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平成21年2月26日宣告
平成20年(わ)第429号自動車運転過失致死傷,道路交通法違反被告事件
主文
被告人を禁錮1年8月及び罰金20万円に処する。
未決勾留日数中60日をその禁錮刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1法定の除外事由がないのに,
1平成19年8月8日,静岡県a市b番地所在のA付近道路において,自動車
検査証に記載された最大積載量(7,900kg)を17,580kg超える2
5,480kgのがれき等を積載して大型貨物自動車を運転し
2同年9月11日,c市d番地B付近道路において,自動車検査証に記載され
た最大積載量(11,000kg)を15,570kg超える26,570k
gのがれき等を積載して大型貨物自動車を運転し
3同月21日,同所において,自動車検査証に記載された最大積載量(11,
000kg)を13,370kg超える24,370kgのがれき等を積載し
て同車を運転し
4同年10月3日,同所において,自動車検査証に記載された最大積載量(7,
900kg)を9,790kg超える17,690kgのがれき等を積載して
大型貨物自動車を運転し
5同月29日,A付近道路において,自動車検査証に記載された最大積載量
(7,900kg)を16,140kg超える24,040kgのがれき等を
積載して同車を運転し
6同年11月1日,同所において,自動車検査証に記載された最大積載量(7,
900kg)を17,430kg超える25,330kgのがれき等を積載し
て同車を運転し
第2c市e番地に本店を置き,産業廃棄物の収集並びに運搬及び処分等を目的と
するC株式会社の従業員として,同社の業務用車両である大型貨物自動車を運
転する者であるが,自動車運送事業用車両を運行する者は,道路運送車両法及
び自動車点検基準に関する国土交通省令所定の日常点検基準及びその実施方法
に則り,目視及び点検ハンマ等により,同車両のボルトの破断の有無等を点検
(以下「日常点検」という)し,同装置が運行に十分堪え,通行人その他に危
害を加えるおそれのない状態か否かを確認した上で運行を開始すべき自動車運
転上の注意義務があるのにこれを怠り,平成20年4月11日午前9時25分
ころ,静岡県a市f番地所在の同社産業廃棄物中間処分場移転予定地から前記
車両の運行を開始するに当たり,日常点検を行わず,同車左側第2軸ダブルタ
イヤ(以下「タイヤ」という)とホイールハブの締結に用いるホイールボルト
(以下「ボルト」という)計8本のうち2本が破断しており,同装置が運行に
堪えられず,通行人その他に危害を加えるおそれのある状態にあることを確認
しないまま同所から同車を漫然発進させた過失により,同日午前11時8分こ
ろ,同県g市hの高速自動車国道第一東海自動車道下り線道路を東京都方面か
ら名古屋市方面に向かい時速約80キロメートルで運転進行中,本来8本のボ
ルトで受けるべき応力を未破断の6本のボルトに負荷させ,破断した2本のボ
ルトの近傍のボルトを破壊させたのち,残り全てのボルトを順次破断させてタ
イヤ外側車輪を脱落逸走させ,折から同自動車道上り線の道路の追い越し車線
を名古屋市方面から東京都方面に向かい進行してきたD運転の大型乗用自動車
のフロントガラスに同車輪を衝突させ,同ガラスを破壊して同人に同車輪を直
撃させ,よって,即時同所において,同人を脳挫傷により死亡させたほか,そ
の衝撃で同車を逸走させ,中央分離帯に乗り上げてガードレールに衝突させた
り,前記ガラスの破片を同車内に飛散させたりするなどし,同車に乗車中のE
に全治約2週間を要する右肘挫創の傷害を,同Fに加療約2週間を要する外傷
性頚部症候群の傷害を,同Gに加療約10日間を要する頚部,右肩挫傷の傷害
をそれぞれ負わせ
たものである。
(証拠の標目)省略
(法令の適用)
罰条
第1の各行為いずれも道路交通法118条1項2号,57条1
項,同法施行令22条2号
第2の各行為
自動車運転過失致死の点刑法211条2項
自動車運転過失致傷の点いずれも刑法211条2項
科刑上一罪の処理
第2の罪刑法54条1項前段,10条
(犯情の最も重い自動車運転過失致死罪の刑で処
断)
刑種の選択
第1の各罪いずれも罰金刑を選択
第2の罪禁錮刑を選択
併合罪の処理刑法45条前段,48条1項,2項
未決勾留日数の算入刑法21条
労役場留置刑法18条
(量刑の理由)
本件は,被告人が,自動車検査証に記載された最大積載量を超えるがれき等を積
載して大型貨物自動車を運転したという道路交通法違反の事案6件と,業務用車両
の運行開始前の日常点検を怠り,高速道路で車輪を脱落逸走させ,1名を死亡させ
るとともに,3名に傷害を負わせたという自動車運転過失致死傷罪の事案である。
被告人は,10年以上のキャリアを有する職業運転手でありながら,日常点検を
全く行わず,同点検を行いさえすれば,一般ドライバーでも容易に分かるボルトの
破断を看過したもので,職業運転手に課せられた基本的な注意義務に違反したもの
であるといわざるをえない。この点,弁護人は,被告人が目視での点検は行ってい
た旨主張し,同破断は外見上一見して判明する程度ではなかった旨主張している。
しかし,被告人自身,足回りの点検は「タイヤを蹴ったりとか,そういう程度で済
ませてしまった」旨述べており,かかる公判供述からすれば,被告人の行っていた
目視とは,タイヤを蹴る際に一瞥する程度のものであって,到底点検と評価しうる
ものでなかったことは明らかである。そして,関係各証拠によれば,タイヤを目視
によって点検すれば,即ち,きちんと注視しさえすれば,破断を十分発見しえたこ
とは明らかであるから,弁護人の主張は採用し得ない。また,鑑定書によれば,同
ボルトは,破断後6ヶ月が経過していたというのであり,その間,ただの一度でも
日常点検を行っていれば,本件事故は防ぎ得たことが明らかである。まして,被告
人は,平素より,超過率140~200%という過積載運行を常習的に繰り返し,
その犯行を隠蔽するため,トラックに積んだがれき類をパワーショベルで何度も激
しく叩くなどしていたのであるから,被告人運転車両のタイヤやそのボルトにかか
る負荷は,通常のそれに比べて相当大きかったものと推認できるし,実際,被告人
は以前にも,自身が運転する車両のタイヤボルト8本中3本が折れ,ナットがなく
なる事態に遭遇したことがあるのであるから,ボルトの破断の有無を確認すべき義
務は,通常の職業運転手以上に強く要求されていたものといえる。にもかかわらず,
被告人は,かかる確認を一切行わず,荷台に多数のがれきを積載した,まさに走る
凶器というに相応しい10トントラックを,高速道路という多数の車が高速度で通
行する場所で運行したのであって,本来相応の緊張感を持って走るべき高速道路に
おいて,交通安全意識を甚だしく欠いたその1台が,周囲に及ぼすであろう被害の
甚大さは想像するだに恐ろしく,その危険性は火を見るより明らかである。以上に
よれば,被告人の本件過失は相当重大であり,その態様は相当危険かつ悪質である
といわざるをえない。
そして,本件被害結果が判示の程度に止まったのは,上記危険性を補って余りあ
る優れた運転技術と,高度の交通安全意識を有する一名の職業運転手が,最期の一
瞬までブレーキを踏み続けた結果によるものであり,それゆえにこそ,その何の落
ち度もない尊い一名の命が失われたことは,誠に痛ましく,重大な結果であるとい
わざるをえない。亡くなった被害者は,今後も若きドライバーたちの手本となり,
道しるべとなるべき人材であったのに,同人とは対照的な職業運転手の重大な過失
により,愛する妻子を残し,享年57歳でこの世を去ったのであって,その無念は
いかばかりかと思われる。また,同人の妻子らは,被害者の57歳の誕生日祝いを
する予定であったまさにその日に,頼るべき夫であり父であった被害者を失ったの
であって,その深い悲しみと寂寥の念は,察するに余りある。遺族らが厳重処罰を
望むのも当然である。また,負傷した3人の乗客らは,楽しい観光旅行の最中に予
想外の傷害を負ったものであって,同人らが被った肉体的精神的苦痛も,軽微なも
のとはいえない。
にもかかわらず,被告人は,事故後も不合理な弁解を繰り返し,しばらくは自己
弁護に汲々としていたのであって,犯行後の情状も芳しくない。
また,判示第1の過積載運行は,既に述べたとおり,常習的犯行の一環として行
われたものであり,その超過率に照らせば,相当悪質な犯行であるといわざるを得
ない。この点,被告人が,上司の指示でやむをえず行ったかのような供述をしてい
る調書も存在するが,過積載は被告人が取締役であった頃から恒常的に行われてお
り,それは被告人も自認しているところであるから,被告人の意に反して強制され
ていたかのような供述は信用できない。更に,被告人は,かかる過積載運行のみな
らず,二桁にのぼる交通違反歴を有しているのに,何度摘発されても,自分を過信
して改善する努力すら行っていなかったことに鑑みれば,その交通安全意識の低さ,
慢心,鈍麻の程度も甚だしいものがあるといわざるをえない。
もっとも,被告人運転車両は業務用車両であり,過積載運行や点検義務の懈怠は,
被告人のみならず,会社やその役員らも責めを負うべきものであるから,被告人の
みに重大な責任を負わせるのは些か酷であること,本件車両は,本件事故当日に修
理工場から引き取ったものであり,修理箇所がホイール部分でなかったことを考慮
してもなお,修理工場でかかる重大な不備を発見し得なかったことが本件の遠因と
なった点は否定し得ないこと(この点,弁護人は,車検制度の不完全性も本件の原
因として挙げているが,5ヶ月後の破断を予見し得なかった点に車検制度の不完全
性を認めることはできず,むしろ,長期の間隔をおいて行われる点検では賄いきれ
ない危険性があるからこそ,日常点検を要するのであるから,弁護人の指摘は当を
得たものではない),本件事故によって傷害を負った判示3人を含む8人との間で
示談が成立し,現実に被害弁償が行われていること,亡くなった被害者の遺族に対
しても,確実に被害弁償が行われる見込みであること,被告人は,遺族宅を訪れて
数回謝罪を行い,反省の弁も口にしていること,本件事故が大きく報道され,また,
職を失ったことにより,事実上の制裁を受けていること,前科はないことなど,被
告人のために酌むべき事情も認められる。
しかしながら,本件過失と結果の重大性,犯行態様の悪質性等に照らせば,被告
人に有利な事情を最大限考慮してもなお,被告人に執行猶予を付すのは相当でない。
そこで,既に述べた諸事情を総合考慮し,同種事案とも比較考量した結果,本件
については,主文の刑が相当であると判断した。
(求刑-判示第1の事実につき罰金20万円,判示第2の事実につき禁錮2年6
月)
平成21年2月26日
静岡地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官長谷川憲一
裁判官引馬満理子
裁判官山谷美恵子

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