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平成17年(行ケ)第10321号 審決取消請求事件
平成17年7月19日判決言渡,平成17年7月5日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 株式会社伊予エンジニアリング
 訴訟代理人弁護士 吉武賢次,宮嶋学,弁理士 安形雄三,五十嵐貞喜
 被 告 超次元空間情報技術株式会社
 訴訟代理人弁護士 上谷清,宇井正一,萩尾保繁,笹本摂,山口健司,弁理士 
角田芳末
     主    文
 特許庁が無効2003-35474号事件について平成16年7月21日にした
審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文と同旨の判決。
第2 事案の概要
 本件は,特許を無効とする審決の取消しを求める事件であり,原告は無効とされ
た特許の特許権者,被告は無効審判の請求人である。
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 原告は,発明の名称を「既存データベース機能向上支援ツール」とする特許
第3053741号(平成7年1月13日出願,平成12年4月7日設定登録。以
下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
 (2) 被告(平成16年6月24日組織変更前の商号・超次元空間情報技術有限会
社)は,平成15年11月18日,本件特許について無効審判の請求をした(無効
2003-35474号事件として係属)。これに対し,原告は,平成16年4月
30日,訂正(以下「本件訂正」という。)を請求し,さらに,同年6月17日付
け手続補正書により本件訂正請求の内容を補正した。
 (3) 特許庁は,平成16年7月21日,「特許第3053741号の請求項1乃
至4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年8月2日,そ
の謄本を原告に送達した。
 2 本件発明の要旨
 【請求項1】 地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形の画像情報を処理
対象として,予め記憶された前記画像情報のデータベースに基づいて前記図形の任
意の部分の画像を表示する機能を有するコンピュータシステムにおける既存データ
ベース機能向上支援ツールにおいて,利用者の文字情報を付加する対象物の領域を
前記表示された図形の画像上にて指定する対象物指定手段と,既存のデータベース
から抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を
各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情報登録
手段と,入力された文字情報を検索キーとして前記登録された文字情報群を検索
し,検索された文字情報に対応して登録されている前記対象物の領域情報に基づき
前記図形の画像上での当該対象物の位置を求める画像位置検索手段と,前記画像位
置検索手段により求めた当該対象物の位置が所定位置に配置されるように表示領域
を調整して当該対象物を含む図形の画像を表示すると共に,前記検索された文字情
報を前記当該対象物と関連付けて合成して表示する利用者情報表示制御手段とを備
えたことを特徴とする既存データベース機能向上支援ツール。
 【請求項2】 前記利用者情報登録手段は,文字情報を登録する際に,前記指定
された一つの対象物に対して複数の異なる文字情報を対応付けて登録できる共に,
前記指定された複数の対象物に対して同一の文字情報を対応付けて登録できるよう
になっている請求項1に記載の既存データベース機能向上支援ツール。
 【請求項3】 前記文字情報と共に利用者のイメ-ジ情報を当該対象物の関連情
報として付加できるようになっている請求項1又は2に記載の既存データベース機
能向上支援ツール。
 【請求項4】 前記コンピュータシステムが,受信した移動体の位置情報に基づ
き当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムである請求項1乃至3のい
ずれかに記載の既存データベース機能向上支援ツール。」
 3 審決の理由の要旨
 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正は認められないとし
た上,本件発明は,明細書及び図面の記載が不備であり,特許法36条5項1号,
2号に規定する要件を満たしていない発明であるから,本件特許は,特許法36条
5項1号,2号の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項4号に該
当し,無効とすべきである,というものである。
 (1) 訂正の適否についての判断
 (1-1) 訂正請求に対する補正の適否について
 本件訂正請求に対する平成16年6月17日付けの手続補正書による補正は,訂
正請求書の要旨を変更するものでなく,特許法134条5項において準用する同法
131条2項の規定に適合する。
 (1-2) 訂正の内容
 ・・・
 カ 訂正事項6(補正前の訂正事項7)
 明瞭でない記載の釈明を目的として,明細書の段落【0027】8行(特許第3
053741号公報5頁左欄7行乃至8行)における「テキストファイルTX1に
出力する。」を「テキストファイルTX1に出力する。文字情報登録手段32で
は,テキストファイルTX1を入力し,前述のステップS15で説明したように該
当の図形情報と文字情報との対応付けを行ない,同図(C)に示すように,文字情
報を文字情報記憶部42に登録する。なお,利用者により登録指示がされ,図形情
報との対応付けが行われた文字情報(図10(C)の例では“KEYA”~“KE
YE”)は,図8に示したように,該当の図形情報に対応する管理コードと共に文
字情報記憶部42に登録される。」と訂正する。
 ・・・
 (1-3) 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び拡張・変更の存否
 訂正事項6(補正前の訂正事項7)について
 被請求人は,『(4-6)訂正事項6は,【請求項1】に記載の「既存のデータ
ベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字
情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情
報登録手段」について,詳細な説明の何処に記載されているのかを明瞭にするた
め,「テキストファイルTX1に出力する。文字情報登録手段32では,テキスト
ファイルTX1を入力し,前述のステップS15で説明したように該当の図形情報
と文字情報との対応付けを行ない,同図(C)に示すように,文字情報を文字情報
記憶部42に登録する。なお,利用者により登録指示がされ,図形情報との対応付
けが行われた文字情報(図10(C)の例では“KEYA”~“KEYE”)は,
図8に示したように,該当の図形情報に対応する管理コードと共に文字情報記憶部
42に登録される。」と訂正するものである。』と述べているが,この記載からす
ると,請求項の発明を特定する事項が,もともと発明の詳細な説明に記載されてい
なかったことを,被請求人自身が認めているようなものである。
 もともと,発明の詳細な説明に記載されていることならば,詳細な説明の何処に
記載されているのかを明示するだけで足りるのであるから,わざわざ訂正を行う必
要のないことであり,明瞭にするために訂正をする必要がないはずである。
 さらに,この記載内容を検討する。
 ステップS15には,テキストファイルTX1を入力して登録することは記載さ
れていない。
 ステップ15において,図8の文字情報記憶部42に登録されるのは,次の段落
【0019】~【0021】の記載から明らかなように,利用者が登録指示をした
とき,文字情報記憶部42には,図形情報に対応する管理コードと共に文字情報が
登録されているのである。
 一方,図10(C)に示される,文字情報記憶部42に展開されるものは,KE
YA,KEYB,・・・KEYE等の検索キー情報である。これは,利用者が「フ
ァイル指定」の検索コマンドを指示し,テキストファイルTX1のファイル名を入
力して検索指示を行なうと,画像位置検索手段33が,テキストファイルTX1か
ら文字情報群を読み込み,区分情報で区分された各データを各検索キーと見なし,
同図(C)に示すように,検索キーとして文字情報記憶部42に展開するのであ
る。
 このように,ステップ15では文字情報記憶部42には,図形情報に対応する管
理コードと共に文字情報が登録され,「ファイル指定」による検索において,10
図(C)には文字情報記憶部42には検索キーが展開されるのである。このよう
に,ステップ15で文字情報記憶部42に登録された文字情報と,「ファイル指
定」による検索において10図(C)に文字情報記憶部42に展開される文字情報
とは,異なることは明らかである。これを,「文字情報登録手段32では,テキス
トファイルTX1を入力し,前述のステップS15で説明したように該当の図形情
報と文字情報との対応付けを行ない,同図(C)に示すように,文字情報を文字情
報記憶部42に登録する。」と訂正することは,明らかに誤りであり,明細書の記
載を不明確にするものである。
 したがって,当該訂正は,明瞭でない記載の釈明ではないので,当該訂正は特許
法126条1項で規定する目的に適合していない。
 以上のとおりであるから,上記訂正事項6の訂正は,特許法126条1項の規定
に適合しないので,当該訂正は認められない。
 (2) 記載要件の無効理由についての審決の判断
 (2-1) 『「既存データベース機能向上支援ツール」とはどのようなものか不明で
ある』について
 ア 段落【0007】には,「本発明は上述した事情から成されたものであり,
本発明の目的は,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形・画像の任意の位
置に対して,既存の各種データベースの情報を関連づけて付加することができる既
存データベース機能向上支援ツールを提供することにある。さらに,本発明の他の
目的は,付加した文字情報を検索キーとして図形・画像の当該位置を検索して所望
の画像を表示できる既存データベース機能向上支援ツールを提供することにあ
る。」と記載されているように,本発明の目的が記載されているだけで,「既存デ
ータベース機能向上支援ツール」の構成は記載されていない。
 イ 「既存データベース機能向上支援」の用語については,被請求人の述べる,
「上記既存データベースの情報を活用して各種の情報処理機能(情報の対応付け,検
索,表示等に係る機能)の向上を支援すること」とは明細書には記載されていない。
 「既存データベース機能向上支援」を文字どおりに理解すると,既存データベー
スの機能の向上を支援するの意味にとるのが普通であり,既存データベースの情報
を活用して各種の情報処理機能の向上を支援するとの意味に解することはできな
い。
 「各種の情報処理機能を向上させる手段」とは,本件明細書にでてこない言葉で
ある。
 請求項1に記載されている,「既存データベース機能向上支援ツール」は,「対
象物指定手段」と,「利用者情報登録手段」と,「画像位置検索手段」と,「利用
者情報表示制御手段」とを備えたことを特徴すると記載されている。その内,「利
用者情報登録手段」と,「画像位置検索手段」と,「利用者情報表示制御手段」と
が,「各種の情報処理機能を向上させる手段」であることは,明細書のどこにも記
載されていない。
 ウ 【図1】に示される「文字情報と画像の合成装置」の破線枠内の部分(中央処
理部3内の符号31~34で示される部分と,情報記憶部内4の符号41~43で
示される部分)が「既存データベース機能向上支援ツール」に相当することは,明細
書には記載されていない。
 「文字情報と画像の合成装置」と,「コンピュータシステム」との関係が不明で
あり,「文字情報と画像の合成装置」の一部である破線枠内の部分が「既存データ
ベース機能向上支援ツール」に相当するとは認められない。
 エ むすび
 (ア) 被請求人は,意見書の5-3-2の「コンピュータシステム」の説明におい
て,
『「コンピュータシステム」とは,「本件特許発明である既存データベース機能向
上支援ツールの適用対象となるコンピュータシステム」のことである。』,
『実施例では,上記のようなコンピュータシステムの主要部のハードウエア構成例
が,図1中に「入力装置1,表示装置2,中央処理部3,情報記憶部4,画像ファ
イル5」として例示されている。』
と述べている。
 (イ) 「ツール」の意味について,
 「ツール」の意味は,通常では,工具,道具であるが,本件発明の属する技術分
野においては,ソフトウェア,またはソフトウェアの一部のことを指している。
 (ウ) 本件発明での「既存データベース機能向上支援ツール」の意味について
 被請求人の「コンピュータシステム」の説明などを参照すると,「既存データベ
ース機能向上支援ツール」は,コンピュータシステムのプログラムの意味に使用し
ているものと認められるが,定かではなく,本件発明では,「既存データベース機
能向上支援ツール」の意味は明確ではない。
 (エ) したがって,請求項1には,「既存データベース機能向上支援ツール」を道
具の意味として装置の概念と,また,「既存データベース機能向上支援ツール」を
コンピュータシステムのソフトウェアとした概念との,異なる概念が一つの請求項
に存在することとなるため,請求項1に係る発明を明確に把握することができな
い。
 (オ) 付け加えると,
「既存データベース機能向上支援ツール」を道具の意味として装置として考えた場

 ソフト関連発明では,コンピュータシステムは装置であるから,入力装置1,表
示装置2,中央処理部3,情報記憶部4,画像ファイル5とから構成されるコンピ
ュータシステムは,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形・画像の任意の
位置に対して,利用者の各種データベースの情報を関連づけて付加することができ
るという機能を実現する装置である。
 また,対象物指定手段と,利用者情報登録手段と,画像位置検索手段と,利用者
情報表示制御手段とを備えた「既存データベース機能向上支援ツール」も,地図,
設計図,各種構造物の構造図などの図形・画像の任意の位置に対して,既存の各種
データベースの情報を関連づけて付加することができるという機能を実現する装置
である。
 すると,「コンピュータシステムにおける既存データベース機能向上支援ツー
ル」の,「コンピュータシステム」と「既存データベース機能向上支援ツール」は
等しいこととなり不明確である。
 (カ) さらに,「既存データベース機能向上支援ツール」をコンピュータシステム
のソフトウェアとしての概念とした場合
 尚,本件発明の出願時には,コンピュータ・ソフトウエア関連発明において,請
求項の末尾が「プログラム」の発明は認められていなかったので,たとえ可能であ
ったとしてもの話であるが,
 請求項1の「既存データベース機能向上支援ツール」は,対象物指定手段と,利
用者情報登録手段と,画像位置検索手段と,利用者情報表示制御手段とを備えた既
存データベース機能向上支援ツールである。しかし,「プログラム」は,コンピュ
ータを手段として機能させるものではあるが,「プログラム」そのものが「手段」
として機能するものではない。したがって,「プログラム」そのものが機能実現手
段を備えていることはあり得ず請求項1に係る発明を明確に把握することはできな
い。
 このように,請求項1の「既存データベース機能向上支援ツール」の記載は,被
請求人の説明を見ても依然として不明瞭である。したがって,特許請求の範囲の記
載に,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載され
ているものとは認められない。
 (2-2) 『「対象物指定手段」は,実施例ではどれにあたるのか不明である。』に
ついて
 被請求人は,「対象物指定手段」とは,「キーボードやマウス,ライトペン等の
操作手段を有する入力装置1」,あるいは,「ドローツール」であると述べてい
る。
 「対象物指定手段」については,出願当初の明細書には記載されておらず,補正
により加えられたものであり,明細書に説明されていない文言である。
 請求項1に記載されている,「対象物指定手段」は,「利用者の文字情報を付加
する対象物の領域を前記表示された図形の画像上にて指定する対象物指定手段」と
記載されている。
 「入力装置1」は,「画像上の所望の位置をその領域を囲む図形を作画して指定
する」と記載されているので,「対象物指定手段」に相当する。
 しかし,「ドローツール」については,「ドローツールとは,キャンパス上に図
形を配置して画像を作成していくツールであり,配置した図形は,移動,更新,削
除などの操作を行うことができる。」と記載されており,「利用者の文字情報を付
加する対象物の領域を前記表示された図形の画像上にて指定する」とは記載されて
いない。
 したがって,「対象物指定手段」が,「ドローツール」であるとの,被請求人の
主張は誤りである。
 (2-3) 『「利用者情報登録手段」は,実施例ではどれにあたるのか不明であ
る。』について
 被請求人は,『「利用者情報登録手段」は,・・・図形情報登録手段31と文字
情報登録手段32が該当し』と述べている。
この点について検討する。
 ア 請求項1には,「利用者情報登録手段」については,「既存のデータベース
から抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を
各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情報登録
手段」と記載されている。
 イ 発明の詳細な説明からみると,図形情報登録手段31と,文字情報登録手段
32とは次のようなものである。
 図形情報登録手段31とは,利用者が入力装置1を用いて,画像上の所望の位置
をその領域を囲む図形を作画して指定し,作画された図形の作画情報と共に,画像
上の座標値を図形情報として,情報記憶部4内の図形情報記憶部41に登録するも
のである。
 文字情報登録手段32とは,作画して指定した場所に対し,その場所を管理する
ための任意の文字情報を,入力装置1から入力し,文字情報の入力は,入力装置1
を介してユーザデータベースDB等から入力したり,キーボード等から直接入力す
るものであり,入力された文字情報を,情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登
録するのものである。この利用者が登録した文字情報を検索キーとして,画像上の
対応する位置を検索することができる。
 ウ 請求項1の記載と,発明の詳細な説明とを比較してみると,請求項1の「利
用者情報登録手段」は,その記載は不明瞭であるが,あえて比較するならば,文字
情報登録手段32に相当するかもしれないが,被請求人が述べているような,文字
情報登録手段32と図形情報登録手段31との両方には相当しない。
 エ 請求項1には,図形の作画情報及び位置情報を図形情報として記憶装置に登
録する図形情報登録手段に相当するものが記載されていない。
 オ 参考までだが,出願当初の特許請求の範囲には,図形情報登録手段が発明の
構成要件となっている。
 カ したがって,請求項1には,特許を受けようとする発明の構成に欠くことが
できない事項のみが記載されていると認められない。
 (2-4) 『「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式の
ファイルを入力し」とされているが,これはどのようなことなのか不明である。』
について
 被請求人は,意見書で,『「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成
るテキスト形式のファイルを入力し」とは,”既存データベースから抽出した文字
情報群(複数の文字情報)を構成要素とするファイルで,且つ,ファイルの形式がテ
キスト形式のファイルを入力する”という意味である。
   ・・・(中略)・・・
 以上のように,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト
形式のファイルを入力し」の事項については,段落【0013】,段落【001
9】,及び【図10】に明瞭に記載されている。
 なお,上記【図10】(本発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明する
ための図)の説明は,段落【0027】にも詳述されている。』と述べている。
 ア 図10について
 段落【0027】には,『次に,「ファイル指定」による検索手順,すなわち,
複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具体例
を示して説明する。例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が
格納されたユーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ“KEYA”
~“KEYE”が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場
合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分
KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すよう
に,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。』と記載さ
れている。
 ここでは,「ファイル指定」による検索について記載されているが,「既存のデ
ータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て
登録することについては記載されていない。
 図10(C)には,テキストファイルTX1のファイル名を入力して検索指示を
行うとき,テキストファイルTX1からの文字情報情報が,各検索キーと見なし
て,文字情報記憶部42に展開されたものが示されており,図8の文字情報記憶部
42に示されているような,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字
情報群が示されているものではない。すなわち,発明の詳細な説明には,既存のデ
ータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力して,
管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群(図8の文字情報記憶
部42に示されているような,)に,どのようにして登録するのかは明示されてい
ない。また,当業者が通常に考えられることとも認められない。
 イ 段落【0013】について
 段落【0013】には,「利用者は,作画して指定した場所に対し,その場所を
管理するための任意の文字情報を入力装置1から入力する。入力装置1を介してユ
ーザデータベースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によっ
て情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登録される。」と記載されている。
 この記載からでは,既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキス
ト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域と対応付けて,図8に示
されるように当該対象物の登録済みキー情報として登録することが,どのようにな
されるのか不明であり,ただ,文字情報が入力装置1を介してユーザデータベース
DB等から入力されることが記載されているにすぎない。
 ウ 段落【0019】について
 段落【0015】~【0022】には,本発明に係る文字情報と画像の合成方法
をフローチャートを参照として説明しており,一例として,関連情報をキーボード
等から直接入力する場合が示されている。段落【0019】には,「関連情報が入
力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当の図
形情報と文字情報との対応付けを行ない,文字情報を文字情報記憶部42に登録す
る。」と記載されている。しかし,これらの段落には,「既存のデータベースから
抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することに
ついては記載されていない。
 エ このように,発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから抽出した文
字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについては記
載されていないと認められる。
 したがって,この記載は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。
 (2-5) 『【請求項3】について(1)「前記文字情報と共に利用者のイメ-ジ情
報を当該対象物の関連情報として付加できる」と記載されているが,段落【003
3】には「上述した実施例においては,文字情報を関連情報として付加する場合を
例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報
として指定することも可能である。また,背景画像となる図形は任意であって,地
図に限るものでな」と記載されているのみである。この「共に」と記載する根拠は
詳細な説明の何処に記載されているのか不明である。』について
 被請求人も,『出願時の技術常識を参酌して総合的に解釈すると,【請求項3】
における「前記文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物の関連情報とし
て付加できるようになっている」の記載は,発明の詳細な説明の段落【0033】
に記載されているのと同然と理解する事項である。』と自認するように,「前記文
字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物の関連情報として付加できるよう
になっている」の記載は,発明の詳細な説明には記載されていない。(出願時の技
術常識とはどのようなものかもについては,被請求人は明示していない。)
 被請求人は,『「利用者のイメージ情報」とは,具体的には,段落【0033】
に記載されているように,任意のマーク等のイメージ情報である。』と述べてい
る。
 段落【0025】には,「表示制御手段34は,図形G1の領域内を反転表示し
て該当の場所を明示する。ここで,該当の場所は,図形G1を合成して表示,或い
は領域内を背景画像と異なる色で表示することで明示するようにしても良い。ま
た,文字情報を別ウィンドウでなく,同一ウィンドウ内に当該の場所と対応付けて
表示(引出し線,矢印,符号等での対応付けにより表示)するようにしても良
い。」と記載されており,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に
関連情報として付加できる」とは何処にも記載されていない。
 また,段落【0033】には,「文字情報を関連情報として付加する場合を例と
して挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報とし
て指定することも可能である。また,背景画像となる図形は任意であって,地図に
限るものでない。」と記載されているだけであり,被請求人が述べるようなこと
は,すなわち,「段落【0033】中の記載は,当該対象物に付加できる関連情報
としては,文字情報の他に,イメージ情報,色情報などがあり,これらの情報を自
由に組み合わせたものが,関連情報として付加できる,という意味である。」よう
なことは,記載されていない。
 したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に
関連情報として付加できる」との記載は,発明の詳細な説明に記載されたものでは
ない。
 (2-6) 『【請求項4】について,本件発明の詳細な説明には,受信した移動体の
位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムについて
は,従来の技術には記載されているが,実施例として記載されていない。これを発
明とする根拠はどこにあるのか不明である。』について
 被請求人は『【実施例】に明示的な記載がなくとも,本件請求項4に記載の事項
は,上記段落【0006】,【0007】の記載から自明な事項,すなわち,当初
明細書等に接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,その意味である
ことが明らかであって,その事項が【実施例】に記載されているのと同然と理解す
る事項である。』と述べている。
 これについて検討すると,請求項4には「前記コンピュータシステムが,受信し
た移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム
である請求項1乃至3のいずれかに記載の既存データベース機能向上支援ツー
ル。」と記載されている。
 発明の詳細な説明では,従来例において,ナビゲーション・システムが記載され
ているが,実施例の,コンピュータシステムが,ナビゲーション・システムである
ことは記載されておらず,実施例には受信した移動体の位置情報に基づき当該移動
体の位置を地図の画像上に表示するシステムについては記載されていない。
 ナビゲーション・システムが従来例に記載されていたからといって,【実施例】
に記載されているのと同然と理解して,請求項4に係る発明とすることはできな
い。
 (2-7) むすび
 以上のとおり,本件発明は,明細書及び図面の記載が不備であり,請求項1に係
る発明は,特許法(平成6年法律第116号による改正前のもの,以下同じ。)3
6条5項1号,2号に規定する要件を満たしていない。
 また,請求項2乃至4は請求項1を引用しているので,請求項1と同様に特許法
36条5項1号,2号に規定する要件を満たしていない。
 (3) 結び
 以上のとおりであるから,本件発明は,特許法36条5項1号,2号に規定する
要件を満たしていない発明であるから,本件特許は,特許法36条5項1号,2号
に規定に違反してなされたものであり,同法123条1項4号に該当し,無効とす
べきものである。
第3 当事者の主張の要点
 1 原告主張の審決取消事由
 審決は,本件訂正の適否の判断を誤り(取消事由1),本件発明1ないし4につ
いての記載不備の判断を誤った(取消事由2ないし4)ものであるから,取り消さ
れるべきである。
 (1) 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)
 審決は,本件訂正における訂正事項6(補正前の訂正事項7)について,「明ら
かに誤りであり,明細書の記載を不明確にするものである。したがって,当該訂正
は,明瞭でない記載の釈明ではないので,当該訂正は特許法126条1項で規定す
る目的に適合していない。」と認定判断した。
 ア 訂正事項6は,請求項1の「既存のデータベースから抽出した文字情報群か
ら成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域と対応付け
て当該対象物の検索キーとして登録する利用者情報登録手段」が,詳細な説明のど
こに記載されているのかを明瞭にするためのものである。
 そして,請求項1の「利用者情報登録手段」は,本件明細書(甲2の1)の段落
【0012】に説明された図形情報登録手段31,段落【0017】ないし【00
22】及び【0027】に説明された図形情報登録手段31及び文字情報登録手段
32を示しており,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキス
ト形式のファイルを入力し」は,図10に関連した段落【0027】及び【002
8】に説明されており,また,「対象物の領域」は,段落【0016】及び【00
17】に説明されている。
 イ したがって,訂正事項6は,明細書及び図面に開示されているのであって,
本件発明の分野における当業者であれば容易に理解することができる。そして,本
件訂正が認められれば,本件発明の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載内
容は,より一層明確になり,審決が「本件発明は,特許法36条5項1号,2号に
規定する要件を満たしていない」とする理由は,全く根拠のないものとなる。
 (2) 取消事由2(請求項1についての判断の誤り)
 ア 「既存データベース機能向上支援ツール」について
 審決は,「請求項1の「既存データベース機能向上支援ツール」の記載は,被請
求人の説明を見ても依然として不明瞭である。したがって,特許請求の範囲の記載
に,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されて
いるものとは認められない。」と認定判断した。
 (ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,「既存データベース機能向上支援ツー
ル」という用語は使用されていないが,「既存データベース機能向上支援ツール」
とは,文字どおり,既存データベースの機能向上を支援するツールを意味し,本件
明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,当業者が抽出することができる。すな
わち,本件明細書の段落【0006】,【0010】及び【0034】の記載によ
れば,本件発明は,コンピュータシステムを利用し,図形情報又は画像情報と結び
付けて利用者が有している各種データ(既存データベース)の機能を向上させるも
のであることが理解される。そして,請求項1の構成要件として,対象物指定手
段,利用者情報登録手段,画像位置検索手段及び利用者情報表示制御手段が記載さ
れているところ,対象物指定手段,利用者情報登録手段,画像位置検索手段及び利
用者情報表示制御手段はいずれも装置(物)の概念であるから,「既存データベー
ス機能向上支援ツール」も装置(物)である(なお,本件発明の出願当時,「ツー
ル」という用語は,コンピュータ関連発明の分野において一般的に使用されてい
た。)。
 (イ) なお,審決は,「「コンピュータシステムにおける既存データベース機能向
上支援ツール」の,「コンピュータシステム」と「既存データベース機能向上支援
ツール」は等しいこととなり不明確である。」と説示するが,「コンピュータシス
テムにおける既存データベース機能向上支援ツール」とは,審決が説示するよう
に,コンピュータシステムと既存データベース機能向上支援ツールとが等しいこと
を表現するものではなく,コンピュータシステムの中に既存データベース機能向上
支援ツールが存在すること,又は,コンピュータシステムの下位概念として既存デ
ータベース機能向上支援ツールが含まれていることを表現するものである。
 (ウ) したがって,「既存データベース機能向上支援ツール」の記載は明確であっ
て,審決の認定判断は誤りである。
 イ 「対象物指定手段」について
 審決は,「「ドローツール」については,・・・「利用者の文字情報を付加する
対象物の領域を前記表示された図形の画像上にて指定する」とは記載されていな
い。
したがって,「対象物指定手段」が,「ドローツール」であるとの,被請求人の主
張は誤りである。」と判断した。
 (ア) 請求項1の「対象物指定手段」は,本件図面の図1に示され,本件明細書の
発明の詳細な説明に記載された入力装置1に対応する。請求項1の記載によれば,
「対象物指定手段」は「利用者の文字情報を付加する対象物の領域を前記表示され
た図形の画像上にて指定する」ものであり,「対象物の領域を図形の画像上にて指
定」すること,「領域を囲む図形を作画して指定」することは,図形を作画するソ
フトウェアとしての「ドローツール」が作用している。
 (イ) したがって,「対象物指定手段」はドローツールではなく,ドローツールの
機能を含んだ入力装置1に相当するものであり,この点において,審決の判断は誤
りである。
 ウ 「利用者情報登録手段」について
 審決は,「請求項1の記載と,発明の詳細な説明とを比較してみると,請求項1
の「利用者情報登録手段」は,その記載は不明瞭であるが,あえて比較するなら
ば,文字情報登録手段32に相当するかもしれないが,被請求人が述べているよう
な,文字情報登録手段32と図形情報登録手段31との両方には相当しない。」な
どとした上,「請求項1には,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができ
ない事項のみが記載されていると認められない。」と認定判断した。
 (ア) 請求項1には,「利用者情報登録手段」について,「既存のデータベースか
ら抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各
対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録するもの」と記載さ
れ,この記載によれば,「利用者情報登録手段」は,文字情報を登録するだけな
く,各対象物の領域,すなわち,図形と文字情報とを対応付けることが要件になっ
ている。そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,「利用者情報登録手段」と
いう用語は使用されていないが,文字情報登録手段32及び図形情報登録手段31
は,いずれも利用者が登録時に使用し,文字情報群と対象物の領域との対応をとり
ながら登録する手段であるから,「利用者情報登録手段」は,文字情報登録手段3
2及び図形情報登録手段31を指しているということができる。
 (イ) したがって,請求項1には,文字情報登録手段32及び図形情報登録手段3
1の機能を有する手段としての利用者情報登録手段が記載されているから,審決の
認定判断は誤りである。
 エ 「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファ
イルを入力し」について
 審決は,「発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報
群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについては記載され
ていないと認められる。したがって,この記載は,発明の詳細な説明に記載された
ものではない。」と認定判断した。
 (ア) 本件明細書の図面の簡単な説明には,「【図10】本発明における文字情報
の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されているから,図1
0は,本来,文字情報の登録方法の説明に使用されるべきものである。ところが,
図10を引用する段落【0027】には,ファイル指定による検索についての記載
があるのみで,ファイル指定による文字情報登録についての記載が省略されてお
り,その説明が不明瞭なものになっている。
 (イ) しかし,段落【0027】は,「ファイル指定」による検索についての記載
がされており,図10(A)には,文字情報群が格納されたユーザデータベースD
1の例が示され,図10(B)には,改行データを区分情報としたテキストファイ
ルTX1が示され,図10(C)には,テキストファイルTX1のファイル名を入
力して検索指示を行うときに,テキストファイルTX1から読み込んだ文字情報
を,各検索キーと見なして文字情報記憶部42に展開したものが示されている。ま
た,段落【0028】には,「テキストファイルから文字情報記憶部42に作成し
た,検索する画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼び,作画し
た図形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理コード
が付与されて登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と呼
ぶ。」と記載されているところ,「テキストファイルから文字情報記憶部42に作
成した」は,「検索する画像上の位置を表わす文字情報群」と「作画した図形に対
して付加した文字情報群」とにかかる。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説
明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形
式のファイルを入力し」て登録することについて記載されていると解することがで
きる。
 (ウ) したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデータベースか
ら抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録すること
について記載されているから,審決の認定判断は誤りである。
 (3) 取消事由3(請求項3についての判断の誤り)
 審決は,「請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関
連情報として付加できる」との記載は,発明の詳細な説明に記載されたものではな
い。」と判断した。
 ア 請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報
として付加できる」とは,その技術内容からして,「文字情報と一緒に利用者のイ
メージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」,又は,「文字情報及び利
用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との意味であり,
文字情報と利用者のイメージ情報の両方を当該対象物に関連情報として付加できる
ということである。
 イ 本件明細書の段落【0033】には,「上述した実施例においては,文字情
報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ
情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である。」と記載さ
れている。
 この記載を,「文字情報と共に任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報な
どを関連情報とし指定することも可能である」と解釈するならば,請求項3の内容
は,段落【0033】に記載されていることになる。また,この記載を,「文字情
報に代えて,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として
指定することも可能である」と解釈するとしても,段落【0021】には「一つの
図形情報に対して複数の文字情報(検索キー)を指定しても良く,…図形情報と文
字情報との対応は任意に指定して登録することができる」と記載されているから,
発明の詳細な説明には,関連情報として指定した「文字情報+文字情報」など複数
の文字情報に代えて,イメージ情報を指定すること,すなわち,「文字情報+イメ
ージ情報」など,1以上の文字情報と1以上のイメージ情報とを組合せたものを対
象物の関連情報として指定することができることが明確に記載されているというこ
とができる。
 ウ したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象
物に関連情報として付加できる」との記載は,発明の詳細な説明に記載されている
から,審決の判断は誤りである。
 (4) 取消事由4(請求項4についての判断の誤り)
 審決は,「ナビゲーション・システムが従来例に記載されていたからといって,
【実施例】に記載されているのと同然と理解して,請求項4に係る発明とすること
はできない。」と判断した。
 ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,【従来の技術】の項に,地図情報シス
テムであるGIS,FM,ナビゲーション・システムの問題点がそれぞれ挙げら
れ,【発明が解決しようとする課題】の項に,その解決を図るのが本件発明である
ことが記載されている。そして,従来技術の課題を解決するための発明の具体的な
構成が【実施例】に記載されている。
 イ したがって,請求項4に記載の発明は,発明の詳細な説明に記載されている
から,審決の判断は誤りである。
 2 被告の反論
 (1) 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)に対して
 原告は,本件訂正における訂正事項6(補正前の訂正事項7)についての審決の
認定判断に対し,何ら具体的に答えていないのであって,審決の認定判断に誤りは
ない。
 (2) 取消事由2(請求項1についての判断の誤り)に対して
 ア 「既存データベース機能向上支援ツール」について
 (ア) 本件明細書の段落【0006】は本件発明の課題を記載した部分であり,段
落【0007】は本件発明の目的を記載した部分であり,段落【0010】は本件
発明の作用を記載した部分であり,段落【0034】は本件発明の効果を記載した
部分であるが,これらの各段落の記載をみても,本件発明が,コンピュータシステ
ムを利用して,図形情報又は画像情報と結び付けて利用者が有している各種データ
(既存データベース)の機能を向上させるものであると理解することは困難であ
る。また,対象物指定手段,利用者情報登録手段,画像位置検索手段及び利用者情
報表示制御手段は,請求項1に記載された手段でしかなく,これらの手段が発明の
詳細な説明の実施例及び図面に記載されたどの具体的手段に対応しているのか極め
て不明瞭である。
 (イ) 原告は,平成11年11月9日付けの手続補正書において,「既存データベ
ース機能向上支援ツール」という言葉を付加したが,実施例の記載を含む発明の詳
細な説明の記載については,特段の変更をしていないから,「既存データベース機
能向上支援ツール」が実施例のどの構成部分を具体的に表わすかについて,当業者
といえども明確に把握することができない。
 イ 「対象物指定手段」について
 請求項1の「対象物指定手段」が発明の詳細な説明に記載された実施例の入力装
置1に対応することは争うものではない。
 しかし,本件明細書の段落【0011】には,「ドローツールとは,キャンパス
上に図形を配置して画像を作成していくツールであり,配置した図形は,移動,更
新,削除などの操作を行なうことができる。ドローツールで操作ができる原因とし
て,一つ一つの図形がその種類と配置位置を情報として持っていることが挙げられ
る。」と記載されているが,請求項1において,「対象物指定手段」を修飾ないし
は限定する記載である「利用者の文字情報を付加する対象物の領域を前記表示され
た図形の画像上にて指定する」という記載とは対応していないから,「対象物指定
手段」がドローツールの機能を含むかどうかについては,本件明細書の記載では明
確でない。
 ウ 「利用者情報登録手段」について
 請求項1の記載から明らかなように,「利用者情報登録手段」は,「既存のデー
タベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文
字情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する」手段
である。これに対し,本件発明の実施例(図1)の「図形情報登録手段31」は,
段落【0017】の記載から明らかなように,「作画された図形G1の作画情報と
共に,画像上の座標値を図形情報として図形情報記憶部41に記憶する」手段であ
り,それ以外のものではない。「利用者情報登録手段」は,上記のとおり,「各文
字情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する」手段
であるから,「文字情報登録手段32」に相当するかもしれないが,これが「図形
情報登録手段31」に相当するとは考えられない。
 エ 「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファ
イルを入力し」について
 請求項1は,ファイル入力により登録することが記載されているが,発明の詳細
な説明には,直接入力により登録することについての記載はあるものの,ファイル
入力により登録することについての記載はない。
 図面の簡単な説明には,「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第2
の例を説明するための図である。」と,あたかもファイル入力による登録の方法を
記載しているかのようであるが,図10は,ファイル指定による検索について記載
するのみで,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式
のファイルを入力し」て登録することについて記載していない。また,本件明細書
の段落【0013】及び【0019】のいずれも,「既存のデータベースから抽出
した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについ
て記載していない。
 なお,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のフ
ァイルを入力し」て登録することは,当初の明細書(甲2の3)には記載がなく,
後の補正により付加された部分である。したがって,この箇所の補正は新規事項の
追加にも相当し,審決では直接の争点になっていないが,その意味において,無効
理由を含んでいる。
 (3) 取消事由3(請求項3についての判断の誤り)に対して
 「文字情報と共に」の「共に」の意味は,「いっしょに」あるいは「同時に」と
解すべきところ,段落【0033】の記載からは,「文字情報を付加する代わり
に,任意のイメージ情報,或いは色情報を関連情報として指定することもできる」
と読むことはできるが,「文字情報といっしょに」あるいは「文字情報と同時に」
イメージ情報を付加するものであると読むことは到底できない。
 (4) 取消事由4(請求項4についての判断の誤り)に対して
 従来例と実施例はその記載の趣旨,目的が全く異なり,一方の記載をもって他方
の記載に代えることはできないから,従来例(発明の解決課題【0006】,【0
007】)に記載されている事項をもって,実施例に記載されているのと同然であ
ると理解することはできない。
 段落【0010】の作用の欄には,「文字情報と画像の合成装置及び文字情報が
合成された画像の位置を検索する方法」について記載するのみであり,ナビゲーシ
ョン・システムに関連した技術はどこにも開示されていない。また,実施例の記載
にも,ナビゲーション・システムについての課題を解決するための具体的な構成の
記載はない。
第4 当裁判所の判断
 1 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)について
 (1) 平成16年6月17日付け手続補正書(甲6の8)には,請求の原因とし
て,訂正事項6について,「【請求項1】に記載の「既存のデータベースから抽出
した文字情報群からなるテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物
の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情報登録手段」に
ついて,詳細な説明の何処に記載されているのかを明瞭にするため,・・・訂正す
るものである。」と記載されている。
 (2) 訂正事項6の内容は,上記第2の3(1-2)カのとおり,段落【0027】の
末尾に文言を付加するものであるが,段落【0027】には「次に,「ファイル指
定」による検索手順,すなわち,複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該
位置を順次検索する手順を具体例を示して説明する。例えば,図10(A)に示す
ような,データ(文字情報群)が格納されたユーザデータベースD1があり,同図
において,それぞれ"KEYA"~"KEYE"が,画像位置の関連情報となる文字情
報であると仮定する。この場合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデ
ータの中から検索キーの部分KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,
例えば同図(B)に示すように,改行データを区分情報としてテキストファイルT
X1に出力する。」と記載され,また,段落【0028】には,「利用者は,「フ
ァイル指定」の検索コマンドを指示し,テキストファイルTX1のファイル名を入
力(或いは既に登録されているファイル名を一覧表の中から選択)して検索指示を
行なう。ファイル名が入力されると,画像位置検索手段33では,テキストファイ
ルTX1から文字情報群を読み込み,区分情報で区分された各データ
を各検索キーと見なし,同図(C)に示すように,文字情報記憶部42に展開す
る。ここで,上記のようにテキストファイルから文字情報記憶部42に作成した,
検索する画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼び,作画した図
形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理コードが付
与されて登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と呼ぶ。」と
記載されている。
 ところで,請求項1の「テキスト形式のファイルを入力し」との事項は,文字情
報の登録についての記載であるところ,これについての説明を加えようとする段落
【0027】及びこれに続く段落【0028】は,検索についての説明箇所である
から,一見すると,訂正事項6は矛盾するといえなくもない。
 (3) しかし,段落【0028】には,「利用者は,「ファイル指定」の検索コマ
ンドを指示し,テキストファイルTX1のファイル名を入力(或いは既に登録され
ているファイル名を一覧表の中から選択)して検索指示を行なう。」と記載されて
おり,ファイル指定の検索は,検索コマンドの指示に続くファイル名の入力(ある
いは選択)により開始されるから,段落【0027】の「例えば,図10(A)に
示すような,データ(文字情報群)が格納されたユーザデータベースD1があり,
同図において,それぞれ"KEYA"~"KEYE"が,画像位置の関連情報となる文
字情報であると仮定する。この場合は,先ず利用者は,データベースで管理してい
るデータの中から検索キーの部分KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出
し,例えば同図(B)に示すように,改行データを区分情報としてテキストファイ
ルTX1に出力する。」ことは,段落【0028】の検索コマンドの指示よりも前
に行われるものであり,かつ,必ずしも,検索コマンドの指示と一連の操作である
必要はないと解される。
 そして,本件明細書の図面の簡単な説明には,「【図10】本発明における文字
情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されており,図1
0に示される方法が文字情報の登録に用いられることが明記されている。
 そうすると,段落【0027】に記載される,ユーザデータベースD1から検索
キーとなる文字情報を抽出してテキストファイルTX1に出力することを,検索の
みに用いられるものではないと解したとしても,矛盾はない。
 (4) そうであれば,上記(1)のように,「【請求項1】に記載の「既存のデータ
ベースから抽出した文字情報群からなるテキスト形式のファイルを入力し,各文字
情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情
報登録手段」について,詳細な説明の何処に記載されているのかを明瞭にするた
め・・・訂正する」との訂正事項6の趣旨は理解できるものである。
 (5) したがって,訂正事項6は,明瞭でない記載の釈明であるということができ
るから,審決の判断は誤りであるから,取消事由1は,理由がある。
 他に本件訂正が不適法なものであることについての主張立証はないので,以下に
は,本件訂正が適法なものであることを前提にして,審判において通知し,審決が
支持した下記の無効理由の当否について判断する。
              記
「1.【請求項1】について
 (1)「既存データベース機能向上支援ツール」とはどのような物なのか不明で
ある。
 (2)「コンピュータシステム」とはどのようなシステムなのか不明である。
     また,「コンピュータシステム」と「既存データベース機能向上支援ツ
ール」との関係はどのようになっているのか。
 (3)「対象物指定手段」は,実施例ではどれにあたるのか不明である。
 (4)「利用者情報登録手段」について
  (a)「利用者情報登録手段」は,実施例ではどれにあたるのか不明である。
  (b)「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式の
ファイルを入力し」とされているが,これはどのようなことなのか不明である。
      また,利用者情報登録手段において,「既存のデータベースから抽出
した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力」することは詳細な説明の
何処に記載されているのか不明である。
  (c)「対象物の領域」とは何をさしているのか不明である。
 (5)「画像位置検索手段」について
  (a)「画像位置検索手段」は,実施例ではどれにあたるのか不明である。
  (b)「前記対象物の領域情報」とはどのような情報なのか不明である。
 (6)「利用者情報表示制御手段」について
  (a)「利用者情報表示制御手段」は,実施例ではどれにあたるのか不明であ
る。
  (b)「前記検索された文字情報を前記当該対象物と関連付けて合成して表示
する」とはどのようなことなのか不明である。
     段落【0025】には,図形G1を合成して表示することは記載されて
いるが,文字情報については,同一ウィンドウ内に当該の場所と対応付けて表示
(引出し線,矢印,符号等での対応付けにより表示)するようにしても良いと記載
されているだけである。
 2.【請求項3】について
 (1)「前記文字情報と共に利用者のイメ-ジ情報を当該対象物の関連情報とし
て付加できる」と記載されているが,段落【0033】には「上述した実施例にお
いては,文字情報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマー
ク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能であ
る。また,背景画像となる図形は任意であって,地図に限るものでな」と記載され
ているのみである。この「共に」と記載する根拠は詳細な説明の何処に記載されて
いるのか不明である。
 (2)「利用者のイメージ情報」とはどのような情報なのか不明である。
 3.【請求項4】について
   本件発明の詳細な説明には,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体
の位置を地図の画像上に表示するシステムについては,従来の技術には記載されて
いるが,実施例として記載されていない。これを発明とする根拠はどこにあるのか
不明である。』」
 2 取消事由2(請求項1についての判断の誤り)について
 (1) 「既存データベース機能向上支援ツール」について
 ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,「本発明は上述した事情から成された
ものであり,本発明の目的は,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形・画
像の任意の位置に対して,既存の各種データベースの情報を関連づけて付加するこ
とができる既存データベース機能向上支援ツールを提供することにある。さらに,
本発明の他の目的は,付加した文字情報を検索キーとして図形・画像の当該位置を
検索して所望の画像を表示できる既存データベース機能向上支援ツールを提供する
ことにある。【課題を解決するための手段】本発明は,地図,設計図,各種構造物
の構造図などの図形の画像情報を処理対象として,予め記憶された前記画像情報の
データベースに基づいて前記図形の任意の部分の画像を表示する機能を有するコン
ピュータシステムにおける既存データベース機能向上支援ツールに関するものであ
り,本発明の上記目的は,利用者の文字情報を付加する対象物の領域を前記表示さ
れた図形の画像上にて指定する対象物指定手段と,既存のデータベースから抽出し
た文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の
領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情報登
録手段と,入力された文字情報を検索キーとして前記登録された文字情報群を検索
し,検索された文字情報に対応して登録されている前記対象物の領域情報に基づき
前記図形の画像上での当該対象物の位置を求める画像位置検索手段と,前記画像位
置検索手段により求めた当該対象物の位置が所定位置に配置されるように表示領域
を調整して当該対象物を含む図形の画像を表示すると共に,前記検索された文字情
報を前記当該対象物と関連付けて合成して表示する利用者情報表示制御手段とを備
えることによって達成される。」(段落【0007】,【0008】)と記載され
ている。
 イ 以上の記載によれば,本件発明の「既存データベース機能向上支援ツール」
とは,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形,画像の任意の位置に対し
て,既存の各種データベースの情報を関連づけて付加するものであり,「対象物指
定手段」と「利用者情報登録手段」と「画像位置検索手段」と「利用者情報表示制
御手段」とを備えることにより構成されるものであると認められる。そして,この
構成は,請求項1の記載からみても明らかである。
 ウ 審決は,「「既存データベース機能向上支援ツール」の構成は記載されてい
ない。」,「「既存データベース機能向上支援ツール」の意味は明確でない。」と
判断するが,上記イに判示したところに照らせば,審決の判断は,根拠がないもの
といわざるを得ない。
 なお,審決は,請求項1には,「既存データベース機能向上支援ツール」を道具
の意味として装置の概念と,また,「既存データベース機能向上支援ツール」をコ
ンピュータシステムのソフトウェアとした概念との,異なる概念が一つの請求項に
存在することとなるから明確に把握することができないとしたが,本件発明が上記
のとおり把握できる以上,その判断も根拠がない。
 (2) 「コンピュータシステム」について
 ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,「本発明は,地図及び図面などの画像
情報を提供するコンピュータシステムにおいて,既存の各種データベースの情報を
関連づけて付加することができる既存データベース機能向上支援ツールに関し,特
に,・・・既存データベース機能向上支援ツールに関する。」(段落【000
1】),「従来の地図情報システム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報
検索システムにおいては,図形・画像に関連する属性情報や検索キーは予め設定さ
れており,利用者が持っている情報を利用することができなかった。」(【000
6】),「本発明は,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形の画像情報を
処理対象として,予め記憶された前記画像情報のデータベースに基づいて前記図形
の任意の部分の画像を表示する機能を有するコンピュータシステムにおける既存デ
ータベース機能向上支援ツールに関するものであり,・・・」(【0008】)と
記載されている。
 イ 以上の記載によれば,本件発明の「コンピュータシステム」とは,地図,設
計図,各種構造物の構造図などの図形の画像情報を処理対象として,予め記憶され
た前記画像情報のデータベースに基づいて前記図形の任意の部分の画像を表示する
ものであると認められるところ,このことは,請求項1の記載からみても明らかで
ある。そして,本件発明の「既存データベース機能向上支援ツール」は,上記(1)イ
のとおり,「コンピュータシステム」が表示する図形,画像の位置に対して,既存
の各種データベースの情報を関連づけて付加するものであるということができる。
 (3) 「対象物指定手段」について
 審決は,「入力装置1」が「対象物指定手段」に相当すると自ら認定しているか
ら,実施例における「対象物指定手段」は,明確である。
 (4) 「利用者情報登録手段」について
 ア 実施例における「利用者情報登録手段」について
 (ア) 請求項1の「利用者情報登録手段」は,「既存のデータベースから抽出した
文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領
域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録するもの」と記載されており,文
字情報を登録するだけではなく,各対象物の領域と文字情報とを対応付けることが
要件になっている。
 本件明細書の発明の詳細な説明には,「利用者情報登録手段」という用語そのも
のは記載されていないが,文字情報登録手段32及び図形情報登録手段31は,い
ずれも利用者が登録時に使用するものであり,文字情報群と対象物の領域との対応
をとりながら登録する手段であるから,実施例における「利用者情報登録手段」が
文字情報登録手段32及び図形情報登録手段31を指していることは明らかであ
る。
 (イ) 審決は,図形情報登録手段について,「図形情報登録手段31とは,利用者
が入力装置1を用いて,画像上の所望の位置をその領域を囲む図形を作画して指定
し,作画された図形の作画情報と共に,画像上の座標値を図形情報として,情報記
憶部4内の図形情報記憶部41に登録するものである。」と認定した。そのうち,
「利用者が入力装置1を用いて,画像上の所望の位置を指定」することは「対象物
指定手段」の機能であり,また,「画像上の座標値を図形情報として」登録するこ
とは「各対象物の領域と対応付けて」登録する「利用者情報登録手段」の機能とし
て表わされている。そして,「その領域を囲む図形を作画して」「作画された図形
の作画情報」を登録することや「情報記憶部4内の図形情報記憶部41」に登録す
ることは必ずしも要しないというべきである。
 (ウ) そうであれば,請求項1には,文字情報登録手段32及び図形情報登録手段
31(の一部)の機能を有する手段としての利用者情報登録手段が記載されている
から,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載され
ていない,とする審決の認定は誤りである。
 イ 「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファ
イルを入力し」について
 (ア) 文字情報の登録について,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本発明は
上述した事情から成されたものであり,本発明の目的は,地図,設計図,各種構造
物の構造図などの図形・画像の任意の位置に対して,既存の各種データベースの情
報を関連づけて付加することができる既存データベース機能向上支援ツールを提供
することにある。さらに,本発明の他の目的は,付加した文字情報を検索キーとし
て図形・画像の当該位置を検索して所望の画像を表示できる既存データベース機能
向上支援ツールを提供することにある。」(段落【0007】),「利用者は,作
画して指定した場所に対し,その場所を管理するための任意の文字情報を入力装置
1から入力する。入力装置1を介してユーザーデータベースDB等から入力された
文字情報は,文字情報登録手段32によって情報記憶部4内の文字情報記憶部42
に登録される。」(段落【0013】),「続いて,利用者は,該当の場所P1に
関連する文字情報の登録指示を行なう。図7は,関連情報をキーボード等から直接
入力する場合の登録画面の一例を示しており,登録したい関連情報(=検索キー情
報:本発明では,当該文字情報が該当の場所P1の検索キーとなる)
を,表示部2a内のテキストボックスWaの中に入力する。」(段落【001
8】)と記載されており,また,図面の簡単な説明には,「【図7】本発明におけ
る文字情報の登録方法の第1の例を説明するための図である。」,「【図10】本
発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載
され,本件図面の【図10】(A)には,データベースD1が,【図10】(B)
には,テキストファイルTX1が,【図10】(C)には,文字情報記憶部42と
管理テーブル43との関連が示されている。
 以上の記載によれば,本件発明の目的が,既存の各種データベースの情報を関連
付けて付加することにあり,その具体例の第1の例として,図7に示される「キー
ボード等から直接入力する例」があり,第2の例として,図10に示されるテキス
トファイル化して入力する例があると認められる。
 (イ) ところで,第1の例については,段落【0018】,【0019】に詳細に
説明されているが,第2の例については,説明がない。しかし,段落【0027】
に図10の説明があるところ,上記1(3)のとおり,段落【0027】に記載され
る,ユーザデータベースD1から検索キーとなる文字情報を抽出してテキストファ
イルTX1に出力することを,検索のみに用いられるものではないと解することが
できるのである。
 (ウ) そうであれば,本件明細書に,「既存のデータベースから抽出した文字情報
群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されていない
とはいえないのであって,審決の判断には誤りがある。
 (エ) なお,被告は,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキ
スト形式のファイルを入力」することは,当初の明細書に記載がなく,新規事項の
追加であるから,無効理由を含んでいると主張する。しかし,出願当初の明細書
(の図面の簡単な説明)及び図面(甲2の3)の記載によれば,文字情報の登録に
際して,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のフ
ァイルを入力」することが当初明細書及び図面に記載されていたと認めることがで
きるから,被告の上記主張は,その前提を欠くものである。
 ウ 「対象物の領域」について
 請求項1には,「利用者の文字情報を付加する対象物の領域を前記表示された図
形の画像上にて指定する対象物指定手段」と記載されており,また,本件明細書の
発明の詳細な説明には,「この図形・画像は,表示装置2に表示され,利用者は,
キーボードやマウス,ライトペン等の操作手段を有する入力装置1を用いて,画像
上の所望の位置をその領域を囲む図形を作画して指定する。」(【0012】),
「表示された画像上の該当の場所P1を,その領域を囲む図形G1を作画して指定
する。」(【0016】)と記載されている。
 以上の記載によれば,本件発明の「対象物の領域」とは,(3)のとおり,対象物指
定手段に相当する入力装置1により指定して,利用者の文字情報を付加するするも
のであり,具体的には,本件図面の図4のP1を指すものであると認められる。
 (5) 「画像位置検索手段」について
 ア 実施例における「画像位置検索手段」について
 請求項1には,「入力された文字情報を検索キーとして前記登録された文字情報
群を検索し,検索された文字情報に対応して登録されている前記対象物の領域情報
に基づき前記図形の画像上での当該対象物の位置を求める画像位置検索手段」と記
載され,また,本件明細書の発明の詳細な説明には,「利用者が登録した文字情報
を検索キーとして,画像上の対応する位置を検索することができるようになってお
り,検索指示がされると,中央処理部3内の画像位置検索手段33によって当該文
字情報に対応して登録されている図形情報が検索され,図形情報に基づき画像上で
の当該位置が算出される。」(【0014】),「検索ボタンが指示されると,画
像位置検索手段33では,文字情報記憶部42に登録されている検索キーを検索
し,登録されていれば,管理テーブル43を参照して対応する図形情報を図形情報
記憶部41から読み込む。」(【0024】)と記載されている。
 以上の記載によれば,実施例における「画像位置検索手段33」が上記請求項1
記載の構成に係る画像位置検索手段に当たることは,明らかである。
 イ 「前記対象物の領域情報」について
 アによれば,「前記対象物の領域情報」は,利用者が登録した文字情報に対応し
て登録されている図形情報であると認められる。
 (6) 「利用者情報表示制御手段」について
 請求項1には,「前記画像位置検索手段により求めた当該対象物の位置が所定位
置に配置されるように表示領域を調整して当該対象物を含む図形の画像を表示する
と共に,前記検索された文字情報を前記当該対象物と関連付けて合成して表示する
利用者情報表示制御手段」と記載され,また,本件明細書の発明の詳細な説明に
は,「中央処理部3内の表示制御手段34によって,当該位置を含む画像が表示装
置に表示される。」(【0014】),「表示制御手段34では,図9(B)に示
すように,当該位置P1が表示画面上の所定の位置(例えば表示部2a内の表示ウ
インドウの中央部)に配置されるように,表示領域を調整して地図の画像を表示す
る。・・・また,文字情報を別ウィンドウでなく,同一ウィンドウ内に当該の場所
と対応付けて表示(引出し線,矢印,符号等での対応付けにより表示)するように
しても良い。」(【0025】)と記載されている。
 以上の記載によれば,実施例における「利用者情報表示制御手段34」が,上記
請求項1記載の構成に係る利用者情報表示制御手段に当たることは,明らかであ
る。
 (7) したがって,請求項1において,無効理由があることは認められないから,
取消事由2は,理由がある。
 3 取消事由3(請求項3についての判断の誤り)について
 (1) 「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加
できる」について
 請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報とし
て付加できる」との記載は,当該対象物に対して,文字情報とイメージ情報とを共
に登録できることを意味するものである。ところで,本件明細書の発明の詳細な説
明の「なお,上述した実施例においては,文字情報を関連情報として付加する場合
を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情
報として指定することも可能である。また,背景画像となる図形は任意であって,
地図に限るものでない。」(段落【0033】)との記載は,上記のように,文字
情報とイメージ情報を共に登録できることを前提にした記載であるというべきであ
り,少なくとも,文字情報に合わせてイメージ情報を付加できることを排除するも
のではないから,そこの記載からは,イメージ情報が付加されるときに文字情報が
排除されるとまで読むことはできない。
 (2) 「利用者のイメージ情報」について
 本件明細書の発明の詳細な説明には,「なお,上述した実施例においては,文字
情報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメー
ジ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である。また,背
景画像となる図形は任意であって,地図に限るものでない。」(段落【003
3】)と記載されており,この記載によれば,請求項3の「利用者のイメージ情
報」は,任意のマーク等を指すと認められる。
 (3) したがって,請求項3には,審決が判断した無効理由はなく,取消事由3
は,理由がある。
 4 取消事由4(請求項4についての判断の誤り)について
 (1) 本件明細書には,「【本件発明が解決しようとする課題】・・・従来の地図
情報システム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報検索システムにおいて
は,図形・画像に関連する属性情報や検索キーは予め設定されており,利用者が持
っている情報を利用することができなかった。」(段落【0006】),「本発明
の目的は,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形・画像の任意の位置に対
して,既存の各種データベースの情報を関連付けて付加することができる既存デー
タベース機能向上支援ツールを提供することにある。」(段落【0007】)と記
載されている。
 これらに記載によれば,請求項1の「地図,設計図,各種構造物などの図形の画
像情報を処理対象として,予め記憶された前記画像情報のデータベースに基づいて
前記図形の任意の部分の画像を表示する機能を有するコンピュータシステム」に
は,ナビゲーション・システムも含まれると解されるところ,請求項4は,コンピ
ュータシステムについて,「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置
を地図の画像上に表示するシステム」,すなわち,ナビゲーション・システムに限
定したものであるから,請求項4に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたも
のであるということができる。
 (2) 被告は,段落【0010】の作用の欄に,ナビゲーション・システムに関連
した技術は開示されていないし,実施例の記載にも,ナビゲーション・システムに
ついての課題を解決するための具体的な構成の記載はないと主張する。しかし,上
記(1)のとおり,請求項4に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものであっ
て,本件発明の「既存データベース機能向上支援ツール」をナビゲーション・シス
テムに適用するについて,何ら阻害要因はなく,また,ナビゲーション・システム
における課題は,本件発明と何ら関係しない。
 (3) したがって,審決の判断は誤りであるから,取消事由4は,理由がある。
第5 結論
 以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由はいずれも理由があるから,審
決は取り消されるべきである。
    知的財産高等裁判所第4部
        裁判長裁判官                     
                   塩   月   秀   平
           裁判官                     
                   田   中   昌   利
           裁判官                     
                   髙   野   輝   久

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