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平成24年(う)第2197号わいせつ電磁的記録等送信頒布,わい
せつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件
平成25年2月22日東京高等裁判所第11刑事部判決
主文
本件控訴を棄却する。
理由
第1本件事案と控訴の趣意
原判決の認定によれば,被告人は,いずれも氏名不詳者らと共謀の
上,(1)不特定の顧客1名に対し,あらかじめアメリカ合衆国内に設置
されたサーバコンピュータに記録,保存させたわいせつな動画データ
ファイル合計10ファイルを,不特定の別の顧客1名に対し,前同様
に記録,保存させたわいせつな電磁的記録を含むゲームソフトのゲー
ムデータファイル合計4ファイルを,顧客らがそれぞれインターネッ
ト上の動画配信サイトとゲーム配信サイトを利用してそのサーバコン
ピュータにアクセスした,千葉県内と東京都内に設置された顧客ら使
用のパソコン宛てに送信させる方法により,それぞれのパソコンに記
録,保存させて再生,閲覧可能な状況を設定させ,電気通信の送信に
よりわいせつな電磁的記録を頒布し(原判示1,2),(2)いずれも有
償で頒布する目的で,東京都内の事務所で,DVD20枚にわいせつ
な動画データファイルを記録した電磁的記録を保管し,同所のパソコ
ン1台のハードディスクにわいせつな電磁的記録を含む前記ゲームソ
フトのゲームデータファイルを記録した電磁的記録を保管した(同3,
4)とされている。
そして,本件控訴の趣意は,弁護人鶴田岬作成名義の控訴趣意書,
控訴趣意補充書記載のとおりであり,論旨は法令適用の誤りの主張で
ある。すなわち,日本国内の顧客がインターネット上のサイトからわ
いせつな電磁的記録を含むデータをダウンロードするのは,刑法17
5条1項後段にいう「頒布」には該当せず,また,ダウンロードに供
するコンテンツを供給するための保管は同条2項にいう「頒布する目
的」での保管には該当しない。さらに,本件は,アメリカ合衆国内の
サーバコンピュータに置かれたサイトの運営により,インターネット
を通じて行われたものであるから,本件を国内犯として処罰すること
はできない。したがって,被告人は無罪であり,前記各法条を適用し
て被告人を有罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな
法令適用の誤りがある,というのである。
第2本件の主な事実関係
本件証拠によれば,本件の主な事実関係は,次のとおりである。
(1)被告人は,Xらと共に株式会社VivianeJapan
(以下「V社」という。)の名義でインターネット上のアダルトサイ
ト動画配信サイトの運営に参画し,本件当時,V社の東京事務所に相
当する株式会社DDA(以下「D社」という。)代表者として,同社
の従業員らと共にわいせつな動画やゲームの企画,製作,顧客からの
クレーム処理等に当たり,他方,アメリカ合衆国在住のXは,V社の
ニューヨーク事務所に相当するデザインファクトリー(以下「DF社」
という。)代表者として,同社の従業員らと共にD社が制作して納品
したわいせつ動画等を同国内に設置されたサーバコンピュータにアッ
プロードするなどして,前記動画配信サイトを運営していた。
(2)DF社は,平成21年頃には,「MiRACLEオリジナル素
人SM無修正動画配信」というタイトルの動画配信サイトを立ち上げ,
アメリカ合衆国内のサーバコンピュータから日本国内の顧客を含む不
特定かつ多数の者に対し,D社がDF社の注文により撮影,編集して
完成させたわいせつなアダルト映像の記録をインターネットを利用し
て有料で配信し,原判示1の平成23年7月21日頃に至った。この
配信サイトのウェブページには,入会案内,作品紹介を含めて日本語
表記のものがあり,日本国内からアクセスしてわいせつ動画等のデー
タファイルを有償でダウンロードすることが可能であり,被告人は,
日本国内の不特定かつ多数の者が有償でわいせつ動画を各自のコンピ
ュータにダウンロードすることを認識していた。
(3)さらに,被告人は,平成23年秋頃,「TRAMPLEON
Schatten!!改~かげふみのうた~」というタイトルのわい
せつ画像を含むゲームデータをDF社から配信するため,V社従業員
に指示して顧客がダウンロードするシステムを構築させ,同年12月
頃,それらのゲームデータをDF社のバックアップサーバにアップロ
ードし,これをDF社がゲーム配信サイト(ゲーム名と同様のタイト
ル)にアップロードして配信し,原判示2の時期である同月7日頃に
至った。この配信サイトのウェブページには,購入画像や作品紹介を
含めて日本語表記のものがあり,日本国内からアクセスして,わいせ
つ画像を含むゲームデータを有償でダウンロードすることが可能であ
り,被告人は,日本国内の不特定かつ多数の者が有償でこれらのゲー
ムデータを各自のコンピュータにダウンロードすることを認識してい
た。
(4)被告人は,D社の業務として,D社の事務所内で,DF社のデ
ータが破壊された場合でも,インターネットで販売したり,別のメデ
ィアで二次利用したりできるようにする目的で,他の者と共に,原判
示3,4のとおり,DVD20枚にわいせつな画像を記録したものを
保管し,さらに同様の目的でわいせつ画像を含むゲームデータファイ
ルをD社内のパソコンのハードディスクに保管していた。
第3当裁判所の判断
被告人らの行為は,日本国内の顧客に日本国外のサーバコンピュー
タからデータファイルを各自のパソコンにダウンロードさせてわいせ
つ動画等のデータファイルを取得させるものであるが,所論は,顧客
によるこのようなダウンロードは,顧客による受信であって,サーバ
側の送信ではないから,被告人らは,刑法175条1項後段にいうわ
いせつな電磁的記録を「頒布」したとはいえないという。
しかし,刑法175条1項後段にいう「頒布」とは,不特定又は多
数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を取得させることをい
うところ,被告人らは,サーバコンピュータからダウンロードすると
いう顧客らの行為を介してわいせつ動画等のデータファイルを顧客ら
のパソコン等の記録媒体上に取得させたものであり,顧客によるダウ
ンロードは,被告人らサイト運営側に当初から計画されてインターネ
ット上に組み込まれた,被告人らがわいせつな電磁的記録の送信を行
うための手段にほかならない。被告人らは,この顧客によるダウンロ
ードという行為を通じて顧客らにわいせつな電磁的記録を取得させる
のであって,その行為は「頒布」の一部を構成するものと評価するこ
とができるから,被告人らは,刑法175条1項後段にいう「電気通
信の送信によりわいせつな電磁的記録・・・を頒布した」というに妨
げない。したがってまた,DVDの複製販売等のほか,前記のような
ダウンロードに供することを目的として行うわいせつな電磁的記録の
保管は,同条2項にいう「有償で頒布する目的」での保管に該当する
から,被告人らが,サーバコンピュータのデータが破壊された場合に
補充する目的でDVDやパソコンのハードディスクにわいせつな電磁
的記録を保管した行為は,有償で頒布する目的で行うわいせつな電磁
的記録の保管に該当するということができる(念のために付言すれば,
その保管は,日本国内の顧客らのダウンロードをも予定したものであ
るから,日本国内において頒布する目的があることは明らかである。)。
所論は採用できない。
所論は,さらに,刑法1条1項の解釈上,国内犯として処罰するに
は,主要な実行行為を日本国内で行う必要があり,本件のようにアメ
リカ合衆国内でサイトを運営し,日本国内の顧客がこれにアクセスし
てダウンロードするに過ぎない場合は国内犯として処罰できないとい
う。
しかし,犯罪構成要件に該当する事実の一部が日本国内で発生して
いれば,刑法1条にいう国内犯として同法を適用することができると
解されるところ,既にみたとおり,被告人らは日本国内における顧客
のダウンロードという行為を介してわいせつ動画等のデータファイル
を頒布したのであって,刑法175条1項後段の実行行為の一部が日
本国内で行われていることに帰するから,被告人らの犯罪行為は,刑
法1条1項にいう国内犯として処罰することができる。所論は,この
ように解すると,わいせつ画像等の規制がない外国に配信サーバを設
置してサイトを運営する行為であっても,日本からアクセスされてダ
ウンロードされれば,日本人,外国人であるとを問わず,我が国の刑
法が適用されることになり,各国の規制との衝突が生じることになり
不当であるという。しかし,実際上の検挙の可能性はともかく,我が
国における実体法上の犯罪の成立を否定する理由はなく,所論のいう
点は,前記のような解釈の妨げとはならない。
原判決は,以上と同旨の解釈の下に被告人を有罪と判断したもので
あって,その法令の適用に何ら誤りはなく,論旨は理由がない。
第4適用した法条
控訴棄却につき刑訴法396条
(検察官齋藤博志出席)
(裁判長裁判官三好幹夫裁判官菊池則明裁判官染谷武宣)

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