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平成17年(行ケ)第10635号審決取消請求事件
平成18年7月20日口頭弁論終結
判決
原告X
訴訟代理人弁護士愛須一史
被告三菱重工業株式会社
被告株式会社ロケットシステム
被告株式会社アイ・エイチ・
アイ・エアロスペース
被告独立行政法人宇宙航空研究開発機構
被告ら訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同富岡英次
同外村玲子
同訴訟代理人弁理士須田洋之
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
(1)特許庁が無効2004-80160号事件について平成17年7月5日に
した審決中,「特許第2721138号の請求項1に係る発明についての特
許を無効とする」との部分を取り消す。
(2)訴訟費用は被告らの負担とする。
2被告ら
主文同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「固体燃料ロケット燃焼室の形状」とする特許第27
21138号の特許(平成7年8月18日特許出願,平成9年11月21日設
定登録。以下「本件特許」という。登録時の請求項の数は2である。)の特許
権者である。
被告らは,平成16年9月24日,本件特許を無効とすることについて審判
を請求し,この請求は無効2004-80160号事件として特許庁に係属し
た。原告は,上記事件の審理の過程で,平成16年12月21日,本件特許に
係る明細書を訂正(特許請求の範囲の訂正を含む。以下,この訂正を「本件訂
正」といい,本件訂正後の本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」と
いう。本件訂正により,請求項の数は1となった。)する請求をした。特許庁
は,審理の結果,平成17年7月5日,「訂正を認める。特許第272113
8号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする」との審決をし,同年
7月15日,その謄本は原告に送達された。
2特許請求の範囲
本件明細書の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,この発明
を「本件発明」という。)。
「【請求項1】固体燃料ロケットの燃焼室に燃焼面積増加用の複数のドーナ
ッツ形の横溝を設けたことを特徴とする固体燃料ロケット燃焼室の形状。」
3審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,本件特許の出願
前に頒布された刊行物である米国特許第4052943号明細書(以下「引用
例1」という。乙3〔審決における「甲3」〕)に記載された発明(以下「引
用発明1」という。),米国特許第5385099号明細書(以下「引用例
2」という。乙4〔審決における「甲4」〕)に記載された発明(以下「引用
発明2」という。)又は特開昭58-106155号公報(以下「引用例3」
という。乙5〔審決における「甲5」〕)に記載された発明(以下「引用発明
3」という。)と同一であり,また,当業者が①引用発明1及び引用発明3,
②引用発明2及び引用発明3,又は③引用発明3,引用発明1及び引用発明2
に基づいて,容易に発明をすることができたから,特許法29条1項3号に違
反し,また同条2項に違反して特許されたものである,というものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,本件発明と引用発明1ないし3との一致
点及び各相違点を,次のとおり認定した。
(1)引用発明1~3の内容
(ア)引用発明1
「固体燃料ロケットの燃焼室に2個の半径方向に延びる溝を設けた固体
燃料ロケットの燃焼室の形状」
(イ)引用発明2
「固体燃料ロケットの燃焼室に,1つまたはそれ以上の半径方向に延び
る2次溝を設けた固体燃料ロケットの燃焼室の形状」
(ウ)引用発明3
「固体燃料ロケットの燃焼室にいくつかの環状の溝を設けた固体燃料ロ
ケットの燃焼室の形状」
(2)本件発明と引用発明1~3との一致点(引用発明1~3に共通)
「固体燃料ロケットの燃焼室に複数の半径方向の溝を設けた固体燃料ロケ
ット燃焼室の形状」である点。
(3)本件発明と引用発明1~3との各相違点
(ア)本件発明においては,複数の半径方向の溝が,「燃焼面積増加用のド
ーナッツ形の横溝」であるのに対して,引用発明1においては,「半径方
向に延びる溝」である点。
(イ)本件発明においては,複数の半径方向の溝が「燃焼面積増加用のドー
ナッツ形の横溝」であるのに対して,引用発明2においては,「半径方向
に延びる2次溝」である点。
(ウ)複数のドーナッツ形の横溝に関して,本件発明においては,「燃焼面
積増加用の」と特定されているのに対して,引用発明3においては,この
ような特定がなされていない点。
第3原告主張の取消事由の要点
審決は,本件発明と引用発明1ないし3のそれぞれとを対比して,複数の溝
が「燃焼面積増加用」であるかどうかという相違点があることを認定したもの
の,以下のとおり,相違点についての判断を誤ったものであるから,違法とし
て取り消されるべきである。なお,引用発明1~3の内容並びに本件発明と引
用発明1~3との一致点及び各相違点の認定は,認める。
1(1)特許発明の新規性・進歩性の判断をする場合の原則が,平成3年3月8日
最高裁判決(後記第4,1(1))であるとしても,同判決の示す原則と例外の
適用に当たっては,発明の目的,効果など発明の詳細な説明の記載にも目を
配り,実質的に原則例外の適用がされなくてはならない。
科学技術のこれまでのめざましい進歩並びに現代科学の到達点に鑑みて,
発明はその大部分において狭い領域において1歩ずつ進歩していくものであ
って,そのレベルにおいて新規性・進歩性が認められるものであることは,
異論の少ないところと思われるが,このような状況下では,発明の詳細な説
明や図面等を参酌して特許要件が判断されるべき事案が,実質上多数に上る。
本件の場合のような固体燃料ロケットエンジンにおいても,その使用目的,
ロケットの形状,規模等につき,大きな差が生じていることからすれば,単
に形式的に特許請求の範囲の記載のみに基づいて認定されるべきではない。
本件発明における「燃焼面積増加用」とは,「複数の」「ドーナッツ形
の」「横溝」を限定する構成要件である。すなわち,「燃焼面積増加用」と
は1つの発明の特徴的構成であり,発明を限定する重要な構成要件である。
「燃焼面積増加用」が機能的な表現であることから,発明の技術的範囲に含
まれるかについては明細書及び図面を参酌し,そこに示された具体的な構成
に示されている技術思想に基づいて考察されるべきである。
(2)本件明細書には,縦溝を付けたときよりもより進力の増加及びロケットの
性能向上を図るため,図面に示された複数のドーナッツ形横溝を設けたこと
が,明示されている。
これに対し,引用発明1ないし3における燃焼室には,すべて2個の横溝
が示されているが,それらは燃焼室の基端部寄り位置と先端部寄り位置にそ
れぞれ1個ずつ設けられるか,基端部側にまとめて形成された横溝である。
このような構成の差異は,「燃焼面積増加用」という構成要素の有無がも
たらすものである。引用例1ないし3にあるロケットの燃焼室に形成される
横溝は,「所定の時間所望の推進力を提供すること」(乙3),「応力の緩
和をすること」(乙5)などを目的としているが,いずれも燃焼状態の調整
のために設けられるものであり,進力の増加ではなく燃焼状態の調整目的で
あって,本件発明と決定的な差異がある。
2決定的な差異であることは,次に述べるような具体的な差異が生じることか
ら,明らかである。
(1)進力の増加を目的とする本件発明は,ロケット打ち上げのために有益であ
るのに対して,引用発明1ないし3は,ロケット第3段目以降で使用され,
姿勢制御するのに有益なものである。
(2)本件発明は使用される領域が大気圏内であるのに対して,引用発明1ない
し3は無重量状態でも軌道修正のために使用される。出力においても,前者
は200トン以上であるのに対して,後者が4~6トン程度の出力にとどま
る。
(3)形状は,本件発明の場合円柱形であるのに対して,引用発明1ないし3は
球形である。
このように,両者は明確な相違をもたらすにもかかわらず,実質的な相違点
がないとした審決は,明らかに誤りである。
3審決は,本件発明と引用発明1とを対比し,本件発明においては複数の半径
方向の溝が「燃焼面積増加用のドーナッツ形の横溝」であるのに対して,引用
発明1においては「半径方向に延びる溝」である点が相違するとし,その相違
点は実質的な相違点ではないというが,それぞれの使用される場面の違いに着
目するならば,実質的な相違点であることは明らかである。
4審決は,本件発明と引用発明2とで実質的な相違点がないというが,引用発
明2における横溝の目的は燃料の燃焼特性を制御して,ロケットモータの推進
力履歴を制御するものであり,本件発明とは全く異なる。
5審決は,本件発明と引用例3とを対比し,これもまた実質的相違点はないと
するが,燃焼室の基端部のみに2つの横溝がある構成からも明らかなように複
数の横溝により積極的な進力の増加目的の実現を目指す本件発明とは,根本的
に技術思想が異なる。
第4被告らの反論の要点
審決の認定・判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1(1)原告は,本件発明の解釈につき,「『燃焼面積増加用』が機能的な表現で
あることから,発明の技術的範囲に含まれるかについては明細書及び図面を
参酌し,そこに示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて考
察されるべきである。」と主張するが,特許発明の新規性・進歩性について
判断する場合には,まず,以下のとおりの原則によるものとされている。
「特許法29条1項及び2項所定の特許要件,すなわち,特許出願に係る
発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては,この発明を同条1
項各号所定の発明と対比する前提として,特許出願に係る発明の要旨が認定
されなければならないところ,この要旨認定は,特段の事情のない限り,願
書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。
特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができな
いとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳
細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限っ
て,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎな
い。」(最高裁平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁)
これを本件についてみると,請求項1に記載された本件発明において,固
体燃料ロケットの燃焼室に設けられた複数のドーナッツ形の横溝が「燃焼面
積増加用」であるという記載は,それ自体一義的に明確に理解することがで
き,他の解釈の余地がないものである。したがって,本件発明の要旨認定は,
特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,明細書の発明の詳細な
説明の記載や図面を参酌する必要はない。
原告の前記機能的クレームに関する主張は,実用新案権又は特許権侵害訴
訟において,特許発明の技術的範囲を確定するにあたって,機能的クレーム
をいかに解釈すべきであるかという問題に関するものであり(例えば,東京
高裁昭和53年12月20日判決〔判例タイムズ381号165頁,ボール
ベアリング自動組立装置事件〕,東京地裁平成10年12月22日判決〔判
例時報1674号152頁,磁気媒体リーダー事件〕等),発明の新規性,
進歩性を判断するために当該発明の要旨を認定するに際してのクレーム解釈
に関する問題ではない。
(2)原告は,さらに,本件明細書には,縦溝を付けたときよりもより進力の増
加及びロケットの性能向上を図るため,図面に示された複数のドーナッツ形
横溝を設けたことが明示されているのに対し,引用発明1ないし3における
燃焼室にはすべて2個の横溝が示されており,それらは燃焼室の基端部寄り
位置と先端部寄り位置にそれぞれ1個ずつ設けられるか,基端部側にまとめ
て形成されている旨主張するが,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に
おける「燃焼面積増加用の」という記載のみから,本件明細書の【図1】に
記載されているような構造,すなわち,ドーナッツ形の横溝を固体燃料ロケ
ットの燃焼室のほぼ全長にわたって多数配置しているような構成を特定する
ことはできないから,引用発明1ないし3における固体燃料ロケットの燃焼
室に設けられている2個の横溝が,どの位置にどのように配置されているか
は,請求項1に記載の本件発明と引用発明1ないし3との相違点を評価する
上では全く無関係の事項であり,原告の主張は請求項の記載,すなわち本件
発明の要旨に基づかないものというほかない。
本件特許あるいは引用例1及び2に記載されているような固体燃料ロケッ
トにおいては,燃焼室の内面が固体燃料の燃焼に寄与する面(内面燃焼型,
乙5の1頁左下欄末行参照)であり,燃焼室の内面に溝を設ければ,溝の形
状にかかわらず,必ず燃焼面積を増加させることになるのである。
仮に,請求項1に固体燃料ロケットの燃焼室に燃焼面積増加用の複数のド
ーナッツ形の横溝を設けて「進力の増加」を図ることが開示されているとす
れば,引用例1ないし3にも同様の事項が当然に開示されているというべき
である。
2原告は,(1)進力の増加を目的とする本件発明はロケット打ち上げのために有
益であるのに対して,引用発明1ないし3はロケット第3段目以降で使用され,
姿勢制御するのに有益なものである,(2)本件発明は使用される領域が大気圏内
であるのに対して,引用発明1ないし3は無重量状態でも軌道修正のために使
用される。出力においても,前者は200トン以上であるのに対して,後者が
4~6トン程度の出力にとどまる,(3)形状は,本件発明の場合円柱形であるの
に対して,引用発明1ないし3は球形である,などと主張するが,請求項1の
記載から明らかなとおり,本件発明は,固体燃料ロケットがどのようなもので
あるかについて,一切限定をしていない。しかも,固体燃料ロケットに関する
上記のような特徴は,本件明細書に根拠がなく,同様に,引用発明1ないし3
との関連での上記特徴についての原告の主張にも,理由がない。
3原告は,本件発明と引用発明1との相違点について,それぞれの使用される
場面の違いに着目するならば実質的な相違点であることは明らかである,と主
張するが,本件明細書及び引用例1,2の記載に基づかない根拠のないもので
ある。
4原告は,引用発明2における横溝の目的は燃料の燃焼特性を制御してロケッ
トモータの推進力履歴を制御するものであり,本件発明と全く異なると主張す
るが,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,また引用例2の開示
内容とも無関係である。
5原告は,引用発明3につき,燃焼室の基端部のみに2つの横溝がある構成か
らも明らかなように,複数の横溝により積極的な進力の増加目的の実現を目指
す本件発明と根本的に技術思想が異なると主張するが,特許請求の範囲には,
横溝の配置や「進力増加」なる目的について何ら記載がなく,同主張には理由
がない。
第5当裁判所の判断
1まず,本件発明と引用発明3との対比及び判断について,検討する。
(1)本件発明の要旨は,請求項1の記載(前記第2,2)のとおりであり,
「固体燃料ロケットの燃焼室に燃焼面積増加用の複数のドーナッツ形の横溝
を設けたことを特徴とする固体燃料ロケット燃焼室の形状」である。
(2)引用例3の「従来の球形ロケットモータは第1図に示す構造になっている。
(1)は球殻状のモータケースでその内面には耐熱ライナ(2)が設けられ
ている。(3)は内面燃焼型固体推進薬で,内孔(9)は,例えば花形に成
形されるとともに応力緩和のためモータノズルの軸線と直角にいくつかの環
状のスリット(3a)が形成されている。」(1頁左下欄17行~右下欄3
行)との記載によれば,引用例3には,審決が認定するとおり,「固体燃料
ロケットの燃焼室にいくつかの環状の溝を設けた固体燃料ロケットの燃焼室
の形状」,すなわち,引用発明3が記載されているということができる(こ
の点は原告も,認めている。)。
(3)本件発明と引用発明3とを対比すると,審決が認定するとおり,両者は,
「固体燃料ロケットの燃焼室に複数の半径方向の溝を設けた固体燃料ロケッ
ト燃焼室の形状」である点で一致し,複数のドーナッツ形の横溝に関して,
本件発明においては「燃焼面積増加用の」と特定されているのに対して,引
用発明3においてはこのような特定がなされていない点で相違する(これら
の点は,原告も認めている。)。
(4)確かに,引用例3には「環状のスリット(3a)」が「燃焼面積増加用」
のものであることについて明記されていないが,引用発明3における「環状
の溝」は,それがない場合と比較して,その表面積分だけ燃焼面積を増加さ
せるものであって,「燃焼面積増加用」といい得るものであることはその構
成自体から客観的に明らかである。したがって,前記相違点を実質的な相違
ということはできず,本件発明は引用発明3と同一といわざるを得ない。
(5)以上によれば,本件発明は,引用発明3と同一というべきであるから,本
件特許は特許法29条1項3号の規定に違反してなされたものであり,同法
123条1項2号に該当するものとして,無効とすべきものである。これと
同旨の審決に誤りはない。
2(1)原告は,「燃焼面積増加用」が機能的な表現であることから,発明の技術
的範囲に含まれるかについては明細書及び図面を参酌し,そこに示された具
体的な構成に示されている技術思想に基づいて考察されるべきである,と主
張する。
しかし,特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要
旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解する
ことができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の
詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を
参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基
づいてされるべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日
第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。
そして,本件明細書(乙15添付の全文訂正明細書)の特許請求の範囲の
【請求項1】には「固体燃料ロケットの燃焼室に燃焼面積増加用の複数のド
ーナッツ形の横溝を設けたことを特徴とする固体燃料ロケット燃焼室の形
状」と記載されているところ,この記載の技術的意義が一義的に明確に理解
することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発
明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情は認めるこ
とができないから,本件発明の要旨を認定するに当たって発明の詳細な説明
の記載を参酌することは許されないというべきである。
(2)原告は,本件明細書には,縦溝を付けたときよりも進力の増加及びロケッ
トの性能向上を図るため,図面に示された複数のドーナッツ形横溝を設けた
ことが明示されているのに対し,引用発明3における2個の横溝は,基端部
側にまとめて形成された横溝であり,また,引用発明3の横溝は,進力の増
加ではなく,いずれも燃焼状態の調整のために設けられるものであり,「燃
焼面積増加用」という構成要素の有無により本件発明との構成の差異が生じ
る旨,主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明の要旨は特許請求の範囲の記載に基づい
て認定されるべきところ,【請求項1】の記載によれば,本件発明の「横
溝」は「燃焼面積増加用の複数のドーナッツ形」であって,「固体燃料ロケ
ットの燃焼室」に設けられるとされるにとどまり,それが燃焼室のどのよう
な位置に幾つ設けられるものであるとか,進力の増加のためのものであると
いった事項は何ら規定されていない。
そうすると,本件明細書には,縦溝を付けたときよりも進力の増加及びロ
ケットの性能向上を図るため,図面に示された複数のドーナッツ形横溝を設
けたことが明示されているとして,引用発明3における2個の横溝との差異
をいう原告の主張は,発明の要旨に基づかないものであって,採用すること
ができない。
(3)原告は,①進力の増加を目的とする本件発明はロケット打ち上げのために
有益であるのに対して,引用発明3はロケット第3段目以降で使用され,姿
勢制御するのに有益である,②本件発明は使用される領域が大気圏内である
のに対して引用発明3は無重量状態でも軌道修正のために使用される,③出
力においても,本件発明の出力は200トン以上であるのに対して引用発明
3は4~6トン程度にとどまる,④本件発明は円柱形であるのに対して,引
用発明3は球形である,などとも主張するが,本件明細書の特許請求の範囲
の【請求項1】には,使用される状況,出力,燃焼室の形状について何ら規
定されていない。原告の上記主張は,いずれも,発明の要旨に基づかないも
のであって,採用することができない。
3結論
上記検討したところによれば,本件発明と引用発明1ないし2との対比につ
いて検討するまでもなく,審決を取り消すべきものとは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
三村量一裁判長裁判官
古閑裕二裁判官
嶋末和秀裁判官

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