弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文第一、二項と同旨
第二 当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決事実摘示(二枚目裏五行
目から一二枚目表六行目まで)と同一であるから、これを引用する。
一 原判決六枚目表二行目から同五行目までを次のとおり改める。
「条約は、難民の認定については規定を設けておらず、また、難民の入国又は滞在
を認めるべきことも義務づけていない。従って、締約国の国内にいる者のみを難民
として認定できる法制度をとるか、あるいは国外にいる者をも難民と認定できる法
制度をとるかは、締約国の立法政策に委ねられている。わが国は、国内にいる外国
人のみを難民として認定できる法制度を採用したものである。条約が締約国に対し
条約に定める保護措置を与えるべきことを義務づけているのは、各締約国の国内に
いる難民についてであり、締約国の国外にいる難民に対してではないのであるか
ら、法が国外にいるものを難民として認定しないこととしているからといって、条
約に違反するものではない。」
二 原判決九枚目表七行目冒頭から同末行の「根拠とすることはできない。」まで
を次のとおり改める。
「しかし、法六一条の二の規定は、難民認定申請の受理要件を定める点に主眼があ
り、右規定から直ちに難民認定の申請後に当該申請者が本邦に引き続いていること
まで要求されているものではないと解するのが、条約の精神にそう解釈であるとい
うべきである。
また、法六一条の二の七は、本邦に在留する外国人で難民の認定を受けているもの
が、退去強制令書の発付を受けたときには、当該外国人は速やかに法務大臣にその
所持する難民認定証明書及び難民旅行証明書を返納しなければならないと規定して
いるが、難民認定を受けた外国人は、退去強制令書の発付を受けたとしても、直ち
に本邦に在留しないことになるわけではない。このことは、(1)法五二条五、六
項の規定、(2)法五四条の規定、(3)法務大臣が退去強制令書の発布を受けた
外国人からの再審査の嘆願を審査するいわゆる再嘆願制度が慣習法として認められ
ていること、(4)法五三条三項によると、難民と認定された外国人をその本国に
送還できるはずがなく、また、難民と認定された者は本国の旅券を有していない場
合が殆どであり、簡単に送還できないこと、(5)条約三二条が合法的にその領域
内にいる難民の追放を制限していること等に照らしても明らかである。したがっ
て、難民認定を受けた外国人が退去強制令書の発付を受けたとしても、直ちに、当
該外国人が本邦に在留しないこととなるものではなく、難民認定の効力が消滅する
こととなるものではないから、右六一条の二の七は、わが国において外国人を難民
と認定するにはその外国人が本邦にあることを要件とすべきであるとする根拠とな
るものではない。」
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 請求原因1及び2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 本件訴えの適法性について
1 本件不認定処分を取り消す判決が確定した場合には、被控訴人は、改めて本件
申請についての処分をしなければならないことになるから(行政事件訴訟法三三条
二項)、控訴人は、法律上、本件申請を認容され、難民であるとの認定を受けるこ
とができる可能性を得ることとなる。控訴人のこのような法律上の可能性を得ると
いう利益が、本件不認定処分の取消を求める訴えの利益であると解される。したが
って、控訴人において難民認定を受けうる余地が全くなくなったことが明らかであ
るときには、本件訴えは、その利益を欠くものとして、不適法なものとなるという
べきである。
2 ところで、条約は、難民の認定についての規定も、難民の入国もしくは滞在を
認めるべきことを義務づける規定も設けておらず、締約国の国内にいる外国人のみ
を難民として認定する法制度をとるか、あるいは締約国の国外にいる外国人をも難
民と認定できる法制度をとるかは、締約国の立法政策に委ねているものと解される
ところ、わが国において、難民の認定等について規定している法第七章の二には、
本邦にない外国人を難民として認定することができる旨を定めた規定は存在してい
ない。
わが国において、難民と認定された外国人は、永住許可を受けるにつき他の外国人
より有利に扱われ(法六一条の二の五)、原則として難民旅行証明書の交付を受け
ることができ(法六一条の二の六)、また、退去強制手続において他の外国人より
有利に扱われる(法六一条の二の八)ほか、条約に基づきわが国からさまざまな庇
護を受けることができることになるところ(条約三条ないし三四条)(以下、法及
び条約が難民認定を受けた外国人に与える右のような立場を「難民庇護」とい
う。)、難民庇護はわが国の領土主権に基づくものであるから、外国人がわが国か
ら難民庇護を受けるためには、本邦にあることを要することはいうまでもないとこ
ろであり、難民認定手続は、当該外国人が難民に該当するかどうかを審理判断する
ものであるが、難民に該当すると認定することは難民庇護を受けうる資格のある者
に該当すると認定することにほかならないのであり、難民庇護を受けうる資格のあ
る者に該当するとすることにこそ、法的意味があるのであるから、わが国において
難民庇護を受けうる状況にない外国人を難民として認定することは、法的には無意
味、不必要なことになることを考えると、法が本邦にない外国人を難民として認定
できる旨を定めた規定を設けなかったことは、本邦にない外国人を難民として認定
しない、すなわち難民認定を受けうるものを本邦にある外国人に限定する旨の政策
を採用した結果を示すものにほかならないものと解すべきである。そして、このこ
とは、法六一条の二第一項が、難民認定の申請者を本邦にある外国人に限定し、ま
た、法六一条の二の七が、本邦に在留する外国人で難民の認定を受けているもので
あっても、所定の退去強制手続において退去強制令書の発付を受けたときには、当
該外国人は法務大臣にその所持する難民認定書を返納しなければならないとしてい
ることに照しても、明らかであるというべきである。
したがって、難民認定の申請時に本邦にあった外国人が、その後本邦外にいて本邦
に戻る法的可能性がなくなったときには、右外国人を難民と認定することができな
いものというべきである。
3 (一)控訴人は、法六一条の二第一項の規定は、難民認定申請の受理要件を定
める点に主眼があり、難民認定の申請後に当該申請者が本邦に引き続いていること
まで要求するものではないと解するのが、条約の精神にそう解釈である旨主張する
が、条約は、締約国の領域内に合法的にいる難民について庇護を与えるべきものと
しているのであるから、前記のように解することは、条約又はその精神に反するも
のとはいえない。控訴人の右主張は採用することができない。
(二) また、控訴人は、難民認定の申請をした後に再入国の許可を受けて出国し
た外国人は、本邦にないにもかかわらず難民の認定を受けることができると解され
るから、難民の認定を受けるにはその外国人が本邦にあることを要するものと解す
ることはできない旨主張する。
しかしながら、法二六条所定の再入国の許可を受けて出国した外国人は、本邦に再
度上陸しようとするに際しその旅券に日本領事官等の査証を要しないものとされ
(法六条一項但し書)、上陸の許可を受ける場合に改めて在留資格及び在留期間の
決定を受けることを要しないものとされているが(法九条三項但し書)、これら
は、本邦に在留する外国人が一時出国した後に再び本邦に入国した場合に、上陸及
び在留に関する手続を簡略化するとともに、再入国後の在留を出国前の在留の継続
したものとみなすこととした規定であり、したがって、本邦在留中に難民認定の申
請をした外国人が、再入国許可を受けて出国した場合、再入国許可有効期間中に再
入国したときは、在留継続とみなされ、右申請の効力も消滅するものではないが、
再入国許可有効期間中に再入国しないときには、先の在留条件存続の効果も消滅
し、当該外国人は本邦に在留するものではないことになり、難民の認定を受けられ
ないこととなるものと解すべきであるから、再入国の許可を受けて出国した外国人
といえども、出国後再入国して本邦に在留することとならない限り、難民の認定を
受けることはできないものというべきである。したがって、控訴人の右主張は失当
というべきであり、採用することができない。
4 (一)その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから
真正な公文書と推定すべき乙第二一号証によれば、控訴人は、法務省福岡入国管理
局主任審査官が平成元年一二月一一日に発付した退去強制令書の執行として、平成
三年八月一四日に控訴人の国籍国である中国へ送還されたことが認められる。
右事実によれば、控訴人は、現に本邦にあるものでなく、かつ、本邦に戻る法的可
能性がなくなったものと認められるから、難民の認定を受けることができないこと
になったものというべきである。
したがって、判決によって本件不認定処分を取り消し、再度本件申請に対する処分
をさせることとしても、その結果難民の認定がされることは法律上ありえないか
ら、本件訴えは、その利益を欠くに至ったものというべきである。
(二) (1)控訴人は、控訴人を中国に送還したのは違法であるから、これによ
って本件訴えの利益がなくなったとすることはできない旨主張する。
法第七章の二の新設についての国会の審議において、難民認定手続中の外国人につ
いては、本邦に在留することができるような措置を講じる旨の考えが政府委員から
示されており(第九四回国会参議院法務委員会会議録第一一号一一頁参照)、この
ような措置を講じることが望ましいともいえるが、右のような考えは規定されるに
至らなかったうえ、本邦にない外国人が難民の認定を受けることができないとされ
た前示のような理由に照らすと、本邦にない外国人が難民の認定を受けることので
きないことは、当該外国人が本邦にない理由の如何にかかわらないものというべき
であり、したがって、控訴人が本邦にいなくなるに至った経緯や、その適法かどう
かといった事柄によって左右されるものではないというべきであるから、控訴人の
右主張は採用することができない。
(2) また、控訴人は、本件不認定処分の効果は、控訴人が中国に送還され本邦
に在留しなくなった結果、国内法の効力のうち「所に関する法の効力」及び「人に
関する法の効力」についての属地主義から、当然に消滅するから、行政事件訴訟法
九条括弧書の適用により、本件訴えの利益があるものと解すべきである旨主張す
る。
しかしながら、右括弧書は、処分等の効果が期間の経過その他の理由によりなくな
った後においてもなお処分等の取消によって回復すべき法律上の利益を有する者
は、処分等の取消の訴えを提起することができる旨を規定したものであるところ、
本件不認定処分は、控訴人が本邦にない事実によって、その効果が消滅するもので
はなく、控訴人にその効力が及ばない状態となるものにすぎないから、本件訴えの
利益について、右括弧書の適用される余地はなく、控訴人の右主張も理由がないも
のというべきである。のみならず、右主張は、本邦にない外国人も難民の認定を受
けることができるとの見解を前提とするものと解されるところ、そのような見解の
採用できないことは前記2に説示したとおりであるから、右主張はこの点において
も理由がないものというべきである。
三 以上のとおり、本件訴えは、その利益を欠く不適法なものであるから、却下を
免れないものというべきである。したがって、これと同旨の原判決は相当であるか
ら、本件控訴は理由がなく、これを棄却すべきものである。
よって、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を
適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 柴田保幸 白石悦穂 犬飼眞二)

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