弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役二年及び罰金三〇万円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算し
た期間被告人を労役場に留置する。
     原審における未決勾留日数中二〇日を右本刑に算入する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、記録に綴つてある弁護人土田嘉平作成名義の控訴趣意書に記
載のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、控訴趣意第一点は、法令
適用の誤のほか、事実誤認を主張するものであると附加訂正した。)。
 第一点 事実誤認ないし法令適用の誤について。
 所論は、要するに、原判決は被告人が国立A病院の当直医師Bを脅迫して麻薬注
射液オピスコを注射施用させた行為(原判示第一の(一))及びそれが未遂に終つ
た行為(同(二))を恐喝罪及び同未遂罪に該当するとして刑法二四九条一項(未
遂につき同法二五〇条)を適用したが、右医師の注射施用は、非財産的な医療行為
であつて、恐喝罪の要件である財産的処分行為ではないのにかかわらず、これを強
要罪でなく、恐喝罪と認定判示した原判決は、明らかに判決に影響を及ぼすべき事
実誤認をしたか、または法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。
 よつて、考察するに、まず、その事実関係を原判決が挙示する関係証拠によつて
明らかにすると、被告人は、昭和四一年一〇月二六日夜高知市内で飲み歩いたあ
と、仲間のC、Dとともに須崎市まで出向いて更に飲酒し、夜更けて翌二七日午前
三時過頃タクシーで高知市内に帰る途中、腹部(胃)に痛みを感じたので、かつ
て、原判示国立A病院で医師を脅して麻薬であるオピスコを注射施用させたことが
あるところから、それを思い立ち、同日午前三時三〇分頃右Cらとともに同病院に
立寄り、当直員を起こして診察を求め、同病院内科診察室において当直医師Bの診
察を受けたのであるが、右医師や看護婦らに対し、「E(同病院の前院長)おる
か。世話になつたことがある。」などと言つて横柄な態度で応接し、同医師が腹部
を触診したりして用意したノンブロA(鎮痛剤)、アロテツク(喘息薬)のうちア
ロテツクを注射すると、被告人は「オピスコを打て。刑務所へ行つていたからお礼
に打つてもらってもいいわ。早くオピスコを打て。」などと申し向けて麻薬である
右オピスコの注射施用を要求し、同医師がその施用をする場合でなく、かつ、それ
ができない理由を種々説明して断ると、更に、「オピスコでないときかない。麻薬
は平気だ。」と言つて執拗にこれを要求し、また、傍にいる前記Cも「早く打つて
やれ。」と言い立て、同医師がもしこれを拒否したならばその生命、身体等にいか
なる危害を加えるかも知れないような態度を示して同医師を脅迫し、これに畏怖し
た同医師は、やむなく右要求に応じてオピスコ注射液一本(一CC)のうち〇・五
CCだけを被告人に注射施用し、それ以上施用すると生命に危険があると言つて拒
否すると、被告人が「その残りはCに打つてくれ。」と言うので、やむなく残りの
注射液〇・五CCを右Cに注射施用したのであるが、このようにしてその診療が終
ると、待ち合わせていた前記Dが被告人らに代つて診療費五五〇円を係員に支払つ
て、ともども同病院を立ち去つたこと(以上原判示第一の(一)の関係)、更に、
被告人は、同年一一月一日午前零時五〇分頃、高知市内で飲酒したあと、仲間のF
外一名を伴つて前記国立A病院に赴き、前記と同様当直のB医師や看護婦らを起こ
したうえ、右手挫傷痛と喘息との診療を求め、かつ、同時にオピスコ注射液の注射
施用を要求し、前同様の態度を示して同医師を脅迫したが、同医師がそれに畏怖し
ながらも容易に肯ぜず、アロテツク、ブスコパンで効くと言つて説明しながらこれ
らの注射施用をするうち、同病院の届出によつてかけつけた警察官に逮捕されてそ
の目的を果すことができなかつたものであること(以上原判示第一の(二)の関
係)、右の各事実を認めることができる。
 <要旨>按ずるに、強要罪と恐喝罪とは、人を畏怖させて意思決定の自由を侵害す
る点において共通するものであるが、強要罪が非財産的利益の供与ないし行
為を対象とするのに対し、恐喝罪は財産的処分行為を対象とする点において明らか
に相違があり、その相違こそ自由に対する罪としての強要罪と財産犯である恐喝罪
との差異に由来するものにほかならない。ところで、およそ、医師が患者を診察し
た結果その治療を必要とする限り、その症状に応じて投薬ないし処方箋の交付のほ
か各種の注射を施用することは治療手段として当然のことであり、右医師の診察と
これに伴つて行なう注射施用等の治療手段とは一体となつて医師の技能および技術
の発現ないしは行使としての医療行為であると解すべきであつて、その治療に用い
る注射液等の薬剤そのものが財産的価値のあるものであることを理由に、注射液の
注射施用もしくは投薬をとらえて恐喝罪のいわゆる財産的処分行為であるとするの
は医療行為の性質を正解しないものといわなければならない。そのことは、かりに
右注射液等の薬剤が、法律上の規制が厳しくその使用が限極されている医薬品、例
えば麻薬であるオピスコ注射液のようなものであつたとしても別異に解すべき理由
はないし、また、右治療行為として投与されるものである限り、それが経口薬であ
つても同様に解すべきものと考えられる。
 本件についてこれを考えてみるに、前認定のように、被告人は、深夜酔余の勢で
病院の当直員を起こすという非常識な仕方によるとはいえ、原判示第一の(一)の
場合は腹痛のため、原判示第一の(二)の場合は右手挫傷痛、喘息のため当直医師
Bの診療を求め、同医師の診察の結果ではアロテツク等の注射を施用すれば十分で
あるとするのに、それでは不満であるとして、その際同医師を脅迫して特に麻薬で
あるオピスコの注射施用という治療行為をさせ、あるいは、それをさせようとして
失敗に終つたというのであるから、右オピスコの注射施用は同医師の医療行為の域
を出でず、従つて、被告人はその脅迫によつて、右B医師をして義務なき右オピス
コ施用の治療行為をさせ、あるいは、その未遂に終つたものと認めるべきである。
 もつとも、被告人は、右各診療にあたり、当初からオピスコの注射施用をさせる
ことを企図していたと認められるのであるが、このような事実があるからと言つ
て、直ちに強要罪を排して恐喝罪の成立を肯定すべきものとは考えられない。更に
また、前示認定のように、原判示第一の(一)の場合には、被告人が共犯者Cにも
オピスコを注射施用させた事実があるのであるが、それは、被告人に〇・五CC以
上施用すると生命に危険があるとB医師に拒否されたことから、たまたま同伴した
右Cに残りの注射液を注射施用させたに過ぎないのであるから、それは、被告人に
対する診療に付随した偶然の行為と認めるべきであつて、その一事をもつて恐喝罪
の成立を云々すべき性質のものではない。
 以上の次第であるから、原判決がその判示第一の(一)、(二)の各事実につ
き、その所為を恐喝罪及び同未遂罪に該当すると判断したのは、事実を誤認した
か、法令の解釈適用を誤つたものというべきであつて、これが判決に影響を及ぼす
ことは明らかであるから、論旨は理由があり、その余の控訴趣意について判断する
までもなく、原判決はこの点で破棄を免れない。
 よつて、刑訴法三九七条、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に
より当裁判所において直ちに判決することとするが、前記恐喝及び同未遂の各公訴
事実(昭和四一年一一月一一日付起訴状公訴事実第一、第二)については、当審に
おいて、検察官から予備的に強要罪及び同未遂罪に訴因並びに罰条を変更する旨申
立があり、当裁判所もこれを許可したので、これら各訴因について判断すべきとこ
ろ、右本位的訴因(原判示第一の(一)、(二)の各事実)である恐喝罪、同未遂
罪は認められず、予備的訴因である強要罪、同未遂罪の認められることはいずれも
前説示のとおりであり、従つて、本位的訴因(恐喝、同未遂)については犯罪の証
明がないが、予備的訴因(強要、同未遂)についてはこれを肯認するに十分である
ので、以下次のとおり認定判示する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は
 第一、 (一)Cと共謀のうえ、昭和四一年一〇月二七日午前三時三〇分頃高知
市a戊b番地国立A病院内科診察室において、胃痛のため同病院の当直医師Bの診
療を受けるにあたり、麻薬であるオピスコの注射施用をすべき場合でないのに、被
告人において、「E(同病院の前院長)は居るか。オピスコを打て。刑務所へ行つ
ておつたからお礼に打つてもらつてもよいわ。オピスコでないと効かない。麻薬な
んか平気だ。」などと、また前記Cにおいて「早く打つてやれ。」などとそれぞれ
語気荒く申し向けて右オピスコの注射施用を要求し、右要求に応じなければ同医師
の生命、身体にいかなる危害を加えるかも知れないような態度を示して同医師を脅
迫し、よつて間もなく同所において、同医師をして被告人及びCに対し前記オピス
コ注射液各〇・五CCをそれぞれ注射施用させ、もつて同医師をして義務なき行為
を行なわしめ
 (二) 同年一一月一日午前零時五〇分頃前同所において、右手挫傷痛、喘息の
ため前記B医師の診療を受けるにあたり、前記オピスコを注射施用すべき場合でな
いのに、「手が痛いから見てくれ。オピスコを打て。」などと語気荒く申し向けて
右オピスコの注射施用を要求し、右要求に応じないときはいかなる危害を加えるか
も知れない態度を示して同医師を脅迫し、前同様医師をして義務なき行為を行なわ
しめようとしたが、同病院の届出によりかけつけた警察官に逮捕されたため、その
目的を遂げなかつた
ものである。
 (証拠の標目)(省略)
 (法令の適用)
 被告人の判示第一の(一)の所為(強要)は刑法二二三条一項、六〇条に、同
(二)の所為(強要未遂)は同法二二三条一項、三項に各該当し、判示第二の
(一)の所為(無免許運転)は道路交通法一一八条一項一号、六四条に該当し、同
(二)の所為(業務上過失傷害)は行為時において昭和四三年法律第六一号による
改正前の刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては
右改正後の刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、
右は犯罪後の法律により刑の変更があつた場合であるから、刑法六条、一〇条によ
り軽い右行為時法の刑によることとし、更に、同(三)の所為(酒酔い運転)は昭
和四五年法律第八六号によつて改正された道路交通法附則六項により右改正前の道
路交通法一一七条の二の一号、六五条、同法施行令二六条の二に該当し、右
(一)、(三)については所定刑中懲役刑を、右(二)については所定刑中禁錮刑
をそれぞれ選択し、判示第三の(一)ないし(五)の各所為(売春をさせる契約)
は売春防止法一〇条一項に該当するところ、その各罪につき同法一五条を適用して
所定の懲役刑と罰金刑とを併科することとする。そして、被告人には原判示の累犯
前科があるから、判示第一の(一)、(二)、第二の(一)、(三)、第三の
(一)ないし(五)の各罪の懲役刑につき刑法五六条一項、五七条により再犯の加
重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから懲役または禁錮の刑については
同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情において最も重い判示第一の(一)の強
要罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罰金を合算
し、その刑期及び罰金額の各範囲内で被告人を処断することとなるが、被告人の前
示各所為はその罪質、態様、犯罪の経緯等に照らしていずれも悪質な犯行というべ
きであり、その他記録に顕れた諸般の情状に鑑みて、被告人を懲役二年及び罰金三
〇万円に処することとし、刑法一八条を適用して右罰金を完納することができない
ときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、
同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中二〇日を右懲役刑に算入する。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 木原繁季 裁判官 深田源次 裁判官 岡崎永年)

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