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平成24年7月12日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成22年(ワ)第13516号商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成24年4月13日
判決
原告有限会社サムライ
同訴訟代理人弁護士平野和宏
同訴訟代理人弁理士小谷昌崇
同補佐人弁理士小谷悦司
同川瀬幹夫
同大森亜子
被告株式会社ファランクス
同訴訟代理人弁護士松島洋
同中川澄
同江森史麻子
同呰真希
主文
1被告は,別紙標章目録記載1又は2の各標章を,別紙被告商品目録記載の
各商品若しくはこれらの包装に付し又は同標章を付した同商品を販売し,販
売のために展示してはならない。
2被告は,別紙標章目録記載1又は2の各標章を付した前項の各商品を廃棄
せよ。
3被告は,別紙被告商品目録記載の各商品の販売又は販売のための展示に関
し,別紙標章目録記載1の標章をインターネット上のウェブサイトに表示し
てはならない。
4被告は,別紙ウェブサイト目録記載の各ウェブサイトから別紙標章目録記
載1の標章を削除せよ。
5被告は,原告に対し,507万5781円及びうち388万7490円に
ついては平成22年9月11日から,うち118万8291円については平
成23年12月14日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
6原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7訴訟費用は,これを5分し,その4を原告の負担とし,その余は被告の負
担とする。
8この判決は,1,3ないし5及び7項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
(1)被告は,別紙標章目録記載1ないし3の各標章を,別紙被告商品目録記載
の各商品若しくはこれらの包装に付し又は同標章を付した同商品を販売し,
販売のために展示してはならない。
(2)被告は,別紙標章目録記載1ないし3の各標章を付した前項の各商品を廃
棄せよ。
(3)被告は,インターネット上のウェブサイトのトップページを表示するため
のhtmlファイルに,メタタグとして別紙標章目録記載4の標章を記載して
はならない。
(4)主文3及び4項と同旨
(5)被告は,原告に対し,8115万6250円及びこれに対する平成22年
9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)訴訟費用は被告の負担とする。
(7)仮執行宣言
2被告
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要
1前提事実(証拠の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告は,衣料品,服飾雑貨,皮革製品,一般日用品雑貨の企画,立案,制
作,販売,輸出入等を目的とする会社である。
被告は,通信販売業務等を目的とする会社である。
(2)原告の商標権
原告は,以下の各登録商標(以下,併せて「本件各登録商標」という。)に
係る各商標権(以下,併せて「本件商標権」という。)を有している。
ア本件登録商標1
登録番号第2175471号の2
登録年月日平成元年10月31日
出願年月日昭和62年11月9日
商品の区分第17類
指定商品被服(和服を除く),布製身回品,寝具類
(指定商品の書換登録)
登録年月日平成22年1月20日
商品及び役務の区分第20類,第22類,第24類,第25類
指定商品第20類クッション,座布団,まくら,マッ
トレス
第22類衣服綿,ハンモック,布団類,布団
綿
第24類布製身の回り品,かや,敷布,布団,
布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布
第25類被服(「和服」を除く。)
登録商標別紙商標目録記載1のとおり
特定承継による本権の移転に係る登録年月日
平成18年7月27日
イ本件登録商標2
登録番号第4364679号
登録年月日平成12年3月3日
出願年月日平成11年4月5日
商品及び役務の区分第25類
指定商品洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝
巻き類,下着,水泳着,水泳帽
登録商標別紙商標目録記載2のとおり
特定承継による本権の移転に係る登録年月日
平成18年7月27日
(3)被告の行為
被告は,平成17年10月から,別紙標章目録記載1ないし3の各標章(以
下,「被告標章1」ないし「被告標章3」といい,併せて「被告各標章」とい
う。)を付した別紙被告商品目録記載の各商品(以下「被告各商品」という。
また,被告各標章を付さない商品を含めたものを「被告オリジナル商品」と
いう。)を製造し,別紙ウェブサイト目録記載の各ウェブサイト(以下「被告
各ウェブサイト」という。)において,販売している。
なお,被告は,被告各ウェブサイトにおいて,被告オリジナル商品の販売
に関し,被告標章1を表示している(他の文字又は図形標章と組み合わせた
表示の態様を含む。)。
また,被告は,被告各商品を,上記ウェブサイトで販売するほか,フット
サルコート事業者が主催する大会において優勝商品等として販売したり,社
内の従業員向けに販売したりもしている。
2原告の請求
(1)被告各標章の使用差止め及び被告各商品の廃棄に係る請求
原告は,被告の行為により本件商標権を侵害されたとして,被告に対し,
商標法(以下「法」という。)36条1項に基づき,被告各標章の使用差止め
(前記第1の1(1),(3)及び(4))を,同条2項に基づき,被告各商品の廃
棄(同(2))を求めている。
(2)金銭の支払を求める主位的請求(損害賠償請求:前記第1の1(5))
原告は,被告に対し,民法709条に基づき,1億0521万8750円
の損害賠償のうち一部請求として8115万6250円の損害賠償並びにこ
のうち平成22年9月11日までの被告の行為に関する部分に対し同日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払及び同月12
日から平成23年12月14日までの被告の行為に関する部分に対し同日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めてい
る。
(3)前記(2)の予備的請求(平成18年7月27日から平成19年9月21日
までの不当利得)
原告は,被告に対し,前記(2)の請求のうち,平成19年9月21日以前
に発生した損害賠償請求権が時効により消滅した場合に備えて,民法703
条に基づき,平成18年7月27日から平成19年9月21日までの期間に
おける利得金291万6666円の支払及びこれに対する平成23年12月
17日(同月15日付け訴え変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
3争点
(1)被告各商品と本件各登録商標の指定商品の類否(争点1)
(2)被告各標章と本件各登録商標の類否(争点2)
(3)本件登録商標2の商標登録は,商標登録無効審判により無効にされるべき
ものであるか(争点3)
(4)被告標章4をメタタグとして使用することに係る差止請求の可否(争点4)
(5)被告標章1をウェブサイトにおいて使用することに係る差止請求の可否
(争点5)
(6)本件請求に係る権利濫用の成否(争点6)
(7)損害(争点7)
(8)消滅時効の成否(争点8)
(9)不当利得の成否(争点9)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告各商品と本件各登録商標の指定商品の類否)について
【原告の主張】
以下のとおり,被告各商品は,本件各登録商標の指定商品と同一又は類似の
商品である。
(1)被告各商品の区分
被告各商品は,本件登録商標1の指定商品である「被服」及び「布製身の
回り品」並びに本件登録商標2の指定商品である「洋服」と同一又は類似の
商品である。
(2)後記【被告の主張】(2)に対する反論
被告各商品の素材は,ポリエステル,綿等であり,被服の素材として通常
使用されるものであって,本件各登録商標の指定商品と品質において異なら
ない。また,競技者でない者も含め,フットサル競技を行う場合以外に普段
着として着用されるものであるから,用途においても異ならない。
したがって,被告各商品は,「運動用特殊衣服」に区分されるものではない。
【被告の主張】
以下のとおり,被告各商品は,本件各登録商標の指定商品と同一又は類似の
商品ではない。
(1)被告各商品の区分
被告各商品は,専らフットサルチーム又はフットサル愛好者を需要者とす
るものであり,そのほとんどはフットサルの競技用ユニフォームであるから,
特許庁商標課編「類似商品・役務審査基準〔国際分類第9版対応〕」によれば,
「運動用特殊衣服」(類似群コード24C01)に区分されるものであり,本
件各登録商標の指定商品である「被服」等には当たらない。
(2)被告各商品の品質及び用途
被告各商品は,通常の衣服と同じ素材で製造されているものがあるものの,
フットサルの練習中や試合の前後に使用又は着用されることを予定している
ものであり,「運動用特殊衣服」の域を出るものではない。
また,フットサル競技を行う場合以外に普段着として着用されている事実
はない。仮に需要者が普段着として使用していたとしても,動きやすさ等を
重視したことによるものであり,本件各登録商標の指定商品と被告各商品と
を誤認混同することはない。
(3)販売業者等の相違
「運動用特殊衣服」は,スポーツ用品店やデパートなどのスポーツ用品売
場で販売されるのに対し,「被服」及び「洋服」は,洋品店やデパートなどの
紳士服売場,婦人服売場で販売されるものであり,販売場所が全く異なる。
インターネット上のショッピングサイトにおいても,「運動用特殊衣服」を
含むスポーツ用品は,「被服」及び「洋服」とは別のカテゴリーで販売される
のが通常であり,被告各商品も別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイト
において,一般の「被服」及び「洋服」を対象とする「メンズファッション」,
「レディースファッション」とは全く別のカテゴリーである「スポーツ・ア
ウトドア」,「フットサル」のカテゴリーで販売されている。
2争点2(被告各標章と本件各登録商標の類否)について
【原告の主張】
以下のとおり,被告各標章は,外観,称呼及び観念において,本件各登録商
標と同一又は類似の商標である。
(1)被告各標章
ア構成
被告標章1ないし3は,アルファベットで表示された「SAMURAI」
(「Samurai」)の部分と「JAPAN」(「japan」)の部分を上下2段に並べた
ものであり,「SAMURAI」(「Samurai」)の部分が大きく太く表示されて
いるのに対し,「JAPAN」(「japan」)の部分は極めて小さく細い文字で表
示されている。被告標章1でみると,「SAMURAI」と「JAPAN」のアル
ファベット1文字当たりの面積比は,約12対1である。
被告標章4は,アルファベットの小文字で「samurai」と表示されたも
のである。
イ要部
被告標章1ないし3は,いずれも外観において圧倒的に「SAMURAI」
(「Samurai」)の部分に比重があり,「JAPAN」(「japan」)の部分とは一
体性がなく,「SAMURAI」(「Samurai」)の部分が支配的かつ顕著なもの
であって,取引者に強い印象を与え,その注意を惹く部分である。
したがって,「SAMURAI」(「Samurai」)の部分が要部である。
ウ後記【被告の主張】(2)イ(イ)に対する反論
アルファベットで表示された「SAMURAI」(「Samurai」)の部分と他の
単語とを一体のものとして結合することにより,全体として自他商品識別
機能を有する場合があることは認める。しかしながら,被告標章1ないし
3は,「SAMURAI」(「Samurai」)と「JAPAN」(「japan」)の部分とが一
体のものではない。
(2)類否
ア対比
前記(1)イのとおり,被告標章1ないし3の要部は,アルファベットの
「SAMURAI」(「Samurai」)の部分であるから,外観,称呼及び観念にお
いて,本件各登録商標と同一又は類似のものであり,被告標章4も,外観,
称呼及び観念において,本件各登録商標と同一又は類似のものである。
イ取引の実情
以下のとおり,需要者が本件各登録商標の指定商品と被告各商品の出所
について誤認混同するおそれを否定できるような取引の実情はない。
(ア)被告各商品が,本件各登録商標の指定商品と同一又は類似の商品であ
ること
前記1【原告の主張】のとおりである。
(イ)後記【被告の主張】(3)エ(イ)に対する反論
被告は,まとめ買いによる方法以外に,個人が1着単位でも被告各商
品を購入できるようにしている。これは,個人が被告各商品を普段着と
して使用することを想定しているからである。
(ウ)後記【被告の主張】(3)エ(ウ)に対する反論
別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイトの検索エンジンにより,
「SAMURAITシャツ」をキーワードとして検索すると,原告が販売す
る商品を紹介するウェブサイトと被告各ウェブサイトが同一頁に表示さ
れる。
また,被告は,被告各ウェブサイトにおいて,被告各商品を販売する
に当たり,メタタグとしてアルファベットの「samurai」(被告標章4)
を使用しており,「samuraijapan」を使用していない。これは,検索エ
ンジンを利用する際に「samurai」と入力した需要者も,被告各ウェブ
サイトに誘引しようとするものであり,原告の販売する商品を購入しよ
うとする者が誤って被告各商品を購入するおそれがあることは明らかで
ある。
(エ)後記【被告の主張】(3)エ(エ)に対する反論
被告がフットサル愛好者に広く認識されているとする主張には客観的
な裏付けがなく,否認する。
【被告の主張】
以下のとおり,被告各標章は,「SAMURAI」(「Samurai」)と「JAPAN」
(「japan」)の各部分が一体不可分に結合したものであって,外観,称呼及び
観念において本件各登録商標と同一又は類似のものではない。
(1)本件各登録商標
本件登録商標1は,特徴ある書道風の書体によりアルファベットで
「SAMURAI」と表記された商標である。
また,本件登録商標2は,Century風の書体のアルファベットで
「SAMURAI」と表記された部分の下に,明朝体風の書体によりほぼ同じ大
きさのカタカナで「サムライ」と表記された部分を組み合わせた2段併記商
標である。このうち上段の「SAMURAI」又は下段の「サムライ」のみであ
れば,いずれも普通名詞にすぎないことからすると,後記3【被告の主張】
のとおり,いずれかのみでは,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務で
あることを認識することができない商標」(法3条1項6号)として,商標登
録無効審判により無効にされるべきものである。
よって,本件登録商標2は,2段併記をされていることにより出所識別機
能を有するものである。
これらのことからすれば,本件商標権の権利範囲は,本件各登録商標に係
る上記外観を有する標章に限られる。
(2)被告各標章
ア構成
被告各標章は,アルファベットで表記された「SAMURAI」(「Samurai」)
及び「JAPAN」(「japan」)の各単語を組み合わせた結合標章である。
イ要部
(ア)「SAMURAI」(「Samurai」)の部分は,「侍」という普通名詞に由来
するものであり,「JAPAN」(「japan」)の部分と比べて,取引者,需要
者に対し,出所識別標識として強く支配的印象を与えるものではない。
被告各標章のうち「SAMURAI」(「Samurai」)の部分が「JAPAN」
(「japan」)の部分より大きいのは,専らデザイン上の工夫にすぎない。
「SAMURAIJAPAN」という単語をみて通常思い浮かべるのは,「ス
ポーツの国際試合における日本代表」又は「スポーツをする日本男児」
であり,「侍」と「日本」ではない。被告は,平成17年ころから被告各
標章を使用しているところ,平成20年3月にホッケー男子日本代表が
「さむらいJAPAN」と名付けられ,社団法人日本ホッケー協会は,平
成21年1月9日,「さむらいJAPAN」及び「サムライJAPAN」を商
標登録した。平成21年に野球のワールドベースボールクラッシック(W
BC)が開催された際には,日本代表チームが「サムライジャパン」と
名付けられた。したがって,遅くとも,この時点以降,「サムライジャパ
ン」は,一つの熟語として一般に認識されている。
また,被告は,アルファベットの「SAMURAI」と「JAPAN」の頭文
字をとった「SJ」の標章を商標登録しており,被告各商品にロゴとして
付している。
これらのことからすれば,需要者は,被告各標章を一連一体の「サム
ライジャパン」と認識するのであり,「SAMURAI」(「Samurai」)の部
分と「JAPAN」(「japan」)の部分とを分離して観察することは,取引上,
不自然である。
(イ)「被服」を指定商品とする商標として,「SAMURAIPROJECT」,
「SAMURAISOUL」,「SAMURAIARTS」及び「SAMURAI
SURFER」が商標登録されている。
このように,「SAMURAI」という単語が,「被服」等の指定商品にお
いて商標の類似を問題とされることなく併存していることからすれば,
この種の指定商品の需要者は,「SAMURAI」を要部とは捉えず,他の単
語と不可分一体のものとして把握することにより,十分に自他商品の識
別をしているものである。
(3)類否
外観,称呼及び観念における以下の差違並びに取引の実情によれば,被告
各標章は,本件各登録商標と同一又は類似のものではない。
ア外観の対比
被告各標章は,外観において,本件登録商標1と大きく異なる。
本件登録商標2と比べても,2段の文字群からなる点で共通するものの,
片仮名で「サムライ」と表記されていない点で大きく異なる。
イ称呼の対比
本件各登録商標は,いずれも「サムライ」の4音節で発音されるのに対
し,被告各標章は「サムライジャパン」の7音節で発音されるものであり,
「ジャパン」の部分があることにより,語感も大きく異なる。
ウ観念の対比
本件各登録商標は,「武士」を想起させるのに対し,被告各標章は,「国
際試合において闘う日本チーム」を想起させるものである。
エ取引の実情
以下のとおり,取引の実情によれば,需要者が本件各登録商標の指定商
品と被告各商品の出所について誤認混同するおそれはない。
(ア)被告各商品が,本件各登録商標の指定商品と同一又は類似の商品では
ないこと
前記1【被告の主張】のとおりである。
(イ)販売方法に係る差違
被告は,別紙ウェブサイト目録記載の各ウェブサイトにおいて,約十
着から四,五十着まで,まとめ買いできるシステムにより被告各商品を
販売しており,これは一般の「被服」の販売方法とは明らかに異なるも
のである。
これに対し,原告は,「SAMURAIJEANS」の名称で,デニム素材の
シャツやパンツを中心とした一般の若者向けカジュアルウェアをイン
ターネット上のウェブサイト及び店舗で販売している。
(ウ)インターネット上での表示に係る差違
インターネット上の検索エンジンで「SAMURAI」をキーワードとし
て検索すると,膨大な数の検索結果が表示される。
したがって,需要者は,目的の商品を検索するために「SAMURAI」
のキーワード以外の情報を用いる必要があるから,本件各登録商標と被
告各標章が「SAMURAI」の部分で共通するということのみで誤認混同
が生ずるおそれはない。
また,検索エンジンを用いると,検索結果において,原告の商品を販
売するウェブサイトが「SAMURAIJEANS-サムライジーンズ」と表
示されるのに対し,被告各ウェブサイトは「フットサルショップ
SAMURAIJAPAN~フットサル用品専門フットサルショップ~」と表
示されるから,明らかに区別することができる。
(エ)被告のフットサル用品への特化
被告は,財団法人日本サッカー協会が平成17年に「フットサル全国
リーグ設立検討プロジェクト」を立ち上げたころから,別紙ウェブサイ
ト目録記載1のウェブサイトでフットサル用品の販売を開始した。
その後も,フットサル用品のみに特化して販売を継続しており,フッ
トサルの普及に一定の役割を果たしてきたことから,被告は,需要者で
あるフットサル愛好者の間に広く認識されている。
3争点3(本件登録商標2の商標登録は,商標登録無効審判により無効にされ
るべきものであるか)について
【被告の主張】
以下のとおり,本件登録商標2の商標登録は,商標登録無効審判により無効
にされるべきものである。
(1)本件登録商標2の商標登録に無効原因があること
前記2【被告の主張】(1)のとおり,本件登録商標2は,Century風の書
体のアルファベットで「SAMURAI」と表記された部分の下に,明朝体風の
書体によりほぼ同じ大きさのカタカナで「サムライ」と表記された部分を組
み合わせた2段併記商標である。そして,上段の「SAMURAI」又は下段の
「サムライ」のみであれば,いずれも普通名詞にすぎず,出所識別機能を有
しないから,本件登録商標2は2段併記をされていることにより出所識別機
能を有するものであり,被告各標章とは類似するものではない。
そうでないのであれば,本件登録商標2は,「需要者が何人かの業務に係る
商品又は役務であることを認識することができない商標」(法3条1項6号)
として商標登録無効審判により無効にされるべきものであり,原告はその権
利を行使することができないものである(法39条,特許法104条の3第
1項)。
なお,本件登録商標2は,商標登録の日(平成12年3月3日)から5年
が経過しており,法47条1項により商標登録無効審判を請求することがで
きないものの,法39条,特許法104条の3第1項は適用される。
(2)後記【原告の主張】(1)の申立てに対する反論
被告は,本件登録商標2について同じ大きさのアルファベットとカタカナ
とを組み合わせた2段併記であることにより自他商品識別力を有するもので
あり,被告各標章とは類似しない旨主張していたところ,裁判所の心証開示
において上記主張を排斥された。このような裁判所の判断を前提とすれば,
本件各登録商標は無効とされるべきものであることが明らかであるから,上
記主張をしたのであり,「故意又は重大な過失により時機に後れて提出した」
ものではない。
【原告の主張】
以下のとおり,本件登録商標2の商標登録は,商標登録無効審判により無効
にされるべきものではない。
(1)民事訴訟法157条1項に基づく却下の申立て
被告は,平成23年4月15日の本件第3回弁論準備手続期日において裁
判所から侵害論に関する審理を終えて損害論に関する審理に入る旨の心証開
示をされた後の同年5月24日付け被告準備書面で,上記【被告の主張】(1)
の主張をした。
被告は,自らが商標の類否等に関する判断を誤っていただけであって,こ
れ以前に上記主張をすることについては何らの制約もなかったにもかかわら
ず,責任が裁判所にあるかのように主張して責任転嫁をしているものである。
上記【被告の主張】(1)が,「当事者が故意又は重大な過失により時機に後
れて提出した攻撃又は防御の方法」に当たることは明らかであるし,侵害論
に関する審理を蒸し返すものであって,「これにより訴訟の完結を遅延させる
こととなる」ことも明らかである。
したがって,上記【被告の主張】(1)の主張は,民事訴訟法157条1項
により却下されるべきである。
(2)本件登録商標2の商標登録には無効原因がないこと
ほぼ同じ大きさでアルファベットとカタカナを2段併記した商標は,少な
からず商標登録をされており,アルファベット又はカタカナ単独の部分では
自他商品識別機能を有しないとか,2段併記をしたことにより自他商品識別
機能を有するとされているわけではない。
したがって,本件登録商標2は,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役
務であることを認識することができない商標」(法3条1項6号)に当たらな
い。
なお,本件登録商標2は,商標登録の日(平成12年3月3日)から5年
が経過しており,法47条1項により商標登録無効審判を請求することはで
きないものであるから,法39条,特許法104条の3第1項は適用されな
い。
4争点4(被告標章4をメタタグとして使用することに係る差止請求の可否)
について
【原告の主張】
被告は,平成17年9月ころから,被告各ウェブサイトにおいて,トップペー
ジを表示するためのhtmlファイルにメタタグとして被告標章4を記載してい
る。事業者が,その役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した
際のページの表示は,その役務に関する広告であり,インターネットの検索サ
イトにおいて表示される当該ページの説明もその役務に関する広告である。こ
れが表示されるようにhtmlファイルにメタタグを記載することは,役務に関
する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為であるから,商標
としての使用に当たる。
よって,原告は,被告に対し,被告標章4のhtmlファイルからの削除を求
める。
【被告の主張】
被告標章4は,htmlファイルの「Keywordmeta-tag」に記載されたもので
あり,「Descriptionmeta-tag」に記載されたものではないから,検索エンジン
の検索結果などでは表示されず,サイトの閲覧者には視認されないものである。
したがって,商標的使用には当たらない。
被告は,すでに被告各ウェブサイトのhtmlファイルのメタタグから被告標
章4を削除しており,今後,これを再度追加する理由も予定もないから,上記
差止請求には理由がない。
5争点5(被告標章1をウェブサイトにおいて使用することに係る差止請求の
可否)について
【原告の主張】
(1)前提事実のとおり,被告は,被告各ウェブサイトにおいて,被告各商品の
販売に関し,被告標章1を表示している(他の文字又は図形標章と組み合わ
せた表示の態様を含む。)。
よって,原告は,被告に対し,被告各商品の販売又は販売のための展示に
関し,被告標章1をウェブサイトに表示することの差止め及び別紙ウェブサ
イト目録記載の各ウェブサイトからの被告標章1の削除を求める。
(2)後記【被告の主張】(1)の申立てに対する反論
上記(1)の請求は,平成23年12月15日付け訴変更申立書により追加
したものであるが,従前の請求の基礎となっていた本件商標権に基づくもの
であるし,被告標章1も従前から差止請求の対象となっていたものであるか
ら,上記訴えの変更により著しく訴訟手続を遅滞させることはない。
【被告の主張】
(1)民事訴訟法143条4項に基づく申立て
上記【原告の主張】(1)は,本件訴えが提起されてから1年以上経過した
平成23年4月15日の本件第3回弁論準備手続において損害論の審理が開
始され,さらにその後8か月以上が経過し,裁判所から和解勧告がされた後
の同年12月15日に,訴え変更されたものである。
原告には,それ以前に訴え変更をすることができなかった特別な事情はな
かったし,侵害論に関する新たな主張立証が必要となり,審理に相当の期間
を要することになった。
したがって,上記訴えの変更は,著しく訴訟手続を遅滞させるものとして,
変更が許されない。
(2)ウェブサイトにおける被告標章1の使用差止めに係る請求について
被告各ウェブサイトでは,原告が本件各登録商標を侵害すると主張する被
告各商品以外にも,多数の商品を販売しており,一律に使用を差し止めるこ
とは合理的な根拠を欠いており,失当である。
6争点6(本件請求に係る権利濫用の成否)について
【被告の主張】
前記2【被告の主張】(3)エ(エ)のとおり,被告は,フットサル愛好者に広く
認識されている。
原告は,上記被告の信用力にただ乗りしようとして,平成22年2月からサッ
カー用品の販売を開始しており,本件請求もその一環であって不当な目的によ
るものであるから,権利濫用に当たる。
【原告の主張】
争う。
7争点7(損害)について
【原告の主張】
(1)逸失利益
ア主位的請求原因(法38条2項)
被告は,平成18年7月27日から平成23年12月14日までの5年
4か月半の間に被告各商品を販売して,少なくとも合計1億3437万5
000円(年間2500万円)の売上げを得た。
被告各商品の利益率は少なくとも7割であるから,被告は,被告各商品
を販売することにより,少なくとも合計9406万2500円の利益を得
た。
これにより,原告は,同額の損失を受けた。
イ予備的請求原因(法38条3項)
原告が被告の行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭は,上
記売上高合計1億3437万5000円の1割である1343万7500
円を下回らない。
これにより,原告は,同額の損失を受けた。
ウウェブサイトにおける被告標章1の使用
被告は,被告各ウェブサイトにおいて被告標章1を使用しているから,
被告各ウェブサイトにおいて販売された商品のうち,少なくとも被告オリ
ジナル商品(被告各商品に加え,被告各標章を付していないものを含めた
もの)の販売額についても,損害の算定において含めるのが相当である。
(2)弁護士及び弁理士費用
被告の行為と相当因果関係のある弁護士及び弁理士費用は,1115万6
250円(予備的請求原因については309万3750円)である。
(3)後記【被告の主張】(1)に対する反論
原告は,本件各登録商標を付した商品を販売し,宣伝広告においても本件
各登録商標を使用している。
また,前記1【原告の主張】(2)のとおり,被告各商品は,普段着として
も使用されるものであり,用途用法が限定されるという被告の主張には理由
がない。
本件各登録商標が顧客誘引力を有しないなどということはない。
(4)後記【被告の主張】(4)の申立てに対する反論
被告の行為に係る損害賠償請求の期間を平成22年9月12日から平成2
3年12月14日までの期間に拡張したのは,被告が本件商標権侵害を継続
してきたために伸長したものであるし,これは,紛争の一回的かつ抜本的解
決にも資するものである。
また,被告は,被告の行為により受けた利益について推計するしかない旨
主張しており,開示しないから,推計の方法により損害を算定しており,こ
れにより著しく訴訟手続を遅滞させることもない。
【被告の主張】
(1)原告には逸失利益が発生していないこと
ア主位的請求原因(法38条2項)について
原告は,本件各登録商標を使用していないから,法38条2項による損
害はない。
また,前記1【被告の主張】のとおり,被告各商品は,原告が販売する
商品と用途用法及び需要者層が異なり,被告各商品の顧客吸引力は,本件
各登録商標によるものではない。
イ予備的請求原因(法38条3項)について
原告が本件各登録商標を使用していないことからも明らかなとおり,本
件各登録商標には全く顧客吸引力がないから,法38条3項は適用されな
い。少なくとも,被告各商品の売上げは,被告の営業努力,広告宣伝など
他の要因が大きく貢献しており,被告各標章の寄与度は極めて小さい。
(2)被告が受けた利益について
被告は,商品ごとに売上げを管理していないため,被告各商品の売上げ及
び利益を会計帳簿等から明らかにすることはできない。
また,被告オリジナル商品のうち,被告標章1及び2を付している商品を
正確に抽出することは不可能である。
(3)弁護士費用及び弁理士費用
争う。
(4)民事訴訟法143条4項に基づく申立て
原告は,訴状において平成18年7月27日から平成22年9月11日ま
での間における被告の行為に係る損害賠償請求をしていたところ,平成23
年12月15日付け訴変更申立書により平成18年7月27日から平成23
年12月14日までの間における被告の行為にまで損害賠償請求を拡張した。
これは,本件訴えが提起されてから1年以上も経過した平成23年4月15
日の本件第3回弁論準備手続において損害論の審理が開始され,さらにその
後8か月以上が経過し,裁判所から和解勧告がされた後の同年12月15日
にされたものである。
原告には,それ以前に上記訴え変更をできない特別な事情はなかった上,
上記訴え変更により,侵害論に関する新たな主張立証が必要となり,審理に
相当の期間を要することになった。
したがって,上記訴え変更は,著しく訴訟手続を遅滞させるものとして許
されない。
8争点8(消滅時効の成否)について
【被告の主張】
原告は,遅くとも平成18年7月27日までに,被告の行為を知った。
よって,本件訴えが提起された平成22年9月21日の3年前である平成1
9年9月21日までの被告の行為に関する不法行為に基づく損害賠償請求権は,
時効により消滅した。
被告は,平成23年7月26日の本件第4回弁論準備手続期日において,上
記時効を援用した。
【原告の主張】
原告は,平成21年10月23日ころ,被告の行為を知り,平成22年9月
21日,本件訴えを提起したのであり,被告の行為に関する不法行為に基づく
損害賠償請求権は時効により消滅していない。
9争点9(不当利得の成否)について
【原告の主張】
(1)不当利得の成否
被告各商品の平成18年7月27日から平成19年9月21日までの約1
年2か月間における売上げは,少なくとも2916万6666円であったか
ら,同期間における本件各登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当
する額の金銭は,その1割である291万6666円である。
前記のとおり,被告の行為は,本件商標権を侵害するものであるから,被
告は,法律上の原因なく,同額の利益を受け,原告に同額の損失を及ぼした
ものである。
(2)後記【被告の主張】の申立てに対する反論
上記主張の成否を審理するに当たっては,従前の訴訟資料を相当程度利用
することができるから,訴訟の完結を遅延させることとなるものではなく,
後記【被告の主張】には理由がない。
【被告の主張】
上記【原告の主張】(1)は,本件訴えが提起されてから1年以上も経過し,
平成23年4月15日の本件第3回弁論準備手続において損害論の審理が開始
されてから8か月以上が経過し,裁判所から和解勧告がされた後に初めて主張
されたものである。
原告には,それ以前に上記主張を提出できない特別な事情はなかったから,
時機に後れた攻撃防御得方法(民事訴訟法157条)として,却下されるべき
である。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告各商品と本件各登録商標の指定商品の類否)について
以下のとおり,被告各商品は,本件各登録商標の指定商品と同一又は類似の
商品であると認められる。
(1)指定商品に類似する商品
法37条1号の規定する指定商品に類似する商品に当たるかどうかは,商
品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判定すべきものでは
なく,それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事
情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主
の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあるかどうかにより判定
すべきものである(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決・民集15
巻6号1730頁参照)。
(2)被告各商品が本件各登録商標の指定商品と同一又は類似の商品であること
ア商品及び役務の区分
法6条2項によれば,商標登録出願に係る商品又は役務の指定は,政令
で定める商品及び役務の区分に従ってしなければならないとされており,
法施行令1条によれば,経済産業省令で定める商品又は役務によって区分
し,これを別表に記載するとされている。また,別表では「第24類」と
して「織物及び家庭用の織物製カバー」,「第25類」として「被服及び履
物」が規定されている。
これらの規定を受けて,法施行規則6条により,法施行令1条の規定に
よる商品及び役務の区分に属する商品又は役務は,別表のとおりとすると
規定されているところ,別表による区分には,以下の商品が含まれている。
第24類5「布製身の回り品」
タオル手ぬぐいハンカチふくさふろしき
第25類1「被服」
(1)洋服
イブニングドレス学生服子供服作業服ジャケットジョギ
ングパンツスウェットパンツスーツスカートスキージャケッ
トスキーズボンズボンスモック礼服
(4)ワイシャツ類
開きんシャツカフスカラースポーツシャツブラウスポロ
シャツワイシャツ
(7)下着
アンダーシャツコルセットコンビネーションシュミーズズ
ボン下スリップパンツブラジャーペチコート
(9)キャミソールティーシャツ
(10)アイマスクエプロンえり巻き靴下ゲートル毛皮製ストー
ルショールスカーフ足袋足袋カバー手袋ネクタイネッ
カチーフバンダナ保温用サポーターマフラー耳覆い
(11)ナイトキャップ帽子
第25類5「運動用特殊衣服」
(1)アノラック空手衣グランドコート剣道衣柔道衣スキー
競技用衣服ヘッドバンドヤッケユニフォーム及びストッキング
リストバンド
(2)水上スポーツ用特殊衣服
サーフィン用ウェットスーツ水上スキー用ウェットスーツ
イ被告各商品と本件各登録商標の指定商品との対比
(ア)被告各商品のうち「ポロシャツ,ロンTEE,ノースリーブシャツ」
は上記法施行規則別表の「ワイシャツ類」又は「下着」に,
「プラクティスシャツ(プラシャツ),プラクティスセット(プラセット),
ロングプラクティスシャツ(ロンプラ),プラクティスパンツ(プラパン),
ハーフピステ」は同別表の「洋服」又は「ワイシャツ類」に,
「スウェット」は同別表の「洋服」に,
「ロングインナーシャツ,ロングインナー,インナーシャツ,ロングイ
ンナーパンツ,インナーパンツ,アンダーウォーマーパンツ,アンダー
ウォーマー,ロングスパッツ,ボクサーパンツ」は同別表の「下着」に,
それぞれ当たると認められ,これらの被告各商品は,いずれも,本件各
登録商標の指定商品と同一の商品である。
(イ)被告各商品のうち「Tシャツ」は同別表の「ティーシャツ」に,
「ネックウォーマー」は同別表の「保温用サポーター,マフラー」に,
「ビーニー」は同別表の「帽子」に当たり,
「タオル」は同別表の「布製身の回り品」に含まれ,その他の被服を含
め,いずれも,本件登録商標1の指定商品と同一の商品であるが,本件
登録商標2の指定商品とは異なる。
(ウ)被告各商品のうち「ユニフォーム」は同別表の「運動用特殊衣服」に
当たり,本件各登録商標の指定商品とは異なる。
ウ被告各商品と本件各登録商標の指定商品との類否
前記イのとおり,前記イ(ア)の商品は,本件各登録商標の指定商品と同
一のものである。
前記イ(イ)及び(ウ)の商品についても,被告が本件各登録商標の指定商品
と同一のものである前記イ(ア)の各商品と併せて販売していることや,原
告も同様の商品を販売していることからすれば,一般に同一営業主により
製造又は販売されているものと認めることができる。
したがって,これらの商品についても,本件各登録商標の指定商品と同
一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる
商品と誤認されるおそれがあるものというべきである。
エ被告は,需要者が普段着として被告各商品を使用することはなく,これ
らは,ユニフォームとして「運動用特殊衣服」に区分されるものであって,
本件各登録商標の指定商品である「被服」に類似する商品には当たらない
旨主張する。
しかしながら,被告各商品のうち上記イの各商品全てについて「運動用
特殊衣服」に当たるというのは上記アの法令の規定と整合しない。また,
素材及びデザイン等の観点からみても,被告各商品を普段着として使用す
ることには何ら支障がないと認められるから,上記主張には理由がない。
2争点2(被告各標章と本件各登録商標の類否)について
以下のとおり,被告標章1及び2は,本件各登録商標に類似する商標である
が,被告標章3は,類似するとはいえない。
(1)登録商標に類似する商標
商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標がその外観,観念,
称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察
すべきであり,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な
取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和43年2月27日第
三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
(2)被告各標章と本件各登録商標の類否
ア本件各登録商標の構成
(ア)本件登録商標1
本件登録商標1の外観は,別紙商標目録記載1のとおりであり,毛筆
風の勢いのある書体によりアルファベットの大文字で「SAMURAI」と
表記されたものである。
同商標からは,「さむらい」の称呼と「侍」の観念が生じる。「侍」は,
一般に「武士」,転じて「なかなかの人物」を意味する。
(イ)本件登録商標2
本件登録商標2の外観は,別紙商標目録記載2のとおりであり,
Century風で,やや細めの書体によりアルファベットの大文字で
「SAMURAI」と表記された下に,同じ大きさのカタカナで「サムライ」
と表記されている。
同商標の称呼及び観念は,上記(ア)と同じである。
イ被告各標章の構成
被告各標章の構成は,別紙標章目録記載1ないし4のとおりであり,そ
の外観,称呼及び観念並びに要部は,以下のとおりである。
(ア)被告標章1
a外観
アルファベットのゴシック体大文字で「SAMURAI」と表記さ
れた下に,これより小さなアルファベットのゴシック体大文字で
「JAPAN」と表記されている。
文字の大きさを比較すると,「SAMURAI」の部分の方が
「JAPAN」の部分よりも約12倍大きい。
b称呼
「SAMURAI」の部分から「さむらい」の称呼が生じ,「JAPAN」
の部分から「ジャパン」の称呼が生じる。
c観念
「SAMURAI」の部分から「侍」の観念が生じ,「JAPAN」の部分
から「日本」の観念が生じる。
d要部
複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,
商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較し
て商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者
に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える
ものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての
称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないとい
うべきである(最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民
事228号561頁参照)。
上記aのとおり,被告標章1は,「SAMURAI」の部分の方が
「JAPAN」の部分よりも格段に大きく,取引者,需要者に対し,商品
の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
また,「JAPAN」の部分からは「ジャパン」の称呼及び「日本」の観
念が生じるものの,服飾の分野において原産国を表示する又は商品イ
メージを代表させることを目的として,国名,都市名等が併せて表記
されることは通常見られることであり,被告標章1における「JAPAN」
の部分も,上記の外観からすれば,そうした意味合いによるものとし
か理解することができない。したがって,この部分からは,出所識別
標識としての称呼,観念も生じないというべきである。
よって,被告標章1の要部は「SAMURAI」の部分である。
なお,被告は,「SAMURAIJAPAN」という表記が,一般に「スポー
ツの国際試合における日本代表」及び「スポーツをする日本男児」を
意味し,取引者ないし需要者は,被告標章1についても「SAMURAI
JAPAN」という一連一体の言葉と認識するから,「SAMURAI」と
「JAPAN」とを分離するのは相当でなく,「SAMURAI」の部分を要
部ということはできない旨主張する。たしかに,「SAMURAI」と
「JAPAN」が外観上も一連一体として記載された場合は,これを一連
一体の言葉として認識することは十分にあり得る(後記(ウ)参照)。
しかしながら,そもそも被告標章1の外観が,前記aのとおり,2
段に表記されている上,「SAMURAI」と「JAPAN」の文字の大きさ
が著しく異なっていることからすれば,取引者や需要者が,被告標章
1を見て,「SAMURAIJAPAN」という一連一体の言葉として認識す
ることは考えにくい。被告は,「SAMURAIJAPAN」という表記が,
一般に「スポーツの国際試合における日本代表」及び「スポーツをす
る日本男児」を意味するとする根拠について,①社団法人日本ホッ
ケー協会が「さむらいJAPAN」の商標登録を有すること,②野球の
日本代表チームが「侍ジャパン」の呼称を使用していることなどを挙
げるにすぎない。これらのことから,取引者,需要者において,
「SAMURAIJAPAN」という表記が一般に「スポーツの国際試合に
おける日本代表」,「スポーツをする日本男児」を意味すると受け取ら
れているなどとは認められない。
(イ)被告標章2
a外観
アルファベットのイタリック体で「Samurai」と表記され,「S」が
大文字であるほかは小文字である。この表記の下にアンダーラインが
付され,このアンダーラインの下に,より小さなアルファベットのイ
タリック体小文字で「japan」と表記されている。文字の大きさを比
べると,「Samurai」の部分の方が「japan」の部分よりも約10倍大
きい。
b称呼及び観念
称呼及び観念については,上記(ア)b及びcと同様である。
c要部
上記aのとおり,「Samurai」の部分の方が「japan」の部分と比べ
て格段に大きい上,「Samurai」の部分がアンダーラインで強調されて
いることなどからすれば,この部分が取引者,需要者に対し,商品の
出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
「japan」の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない
こと及び「Samuraijapan」という一連一体の言葉としての外観,称
呼,観念が生じるなどといえないことは,前記(ア)dと同様である。
したがって,被告標章2の要部は「Samurai」の部分である。
(ウ)被告標章3
a外観
アルファベットの大文字で「SAMURAI」と表記された下に,これ
より小さなアルファベットの大文字で「JAPAN」と表記されている。
「A」の文字を基準として文字の大きさを比べると,「SAMURAI」の
部分の方が「JAPAN」の部分よりも約1.5倍大きい。
b称呼及び観念
称呼及び観念については,上記(ア)b及びcと同様である。
c要部
被告標章3では,「SAMURAI」の部分が「JAPAN」の部分と比べ
て大きいものの,被告標章1及び2と異なり,取引者,需要者に対し,
商品の出所識別標識として,強く支配的な印象を与えるとまではにわ
かに認めがたいというべきである。
また,このような外観からすると,一連一体の表記として「サムラ
イジャパン」という称呼も生じることが考えられる。このような場合,
取引者,需要者において,固有の意味を有する熟語として受け取ると
までは認めにくいものの,「SAMURAI(侍)」と「JAPAN(日本)」
とを組み合わせたものとして出所識別機能を有する標識と捉えること
が可能である。
しかも,「SAMURAI」から生じる観念である「侍」は,日本固有の
ものであり,上記のような観念の下では,取引者,需要者において
「JAPAN」から生じた観念である「日本」と結びついた一連一体のも
のとして受け止められやすいといえる。
他方,「SAMURAI」も「JAPAN」も被告商品と関連性はないもの
の,一般名称であるため出所識別力に大きな違いがあるとは認められ
ないから,「SAMURAI」以外の部分から出所識別標識としての称呼,
観念が生じないということも困難である。
したがって,被告標章3において,「SAMURAI」の部分を取り出し
て,その要部であると認めることはできない。
(エ)被告標章4
外観は,アルファベットの小文字で「samurai」と表記された標章で
あり,「さむらい」の称呼及び「侍」の観念が生じる。
ウ類否判断
(ア)本件登録商標1と被告各標章との対比
前記イ(ア)及び(イ)のとおり,被告標章1及び2の要部は「SAMURAI」
又は「Samurai」の部分であり,本件登録商標1とは書体が異なるもの
の,同一のアルファベットにより構成されるものであるから,外観にお
いて類似する。また,要部からは,「さむらい」の称呼及び「侍」の観念
が生じるから,称呼及び観念においても,本件登録商標1と同一のもの
である。
しかし,前記イ(ウ)のとおり,被告標章3は,分離観察ができないた
め,「SAMURAIJAPAN」として,本件登録商標1と対比すると,外観,
称呼,観念において異なる。
また,被告標章4は,本件登録商標1とは書体とアルファベットの小
文字である点を除き同一であるため,外観において類似しており,称呼,
観念において同一である(もっとも,被告標章4は,メタタグとして使
用されているので,取引者や需要者によって直接観察されることを予定
しておらず,外観を対比する必要はない。)。
(イ)本件登録商標2と被告各標章との対比
前記イ(ア)及び(イ)のとおり,被告標章1及び2の要部は「SAMURAI」
又は「Samurai」の部分であり,本件登録商標2の上段部分と同一のア
ルファベットにより構成されるものであるから,外観において類似する。
また,上記要部からは「さむらい」の称呼及び「侍」の観念が生じるか
ら,称呼及び観念において,本件登録商標2の上下各部分とも同一のも
のである。
しかし,前記イ(ウ)のとおり,被告標章3は,分離観察ができないた
め,「SAMURAIJAPAN」として本件登録商標2と対比すると,外観,
称呼,観念において異なる。
また,被告標章4は,本件登録商標2の外観において類似し,称呼及
び観念において同一である(もっとも,外観を対比する必要がないこと
は,前記(ア)と同じである。)。
(ウ)取引の実情
被告は,取引の実情からすれば,取引者,需要者が本件各登録商標の
指定商品と被告各商品の出所について誤認混同するおそれはない旨主
張する。
しかしながら,被告が主張する事情のうち,被告各商品が,本件各登
録商標の指定商品と同一又は類似の商品ではないとする点に理由がな
いのは前記1のとおりである。また,被告がフットサル愛好者に広く認
識されているから原告が販売する商品と誤認混同されるおそれはない
とする点も,被告各商品が本件各登録商標の指定商品と同一又は類似の
商品ではないことを前提とするものであり,同様に理由がない。
被告が主張するとおり,販売方法に係る差違や販売に係るインター
ネット上のウェブサイトの表示に差違があるとしても,一般の需要者か
らしてみれば,少なくとも被告各商品が原告の製造に係る商品等である
と誤信するおそれはあるというべきであり,「何ら商品の出所を誤認混
同するおそれが認められない場合」に当たるとはいえない。
(エ)結論
これらのことからすると,被告標章1及び2は,本件各登録商標と外
観において類似し,称呼及び観念において同一のものである上,商品の
出所を誤認混同するおそれが認められない場合に当たるような取引の
実情があるともいえない。
よって,被告標章1及び2は,本件各登録商標に類似する商標である
と認められる。
他方で,被告標章3は,本件各登録商標に類似する商標であるとはい
えない。
3争点3(本件登録商標2の商標登録は,商標登録無効審判により無効にされ
るべきものであるか)について
(1)法は,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の
維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する
ことを目的とする」ものであるところ(1条),商標の本質は,自己の業務に
係る商品又は役務と識別するための標識として機能することにあり,この自
他商品の識別標識としての機能から,出所表示機能,品質保証機能及び広告
宣伝機能等が生じるものである。法3条1項6号が,「需要者が何人かの業務
に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を商標登録
の要件を欠くと規定するのは,同項1号ないし5号に例示されるような,識
別力のない商標は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当とし
ないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,自他商品の識
別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないものであることによる
ものと解すべきである。
(2)被告は,本件登録商標2について,普通名詞である「SAMURAI」及び「サ
ムライ」を組み合わせたものにすぎず,これら単独では「需要者が何人かの
業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」(法3条
1項6号)に当たる旨主張する。
しかしながら,普通名詞であっても法3条1項各号に当たらない場合もあ
りうるところであって,単に普通名詞であることを理由として法3条1項6
号に当たるとする被告の主張は,そもそも失当である。
なお念のため検討すると,前記のとおり,本件登録商標2からは,「サムラ
イ」の称呼及び「侍」の観念を生じ,「侍」は,一般に「武士」,転じて「な
かなかの人物」を意味する単語である。そうすると,本件登録商標2は,そ
の指定商品である第25類「被服」との関係で,法3条1項1号の規定する
「その商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる
商標」には当たらないほか,同項2号ないし5号にも当たらない。
他に,本件登録商標2について,特定人によりその独占使用を認めるのを
公益上適当としないものであるとか,一般的に使用される標章であって,自
他商品の識別力を欠くものであり,法3条1項6号に当たるなどと認めるに
足りる証拠もない。
したがって,この点に関する被告の主張には理由がない。
4争点4(被告標章4をメタタグとして使用することに係る差止請求の可否)
について
証拠(乙11)によれば,被告は,すでに被告各ウェブサイトのhtmlファ
イルのメタタグから被告標章4を削除し,「SAMURAIJAPAN」のメタタグを
追加したことが認められる。
被告が,今後,上記各ウェブサイトのhtmlファイルにメタタグとして被告
標章4を記載する蓋然性があると認めるに足りる証拠は他にない。
よって,上記請求については必要性を認めることができず,理由がない。
5争点5(被告標章1をウェブサイトにおいて使用することに係る差止請求の
可否)について
(1)民事訴訟法143条4項に基づく申立て
原告は,平成23年12月15日付け訴変更申立書により,被告各商品の
販売又は販売のための展示に関し,被告標章1をウェブサイトに表示するこ
との差止め及び被告各ウェブサイトからの被告標章1の削除を求める請求
(前記第1の1(4))を追加した。
これらの請求に係る争点としては,争点1ないし4のほか,後記(2)の争
点があるのみであり,上記請求に係る争点の審理のためには従前の訴訟資料
を大部分利用することができるから,審理を遅滞させることはない。
この点に関する被告の主張には理由がない。
(2)ウェブサイトにおける被告標章1の使用差止めに係る請求について
法2条3項8号によれば,「商品若しくは役務に関する広告,価格表若しく
は取引書類‥‥を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する
行為」は,商標の使用に当たる。
前提事実のとおり,被告は,被告各ウェブサイトにおいて,被告各商品の
販売に関し,被告標章1を表示している(他の文字又は図形標章と組み合わ
せた表示の態様を含む。)ところ,これは上記商標の使用に当たる。
したがって,法36条1項により,原告は,被告に対し,被告各商品の販
売又は販売のための展示に関し,被告標章1をウェブサイトに表示すること
の差止め及び被告各ウェブサイトからの被告標章1の削除を求めることがで
きるというべきである。
被告は,被告各ウェブサイトにおいて,被告各商品以外にも多数の商品を
販売しているから,一律に使用を差し止めることは合理的な根拠を欠いてい
る旨主張するものの,上記各請求に必要性があることは明らかであり,理由
がない。
6争点6(本件請求に係る権利濫用の成否)について
原告が平成22年2月からサッカー用品の販売をしているとしても,そのこ
とからフットサル愛好者に対する被告の信用力にただ乗りしようとしているな
どと推認することはできない。
原告がサッカー用品を販売している行為自体についてみても,被告が主張す
る事実のみでは不正競争にも当たらないのであり,本件請求について権利濫用
が成立することを基礎づけるものとはいえない。
この点に関する被告の主張には理由がない。
7争点7(損害)について
(1)被告の行為について
前提事実(3)のとおり,被告は,被告各商品について,被告各ウェブサイ
トで販売しているほか,フットサルコート事業者が主催する大会において,
優勝商品等として格安で販売していること及び社内の従業員向けに販売して
いることが認められる。
また,上記ウェブサイトでは,被告標章1を表示した上で,被告オリジナ
ル商品や他社の製造した商品を販売しており,少なくとも,平成23年12
月14日まで続けている(前提事実(3),弁論の全趣旨)。
(2)被告各ウェブサイトにおける被告オリジナル商品の販売による損害の発生
前記5(2)のとおり,被告は,被告各ウェブサイトにおいて,被告オリジ
ナル商品の販売に関し,被告標章1を表示しているところ,これは商標の使
用に当たるから,被告各ウェブサイトにおける販売のうち、少なくとも,本
件各登録商標の指定商品と同一又は類似の商品である被告オリジナル商品の
販売により,本件商標権侵害と相当因果関係のある損害が発生したというこ
とができる。
なお,被告オリジナル商品以外の売上げについては,その商品の内容が不
明であり,仮に,これらの販売が,被告標章1の使用のもとに行われていた
としても,全ての商品の販売について,損害の発生を認めることはできず,
その損害額については,後記(4)及び(5)のとおり算定すべきである。
(3)ウェブサイト以外における被告各商品の販売による損害の発生
これに対し,被告各ウェブサイトで販売した以外の被告各商品について検
討すると,フットサルコート事業者が主催する大会において優勝商品等とし
て格安で販売している商品について,本件各登録商標の指定商品との誤認混
同が生じたとか,この販売により原告に損害が発生したとは認めがたいとい
うべきである。被告の社内従業員向けに販売したものについても同様である
から,これらの商品について法38条2項を適用することはできない。
上述した事情からすると,ウェブサイト以外における被告各商品の販売に
よって,原告に損害が発生したとは認めがたいから,法38条3項を適用す
ることもできないというべきである。
したがって,以下,被告各ウェブサイトで販売された被告各商品に係る原
告の損害について検討する。
(4)主位的請求原因(法38条2項)について
ア被告各ウェブサイトにおける販売利益
被告は,販売利益を算定するための資料について,平成19年9月分か
ら平成22年8月分までを開示したから,権利侵害期間(平成18年7月
27日~平成23年12月14日)における被告の販売利益については,
上記開示された期間における被告の利益から推計することとする。
(ア)被告各ウェブサイトにおける売上げ(平成19年9月分~平成22年
8月分)
証拠(乙20ないし78〔枝番省略〕)及び弁論の全趣旨によれば,被
告の平成19年9月分から平成22年8月分までの間のフットサル事業
全体に係る売上げ,費用及び収益については,別紙計算表のとおりであ
ると認めることができる。
このうち被告各ウェブサイトにおける売上合計額は,1億8353万
8411円であり,それ以外の売上合計額は,3942万5302円で
あるから,売上合計額に被告各ウェブサイトにおける売上げが占める割
合は,約82%である。
〔計算式〕183,538,411÷(183,538,411+39,425,302)≒0.82
なお,返品分が30万3613円あることから,売上合計額は併せて
2億2266万0100円である。
〔計算式〕183,538,411+39,425,302-303,613=222,660,100
そうすると,返品分を考慮した被告各ウェブサイトにおける売上合計
額は,1億8328万5455円となる。
〔計算式〕各月:(全体売上-返品)×ウェブサイト売上/全体売上
(イ)被告各ウェブサイトにおける販売利益(平成19年9月から平成22
年8月までの1か月平均額)
この期間における仕入れ等の費用は,合計1億4306万4161円
であり,その余の費用は合計2506万9327円であるから,この期
間における被告の利益は合計5452万6612円である。
〔計算式〕222,660,100-143,064,161-25,069,327=54,526,612
これに,被告各ウェブサイトの売上げが占める割合である82%を乗
じると,上記ウェブサイトにおける上記期間中の利益は合計4471万
1821円となり,これを36か月で除した124万1995円が,上
記ウェブサイトにおける販売により,被告が得た1か月当たりの利益と
推定される。
〔計算式〕54,526,612×0.82=44,711,821
44,711,821÷36=1,241,995
(ウ)被告オリジナル商品とそれ以外の商品(他社商品)について
前記(2)のとおり,被告は,被告各ウェブサイトにおいて,被告各商
品の販売に関し,被告標章1を表示しているところ,これは同商標の使
用に当たる。
したがって,被告標章1及び2を使用していない被告オリジナル商品
の販売についても,本件商標権侵害と相当因果関係のある損害であると
いうことができる。
これに対し,被告各ウェブサイトにおける売上げのうち,他社商品の
内容や販売数量の内訳は不明であり,被告各ウェブサイトにおいて被告
標章1を表示して商品の販売をしているとしても,被告オリジナル商品
以外の商品の販売についてまで,法38条2項を適用することはできな
いというべきである(他社商品のなかには,靴もあるが,これらの販売
が本件商標権侵害ということはできない)。
(エ)被告オリジナル商品の販売利益(平成19年9月から平成22年8月
までの1か月平均額)
別紙計算表のとおり,平成19年9月分から平成22年8月までの間
における,被告各ウェブサイトのうち楽天のサイトに係る被告の事業全
体における売上げ(合計:1億9442万8493円)と被告オリジナ
ル商品の売上げ(合計:5545万0216円)は,別紙計算表のとお
りである。
そうすると,この期間における,被告各ウェブサイトにおける売上げ
のうち,被告オリジナル商品の売上げの割合は,平均28.51%と推定
できる。
したがって,被告各ウェブサイトにおける被告オリジナル商品の販売
による利益のうち,平成19年9月から平成22年8月までの間におけ
る1か月平均は,35万4092円となる。
〔計算式〕1,241,995×0.2851=354,092
(オ)平成18年7月27日から平成23年12月14日までの被告各ウェ
ブサイトにおける被告オリジナル商品の販売利益
そうすると,被告各ウェブサイトにおける被告オリジナル商品の販売
による利益は,平成18年7月27日から平成22年9月11日までに
ついては1753万7453円,平成22年9月12日から平成23年
12月14日までについては534万1458円と推定することが可能
である。
〔計算式〕354,092×(5÷31+49+11÷30)=17,537,453
354,092×(19÷30+14+14÷31)=5,341,458
イ法38条2項の適用の可否
被告は,原告が,本件各登録商標を自己使用していないから,法38条
2項の適用を求めることはできないと主張する。
しかし,甲15によると,原告は,本件登録商標2を使用していると認
めることができる(2段表記をそのまま使用しているわけではないが,法
38条2項の適用を求める前提としての使用を満たしているというべきで
ある。)。
また,被告は,被告各商品が,原告が販売する商品と用途用法及び需要
者層において異なり,被告各商品の顧客吸引力は,本件各登録商標による
ものではないから,原告に逸失利益が発生していないと主張する。
しかし,前提事実(3)及び証拠(甲14,15),弁論の全趣旨によると,
原告は,被告オリジナル商品と同じ種類の衣類を,被告と同様ウェブサイ
ト上で販売していることが認められる。
さらに,被告がウェブサイト上で販売していることに照らすと,被告オ
リジナル商品が,フットサル愛好者によって競技や練習にのみ用いられる
とは限られないというべきである。
したがって,原告は,被告がウェブサイト上で被告オリジナル商品を販
売することにより,損害を被っているということができる。
ウ被告標章1及び2の寄与率
商標権侵害があった場合,侵害品と商標権者の商品との間には,必ずし
も性能や効用において同一性が存在するとは限らない。法38条2項の適
用に当たっては,商標権者である原告の販売する商品と被告各商品の類似
の程度や,顧客層や流通経路の違い等を総合的に勘案して判断すべきであ
る。
証拠(甲15)によれば,前記イのとおり,原告は,被告オリジナル商
品と性能や効用において共通性を有する商品を販売しているということが
できる。
他方において,被告各商品の需要者の多くは,フットサル競技者・愛好
者であると考えられる上(弁論の全趣旨),証拠(乙17の1・2)によれ
ば,原告が,サッカー関連用品の販売を開始したのは平成22年1月ころ
に過ぎない。
以上によると,本件において,被告が,被告各ウェブサイトにおいて,
被告オリジナル商品を販売したことにより得た利益についての被告標章1
及び2の寄与率は,20%と認めるのが相当である。
エ被告各ウェブサイトにおける本件商標権侵害による損害
以上を総合すると,被告各ウェブサイトにおける本件商標権侵害と相当
因果関係のある損害は,平成18年7月27日から平成22年9月11日
までについては350万7490円,平成22年9月12日から平成23
年12月14日までについては106万8291円と認めるのが相当であ
る。
〔計算式〕17,537,453×0.2=3,507,490
5,341,458×0.2=1,068,291
(5)予備的請求原因(法38条3項)について
ア法38条3項の適用の可否
前記(2)のとおり,被告は,被告各ウェブサイトにおいて,被告オリジ
ナル商品の販売に関し,被告標章1を表示しているところ,これは上記商
標の使用に当たるから,被告各ウェブサイトにおける販売のうち被告オリ
ジナル商品の販売は,本件商標権侵害と相当因果関係のある損害の算定の
根拠とすることができる。
したがって,法38条3項所定の「その登録商標の使用に対し受けるべ
き金銭の額に相当する額の金銭」を算定するに当たっては,各ウェブサイ
トにおいて販売された被告オリジナル商品の売上総額に相当な使用料率を
乗じるのが相当である。
なお,被告は,本件各登録商標には顧客吸引力が全くない旨主張し,そ
の理由として原告が本件各登録商標を使用していない旨主張する。しかし
ながら,証拠(甲15)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件各登録
商標と同一ないし類似する商標を付した商品を,全国で店舗販売し,イン
ターネットでも販売していることが認められることなどからすれば,相応
の顧客誘引力を有するものと認めることができる。
イ被告各ウェブサイトにおける被告オリジナル商品の売上高について
(ア)被告各ウェブサイトにおける売上高
前記(4)アのとおり,被告の平成19年9月分から平成22年8月分
までの間のフットサル事業全体に係る売上げ,費用及び収益については,
別紙計算表のとおりであり,このうち被告各ウェブサイトにおける売上
合計額は,1億8328万5455円となる。
これを36か月で除した509万1262円が1か月当たりの売上額
である。
〔計算式〕183,285,455÷36=5,091,262
そうすると,被告の行為に係る売上額は,平成18年7月27日から
平成22年9月11日までについては合計2億5215万9805円,
平成22年9月12日から平成23年12月14日までについては合計
7680万1413円と推定される。
〔計算式〕5,091,262×(5÷31+49+11÷30)=252,159,805
5,091,262×(19÷30+14+14÷31)=76,801,413
(イ)被告各ウェブサイトにおける被告オリジナル商品の売上げ
前記(4)ア(エ)のとおり,平成19年9月分から平成22年8月分まで
の間における,被告各ウェブサイトのうち楽天のサイトにおいて,被告
オリジナル商品の売上げは,同サイトにおける被告の売上全体の28.
51%であった。
したがって,被告各ウェブサイトにおける被告オリジナル商品の売上
高は,平成18年7月27日から平成22年9月11日までについては
7189万0760円,平成22年9月12日から平成23年12月1
4日までについては2189万6082円と推定される。
〔計算式〕252,159,805×0.2851=71,890,760
76,801,413×0.2851=21,896,082
ウ使用料率
前記イのとおり,本件各登録商標が相応の顧客誘引力を有するものと認
められることに加え,被告が,被告各ウェブサイトにおいて,被告標章1
を付して被告各商品を販売していることなどからすれば,本件各登録商標
の使用が被告の売上げに貢献した程度は少なくないと考えられる。
その他一切の事情を考慮すれば,本件では,本件各登録商標の使用料率
を3%と認めるのが相当である。
したがって,被告各ウェブサイトにおける被告オリジナル商品の販売に
ついて,商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭は,平
成18年7月27日から平成22年9月11日までについては215万6
722円,平成22年9月12日から平成23年12月14日までについ
ては65万6882円と認めることができる。
以上によると,上記金額より高額である,38条2項による算定の結果
を採用することとする。
(6)弁護士費用
弁護士費用のうち,前記(4)の損害合計457万5781円の約1割に相
当する50万円について,本件と相当因果関係のある損害と認める。
なお,遅延損害金の計算に当たっては,これを前記(4)の各損害割合に応
じて38万円と12万円に分割し,割り付けることとする。
〔計算式〕3,507,490+380,000=3,887,490
1,068,291+120,000=1,188,291
8争点8(消滅時効の成否)について
(1)被告は,原告が,遅くとも平成18年7月27日ころまでには被告の行為
について認識していた旨主張し,その根拠として以下の事情を挙げている。
ア原告代表者は,平成11年10月20日,第三者から本件各登録商標を
譲り受け,平成18年7月27日,原告に譲渡した。
したがって,原告代表者は,平成12年ころから,商標管理として自己
の有する商標を第三者が使用していないか確認していたはずである。
イ被告は,平成17年から,インターネット上のショッピングサイトで被
告各商品を販売しており,別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイトで
は,同年11月4日に,被告各商品に関する最初のレビューが書かれ,そ
の後コンスタントにレビューが記載され,現在では835件に上っている。
原告は,遅くとも,本件各登録商標に関する移転登録をした平成18年
7月27日前後に,インターネットで「SAMURAI」のキーワードを検索
したはずであるから,そのころ上記の点についても認識したはずである。
(2)そこで検討すると,上記被告の主張は,いずれも単なる推測にすぎないと
いうべきであって,被告が挙げる上記(1)の事情により,原告が,遅くとも
平成18年7月27日ころまでに被告の行為を認識していたなどと推認する
ことはできないし,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
かえって,甲17によれば,原告の従業員は,平成21年10月23日こ
ろ,被告各商品が販売されていることを知り,直ちに弁理士に商標権侵害の
有無について相談したことが認められる。
9結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件請求は主文の
限度で理由があり,その余の部分には理由がないから,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田陽三
裁判官松川充康
裁判官西田昌吾
(別紙)
標章目録




samurai
(別紙)
被告商品目録
ポロシャツ,Tシャツ,ロンTEE,ノースリーブシャツ,プラクティスシャツ
(プラシャツ),プラクティスセット(プラセット),ロングプラクティスシャツ(ロ
ンプラ),プラクティスパンツ(プラパン),スウェット,ネックウォーマー,ロン
グインナーシャツ,ロングインナー,インナーシャツ,ロングインナーパンツ,イ
ンナーパンツ,アンダーウォーマーパンツ,アンダーウォーマー,ロングスパッツ,
ハーフピステ,ボクサーパンツ,ユニフォーム,ビーニー,その他の被服,タオル
(別紙)
ウェブサイト目録
1「http://www.samurai-japan.jp/」のURLにより特定されるインターネット
のウェブページ及び同ドメイン名下において存在する全てのインターネットウェ
ブページ
2「http://www.rakuten.ne.jp/gold/samurai-japan/」のURLにより特定される
インターネットのウェブページ及び同ドメイン名下において存在する全てのイン
ターネットウェブページ
(別紙)
商標目録


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