
本件各支出につき、右に述べた帰責事由が存することを確定することなく、本件各
支出につき専決をしたD総務課長に帰責事由があるときは、同課長に専決処理を任
せた上告人は、同課長がした違法な本件各支出によって大阪府に与えた損害を賠償
する責任があるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものと
いわざるを得ず、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨
をいう論旨は理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原判決は破棄
を免れない。そして、本件については、上告人において、本件各支出につき、右の
帰責事由が存するか否かについて更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すのが
相当である。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    木   崎   良   平

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