弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人らの被上告人B1、同B2、同B3に対する第一審判
決添付の別表一記載の会議費支出金額合計六七万八三七〇円の支出に係る損害賠償
請求に関する部分を破棄し、第一審判決中、右請求に関する部分を取り消す。
     前項の部分につき本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
     上告人らのその余の上告を棄却する。
     前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人吉川実の上告理由について
 一 本件記録によれば、上告人らの本件訴えは、被上告人B4が大阪府水道企業
の管理者として、その余の被上告人らが大阪府水道部の企業職員として在任中、昭
和五七年五月三一日、共同して、同年四月一二日に大阪市a区b町「D」において
会議接待をしたとして合計二三万〇四二〇円を支出したこと(以下、右支出を「D
に対する支出」という。)及び第一審判決添付の別表一記載の日時、場所において
各会議接待をしたとして合計六七万八三七〇円の支出をしたこと(以下、右支出を
「本件各支出」という。)が、違法な公金支出に当たり、これにより大阪府に対し
合計九〇万八七九〇円の損害を与えたとして、大阪府の住民である上告人らが、地
方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項四号の規定に基づき、大阪府
に代位して、被上告人らに対し右違法な公金の支出により大阪府が被った右損害の
賠償を請求する、というものである。
  第一審は、Dに対する支出に係る損害賠償を求める訴えにつき、右支出につい
ては住民監査請求を経ていないから不適法なものであるとし、また、被上告人B1、
同B2、同B3に対する訴えにつき、地方公営企業の管理者が自己の権限に属する
公金の支出行為を補助職員に専決させた場合には、法二四二条の二第一項四号所定
の「当該職員」に該当するのは管理者のみであって、専決をした補助職員はこれに
該当しないと解した上、補助職員である右被上告人らは右「当該職員」に該当しな
いから、右訴えは、法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴
えであって不適法なものであるとして、被上告人B4に対する訴えのうちDに対す
る支出に係る損害賠償を求める部分及びその余の被上告人らに対する訴えを、いず
れも却下し、原審もこれを支持して、上告人らの控訴を棄却した。
  論旨は、要するに、原審の右判断は、法令の解釈適用を誤り、ひいては憲法九
二条に違反するとともに憲法第八章の地方自治の精神に違反する、というのである。
 二1 Dに対する支出に係る損害賠償を求める訴えにつき、右支出については住
民監査請求を経ていないから不適法なものであるとした原審の認定判断は、原判決
挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法
はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は失当である。論旨は、採
用することができない。
  2 被上告人B1、同B2、同B3に対する訴えにつき、右被上告人らは法二
四二条の二第一項四号所定の「当該職員」に該当しないから不適法なものであると
した原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否
が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされて
いる者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者
を広く意味するものであり、およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると
認められない者を被告として提起された同号所定の「当該職員」に対する損害賠償
請求又は不当利得返還請求に係る訴えは、法により特に出訴が認められた住民訴訟
の類型に該当しない訴えとして、不適法と解するのが相当である(最高裁昭和五五
年(行ツ)第一五七号同六二年四月一〇日第二小法廷判決民集四一巻三号二三九頁)。
そして、同号所定の「当該職員」に対する代位請求住民訴訟が、普通地方公共団体
が「当該職員」に対して有する実体法上の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権
を住民が代位行使する形式によるものであり、右各請求権は民法又は法二四三条の
二第一項に基づくものであることにかんがみると、右の財務会計上の行為を行う権
限を法令上本来的に有する普通地方公共団体の長等から権限の委任を受けるなどし
て右権限を有するに至った者としての「当該職員」には、当該普通地方公共団体の
内部において、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、当該財務会計上の行為に
つき法令上権限を有する者からあらかじめ専決することを任され、右権限行使につ
いての意思決定を行うとされている者も含まれるものと解するのが相当である。ま
た、地方公営企業の管理者は、地方公営企業の業務の執行に関し、当該地方公共団
体を代表する者であり、種々の財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有す
るものとされている(地方公営企業法八条、九条)ことからすると、地方公営企業
の業務の執行に関しては、普通地方公共団体における長と同視すべき地位にある者
とみるべきである(同法三四条参照)。したがって、地方公営企業の管理者が、訓
令等の事務処理上の明確な定めにより、その権限に属する一定の範囲の財務会計上
の行為をあらかじめ特定の補助職員に専決させることとしている場合においては、
右財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている管理者は
もとより、右財務会計上の行為につき専決することを任された右補助職員も、法二
四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するものと解するのが相当である。
 そこで、本件についてこの点をみるのに、原審が適法に確定した事実及び記録に
徴すると、(1) 大阪府水道企業は、同府下の水道事業及び工業用水道事業を行う
ために地方公営企業法に基づいて設置された大阪府が経営する地方公営企業であり、
その業務を執行させるため大阪府に管理者が置かれ(同法七条)、大阪府水道部は、
右管理者の権限に属する事務を処理させるために設けられた組織であり(同法一四
条)、昭和五七年五月ころ、被上告人B4は大阪府水道企業の管理者として、同B
1は大阪府水道部長として、同B2は同部次長として、同B3は同部の総務課長と
して在職していた、(2) 大阪府水道部事務決裁規程(昭和五三年大阪府水道企業
訓令第三号。以下「本件事務決裁規程」という。)は、大阪府水道部における事務
の円滑かつ適正な執行を確保するとともに責任の明確化を図るため、事務の決裁に
関して必要な事項を定めることを目的として制定されたものであり、これによれば、
管理者の権限に属する事務について、最終的にその意思を決定することを「決裁」
といい、常時、管理者に代わって決裁することを「専決」というものとされ、「一
件百万円以上の予算の執行(義務的かつ軽易なものを除く。)に関すること」は、
水道部長の専決事項であって、水道部長の専決できる事項のうち、あらかじめ部長
が指定するもの及び定例的なものは、水道部次長が専決することができるものとさ
れ、「一件百万円未満の予算の執行及び義務的かつ軽易な予算の執行に関すること」
は、総務課長の専決事項とされている、(3) 大阪府水道部会計規程(昭和三九年
大阪府営水道企業管理規程第一号)及び本件事務決裁規程等によれば、大阪府水道
部での会議接待費の支出事務の手続は、会議接待を開催する場合には、その主催課
において、会議接待開催に先立って、会議接待の目的、開催年月日、開催場所、出
席者、債権者、経費支出予定額、会計年度及び予算科目等を記載した経費支出伺を
作成し、上司の決裁を受けて会議接待を開催し、右開催後、債権者からの請求に基
づき、会議接待の主催課の課長が上司の決裁を受けた上で支出伝票を発行し、金銭
出納員である会計課長又は会計課長代理が支出伝票を審査した上で支出決定し、小
切手を振り出して支払を行うものとされ、会議接待一件の費用が一〇〇万円未満で
ある場合には、右経費支出伺の決裁は総務課長が専決により処理するものとされて
いる、というのである。
 右事実関係によれば、本件各支出のごとき会議接待費の支出に関しては、その支
出金額の多寡に応じ、本件事務決裁規程により、水道部長若しくは水道部次長又は
総務課長が専決により処理するものとされ、常時、これらの者が管理者に代わって
最終的意思決定を行うものとされているのであるから、本件各支出がされた当時、
水道部長の地位にあった被上告人B1、水道部次長の地位にあった同B2、総務課
長の地位にあった同B3は、本件各支出のごとき会議接待費の支出の適否が問題と
されている本件訴訟において、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該
当するものというべきである。もっとも、右被上告人らが右「当該職員」に該当す
るとしても、右被上告人らのうち、本件各支出につき、現実に専決をするなどの財
務会計上の行為をしたものと認められない者に対する損害賠償請求は理由がなく、
棄却されるべきものであることはいうまでもないところである。
 三 以上によると、本件においては、被上告人B1、同B2、同B3は、法二四
二条の二第一項四号所定の「当該職員」に該当するから、原判決中、右被上告人ら
に対する本件各支出についての損害賠償請求に係る訴えは、適法と解すべきである。
そうすると、これと異なる見解に立って、右訴えを却下した第一審判決及びこれを
支持した原判決は、いずれも法令の解釈適用を誤ったものといわざるを得ず、右違
法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は、右の違法を指摘する点
において理由があり、右被上告人らに対する本件各支出に係る損害賠償請求に関す
る部分につき、原判決は破棄を免れず、また、第一審判決も取消しを免れず、右部
分につき本件を大阪地方裁判所へ差し戻すべきである。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条、
三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    木   崎   良   平

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