弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     1 原判決主文第一項を次のとおり変更する。
     控訴人(附帯被控訴人)らは被控訴人(附帯控訴人)に対し、各金九万
八、四六四円およびこれに対する昭和四二年一二月一〇日以降完済まで年五分の割
合による金員の支払いをせよ。
     被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求(当審での新請求を除く)を棄
却する。
     2 控訴人(附帯被控訴人)らは被控訴人(附帯控訴人)に対し、各金
四〇万円およびこれに対する昭和四二年一二月一〇日以降完済まで年五分の割合に
よる金員の支払いをせよ。
     3 被控訴人(附帯控訴人)のその余の当審での請求拡張部分(新請
求)を棄却する。
     4 訴訟費用は第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を控訴人
(附帯被控訴人)らの連帯負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とす
る。
     5 被控訴人(附帯控訴人)において各控訴人(附帯被控訴人)に対し
それぞれ金一〇万円の担保を供するときは、本判決中金員の支払いを命じた部分に
つき仮りに執行することができる。
         事    実
 控訴人(兼附帯被控訴人、以下単に控訴人という)ら訴訟代理人は、「原判決中
控訴人ら敗訴部分を取り消す。被控訴人(兼附帯控訴人、以下単に被控訴人とい
う)の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との
判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 被控訴代理人は、附帯控訴として、「原判決主文第一項を次のとおり変更する。
控訴人らは被控訴人に対し、各金一五八万二、七二〇円およびこれに対する昭和四
二年一二月一〇日から完済にいたるまで年五分の割合による金員の支払いをせ
よ。」との判決を求め、さらに、当審において請求を拡張し(当審での新請求)、
「控訴人らは被控訴人に対し、右金員に付加して、各金五三万円およびこれに対す
る昭和四二年一二月一〇日から完済にいたるまで年五分の割合による金員の支払い
をせよ。」との判決を求め、控訴代理人は「本件附帯控訴を棄却する。附帯控訴費
用は附帯控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上および法律上の主張は、左のとおり付加するほかは、原判決
事実摘示のとおりであるから、その記載をここに引用する。
 (控訴人の主張)
 一 本件事故の発生に寄与した亡Aの過失と控訴人Bの適失との割合は、前者が
八割、後者が二割と認めらるべきものである。すなわち、本件甲道路の巾員は乙道
路の巾員に比較して明らかに広いものであるから、控訴人B運転の本件乗用車に通
行優先権があり、また、Aが乙道路から本件交差点に進入するに際しては一時停止
の標識に従つて一時停止すべき義務があつたのにかかわらず、Aはこれらを無視し
て漫然と時速約二〇キロメートルの速度で右交差点に進入してきたことから本件事
故の発生をみるにいたつたものであつて、Aの右の過失は、控訴人Bの過失に較べ
てきわめて重大といわなければならない。
 二 Aの右の過失は、同人の相続人であり、また、本件事故の際にAの運転する
本件二輪車に同乗していた被控訴人の固有の損害賠償債権の額を算定するに際して
も当然に斟酌せらるべきものである。
 三 被控訴人は、みずから本件事故によつて受けた傷害にもとづく休業補償費な
らびに慰籍料として、昭和四三年四月八日ごろまでに、自動車損害賠償責任保険金
合計金二七万三、七〇〇円を受領しているから、本訴請求の損害額から右の金額が
控除されなければならない。
 四 さらに、控訴会社は被控訴人に対し左のとおり金九万円の損害賠償請求権を
有していたところ、本訴において、昭和四五年六月二三日付の準備書面により、被
控訴人に対し右債権をもつて本訴請求の損害賠償債権と対当額で相殺する旨の意思
表示をなし、右書面はそのころ被控訴人に到達したので、本訴債権はその限度にお
いて遡つて消滅するにいたつたものである。なお、右相殺の受働債権は不法行為に
もとづく損害賠償債権ではあるけれども、自動債権もまた左のとおり同一事故にも
とづく損害賠償債権であつて、かような債権相互の間においては互に相殺すること
を禁ずべき合理的理由が存しないから、かかる相殺については民法五〇九条の適用
はないというべきである。
 しかして、控訴会社の有していた損害賠償債権は左のごときものである。すなわ
ち、控訴人Bの運転していた本件事故車(ブルーバード六四年型)は、本件事故の
結果修理不能なまでに大破するにいたつたため、控訴会社はやむなくこれを金三万
円で売却することとなつた。ところで、右自動車は、昭和四一年五月控訴会社にお
いて中古車として金三五万円で買い入れたものであつて、昭和四二年六月一一日の
事故当時においては、定率減価償却をしても金二〇万円の価値は有していたもので
ある。したがつて控訴会社としては、Aの過失にもとづく本件事故によりこれを金
三万円で売却するのやむなきにいたり、一七万円の損害を被ることとなつたもので
あつて、右事故におけるAの過失割合を八割とみれば、同人に対し一三万六、〇〇
〇円の損害賠償債権を取得したものといわなければならない。かくて、同人の死亡
により、右債務は相続分(三分の二)に応じて被控訴人に承継されるにいたり、こ
れによつて控訴会社は被控訴人に対し、金九万円の損害賠償債権を有することとな
つたものである。
 五 被控訴人がAの死亡に伴つて受領した自動車損害賠償責任保険金一〇〇万円
は、Aの死亡によつて被控訴人が被つた精神的損害のみならず、Aの被つた財産
上、精神上の損害をも填補すべきものとして支払われたものである。
 (被控訴人の主張)
 一 被控訴人が控訴人ら主張のごとき保険金合計金二七万三、七〇〇円を受領し
たことは認める。
 二 控訴会社が本件事故車の破損によりその主張のような損害を被つたとの事実
は知らない。かりにそのような事実があつたとしても、本訴債権のごとき不法行為
にもとづく損害賠償債権を受働債権とする相殺は法律上許されないから、控訴人ら
の相殺の主張は失当である。
 三 被控訴人の父Aは本件事故によつて頭蓋骨々折等の重傷を受け、死亡するに
いたつたものであるが、これによつてA自身の被つた精神的損害の額は金二〇〇万
円と算定するのか相当であり、Aの過失割合を六割とみればその金額は八〇万円と
なる。しかして被控訴人は、Aの死亡により、相続分(三分の二)に応じてその権
利義務を承継したものであつて、右慰籍料請求権についても、その三分の二に当る
金五三万円(円以下切捨)を相続したものであるから、当審においてこれを請求す
る(当審での請求拡張部分)。
 また、右Aは植条工務店に雇われて型枠造りなどの仕事をする大工として働いて
いたものてあるが、その仕事の性質、近時における大工などの職人不足の現状など
からすると、その死亡当時における就労可能年数は六年程度と見積るのが妥当であ
るから、同人の逸失利益は、年五分の割合による中間利息を差引いた金三五二万
四、四〇〇円となり、同人の過失割合を六割として過失相殺しても金一四〇万九、
七六〇円となるといわなければならない。しかして被控訴人は、Aの死亡に伴い、
その相続分(三分の二)に応じて同人の権利義務を相続したものであるから、右逸
失利益についてもその三分の二に当る金九三万九、五〇〇円を承継したものという
べきところ、原判決は被控訴人の承継した右逸失利益の賠償請求権をわずか九万
三、三三〇円しか認めなかつたものであるから、当審においては、右の差額八四万
六、一七〇円を原判決主文第一項において認容された金七三万六、五五三円に加算
した金一五八万二、七二〇円(円以下切捨)の限度で請求を認容すべきである(附
帯控訴の理由)。
 (当審での請求拡張部分ならびに附帯控訴の理由に対する控訴人らの反論)
 一 一般に慰籍料請求権は一身専属的なものであるから相続の対象になりえない
というべきである。かりにその相続性が認められるとしても、本件の場合、被害者
であるAが本件事故当時六四才の老人であつたこと、右事故の発生について同人の
重大な過失が寄与していること、同人によつて扶養される子女がいなかつたこと、
相続人である被控訴人もまたAの死亡によつて被つた精神的損害の賠償を本訴にお
いて請求していることなどの諸事情を斟酌してその額を算定するのが妥当である。
 二 Aの死亡当時における就労可能年数を六年とみることは、同人の仕事が大工
という肉体労働であることから考えても経験則に反して全く不当というべきであつ
て、これを七ケ月間とした原判決の認定はまことに正当である。
 証拠(省略)
         理    由
 一 当裁判所は、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求(当審での新請求を除
く)は各金九万八、四六四円およびこれに対する昭和四二年一二月一〇日以降完済
まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当であり、また、当
審での請求拡張部分(新請求)は各金四〇万円およびこれに対する昭和四二年一二
月一〇日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由
があるが、その余は失当と判断するものであつて、その理由の詳細は、左のとおり
付加訂正するほかは、原判決理由中の説示と同一であるから、それをここに引用す
る。
 (一) 本件事故に対する双方の過失の寄与率について。
 原判決一六枚目表九行目の「Aの過失は六割」を「Aの過失は七割」と訂正す
る。
 (二) Aの逸失利益について。
 Aが本件事故によつて死亡した当時六四才の男子であつたこと、統計上六四才の
男子の平均就労可能年数が六・二年であることは当事者間に争いがなく、原審証人
Cの証言ならびに原審での被控訴人本人尋問の結果によると、Aはかねてより大工
の職にあつたものであるが、近時大工などの職人は漸次その平均年令が高くなり、
七〇才位の大工も現に就労しているような状態にあること、Aは本件事故当時きわ
めて健康であつて仕事を休むようなこともほとんどなく、壮年者と見誤られるほど
元気に働いていたことがそれぞれ認められるのであつて、以上の諸点を総合して考
えれば、Aの死亡当時の大工としての稼働可能年数は少くとも六年は下らないもの
と認定するのが相当である。しかるところ、右当時におけるAの純収入は月五万円
と認められるから(その理由は原判決理由のとおり)、同人の死亡日から稼働可能
年数六年間の収入の合計額は金三六〇万円、ホフマン式(年ごと式)計算法によつ
て民事法定利率年五分の割合による中間利息を控除したその現価は金三〇八万一六
〇円(円未満切捨)であり、Aは本件事故により右同額の得べかりし利益を喪失し
たものといわなければならない。
 (三) 被控訴人の受傷による慰籍料について。
 原判決一九枚目裏一〇行目の「右認定の事情」の次に「Aの過失の程度」を加
え、同一二行目の「五〇万円」を三〇万円と訂正する。
 (四) 過失相殺について。
 本件事故によつてAの喪失した得べかりし利益の現価が金三〇八万一六〇円であ
ることは前記認定のとおりであるから、控訴人らが同人に対して負担した損害賠償
義務の額は、同人の過失を斟酌して、右金額よりその寄与率七割を乗じた金額を控
除した額九二万四、〇四八円と算定するのが相当である。
 しかるところ控訴人らは、被控訴人みずからが本件事故によつて被つた損害の額
の算定に際しても、Aの前記過失を掛酌すべきものと主張するので、以下この点に
ついて考えるに、右損害額の算定についてAの過失を斟酌することは、被害者本人
以外の者の過失を斟酌することとならざるをえないけれども、民法七二二条二項に
定める被害者の過失とは単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失
をも包含する趣旨であり、かつ、右にいう被害者側の過失とは、被害者本人と身分
上ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうものと
解せられるから(最高裁判所昭和四〇年(オ)第一〇五六号、同四二年六月二七日
第三小法廷判決、民集二一巻六号一五〇七頁参照)、被控訴人とAとの間に身分上
ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係が存在するかぎり、前記損害の
額の算定についてAの過失を斟酌することはなんら差し支えがないといわなければ
ならない。しかして、右にいわゆる「身分上ないし生活関係上一体をなすとみられ
る関係」が認められるためには、必ずしも、幼児とその監督者である父母などのこ
とく被害者と第三者とが同一の家族共同体に属していたり、また、経済的基盤を共
通にしたりすることを要するものではないのであつて、そのような関係にない被害
者と第三者との間においても、第三者の過失によつて生じた損害を加害者よりはむ
しろ被害者の負担に帰せしめるのが公平と認められるような具体的な事情もしくは
関係が両者の間に存在するような場合には、右の一体関係ありと認めるのが相当と
いうべきである。けだし、民法七二二条二項が、損害賠償の額を定めるにあたつて
被害者の過失を斟酌することができる旨を定めたのは、発生した損害を加害者と被
害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものにほかならな
いからである。
 <要旨第一>そこで、右のような観点から、本件の場合前記Aと被控訴人との間に
右のような一体関係が認められるかどうかについて考えてみるに、原審
ての被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人はAの長男であるが(他に子はい
ない)本件事故当時すでに二五才に達し、約二年前に結婚した妻Dおよび同女との
間に生まれた二児とともに香川県仲多度郡a町にある妻の実家の一部を間借りし
て、丸亀市内に独り居住する父Aと別居しそれぞれ世帯を別にしていたこと、被控
訴人はとび職、Aは大工の職にあり、仕事の上で両者はたがいに交渉はなかつたけ
れども、不断からしばしば往き来をする間柄であつて、本件事故も、丸亀市内のA
方に被控訴人の妻が置き忘れてきた物をAが被控訴人宅へ届けてやつた際、たまた
ま丸亀市方面へ赴く用件のあつた被控訴人に頼まれて本件二輪車の荷台に同乗さ
せ、自宅へ帰る途中に発生したものであることが認められ、右認定に反する証拠は
ない。しかして、右のごとき事実関係からすると、なるほど被控訴人とAとは同一
の家族共同体に属するものとはいえず、また、経済的基盤を共通にするものとも認
めることはできないけれとも、他方、Aと被控訴人とが親子の関係にあり、しか
も、本件事故が、被控訴人よりAに頼んで本件二輪車の荷台に同乗させてもらい、
自己の用件のため丸亀市方面へ赴く途中に生じたものであるところがらすれば、被
控訴人の被つた損害のうちAの過失に帰因する部分は、控訴人らよりはむしろ被控
訴人自身の負担に帰せしめるのが公平と認められることもこれを否定することがで
きないのである。そうだとすると、前説示のとおり、Aと被控訴人との間には「身
分上もしくは生活関係上一体をなすとみられるような関係」が存在し、したがつ
て、Aの過失は被害者側の過失にあたるものと認めて、被控訴人の被つた損害の額
の算定に際してもこれを斟酌するのが相当であるといわなければならない。
 しかるところ、被控訴人は、本件事故により金二三万六、五五三円の得べかりし
利益を喪失し、Aの葬式費用、墓碑建設費、仏壇仏具購入費として合計二一万五、
〇〇〇円を支出したものと認められるから(その理由は原判決理由中の説示のとお
りである。ただし、原判決二〇枚目裏一二行目の「金六万円」を「金五万円」と訂
正する。)、控訴人らが被控訴人に賠償すべき被控訴人固有の財産的損害の額は、
Aの前記過失を斟酌して、右金額からその寄与率七割を乗じた額を控除して逸失利
益の額は金七〇、九六五円、葬式費用等の額は六四、五〇〇円と算定するのが相当
である。
 (五) Aの死亡による慰籍料について。
 本件事故のため、被控訴人の父Aが頭蓋骨々折、頭蓋内出血等の重傷を負い、事
故の三日後である昭和四二年六月一四日国立善通寺病院において死亡するにいたつ
たことは当事者間に争いのないところ、本件事故の態様、被害の程度、控訴人Bお
よびAの過失の割合その他一切の事情を考慮すれば、右事故によつてAの被つた精
神的損害を慰籍すべき慰籍料の額は金六〇万円と認めるのが相当である。さらに、
被控訴人が右Aの唯一人の子であることは当事者間に争いのないところ、本件事故
によつて父Aを失つたことによつて被控訴人が多大の精神的苦痛を受けたことは明
らかであつて、Aの前記過失、年令その他諸般の事情を斟酌すれば、その慰籍料の
額は金四〇万円と認定するのが妥当である。
 (六) 被控訴人が相続によつて取得した本件事故による損害賠償請求権の額に
ついて。
 Aの相続人が妻であるE(一審原告)および唯一人の子である被控訴人のみであ
つて他に相続人が存在しないことは控訴人らの争わないところであるから、被控訴
人はAの死亡に伴い、前記九二万四、〇四八円(逸失利益)の三分の二に当る金六
一万六、〇三二円の賠償請求権ならびに右慰籍料六〇万円の三分の二に当る金四〇
万円の慰籍料請求権を相続によつて取得したこととなる(慰籍料請求権もまた、財
産的損害の賠償請求権と同様、当然に相続の対象となるものと解する。)。
 (七) 損害の一部填補について。
 Aの死亡に伴い、自動車損害賠償責任保険金として被控訴人が金一〇〇万円を受
領したことは被控訴人の自認するところであり、当審証人Fの証言によれば、右保
険金は、Aの死亡によつて被控訴人自身が被つた精神的損害を賠償すべき慰籍料、
葬祭費ならびにAの死亡による逸失利益の賠償に充当さるべきものとして給付され
たものであることが認められるから、前認定の慰籍料四〇万円(一の(五)の後
段)、葬式費用等六四、五〇〇円(一の(四))はいずれも右保険金によつて填補
され、逸失利益六一万六、〇三二円(一の(六))も内金五三万五、〇〇〇円(一
〇〇万円より右四〇万円および六四、五〇〇円を控除した金額)はすでに填補さ
れ、残額八〇、五三二円のみが現に賠償さるべきAの死亡による逸失利益の額であ
る。また、被控訴人みずからが本件事故によつて受傷したことにもとづき控訴人ら
に対して取得した財産的損害のうち得べかりし利益の喪失による損害が七〇、九六
五円(一の(四))、慰籍料の額が三〇万円(一の(三))であることは前記のと
おりであるか、被控訴人が右受傷にもとづく休業補償費ならびに慰籍料として、自
動車損害賠償責任保険金二七万三、七〇〇円を受領していることは当事者間に争い
がないから、右の合計額からこれを控除した九七、二六五円が現に賠償さるべき損
害の額である。
 (八) 相殺の抗弁について。
 そこで次に、控訴人らの相殺の抗弁について考えるに、債務が不法行為によつて
生じたときには、その債務者が相殺をもつて債権者に対抗することができないこと
は民法五〇九条の明定するところであるから、不法行為であることの明らかな本件
事故によつて生じた被控訴人の損害賠償請求権を受働債権とする<要旨第二>相殺の
抗弁は、その主張自体において失当であるかのごとくみえないわけではない。しか
しながら、ひるがえつて考えてみるに、本件の場合のごとく、同一の衝
突事故から双方に生じた損害賠償請求権相互の間においてまで右法条を適用して相
殺を禁止すべき合理的理由が存在すると言いうるかどうか、きわめて疑問であると
いわざるをえない。すなわち、民法五〇九条は、不法行為の被害者をして現実の弁
済により損害の填補を受けしめるとともに、不法行為の誘発を防止することを目的
とする規定であるが、双方の過失による自動車の衝突の場合のように、同一の事故
にもとづいて同時に、しかも双方相互に損害賠償請求権が生じたときには、現実の
弁済によつて損害を填補すべきことを要請される全く同じ性質の債務(その点で
は、一方が財産的損害の賠償債務、他方が精神的損害の賠償債務であつてもなんら
異なるところはない)が同時かつ相互に発生したことになるわけであるから、現実
の弁済による損害の填補の要請を理由にこれらの債務相互間の相殺を禁止すること
は無意味であり、場合により不公平でもあるといわざるをえず、また、これを許し
ても、不法行為が誘発されるというような弊害が生ずる虞れは全くないといわなけ
ればならないのである。そうだとすると、右のような場合においては民法五〇九条
の適用はなく、一方の損害賠償債権をもつて他方の損害賠償債権と相殺することは
なんら差し支えがないと解するのが相当である。
 そこで、右相殺の抗弁の当否について検討するに、成立に争いのない乙第七ない
し第九号証、当審証人Gの証言によると、本件衝突事故の結果、控訴人Bの運転し
ていた控訴会社所有の乗用車が修理不能なまでに大破したこと、そのため、控訴会
社が控訴人ら主張のごとく金一七万円の損失を被つたことがそれぞれ認められる。
しかして、右事故の発生についてAの過失が七割の率で寄与していることは前記の
とおりであるから、Aは控訴会社に対し、右金額から控訴人Bの過失の寄与率三割
を乗じて得た金額を控除した(控訴人Bは控訴会社の被用者であるから、右損害額
の算定に際してその過失を斟酌しうることはいうまでもない)金一一万九、〇〇〇
円の賠償債務を負担したものというべく、右債務はAの死亡により、被控訴人にそ
の相続分(三分の二)に応じて相続されたものといわなければならない。したがつ
て、控訴会社は被控訴人に対し、本件事故にもとづく損害賠償債権金七万九、三三
三円(円未満切捨)を取得したものというべきところ、控訴代理人が本訴におい
て、昭和四五年六月二三日付の準備書面により被控訴人に対し、右債権をもつて本
訴請求の損害賠償債権(ただし、当審での請求拡張部分を除く)と対当額で相殺す
る旨の意思表示をなし、右書面がそのころ被控訴人に到達したことは記録上明らか
なところであるから、本訴債権中当審での請求拡張部分を除く金一七万七、七九七
円(前記一の(七)の残額の合計額)はその限度において本件事故当時に遡つて消
滅するにいたつたものであつて、その残額は九万八、四六四円であるといわなけれ
ばならない。
 二 以上のとおりであるとすると、被控訴人の本訴請求(当審での新請求を除
く)は各金九万八、四六四円およびこれに対する本件事故の日より後であることの
明らかな昭和四二年一二月一〇日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅
延損害金の支払いを求める限度で正当であるが、その余は失当であり、また、被控
訴人の当審での請求拡張部分(新請求)は各金四〇万円およびこれに対する右昭和
四二年一二月一〇日以降完済まで右同率の遅延損害金の支払いを求める限度で理由
があるが、その余は理由がない。よつて、控訴人らの控訴ならびに被控訴人の附帯
控訴にもとづいて、右と異なる原判決をその限度で変更することとし、訴訟費用の
負担につき民訴法九六条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を
各適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 橘盛行 裁判官 今中道信 裁判官 藤原弘道)

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