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裁判例


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○ 主文
一 被告が昭和六〇年二月六日付けで原告に対してした保護変更処分を取り消す。
二 被告が昭和六〇年二月七日付けで原告に対してした別紙記載の生活保護法二七
条に基づく指導指示処分は無効であることを確認する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 請求
主文と同旨
第二 事案の概要
一 本件は、生活保護を受けている原告の世帯が、収入認定された障害年金と生活
保護費で蓄えた八一万二七五三円の預貯金を保有していることに対し、被告が、う
ち二七万三四〇七円を収入認定して保護費を減額する保護変更処分(生活保護法二
五条)をし、また、うち四五万七〇〇〇円についてはその使途を弔慰の用途に限定
する指導指示(同法二七条)をしたことから、原告が保護変更処分の取消しと、指
導指示の無効確認を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 原告は、昭和五四年六月二七日、生活保護の開始を受け、これに基づき、別紙
年金認定額及び扶助費一覧表(以下、「一覧表」という)、生活扶助、住宅扶助及
び一時扶助の各欄記載のとおりの保護費の支給を受けてきた。
2 原告の世帯は原告と妻Aによって構成されているが、昭和五九年一二月末当
時、原告世帯は合計八一万二七五三円の預貯金を保有していた(以下、「本件預貯
金」という)。
3 被告は、被保護世帯を対象とした預貯金調査により、原告世帯が本件預貯金を
保有していることを知り、右保有にかかる預貯金合計金八一万二七五三円から、保
護基準による原告世帯の一か月の最低生活費の三割である三万四五三〇円、原告が
昭和五九年一二月に受給した同月から昭和六〇年二月までの三か月分の障害年金一
四万三四五〇円のうち昭和六〇年二月分に相当する四万七八一六円及び公害健康被
害の補償等に関する法律による葬祭料四五万七〇〇〇円を控除した二七万三四〇七
円を収入と認定したうえ、昭和六〇年二月二〇日、生活保護法(以下「法」とい
う)二五条二項に基づき、同月六日付けをもって同年二月から七月までの間、原告
世帯の生活扶助費を減額(二七万三四〇七円を六か月に割り振る)する保護変更処
分(以下、「本件変更処分」という)をし、また、同月一八日、法二七条一項に基
づき、本件預貯金のうち前記葬祭費に相当する四五万七〇〇〇円につきその使途を
弔慰の用途に限定する旨の別紙記載の指導指示(同月七日付け。以下、「本件指導
指示」という)をした。
4 原告は、本件変更処分について、昭和六〇年二月二五日、秋田県知事に審査請
求をし、同知事は同年四月一六日、右審査請求を棄却する裁決をし、原告は、同年
五月一五日、厚生大臣に再審査請求をしたが、同大臣は、本訴提起時である平成二
年六月二〇日までに、右請求に対する裁決をせず、本訴提起後である平成二年七月
一三日になって、右再審査請求を棄却する裁決をした。
三 争点
1 本件変更処分関係
(一) 本件変更処分について、法五六条に定める正当な理由があるといえるか。
(二) 本件変更処分について、法二五条二項、二四条二項に定める決定の理由を
附した書面による通知がなされたといえるか。
2 本件指導指示関係
(一) 本件指導指示は行政事件訴訟法三条四項にいう処分といえるか。
(二) 仮に、本件指導指示が右のような処分であったとして無効といえるか。
四 争点についての双方の主張
1 争点1(一)(法五六条の正当理由)について
(被告)
法二五条二項は、保護の実施機関は、常に、被保護者の生活状態を調査し、保護の
変更が必要であると認めるときは、すみやかにその決定をすることを定めている。
そして、法五六条は、被保護者は、正当な理由がなければ、既に決定された保護を
不利益に変更されることはないと定めているが、本件変更処分には、以下のとおり
正当な理由がある。
(一) 法は生活保護制度を運用するに当たって補足性の原則を定めている(法四
条、八条)。
補足性の原則は、保護を受けるに当たっては、各自がその持てる能力に応じて最善
の努力をすることが先決で、そのような努力をしてもなおかつ最低生活を営むこと
ができないときに、初めて保護が実施されるというものである。
すなわち、保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆ
るものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる
(法四条一項)ものであるが、この資産とは、土地、家屋をはじめ貨幣、債権など
積極的財産一切の総称で、預貯金も当然この資産に包含されるから、本件預貯金が
資産に該当することは明らかである。
そして、金銭は一旦取得されたのちは取得原因により区分されることはないから、
預貯金についても、その形成過程により、活用すべき資産とそうでないものに分け
ることはできず、また、生活保護は現在の需要にこたえるものであるから、源資を
論ずるまでもなく、本件預貯金は本来全体として活用すべき資産として取り扱わ
れ、法八条により収入としで認定すべきものである。
(二) もっとも、冠婚葬祭に当たって贈与される金銭、条例等に基づいて福祉増
進などのために定期的に支給される金銭の一部については、これを収入として扱う
のは社会通念上相当でなく、また、災害等によって損害を受けたことにより臨時的
に受ける補償金、保険金、見舞金等を直ちに生業、医療、家屋補修、修学等の自立
更生のための用途に供する場合、あるいは、それらを直ちに自立更生のための用途
には供しないが、将来自立更生のための用途に供する計画があり、それまでの間適
当な者に預託する場合も同様である。
更に、被保護者が健康で文化的な生活を営むうえで、一時に多額の費用を要する耐
久消費財の買い替え等をする必要もあるから、その購入等が法の趣旨、目的に適う
ものであれば、そのための預貯金を活用すべき資産としないことが相当な場合もあ
る。
しかしながら、通常予想される被保護世帯の生活需要は、経常的最低生活費ですべ
て賄えるよう保護の基準が定められているのであるから、前記のような、法の趣
旨、目的に適った具体的、合理的な使用目的を有しない預貯金は、活用されるべき
資産とすべきである。
(三) 本件預貯金のうち、保護基準の最低生活費の三割に相当する額、障害年金
のうち昭和六〇年二月分に相当する額、原告が葬祭用に充てるべきものとした四五
万七〇〇〇円については、右のような法の趣旨、目的に適ったものとして原告に保
有させることが相当であるが、それ以外の二七万三四〇七円は、具体的、合理的使
用目的を有しない預貯金というべきであるから、これは活用すべき資産として収入
認定するのが相当である。
(四) 原告は、本件預貯金は、原告ないしAの療養についての介護費用等に必要
な支出に充てるという具体的目的を有していたと主張するが、原告らの入院時の付
添看護費用に備えるということが、現実に原告が入院していた病院での付添看護費
用を意味するのであれば、それは医療扶助として対応されており、右以外の未だ確
定されていない将来の需要に備えるというのであれば、それは預貯金目的が抽象的
であって、いずれにしても本件預貯金を収入認定の対象から除外する理由はない。
その他、入院時の付添看護費用以外の将来の不時の出費等に備える目的について
は、それ自体抽象的な目的というべきであり、それらの出費についてもその都度法
が対応することが予定されているのであるから、こうした目的により本件預貯金を
収入認定から除外することはできない。
(五) 法八条は保護の程度につき、保護基準で定めた要保護者の需要のうちその
者の金銭又は物品では不足するのを補う程度としているから、二七万三四〇七円を
収入認定し、その分生活保護費を減額した本件変更処分には法の定める正当な理由
があるといえる。
(原告)
(一) 原告が生活保護を受けるまでの経過
(1) 原告は、大正一四年に出生し、秋田県内、中国、北海道、東京、京都及び
神奈川県内などで稼働したのち、昭和四九年に健康を害したことから秋田県に戻
り、角館町に居住していた。
(2) 右の間、原告は昭和一九年に先妻Bと婚姻し、同女との間に二女をもうけ
たが、昭和三一年に裁判上の離婚をし、その後昭和四四年に妻Aと再婚して現在に
至っている。
(3) 原告及び妻Aは、<地名略>内に居住するようになった後、比較的軽度の
作業に従事していたが、昭和五四年、原告が胃潰瘍に罹患し稼働することができな
くなったため、原告は、同年六月、被告に生活保護の申請をし、同月二七日、被告
から生活保護の開始決定を受けた(保護は同月四日に遡って実施された)。
(二) 本件預貯金保有の経緯等―原告の生活状況
(1) 前記生活保護開始決定後、原告が受給した生活保護は、別紙一覧表生活扶
助、住宅扶助、一時扶助の各欄に記載されたもののほか、医療扶助があった。
(2) 原告は、昭和五六年六月二六日身体障害者五級の、また、同五八年五月一
七日同三級の、更に、昭和六〇年一月一六日同二級の認定を受けた。
そして、原告は、右認定に基づき、昭和五八年九月以降、国民年金(障害年金)の
支給を受けるに至り、その額は別紙一覧表国民(障害)年金欄記載のとおりであ
る。
(3) 原告は昭和五二年ころから本件変更処分がなされるまで、賃料月額一万二
〇〇〇円の借家に住人でいたが、この借家は木炭倉庫を原告において改造した建物
で、狭いうえ、湿気がちで、傾斜し、強い風が吹くと大きく揺らぎ、隙間風もひど
いといった劣悪な住居であった。
原告の世帯が保有していた耐久消費財は、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、反射式石油ス
トーブと電気コタツのみである。テレビは一二インチのもので映りは極めて悪く、
冷蔵庫は借家後に家主から貰ったものでドアのゴムが機能せずクギでゴムを押えて
いるが冷蔵能力はほとんどないものである。電気コタツはしよつちゆう断線するも
のである。
原告世帯の生活は、食生活、衣類なども、節約に節約を重ねたものであった。
具体的にみると、肉類は月に二回程度鶏肉を買うのみで、それも、二日間五食に分
けてこれを食べる、サバはこれを塩漬にし一〇切れにし、一回の食事に一切れずつ
二人でなくなるまで食べ続けるというように極度に倹約したものであった。
生活保護の開始後原告とAが購入した衣類はそれぞれ下着二枚程度であった。
(4) 本件預貯金はこのような、倹約と節制に努めた生活態度の中から、収入認
定された障害年金と生活保護費を源資として形成されたものである。
(三) 本件預貯金の保有目的
(1) 原告は、リューマチ、胃潰瘍に罹患していたことから、その生活は入退院
の繰り返しであった。
すなわち、原告は、生活保護受給開始後、昭和六〇年の本件変更処分までの間、胃
潰瘍により三回にわたり入院したほか(入院期間はいずれも二か月前後である)、
昭和五九年二月から五月までの間、慢性関節リューマチの治療のため入院し、ま
た、本件変更処分後も、昭和六〇年七月から昭和六一年一〇月まで治療のため入院
したほか、昭和六二年一月から同年六月までリューマチの治療としての人工骨装着
手術のため入院し、更に、昭和六三年二月から平成四年春までの長期にわたり、リ
ューマチによる麻痺症状の進行にともない手術等の必要により入院生活を余儀なく
された。
そして、右記載の各入院期間以外は、少なくとも週一回程度の通院治療を受けてい
た。
(2) この間、原告の妻Aは手術が必要な入院に際しては必ず原告に付き添い、
その看護にあたってきた。
しかし、Aも高齢であるうえ、昭和五〇年ころから、膝、腰の痛みを訴えて通院治
療を受け、また、昭和五九年ころからは高血圧症の通院治療を受けている。
原告に対する付添看護は妻Aの心身にとっても重い負担となっていた。
(3) 原告とAの健康状態は前記のとおりで、二人とも高齢化にしたがってます
ます健康が悪化することが予想され、頼れる子供のいない二人には将来の不安が重
くのしかかっていた。
特に原告の世話をしているAが倒れてしまったら原告にはAの介護をすることはで
きないし、原告の世話をする者もいなくなってしまう。その場合、費用を払ってで
も介護者を依頼せざるを得ない。しかし、介護費用は非常に高額で、毎月の保護費
の中から支払うことは不可能である。そこで、少しづつ保護費をためてそれに備え
ようとしたのが本件預貯金の主要な目的である。
また、人間の生活には、経常の生活費以外の不時の出費や臨時の費用などがどうし
ても必要となる。原告らのような老齢かつ病弱の世帯では、急な入退院があった
り、雪降ろしなど自分達では体力的にできない仕事を他人に依頼する、あるいは、
余分な交通費、暖房費の支出をするなど、不時の出費が多くなりがちである。本件
預貯金はこのような不時の出資に備えるためでもあった。
(4) 被告は、生活保護法のもとでは、介護費の支給の制度はあり、また、将来
の不時の出費や臨時の費用は、その都度法で対応しているため、こうしたことのた
めに預貯金を保有する必要はないと主張するが、以下のとおり、生活保護世帯にお
いても、預貯金を保有する必要はあり、原告世帯についても同様である。
(1) 被保護世帯では、「経常的最低生活費の範囲内において、通常予想される
生活需要はすべてまかなうもの」(生活保護の「実施要領」)とされ、臨時的な出
費に対応する一時扶助が極めて制限されていることから、生活の広汎な場面でどう
しても預貯金が必要になる。
(2) 被保護世帯の預貯金保有の必要性と目的は、大別すると、a不時の出費、
b耐久消費財の購入費、c世帯員の年齢や健康、人生サイクル等に応じた特別の出
費に備えることである。
(3) 医療にともなって必要とされる費用のうち、入院料のほかに病室の差額料
金を要する場合の料金、医療扶助運営要綱に定める看護給付方針の要件以外で付添
人を要する場合の看護料の慣行料金、健康保険によって認められていない高価薬に
要する費用、見舞いのための家族の交通費、嗜好品費、図書、読書台費、子供の病
床における遊戯道具、謝礼については、厚生省もその費用のための特別の収入を収
入認定しない扱いとしているが、これは、右のような特別の収入のない世帯は毎月
の保護費を節約するなど別の方法によって、右の出費に備える必要があることを裏
付けている。
(4) 基準看護の病院でも実態は付添看護が必要であるが、その費用は医療扶助
では支給されず、退院後の介護費用も生活保護だけでは足りないのが実情である。
(四) 本件預貯金は、前記のとおり、収入認定された障害年金と生活保護費によ
り形成されたものであるが、生活保護制度は、憲法二五条に由来し、憲法二五条で
いう健康で文化的な最低限度の生活とは、人間の尊厳にふさわしい生活を意味す
る。人間の尊厳にふさわしい生活は、自らの生活や行動の仕方を自らの自由な意思
により決定できるものでなければならず、その意味で、保護費の消費は、明らかに
浪費的でない限り、被保護者の自由に委ねられることが要求される(保護費消費自
由の原則)。生活保護制度において扶助の方式が金銭給付であるのもこれを担保す
るものである。
また、保護費消費自由の原則は幸福追求の権利を保障した憲法一三条にも根拠を有
するものである。
本件預貯金は前記のような目的を有するものであるから、浪費的なものとはいえ
ず、本件変更処分は右のような保護費消費自由の原則に抵触する。
(五) 本件変更処分は、預貯金の保有の自由につき、被保護者である原告を他の
一般国民と、合理的な理由なく、差別するものであるから、憲法一四条一項に違反
する。
(六) 生活保護費は、最低限度の生活の不足分を補うものとして支給される(法
八条一項、三条)。したがって、一旦支給された保護費を収入として認定し、保護
費を減額することは、それ自体、被保護者の最低生活を侵害する。
また、本件預貯金は、前記のとおり原告の最低限度の生活を犠牲にして形成された
ものであるから、本件預貯金自体、その形成経過において満たされなかった最低生
活を回復し、右犠牲によって傷ついた原告の人格を慰謝する性格のものというべ
く、こうした性格を持つ本件預貯金を収入認定して保護費を減額することは、原告
の過去の最低生活を犠牲にして国に利得を付与するものである。
本件変更処分は、右のとおり積極的に原告の最低限度の生活を営む権利を侵害する
ものであり、憲法二五条一項に違反する。
(七) 被告が原告に対して本件変更処分をしたのは、本件預貯金が、法四条にい
う利用し得る資産、法八条にいう金銭又は物品に該当すると認定したことに基づ
く。
しかしながら、右は法四条、八条の解釈適用を誤ったものである。
すなわち、法四条は、資本主義社会における公的扶助の原則として、被保護者が自
立のためにその資産を活用することを保護の要件としたものではあるが、資産のす
べてを機械的に活用すべき資産とするという解釈をすべきではない。このことは、
最近の実務の取扱いにおいても、(1)その資産が現実に最低生活の維持のために
活用されており、かつ、処分するよりも保有している方が生活の維持及び自立助長
に実効があがっていると認められるもの、(2)現在活用されてはいないが近い将
来活用されることがほぼ確実で、かつ、今処分するよりも保有している方が生活維
持に実効があると認められるもの、(3)処分することができないか又は著しく困
難なもの、(4)売却代金よりも売却に要する経費が高いもの、(5)社会通念上
処分させることを適当としないものについては処分しなくてもよいことになってい
ることからも明らかである。
また、法八条に関する実務も、祝金など社会通念上収入として認定することが適当
でないものについては、収入として認定しない取扱いが認められている。
そして、本件預貯金は、原告がその生活面において極力支出の節約を図ってきた結
果として形成され、かつ、その源資となったのは、原告が現に受給してきた生活保
護費と収入認定された障害年金のみである。また、本件預貯金の目的は将来原告な
いし妻Aの療養についての介護費用等に必要な支出に充てるという、具体的なやむ
を得ない目的を有していたものである。
右のような本件預貯金の形成経緯、目的に照せば、本件預貯金は、現在活用されて
はいないが近い将来活用されることがほぼ確実で、かついま処分するよりも保有し
ている方が生活維持に実効があると認められるもの、ないし、社会通念上処分させ
ることを適当としないものとして、保有が認められる資産というべきであり、ま
た、社会通念上、収入として認定されるべきものではない。
したがって、本件変更処分は、右法の解釈適用を誤ったものである。
(八) 本件預貯金中には、原告に支給された昭和六〇年一月分の生活保護費(期
末一時扶助を含む)及び同年一月と二月に消費されるべき障害年金が含まれてお
り、その部分を収入として認定することは、支給した保護費自体を収入として認定
し、かつ、収入認定された障害年金を再度収入認定するものであり、その違法性は
明らかである。そして、本件変更処分は、右部分を含も本件預貯金全体について、
その一部を収入として認定したものであるから、その全体が違法となるものであ
る。
2 争点1(二)(法二五条二項、二四条二項の手続要件違反)について
(被告)
本件変更処分の通知書には、処分の理由として、「手持金の認定による」との記載
があるが、本件変更処分に当たっては、昭和六〇年一月二九日にケースワーカーが
原告宅を訪問した際に、将来の不安のためというのみでは本件預貯金は収入として
認定せざるを得ない旨述べ、更に、同年二月六日、原告の預貯金の目的を再度確認
して自立更生計画を指導しているのであるから、原告は本件変更処分の理由を十分
に知っていたというべきであって、法二五条二項、二四条二項が要求する理由付記
の要件は満たしている。
(原告)
本件変更処分につき、原告に送付された保護変更通知書中には、保護変更の理由と
して、「手持金の認定による」と記載されているが、右記載は処分理由としては著
しく不明確な記載で、被保護者に変更処分の理由及び変更の基礎となるべき被告の
認定した事実関係を了知せしめるに足りる記載とはいえない。
3 争点2(一)(本件指導指示の行政処分性)について
(被告)
法二七条一項の指導指示は、同法に基づく保護の実効性を確保するとともに被保護
者の自立を助長するため、国が被保護者の日常生活についてもある程度関与する必
要を認めて規定されたものであるが、他方、右指導指示が被保護者の人格を無視し
て強権的ないし必要の限度を越えて行使されやすいことにかんがみ、指導指示を必
要最小限度にとどめるべきこと及び被保護者の意思に反して強制してはならないこ
とが規定されている(法二七条二項三項)。
また、右指導指示がなされた場合、被保護者はこれを遵守する義務を負い(法六二
条一項)、その不遵守の場合には、保護の変更、停止または廃止という不利益処分
が規定されている(法六二条三項)が、右遵守義務は、前記指導指示の目的等に照
せば、法的義務ではなく、一般的努力義務というべきである。そして、右義務違反
の場合の不利益処分は、指導指示の実効性を確保するため間接的な強制手段を規定
するにとどまり、また、その不遵守があった場合においても、右不利益処分を課す
るかどうかは保護実施機関の裁量に委ねられているのである。
以上のように、指導指示は直接、保護の変更、停止又は廃止というような法的効果
を生じるものでなく、任意の履行を待つもので、行政指導に属するものであり、行
政事件訴訟法三条にいう処分には当たらない。
(原告)
(一) 法二七条一項に基づく指導指示は、右指導指示自体の根拠及びこれに対す
る遵守義務の双方が法令の規定に基づくものであり、こうした根拠を持たず、行政
組織法等に基づいて事実上行われるものとしての行政指導とは明らかに異なるもの
である。
また、右指導指示が直接強制力を排除しているのは、右指導指示を遵守すべき義務
を強制的に執行する余地がないことを示しているにすぎない。
被保護者の指導指示の遵守義務は、指導指示という行政行為に基づき、個別具体的
に直接発生し、かつ、不遵守に対しでは、保護の変更、停止または廃止が規定され
ている。
以上によれば、右指導指示は、国民の権利義務関係に影響を及ぼす処分であること
は明らかである。
(二) また、本件指導指示も、原告に対し、その保有する預貯金の使途という本
来原告の自由に委ねられる事項について、本件指導指示で定めた目的以外の使途を
禁止するという具体的義務を課しているのであるからその処分性は明らかである。
4 争点2(二)(本件指導指示に無効事由があるか)について
(原告)
(一) 被告は、昭和五九年一一月、ケースワーカーを通じ、原告について、資産
調査を行う旨を通告した。
その際、ケースワーカーは、原告の保有する資産の調査のため、銀行、官庁等に対
し照会を行うことについての同意書に署名させたが、ケースワーカーは原告に対
し、右調査の目的及び対象等を何ら知らせなかった。
(二) 被告は、右照会の結果原告世帯には昭和五九年一二月末日現在本件預貯金
があることを知った。
そして、右調査結果をもとに、被告は、本件預貯金全額を収入として認定したう
え、原告に対する保護を廃止する方針を決定した。
そして、右ケースワーカーは、昭和六〇年一月二九日、原告宅を訪問し、原告に対
し、本件預貯金を資産として活用すべきで、同年二月以降、原告に対する保護が廃
止されることを予告した。右の予告に対して、原告は保護廃止に同意できない旨を
表明した。
(三) 原告は、被告の右方針に納得できず、秋田県生活と健康を守る会連合会に
電話をし、同会事務局長Cに、被告の意向を話して、県当局に対して抗議等をする
よう訴えた。
そして、鈴木は、同年一月三〇日、秋田県社会福祉課に連絡し、原告に対する被告
の措置が違法である旨を申し入れたところ、同課においては、弔慰に充てるなどの
方向を含めて保護廃止にならないよう検討する旨を述べた。
(四) その後、被告は、県社会福祉課と協議のうえ、原告から自立更生計画書を
提出させたうえで、本件預貯金中四五万七〇〇〇円について弔慰金として保有を認
める方針を決定した。
(五) そして、右ケースワーカーは、昭和六〇年二月一日、原告宅を訪れて被告
の右方針を伝え、予め同人において作成した、本件預貯金中四五万七〇〇〇円を弔
慰に充てることを内容とする自立更生計画書を提出するよう促した。これに対し
て、原告は、出生地に墓地、墓石等を有していること、自宅には仏壇を有している
こと、原告及び妻Aは、死亡後に自己の遺体を秋田大学医学部の解剖実習のために
寄贈することを目的とする任意団体に加入しており、同会では定期に合同慰霊祭を
開催していることから、原告らについては弔慰のための特段の費用は必要でない旨
を話して、弔慰のための自立更生計画書の提出はできないと答えた。
しかし、同ケースワーカーは、原告に対し、右の自立更生計画書の提出がないと保
護が打切りになることを含めて、原告に再三強要したため、原告はやむなく、右自
立更生計画書に署名した。
被告は、このようにして原告から署名を得た自立更生計画書に基づき、本件指導指
示を行った。
(六) 原告は、本件指導指示により、原告世帯が本来自由に使用処分できる本件
預貯金のうち四五万七〇〇〇円を弔慰目的にしか使用できなくなったが、本件預貯
金は、原告世帯が、健康で文化的な最低限度の生活を営むために支給された生活保
護費等の中から、近い将来の健康で文化的な生活に資するために蓄えたものであっ
て、本件指導指示は原告世帯に対し重大な不利益を課したものといえる。
(七) 法二七条一項は、「保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持向
上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる」としている
が、同条二項は、「前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最小
限度に止めなくてはならない」との、また、同条三項は、「第一項の規定は、被保
護者の意思に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない」との
二段の歯止めをしている。これは、法二七条の指導指示は、被保護者の自由と人権
を完全に保障したものでなければならないことを意味しており、したがって、少し
でも被保護者の自由と人権が侵害されるおそれのある指導指示は法二七条の趣旨に
反することになる。
その意味で法二七条の定める指導指示については、(1)被保護者の自由と人権の
不可侵の原則、(2)必要最小限度の原則、(3)保護目的適合の原則が適用され
るべきである。
(八) しかし、本件指導指示は、前記のとおり、保護費の消費自由の原則に反
し、原告が本来預貯金も含めて自由に使途を定めることができる保護費につき、そ
の自由を不当に制限するものである。更に、本件指導指示は、原告がその最低限度
の生活を維持するために形成した預貯金について、その使途を制限するものである
から、原告の健康で文化的な最低限度の生活を営も権利を直接侵害するものであ
る。
よって、指導指示における被保護者の自由と人権の不可侵の原則に反する。
また、本件指導処分は本件預貯金の一部につき使途を弔慰目的に制限するものであ
るが、原告には弔慰目的で右預貯金の一部を消費する必要性はなく、その意味で、
本件指導指示は保護目的適合の原則にも反する。
(九) そして、本件指導指示は、その内容が、右のとおり、法の定める指導指示
に関する原則に違反している点及び右処分に至る経過において原告の自立更生計画
書を原告の意思に反して強制的に提出させた点の双方において、その瑕疵は重大で
ある。
また、前記の指導指示に関する諸原則はいずれも生活保護の実施にあたる機関とし
ての被告において、現に熟知しまたは熟知しておくべき原則であること、前記のと
おり資産の活用及び収入の認定に関する実務の取扱いについても、被告としては当
然熟知しておくべきであり、右取扱いを正当に適用すれば、当然本件指導指示はな
されるべきものではないこと、更に、被告は本件指導指示の前提となった自立更生
計画書に記載された弔慰目的については、原告に何らその必要性がないことを知悉
していたこと等の各事情を考えれば、本件指導指示の瑕疵は極めて明白である。
(被告)
(一) 昭和五九年、県内の各福祉事務所においては、生活保護適正化事業の一環
として、県内各被保護者世帯に対し、資産活用調査事業を実施した。
原告の世帯については同年一一月二一日、ケースワーカーが右調査事業の目的を原
告に説明した上で、原告から資産を調査することについての同意書を得て、同年一
二月下旬ころ、原告世帯の預貯金を調査した結果、原告世帯が、同年一二月末日現
在、合計八一万二七五三円の預貯金を保有することが判明した。
(二) 右ケースワーカーは、右預貯金の目的を確認するため、昭和六〇年一月二
九日、原告宅を訪問したところ、原告の応答は、将来の不安のためということのみ
であり、明確な預貯金目的を述べなかった(その際、同ケースワーカーは、原告に
対し右預貯金については収入として認定せざるを得ない旨述べた)。
(三) その後、同月三〇日、秋田県生活と健康を守る会連合会事務局長Cから、
右ケースワーカーに電話があったが、その際、右鈴木から聴取した内容は、原告の
預貯金の目的は死亡時の葬儀等を含めてそれらの費用に充てるためであるというも
のであった。
(四) 右鈴木からの申入れにつき、被告事務所内においてケース診断会議にかけ
たうえ、本件預貯金の一部について弔慰に充てるものとして収入認定から除外し、
残額を分割収入認定することに決定した。
(五) そして、同年二月六日、同ケースワーカーは預貯金の目的を再度確認する
ため原告宅を訪問したが、その際の原告の応答は、死亡時の葬祭費用を含めた弔慰
に充てたい、墓については原告の生家の墓が千畑町にあるが、家も絶えたため放っ
てあり、希望としては角館町に墓を持ちたい、仏壇も持ちたいということであっ
た。
そこで、同ケースワーカーは、原告の右希望を不当とは言えないと判断したうえ、
原告に対し、自立更生計画を指導し、弔慰に充てるために右預貯金を保有する意思
である旨の自立更生計画を書面により受理した。
(六) 本件指導指示に際しては、原告に対し、本件預貯金の保有目的が弔慰であ
ることを確認したうえ、その意思を尊重した自立更生指導がなされているのである
から、本件指導指示は原告の自由をなんら侵害するものでもなく、本件預貯金の一
部について無用の使途を強いるものでもない。
かえって、本件指導指示がなければ本件預貯金の全額が収入として認定され、原告
に対する保護変更処分の内容は本件変更処分より原告に不利益になるべきものであ
ったのであるから、本件指導指示自体、原告にとって利益なものというべきであ
る。
無論、本件指導指示を前提としたとしても、原告に弔慰以外に必要かつ差し迫った
需要が生じた場合には、原告は被告と協議のうえ弔慰目的以外の使途にこれを使用
できるのであるから、本件指導指示により本件預貯金の一部が使用できなくなった
ということはできない。
(七) 以上によれば、少なくとも、本件指導指示について、その外形上、何人の
判断によっても、被告が処分要件を誤認したと判断し得る程度の明白な瑕疵が存在
したといえないことは明らかである。
第三 争点についての判断
一 争点1(一)(法五六条の正当理由)について
1 前記第二記載の争いのない事実、証拠(甲第一ないし第一三、第二四、第三四
ないし第三六、第四三の一、二、第四五ないし第五七、第八四、第八六、第九六、
第九七、第一三八、乙第一ないし第三、第四の一、二、第五の一、二、第六ないし
第九、第一四の一ないし四、第二一の一ないし三、第二三、証人A、同C、同D、
原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の各事実を認めることができる。
(一) 原告が生活保護を受けるに至った経緯
(1) 原告は、大正一四年四月二四日、秋田県内において生まれたが、父母が離
婚したため、母方の家で養育されていた。
そして、原告が尋常高等小学校を卒業して農業に従事し始めた昭和一六年ころ、母
E、同人と再婚した義父及び原告の兄弟らは満州に渡り、原告のみが日本に残り、
祖父らとともに実家において農業を続けた。
原告は、昭和一九年に、先妻Bと婚姻をし、二女をもうけた。
(2) 終戦後、原告は、昭和二二年ころから昭和三二年ころまで、北海道に出稼
ぎに出て、炭坑労働などに従事していたが、この間、先妻Bとは裁判上の離婚をし
た。
その後、原告は、昭和三二年に一旦秋田県内に戻り、林業に従事していたが、昭和
四四年に現在の妻Aと知り合い、同居を始めたことから(婚姻届は昭和四四年一〇
月一五日)、生計維持の必要上、東京に出て警備会社で稼働したり、東京、京都及
び神奈川県内で土木作業員として働いていた。昭和四八年、両膝と両肩のリューマ
チに罹患し、神奈川県内の病院に入院し、これをきつかけに、同年四月、秋田県に
戻ることにした。
(3) 原告は、妻Aとともに、同県仙北郡<地名略>内でアパートを借りて居住
しながら、前記リューマチによる諸症状に差し支えない程度に、配達員、保険会社
のセールスマン、夜間警備員として稼働していた。しかし、原告は、昭和五四年、
胃潰瘍になり、稼働すること自体が不可能となって収入の道が断たれ、東京等にお
いて稼働していた時期から貯蓄した金銭も使い果たし、同年六月四日、被告に生活
保護を申請し、同月二七日、生活保護開始決定を受けた。
(二) 生活保護受給後の原告世帯の生活状況
(1) 原告が本件生活保護を受給した当時、原告には資産というべき預金その他
の手持金はほとんどなかった。
(2) 原告が生活保護を受給するようになったのち、原告が得た現金収入は、生
活保護による保護費(生活扶助費、住宅扶助費及び一時金)及び昭和五八年一二月
から受給した国民年金(障害年金)のみであり、その額は別紙一覧表記載のとおり
である(右のうち、生活扶助費については、原告が国民年金(障害年金)を受給す
るようになったのちは、並給制限により、所定の減額が行われている)。
(3) 原告は、受給した生活保護費のうち当面必要な生活費分を手元に残し、残
額は銀行、郵便局に預貯金し、国民年金は原告の銀行口座に振り込まれる扱いとさ
れていたため、原告は必要が生じた都度払戻しを受けることにしていた。
(4) 生活保護開始後本件変更処分に至るまで、原告の住居は、六畳と三畳間に
風呂等の流し場が付いた借家であった(家賃月額は本件変更処分当時において一万
二〇〇〇円)。
右家屋はもともと倉庫を改造したものであったが、外壁が波トタン、内壁は薄いベ
ニヤ板であるほか、部屋の間仕切りもトタン板で、相当に老朽化が進み、極めて劣
悪な住宅であった。その後、原告が入院中の平成二年一〇月、原告世帯は角館町営
住宅に移転し、平成四年春、原告が退院するとともに右住所地に居住して現在に至
っている。
(5) 本件変更処分当時の原告方の耐久消費財は、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、反
射式石油ストーブ、電気コタツがあるのみであり、これらの物品はいずれも相当に
老朽化が進み、あるいは破損箇所がある状況にあった。
また、その他の家具類についても、食卓は以前に自ら製作したものを使用し、ある
いは、ポリバケツを簡易便器として使用するなどしていた。
更に、原告は、日常の食生活において、肉食を極力控えたり、調理して保存が可能
な魚類を数日にわたり食べるなどし、衣類についても、生活保護受給以後ほほとん
ど新たな衣類の購入をせず、それ以前から有していたものを使用したりしていたほ
か、散髪、入浴等も極力控えていた。
(6) 右に記載したような経過の中で、原告が銀行、郵便局等に預け入れた生活
保護費及び振り込まれた障害年金(収入認定されている)のうち費消しなかった部
分が累積して本件預貯金となった。
(三) 原告の病状等
(1) 原告は、生活保護を受給する以前、肩及び膝のリューマチのため、一時神
奈川県内の病院に入院したほか、右疾患がもとで秋田県内に転居した後も、通院治
療を継続していた。また、前記胃潰瘍により、昭和五四年六月から八月まで公立角
館総合病院に入院して治療を受けた。
その後も、原告は、本件変更処分を受けるまでの間、胃潰瘍に伴う症状により、昭
和五六年三月に約一か月間、昭和五八年一月に約一か月間、それぞれ公立角館総合
病院に入院して治療を受け、昭和五九年二月から約四か月間、慢性関節リューマチ
により同病院に入院して治療を受けた。また、右入院治療を受けていない期間も、
同病院への通院治療は継続していた。
(2) しかし、右のような治療経過にもかかわらず、原告のリューマチに伴う症
状は改善の傾向がみられず、むしろ、当初両肩、両膝附近の痛みだったものが、
肘、手指、更には股関節の痛みといった症状へと増悪する傾向を見せ、昭和五九年
七月ころには、膝の屈曲拘縮のため歩行にも障害が出るようになり、昭和六〇年こ
ろから、移動については車イスを使用するようになった。
(3) こうした症状の悪化により、原告は、昭和五六年六月二六日、慢性関節リ
ューマチによる右肩関節機能の著しい障害により身体障害者五級の認定を受け、昭
和五八年五月一七日、慢性関節リューマチによる右肩、右肘、両膝関節機能の著し
い障害により同三級の認定を受け、昭和六〇年一月一六日、慢性関節リューマチに
よる両肩、肘、膝関節機能の著しい障害により同二級の認定を受けた。
(4) 原告の症状の進行に伴い、原告の妻Aは、昭和五九年ころから、原告が入
院した際には、食事、歩行、入浴、排泄等全般にわたり介護に当たっており、ま
た、介護のため、病院に泊り込まなければならなくなった。そして、妻Aは、大正
一一年生まれの高齢であるうえ、昭和五四年ころから、高血圧、頭痛のほか腰等全
身の痛みを感じるようになっており、右付添看護は同人にとって相当の肉体的な負
担を伴うものとなっていた。
(四) 本件変更処分に至った経過
(1) 被告は、昭和五九年七月以降、被告担当区域の生活保護の被保護者に対
し、資産活用調査事業を実施した。
右の事業は、昭和五六年一一月、厚生省社会局保護課長、同監査指導課長が生活保
護の適正実施の推進を目的として各都道府県知事に宛てた通知に基づいて実施され
たものである。そして、事業内容は、昭和五七年七月一日以降の新規保護開始ケー
スを除く全ケースについて、土地・家屋、有価証券類、貴金属等の資産の存否を、
被保護者からの聞取り調査及び関係機関への照会の方法により調査し、その結果、
被保護者が保有する資産の活用について必要な指導、指示を行うというものであっ
た。
(2) 右調査事業の一環として、原告の世帯を担当していたケースワーカーD
は、昭和五九年一一月二一日、原告宅を訪問して、原告に対し、原告について預貯
金等の資産の有無を調査することを告げたうえ原告が預貯金等を保有する金融機関
に預貯金額等の照会をするので、それについての同意書に署名するよう求め、原告
はこれに応じて、右同意書に署名し、右Dに手交した。
(3) 右原告の同意に基づき、被告は、昭和五九年一二月、羽後銀行角館支店等
の金融機関に原告世帯の預貯金の保有の有無及びその額について照会をし、その結
果、昭和六〇年一月までに、昭和五九年一二月末日現在で、本件預貯金が存在する
ことを知った。
そして、被告は、右調査結果に基づいて、本件預貯金の全額を原告の収入として認
定したうえ昭和六〇年二月以降原告に対する保護を廃止する方針を決定した。
(4) Dは、昭和六〇年一月二九日、原告宅を訪問し、右調査結果に基づく原告
に対する保護廃止(自立)の指導を行った。
その際、原告は、右Dに対し、原告及び妻Aがともに病弱であって将来が不安であ
ること、死亡時を含めて万一の場合のために貯蓄してきたものである旨を述べて、
保護の廃止になることに同意しないことを表明した。その際、Dは、原告の預貯金
の保有目的については、右以上に具体的な説明を求める等の措置を採らないままで
あった。
(5) その後、原告は、被告の右方針に対する対応に苦慮し、秋田県生活と健康
を守る会連合会にこれを相談することにし、右同日、同会事務局長Cに電話をし
た。
右鈴木は、翌三〇日ころ、秋田県社会福祉課に電話をして、原告の相談内容につい
て、生活保護費を源資として預貯金した場合に、預貯金を収入として認定すること
があり得るかどうかを質したところ、同課課長は、こうした場合についての取扱い
を検討すると約束した。
また、右鈴木は、同月三〇日、被告事務所に電話をして、原告に対する保護廃止の
根拠について質すとともに、右方針に対し抗議を申し入れた。これに対し、被告事
務所においては、右方針の根拠を説明するとともに、県とも協議することを言明し
た。
(6) その後、被告事務所において、原告に対する保護廃止の方針を検討した
が、その際、本件の預貯金には弔慰目的も含まれると認められるから、その限度で
本件預貯金の一部の保有を認めること、その額を公害健康被害の補償等に関する法
律による葬祭料と同額の四五万七〇〇〇円とすること、本件預貯金のうち右同額に
ついては弔慰目的のために使用する旨の自立更生計画を原告から提出させること、
右限度額を越える部分から保護基準による原告世帯の最低生活費の三割と昭和六〇
年二月分の障害年金を差し引いた二七万三四〇七円は収入認定し、その分保護の変
更により六か月間、生活扶助費を減額するとの方針を決定した。
(7) そして、Dは、昭和六〇年二月六日、再度原告宅を訪問し、被告の右方針
を伝え、原告に右のような趣旨の自立更生計画書の提出を求めたが、原告は、弔慰
目的については原告世帯にその必要はなく、右方針に同意できないことを表明し
た。
これに対し、右Dは、右方針によらない限り、原告の保護が全部廃止になることな
どを説明して、自立更生計画への同意を促したところ、原告は、保護廃止をおそ
れ、やむなく右自立更生計画書に署名してこれを右Dに手交した。
(8) 被告は、右により原告が署名した自立更生計画書を踏まえ、本件変更処分
及び本件指導指示をした。
2 本件変更処分は、法二五条二項に基づくものであるところ、法二五条二項は、
保護の実施機関は、常に、被保護者の生活状態を調査し、保護の変更を必要とする
と認めるときは、すみやかに、職権をもってその決定をすることを定めている。
しかし、法五六条は、既に決定された保護を不利益に変更するについては正当な理
由が必要であるとしており、本件変更処分が不利益変更に当たることは明らかであ
るから、本件変更処分が適法なものであるというためには、本件変更処分につき法
五六条に定める正当な理由があることが必要である。
ところで、法四条は、生活保護は生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力
その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件と
して行われるとし、また、法八条は、保護は厚生大臣の定める基準により測定した
要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできな
い不足分を補う程度において行うものとするとしている。
法四条は、国民の生活の維持は本来国民各自の自己責任によるべきことを前提とし
つつ、何らかの理由により自己の資産、能力により健康で文化的な最低限度の生活
を維持することが不可能ないし著しく困難に陥った場合にはじめて国の事業として
の生活保護を行うという生活保護の補足性の原則を規定したものであり、また、法
八条は、右のような補足性を前提として、具体的な保護の程度につき、厚生大臣の
定める健康で文化的な最低限度の生活を営むに当たって、要保護者の金銭又は物品
では不足する分を補う程度にすることを定めたものである。
したがって、被保護者に法四条でいう活用すべき資産(法八条の「金銭又は物品」
は右資産と同義と解される)があることが新たに判明した場合に、その限度で保護
の程度を減縮することは、右各法条が当然に予定するところであって、こうした場
合に法二五条二項に基づき、保護を減縮する保護変更処分をすることについては法
五六条の正当な理由があるといえる。
3 一般的にいって預貯金が、法四条の利用し得る資産、法八条の金銭又は物品に
該当することは明らかである。しかしながら、本件預貯金は前記認定のとおり、収
入認定を受けた障害年金と支給された保護費のみによって形成されたものである点
で、当然に法四条、法八条の活用すべき資産、金銭又は物品とし、これを、原告に
保有させず、収入と認定することが、法四条、八条の解釈として許されるかは検討
を要する。
被告は、この点につき、法四条の資産は積極的財産一切を指すのであり、当然預貯
金も資産に入り、しかも、金銭は一旦取得したのちは取得原因により区分されるこ
とはなく、また、生活保護は現在の需要にこたえるもので、活用すべき資産も現に
存するものであれば、これを活用すべきであるから、預貯金は源資にかかわらずこ
れを活用すべき資産と取り扱うべきで、ただ、冠婚葬祭に当たって贈与された金銭
など社会通念上収入として取り扱うことが相当でないものや必要な耐久消費財の購
入など保護の目的にかなう具体的、合理的な使用目的を有する金銭を預貯金の形で
保有することだけが許されると解釈すべきであるところ、本件預貯金のうち、弔慰
に当てるべき四五万七〇〇〇円、一か月分の最低生活費の三割である三万四五三〇
円、昭和六〇年二月分に相当する障害年金四万七八一六円を除いた二七万三四〇七
円には、法の目的にかなった具体的合理的使用目的がないから保有を許さず、活用
すべき資産として収入認定すべきである旨主張する。
しかしながら、預貯金であっても、その源資を把握することは可能であるから、金
銭は一旦取得したのちは取得原因により区別することができないことを理由に、預
貯金の源資によって保有させるものとそうでないものとを区別することはできない
とはいえない。
また、収入認定を受けた収入と支給された保護費は、国が憲法、生活保護法に基づ
き、健康で文化的な最低限度の生活を維持するために被保護者に保有を許したもの
であって、こうしたものを源資とする預貯金は、被保護者が最低限度の生活を下回
る生活をすることにより蓄えたものということになるから、本来、被保護者の現在
の生活を、生活保護法により保障される最低限度の生活水準にまで回復させるため
にこそ使用されるべきものである。したがって、このような預貯金は、収入認定し
てその分保護費を減額することに本来的になじまない性質のものといえる。
更に、現実の生活の需要は時により差があり、ある時期において普段よりも多くの
出費が予想されることは十分あり得ることであり、そのことは被保護世帯も同様で
あるから、保護費や収入認定を受けた収入のうち一部を預貯金の形で保有し将来の
出費に備えるということもある程度是認せざるを得ないことである。
もっとも、源資が前記のような預貯金であっても、その目的が、特別な理由のない
一般的な蓄財のためであったり、不健全な使用目的のものであるなど、生活保護費
を支給した目的に反する場合には、その保有を許さなくとも、生活保護法の趣旨に
反するとはいえないし、また、こうした預貯金が国民一般の感情からして違和感を
覚えるような高額なものである場合にも、同様というべきである。
結局、生活保護費のみ、あるいは、収入認定された収入と生活保護費のみが源資と
なった預貯金については、預貯金の目的が、健康で文化的な最低限度の生活の保
障、自立更生という生活保護費の支給の目的ないし趣旨に反するようなものでない
と認められ、かつ、国民一般の感情からして保有させることに違和感を覚える程度
の高額な預貯金でない限りは、これを、収入認定せず、被保護者に保有させること
が相当で、このような預貯金は法四条、八条でいう活用すべき資産、金銭等には該
当しないというべきである。
なお、被告は、具体的な耐久消費財の購入等預貯金の目的が相当具体的で、かつ、
それが生活保護法の趣旨に反しない預貯金である場合以外は保有は許されず、将来
の不時の出費に備えるという程度では足りないと主張するが、生活保護費と収入認
定を受けた収入で形成された預貯金については、前記のような源資の性格からして
目的がそこまで具体的でなくとも、生活保護法の目的ないし趣旨に反しないもので
あれば、これを保有させるべきである。
4 以上を前提として、本件について検討する。
まず第一に、本件預貯金が収入認定を受けた障害年金と支給された生活保護費のみ
を源資とするものであることは前記認定のとおりである。
次に、原告世帯は、前記認定のような支出を最大限に切り詰めた生活を続けること
によって本件預貯金を蓄えたのであるが、その目的は、前記認定の原告と妻の、事
実上扶助を受けるべき親族を持たない身上、年齢、健康状態等、とりわけ、原告の
リューマチ等の病状は悪化する傾向を見せ、本件変更処分当時に至っては日常生活
についても介護を必要とする事態にもなっており、入院生活にあっては、妻Aの付
添看護が必要となっていたがA自身の健康もすぐれないという事実に、原告本人尋
問の結果及び証人Aの証言を総合すると、主としては、付添看護に要する出資に備
えるためのもので、そのほか付随的に将来の不時の出費に備えるということも含ま
れていたものと認めるのが相当である。
この点について、被告は、本件預貯金の目的は、単に将来の漠然とした需要ないし
弔慰の目的に充てるためであったと主張をし、乙第五の二、第六、第九には、それ
ぞれ、原告が、本件変更処分に先立ち、原告を担当するケースワーカーであるDに
対し、被告主張のような預貯金の保有目的を述べたかのような記載部分があり、ま
た、これに沿う証人Dの証言もある。すなわち、右Dの証言及び右各書証は、原告
は、昭和六〇年一月二九日には右Dに死亡時を含めて漠然とした将来の不安のため
であると述べ、引続き、同年二月六日には弔慰の目的であることを申告したという
内容となっている。
しかしながら、弔慰の目的というのは、それ自体唐突な感があるうえ、前記認定の
本件変更処分に至る経緯からすると、弔慰の目的というのは本件預貯金を全額収入
認定することを避けるための便法であったとみるべきである。また、Dが原告の話
から本件預貯金の目的が漠然とした将来の不安に備えることであるとの認識を持っ
た可能性はあるが、そのことから、その内容が前記認定のようなものであったこと
を否定することはできない。
また、被告は、原告の本件預貯金の保有目的が介護に要する出費に備える目的があ
るとしても、本来、右のような費用については医療扶助により対応されており、ま
た、将来の出費についても必要なものは法で対応しており、いずれも原告において
預貯金して対応する必要はないと主張する。
そこで、右の点について検討するに、乙第一〇、第一二、第二〇、第二二によれ
ば、一方において、生活保護の種類として医療扶助の項目があり、これには、診
療、治療に要する費用のほか、看護、移送に要する費用が含まれること、また、生
活保護以外の社会保障制度である身体障害者福祉制度の下においても、身体障害者
の障害程度の等級に応じて日常生活用具の支給等が認められていることが認めら
れ、また、他方、我が国の医療保険制度の一環である基準看護制度のもとにおいて
は、入院中の患者に対する付添看護については、病院の区分に応じて、医師及び看
護婦による看護が行われ、その他に家族らによる付添看護は原則として不要とされ
ていることが認められる。
しかしながら、甲第一〇六、第一一八、第一二三、乙第一四の一ないし四、証人F
の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、前記認定の原告の生活保
護受給開始後の入通院の中では、原告の付添看護の費用ないし通院にかかる交通費
等が前記医療扶助により支給されたことはないこと、また、前記基準看護制度の下
における基準看護の承認を得た病院に入院した場合、医療扶助として付添看護費の
支給はされないが、こうした病院においても事実上、患者の家族あるいは職業的付
添人の付添看護が求められるか、少なくとも容認される実態があり、かつ、こうし
た事情はある程度周知されていたこと(なお乙第一七の一、二中には原告が現に昭
和六三年以降入院していた角館総合病院においては、家族による付添看護の必要性
がない旨の記載部分があるが、右書証は、本訴提起の後、被告からの照会(乙第一
七の一)により右病院が作成した書面(同号証の二)であって、右作成経過に照ら
せば、入院時の付添看護の必要性についての右認定を覆すに足りるものとはいえな
い)、更に、医療扶助として付添看護費が支給される場合であっても、その額は職
業的付添人に支払うべき額を下回わり、被保護者の負担分が残ることが認められ
る。
そして、入院時の付添看護にかかる費用を見ると、甲第一一九によれば、右費用に
ついては調査方法に相当の制約があり大都市の場合に限定されるものの、体位変換
又は床上起座が不可能であるか又は食事及び用便に介助を要する入院患者につい
て、付添看護料の自己負担額の月額として、一人付添いの場合、基本給で九万七七
八六円、泊り込み給で一七万一一五一円となっていることが認められる。
右によれば、本件預貯金額は、右自己負担額の、基本給の場合の約八か月分、泊り
込み給の場合の約四か月分にそれぞれ相当するところ、前記認定のとおり、原告は
本件変更処分に至る以前に慢性関節リューマチ及び胃潰瘍により最短で一か月、最
長で三か月入院治療をしたこと、そして、原告の右各疾患による症状は悪化する傾
向を見せていたこと等の事情に鑑みれば、本件預貯金の額は、原告が入院時の付添
看護を目的として予め保有すべき額としても必ずしも多額にすぎるということはで
きない。
更に、現在の生活保護基準の中で支給されるべきものについても、支給の申請をし
ても当座の出費に際し時間的に間に合わないもののほか、保護基準では支給されな
い、あるいは不足するが、現実の生活の中でどうしても必要な出費があり得るとい
えるから、将来の不時の出費に備えるためある程度の預貯金をするのはやむを得な
いといえる。
してみると、本件預貯金は全体として、最低生活の維持、自立更生という生活保護
費を支給する目的に反するものということはできない。
5 以上のとおり、本件預貯金は、その源資が国が健康で文化的な最低限度の生活
を維持させるために保有を許した金銭であり、その目的も生活保護費を支給した目
的に反するものとはいえず、また、その額も国民一般の感情からして違和感を覚え
るほど高額のものでないことは明らかであって、法の目的ないし趣旨に照らし、本
件預貯金は全体して原告世帯に保有を許すべきもので法四条の活用すべき資産ない
し法八条の金銭又は物品に当たるものとするのは相当でないといわざるを得ない。
6 以上によれば、本件変更処分には、法五六条の生活保護を不利益に変更すべき
正当な理由があるといえないから、その余の点について判断するまでもなく、違法
といわざるを得ず取消を免れない。
二 争点2(一)(本件指導指示の行政処分性)について
1 行政事件訴訟法三条にいう処分は、行政庁の公権力の行使といえる行為であっ
て、個人の法律上の地位ないし権利関係に対し、直接に影響を及ぼすものをいうと
解される。
ところで、法六二条一項は、被保護者に対し、法二七条一項に基づく指導指示に従
うべき義務を課し、更に、被保護者の右義務違反に対しては保護実施機関が保護の
変更、停止又は廃止という不利益処分を課する方法により右指導指示の内容を強制
的に実現する手段が予定されていること(法六二条三項)からすれば、右指導指示
に従うべき義務は、被保護者が負う具体的な法的義務というべきであり、これを単
なる一般的努力義務と解することはできない。
被告は、法二七条一項に基づく指導及び指示は、被保護者の自由を尊重し、必要最
少限度に止めるべきものとされていること(法二七条二項)、被保護者の意思に反
して強制してはならないものとされていること(同条三項)から、右指導指示に基
づく被保護者の義務は、一般的努力義務にとどまると主張する。しかしながら、指
導指示が右のような要件で行なわれるにしても、現実に、これがなされれば、被保
護者は前記のような不利益な地位に置かれる以上、一般的努力義務を負うにすぎな
いとは到底いえない。
また、被告は、右義務違反の場合における保護の変更、停止又は廃止という不利益
処分は、具体的には、保護実施機関がその裁量により必要な各処分をすることによ
り発生するから、指導指示を強制的に実現する手段としては間接的なものにとどま
ると主張する。確かに、法二七条一項に基づく指導指示とその尊守義務違反の場合
に課せられる保護の不利益変更との関係は被告が述べるとおりであるが、右不利益
処分が右遵守義務違反を要件として課せられるものである以上、指導指示の遵守義
務が不利益処分により強制される法的義務であると解する妨げとなるものではない
というべきである。
更に、被告は法二七条に基づく指導指示は行政指導としての性格を持つとの主張を
するが、本来、行政指導とは行政庁がその所管にかかる行政事務につき一定の行政
目的を達成するために行う、非権力的方法としての勧告、警告等の事実的な行為を
指称するものであるから、法二七条に基づく指導指示のごとく、明文の法令の根拠
に基づき、国民に一定の法的義務を課する行為がこれに含まれないことは明らかで
ある。
2 もっとも、法二七条に基づく指導指示であっても、場合によっては、その内容
が被保護者に対し一般的抽象的に生活上の努力義務を課するにとどまることもあり
得るし、その場合には、右指導指示に従うべき義務の性質が抽象的な努力義務とな
ることもあり得る。
しかしながら、本件の場合についてこれを見るに、乙第七(本件指導処分の通知書
の原案)によれば、本件指導指示の内容は、本件預貯金中四五万七〇〇〇円につい
て弔慰の目的以外の支出を禁止するものであると認められるから、抽象的努力義務
を定めたにすぎないとは到底いえない。
3 以上によれば、本件指導指示は原告の法律上の地位に直接に影響を及ぼす行政
処分ということができる。
三 争点2(二)(本件指導指示に無効事由があるか)について
法二七条一項の指導指示は、生活の維持向上その他保護の目的達成に必要がある場
合に行われるものであるが、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなけ
ればならない(法二七条二項)とされている。
これは、生活保護が、要保護者の憲法に由来する権利として行われている以上、被
保護者の生活に対する干渉は極力抑えなければならないとする理念に基づくものと
解される。
ところで、本件指導指示は、本件預貯金のうち四五万七〇〇〇円について、その使
途を弔慰の目的に限定するものであるが、前示のとおり、本件預貯金は主として付
添看護費用の支出に備えるなど、生活保護費支給の趣旨に反しないものとして、原
告世帯に保有が許されるものであるから、その使途を弔慰の目的に限定すること
は、何ら必要のないことであるといえる。
また、被告は、本件指導指示は、原告が提出したその旨の自立更生計画書に基づく
ものであると主張するが、前記認定のとおり、原告が右自立更生計画書を提出した
のは、被告から、これを提出しないと本件預貯金全額が収入認定され保護が廃止さ
れることになるとの説明を受けたためであって、右自立更生計画書の提出は原告の
本意ではなかったと認められ、その点で、本件指導指示は、被保護者の意に反して
強制することを禁じた法二七条三項の規定に抵触するといえる。
してみると、本件指導指示は、何ら必要もなく、かつ、原告の意に反してなされた
というべきであり、その結果原告世帯では本件預貯金のうち四五万七〇〇〇円の使
途が弔慰の目的に限定されるのであるから、本件指導指示には重大かつ明白な違法
があり、無効というべきである。
四 以上によれば、原告の本訴各請求はいずれも理由があることになる。
(裁判官 山本 博 岩木 宰 神坂 尚)
別紙 年金認定額及び扶助費一覧表(省略)

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