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裁判例


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         主    文
     原判決中被告人A1に関する有罪部分を破棄する。
     被告人A1を懲役七年に処する。
     押収に係る実砲四発装填の九四式拳銃壱挺(証第十七号の一、二、)
(証第二十号の弾倉一個を含む)実包拾八発(証第十八号)は被告人A1から之を
没収する。
     原審に於ける訴訟費用中証人B1(第五、六回)同B2、同B3に支給
したものの弐分の壱、及鑑定人C、同D、同E、同F、同G、通訳人H(第八
回)、証人B4、同B5、同B6、同B7、同B8、同B9、同B10、同B1
1、同B12、同B13、同B14、同B15、同B16、同B17(第七、第八
回)同B18、同B19、同B20、同B21、同B22、同B23、同B24、
同B25、同B26、同B27、同B28に支給したものの全部は被告人A1と原
審相被告人A2との連帯負担とし、通訳人H(第十三、十四回)、証人B29、同
B30、同B31、同B32、同B33、同B34、同B35、同B36、同B3
7、同B38、同B39、同B40に支給したものは全部被告人A1の負担とす
る。
     原判決中被告人A1の無罪部分及其の余の各被告人に対する検事の本件
控訴並被告人A3、同A4、同A5、同A6を除く其の余の各被告人の本件控訴は
何れも之を棄却する。
         理    由
 本件各控訴の趣意は記録編綴の検事津秋午郎、及被告人A2、A7、A8、A9
の弁護人高橋武夫、被告人A10、A11、A12、A13の弁護人椢原隆一、被
告人A1、A14、A15、A16、A17の弁護人原田香留夫、竝被告人A3、
A4、A5、A6を除く其の余の各被告人の夫々提出に係る控訴趣意書に記載して
ある通りであるから之を茲に引用する。
 之に対する当裁判所の判断は次の通りである。
 検事の論旨第一点(擬律の錯誤)に付
 (一) 本件火焔瓶が爆発物取締罰則に所謂爆発物に該当するか否かに関する判

 原判決が本件火焔瓶の構造、装置、作用、威力に関し論旨摘録の様に認定判示し
て居ることは所論の通りである。而して爆発物取締罰則に所謂爆発物に付所論の大
審院判例は「化学的其の他の原因に依つて急激なる燃焼爆発の作用を惹起し、以て
公共の平和を攪乱し又は人の身体、財産を傷害損壊し得へき薬品其の他の資料を調
和配合して製出せる固形物若くは液体を指称する」と判示して居り、原判決は「燃
焼の有無を間はず化学的其の他の原因により爆発の作用を惹起し、右作用により公
共の平和を攪乱し又は人の身体財産を傷害損壊し得るように薬品其の他の資料を調
和配合して製出した固形物若しくは液体であつて、自然に爆発作用を起すと他の物
との衝突摩擦により爆発するとを問はず、其の中に爆発を惹起し得る様な装置の存
在するもの」と判示して居る。よつて先ず爆発とは如何なる現象を指称するもので
あるかを考察するに、原審鑑定人C作成の鑑定書に依れば「化学変化に因り原容積
に比して非常に多量の且莫大なエネルギー(熱)により極度に膨張したガスが急激
に発生すること」を爆発と指称し、原審鑑定人F、G共同作成に係る鑑定書に依れ
ば「燃焼物が燃焼する際に其の熱の発生速度が熱の逸散速度を凌駕し、其の速度が
非常に大きくなつた場合を即非定常燃焼乃至爆発といい、其の際常に多量の気体又
は蒸気を発生し、其の気体は急に高い温度に熱せられる結果、急激な熱膨張を行つ
て、周囲のものに強い圧力を及ぼし、各空気を急に振動せしめて所謂爆音を発生せ
しめる」と記載してあり、之を要するに爆発とは一般的に或る物体の体積が急激迅
速に増大する現象をいい、理化学的には或る物質が化学変化を起して発生速度が逸
散速度を非常に大きく凌駕した速度で一時に多量の熱及ガスを発生し、体積の急激
な増大を来す現象を指称するものと解すべく、従て理化学上爆発物とはかかる現象
を惹起する様な不安定な平衡状態に於て結合して居る物体を指称するものというべ
きである。
 しからば右の様な理化学上爆発物と指称することが出来るものは総て爆発物取締
罰則に所謂爆発物と解すべきであろうか。
 爆発物取締罰則第一条には治安を妨げ又は人の身体財産を害せんとする目的で爆
発物を使用し又は使用せしめた者は、たとえ現実に治安を妨げ又は人の身体財産を
害しなくても、或は其の爆発物が現実に爆発しなくても(大正七年五月二十四日大
審院判決参照)其の犯人は一律に死刑、無期、若くは七年以上の懲役又は禁錮に処
する旨規定して居る外、同罰則は其の予備的諸行為に対しても三年以上十年以下の
懲役又は禁錮に処し(第三条、第五条)爆発物を所持して居る者に対しては右第一
条所定の犯罪目的を有しないものであることの挙証責任を負わしめ、之を証明する
ことが出来ない場合には六月以上五年以下の懲役に処し(第六条)爆発物に関する
犯罪を発見しながら警察官吏又は危害を蒙る虞のある人に告知しないときは五年以
下の懲役又は禁錮に処す(第八条)る等定めて、刑法に定むる類似の犯罰に対する
刑罰(例えば刑法第一一七条、第一〇三条、第一〇四条、第一一三条、第二〇一条
等参照)に比較して極めて重い刑罰を以て臨んで居り、右罰則の制定せられた当時
内閣から発表せられた「爆発物取締罰則説明」には「爆発物とは火薬類取締規則に
規定せられている火薬剤、発火薬から成立つているものであつて、激動、摩擦又は
導火の作用によつて直ちに爆発するものをいい、其の使用如何に依り社会公共に大
きな危害を与えるので之を取締る為に制定せられたものである」旨解説して居る。
之等の点から考察すると、もとより右罰則が今から六十数年前の明治十七年に制定
せられた法規であり、法の解釈も社会の進歩発展に対応して合理的に解釈運用すべ
きものであるから、其の制定当時内閣が解説して居る様に、右罰則に所謂爆発物と
は火薬を成分とするものに限ると極めて狭義に解釈すべきものでないことは所論の
通りであるけれども、それかといつて、之を極めて広義に解して、いやしくも理化
学上の所謂爆発物は総て右罰則に所謂爆発物に該当するものと為すことは失当であ
ることは明かであつて、(例えば塩素酸加里、硫黄、燐、有機物等を混じて製作し
た玩具の花火やマッチの類も理化学上所謂爆発物に該当するものであることは前記
各鑑定書原審鑑定人B22作成の昭和二十七年八月十日附鑑定書に依り明らかであ
るが、之等を右罰則に所謂爆発物であるとして取締の対象とする価値があるものと
は河人も考えないであろう。)結局爆発物取締罰則の目的が社会公共に甚大な危害
を与える可能性の極めて大なる爆発物を未然に捜査発見して之を厳重に取締ると共
に、右の様な爆発物を使用し又は使用せしめた者、或は其の使用に便宜を与えた者
等に対しては、実害の発生したと否とを問わず、等しく厳罰に処することにより公
共の安全を確保せんとしたものであると解せられるところからして其の取締の対象
である所謂爆発物の範囲も、公共の平和を攪乱し人の身体財産に<要旨第一>危害を
与える可能性が極めて大なる爆発力を有するものに限定すべきものと解するのが相
当である。従て右罰則に所謂爆発物とは理化学上の所謂爆発現象(非定
常燃焼を含む)を惹起するような不安定な平衡状態に於て薬品其の他の資料が結合
して居る物体であつて其の爆発作用自体に因つて公共の安全を攪乱し又は人の身体
財産を傷害損壊するに足る破壊力を有するものをいうと解すべきで、論旨摘録の大
正七年五月二十四日大審院第一刑事部、同年六月五日同院第三刑事部の各判決も之
と其の趣旨を異にするものとは解せられない。
 <要旨第二>よつて本件火焔瓶が右罰則に所謂爆発物に該当するものであるか否か
に付按ずるに、前記C作成の鑑定書、F、G共同作成の鑑定書に依れ
ば、本件火焔瓶の構造、装置、作用、威力等は原判決の判示して居る通りで、瓶中
に入れてある濃硫酸が瓶の破壊に因り流出して瓶の外壁に貼付してある紙に附着せ
しめてある塩素酸加里に触れ、其の結果急激な化学反応が起り塩素ガス、酸素ガス
を発生して発熱発火し、理化学上所謂爆発現象を惹起し因つて瓶中から流出した揮
発油に引火燃焼するに至らしめるものであつて、其の揮発油の発火燃焼の状態は、
開放気中に於ては揮発油が蒸発して稀薄となり、燃焼物が外気に触れる確率が非常
に大であるから、熱の発生速度と逸散速度とが一定の釣合を保つて定常的に進行
し、所謂非定常燃焼乃至爆発という現象を惹起することなく、通常の燃焼を生ずる
に過ぎないことが認められ、濃硫酸と塩素酸加里との化合に因り発生する前記爆発
現象も、塩素酸加里の量が僅少である為、局部的小爆発を惹起し、単に揮発油に点
火する効力を有するだけであつて、其の爆発自体に因つては公共の平和を攪乱し、
人の身体財産を傷害損壊する力のないものであることが明らかである。なるほど本
件火焔瓶は其の必要な資料である揮発油、濃硫酸、塩素酸加里等が密接不可分の関
係に結合せられてあり、其の投擲に依り発生する瓶の破壊、濃硫酸と塩素酸加里と
の化合爆発、揮発油の引火燃焼の各現象も殆ど同時に惹起するものであつて唯単に
揮発油を撒布して然る後マッチ等で之に点火する場合とは異る点があり其の爆発現
象も本件火焔瓶にとつて不可欠の要素であることは所論の通りであるけれども、前
記鑑定書に依り認められる如く、右爆発現象は本件火焔瓶の効力発揮の原動力であ
るに止り、本件火焔瓶の威力、即ち人の身体財産に傷害損壊を蒙らしめるところの
ものは総て揮発油の燃焼力乃至濃硫酸の腐触作用にあるのであり、しかも右揮発油
の燃焼が塩素酸加里と濃硫酸との化合爆発の結果惹起されるということに因り、特
に其の燃焼状態、燃焼力等が異常であるという訳ではなく、通常撒布せられた揮発
油に単にマッチで点火した場合と異るところはないことが明らかであるから、所論
の点を以て本件火焔瓶が罰則に所謂爆発物に該当するものと認める有力な理由とな
すことは出来ない。従て本件火焔瓶は理化学上所謂爆発現象を惹起する作用を具有
するけれども、其の爆発力自体は未だ公共の安全を攪乱し又は人の身体財産を傷害
損壊する力を有せず、前記の通り単にマッチの作用を為して居るに過ぎないもので
あるから、爆発物取締罰則に所謂爆発物に該当しないものというべく、之と同趣旨
に出でた原判決は真に相当であつて、何等所論の様な違法なく、論旨は採用出来な
い。
 (二) 爆発物使用犯人蔵匿罪の構成要件に関する原判決の誤謬の論旨に対する
判断
 原判決が被告人A16に於て原判示第五〇如く被告人A1を安佐地区警察署古市
巡査駐在所に火焔瓶を投入した犯人であることを知り乍ら蔵匿した事実に付、爆発
物使用犯人蔵匿罪を構成し、爆発物取締罰則違反であるとの訴因を排斥した理由と
して、被告人A16が右火焔瓶を爆発物取締罰則第一条に所謂爆発物に該当するも
のであるとの認識を有して居たものと認むべぎ証拠はないと説示して居ることは所
論の通りであるが、原判決は原判文に依り明らかな様に右の理由のみによつて之を
排斥して居るものではなくして、本件火焔瓶が右罰則に所謂爆発物には該当しない
ものであると説示して居り尚其の上被告人A16に於ても所謂火焔瓶たるものが右
罰則に所謂爆発物に該当するものであるとの認識を有して居たと認める証拠はない
と説示して居るのであるから、原判決に所論の様な法令の適用を誤つた違法がある
ものということは出来ない。論旨は理由がない。よつて論旨第一点の擬律の錯誤の
所論は総て理由がない。
 検事の論旨第二点(事実誤認)に付
 (一) 被告人A3、A2、A1に対する逃走罪に関する所論に付按ずるに、刑
法第九七条第九八条に所謂逃走とは所定の者が故意に監督者看守者等の監督支配を
離脱することをいうものであるから、逃走罪が成立する為には逃走する意思の外に
支配を離脱する所為を必要とするものであるところ、原審に於て此の点に関する証
拠として取り調べたものの中には、論旨摘録の様な右訴因を肯認することが出来る
かの様な資料も存するけれども、証拠の取捨判断は原審の自由裁量に属するところ
であつて、原判決が此の点に関し適切に判示して居る様に右資料は其の他の諸々の
証拠に照してたやすく之を採用することが出来ないのみならず、原審に現して居る
証拠を綜合すると右被告人等には自ら看守者の支配を離脱せんとする所為が存しな
かつたものと認めるのを相当とするから、仮令同被告人等が逃亡せんとする意欲が
あつたにもせよ、未だ逃走罪は成立しないものといわなければならない。而して被
拘禁者奪取罪に所謂奪取とは被拘禁者を看守者の支配内から離脱せしめて之を自己
又は第三者の支配内に移すことをいうものであるから、右被告人等が他の者等の手
に依つて原判示の様に広島地方裁判所第二号法廷外に運び出された以上、其の時既
に右被告人等は看守者の実力的支配から離脱したものであつて所謂右被告人等の奪
取は之を以て完成したものというべく、従て其の後に於て右被告人等が自ら裁判所
構外に逃走した所為があつたにしても、其の所為に対しては最早逃走罪を以て間擬
すべきものでないことは原判決の判示する通りで、原判決が右被告人等に対する逃
走罪の訴因に付無罪の言渡をしたのは真に相当で、此の点に関し原判決には何等所
論の様な違法はない。
 (二) 被告人A6に対する放火、同未遂の予備的訴因に関する論旨に付按ずる

 原判決が証第二十七号の「報告書広島県民対」なる書面に付論旨摘録の様に伝聞
証拠であるとして其の部分の証拠能力を否定する旨判示し、其の証拠能力を排除す
るに付て刑事訴訟規則第二百七条に基く排除決定をして居ないこと右書面は原審公
判廷に於て検察官より証拠物中書面の意義が証拠となるもので特に信用すべき情況
の下に作成さしたところの刑事訴訟法第三百二十三条第三号に該当する書面である
として其の証拠調を請求し、原審は其の請求を容れて之が証拠調を為したものであ
ること、同様各号に該当する書面は所謂伝聞法則の適用のないものであることは所
論の通りである。併し刑事訴訟法第三百二十三条第三号に該当する書面は同条第
一、第二号所定の公文書、業務文書と同程度に作為意図を欠いて居るか、作為意図
の介入する余地の少いものと認められる様な特に信用すべき情況の下に作成せられ
た所謂信用性の情況的保証が認められる書面であることを要するものと解するとこ
ろ右「報告書広島県民対」なる書面は其の書面自体に依るも原審に於ける証拠調の
結果に依るも何人の作成記載したものであるかを確定し難く其の形式、記載内容等
を精細に検討すわば到底信用性の情況的保証が認められる書面であるということは
出来ないから、刑事訴訟法第三百二十三条第三号の書面に該当しないものと認めざ
るを得ない。従て右書面の記載内容に付ては所謂伝聞禁止の法則の適用があるもの
と解すべきところ、右書面の記載中被告人A6に対する放火未遂の訴因に付証拠と
なる部分は、原判決の判示する通り伝聞に属するものと認めるのを相当とするか
ら、其の記載部分は被告人に於て同意しない以上之を証拠とすることは出来ないも
のといわなければならぬ。
 而して証拠の排除決定は刑事訴訟規則第二百七条に規定して居る通り、必ずしも
判決前に決定で之をしなければならぬという訳ではなく、判決中に於て其の旨を説
示しても何等違法とはいわれない。従て原審が右書面中被告人A6に対する右訴因
の資料となるべき部分に付証拠能力がないものとし、其の旨を判決理由中に於て説
示して居ることは何等違法ではなく、右部分を除外すれば他の証拠に依つては、右
訴因を認定するに足る証拠は存しないのみならず仮に右「報告書広島県民対」なる
書面が証拠能力があるものとして之を他の証拠と綜合して考察しても、原判決の説
示する様に直ちに右訴因を認めるに十分であるということは出来ないから、原審が
被告人A6に対する右訴因に付無罪を言渡したのは相当で、原判決には何等所論の
様な事実誤認はない。諭旨は総て理由がない。
 (三) 被告人A5、同A13、同A4に対する被拘禁者奪取の訴因に関する所
論に付按ずるに、本件被拘禁者奪取の通謀成立の時期は必ずしも判然としないが、
原判決が原判示第四の被拘禁者奪取の事実を認めた証拠として挙示して居る各証拠
及其の各証拠に依り之を認定した理由として説示して居るところを綜合すれば、原
判示の様に右通謀は勾留理由開示手続の開廷中であつて閉廷に近い頃に行われたも
のと認定するのを相当とすべく、所論の各事実を考察しても未だ原審の右認定が誤
認であると断定することは出来ない。而して更に右証拠に依り認められる事実や原
判決が右被告人等に対する被拘禁者奪取の訴因に付無罪と認定した理由として説示
して居るところを考察すると、所論の様な点を勘案しても、原審が右被告人等に対
し本件被拘禁者奪取の犯行に加担した証拠が十分でないとして無罪の言渡しをして
居るのは相当であつて、未だ所論の様に事実を誤認したものとすることは出来な
い。論旨は理由がない。
 従て論旨第二点の事実誤認の所論は総て理由がない。
 被告人A2、同A7、同A8、同A9の弁護人高橋武夫、被告人A10、同A1
1、同A12、同A13の弁護人椢原隆一、被告人A1、同A14、同A15、同
A16、同A17の弁護人原田香留夫、及右各被告人の事実誤認採証法則違背の論
旨に付
 我刑事訴訟法は証拠に関して所謂自由心証の原則を採用し、証拠の価値判断を裁
判所の自由確信に一任して居ると共に、事実を認定するに当つても必ずしも直接証
拠のみに依らなければならない訳ではなく、法律上規定する制限に反しない限り間
接証拠であると情況証拠であるとを問わず、事実認定の資料とすることを防げるも
のではない。而して原判決が各被告人に対する原判示事実を認定した証拠として挙
示して居るところのもの竝其の証拠に依り之を認定した理由として説示して居ると
ころを綜合すれば、原判示事実は総て之を認めることが出来るところであり、所論
の様な採証法則の違背や事実誤認の違法等は認められない。所論は夫々独自の見解
や、原判決の採用しなかつた証拠に基いて原審の事実認定を論難し又は原審の証拠
の取捨判断を攻撃するものであつて採用することは出来ない。論旨は何れも理由が
ない。
 原田弁護人の破告人A1の放火、放火未遂、脅迫の事実に関する法令適用の誤り
の論旨に付
 共同正犯とは犯罪の構成要件である実行行為の全部又は一部を分担した者のみを
いうのではなくして、数人共同して犯罪の実行を謀議し共謀者中の或者をして実行
の任に当らしめ、之をして他の者に代り犯罪の意思を遂行せしめた者、亦共同正犯
の罪責を負担すベきものである。従て被告人A1に於て右犯罪の実行行為を分担し
なかつた部分があつたにしても、共謀の事実が認定出来る以上他の共謀者の実行し
た犯罪に付ても其の責任を負担するのは当然であつて、原審が之に対して刑法第六
十条を適用処断して居るのは相当で、何等所論の様な違法は存しない。論旨は理由
がない。
 高橋弁護人の被告人A8、同A7、椢原弁護人の被告人A13、原田弁護人の被
告人A14、同A15、同A17の各公務執行妨害罪に関する擬律錯誤、理由不備
の論旨に付
 公務執行妨害罪は公務員が其の職務を執行する際に、其のことを知り乍ら公務員
に対して職務執行の妨害となるべき暴行又は脅迫を加えることに依つて成立するも
のであつて、夫に依つて現に職務の執行を妨害した結果を生ぜしめたか否か、犯人
に於て其の結果の発生を意図して居たか否かということは、何等同罪の成否に影響
を及ぼすものではないから、仮に所論の様に右被告人等の原判示の様な所為に因り
職務の執行が妨害されなかつたとしても、又右被告人等に公務の執行を妨害せんと
する意図がなかつたとしても原判決に挙示してある証拠に依り明らかな様に被告人
等に於て共同して拘置所看守、検察事務官、警察吏員等が職務を執行するに際し之
に対して暴行又は脅迫を加えた以上公務執行妨害罪が成立することは当然であると
共に、拘置所看守、検察事務官、警察吏員等が裁判所の法廷内に於て被拘禁者を奪
取せられんとして居ることを知り之が戒護応援又は警備の為右法廷内に入らんとす
ることは、当然其の職務の範囲内に属するところであつて、所論の様に其の際既に
被拘禁者は奪取せられて法廷内に居なかつたとしても、之を以て右行為が其の職務
の範囲外の行為となるものではないから、原判決が右被告人等の原判示所為に対し
夫々刑法第九十五条を適用したのは真に相当で、何等所論の様な違法は存しない。
論旨は何れも理由がない。
 原田弁護人の被告人A14、同A17、同A15、同A16の被拘禁者奪取罪に
対する理由不備、理由そご、擬律錯誤の論旨に付
 法令に因り拘禁せられた者を如何なる方法に依るとを問わず奪取した以上は刑法
第九十九条の奪取罪が成立するものであつて、原判決挙示の証拠に依れば右被告人
等の原判示奪取の事実を認めるに十分であるから、原判決が之に対し右刑法第九十
九条を適用したのは当然であつて、何等所論の様な違法はない。論旨は理由がな
い。
 高橋弁護人及被告人A7の同被告人の精神状態に関する論旨に付
 併し心神の状態が如何なる状態にあつたかを判定するには必ずしも専門家の鑑定
に依らなければならないものではなく、諸種の証拠に依り裁判官の自由なる心証に
基き之を認定するも何等採証の法則に違背するものではない。而して原判決はその
挙示する証拠に基き被告人A7の本件犯行当時の精神状態が喪失又は耗弱の状態に
あつたとの主張を採用しなかつたものであつて、右証拠に依れば原審の判定を肯認
するに十分であるから、原審には所論の様な審理不尽採証法則違背、事実誤認の違
法はない。論旨は理由がない。
 原田弁護人の銃砲刀剣類等所持取締令及外国人登録令は憲法に違反する法令であ
るとの論旨に付
 銃砲刀剣類等所持取締令及外国人登録令が何れも昭和二十年勅令第五百四十二号
「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件」に基いて発せらした法令であ
ることは所論の通りである。然し右勅令第五百四十二号が合憲有効のものであるこ
とは、既に最高裁判所判決(昭和二十二年(れ)第二七九号、昭和二十三年六月二
十三日大法廷判決参照)の判示して居るところであり、右勅令が昭和二十七年法律
第八十一号「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法
律」に基き平和条約発効日を以て廃止せらるるに当り、右勅令に基く銃砲刀剣類等
所持取締令の効力に関し平和条約発効日後も法律としその効力を有する旨を規定し
た昭和二十七年法律第十三号「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に
基く警察関係命令の措置に関する法律」も何等夫自体憲法に違反するものでないこ
とは明らかであり又昭和二十七年四月二十八日同年法律第百二十五号外国人登録法
により平和条約発効日を以て外国人登録令は廃止せらるると共に右法律第百二十五
号施行前にした行為に対する罰則の適用についてはなお、従前の例による旨を規定
したことそれ自体も違憲でないことは論を俟たぬところであるから、右昭和二十年
勅令隼五百四十二号及右昭和二十七年法律第十三号が違憲無効の法令であることを
前提とする銃砲刀剣類等所持取締令及外国人登録令の無効の所論は理由がない。而
して右銃砲刀剣類等所持取締令及外国人登録令夫自体が憲法に違反するものである
か否かを按ずるに、銃砲刀剣類等所持取締令は敗戦後連合国軍に占領せられて居た
当時の我国の社会情勢の下に、連合国最高司令官の命令に基き同令第二条但書所定
の場合其他正当の理由がない限り銃砲刀剣類の所持を禁じたものであり、平和条約
発効後の今日の我国の社会情勢に於ても、未だ銃砲刀剣類の所持を放任することが
出来ない状態にあるので、公共の平和安全を保護する必要上尚右取締令を存続せし
めて居るものであつて、所論の憲法第二十九条の財産権も絶対的に之を侵してはな
らないものではなく、同条第二、第三項においても財産権の内容は公共の福祉に適
合する様に法律で之を定めると共に、正当な補償の下に之を公共の為に用いること
が出来る旨規定し、公共の福祉の為には之を制限することが出来ることを明にして
居るところであるから、右取締令が公共の福祉の為に法定の場合を除き銃砲刀剣類
の所持を禁止したからといつて、何等憲法の条規に違反するものではない。又外国
人登録令も、外国人の入国に関する措置を適切に実施し且外国人に対する諸般の取
扱の適正を期する為に制定せらしたものであつて、其の規定するところに於て何等
所論の様な人類平等の権利を害すると認めらしる様な条項もなく憲法に違反するも
のとは認められない。仮に所論の様に其の運用の面に於て適切妥当を欠く点がある
にしても、夫を以て右法令自体が憲法に違反することの理由とは為し難い。論旨は
総て理由がない。
 検事の論旨第三点(量刑不当)及原田弁護人竝椢原弁護人の被告人A10、同A
11、同A12、同A13、同A1、同A14、同A15、同A16、同A17に
対する各量刑不当の論旨に付
 記録及原審が取り調べた証拠に依り諸般の事情を調査し、本件犯行の態様、一般
社会に与えた影響、被告人等の経歴等を考量し、検事及弁護人の各所論を勘案する
に、被告人等は何れも自己の主張慾望を暴力を以て達成せんとし、被告人A2、A
1に於ては社会の治安維持の任にある職員に対する報復の為に危険な火焔瓶を使用
して放火の罪を犯したり、其の余の被告人等に於ては多数の者と共同の上卒先して
法令に基き拘禁されて居る者を我が裁判史上未だ例なき、裁判所の法廷に於て看守
者に対して暴行脅迫を加えて奪取したり等したものであつて、検事所論の通り法治
国家に於ては軽視することの出来ない重大な犯罪を敢行したものといわなければな
らないから、弁護人の主張する様に所論の各被告人等に対する原審の量刑が何れも
不当に重いものと認めることは出来ないが、夫かといつて検事の主張する様に被告
人A1を除く其の他の所論の各被告人等に対する原審の量刑が、原判決を破棄しな
ければならない程何れも不当に軽すぎるものともいうことは出来ない。
 併し被告人A1に対する原審の量刑は、同被告人の罪数、犯罪の態様等を斟酌し
ながら他の被告人等に対する量刑と比較するときは、検事所論の様に軽すぎるもの
と認めざるを得ない。従て弁護人の論旨は総て理由がなく、検事の被告人A1を除
くその余の被告人に対する論旨は理由がないが、被告人A1に対する論旨は理由が
ある。
 右の様な理由に依り検事の申立てた被告人A1の無罪部分及其の余の各被告人に
対する本件各控訴竝被告人A3、A4、A5、A6を除く其の余の各被告人の申立
てた本件控訴は何れも理由がないので、刑事訴訟法第三百九十六条に従い之を棄却
すべきものとし、被告人A1の有罪部分に対する検事の本件控訴は理由があるの
で、同法第三百九十七条に依り原判決中同被告人の有罪部分を破棄し、同法第四百
条但書に則り当裁判所に於て次の通り判決する。
 原判決の認定した被告人A1に関する犯罪事実を法律に照すと、放火の点は刑法
第百八条第六十条に、放火未遂の点は同法第百十二条第百八条第六十条に、脅迫の
点は同法第二百二十二条第一項罰金等臨時措置法第二条第三条刑法第六十条に、傷
害の点は同法第二百四条罰金等臨時措置法第二条第三条に、銃砲刀剣類等所持取締
令違反の点は昭和二十年法律第十三号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関す
る件に基く警察関係諸命令の措置に関する法律、銃砲刀剣類等所持取締令第二十六
条第一号第二条罰金等臨時措置法第二条に、火薬類取締法違反の点は同法第五十九
条第二号第二十一条罰金等臨時措置法第二条に、外国人登録令違反の点は外国人登
録法附則第三項、旧外国人登録令第十三条第一号第七条第一項罰金等臨時措置法第
二条に夫々該当するところ、右銃砲刀剣類等所持取締令違反と火薬類取締法違反は
一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段
第十条により重い銃砲刀剣類等所持取締令違又罪の刑に従い、以上は刑法第四十五
条前段の併合罪であるから、放火、同未遂罪に付ては所定刑中有期懲役刑を、脅
迫、傷害、銃砲刀剣類等所持取締令違反及外国人登録令違反の各罪に付ては所定刑
中懲役刑を選択し、同法第四十七条第十条に則り最も重い放火罪の刑に同法第十四
条の制限に従つて併合罪の加重をした刑期範囲内で、同被告人を懲役七年に処すべ
きものとし、主文第二項記の物件は右銃砲刀剣類等所持取締令違反罪及火薬類取締
法違反罪の組成物件で犯人以外の者に属さないから刑法第十九条第一項第一号第二
項に依り被告人A1から之を没収し、原審に於ける訴訟費用中主文第三項掲記のも
のは、刑事訴訟法第百八十一条第一項第百八十二条に依り、同項記載の如く負担せ
しめることとする。
 以上の理由に依り主文の通り判決する。
 (裁判長判事 柳田躬則 判事 高橋英明 判事 石見勝四)

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