弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄する。
       被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 1 上告代理人千田功平の上告理由は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違
反を主張するものであって,民訴法312条1項,2項に規定する事由に該当しな
い。
 2 職権で検討する。
 本件は,りんご生産等の事業を営むことを目的として設立された民法上の組合で
あるD生産組合一関グループ(以下「本件組合」という。)の組合員である上告人
が,専従者として本件組合のりんご生産作業に従事し,本件組合から労務費名目で
支払を受けた金員につき,これを給与所得に係る収入であるとして平成3年分ない
し同5年分の所得税の再修正申告をしたところ,被上告人がこれを事業所得に係る
収入であるとして各年分につき更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「
本件各処分」という。)をしたため,上告人が本件各処分の取消しを求めた事件で
ある。
 原審の適法に確定した事実の概要は,次のとおりである。
 (1) 本件組合は,昭和51年2月26日,国営須川総合開拓パイロット事業地
内の土地所有者23名がその土地を出資して設立し,各組合員は,出資に係る土地
の面積に応じて出資口数を有するとともに,組合経費を拠出していた。
 (2) 本件組合においては,設立当初からしばらくの間は,出資口数に従って組
合員又はその家族がりんご生産の作業に出役する責任出役義務制が採られ,出役に
対して対価が支払われることはなく,出役日数の過不足を金銭に換算して精算して
いた。しかし,りんごが成木になるにつれ出役不足日数が増加し,また,もともと
農家でない組合員が代わりの者を依頼することが多くなって作業に従事する者が常
に変化するため,一定の熟練を要するりんご生産作業に不都合が生じ,雇用労力を
用いる方が合理的であると認識されるようになった。そのため,昭和59年3月1
0日の総会において,上記の責任出役義務制を廃止し,管理者,専従者及び一般作
業員によって本件組合のりんご生産作業を行うことが決定された。そして,それま
で組合員である長男に代わって時々出役していた非組合員のEをりんご栽培の経験
が比較的豊富であることなどから管理者に選任するとともに,組合員であるFを専
従者に選任すること,管理者及び専従者の労賃を組合で負担し,その金額を1日当
たり6000円とすること,一般作業員を雇用した場合の労賃については男性の場
合が1日当たり4500円ないし5000円程度とすることなどが決定された。
 (3) 上告人は,責任出役義務制が廃止された後,一般作業員として作業に従事
し労賃の支払を受けていたが,平成元年2月21日の本件組合の総会において専従
者に選任され,その労賃は1日当たり6000円に増額された。それ以降,毎年,
総会において,Eは管理者に,F及び上告人は専従者に,それぞれ選任された。他
方,一般作業員は管理者が必要に応じて手配していたが,一般作業員として雇われ
るのは,主としてりんご園付近の農家の者であり,本件組合の組合員が雇われるこ
ともあったが,そういう例は平成3年ないし同5年ころはごく少なかった。
 (4) りんご生産作業に当たっては,管理者が基本方針を立案し,作業の計画,
手順を決定し,専従者はこれに従い日々の作業に従事するが,一般作業員と比べる
と経験を必要とする薬剤防除等の仕事は専従者が主として担当していた。りんご栽
培においては,様々な熟練を要する判断が要求されるところ,このような判断はす
べて管理者が行ってその実施を専従者や一般作業員に指示しており,この作業指示
は,週に3回程度全員を集めた朝礼において行うほか,必要に応じて専従者と会議
を開くなどの方法で行っていた。上告人ら専従者は,管理者と一般作業員との間に
あって,管理者の指示を受けながらこれを補助する立場にあり,その作業内容は,
一般作業員よりも比較的継続的に作業に従事していたため大型機械を使う消毒作業
を担当することがあったほかは,一般作業員と別段変わるところはなかった。管理
者は,次年度以降の作業の参考とし,かつ,給与計算の基礎となる記録として,毎
日,作業終了後に,作業の内容,従事者の氏名,時間等を作業日誌に記載し,また
,管理者や専従者を含め作業に従事する者についてタイムカードにより作業時間を
記録していた。
 (5) 本件組合におけるりんご生産作業に対しては,日給制を基本として消毒作
業時の防除手当が支払われ,賞与等はなく,月末締切りの翌月5日払いを原則とし
ていた。日給の金額は,管理者及び専従者の分を含めて,農業委員会で示す作業単
価を基礎とし,作業内容や作業量,経験年数等を勘案して管理者が決定した上,組
合長の承諾を得ていた。平成3年ないし同5年ころの基本給の具体的な金額は,管
理者であるEと専従者である上告人及びFとの間では差がないか,約100円程度
の差があったにすぎず,上告人及びFと男性一般作業員との間では約1000円程
度の差があったが,これは作業量,熟練度の違い等を考慮したものであった。日給
等の支払については,毎月,作業日誌とタイムカードに記録された作業時間によっ
て組合長名の労務費請求書が作成され,これに基づいて会計担当者が給与明細を作
成し,給料日に管理者,専従者及び一般作業員の区別なく全員に給与明細と現金の
入った給料袋を会計担当者又は管理者から各人に手渡す方法が採られていた。
 (6) 本件組合の収支決算は毎年1回行われるが,利益については,平成3年度
に1口当たり6万円の配当を行ったのが唯一の現金配当であり,その余の利益は農
機具購入の準備資金や翌年度のりんご園の管理運営費等に当てられていた。また,
責任出役義務制の廃止後は,管理者及び専従者の労賃も,一般作業員のものと併せ
,一括して労務費として経費に計上していた。
 (7) 上告人は,本件組合から,労務費として,平成3年分につき165万52
75円,同4年分につき131万9835円,同5年分につき147万6595円
の各支払を受け,これらの収入(以下「本件収入」という。)を給与所得に係る収
入であるとして,同6年9月19日,所得税の再修正申告をした。
 3 第1審は,本件収入に係る所得は給与所得に該当するから,これが事業所得
に該当することを理由としてされた本件各処分は違法であるとして,上告人の請求
を認容したが,原審は,本件収入に係る所得は事業所得に該当するとして,上告人
の請求を棄却すべきものとした。原審の判断の概要は,次のとおりである。
 (1) 民法上の組合の所得は,組合員の出資等に応じて各組合員の所得に分解さ
れて帰属し,各組合員の所得税の課税対象になる。本件組合の事業から生ずる所得
は所得税法27条1項にいう農業から生ずる所得として事業所得になり,これが各
組合員に事業所得として帰属する。
 (2) 組合員が組合から組合員の立場で受け取る収入は,給与,賞与等の名目で
受け取るものであっても,当該組合の事業から生じた事業所得であるという性質が
変わるものではないから,これに係る所得を給与所得と解すべきではなく,当該組
合の事業から生じた所得を各組合員の出資等に応じて配分した各組合員個人の事業
所得と解すべきである。上告人が本件組合の労務に従事して受け取ってきた収入は
名目上は給与の形式を採っており,上告人が従事した労務も管理者の指揮命令に服
するものであって格別高度の技術的労務であるとは認められないが,上告人が組合
員である以上その労務の提供も組合の事業活動と無関係なものではあり得ず,組合
の事業活動に参画するという面を捨象することはできない。本件組合は法人格を有
しないから,組合員である上告人が本件組合との間に雇用契約を締結しようとすれ
ば,上告人は,一方で雇用契約の被用者という立場で,他方で総組合員の1人とし
て雇用者の立場で雇用契約を締結するということになり,このような矛盾した法律
関係の成立を認めることには疑問がある。また,実質的にみても,上告人の労務提
供は労務の出資をして本件組合の事業活動に参画するものと評価するのが相当であ
る。本件収入は,本件組合の平成元年2月21日の総会の決議によって承認された
日給6000円の算定基準に基づき算出されたものであるところ,上記承認をもっ
て上告人の労務出資に対する損益分配の割合についての合意と評価することができ
るから,本件収入に係る所得は,上記損益分配の合意に従った本件組合の事業所得
の分配と解すべきである。したがって,本件収入に係る所得は所得税法27条1項
の事業所得に該当する。
 4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
 民法上の組合の組合員が組合の事業に従事したことにつき組合から金員の支払を
受けた場合,当該支払が組合の事業から生じた利益の分配に該当するのか,所得税
法28条1項の給与所得に係る給与等の支払に該当するのかは,当該支払の原因と
なった法律関係についての組合及び組合員の意思ないし認識,当該労務の提供や支
払の具体的態様等を考察して客観的,実質的に判断すべきものであって,組合員に
対する金員の支払であるからといって当該支払が当然に利益の分配に該当すること
になるものではない。また,当該支払に係る組合員の収入が給与等に該当するとす
ることが直ちに組合と組合員との間に矛盾した法律関係の成立を認めることになる
ものでもない。
 これを本件についてみると,本件組合から上告人ら専従者に支払われた労務費は
,雇用関係にあることが明らかな一般作業員に対する労務費と同じく,作業時間を
基礎として日給制でその金額が決定されており,一般作業員との日給の額の差も作
業量,熟練度の違い等を考慮したものであり,その支払の方法も,一般作業員に対
するのと同じく,原則として毎月所定の給料日に現金を手渡す方法が採られていた
というのである。他方で,組合員に対する出資口数に応じた現金配当は平成3年度
に一度行われたことがあるにすぎない。これらのことからすれば,本件組合及びそ
の組合員は,専従者に対する上記労務費の支払を雇用関係に基づくものと認識して
いたことがうかがわれ,専従者に対する労務費は,本件組合の利益の有無ないしそ
の多寡とは無関係に決定され,支払われていたとみるのが相当である。また,上告
人ら専従者は,一般作業員と同じく,管理者の作業指示に従って作業に従事し,作
業時間がタイムカードによって記録され,その作業内容も一般作業員と基本的に異
なるところはなく,違いがあるとしてもそれは熟練度等の差によるものであったと
いうのであるから,上告人ら専従者は,一般作業員と同じ立場で,本件組合の管理
者の指揮命令に服して労務を提供していたとみることができる。さらに,本件組合
の目的であるりんご生産事業について,設立当初は各組合員がその出資口数に応じ
て出役する責任出役義務制が採られていたのが,雇用労力を用いる方が合理的であ
るとの認識に基づき,管理者,専従者及び一般作業員が生産作業を行う形態に改め
られた経緯等にもかんがみると,責任出役義務制が廃止された後は,組合員である
専従者の労務の提供も,一般作業員のそれと同様のものと扱われたと評価すること
ができる。
 【要旨】これらの事実関係からすれば,上告人ら専従者が一般作業員とは異なり
組合員の中から本件組合の総会において選任され,りんご生産作業においては管理
者と一般作業員との間にあって管理者を補助する立場にあったことや,本件組合の
設立当初においては責任出役義務制が採られていたことなどを考慮しても,上告人
が本件組合から労務費として支払を受けた本件収入をもって労務出資をした組合員
に対する組合の利益の分配であるとみるのは困難というほかなく,本件収入に係る
所得は給与所得に該当すると解するのが相当である。
 以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反があり,本件については原判決を職権で破棄するのが相当である。そして,以上
によれば,上告人の本訴請求を認容した第1審判決は正当であるから,これに対す
る被上告人の控訴を棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 梶谷 玄 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川
弘治 裁判官 亀山継夫)

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